気象災害(布施明、山本保博ほか・監修 災害医学、東京、南山堂、2009、p.87-99) |
以下では風水害を含めたいわゆる気象災害に対し、災害医療の立場からどのように対応したらよいかということに焦点を当てて述べる。
【高潮災害】
台風が接近・上陸している時に満潮時刻の前後数時間は、潮位が短時間のうちに異常に上昇するため注意が必要であり、湾岸付近の低地、湾奥部、河口部、V字谷や急深な海底などの自然地形がある場合には特に注意が必要である。気象庁が発表する高潮に関する気象情報、市町村長が発表する避難情報を参考に、危険を感じたら早めに自主的な避難を行うことが重要である。
集中豪雨とは、限られた地域に対して短時間に多量に雨が降ることを指す。台風より予測が困難で、洪水、土砂災害などの被害が多い。豪雨災害による死者は土砂災害によるものが多いが、溺死も起こるため、溺水、土砂の双方に注意を払う必要がある。また、避難所で過ごす被災者の数も少なくないことから、避難所を対象とした医療チームの派遣も考慮する必要がある。
2)都市型水害(集中豪雨)
近年、大都市周辺でもしばしば局地的な豪雨が発生し、マスコミなどでも都市型水害、あるいは都市型(集中)豪雨と呼称し注目されている。降水、落雷、突風などによって、交通、通信、都市生活など都市特有の形態で災害が発生する。都市型豪雨の特徴は強雨の時間的空間的スケールが小さい点にあり、これが従来の集中豪雨とは異なる点である。降雨の持続時間は1〜2時間だが、時間降水量が50〜100mmに達することもあるため、河川の溢水や下水道からの内水(型)氾濫が起こりやすく、地下・半地下の構造物も多く被害が拡がる可能性もある。浸水したビルの地下で溺死するなどの人的被害も十分に想定される。また、都市型災害で問題となるエレベーターは、動力が地面より下に設置されている場合が多く、浸水で故障する可能性、地下道や地下鉄への浸水などの想定も必要であり、このタイプの水害に注視する必要がある。
災害時のトリアージは2段階あり第1段階はsieve(篩い分け)でSTART(Simple triage and rapid treatment)式を用いる。第2段階はより確実に分けるsort(選別)であり、第1段階で赤の傷病者の中から、緊急度・重傷度の高い傷病者に搬送・治療の優先順位をつけていく。
※用手的操作
表.トリアージの手順
まず、歩行可能な人をトリアージ緑として安全な場所に誘導します。
↓
残った歩行不可能な傷病者を呼吸、循環、神経学的状態で評価する。
↓
循環の評価では橈骨動脈触知と爪床圧迫法で判断します。
↓
神経学的状態の評価では、簡単な命令に応じるか否かで判断します。
二次トリアージ
◎具体的な活動例
まず到着したら、安全確認、事故概要、傷病者数等の把握。
→必要な応援をする。
・隊長、隊員でトリアージ(START法)のみを実施し順位決定。
・機関員は最小限の処置(止血等)を行う。
・応援隊と連携して順次搬送する。(分散、医療機関に合わせて。)
大規模災害時の外来診療は、日常行う初診患者、再診患者、時間外外来受診患者の診療とは根本的に異なる。外来診療は狭義では搬送もしくは独歩にて自力で来院された患者のうち一般外来診察をカルテの作成などを含めて待機できる患者ということである。広義には、直ちに救命処置に取りかかる必要のある患者を除いて、早急に麻酔下での止血、縫合、洗浄が必要になる患者から独歩にて自力で来院して処置を要する患者までが含まれている。
当日の外来診療で可能なことは、阪神・淡路大震災のように受け入れサイドの病院が人的にもハード面においてもダメージを受けた場合と、JR福知山線列車事故のように病院サイドには機能的になんら問題がない状態で患者を受け入れる場合では実施可能な治療内容が大幅に異なってくる。震災時にはライフラインの途絶により病院が機能不全に陥っており、その外来での治療内容はいわゆる応急処置とならざるを得えない。しかしこの場合でも搬送患者や来院患者の中で治療の優先順位や再搬送の必要性などを即座に判断する必要がある。このような場合、患者にはできる限り早急に他の医療施設での早期診断と追加治療を受けられるように配慮すべきである。一方、JR福知山線列車事故のように一度に多数の患者が搬送されても、受け入れ側の病院機能はまったく問題ない場合には、通常の交通事故搬送患者と同じ診断と治療が望まれる。外来の担当医には見逃しのない確実な診断が望まれるが、時間の制限が優先される場合には必ず翌日の来院の必要性を患者に伝えるべきである。
患者が院内のトリアージポストからの担送もしくは独歩で外来を受診した際に、外来担当医師は院内トリアージをする必要がある。
に分類し、治療場所を分散させ、それぞれのスタッフが落ち着いて対応すれば、見逃しのない確実な診断と治療が可能となる。
患者の導線としては、産科などの専門外来での治療が望ましいとされる患者を除いて誘導場所はできるだけ一ヶ所の外来へ誘導することが望ましい。その場所としては、整形外科外来が適している。一般的に整形外科外来は歩行状態の悪い患者に対応すべく1階に位置することが多くトリアージポストからの移動やX線検査室への移動にも適していることが多い。
災害医療ではトリアージタッグを利用した診療録を早急に作成することは非常に重要である。診療録の確実な作成は後日、再診時の病態不明、処置内容不明の患者をなくすことや院内での所在不明患者、検査内容の患者取り違いを防ぐ意味でも重要である。災害時当日、作成されたカルテは常に患者と一緒に移動することが重要である。
トリアージポストでの迅速な振り分けにより最優先治療群(赤)、非緊急治療群(黄)と判定された患者は、病棟で引き続きさまざまな検査所見から詳細なトリアージを行う。トリアージが終了しても、順番待ちの間に病態が変化することもあるので、繰り返しトリアージを行わなければならない。
災害の当日から2日目に災害医療の指導的立場にある救急医が、収容された全負傷者に対して複数回の回診を行うことにより、
診断や処置治療の遅れによる不幸な結果を避けるためにも、適切な治療を行うためにも、収容後の複数回の回診は災害医療の一環として重要である。
このような域内搬送を円滑に行うためには情報ネットワークが不可欠である.新潟県中越沖地震では活用されなかったが,DMATの活動状況や病院の被災状況,医療機関の患者状況を把握するための共有ツールとしてEMIS(Emergency Medical Information System:広域災害救急医療情報システム)がある.EMISによってDMATの活動状況,救急車,ヘリコプターなどの搬送手段の情報を共有できる体制の整備が今後の課題である.
このような状況を打開する為に、国際社会では「人間の安全保障」の確保が最優先課題として確認されている。また、UNDP(国連開発計画)が2015年の目標達成を目指して8つの項目(1.極度の貧困と飢餓の撲滅、2.普遍的初等教育の普及、3.ジェンダー平等の推進と女性の地位向上、4.乳幼児死亡率の削減、5.妊産婦の健康改善、6.HIV/AIDS、マラリア、その他の疾病蔓延の防止、7.環境持続可能性の確保:大気と空気、水と衛生、8.開発のためのグローバル・パートナーシップの推進:開発援助と市場のアクセス、雇用の機会、医薬品の入手、新技術の利用)での協力支援を各国に呼びかけている。
日本は第二次世界大戦後の復興過程で海外から多くの支援を受けてきた。世界銀行からは1956年から1966年の間に8兆6千万ドルあまりの融資を受けて、東海道新幹線、東名高速道路、黒部ダムなどを建設することができた。また1995年1月に発生した阪神・淡路大震災では、27カ国77団体から物資や人的な援助を受けている。このように人類全体の生命の安全にかかわる問題の解決には、既存の国家という枠組みを超えた、幅広い相互の協力関係が必要であることが実証されている。
日本は海に囲まれた島国であるため、日常的に異なる人生観、価値観を持った人々の間で、生命にかかわるような議論や力関係が拮抗する状況に直面することが少なかった。しかし、近年、宇宙船地球号の乗組員の一員として、日本が国際的に果たす役割について問われるようになり、特に、医療や看護の分野での国際協力の要請が年々高まってきている。全人格的アプローチが求められる看護実践では、学際的見識に基づき、支援対象の背後にある状況を理解する能力が求められる。
災害現場におけるトリアージ
(山崎達枝、災害現場でのトリアージと応急処置、東京、日本看護協会出版界、12-17、2009)
1.トリアージとは
2.災害時のトリアージ
3.トリアージの原則
・気道障害→負傷者の体位変換、下肢挙上、異物除去
・致命的出血→圧迫止血4.トリアージの方法
順位 分類 識別色・区分 疾病状態及び病態 具体的事例 第1順位 最優先治療群(重症群) 赤色 ・(I) 生命を救うため、直ちに処置を必要とするもの。 気管閉塞、呼吸困難、意識障害、多発外傷、ショック、多量の外出血など
第2順位 待機的治療群(中等症群) 黄色 ・(II) ア多少治療の時間が遅れても、生命に危険がないもの。イ基本的には、バイタルサインが安定しているもの。 全身状態が比較的安定しているが、入院を要する以下の傷病者:脊髄損傷、四肢長管骨折、脱臼、中等熱傷など
第3順位 保留群(軽症群) 緑色・(III) 軽度外傷・通院加療が可能な程度 小骨折、外傷、精神症状を呈するもの
第4順位 死亡群・治療・搬送待機群 黒色・(0) 既に死亡しているもの、又は明らかに即死状態であり、心肺蘇生を施しても蘇生可能性のないもの。 圧迫、窒息、高度脳損傷、高位頚髄損傷、心大血管損傷、内臓破裂当により心肺停止状態 5.トリアージの繰り返し
6.トリアージタッグの装着部位
一次トリアージ
呼吸があって30回以上または10回未満で赤、呼吸がなければ、異物
除去や気道確保を実施して呼吸再開で赤、呼吸無しで黒。
呼吸回数が10〜30回で循環の評価に移ります。
触知不能、120回以上、再充実2秒以上で赤、触知可能、120回未満
再充実2秒以内で神経学的状態に移ります。
応じなければ赤、応じれば黄にします。「目を開けてください。」、「手を握ってください。」などで聞きます。
例外として窒息、大出血には気道確保、止血を行う。 外来診療の役割、収容負傷者の診療体制
(福西成男・切田 学、丸川征四郎・編著 経験から学ぶ大規模災害医療、大阪、永井書店、2007、p.226-231)
■外来診療の役割
■収容負傷者の診療体制
などを迅速に行うことができる。広域災害における域内搬送
(近藤久禎、石原晋ほか・監修 プレホスピタルMOOK 9 DMAT、東京、永井書店、2009、98-105)
【はじめに】
【救急車の運用について】
【ヘリコプターの運用について】
【まとめ】
災害看護と異文化理解
(樋口まち子、災害人道医療支援会ほか・編 グローバル災害看護マニュアル、東京、真興交易医書出版、2007、p.102-114)
1.はじめに
2.国際医療協力の必要性
3.異文化を理解するとは
4.異文化看護
5.災害看護活動における異文化対応
6.スリランカにおける国際協力と異文化体験
7.身近な異文化理解―在日外国人との共存
8.おわりに