情報対策室と対策本部の構成と役割(丸川征四郎、丸川征四郎・編著 経験から学ぶ大規模災害医療、大阪、永井書店、2007、p.191-196) |
また、大事故災害情報の迅速な収集は、医療機関に求められる重要な機能である。情報対策室は、平時から、必要な情報が収集できる大規模なシステムを構築しておくべきである。
情報対策室が発災の事実確認、被災傷病者の予測、及び病院の被災状況など、大まかな情報分析を行っているので、さらに詳細な情報を逐次収集し、病院の災害医療対応の方針を決定する。選択肢は、被災傷病者を受け入れる、救護班を派遣する、あるいは待機する、のいずれかである。
2.被災者の数と種類の推定
災害の種類、発災のメカニズム、被害に巻き込まれた人数、人体に加わったと推定される外的エネルギーなどから傷病者数と重症度を推定する。
3.自院への搬送傷病者の推定
災害現場から自院までの距離、道路事情、災害医療対応が可能な医療機関の数、災害をカバーする消防署とのかかわり、地域医療体制における自院の位置づけなどを考慮して自院への搬送傷病者の推定を行う。
4.診療体制の構築
基本的には、傷病者の受入数は受動的に決まるので、これに見合う診療体制を準備すべきである。日常診療について、継続する、待ち時間を延長する、一時的に中断する、終日停止する、のいずれかを即時にあるいは段階的に選択する。災害医療対応に動員可能な医師、看護師、薬剤師、事務職員、検査技師、臨床工学技師など人的資源、検査装置、収容可能ベッド、医療資器材、備蓄食料・生活用品などの点検・確認も同様に重要である。
5.職員の安否確認
動員可能な人的資源の点検と同時に、職員の安否確認を開始する。
6.情報発信
発災情報の収集と同時に、自院の状況や方針を適時、消防、行政、近隣医療機関、さらに警察、保健所へ発信しなくてはならない。メディアへの情報提供は、通常、計画的な記者発表として行うべきである。
災害対策本部の統括のもとにトリアージポスト、初期診療ポストを設置する。赤色(重症)、黄色(中等症)および緑色(軽症)の重症度に応じて設置する。診療の人的資源や建物に物理的制約がある場合、あるいは搬入傷病者数が多くない場合は、赤色と黄色のタッグの患者は同じポストで診療する。緑色のポストは、必ず離れた場所に設置し診療を終えた患者が院内にとどまることなく、速やかに帰宅できる構造と機能を整えるべきである。
2.人的資源の配置
それぞれの現場担当者が災害対策本部に要請し、対策本部が調整する。
3.ロジスティック
トリアージタッグや、災害診療用外来カルテの調達・管理、患者基本情報の記入と集計、診療必要資器材の調達など、診療を円滑に進めるために事務職員が重要な役割をなす。
4.入院患者の治療
トリアージポスト、初期診療ポストを経て病院に収容された患者は、混乱の中で平時の手続きを経ていないため、担当医が決まってなかったり、治療が停滞する恐れがあるので災害対策本部は、計画的に全入院患者の担当医、全身状態の再評価、検査・治療メニューなどを確認する方策を講じなくてはならない。
5.患者情報の提供
患者情報の取り扱いには細心の注意を払うべきである。来院患者、入院患者の集計的情報は、災害の再発を防止する新たな努力を促す契機となることを願って、積極的に公開すべきで、これは、通常記者発表として関係メディアに公平に提供する。
基本的な任務は被災地域内でのトリアージ、応急治療、搬送に加え、被災地域内の医療機関の支援を行うこと、広域搬送拠点基地内に設置された医療搬送拠点施設(ステージング・ケア・ユニット)において医療支援を行うこと。広域航空搬送において搭乗医療を行うこと、災害現場でのメディカルコントロールを行うことなども含まれる。
さらに特殊な機能や任務を有するDMAT特殊チームの整備も計画されており、特殊チームには、都市探索救助(Urban Search and Rescue):崩壊した家屋に挟まれ脱出困難な状況など、救出までに長時間が必要な場合に救助隊と連携して医療支援を提供するチーム。Nuclear-Biological-Chemical(NBC response DMAT):NBC災害時に現場で除染とともに医療支援を提供するチーム。Medical evacuation(MED-evac DMAT):広域搬送時、患者の航空基地への搬送と集合、安定化、基地におけるステステージング・ケア・ユニットの設営・運営、航空機搭乗などを行う広域搬送対応チームが考えられている。
DMATの目的は、最大多数の傷病者に対して現場医療を展開し、安全に病院に搬送して根本的治療につなげることにあるため、災害現場で「ふるい分け(Sieve)」により迅速に優先順位を決め、現場救護所にて「選別(Sort)」により優先順位をさらに洗練させ、その後も繰り返しトリアージを行い状況に応じて優先順位を変更することが要求される。
〈事故内容〉JR宝塚線上り快速列車 (7両編成) が尼崎駅近くのカーブで脱線した。先頭車両は転覆して線路沿い集合住宅1階部分の駐車場に突っ込み、2両目は同建物に巻きつくようにして大破した。
〈被害状況〉死者 107人 (男性59人、女性48人)
(2)救出・救助
(3)現場における初期医療活動
(4)瓦礫の下の医療 (Confined Space Medicine: CSM)
(5)救急搬送
(6)ヘリコプター搬送
b.被災傷病者と搬入病院および病院の対応
c.転院搬送
〈今後改善すべき課題〉
エマルゴとは、災害医療において限られた時間内に的確な判断(意思決定)を行い、限られた資源を最大限に有効利用するための机上シュミレーションキットである。スウェーデンの公立災害医療教育研究機関KMCの初代所長Sten Lennquist教授によって開発された。
災害教育を時間的にも経済的にも効率的に進めるためには、まずは「座学」により基礎知識を習得し同時に意識高揚を図る。その後、現実的な「机上訓練・シミュレーション演習」を行って問題意識を共有し、対応システムやマニュアルを理論的に検証する。最後に「実動訓練」を行い、現実的な検証を加え、同時に資器材のメインテナンスを行う、といった手法がよい。エマルゴは、参加した各個人が「限られた資源と情報伝達手段を用いて、限られた時間内に意思決定を行わざるを得ない」発災型実戦形式のシミュレーション演習が可能である。ストレスやパニック、さらには「ミスや失敗」を擬似体験できる。また指揮官向けの発災型実戦形式のシミュレーション演習が可能である。総合訓練において「指揮官」として参加できる演習は当然として、災害対策本部用演習など指揮官となるべき上級職員だけを集めた部署別訓練も可能である。これらによって、参加者は災害時に必要とされるリーダーシップを理解し、指揮官による意思決定が一般実動員に比べどれだけ重要かを理解するはずである。さらには、その機関・団体の実力を窺い知ることとなろう。災害時の情報伝達訓練においても、不確実な情報を整理し評価し、十分な記録を残しつつ簡潔にまとめ、短時間で伝達できるか?いつもの伝達手段が使えなくなったらどうするべきか?報道機関への発表は?といった、情報に関する実戦的・現実的な演習が可能である。このようにシミュレーション学習として優れた教育的効果を有するエマルゴは、実動訓練の前提となり得る机上訓練として理想的といえる。
エマルゴは、災害医療にかかわる全職種を対象とした教育・研修プログラムとして開発されたものである。それゆえ、医師、看護師や放射線技師などのコメディカル、消防職員、警察、自衛隊などの救護活動に直接携わる職種は当然として、災害コーディネーター、ボランティア組織、さらには保健所を含む医療行政官や市町村職員なども参加できる演習が可能である。そして、末端の実動員から指揮官となり得る上級職員まで、例えば医師なら研修医からスタッフ医師、各診療科部長から病院長まで、あらゆる階層を対象とした演習も可能である。
エマルゴを用いた災害シミュレーション演習は、マグネット付き絵札をシナリオ・想定に従って「災害現場」とみなしたホワイトボードの上に貼り付けた状態から始まる。その「災害現場」から傷病者を表す絵札(マグネット付き患者人形)を選択、つまり救出し、さまざまな「判断」を行い、時間経過に従って、最終的に「病院」に見立てたボードに移動させる。災害現場、患者の状態、情報伝達、救出・治療手段、搬送方法など様々な状況においていろいろなシチュエーションが用意されている。演習参加者は設定された条件、時間の中で多くの「判断」を行わなければならない。演習の進行はインストラクターと補助スタッフ(ファシリテーター)の指導のもとで参加者自身が想定設定時間に合わせて、患者や資源(人・物)を動かし、シミュレーションを進めていくのが基本である。また必要に応じて参加者に質問し、その状況での判断内容を評価する。さらに浮かび上がった問題点・課題を話し合う。演習中、後のディスカッションにより、参加者個人へのフィードバックが可能であり、参加者全体で問題点・課題を共有できる。問題点として、参加者が意味のある演習を進めるためには、エマルゴ自身とその演習想定を熟知したインストラクターと助言役である複数のファシリテーターが不可欠であることがあげられる。
現在日本では、まだまだエマルゴ演習が普及しているとはいえず、公認インストラクターの数も少ない。しかし、筆者や堀内義仁先生が中心となり、日本各地で勉強会、講習会を行っている。これからも各地で普及活動を行い、日本の災害教育と災害医療のレベルが上がること、さらには災害対応システムが少しでも向上することを願いつつ、本稿を終える。
1)救出・救助期 (災害発生直後)
災害発生から1時間以内に病院に到着して治療を開始するかどうかが、傷病者の生命予後を決定するといわれており、この1時間をゴールデンタイムという。一方、病院施設では受傷後30分以内に治療を開始できることを目標としている。したがって現場では、最初の10分間が重要となり、この10分間で現場の状況確認、傷病者の重症度の判断、適切な応急処置を行わなければならない。この10分間はプラチナタイムと呼ばれる。
a) トリアージ、体液管理、集中治療、外科的処置
b) 未搬送被災者の観察
2)急性期(発生後〜7日間位)
b) 医療救護体制の確立(災害対策本部の設立、人員確保、安全確保、医療救護班派遣体制、他医療機関との連携、通信の確保など)
c) 中等度〜重症者に対する初期治療(気道確保、血管確保、止血、除痛)
d) 軽傷者に対する創処置、骨折部の副子固定など
e) 負傷者の持続的な観察
f) 患者、家族への支援
g) 被害状況の調査
h) 一般市民の健康と病気の状態の確認・支援
i) 死亡者への関わり、遺体安置所への搬送
j) 医薬品、衛生材料、食料など備蓄状態の確認
3)亜急性期(救援期、発生1週間後〜6ヶ月後)
b) 初期集中治療(重症患者に対する災害外科的術後管理、災害特有な疾患の治療)
c) 衛生状態の悪化による感染症の予防対策
d) 心的外傷後ストレス障害(PTSD)へのケア
e) 災害時に支援優先度が高い人(老人、障害者、子供など)への配慮
f) 巡回型医療支援活動
4)復旧・復興期(災害発生6ヶ月後〜)
日常生活への移行・生活支援、地域医療の再建と支援を心がけ、保健活動に目を向け、保健衛生管理や疫学調査を行う。
5)静穏期(災害間期)
次の災害発生に向けて、防災計画、災害訓練、災害医療教育など、被害を少なくする「減災」への準備を行う。
2)準備性:災害の種類、発生のメカニズムの違いに合わせて、対応の準備ができる。
3)即応性:瞬時の状況判断ができる。
4)自主性:どのような災害現場でも積極的に支援活動ができる。
5)柔軟性:限られた厳しい状況下であっても、その場に応じた柔軟な対応ができる。
6)専門性:災害時に予測される事態が考えられ、その場に応じた専門知識を提供できる。
7)強い精神力:助かる見込みのない傷病者には黒タッグを装着するなど、災害時の医療を守るために厳しい判断ができる。また、自身の安全を守るために「安全確認」や「無駄な行動は慎むこと」などの安全対策がとれる。
DMATの概要
(松嵜志穂里ほか、山本保博・監修 精神・中毒・災害、東京、荘道社、2007、p.238-242)
■DMATの概要
■米国のNDMSおよびDMAT
■東京DMAT
■今後の課題
JR福知山線脱線事故
(鵜飼 卓ほか、山本保博・監修 精神・中毒・災害、東京、荘道社、2007、p.323-327)
1.事故の概要
負傷者 549人 (重症139人、軽傷410人、最終的には555人とJRから発表)2.事故対応の実際
3.考察
4.おわりに
エマルゴ
(中田康城、救急医学 31: 1535-1541, 2007)
災害医療における看護師の役割
(山崎達枝、災害人道医療支援会ほか・編:グローバル災害看護マニュアル、東京、真興交易医書出版、2007、p.50-62)
1.災害看護の定義
2.災害時における看護師の役割
3.災害サイクルからみた災害看護
避難所や自宅を訪問し、1.災害時に優先度の高い人の発見、2.不安・不眠などの人々への傾聴、3.問診、疾病の早期発見、医療機関受診の勧め、4.慢性疾患患者の増悪の防止、5.環境衛生状態のチェックと改善への支援などを行う。4.避難所における看護
5.求められる災害看護師の資質
6.災害看護の特色