災害医学・抄読会 100730


情報対策室と対策本部の構成と役割

(丸川征四郎、丸川征四郎・編著 経験から学ぶ大規模災害医療、大阪、永井書店、2007、p.191-196)

情報対策室の構造と役割

 情報対策室は原則としてその時点での院内に勤務する各部署の責任者から構成されており、多くの場合、副委員長クラスの医師、看護師、事務職員、救急部門医師で構成されている。災害と被災にかかわる情報を広く収集し、自病院への被災傷病者の受け入れ要否、救護班派遣の要否、自病院の診療機能被災状況の調査、災害対策本部設置の要否判断などが役割である。

 また、大事故災害情報の迅速な収集は、医療機関に求められる重要な機能である。情報対策室は、平時から、必要な情報が収集できる大規模なシステムを構築しておくべきである。

災害対策本部の構造と役割

 災害対策本部は、逐次情報の収集、方針決定と支持、情報発信、更に災害医療対応の調整が主な役割である。したがって、災害対策本部は、病院の意思を即決できるメンバーで構成する必要があり、すなわち、病院長、看護部長、事務部長、及び救急災害部門担当医師で構成され、さらに数名の事務職員を専属で配置する。情報対策室を構成したメンバーを、そのまま取り込んだ組織とすることで円滑に始動できる。

災害対策本部の主な業務

1.方針の決定

 情報対策室が発災の事実確認、被災傷病者の予測、及び病院の被災状況など、大まかな情報分析を行っているので、さらに詳細な情報を逐次収集し、病院の災害医療対応の方針を決定する。選択肢は、被災傷病者を受け入れる、救護班を派遣する、あるいは待機する、のいずれかである。

2.被災者の数と種類の推定

 災害の種類、発災のメカニズム、被害に巻き込まれた人数、人体に加わったと推定される外的エネルギーなどから傷病者数と重症度を推定する。

3.自院への搬送傷病者の推定

 災害現場から自院までの距離、道路事情、災害医療対応が可能な医療機関の数、災害をカバーする消防署とのかかわり、地域医療体制における自院の位置づけなどを考慮して自院への搬送傷病者の推定を行う。

4.診療体制の構築

 基本的には、傷病者の受入数は受動的に決まるので、これに見合う診療体制を準備すべきである。日常診療について、継続する、待ち時間を延長する、一時的に中断する、終日停止する、のいずれかを即時にあるいは段階的に選択する。災害医療対応に動員可能な医師、看護師、薬剤師、事務職員、検査技師、臨床工学技師など人的資源、検査装置、収容可能ベッド、医療資器材、備蓄食料・生活用品などの点検・確認も同様に重要である。

5.職員の安否確認

 動員可能な人的資源の点検と同時に、職員の安否確認を開始する。

6.情報発信

 発災情報の収集と同時に、自院の状況や方針を適時、消防、行政、近隣医療機関、さらに警察、保健所へ発信しなくてはならない。メディアへの情報提供は、通常、計画的な記者発表として行うべきである。

診療体制の構築

1.トリアージポスト、初期診療ポストの設置

 災害対策本部の統括のもとにトリアージポスト、初期診療ポストを設置する。赤色(重症)、黄色(中等症)および緑色(軽症)の重症度に応じて設置する。診療の人的資源や建物に物理的制約がある場合、あるいは搬入傷病者数が多くない場合は、赤色と黄色のタッグの患者は同じポストで診療する。緑色のポストは、必ず離れた場所に設置し診療を終えた患者が院内にとどまることなく、速やかに帰宅できる構造と機能を整えるべきである。

2.人的資源の配置

 それぞれの現場担当者が災害対策本部に要請し、対策本部が調整する。

3.ロジスティック

 トリアージタッグや、災害診療用外来カルテの調達・管理、患者基本情報の記入と集計、診療必要資器材の調達など、診療を円滑に進めるために事務職員が重要な役割をなす。

4.入院患者の治療

 トリアージポスト、初期診療ポストを経て病院に収容された患者は、混乱の中で平時の手続きを経ていないため、担当医が決まってなかったり、治療が停滞する恐れがあるので災害対策本部は、計画的に全入院患者の担当医、全身状態の再評価、検査・治療メニューなどを確認する方策を講じなくてはならない。

5.患者情報の提供

 患者情報の取り扱いには細心の注意を払うべきである。来院患者、入院患者の集計的情報は、災害の再発を防止する新たな努力を促す契機となることを願って、積極的に公開すべきで、これは、通常記者発表として関係メディアに公平に提供する。



DMATの概要

(松嵜志穂里ほか、山本保博・監修 精神・中毒・災害、東京、荘道社、2007、p.238-242)

DMATの概要

 災害時に一人でも多くの救われるべき命を救うためには、従来の医療救護班のように、現場からの要請を待って医療救護所に赴き、そこに搬送されてきた傷病者のみを対象に応急処置を行うという対応では不十分である。災害発生急性期に傷病者を救出しトレーニングを受けた医師や看護師が、その場で救命処置を行うことや、根本的治療が行える災害被害地域外での治療を考慮する必要がある。米国では、関係する官庁や組織を統括する国家災害医療システム(The National Disaster Medical System:NDMS)が構築されており、災害医療支援チーム(Disaster Medical Assistance Team:DMAT)はその一環であり、日本でもDMATの整備が始まった。

米国のNDMSおよびDMAT

 NDMSは自然災害、化学的災害、大規模輸送事故、テロリズムを対象とし、災害医療援助の提供、被災患者の避難・移送、非被災地域の医療提供を目的とする。州単位では対応困難な災害時に知事から連邦政府へ要請され、大統領によりNDMSが発令され、DMATが出動される。DMATは災害地域で、トリアージ、簡単な医療、被災者の搬出を行う。

東京DMAT

 日本ではDMATを「災害の急性期(48時間以内)に活動できる機動性をもった、トレーニングを受けた医療チーム」として定義し、2004年8月2日に全国に先駆けて東京DMATが設立された。東京DMATは主に災害拠点病院、救命救急センターから医師・看護師などが参加してチームを編成する。ドクターカーとは、消防・警察などの災害時現場対応を理解し、連携して現場医療を提供する、複数の現場医療チームが参集した場合でも連携して活動できる、災害現場で提供すべき医療および行うべきでない医療を熟知しているという点が異なる。対応事例は、自然災害、人的災害・大規模事故,standby(コンサート、花火大会など)である。

 基本的な任務は被災地域内でのトリアージ、応急治療、搬送に加え、被災地域内の医療機関の支援を行うこと、広域搬送拠点基地内に設置された医療搬送拠点施設(ステージング・ケア・ユニット)において医療支援を行うこと。広域航空搬送において搭乗医療を行うこと、災害現場でのメディカルコントロールを行うことなども含まれる。

 さらに特殊な機能や任務を有するDMAT特殊チームの整備も計画されており、特殊チームには、都市探索救助(Urban Search and Rescue):崩壊した家屋に挟まれ脱出困難な状況など、救出までに長時間が必要な場合に救助隊と連携して医療支援を提供するチーム。Nuclear-Biological-Chemical(NBC response DMAT):NBC災害時に現場で除染とともに医療支援を提供するチーム。Medical evacuation(MED-evac DMAT):広域搬送時、患者の航空基地への搬送と集合、安定化、基地におけるステステージング・ケア・ユニットの設営・運営、航空機搭乗などを行う広域搬送対応チームが考えられている。

 DMATの目的は、最大多数の傷病者に対して現場医療を展開し、安全に病院に搬送して根本的治療につなげることにあるため、災害現場で「ふるい分け(Sieve)」により迅速に優先順位を決め、現場救護所にて「選別(Sort)」により優先順位をさらに洗練させ、その後も繰り返しトリアージを行い状況に応じて優先順位を変更することが要求される。

今後の課題

 DMATが効果的に活動するためには速やかな後方支援、自治体との連携などが欠かせない。今後さらに参加施設を増やし、連携して活動できるように定期的に訓練を行っていく必要がある。特に消防の組織的な活動に習熟した医療者としての救急救命士との連携は将来検討されるべき重要な課題である。また、国レベルでも米国のNDMSのような組織を早急に設立し、迅速かつ効果的に働く指揮系統を早急に構築することが望まれる。



JR福知山線脱線事故

(鵜飼 卓ほか、山本保博・監修 精神・中毒・災害、東京、荘道社、2007、p.323-327)

1.事故の概要

〈発生日時〉2005年4月25日(月)  午前9時18分頃

〈事故内容〉JR宝塚線上り快速列車 (7両編成) が尼崎駅近くのカーブで脱線した。先頭車両は転覆して線路沿い集合住宅1階部分の駐車場に突っ込み、2両目は同建物に巻きつくようにして大破した。

〈被害状況〉死者 107人 (男性59人、女性48人)
 負傷者 549人 (重症139人、軽傷410人、最終的には555人とJRから発表)

2.事故対応の実際

a.プレホスピタルケア

(1)通報と情報伝達

  • 事故発生の4分後、尼崎市消防局へ複数の119番通報があった。

  • 尼崎市消防局は、同35分、兵庫県災害医療センター(以下、HEMC)に対してドクターカーの派遣を要請し、併せて尼崎市内の病院・消防に事故発生情報の伝達と患者受け入れ要請をした。

  • また、同40分、兵庫県広域災害・救急医療情報システムに「緊急搬送要請」の入力をし、南阪神地域・北阪神地域・神戸市内の医療機関に設置した同システム端末に警報が鳴らされた。

(2)救出・救助

  • 事故発生直後から現場に隣接する企業の職員などは被災者の救出活動を開始した。

  • 現場に到着した尼崎市消防局の救助・救急隊は、現場指揮所とトリアージポストを設置し、一次トリアージ作業を開始した。近隣都市からも多数の消防救助隊・救急隊、警察のレスキュー隊などが救援にかけつけた。

(3)現場における初期医療活動

  • 午前10時頃、HEMCや近隣の病院からドクターカーが到着し、トリアージポストで二次トリアージを開始した。

  • 11時頃までは、トリアージポスト近辺は混乱していたが、負傷者の病院への搬送が進むと現場の混乱は次第に終息した。最終的に、現場と周辺医療機関の応援に馳せ参じた医療チームは20チームにのぼった。

(4)瓦礫の下の医療 (Confined Space Medicine: CSM)

  • 午前4時頃、1両目になお数人の生存者がいることが判明し、現場に残っていた医療チームがCSMを開始した。その結果3人が生存救出されたが、3人とも重症のクラッシュ症候群を呈し、うち1人は数日後に死亡した。

(5)救急搬送

  • 現場からの救急搬送は、消防の救急車による搬送・一般車両による搬送・警察車両による搬送・ドクターカーや病院救急車による搬送・ヘリコプターによる搬送の5つの手段で行われた。

  • 一般車両や警察車両により一度に多数の負傷者が近隣の病院(尼崎中央病院・関西労災病院・県立塚口病院)と兵庫医科病院に運ばれたため、一時的に受付や救急外来などが混乱した。

  • 救急車やドクターカー・ヘリコプターで搬送された負傷者は他の遠方の病院に搬送されたため、上記以外の病院では大きな混乱はなかった。

(6)ヘリコプター搬送

  • 事故現場に隣接した中学校校庭を臨時ヘリポートとして確保し、10時48分頃から重傷者を対象にヘリ搬送が開始された(計10件)。

b.被災傷病者と搬入病院および病院の対応

c.転院搬送

3.考察

〈JR福知山線脱線事故に対する医療対応 と それ以前の日本における集団災害に対する医療対応 との異なる点〉

  1. 現場付近の企業を中心とした市民による救助活動が早期から活発に行われた。

  2. 事故現場と周辺医療機関の支援に20の医療チームが数時間以内に自主的に参集した。

  3. 医療チームと救助隊・救急隊が協力してトリアージと現場応急処置を行った。

  4. 消防の相互応援協定や消防緊急援助隊制度が機能して応援参集が早かった。

  5. CSMが行われ、少なくとも2人の命を救った。

  6. 現場で黒タッグの犠牲者はまったぃ医療機関に搬送されず、病院の混乱を防いだ。

  7. 兵庫県と隣接府県である大阪府の基幹災害拠点病院の連携が素早く行われた。

  8. 10人に重傷ないし、中等度の選別搬送も含め、転院搬送が比較的円滑に行われた。

  9. 大阪府下への重傷者の選別搬送も含め、転院搬送が比較的円滑に行われた。

  10. 遺体は、すべて法医学の専門家により死体検案された。

〈今後改善すべき課題〉

  1. 現場に多数の医療チームが参集したが、相互の連絡が不十分であった。

  2. 現場派遣の医療チームの装備や服装が必ずしも適切ではなかった。

  3. 現場で使用されたトリアージタッグが現場の指揮所、搬送チーム、受け入れ病院で適切に収集と保管がなされず、その多くが廃棄され貴重な記録が失われた。

  4. Staging careの準備不足のため、ヘリ搬送前と搬送中のケアが十分には行えなかった。

  5. 広域災害・救急医療情報システムに30分以内に応答した医療機関は19%にとどまった。

  6. 災害現場には広域災害・救急医療情報システムの端末がなかったので、各医療機関が入力した結果を用いて負傷者の搬送の選定を行うことができなかった。

4.おわりに



エマルゴ

(中田康城、救急医学 31: 1535-1541, 2007)

 エマルゴとは、災害医療において限られた時間内に的確な判断(意思決定)を行い、限られた資源を最大限に有効利用するための机上シュミレーションキットである。スウェーデンの公立災害医療教育研究機関KMCの初代所長Sten Lennquist教授によって開発された。

 災害教育を時間的にも経済的にも効率的に進めるためには、まずは「座学」により基礎知識を習得し同時に意識高揚を図る。その後、現実的な「机上訓練・シミュレーション演習」を行って問題意識を共有し、対応システムやマニュアルを理論的に検証する。最後に「実動訓練」を行い、現実的な検証を加え、同時に資器材のメインテナンスを行う、といった手法がよい。エマルゴは、参加した各個人が「限られた資源と情報伝達手段を用いて、限られた時間内に意思決定を行わざるを得ない」発災型実戦形式のシミュレーション演習が可能である。ストレスやパニック、さらには「ミスや失敗」を擬似体験できる。また指揮官向けの発災型実戦形式のシミュレーション演習が可能である。総合訓練において「指揮官」として参加できる演習は当然として、災害対策本部用演習など指揮官となるべき上級職員だけを集めた部署別訓練も可能である。これらによって、参加者は災害時に必要とされるリーダーシップを理解し、指揮官による意思決定が一般実動員に比べどれだけ重要かを理解するはずである。さらには、その機関・団体の実力を窺い知ることとなろう。災害時の情報伝達訓練においても、不確実な情報を整理し評価し、十分な記録を残しつつ簡潔にまとめ、短時間で伝達できるか?いつもの伝達手段が使えなくなったらどうするべきか?報道機関への発表は?といった、情報に関する実戦的・現実的な演習が可能である。このようにシミュレーション学習として優れた教育的効果を有するエマルゴは、実動訓練の前提となり得る机上訓練として理想的といえる。

 エマルゴは、災害医療にかかわる全職種を対象とした教育・研修プログラムとして開発されたものである。それゆえ、医師、看護師や放射線技師などのコメディカル、消防職員、警察、自衛隊などの救護活動に直接携わる職種は当然として、災害コーディネーター、ボランティア組織、さらには保健所を含む医療行政官や市町村職員なども参加できる演習が可能である。そして、末端の実動員から指揮官となり得る上級職員まで、例えば医師なら研修医からスタッフ医師、各診療科部長から病院長まで、あらゆる階層を対象とした演習も可能である。

 エマルゴを用いた災害シミュレーション演習は、マグネット付き絵札をシナリオ・想定に従って「災害現場」とみなしたホワイトボードの上に貼り付けた状態から始まる。その「災害現場」から傷病者を表す絵札(マグネット付き患者人形)を選択、つまり救出し、さまざまな「判断」を行い、時間経過に従って、最終的に「病院」に見立てたボードに移動させる。災害現場、患者の状態、情報伝達、救出・治療手段、搬送方法など様々な状況においていろいろなシチュエーションが用意されている。演習参加者は設定された条件、時間の中で多くの「判断」を行わなければならない。演習の進行はインストラクターと補助スタッフ(ファシリテーター)の指導のもとで参加者自身が想定設定時間に合わせて、患者や資源(人・物)を動かし、シミュレーションを進めていくのが基本である。また必要に応じて参加者に質問し、その状況での判断内容を評価する。さらに浮かび上がった問題点・課題を話し合う。演習中、後のディスカッションにより、参加者個人へのフィードバックが可能であり、参加者全体で問題点・課題を共有できる。問題点として、参加者が意味のある演習を進めるためには、エマルゴ自身とその演習想定を熟知したインストラクターと助言役である複数のファシリテーターが不可欠であることがあげられる。

 現在日本では、まだまだエマルゴ演習が普及しているとはいえず、公認インストラクターの数も少ない。しかし、筆者や堀内義仁先生が中心となり、日本各地で勉強会、講習会を行っている。これからも各地で普及活動を行い、日本の災害教育と災害医療のレベルが上がること、さらには災害対応システムが少しでも向上することを願いつつ、本稿を終える。



災害医療における看護師の役割

(山崎達枝、災害人道医療支援会ほか・編:グローバル災害看護マニュアル、東京、真興交易医書出版、2007、p.50-62)

1.災害看護の定義

 刻々と変化する状況の中で被災者に必要とされる医療、および看護の専門知識を提供することであり、その能力を最大限に生かして被災地域・被災者のために働くことである。したがって、被災直後の災害救急医療から精神看護・感染症対策・保健指導など広範囲にわたり、災害における被災者・被災地域への援助だけでなく、災害サイクルすべてが災害看護の対象となる。

2.災害時における看護師の役割

 救急医療が治療施設の整った安全な場所に患者を搬送して対応するのに対して、災害医療は限られた人、医療資材器、危険な場所で活動するため、看護業務の拡大が生じる。たとえば、1)入院患者の避難誘導、2)少人数で効率的に被災者援助を行うための看護形態の再編成、3)日常働き慣れてない医療施設や被災現場、救護所、避難所での看護活動、4)感染症予防対策、5)心のケアなどがある。

3.災害サイクルからみた災害看護

 災害はその種類や発生のメカニズムの違いにより、被災者の受傷疾患が違ってくる。しかし、どの災害をみても、災害発生→救出・救助期→急性期→慢性期→静穏期→前兆期と大きく分けられる。

1)救出・救助期 (災害発生直後)

  1. 超早期

     災害発生から1時間以内に病院に到着して治療を開始するかどうかが、傷病者の生命予後を決定するといわれており、この1時間をゴールデンタイムという。一方、病院施設では受傷後30分以内に治療を開始できることを目標としている。したがって現場では、最初の10分間が重要となり、この10分間で現場の状況確認、傷病者の重症度の判断、適切な応急処置を行わなければならない。この10分間はプラチナタイムと呼ばれる。

  2. 早期(救助期)(0〜48時間)

     a) トリアージ、体液管理、集中治療、外科的処置

     b) 未搬送被災者の観察

2)急性期(発生後〜7日間位)

a) 状況把握、看護ニーズの把握

b) 医療救護体制の確立(災害対策本部の設立、人員確保、安全確保、医療救護班派遣体制、他医療機関との連携、通信の確保など)

c) 中等度〜重症者に対する初期治療(気道確保、血管確保、止血、除痛)

d) 軽傷者に対する創処置、骨折部の副子固定など

e) 負傷者の持続的な観察

f) 患者、家族への支援

g) 被害状況の調査

h) 一般市民の健康と病気の状態の確認・支援

i) 死亡者への関わり、遺体安置所への搬送

j) 医薬品、衛生材料、食料など備蓄状態の確認

3)亜急性期(救援期、発生1週間後〜6ヶ月後)

a) 内科的疾患管理、保健衛生管理(廃棄物・汚物処理・塵埃)、心のケア

b) 初期集中治療(重症患者に対する災害外科的術後管理、災害特有な疾患の治療)

c) 衛生状態の悪化による感染症の予防対策

d) 心的外傷後ストレス障害(PTSD)へのケア

e) 災害時に支援優先度が高い人(老人、障害者、子供など)への配慮

f) 巡回型医療支援活動
 避難所や自宅を訪問し、1.災害時に優先度の高い人の発見、2.不安・不眠などの人々への傾聴、3.問診、疾病の早期発見、医療機関受診の勧め、4.慢性疾患患者の増悪の防止、5.環境衛生状態のチェックと改善への支援などを行う。

4)復旧・復興期(災害発生6ヶ月後〜)

 日常生活への移行・生活支援、地域医療の再建と支援を心がけ、保健活動に目を向け、保健衛生管理や疫学調査を行う。

5)静穏期(災害間期)

 次の災害発生に向けて、防災計画、災害訓練、災害医療教育など、被害を少なくする「減災」への準備を行う。

4.避難所における看護

 災害発生により、多くの被災者が避難所での集団生活を余儀なくされる。災害発生後、医療援助者は救急医療のみに目を向けがちになるが、被災者にはまず、衣・食・住そして医療を提供することを忘れてはならない。看護師は、保健衛生についての予防と指導や慢性疾患のコントロールの他に、居住スペースの割り当てや食糧の配布、入浴による保清も行わなければならない。

5.求められる災害看護師の資質

 災害時に活動する看護師は、次のような資質が求められる。

1)予測性:冷静な状況把握ができる。

2)準備性:災害の種類、発生のメカニズムの違いに合わせて、対応の準備ができる。

3)即応性:瞬時の状況判断ができる。

4)自主性:どのような災害現場でも積極的に支援活動ができる。

5)柔軟性:限られた厳しい状況下であっても、その場に応じた柔軟な対応ができる。

6)専門性:災害時に予測される事態が考えられ、その場に応じた専門知識を提供できる。

7)強い精神力:助かる見込みのない傷病者には黒タッグを装着するなど、災害時の医療を守るために厳しい判断ができる。また、自身の安全を守るために「安全確認」や「無駄な行動は慎むこと」などの安全対策がとれる。

6.災害看護の特色

 被災直後の負傷者に対する医療・看護のみならず、被災者の健康の維持・増進・疾病の予防など、直接負傷しなかった人も含めて地域すべての人々が心身ともに健康な生活を送れるよう、災害全体を考え、健康を支える看護職の役割は重要である。


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