災害医学・抄読会 100528


トリアージ

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 トリアージとは、人材・資源が著しく制限される災害医療の現場に於いて、可能な限り多くの傷病者を救助するために、傷病者の重症度と治療の緊急性、そして現況から救命・治療の優先順位を決定することをいう。トリアージの語源は、フランス語のTriage(選別)である。

 トリアージでは、傷病者の重症度と治療の緊急性は、呼吸、循環、中枢神経機能の3つの観点から判断される。重症度及び治療の緊急性と、総傷病者数、利用可能な医療機関の許容力、搬送能力等の現況を統合して、傷病者が以下の4つのカテゴリーに分類され、各カテゴリーに対応した色のトリアージタグを付けられる:

 救助者の数に対し、傷病者の数が著しく多い場合には、以下に示すような、START法(Simple Triage and Rapid Treatment)に基づいた、客観的かつ簡素な判断基準を用いて傷病者の選別を行う:

 上記の方法で選別された傷病者には、トリアージタグが着けられるが、このタグにはカテゴリーカラーの他に傷病者氏名、住所、傷病名等の情報が記載される。このタグは原則として傷病者の右手首に着けることとされている。傷病者が右手首を負傷している場合は、左手首→右足関節→左足関節→首の順でタグを着ける場所を選択する。タグは原則として服や靴には着けないことになっている。

 トリアージを行うのは、一般に、直接治療に関与しない専任の医療従事者である。一つの災害現場でも、現況や傷病者の状態は刻一刻と変化するものであり、その変化に対応するためにトリアージは繰り返し何度も行われるべきである。又、トリアージは災害現場や現場付近の救護所で行われる一次トリアージと、搬送先で行われる2次トリアージに分蹴られる。



津波

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津波とは?

 津波は、海域での地震(プレートによる)や海岸地域で起こる地滑り、海底火山の活動、海底の地滑り、海洋への隕石の落下など気象以外の要因によって引き起こされ、海岸線に到達して被害を及ぼす可能性のある高波である。もともと日本語だが、20世紀後半以降は広く国際的に「Tsunami」と呼ばれている。

津波の原因

 津波の発生原因として最も一般的なものは海底で起こる地震で、記録に残る津波の大部分はこれによるものである。断層が活動して地震が発生した時に、海底にまで断層のずれが達して海底面が上下に変化すると、海水も上下に移動させられてその地形変化がそのまま海面に現われ、水位の変動がうねりとなって周囲に拡大していき、津波となる。

津波の特徴

 一般に水面に見られる波は、風によりできた風浪で、大きなものでも周期は10秒程度、波長は150メートルくらいである。これに対し津波の間隔は、短いもので2分程度、長いものでは1時間以上にもなり、100キロメートルを越す長波長の例もある。このため、津波が内陸に押し寄せる際には、大きな水圧による破壊力が加わる。また津波が引く際にも、高くなった海面がそのまま引いていく形になり、やはり大きな破壊力を発揮する。

通常、津波は複数回押し寄せ、第2波、第3波が最も大きくなる傾向があり、その後次第に小さくなっていく。津波が引き波から始まるか押し波からかは、諸条件によって決まり、海底の沈降が起これば引き波が先に来て、隆起があれば初めから押し波が来るが、震央をはさんで沈降と隆起が同時に発生する事も考えられる。

 また、津波は水深の変化の無い大洋で発生した場合には発生源を中心に同心円状に広がって行くが、地震は多くが陸地近くの海域で起こり、その場合は波のおよそ4分の3は海岸に向かい4分の1が外洋に向かう。この時に地震津波が大規模であると、地震を感じなかった地域でも津波に襲われる場合がある。これを遠隔地津波と言う。

警報・注意報(日本)

 気象庁は、震度3以上の地震が発生すると、約3分のうちに津波に関する情報(有無、津波注意報・津波警報・大津波警報)を発表する。

 また、2007年3月より緊急地震速報システムを活用し、予報発表にかかる時間を短縮している。活用した場合、最大で2分程度短縮でき、地震発生からわずか1分で予報が出せるようになっている。津波警報が発表された場合、放送局より緊急警報放送が送出される。

津波警報大津波高いところで3m以上の津波
津波高いところで1m〜2m程度の津波
津波注意報津波注意高いところで0.5m程度の津波

津波情報の充実と問題点

 津波は、同じ高さの気象性の波浪に比べて波長が非常に長いため、一波が押し寄せるだけで大量の海水が海岸を襲う。緊急警報放送や緊急地震速報などの施行で現在は津波情報が充実しているが、津波警報が出ても避難をしない住民が多いことはかねてから問題になっている。たとえば、大きな地震が起きた時に、「あっ、地震だ」とか、「また地震か」といった冷静な態度をとることが多く、警報や注意報が発表されても実際には発表された高さをはるかに下回る高さになることが多いため、「まさかここまでは来ないだろう」と高をくくる場合が多いなど、いわゆる地震慣れをしていることが原因であると言われている。

津波への対策

 1にも2にも、とにかく安全な高台へ逃げる(避難する)のが津波から命を守る基本かつ最良の手段である。特に海岸や川の河口付近においては、大きな揺れや長くゆっくりとした揺れを感じたら、津波情報が届くのを待つ事無くすぐに高台へ避難する事が大切である。

 また、津波は高さよりも押し寄せる水量が被害の大きさを左右する。たとえ数十cm程度の津波といえども、水量によっては漁船を転覆させたり人一人を海へ引きずり込ませたりする程の威力が十分ある場合もある。ゆえに、津波警報、大津波警報ではなく津波注意報が出ている場合でも、油断して海岸に近づく事は大変危険である。

 また、第1波の波高が予想津波高より低かく、たいした事がなかったとしても、第2波以降の津波が高くなる場合があるため、津波警報、津波注意報が解除されるまでは避難先へ留まっているべきである。



地下鉄サリン事件

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1.事件概要

 地下鉄サリン事件とは、1995年3月20日午前8時ごろに東京都の地下鉄(丸ノ内線、日 比谷線で各2編成、千代田線で1編成、計5編成の地下鉄車内)で、でカルト新興宗教 団体のオウム真理教が起こした化学兵器を使用した無差別テロ事件である。神経ガス のサリンが散布された。死者は2010年現在で13人、負傷者は約6300人とされる。この 事件は、大都市の民間人をターゲットとした世界初の毒ガステロ事件であり、日本の 社会のみならず世界に大きな衝撃を与えた。被害者は現在も心的外傷後ストレス障害 (PTSD)、慢性的疲れ目、視力障害、重度な後遺症・神経症状に悩まされ、苦しめられ ている者も数多くいる。

2.救命活動

■警視庁・東京消防庁

 東京消防庁は化学機動中隊や特別救助隊、救急隊など多数の部隊を出動させ被害者の 救助活動や救命活動を行った。警視庁では東京消防庁との連携の下、まずは機動隊の 機動救助隊を出動させ被害者の救出を行った。地下鉄構内で「急病人」「爆発火災」 「異臭」という通報があり駆けつけた警察は、同じく通報があり駆けつけた消防と協 力して事件現場での救出活動にあたった。

 当初はサリンによる毒ガス散布が原因とは分からなかったため、警察も消防も無防備 のまま現場に飛び込み被害者の救出活動を行った。東京消防庁の化学機動中隊が原因 物質の特定に当たったが、当時のガス分析装置にはサリンのデータが入っておらず、 溶剤のアセトニトリルを検出したという分析結果しか得られなかった。さらに、この 分析結果は「化学物質が原因の災害である」ことを示す貴重な情報であったにもかか わらず、全現場の消防隊に周知されるまで時間を要した。

 警察官が発見した事件現場の残留物の一部は、すぐさま警視庁科学捜査研究所へ持ち 込まれ、毒物が「サリン」であると判明。この情報がすぐ関係各所へ伝達されたの で、消防や病院は早期の段階でサリンと判定し対NBC兵器医療を開始した。

 東京消防庁には事件発生当初、「地下鉄車内で急病人」「築地駅で爆発」という119 番通報と、各駅に出動した救急隊からの「地下鉄車内に異臭」「負症者多数、応援求 む」の報告が殺到したため、司令塔である災害救急情報センターは一時的にパニック 状態に陥った。この事件では東京23区に配備されている全ての救急車が出動した他、 通常の災害時に行われている災害救急情報センターによる負症者搬送先病院の選定が 機能不全となり、現場では、救急車が来ない、救急車が来ても搬送が進まない、とい う状況が見られた。

■病院

 聖路加国際病院は当時の院長日野原重明の方針から大量に被害者が発生した際にも機 能できる病院として設計されており、日野原の「今日の外来は中止、患者はすべて受 け入れる。」との宣言のもと無制限の被害者の受け入れを実施、被害者治療の拠点と なった。また、済生会中央病院にも救急車で被害者が数十名搬送され、一般外来診療 は直ちに中止された。虎の門病院も、数名の重症被害者をICUに緊急入院させ、人工 呼吸管理、大量のPAM投与など高度治療を行うことで治療を成功させた。また、翌日 の春分の日の休日を含め特別体制で、数百人の軽症被害者の外来診療を行った。

■自衛隊

 陸上自衛隊では、警察に強制捜査用の化学防護服や機材を提供していた関係上、初期 報道の段階でオウムによるサリン攻撃であると直ちに判断。各化学科部隊を加えた臨 時のサリン除染部隊が編成され、実際の除染活動を行った。また、自衛隊では警察庁 の要請を受けて、自衛隊中央病院及び衛生学校から8病院に派遣され、硫酸アトロピ ンやPAMの投与、二次被曝を抑制する除染といったプロセスを指示する『対化学兵器 治療マニュアル』に基づいて、治療の助言や指導を行った。幸い自衛隊中央病院から 駆けつけた医師が直前の幹部研修において化学兵器対応の講習を受けており、現場派 遣時とっさに研修資料を持ち出して聖路加病院に到着し研修の内容資料と患者の様子 から化学兵器によるテロと判断し、硫酸アトロピンやPAMの使用を進言したのも早期 治療に繋がった。

□PAMについて

 プラリドキシムヨウ化メチル(PAM)は主に有機リン系農薬中毒の治療に用いる薬剤 であるため当時多くの病院でストックの数が少なく、すぐに都内でのストック分が使 い果たされてしまった。このため全国の病院・薬品卸会社へ収集令が出されることに なり、東海道新幹線沿線では各病院・卸会社の社員が最寄り駅まで薬剤を届けて別の 社員が東京行こだまに乗車して各駅で受け取るという作戦が展開された。陸上自衛隊 衛生補給処からもPAM2800セットが送られた。またPAMを製造する住友製薬は、自社の 保有していたPAMや硫酸アトロピンを関西地区から緊急空輸し羽田からはパトカー先 導にて治療活動中の各病院に送達した。有機リン系農薬中毒の治療に必要なPAMの本 数は一日2本が標準であるが、サリンの治療には2時間で2本が標準とされる。当時サ リン中毒は医師にとって未知の症状であったが、信州大学医学部附属病院第三内科 (神経内科)教授の柳澤信夫がテレビで被害者の症状を知り、松本サリン事件の被害 者の症状に酷似していることに気付き、その対処法と治療法を東京の病院にファック スで伝えたため、適切な治療の助けとなった。

3.反省

 「急病人」「爆発火災」「異臭」という通報で駆けつけた警察官や消防官の多くは、 サリンに対してはまったくの無防備のまま地下鉄駅構内に飛び込み救急救命活動に当 たったため、多数の負症者を出した。この事件は、目に見えない毒ガスが地下鉄で同 時多発的に撒かれるという状況の把握が非常に困難な災害であり、トリアージを含む 現場での応急救護活動や負症者の搬送、消防・救急隊員などへの二次的被害の防止と いった救急救命活動の多くの問題を浮き彫りにした。



ヘリコプター救急

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1.『ヘリコプター救急』について

 ヘリコプター救急とは、ヘリコプターを使った救急活動のことである。

 滑走路を必要とせず、適当な空き地さえあれば着地可能なヘリコプターによる救急活動は、コストは高いものの非常に有効な救急活動である。

2.ドクターヘリについて

 現在17道府県21機(H22年1月末日現在)で運航しているドクターヘリは、1970年にドイツで誕生した。医師がヘリコプターで患者の元へ向かうシステムで、日本では厚生労働省と該当する県からの補助を得て運用する救命救急センター補助事業である。

 単に医療機材を搭載して患者を搬送するだけではなく、1)急患の迅速な搬送、2)現場へいち早く医師と看護師を派遣し、初期治療を開始する、ということを目的とする。

3.運用方法

 基地病院の構内や病院の隣接地にヘリポートを設置し、そこにヘリを離陸可能な状態で常時待機させており、搬送協定を締結した市町村消防署や広域市町村圏消防本部からの出動要請を、病院内の救急救命センターが受けるとすぐに出動する。そして、消防との交信の上で決定された、学校グラウンドや駐車場など、事前に設定された機関および医療機関(病院)によって行われるため、一般人が直接呼ぶことはできない。ちなみに搬送費用は無料であり、治療費のほかに往診料等が請求されるだけである。

4.運用上の問題

  1.  年間2億円近い運航費用の負担
  2. 運用時間が日中に限られ、夜間離発着ができない
  3. ヘリポート近隣住民への騒音、強風などの問題
 などが挙げられる。

5.おわりに

 最近、ドラマやドキュメンタリー番組などでドクターヘリの特集をよく目にするようになって来た。各地でのドクターヘリの導入が進み、一般市民のヘリコプター救急への関心が深まることで、さらにヘリコプター救急事業が発展することが期待される。

 しかし、一方で、ヘリコプター救急に関する課題はまだまだ山積しており、早急に解決しなければ満足いくほどの発展は見込めない。コストの問題、インフラの問題、安全性の問題。これらの打開策を打ち出すことで、現在の救急医療の崩壊に歯止めをかけることができると私は思う。



心的外傷後ストレス障害PTSD
(Post-traumatic stress disorder)

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 心的外傷後ストレス障害とは、心に加えられた衝撃的な傷がもととなり、後になって様々なストレス障害を引き起こす疾患のことである。事故・災害時の急性トラウマと児童虐待など繰り返し加害される慢性の心理的外傷がある。

診断

 前提として、「危うく死ぬまたは重傷を負うような出来事」が存在することが必要である。

 基本症状 ・恐怖、無力感

 これらの症状が1か月以上持続し、社会的、精神的機能障害を起こしている状態を指す。症状が3か月未満であれば急性、3か月以上であれば慢性と診断する。大半のケースはストレス因子になる重大なショックを受けてから6か月以内に発症するが、6か月以上遅れて発症する「遅延型」も存在する。

特徴

 患者が強い衝撃を受けると、精神機能が不全状態となり、パニックを起こす場合がある。そのため、その機能の一部を麻痺させることで一時的に現状に適応しようとする。そのため、事件前後の記憶の想起の回避・忘却する傾向、幸福感の喪失、感情鈍麻、物事に対する興味・関心の減退、建設的な未来像の喪失、身体性障害、身体運動性障害などが見られる。特に被虐待児には感情鈍麻が多く見られる。また身体症状としては、原因不明の頭痛、腹痛、頭痛、嘔気、不眠、悪夢などがみられ、特に小児に多くみられる。

 PTSDは、海馬の発達不良や萎縮、扁桃体領域の血流障害、ブローカ中枢部の機能低下といった脳への永続的な変化をもたらす。 特に幼少期など成長過程で心的外傷が起こるとこの傾向が強く見られる。しかし、画像上顕著な器質的変化として認められない場合も多く、PTSDを詐病とされることもあり、外傷の二次災害が起こることもある。このような経緯でPTSDの治癒遷延、悪化がみられることを再犠牲者化(revictimization)という。

治療

 一般的には薬物治療と精神療法を用いる。近年ではEMDR(Eye Movement Desensitization and Reprocessing;眼球運動による脱感作および再処理法)も効果的な治療法として注目を集めている。しかし、PTSDは通常の処理能力を超えた極端なストレスが引き起こす生化学のメカニズムによるものと考えられており、意識的なコントロールが及ばない領域の現象であるため、しばしばPTSDからの回復は困難を極める。


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