災害医学・抄読会 100521


災害の種類と疾病構造

(瀬尾憲正、災害人道医療支援会ほか・編:グローバル災害看護マニュアル、東京、真興交易医書出版、2007、p.31-40)

 急性期から亜急性期にかけては、災害の種類により特徴的な疾病構造を示す。災害の種類には自然災害と人為的災害があり、それぞれ様々な疾病構造がある。その疾病構造を考慮して、災害医療活動を行う必要がある。しかし、同じ災害でもその規模の強さやその他の因子(季節、時間帯、人口密度、インフラストラクチャー、経済基盤、社会状況、建設強度、医療事情など)によって、疾病構造は影響を受ける。したがって、常に情報収集を行いながら柔軟に対応する必要がある。また、子供(child)、女性(woman)、高齢者(aged people)、貧困者(poor)、病人(patient)、障害者は災害弱者(CWAP)と呼ばれ、災害発生時には十分な治療が受けられず、虐待されることも少なくないことから、これらの人々への配慮が重要である。

自然災害

 自然災害には1、地震 2、津波 3、風水害(台風、洪水) 4、竜巻 5、火山爆発、火砕流 6、干ばつなどがある。それぞれの特徴をあげる。

1.地震

 都市型災害地震では、家屋建物の下敷きによる死傷者が多い。また、二次的に発生する火災、山崩れ、土石流などにより人的被害がさらに広まる。

 機械的損傷として、窒息、頭部外傷(頭蓋骨骨折、硬膜外血腫、急性硬膜下血腫)、胸部外傷(ろっ骨骨折、気胸、血胸、心タンポナーゼ)、腹部外傷(肝損傷、腎損傷、腸管破裂など)、脊椎損傷、多発外傷、出血性ショック、挫滅症候群、コンパートメント症候群、挫創、裂傷、打撲、熱傷などがある。倒壊した家屋による粉塵による呼吸器障害も亜急性期に出現する。二次的創感染症として、破傷風、ガス壊疽、一般化膿創があげられる。

2.津波

 溺死が死因の第一位であるが、漂流物による機械損傷(頭部外傷、胸部外傷、腹部外傷、四肢外傷、多発外傷、打撲、擦過傷、切創など)を伴う。

3.風水害(台風、洪水)

 暴風雨では家屋の損傷、落下物、地すべりなどによる、地震で見られるのと同様な機械的損傷、河川の決壊による溺水などがある。衛生環境の悪化による伝染病や感染性下痢が発生する恐れがある。

4.竜巻

 竜巻に巻き込まれ、家屋とともに吸い上げられたり、損壊した家屋の下敷きになり、機械的外傷を受ける。

5.火山爆発、火砕流

 全身熱傷や気道熱傷、有毒ガス(流化ガスなど)吸入によるガス中毒、火山灰吸入による呼吸器障害がある。

6.干ばつ

 干ばつでは、食糧供給不足による飢餓によって栄養失調や脱水や疫病が蔓延する。特に5歳以下の乳幼児が被災者となる。

人為的災害

 人為的災害には1、列車事故 2、爆発(爆弾) 3、大火災 4、化学物質による災害などがある。それぞれの特徴をあげる。

1)列車事故

 列車事故では急激な外力が加わることによって機械的外傷を受ける。死因の第一位は圧死である。重症例は肺挫傷、血気胸、頭部外傷、多発外傷である。

2)爆発(爆弾)

 爆弾爆裂創では、急激な気圧の変化による爆裂肺や腸管損傷(管空臓器損傷)や、爆風により飛ばされたり、爆風によって飛ばされた物による頭部外傷、肺損傷、腹部外傷、全身打撲などをきたす。

3)大火災

 火災による死傷は、体表熱傷、有毒ガスによる呼吸障害、高熱空気・ガス吸入による気道・肺熱傷、眼障害(熱傷、有毒ガス、異物混入など)を原因としている。火災自体による直接被害のほかに、遠隔地においても煙害が発生し、喘息、気管支炎、肺炎などが増加する。林野火災はバイオマス燃焼と呼ばれ、さまざまな粒子状物質とガス状物質が放出される。これらの物質は大気汚染物質となり健康被害をもたらす。

4)化学物質による災害

 工場での漏出、爆発、火災や搬送中の事故などで化学物質が放出されると広域に被害が及ぶ。放出された化学物質の組成により、種々の皮膚障害、眼障害、呼吸・循環器障害などをもたらす。


 災害時には、特徴的な疾患が現れる。外科系疾患としては挫滅症候群、コンパートメント症候群などがあげられる。外傷後二次感染症には破傷風、ガス壊疽などがあげられる。内科系疾患としては急性ストレス症候群、感染症があげられる。急性ストレス症候群には衝撃機、反動期、後―外傷期、解決機といった段階的な心理的反応をたどる。

 以上のように災害の種類と構造は非常に多彩であり、その理解は重要である。迅速な対応が必要であるので、常に情報収集を行うことが大切であると考えられる。



病院の機能評価の低下

(内藤秀宗、丸川征四郎・編著 経験から学ぶ大規模災害医療、大阪、永井書店、2007、p.309-315)

 震災が発生した際に、時間や状況の違いによって規模が同じでも取るべき対策が異なってくる。そのため、災害対策やネットワークは、その規模や季節、時刻などいかなる場合にでも対応できることが望まれる。インフラの機能低下やライフラインの切断などにより、職員の数、就業状況、医療環境等、さまざまなことに影響がでるため、実質的には医療機関の機能低下といった大きな視点に立つ必要がある。

震災の発生条件による状況変化

1.時間帯による状況変化

2.季節による状況変化

 特に夏場では感染症の発生、廃棄物、排泄物処理、清潔維持、生活環境などは冬場とは大きく異なる。特に空調設備の回復が透析医療において重要。

3.ライフラインの状況

4.建築被害の状況

 被害場所によっては透析や入院の維持が不可能になる。医療者による救出は二次災害を引き起こす可能性もあり、最小限にすべきである。あらかじめ決められた避難場所への退避が必要となる。

震災発生直後から、診療機能復旧のために行うべき事項

1.発生直後〜24時間以内

  1. 患者、および職員の安全性や安否の確認。
  2. 建築被害の確認。電気、水、ガス設備の被害確認。二次被害の防止対策。
  3. 非常用発電の稼働時間推定。燃料確保の可能性を調べる。
  4. 診療体制の構築、場所の設定。診療継続可能性を判断し、可能な限りの緊急診療体制を構築する。
  5. 医薬品、診療機材などの在庫確認と診療機能の評価。実際に応急処置を行いながら機能評価結果をみて、支援内容や後方への透析患者などの移送対策をきめる。
  6. 外部情報の収集と連絡

2.24〜48時間以内

  1. 機器、設備、人員の総括的診療機能の見通し。前日より正確な評価を行うことができる。
  2. 被害状況の詳細把握と再評価。
  3. 診療機能を維持するためのライフライン復旧と補給対策。外部からの給水が途絶した場合は給水対策を優先。
  4. 外部情報の収集と今後の見通し。地区被害対策本部と情報交換、後方支援病院の確保、搬送手段の依頼。
  5. 患者、職員のための食料、飲料水などと生活手段の確保。

今後の課題・徹底すべき点

 震災対策は個々の医療機関で総合的に、かつ系統的に計画し、また地域におけるネットワークに取り入れるべきである。次の点を強調したい。

  1. 病院の建築物と建築設備の被害を最小限にする対策をまず考える。

  2. 緊急避難や緊急医療を行う場所をあらかじめ設定しておき、そこに必要な設備を移送すること。緊急時の一次診療場所や一次避難場所を職員全員に認識させておく。

  3. 指揮命令系統が平時から機能していること。

  4. 必要最小限度のライフラインを確保すること。

 大震災直後の診療機能レベルは考えているよりも低い。極めて短時間に患者が集中し、しかも緊急処置や治療輪を必要とするので、まず職員数が不足する。さらに大量の患者のトリアージのようなまったく経験したことのない作業を強いられるので、組織だった作業が極めて困難になる。したがって、震災時の緊急医療の内容は可能な限り単純で、かつ限られた内容にならざるをえない。できるだけ多数に実施できるような診療機能や臨機応変な対策ができるようにしておくべきである。



CSM活動

(畑倫明、プレホスピタルMOOK 4 多数傷病者対応、永井書店、東京、2007、p.175-188)

 JR福知山線列車事故において国内で初めて「瓦礫の下の医療(Confined Space Medicine)」 が実践された。我々医療班は、救助隊員の健康管理を主任務として活動、要救助者に対する医療の提供(CSMなど)は優先順位としては低い。CSM活動の実際に関して、1)進入準備、2)進入、3)医療活動、4)処置完了〜救出、5)救出完了〜搬送 の5つのステップに関して以下に述べる。

1)進入準備

  1. 到着報告

    医療チームが災害現場に到着した際、まずは現場指揮本部への到着報告。救助チー ムの医療班は本部直属であり、その主たる任務は隊員の健康管理である。

  2. 情報収集

    ◇指揮命令系統;本部指揮官と現場隊長が誰なのかを確認しなければならない。

    ◇現場の安全、内部の状況、ハザードの確認

    ◇要救助者の情報:即ち、要救助者の数、位置、挟まれ状況、また家族や知人から得られる情報として基礎疾患や血液型、アレルギー、感染症。救助チームからABCDEに関わる生理学的徴候。特に要救助者の『挟まれ状況』は極めて重要。

     ⇒どのような体位で身体のどこを挟まれておりどの部位から接触可能か(Partial Accessという)

    ◇活動方針、救出プラン、搬送先:救出所要時間の予測も極めて重要。また、救出する前に搬送先の病院の所在地、搬送手段と搬送時間、受け入れ態勢まで確認しておく。

  3. 救助隊と協議し、救出プランを決定

    救出プランは要救助者保護の観点から医学的にみて妥当か否か。救助チームは 往々にして、要救助者を早く救出することに専念するあまり、救助後の機能予後 やクラッシュ症候群の発症について十分に考慮しない可能性がある。

    機能予後: 機能に関する後遺症が残るかどうかを考える場合に使用する単語

    クラッシュ症候群: 四肢が長時間圧迫を受けると、筋肉が損傷を受ける。その後、圧迫された状態から解放されると、壊死した筋細胞からカリウム、ミオグロビン、乳酸などが 血液中に大量に漏出する。発症すると意識の混濁、チアノーゼ、失禁などの症 状が見られる他、高カリウム血症により心室細動、心停止が引き起こされたり、ミオグロビンにより腎臓の尿細管が壊死し急性腎不全を起こす。

  4. 必要物品などの準備・調整手配

    安全に関する3つのS、即ちSelf(自分)・Scene(現場)・Survivor(要救助者)の うち最も重要なのは、Selfである。Selfを守るための個人装備として、安全の 7つ道具と呼ばれる、ヘルメット・ライト・ゴーグル・防塵マスク・手袋・肘- 膝プロテクター、安全靴は必須である。

2)進入

  1. 進入隊員

     医療チームの進入隊員は原則1名とし特別な場合2名も考慮する。多人数であると緊急退避の場合に極めて不都合を被るため。

  2. 進入

     進入にあたって重要な事項は退路の確認である。声が届く距離まで要救助者に接近したら、「ボイスコンタクト」をとる。要救助者に接近する際は、頸椎保護の観点から要救助者が頭部をあまり動かさないように注意する。

  3. 瓦礫外

     輸液・薬剤・O2・AED・気道確保器具など常に一手先の準備を行う。

  4. 接触

     常にボイスコンタクトを行う。要救助者の声の張りや大きさで性別や状態の大まかな推定ができ、精神的サポートも加味している。また前述のクラッシュ症候群は、要救助者が瓦礫に挟まれている間は症状が出現しないので「予測する」ことも必要となってくる。

     ポイントは、生理学的な評価において気道・呼吸・循環など生命の危機に直結する異常を迅速に発見し、状態の安定化を図ると共に今後の変化を予測することである。

3)医療活動

  1. 基本

     JATECにおけるPrimary SurveyのA(Airway)・B(Breathing)・C(Circulation) D(Dysfunction of central nervous system)・E(Exposure & Environmental control)であるが、CSMにおいてはCに「クラッシュ症候群への対応」、Dに 「除細動defibrillation」が入ると考えればよい。

  2. 全身状態の安定化

    ◇気道確保

    ◇循環維持及びクラッシュ症候群対応:静脈路確保と輸液

    ◇意識及びdefibrillation:意識レベルの低下に対して瓦礫下で行う処置はあまりないが、クラッシュ症候群発症の可能性有りの場合、致死的不整脈に対するAEDの準備が必須。

    ◇保温:清潔と保温に努める。

  3. ペインコントロール

     疼痛の管理は重要だが、我が国において麻薬の院外使用は制限されており、CSMにおけるモルヒネなどの使用は困難である。鎮痛薬として何を使用するかは今後の検討課題である。

  4. 精神的サポート

     前述の通り、絶えずボイスコンタクトをりコミュニケーションに努めることが肝要。

4.処置完了〜救出

 処置が終わり次第迅速に離脱し、その際消防隊員に適切な申し送りをする。但し、瓦礫除去時には直近に待機し容態変化に対応する。

5.救出完了〜搬送

 再度傷病者を観察・評価し、必要ならば追加処置を行う。

考察

 知識はもとより、瓦礫下と外部の連携、医療チームと消防チームの連携、要救助者との連携を緊密にすることによりCSMは潤滑に行われる。災害時における麻薬の院外使用の制限を緩和すると、要救助者との連携が更に良好なものとなり、CSM活動の向上に繋がるのではないだろうか。



竜巻による健康被害

(福家伸夫、救急医療ジャーナル 18巻1号、p.58-61、2010)

竜巻とは・・・

上空の積乱雲(=俗にいう入道雲)に向かって上昇する気流を伴う、高速.の渦巻きのことである。気象庁の定義によれば、「激しい空気の渦巻きで、大きな積乱雲の底から漏斗状に雲が垂れ下がり、陸上では巻き土がる砂塵、海上では氷柱を伴うもの」となっている。

竜巻の認識・・・

アメリカではとくに中西部の穀倉地帯が大型竜巻の好発地域であり竜巻は広く知られているが、日本では地震や台風などと比べて軽視されがちである。

竜巻の特徴・・・

竜巻は渦を巻く突風が不確定の進路をとりながら移動しやがて消滅する点では台風にも似ているが、被害の及ぶ範囲は台風よりは限定的で平均数十メートルである。その進行速度はまちまちで、一ケ所にとどまるものから、時速l00kmを超えるものまである。竜巻の渦の中に巻き込まれると、巨大な竜巻であれぱ、人や車はもちろん、家もコンクリート製の建築物でさえ破壊され、'吹き飛ばされたりする。

竜巻の強さ・・・

フジタ・スケール(表1)というもので表現する。

表1

クラス推定風速(kmノ時)想定される被害
F0117未満軽微。煙突の損傷、木の枝が折れる、根の浅い 木が傾く、道路標識の損傷など。
F1117〜180中等度。屋根が飛ぶ。ガレージが壌れる。移動中の自動車が道から押し出される。
F2181〜253大きな被害。壁こと屋根が飛ぶ。列車が脱線転覆する。大木が折れたり、抜けたりする。自動車が転がる 。
F3254〜332重大な被害。建てつけの良い家でも壁ごと屋根が飛ぶ。列車が脱線転覆する。森の木々がほとんど抜かれる。重い車でも宙を飛ぶ。
F4333〜418深刻な大被害。基礎の弱い家は飛んでゆき、車はミサイルのように飛んでいく。
F5419〜512ありえないほどの壊滅的被害。強固な建物も吹き飛び、自動車は100mを越えて空を飛び交う。樹木も根こそぎ宙を舞い、進路にあったものはことごとく破壊され、瓦礫のみが残る。
F6513〜610いまだ未確認の大型竜巻。未曾有の超壊滅的被害をもたらすと予想される。


竜巻災害の特徴・・・

1)複雑な社会基盤がない場所での被害の特徴(バングラデシュの農村地帯でおこった竜巻をもとに考えてみる。

  1. 被害は限局性である。←竜巻の進路になったところだけ木々や家の破壊がみられる。

  2. ほとんどすべての被害者は外傷患者。

  3. 長期の被害者対応はいらない。(竜巻は一過性なので長期の被害者対応は必要なく、重大な社会基盤の損害もない。)

2)我が国のように複雑な社会基盤がある場所での被害の特徴

  1. 被害は限局性でない。
  2. 被害は一過性では終わらない。(重篤な社会基盤の損傷が考えられる)
  3. 一番の問題は停電である。
  4. 水道やガスは地下に埋まっているので比較的維持される。
  5. 高架の鉄道や高速道路は被害が大きい。
  6. 外傷患者は多い。
  7. どのような地域で起こるかが被害の程度に強く関わる。(市街地か田園か海上か)


被害の予防するためにはどうすればよいか・・・

竜巻の直接の被害を予防するには巻き込まれないことが重要である。

我が国でも最近は竜巻注意情報が発せられるようになり、竜巻の発生する確率は予測できるようになった。しかし、発生したとしても竜巻に巻き込まれるかどうかは予測できない。

巻き込まれないようにするには以下のことが重要である。 「低く垂れ下がった雲、急に強くなった風、変化する風向きなどの竜巻の予兆を捉える。あるいは、竜巻を目視できたら、すばやく堅固な建物、できれば地下に逃げて、通りすぎるのを待つ。」ということである。

さらに竜巻から逃げるコツは地下に逃げ込むことだ。地下がないなら、吹き飛ばされる可能性の低い1階に逃れ、家屋の崩壊を予測して机の下に潜むということも重要になってくる。

このようにすればA巻き込まれ直接被害にあうということは防げるはずである。


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