近年、自然現象や社会環境の変化に伴って災害リスクが変化してきた。まず、集中豪雨増加等に伴って水関連災害リスクが変化してきた。今後も水関連災害の増大が予測されている。次に、高齢化に伴って地域の防災力が低下し、災害に対して脆弱になるおそれがある。対照的に、都市部でも災害に対して脆弱になっている。例えば、1)膨大な帰宅困難者の発生、2)湾岸部の埋立地での液状化等、3)増加する高層建築物への影響、4)利用が進む地下空間での被害など、である。
次に、災害リスクが変化による、防災に関する国民の意識についてアンケート調査を行った。すると、多くの国民が災害リスクの変化を認識していることを認めた。また、行政に対しては、多様な防災活動を期待している。その一方で、災害発生時に実際に役立つと思う主体は「家族」「自分自身」が多数でありながら、その意識は実践的な行動に結びついていない。条件が整えば地域の防災活動に参加したいという人が多数認められたことも特徴である。これらのアンケートから、災害をとりまく自然的、社会的な環境が変化する中、各主体が、防災上の課題を正しく認識し、適切な役割分担の下、連携して対応に当たることが必要である。
平成20年の我が国の自然災害の状況は、大きく分類すると、大雨・豪雨によるもの、低気圧によるもの、地震によるものの3つに分けられる。
そして、以上のことを踏まえて、災害対策の推進について考える。1)建築物の耐震性の向上。住宅、学校、病院などについて、関係省庁が連携して耐震化を推進している。2)首都直下地震対策。首都直下地震避難対策等専門調査会が、避難者対策、帰宅困難者対策について報告書をとりまとめた。3)中部圏・近畿圏における地震対策。地震対策大網を平成21年4月の中央防災会議において決定した。4)重要文化財建造物等の防災対策。地震時に想定される災害から重要文化建造物及びその周辺地域を一体として守るための防災対策のあり方及び実現方策等について提言した。5)日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震対策。日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震の地震防災戦略において、死者数を4〜5割減、経済被害額を1/4減させることを減災目標とし、それを達成するための具体目標を提示した。6)大規模水害対策。これまでに、利根川、荒川の洪水氾濫時の浸水想定、人的被害の想定、地下鉄等の浸水想定等をとりまとめ、公表した。7)災害時要援護者対策。平成21年度までを目途に、避難支援プランの全体計画などが策定されるよう、関係省庁が連携して推進している。
最後に、世界の自然災害と国際防災協力についてみる。平成20年度の世界の自然災害の状況、近年の世界の自然災害の状況から、国際社会における防災の取組と我が国の国際防災協力について考えた。
歴史災害についての報告書作りは直接自然災害を防ぐものではないが、日本の社会が災害に際して蓄えてきた知識を見直し、現代に活かすことが、どのように人が支え合うのかが問われていることを考える上で、今こそ求められている。その成果は今回の地震のように、わが国に限らず世界でも活用されるものになるはずである。 (北原糸子 「災害教訓」小委員会座長)
「稲むらの火」とは、ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)が逸話をもとに書いた「A Living God」に感動し、その真髄を小学生にも分かるよう中井常蔵が短く凝縮した作品であり、小学国語読本に掲載されたものである。
「稲むらの火」の基となった逸話では、1854年安政南海地震津波(高さ約5m)が広村(現在の和歌山県広川町)を直撃した際に、浜口梧陵が暗闇の中で逃げ遅れた村人のために収穫したばかりの稲を積みあげた稲むらに火を放って高台にある広八幡神社の境内に導いたというものである。さらに梧陵は100年後に再来するであろう津波に備え、巨額の資財を投げ打って、海岸に高さ約5m、長さ600mの広村堤防を築き、海側に松並木を植林した。約4年にわたる工事に村人を雇用することで津波で荒廃した村からの離散を防いだとのことである。92年後、昭和の南海地震が発生し、大津波が広村を襲ったが、広村堤防は村の居住区の大半を護ったのである。なおこの話は本年1月18日の国際防災世界会議で小泉純一郎首相が演説の中で「教訓」として紹介している。
東南海地震による県別の死者は、愛知436名、三重406名、静岡295名、岐阜16名である。東海4県以外では、和歌山51名、大阪14名、奈良3名であり、近畿圏にも広がっていたのが注目される。家屋の倒壊率に基づき推定した震度では、愛知県南部に震度6や7が現れた。強震動と津波による総死者数は、総計1223名に達した。津波による被害は、特に三重県の海岸に集中した。三重県の死者の大多数は津波による。
東南海地震から約1ヵ月後、1945年1月13日午前3時38分に三河地震が発生した(MJ6.8)。活動度の低い深溝活断層や横須賀断層上に起きた。内陸直下の逆断層型の地震である。断層は10数kmにわたり追跡でき、断層のずれの一部は、今でも天然記念物として保存されている。三河地震は、東南海地震の直後、そのごく近傍に誘発されて起きた可能性が高い。南海トラフ巨大地震前後には、このように大きな内陸地震が発生することが知られている。次の東南海地震や南海地震発生前後には、内陸地震の発生にも注意すべきだ。地震による被害は、三河湾に北に位置する蒲郡市、西尾市、安城市などに集中し、死者は2306名に達した。
三河地震は夜明け前に起きたため、多くの住人は就寝中であった。このため、倒壊した家屋の下敷きになり、多数の死傷者が出た。被害の様相は、阪神淡路大震災と酷似していた。しかし、地震後家屋の耐震化が叫ばれることもなく、1948年福井地震で再び主に家屋の倒壊のため3769名が死んだ。最近起きた地震の特徴でも、その多くはすでに過去に起きている。歴史から学ばないと災害は繰り返される。
これら2つの地震被害を隠すため、時の政府は地震災害の詳細な記事を書くことを許さなかった。地震については噂することも禁じられたほどである。ただし、報道管制がしかれていたものの、全国紙に比べ地方紙には比較的多くの記事が掲載された。内閣府報告書には各地域に残るこれらの新聞記事が多数集められている。当時、災害対策等の資料は、終戦直後軍の占領を恐れ処分されたものや、市町村合併の際に処分されたものが多い。しかしその中で、種々の行政の文書が発掘されたり、被災体験の手記や、地震の被災者の体験談をまとめ絵本として残す試みも続けられており、当時の被災状況を知る上で貴重な資料となっている。
雲仙火山は、多くの溶岩ドーム群からなる複成複式火山である。有史以降、1663年、1792年、1990〜1995年の3回の噴火は、いずれも主峰の普賢岳からの噴火であった。1990年の噴火は、水蒸気爆発から始まり、1991年5月20日に地獄跡火口から溶岩を噴出開始、溶岩ドームが成長を始めた。5月24日に溶岩ドームの溶岩塊の崩落により普賢岳東斜面に火砕流が初めて発生し、その発生回数は計6000回に達した。溶岩噴出量は、最盛期には1日に30〜40万m3に達し、複数の溶岩体を形成した。噴火は1995年に終息した。溶岩総噴出量は2億m3で、約半分が溶岩ドームとして留まった。
2.災害の経緯
1990年噴火確認直後に、小浜町は「普賢岳火山活動警戒連絡会議」を発足、長崎県は「災害警戒本部」を設置した。1991年5月26日には火砕流による負傷者が出たことで、島原市は上木場地区住民に対し、火砕流警戒の目的で初めて非難を勧告した。島原市は報道機関などに対し避難勧告地域からの退去を要請したが、報道機関は応じなかった。6月3日には火砕流が水無川沿いに流下し、マスコミ関係者、消防員等の死者・行方不明者43人の被害を出した。島原市は6月7日から、深江町は8日から警戒区域を設定し、立ち入りを制限した。6月8日には6月3日を上回る火砕流が発生し、水無川沿いに流下したが、警戒区域の設定により人的被害は免れた。その後も火砕流、土石流が度々発生し、家屋、国道、鉄道に被害が出た。
台風、集中豪雨、洪水、地震、津波、雪害、火山噴火などのこと。近年の自然災害でいえば、世界的にはスマトラ沖地震、それによる津波災害などで、日本では、阪神淡路大地震、新潟中越地震など。
化学爆発、都市大火災、大型交通災害、炭坑事故、ビル・地下街災害などのことで、テロも人為災害に属する。日本での例をあげると、地下鉄サリン事件など。
放射能・有毒物汚染の拡大、自然災害と人為災害の混合、二次、三次災害などのこと。
どの災害においても、居住地域であれば必ず傷病者は発生、または発生する恐れがあり、そこで災害医療が必要になってくると考えられる。
感染症自体が災害を引き起こすもので、インフルエンザ、エボラ出血熱、ペスト、鳥インフルエンザ、重症急性呼吸器症候群(SARS)やその他の疫病、バイオテロなど。
環境変化、衛生状態悪化に伴うことが原因で、小児、高齢者がまず影響を受けやすい。感冒、インフルエンザ、結核など。阪神淡路大震災の際は、避難所に集まった多くの高齢者がインフルエンザで亡くなった。また、水、食料、サニテーション(排泄、トイレ)の問題は、感染対策には非常に重要で、食中毒などの発生が考えられる。
災害発生時の外傷患者は多く、受傷部位の感染予防、治療は非常に重要なウェイトを占める。受傷部位に傷があれば、汚染創を感染創にしないよう創部の徹底した洗浄とデブリードマンが必要となる。しかし災害時には、医療資源も限られており、日常通りの処置や治療は不可能である。その限られた状況の中で、通常の生食で洗浄することができないのであれば、水道水などの清浄水、飲料水などで異物などを十分に洗い流し、また血流の悪い組織、壊死組織はデブリードマンを施行する。そして、可及的に止血をし、創部の汚染度、患者の数に対する医療材料の数、創部の大きさなどを考慮して縫合処置をするか決める。洗浄が不十分だったり、汚染が著しい場合は、二次的創閉鎖を原則とする。また、創部感染予防に対する抗生剤の投与には、様々な議論が交わされているが、受傷後2時間以内に投与するのがよいとされている。さらに、創部が汚染されていれば、破傷風の予防も必要になってくる。患者に問診し、10年以内に破傷風トキソイド接種を受けていれば、追加免疫としてトキソイド接種を、それ以外ではトキソイドと破傷風免疫グロブリンの投与を施行する。
スタンダードプリコーション(標準予防策)のことである。スタンダードプリコーションは、患者の血液、体液などからの接触感染、空気感染、飛沫感染を防ぐために行う。具体的には、B型・C型肝炎、HIV、結核、インフルエンザなどから自分の身を守るために、帽子、手袋、マスク、ガウン、ゴーグルなどを着用することをいい、特に手袋とマスクは重要であり、必ず着用する。原因がはっきりしないバイオテロや結核などの空気感染が疑われる場合には、N-95マスクを使用する。これがない場合は、一時的に医療従事者は通常のマスクをし、患者にもマスクをさせて対応する。また、注射針などはリキャップせず、針刺しをしないよう十分注意し、その他の医療器具、血液、体液付着物などと一緒に医療廃棄物として、貫通しない硬い容器にまとめて廃棄する。
空気、飛沫、糞口感染対策、飲食物、排泄の対策がこれにあたる。人が集まる避難所は、たいへん混雑していることに加え空調が不十分であるため、人との距離が近く、インフルエンザ、感冒などの飛沫感染、結核などの空気感染が危惧される。この対策として、避難所ではなるべく人との距離を2m以上保ち、マスクを着用、手洗い、うがいを心がけ、1日に数回は窓をあけて、避難所の換気をすることが考えられる。また、災害時にはライフラインが途絶していることが多く、感染対策には飲料水、食料の確保が重要になってくる。給水車やミネラルウォーターなどの浄化した水であれば問題ないが、数日保管したものや雨水、川の水などは、やむをえない場合には、煮沸してから使用する。また、最近では携帯用の浄水器もあるため、各家庭で準備しておくのも一つの選択肢である。食料品に関しては、古いものは避け、暑い季節には保存しないようにし、炊き出しやおにぎりなどの作り手は、少しでも細菌の付着を減らすために、手袋をして作るようにする。飲料水、食料品からの感染症は、下痢症、食中毒(腸炎)などとして発症する。食中毒の原因菌としては、ブドウ球菌、大腸菌、サルモネラ菌などがあり、治療としては、止痢剤は処方せず整腸剤のみとし、電解質、水分の補給を十分にしてニューキノロンなどの抗生剤を投与する。また、簡易トイレでは、清掃、排泄後の手洗いが不十分などの衛生状態の悪化で、大腸菌などの感染症になる事がある。これも、細菌性腸炎なら同様に治療する。
以上が災害医療における感染症の特徴、対策である。災害は、現在の日本では経験がある人のほうが少ないと思われるが、日本は地震、台風が多く、決して他人事ではなくいつ起きるかわからない。最近でいえば新型インフルエンザが世界的に蔓延している今日、日常的に感染症や災害時のことを考え、いざという時のための準備や心構えをしておくことが肝心である(読者の考察含む)。
歴史災害の見直しと災害教訓の検証
広報「ぼうさい」No.25(2005),p.18-19
http://www.bousai.go.jp/jishin/chubou/kyoukun/rep/kouhou025_18-19.pdfはじめに
歴史災害から「教訓」を導くための新機軸
災害の全体像から現代への「教訓」を
これまでの仕事
歴史と現実の交叉から生まれる防災力
「津波と稲村の火」
広報「ぼうさい」No.26(2005 3月号)
http://www.bousai.go.jp/jishin/chubou/kyoukun/rep/kouhou026_14-15.pdf
インド洋津波を受け津波の知識と対応を説く「稲むらの火」が脚光をあびている。 〜過去の災害に学ぶ(第16回)〜
1944年東南海地震・1945年三河地震
広報「ぼうさい」No.44(2008)p.20-21
http://www.bousai.go.jp/jishin/chubou/kyoukun/rep/kouhou044_20-21.pdf
【災害の概要】
【戦時下の地震】
〜過去の災害に学ぶ(第17回)〜
1990〜1995年雲仙普賢岳噴火
広報「ぼうさい」No.43(2008年1月号), p.18-19
http://www.bousai.go.jp/jishin/chubou/kyoukun/rep/kouhou043_18-19.pdf
【災害の概要】
【土砂災害対策】
【危機管理】
【被災者対策】
【復興計画】
災害医療における感染症対策
日本医科大学付属病院高度救命救急センター 小川 太志
(アボット感染症アワー 2005年7月1日放送)
http://medical.radionikkei.jp/abbott/final/pdf/050701.pdf災害の分類
傷病者発生数の時間的推移
災害と感染症
災害時の感染症対策