病院は出入り自由でセキュリティー対策は甘く、免震構造を採用した病院は少ない。また手術室や集中治療室は病院内で最も周囲からセパレートされていてあたかも安全と誤解しやすいが、実は最も孤立しやすい場所である。災害時の情報交換は常に課題であり、完全な手段はない。だからこそまさかの時には的確な情報を発信し、関係者の間で共有することがキーになる。
1995年の阪神・淡路大震災では神戸市の基幹病院である神戸市立中央市民病院では周囲が液状化、屋上のタンクやパイプのトラブルで院内が水浸しになった。神戸市立西市民病院では病棟5階部分が崩れ、入院患者1名死亡、救出に2日かかった。被災地における病院機能低下の原因はライフラインの停止によるものが多く、当然病院内で最も「ハイテク」を誇る集中治療室や手術室もそのターゲットとなる。特に手術室は病院の57%で稼働不能に陥った。
2000年の鳥取県西部地震の時、鳥取大学附属病院では病棟、手術部で停電し、非常用発電に切り替わった。手術室には6名の患者がいたが、医療機器に被害はないものの、無影灯以外の電源が切れていたため、術式変更や手術延期が余儀なくされた。
病院が被災するのは地震だけではない。2004年、福井豪雨では医療機関の被害は軽微であったものの、福井赤十字病院ではエネルギー棟・医療用ガス供給基地が浸水し、断続的な停電が発生したほか、近隣住民約200名が避難し、毛布・備蓄食糧を配布するなどの対応が必要となった。またその福井赤十字病院や福井県立病院へ、浸水により孤立した地域から262名の被災者が消防防災ヘリコプターや海上保安庁ヘリコプターで搬送されている。
2004年は数多くの台風が日本列島に上陸し多くの被害を出した。台風23号もその一つである。このとき、兵庫県内各地で記録的な大雨となり、特に北部の但馬地方と南部の淡路島で土砂崩れや河川の氾濫を引き起こした。兵庫県の災害拠点病院の一つである公立豊岡病院は、この洪水で自ら被災するハメに陥った。外来棟を中心に病院の地下階、一階部分が床上浸水し、電気系統のキュービクルや放射線機器関係の高圧キュービクル、ボイラー、機械室、寝具倉庫などの施設が被災した。このため2台のうちCT1台、MRIなどの診断装置や、断水から一部の血液検査機器が使用不能に陥った。数回の全館停電の発生や非常用電源の不足から、輸液ポンプなどが使用不能に陥っている。また全職員を招集して入院患者の一部避難や外来・入院カルテの水没を免れるよう移動、ボートや非常用発電機の燃料確保なども必要であった。なお、兵庫県内の災害拠点病院の13医療チームが被災したこの拠点病院や避難所医療支援のために派遣されている。
このように、医療機関も災害に弱いことが分かったと思う。被災によって手術室や集中治療室が機能停止に陥ったらどうするべきか?機能の回復に努めたいのはやまやまだが、まず重症患者の治療や手術を遂行できる状態でないことを院外に発信せねばならない。
ふたたび、阪神・淡路大震災に目をむける。地震発生当日に受診した救急患者数と医療スタッフの数についてアンケート調査を行ったところ、その数はさまざまであったが、少しの距離離れただけでも、ケガ人が殺到した病院と少なかった病院があった。このとき、互いに情報交換できていれば、患者の転送や医療チームの応援体制がとれていたかもしれない。
この教訓から、1996年兵庫県を皮切りに広域災害・救急医療情報システム(EMIS)の運用が開始され、2008年現在40都道府県に導入されている。自治体により異なるが、災害拠点病院や二次医療機関を中心に、保健所などの行政や消防機関も加入している。
EMISで何ができるのか?具体的には災害によって被災した場合、緊急入力として緊急事態に陥っている状態を簡単に発信できる。すなわち、1.建物・医療施設の倒壊、2.受け入れ人数の限界、3.ライフラインが使用不可能、4.その他について、緊急信号、いわばSOSを容易かつ迅速に発信出来る。
EMISから救難信号を発信したら誰が助けてくれるのか?大原則は都道府県の保険医療担当部局、保健所、災害拠点病院などがEMISの情報をもとに、患者の転送やDMATなどの医療チームの応援派遣体制を決定していくことになっている。災害時はどの機関も情報収集に多忙をきわめる。EMISを使って医療機関の災害情報をしっかり収集してもらえるよう心がけることが大切である。情報を発信しなければ見捨てられるかもしれないと受け止めておくべきである。
EMISにしっかりした情報を発信するためには、院内に災害対策本部を早急に立ち上げ、病院の被災状況を各部署から本部にしっかり報告することが基本である。これには建物やライフライン、手術室、集中治療室の精密医療機器の損壊状況をはじめ、職員・患者が無事かどうかも含まれる。また休日・夜間に災害発生したときに限られた職員で初動体制を取るとともに上司や院長へ連絡を入れ、応援を要請することも大切である。
以上のことから、院内対策本部の立ち上げ、職員の招集、施設状況の確認報告作業、EMISの入力発信、DMATなど外からの医療救助チームに何を分担してもらうかなど、被災時に自債求められる動きを盛り込んだ災害対応マニュアルの作成が必要である。また、現実に即したマニュアルをもとにした、情報発信、共有の訓練・シミュレーションに励むことが大切である。
消防覚知時間は9:22分。現場出動人員は、消防機関として25〜28日で延べ295隊1090人(尼崎市消防局、兵庫県の応援隊、大阪・京都・岡山の緊急消防援助隊)、警察機関として兵庫県警察部隊が延べ約6800人、広域緊急援助隊が延べ約250人。自衛隊35人。医療機関20医療チーム105名(ドクターカー18台)。民間企業約30社、約400人である。
1995年9月に阪神大震災の教訓より全国の応援体制として緊急消防援助隊、11月に「みなし規程」
2001年6月の池田小学校児童殺戮事件の後、兵庫県阪神地区の消防本部による局所的集団災害応援マニュアル(阪神地区消防相互応援協定)、2001年7月の明石市花火大会歩道橋事故、2002年7月の明石海峡大橋多重衝突事故、2004年10月の兵庫県豊岡市水害などで成果。
2.医療機関
阪神大震災より2003年9月より、兵庫県の災害拠点病院として兵庫県災害医療センター開設、ドクターカー運用、医師同乗型消防防災ヘリの救急運用、センターでの兵庫県下の救急救命士の病院実習などが行われていた。救急救命事案などの救急現場でドクターカーと救急隊の連帯が日常的に行われており、災害現場でも2004年3月の路線バスとトラックの衝突事故現場等々で連帯した活動が行われていた。
3.警察
阪神大震災以降、全国の都道府県警察で、大規模災害時に都道府県の枠を超えて出動する「広域緊急援助隊」が設けられていた。神戸市消防局では県警機動隊や神戸海上保安部との合同救助訓練が行われていた。
25日16時頃には救助活動はほぼ終了、その後医療チームと連帯し、最後の生存者を救出した翌日26日7時頃まで夜を徹した救助が行われた。
また、各機関の救助隊がスムーズに連帯し、効果的な活動ができた要因として、
●トリアージのポイント
トリアージを行う場所によってその目的が救出であったり、搬送であったり、治療であったりするため、トリアージは繰り返し行うべきであり結果的により精密になる。
●トリアージの評価
現実的に災害現場の混乱の中で多くの負傷者に対して迅速かつ適切なトリアージを実施することは容易ではない。10〜30%の誤りは必発するとされ、70%以上が適切な判断であれば適切なトリアージだったと評価される。なおトリアージの法的責任に関しては、その必要性・緊急性からトリアージ実施者の判断能力・結果については問われず、むしろ収集可能な情報に基づいて合理的なトリアージが行われたかが問題である。
優先順位:I>II>III>0
●標準化トリアージタッグの特徴
※もぎとり片の色の順番は外側から緑(III)、黄(II)、赤(I)、黒(0)とする。
●各トリアージ識別標識の長所、短所
長所:使用法が比較的簡便
長所:優先順位が変更しても折り直しができ、同一カードを使用できる。
また、もぎとり型、折りたたみ型は両方、ラベルをもぎ取ったり折りたたみを変えて、優先順位が故意にあるいは誤って変更されることがある。
長所:使用法が簡便
●ステップ1(呼吸の評価)
まず、負傷者に声をかけ身体を揺する。1)まず反応があるかどうかみる。2)反応がなければ気道を開放し呼吸の有無を調べる。3)気道開放の処置を2回繰り返し呼吸が認められなければ、不処置(死亡)群(0:黒)とする。4)浅表呼吸で毎分30回以上あるいは10回以下なら最優先治療群(I:赤)とする。4)毎分11〜29回の呼吸ならステップ2へ進む。
●ステップ2(循環の評価)
循環評価法として、Blanch test(capillary refilling time:毛細血管再充血時間)を用いる。5)Blanch testが2秒以上なら最優先治療群(I:赤)とする。6)2秒未満ならステップ3に進む。
●ステップ3(意識レベルの評価)
「目を開けてごらん」、「手を握りなさい」などの簡単な命令に反応するかどうかをみる。7)正確に反応しなければ最優先治療群(I:赤)とする。
●ステップ4
最優先治療群(I:赤)とならなかった群で、8)歩けない負傷者を非緊急治療群(II:黄)とする。
1人の負傷者に1分以内にトリアージを行うには、トリアージオフィサーをリーダーとする1チーム4,5名のチームで行うと良い。チームでは、トリアージタッグ記載担当、処置担当、他部署への連絡および画像記録担当など役割分担をはっきりさせることも重要である。
トリアージオフィサーは、負傷者数、救助人的資源、医療資源などの状況、搬送状況、災害地域内あるいは後方医療施設受け入れ態勢にも注意を払い、情報を収集し、状況に応じてトリアージ判定基準を変化していかねばならない。
●トリアージ実施の手順
1)トリアージに関する問題点
2)トリアージタッグの問題点
3)事故現場での問題点
4)黒判定のトリアージタッグの問題点
情報記載がなく、全く回収されなかった。もし現場の情報が記載されていたら自己分析だけでなく遺族にも重要な情報となったはずである。
5)課題
医療従事者、法医学関係者、警察関係者にトリアージタッグの意義と取扱い方法を再認識させることが課題である。
トリアージポストでの応急処置は気道・呼吸・循環に関した緊急処置(気道閉塞、緊張性気胸、大量出血などに対する呼吸管理、圧迫止血)に限って行う。脊髄損傷がある場合は脊椎固定処置を行い搬送する。
負傷者の病態は動的であるため、トリアージポスト内で繰り返しトリアージを行うことが必要となり、それを行うチームとして負傷者30名に対して2~3チームが必要だろう。このチームが下したトリアージ状況の情報は絶えず搬送トリアージオフィサーないし搬送トリアージチームに伝達されなければならない。
阪神・淡路大震災発生以降は、これまでほとんど顧みられることのなかった「災害医療」について真剣な議論がなされ、具体的な取り組みの必要性が認識されるようになった。そこで本稿では、個人の薬剤師が大規模災害のなかでどのような役割があるのか考える。
自然災害とは、具体的には、地震、津波、火山爆発、台風などの短期型災害と、洪水、疫病、干ばつなどの長期的災害があり、対応が異なってくる。比較的広い地域の災害であるから広域災害と捉えることができる。人為災害とは、事故、テロなどが該当し、局所災害ととることができる。
大規模災害時には、医療提供者自身も被災者・被害者となり、医療の需要と供給のバランスが著しく崩れている状態となる。
災害から72時間以内においては、被災地外の薬剤師がいかに早く被災地に入ることができるかが課題となる。被災地外から集積場所に到着した救援医薬品等の有効利用のため、集積場所における医薬品等の種類ごとの仕分けや管理を迅速かつ適切に行う体制を確保するとともに、ほかの集積場所および集積場所から救護所への配送など、医療チームなどでの活動があろう。
2日目から1週間では、薬品ニーズの調査、避難所へ医薬品の適正な分配、医療チームへの参加、避難所での薬品管理などが整い始め、さらに被災地外からの支援では薬剤師の派遣・医薬品の供与などがなされる。このように国内国外を問わず薬剤師には災害時に多くの活躍の場がある。そして、災害時の医薬品取り扱いマニュアルなどを作成し、全国の薬剤師が共通の意識をもてるようにしていく必要もある。
JR福知山線列車事故―消防の立場より
(松山雅洋、プレホスピタルMOOK 4 多数傷病者対応、永井書店、東京、2007、p.258-268)はじめに・事件概要
事件発生前の兵庫県の関係機関連帯状況
神戸市消防局の初動
救助活動
負傷者の医療機関への搬送
救急活動
などがあげられる。このように民間企業・救急隊・医療チームの連帯がうまく機能していた。瓦礫の下の医療
他機関連帯がスムーズのできた要因
があげられる。
があげられる。今後の課題
ブルーキャット(大規模災害対応救急隊)
災害現場トリア−ジ(上)
(切田 学、丸川征四郎・編著 経験から学ぶ大規模災害医療、大阪、永井書店、2007、p.131-140)1.トリアージとは
2.トリアージカテゴリー
第2順位:非緊急治療群(中等症群)II(黄色)
第3順位:軽処置群(保留群)III(緑色)
第4順位:不処置群(死亡群)0(黒色)
※判定者のメンタル的な負担を軽減する目的でもう1つのカテゴリー(灰色)を設けることもある3.トリアージタッグ
短所:負傷者の病態が改善すると交換が必要。また色分けが小さく、見づらい。
英国で使用されている。十字架形で、4つの色のついた十字の先を折りたたみ、最後に目的の優先順位の色をたたみこむ。
短所:透明ケースに入れる必要があり、手間がかかる。
幅広色つきテープ、色つきヒモ、蛍光ブレスレッド、色つき洗濯バサミなどがある。
短所:優先順位が変更になるとその都度交換しなければならない。4.トリアージタッグの問題点と対策
→色つき蛍光テープや色つきひも、マジックなどで代用する
→ビニールケースでカバーする、色つき蛍光テープで補足する
→ビニールケースでカバーする、色つき蛍光テープで補足する
→色つき蛍光テープを負傷者の目立つ所に付ける、色ごとにトリアージタッグの縁に細工(丸み、陥凹三角、突出三角の切り込みなど)をつけ触れることで判別する、蛍光ブレスレッドを使用する5.トリアージタッグのデジタル化
災害現場トリア−ジ(下)
(切田 学、丸川征四郎・編著 経験から学ぶ大規模災害医療、大阪、永井書店、2007、p.140-150)6.START方式によるトリアージ
7.トリアージオフィサー
8.JR福知山線列車事故時のトリアージ、トリアージタッグに関する問題点と課題
9.救出現場でのトリアージ
10.現場救護所(トリアージポスト) でのトリアージ
11.搬送トリアージ
12.JR福知山線列車事故での現場トリアージ活動の反省点
実際は2人1組になっていた。
トリアージタッグが濡れて、記載しづらかった。
野次馬が多く、取材用ヘリも飛んでいて立ち小便できない。
トリアージ活動を行っている写真が少ない。後で振り返れない。
どの車両で、どのように受傷したかを科学的に分析する手がかりが残されず、大きな課題となった。13.災害現場における一般市民のパワーをどう活かすか?
大規模災害時における薬剤師の役割
(西澤健司、薬事 48:21-26, 2006)■はじめに
■災害医療の理念
■災害発生時の経時的役割と課題
■災害時の体制の方向性
■新潟県中越地震での教訓
■国際緊急援助隊医療チームにおける薬剤師の業務
■全国の薬剤師が共通の意識を
■おわりに