災害医学・抄読会 090605

災害の定義、災害看護の定義と役割

(小原真理子、小原真理子ほか監修 災害看護、東京、南山堂、2007、p.38-42)


 世界各地を襲う自然災害、また各地で繰り返される紛争やテロ、感染症の蔓延そして貧困、人々の生命の危機や健康が脅かされるところでは、災害医療や災害看護の手が求められ、災害にどう対応するかが重要課題となっています。

 日本看護協会の定義によると、災害とは「自然災害や人災と呼ばれる、不測の時に、多くの人々の生命や健康が著しく脅かされる状況であり、地震や火災などによる一次的な被害だけでなく、二次的な生命・健康への脅威を含む」とされています。災害は多数の集団に被害の及ぶ集団災害であり、その規模や傷病者から通常の地域内の救急医療体制では対処できない場合がほとんどです。そういった災害時における看護とは、災害看護独自の知識や技術、他の専門分野との協力し、人々の生命や健康生活を災害から守るための看護活動のことを指し、刻々と変化する災害サイクルに対応して、身体面から精神面にわたる看護活動を行うこととされています。

 災害発生直後の看護活動は非常事態の中で行われ、看護の役割も平時とは異なります。その活動は非常事態と人的・物的資源が不足している混乱の中で行われるため、通常の看護活動とは異なります。またその活動内容は災害の種類と規模、災害の時期、活動場所により違いがあります。以下、災害サイクルの時期別に看護活動について説明します。

  まず急性期(発災直後〜48時間)では災害看護活動の場所として、医療機関、応急救護所、避難所、巡回診察の現場などが挙げられます。そして多くの専門職である医療職、消防、行政、救護ボランティアと協働する中で、生存者の救出とともに直接的な救命救急看護、遺体の処置、遺族に対するこころのケアなどを行う事が必要です。応急救護所においては、災害医療の3Tであるトリアージ(triage)、応急処置(treatment)、後方搬送(transportation)のスムーズな展開が重要で、臨機応変に判断し対応することが求められます。医療機関には負傷した多数の患者が駆けつけ、院内は混乱状態になることが予想されます。そのためには被災状況の情報収集、トリアージポストやトリアージ別の受け入れ場所と動線の決定、災害対策本部の立ち上げ、病院スタッフの配置と役割の明確化、外部との連絡体制など、災害時の初動体制を立ち上げることが重要です。トリアージによって患者の選別が行われ、応急処置が開始されます。また受け入れが困難であれば患者の後方支援病院や被災地域外病院への搬送も行われます。被災状況など災害対策本部からの情報収集はもちろんのこと、病棟内の人々の安否状態や損壊状況、応援の必要性などの情報発信も大切です。災害対応するには、平時からマニュアル化すると同時に、被災を想定した多数の患者の受け入れ訓練を行うことが重要です。

  亜急性期(〜1か月)では、救助された重症患者に集中治療が開始され、また避難生活には感染症対策などの環境整備やこころのケアなどが必要となります。病院では術後管理やクラッシュシンドローム(挫滅症候群)患者への透析対応など、災害に特有な外傷に対して処置を行った患者に看護を行います。また亜急性期はライフラインの断絶のため、衛生状態の悪化、被災者間の救護活動、避難所生活、将来への不安などで被災者は疲労しています。看護者は避難所や被災者の自宅訪問を行い、健康問題や生活状況などについて面談しながら、避難所全体のニーズアセスメントや被災者個々のニーズアセスメントを行った上で必要な心のケアや保健指導、感染症対策、被災者の状態に応じて病院や行政、ボランティアなどへの連絡を行います。また慢性疾患を持つ患者は、生活環境の変化や服薬不足のために急性増悪を起こしやすくなっていますので、服薬の再開のための医師の診察を受けられるようにすることが必要となります。被災者のこころのケアを組織的・継続的に展開する体制づくりもこの時期から開始されることが必要です。

 中長期(〜数か月〜数年)では被災者が復興していくために、こころのケアや健康生活および地域社会の立て直し支援活動など、精神面から物質面にわたる広い視点をもって活動することが重要です。

 静穏期においては突然やってくる災害に対応するために、人材育成のための災害看護教育や防災訓練、救護資機材や設備などの整備点検、災害発生時の緊急対応ネットワークの構築と確認、そして救援者のこころのケア訓練が求められます。


〜非常時:病院と患者とあなたを守るために〜
被害を受けたときにどう動くか!?

(福家伸夫、LiSA 15: 764-767, 2008)


序論

 医療機関において予想される災害、特に火災と地震への対応について考える。これらについて考えることは、頻度的、緊急性、応用性を考慮しても妥当である。

 被災部署としては、最も逃避能力が欠如している患者がいると思われる、手術室を想定する。

発災への対応

 災害(特に火災)が起きた場合、その発生を院内に通告することが重要である。

 安全マニュアルでは、指揮命令系統を明確にし、各人が自分の役割を理解し実行できるようにすべきである。消火器などはわかりやすい場所に備え付け、職員にその操作ができるよう訓練をしなければならない。

避難を考える

 避難路は適切に準備しておかなければならない。特に病院では、自力で脱出できない人、機械類をいくつも身につけたまま避難しなければならない人、酸素吸入しなければならない人等は、どれくらい発生するのか、どのようにして避難させるか、ということを建築設計の段階で考慮しなければならない。

 手術室の設計を取っても、出入口がひとつでは出入口に異変が生じたときに逃げられなくなる(A)。出入り口が複数あったとしても、同じ通路に面していては通路側から危険が迫った場合は非難に難渋する(B)。複数の通路への避難ができる設計が最も望ましいと言える(C)。


 また、手術室の移動手段は限られている。全身麻酔科で体位を固定した患者を避難させるのは時間がかかる。手術台に車が付いていれば、そのまま走行させることができる。人工呼吸が必要な患者には、バッグ・バルブ・マスクを用いる。移動用モニターは準備できるようなら装着するが、身体所見で評価できるよう、日頃から所見とモニターを比較して慣れておく。

どう動くのか

 人には逃げ遅れる心理特性がある。災害が発生しても、様子見で逃げなかったり、大丈夫だと根拠のない解釈をしてしまう習性がある(災害心理学者広瀬弘多忠の「正常化バイアス」)。

 災害時の行動計画の要点はCSCATTTである。

 指揮命令系統を統一し、安全を最優先事項とし、そのために情報収集と評価を行う、ということである。最後のTTTは「災害時の3つのT」と同様である。

Command 指揮命令系統
Safety 安全性
Communication 情報の伝達
Assessment 評価
Triage トリアージ
Treatment 治療
Transport 搬送

カルネアデスの舟板

 古代ギリシャの「カルネアデスの舟板Plank of Carneades」は、舟が難破して辛うじて人一人しか支えきれないような板にしがみついている時、もう一人の難破者が板を求めてきたときい、その人を追い払って最終的に溺死に至らしめることは許されるかどうか、という命題である。

 災害発生時、目の前に自力では逃げられない人がいて助けを求めている、しかしその人を助けようとすれば自分も生命を失う恐れが十分あるという状況で、自分だけが避難することは許されるだろうか。

 災害時では、一人を助けようとして救助者も共倒れになる事態は避けなければならない。原則としては、救命活動に従事できる人材を確保した方が、最終的により多くの人命を救えるという観点から、患者よりも医療スタッフの安全確保を優先させる。

人的余裕と時間的余裕で大きく変わるトリアージ

 非難にどれだけの時間的余裕があるかで指揮者の判断は変わる。

 どのような判断をしたにせよ、自分の信念を心理的に十分に正当化できない場合、道徳的パニックになるとされている。一人でも犠牲者が出ると、救助にあたった者は心理的苦悩が生じ、救助者も外傷後ストレス性障害(PTSD)に陥る。

 手術室やICUの患者は、被災時に自力では脱出できないし、避難に時間がかかるので対応手順を明確にし、指揮命令系統を確立しておくことが重要である。建築設計段階で考慮していくことも重要である。人的なものを含め、被害をどれだけ小さくできるかは、災害の規模と対応能力のバランスによって決定される。


東京DMAT

(佐々木 勝、プレホスピタルMOOK 4 多数傷病者対応、永井書店、東京、2007、p.225-236)


東京DMATとは

 簡単に言えば、東京都での、自然災害、人為的災害(NBCテロ)および大規模事故(電車の横転など)などで、被災現場に医療者を集中させたい時に、消防局と連携を取って、訓練を受けた医療者を被災現場へ派遣するシステムである。

出動・派遣体制

 チーム構成は原則的に医師1人、看護師2人、事務官1人を基本とした5人一組。東京DMAT指定病院17病院から各30人ずつの計510名が東京DMAT隊員となっている。

 実際の出動時では、まず、東京消防庁警防本部から指定病院にチーム派遣の要請を行い、東京消防庁のDMAT連携隊が出動。救急車もしくは消防車が指定病院でチームを拾って災害現場へ輸送、という形になる。

 現場では、消防の指揮本部の統制下に入り指示を受ける。

研修・訓練

 東京DMATでは、1日半コースでの研修を行っている。従来、日本DMATの研修と合同であったが、東京DMAT連携隊や指揮命令系統など、独自の事柄があるため、現在では東京都独自方式を採用して、別々に行っている。

 内容としては、準備、トリアージ、救護所内診療などの体験を第1日目に行ったあと、第2日目に野外実地訓練を行っている。

活動

 2004年8月から2年間で111件の出動要請があり、そのうち76件で出動受け入れ。(68.5%) また、実際に挿管などを現場で行ったのは44件。事故や火災などで出動している。

課題

  1. 隊員が実質的にボランティアという設定であるため、賃金の保証も、法的免責事項もない。とりあえず、東京DMATでは。損害賠償(死亡2億円)、医療過誤保険(1億円)を隊員にかけてる。

  2. 東京ではある程度確立されているが、現在日本レベルでの災害時のICS(Incident Command System)が確立されておらず、指揮系統が不明瞭。

  3. 連携の強化のための、独自の通信体系の必要性。

  4. 隊員の数を増やすとともに、質の保持・向上のための訓練が必要。

まとめ

 上記のように課題がまだまだ多く、NBC対策や新たな災害予想に対する対策も必要である。また、社会の変遷に追従する必要があるのだが、東京都国民保護計画も作成された中、東京DMATが今後どのような役割を担っていくか、という新たな問題も提起されている。


戦争現場での救済と医療

(白子隆志ほか、救急医療ジャーナル 17巻2号、p.52-59、2009)


1.災害における戦争の位置づけと国際人道法

災害・・・自然災害、人為災害、特殊災害に分類されることが多い。
 戦争は人為災害に分離され、国家間や国内の武力紛争ないし政治的要因により集団の死亡率が高まっている状態を「複合的緊急事態(complex emergency)」という。
 迅速、広域、かつ継続的な救援を必要とする。

2.国際赤十字・赤新月運動

 1863年赤十字国際委員会(ICRC)の前身である委員会が発足し1864年に
  1. 戦場の傷病者には敵味方の区別無く救護すること
  2. 救護団体を平時から各国に組織すること
  3. 国際的な条約を締結しておくこと(ジュネーブ条約)
がヨーロッパ16カ国で締結され、最初の赤十字期間である赤十字国際委員会が誕生した。現在世界にまたがる赤十字のネットワークと連携して、宗教や習慣を超えた医療教授、衣食住の支援などさまざまな国際活動を行っている。(図1)

3.スーダン紛争

 スーダン紛争にて、ICRCは1978年にスーダン代表部を開設し、1982年から戦争傷病者に対する医療・保健衛生活動、市民に対する水・衛生供給、市民解放援助、離散家族の援助、捕虜・紛争関係者の保護、国際紛争法普及などを行ってきた。(表1)また、1987年にケニヤ・ロキチョキオにICRCロピディン戦場外科病院を開設された。ここで働く国際派遣スタッフは、医師、看護師のみならず、検査技師、放射線技師、リハビリ装具技師、パイロット、電子通信機器技術者、建設技術者、刑務所訪問員など多岐にわたる。※ダルフール紛争(スーダン紛争)は、スーダン西部のダルフール地方で、2009年現在も進行中の紛争。特に近年のものはダルフール地方の反政府勢力の反乱を契機に、スーダン政府軍とスーダン政府に支援されたアラブ系の「ジャンジャウィード」と呼ばれる民兵の反撃が、地域の非アラブ系住民の大規模な虐殺や村落の破壊に発展したものである。

4.ICRC戦場外科医

 ロピディン戦場外科病院では年間4000例以上の手術が行われており、ICRC専用機によってスーダン各地から毎日空輸される傷病者は、空港から救急車、あるいは多数の場合にはトラックでロピディン戦場外科病院まで搬送される。救急外来部門でトリアージを行い、救急手術の適応症例以外は全例シャワーにて全身を戦場後、輸液を行い脱水の改善を図ると同時に、ICRCのプロトコールに従ってガス壊疽、破傷風を予防するために抗破傷風ヒト免疫グロブリン、破傷風トキソイド、抗生剤(ペニシリンG)を入院時に全症例に投与。

 外科チームは、外科医・麻酔科医・手術室看護師の3名で構成され、毎朝ICU患者、術後患者、前夜の入院患者を回診する。汚染・破壊を伴う創に対しては、汚染・壊死組織を切除するデブリドマンを行い、開放創のまま5日間観察したあとにDelayed Primary Closure(DPC)を行う。看護師長、麻酔科医、看護師、リハビリ技師、放射線技師、通訳を引きつれ検査予定、治療方針などを決めながら病棟をまわる。

 しかし、戦場外科ICUでは、人工呼吸器もモニターもないため人工呼吸器を必要とする患者は生存できないため、日本であれば医療資源を投入して救命できる症例も「自発呼吸ができるかどうか」というシンプルな基準で治療を中止するしかない実態もある。

5.海外派遣時のセキュリティ

 災害時に派遣される場合、もっとも重要なことは「自分を守る」ことである。
 「自分を守れない」=「仲間を危険にさらす」

 ICRCでは、危険地域での単独行動は禁止されており、常に無線機を携帯するとともに、車での移動時もラジオルーム(無線局)に現在地を定時連絡することが義務付けられている。ミッションでは予期せぬことがおこるのが当然であり、未然に防げない危険もあるが、「自ら身を守ること」が大事である。

6.国際救援に求められるもの

 国際救援をする者に求められる資質
  1. 国際救援に参加しようとする強い意思があり、国際チームで業務遂行できる語学力と協調性を有すること
  2. 心身健康であり、劣悪な生活環境にも耐えられる適応性、柔軟性があること
  3. 状況把握の能力、判断力があり、積極的であること
  4. 異文化に対し、正当に評価し敬意を払う姿勢があること

 当然最低限の語学力は大切であるが、国際人としての常識、協調性が何よりも重要である。日本ではどの職種も忙しい中で救援に派遣されている場合が多く、救援者の穴を埋めることが実は最大の難点である。派遣される側も留守中支援する側も、どちらも国際救援であることをお互いに理解しあうことが重要で、職場内でそのようなムードづくりをすることが必要と思われる。


PTSD発症の危険因子と対応

(有園博子ほか、丸川征四郎・編著 経験から学ぶ大規模災害医療、大阪、永井書店、2007、p.275- 285)


1.被災者のストレス反応とPTSD

 トラウマ反応は異常な状況に対する正常な反応である。災害直後には、一過性のストレス反応が生 じ、これには急性ストレス反応(acute stress reaction:ASR)、急性ストレス障害(acute stress disorder:ASD)、心的外傷後ストレス障害(posttraumatic stress disorder:PTSD)があり、発現時間と診断基準によって区分される。

1)災害の直後.・早期

A.トラウマ反応:危機的な出来事の体験直後には一過性の正常な反応として 1)身体変化、2)感情の変化、3)思考の変化、4)対人関係の変化、が生じることがある。

B.災害直後に見られる主な精神疾患:被災早期には一過性のストレス反応や身体症状の訴えが多いが、8〜9週目にはストレス関連障害とアルコール関連問題が出現してくる。

C.早期の介入:災害直後に心理的支援を行う際は、“こころのケア”を表面に出さず、何よりもまず「あなたは孤立していないんだ」というメッセージを伝えるとよい。心理的支援を受けさるためにはアウトリーチ活動が重要である。また、スティグマ(「弱い人間」の烙印)を与えないことも重要である。心理的応急処置には 1)初回接触、2)安全性と快適さの提供、3)情緒の安定化、4)情報収集、5)実際的な援助、6)社会的サポート資源への紹介、7)災害ストレス反応と対処方法についての情報提供、8)被災者の周りに理解者・援助者のネットワークをつくる、9)正確な情報提供、10)集団に対してのスクリーニングとその評価、11)敷居の低い相談活動、が挙げられる。

2)中・長期

A.災害後の精神健康への長期的な影響:避難生活が長期化した場合あるいは被害が甚大な場合は、長期的な精神的ケアの活動体制が必要。中・長期の時期にみられる疾患としては、うつ病、感情障害、恐怖症、PTSD、物質依存症などが挙げられ、PTSDでは併存疾患が多くみられる。

B.PTSD

  1. 診断基準:ICD-10とDSM-W-TRがあるが臨床研究ではDSM基準が多く用いられる。トラウマ体験を契機とし(A基準)、B(侵入症状、再体験)、C(回避、麻痺症状)、D(覚醒亢進症状)、の3徴候が存在し、1か月以上持続していることが必要条件である。

  2. 評価方法:自己記入式質問紙と構造化面接法とを組み合わせて症状評価を行う方法が推奨されている。

  3. 発症率と転帰:厚生労働省のガイドラインでは、災害後のPTSDハイリスク者を10〜20%としている。治療を受けた者は36か月で半数が寛解、治療を受けなかった者では64ヶ月で半数が寛解するが、72か月経つと両者の症状の寛解率は同じになり慢性的な経過をたどる可能性がある。

  4. 脆弱因子と防御因子:脆弱因子で明らかになったのは 1)出来事ストレッサーの程度、2)性、3)精神疾患の既往・家族歴、4)過去のトラウマ体験、5)トラウマ体験時の麻痺と解離状態、6)受傷後の自覚的な苦悩、7)死別体験の有無、などがあり、一方防御因子として、地域コミュニティからの社会的支援は明らかに発症抑制力を持つ。

C.中・長期の介入

  1. 自然回復への支援:自然回復を促進させるためには、あまりかわいそうと言い過ぎずに相手の自尊感情を支えること、そして適度な環境調整が重要である。

  2. 二次的ストレスの影響:中・長期では、復興過程で起こってくる二次的ストレスが精神健康度に影響を与え、さまざまな心理的問題を引き起こすことが多い。この時期のストレスの要因は 1)心的トラウマ、2)悲観、喪失、怒り、罪責、3)社会生活上の二次的ストレス、4)二次被害、である。

2.災害救助へのケア

 A.CIS:非常事態ストレス(Critical Incident Stress;CIS)とは、事故・災害時に救助活動を実施する人に特有のストレスのことである。救助者のPTSD発症に影響しているものには 1)当人の被災体験、2)悲惨な光景や場面への暴露、3)住民からの苦情や避難などによって喚起された自覚的苦悩、がある。救助者は援助業務を通して被害を受けやすいにもかかわらず、その職務特性上、自己の被災は後回しにするためのリスクが加わる。

 B.支援者の二次受傷:二次受傷は外傷体験の見聞で生じる被害者と同様の外傷性ストレス反応のことである。災害救助者や被災害救助者は、心的外傷(ASDやPTSD)の症状を最初に告げられる場合が多い。この人たちが、二次的被害者となる可能性が高いことを念頭に置く必要がある。

 C.対策:対策・予防としては 1)事前にCIS・二次的被害に関する知識をもっておく、2)情緒的および技術的なサポートを得られる状況をつくっておく、3)ローテーションを組むなどして過剰負担を避ける、4)ハイリスク者のスクリーニングとフォローアップ、がある。

 災害現場では、被災者およびその救助者がストレスを受けることが多い。支援者は被災者が感じ続けている苦悩に耳を傾け、そして関心を持ち続けることが必要である。 


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