災害医学・抄読会 071221

JR福知山線脱線事故における緊急医療班派遣報告

(長谷貴将ほか.日本集団災害医学会誌 12: 12-16, 2007)


【要旨】

 平成17年4月25日、9時18分頃に発生したJR 福知山線列車脱線事故において、済生会滋賀県病院は6名(医師3名、看護師1名、事務1名、運転手1名)からなる緊急医療班を派遣し、「瓦礫の下の医療(CSM:confined space medicine)」を中心とする現場活動を行ったことに対する報告。

【内容】

 9時18分に発生した事故に関する情報が、発生1時間20分後に厚生労働省より入電されたが、厚生労働省や滋賀県からの出動命令はなかった。災害現場は医療活動の需要は極めて高く、現場には数時間で往復できることなどの理由から病院から緊急医療班の派遣要請の出動許可を得た。

 12時10分に緊急車両にて赤色灯点灯、サイレンをならしながら病院を出発。13時00分、発生後3時間40分後に現場に到着。13時56分、救助隊よりドクターの要請をうけ、14時25分に車両ごと地下駐車場に落下した39歳男性を救出。左下肢を圧挫傷しており、輸液確保の上救出した。次に両下腿圧挫傷の20代妊婦をエコーによる胎児管理を行いながら第二車両から救出した。その後もCSMを続けながら、長時間に及ぶ治療展開が必要と判断し、チーム編成による治療戦略をとるために兵庫県医療センターと千里救命センターの3施設のDMAT(Disaster Medicine assistance Team)に召集をかけた。16時21分、第一車両内に入り4名の生存者に対する医療管理を開始。医師による死亡確認を次々に行うことにより救助の迅速化を図った。その後、兵庫県災害医療センターチームと大阪府立千里救命救急センターチームが到着し、3施設の医療チームでの交代制を確立し、長時間に耐えうる医療展開を行った。

【考察】

 阪神淡路大震災では建物の下敷きや火災等にうより、6434人におよぶ多くの犠牲者が出た。当時、災害発生初期の災害現場にトリアージや緊急支援医療を実施する医師の出動がなく、救助された重症患者に対してもへリコプター等による広範搬送体制がほとんど機能せず、青木によればいわゆる「防ぎうる災害死」が5411人の死者の13%に認められたと報告されている。防ぎうる災害死を現象するためにDMATチームや滋賀県の緊急医療班のような医療チームが災害現場に出動する医療救護活動が重要である。

 今回の列車事故では、現場救助隊との円滑な連携下に多施設の緊急医療班が協同してCSMを行ったことが特徴的であった。訓練を受けた医師が狭い空間(confined space)に入ることによって 1)死亡宣告による遺体搬出の迅速化と生存者への早期接触、2)生存者に対する輸液・酸素投与・精神的援助等の医療管理、3)傷病者のみならず消防職員の健康にも配慮、4)現場における救出直後の突然死の回避などに貢献できたと考えられる。

 今回、済生会滋賀県病院では、テレビ報道等の情報から身伊豆からの判断で緊急医療班の派遣を決め医療救護活動を実施し、救助隊の要請で偶然にも他施設と協同して4名の患者にたいしてCSMを実施し、4名全員を救助、救命した。

 今後CSMは、訓練された医療チームと消防救助隊との連携により災害現場で多く実施されていくと思われるが、その有用性と効果的な実施への提言を以下に挙げる。

  1. CSMを効果的に行うための、救助隊との合同訓練の実施。
  2. CSMを行うための、実施時の医療チームと救助隊との連絡方法の検討、取りまとめと周知。
  3. CXMに必要な医療機器、資器材の準備。
  4. 救急救命士だけでなく救助隊の医療知識の充実。
  5. 医療チームの指揮命令系統の確立。
  6. 取り残された傷病者の医療管理上、交代制の医療チームの編成。
  7. 大事故災害におけるわが国の厚生労働省DMAT活動との整合性。
  8. 今回の事故では妊婦に対する対応が含まれていたが、災害弱者にたいする対応の確立。

などが挙げられると考えられる。


トリア−ジ

(高野博子.EMERGENCY CARE 2007新春増刊 Page 152-157)


【トリアージの概念】

 トリアージとは限られた人的・物的資源の状況下で、最大多数の傷病者に最善の医療を施すため、傷病者の重症度や緊急度により治療優先度を決めることである。トリアージの原則は以下の通りである。

  1. トリアージは原則として傷病者全員に行う。
  2. 1人当たりのトリアージに要する時間は30秒以内
  3. トリアージの原則は生命>機能>美容の優先順位で行う。
  4. トリアージ時にはトリアージタッグを傷病者に付け、重症度を明確にする。
  5. トリアージは繰り返し行う。

【災害時のトリアージ】

 災害医療は多くの傷病者が搬送されてくる中、限られたマンパワーと限られた資器材によって救命処置が行われる。よって、トリアージには普遍性、重症者・軽症者を判断する際の正確性、短時間に多数の傷病者をトリアージする迅速性が必要とされる。現在、災害時のトリアージには傷病者の病態のみに注目したSTART(Simple Triage And Rapid Treatment)式トリアージが用いられる。トリアージを行った傷病者にはトリアージタッグが付けられ、このタッグにて一目で傷病者の重症度や緊急度が判別可能となる。

表1 トリアージのカテゴリー

優先度分類色別(区分)疾病状況および病態
第1順位緊急治療群赤(I)生命・四肢の危機的状態で直ちに処置が必要。
窒息、多量の出血、ショックの危険性が高い。
第2順位準緊急治療群
(待機的治療群)
黄(II) 2〜3時間処置を遅らせても悪化しない程度。
入院治療が必要だが、生命に危険性がなく、
バイタルサインが安定している状態。
第3順位軽症群
(保留群)
緑(III)軽度の外傷、通院治療が可能な程度。
専門治療を必要としない傷害者。
第4順位死亡・重篤群黒(IV)生命の兆候がない。


 START式トリアージの概要は以下の通りである。

  1. 歩行:可能→軽症(緑)
  2. 呼吸なし:気道確保しても呼吸が確認できない→死亡(救命不能)(黒)
    気道確保すれば呼吸が確認できる→緊急治療群(赤)
  3. 呼吸あり:30回/min以上、9回/min以下→緊急治療群(赤)
  4. 呼吸あり:10回/min以上、29回/min以下で橈骨動脈脈拍触知不能→緊急治療群(赤)
  5. 呼吸あり:10回/min以上、29回/min以下で橈骨動脈脈拍触知可能、命令反応なし →緊急治療群(赤)
     10回/min以上、29回/min以下で橈骨動脈脈拍触知可能、命令反応あり→準緊急治療群(黄)

【再トリアージの必要性】

 START式トリアージは多数傷病者をふるい分けるものである。そのため、一度トリアージされた後、救護所や搬送病院において再トリアージがなされる場合は、解剖学的・生理学的トリアージによって繰り返し実施されることが望ましい。再トリアージによってカテゴリー変更される場合は、古いタッグを付けたまま新しいタッグを重ねて付ける。


2004年新潟県中越地震―(3)2004年新潟県中越地震

(鈴木正司.臨床透析 22:1499-1504, 2006)


 2004年10月23日(土)、午後5時56分、新潟県中越地方にマグニチュード(M)6.8の大地震が発生した。新潟県中越地震は、地方の山間部に起きた直下型大地震で、頻回の大きな余震、多数の崖崩れ、道路や河川の被害が多いことが特徴である。地震当時、中越地方には14の透析施設があり、約1300人の透析患者が治療を受けていた。地震当日、筆者の診療所では透析施設に大きな被害はなかったため、透析が不能となった周辺施設への応援要請があった。今回筆者は支援の実際について述べている。

I.被害の概要

 透析不能となったのは震源地に近い3施設である(表1)。小千谷総合病院の95人は6日間、同院附属十日町診療所の115人は2日間、長岡中央綜合病院も126人は2日間、他施設に搬送され、血液透析を受けた。しかし、地震直後に透析患者4人が急性心筋梗塞や脳出血で亡くなり災害関連死と認定された。

U.長岡と地区での支援活動

 10月23日(土)22時頃、長岡中央綜合病院から透析支援の要請があった。筆者の施設に被害がないことを確認した後、長岡中央綜合病院へ行き、状況確認と支援の約束をした。

 10月24日(日)午前、小千谷総合病院の透析担当医と電話連絡ができ、被害状況や透析患者数の確認ができた。また、附属十日町診療所の状況も明らかになった。この時点で、3施設の約340人の透析治療を他施設で行う必要があると判明した。筆者の施設が中心になり患者の搬送先を決定することになった。

V.支援施設への割り振り

 患者割り振りの際、次の点に留意した。

  1. 患者数を正確に把握し、すべての患者に透析を提供する。
  2. 被災施設の透析担当医に割り振りを伝え、了解を得る。
  3. 被災施設の負担を少なくする。
  4. 支援施設の負担を考慮する。

 10月24日(日)14時頃、患者の割り振りが決定し、各施設へ連絡した。

W.十日町地区での支援活動

 同じ頃、十日町では市町村役場が中心となり、長野県、埼玉県での透析受け入れを確保していた。

V.新潟地区での支援活動

 新潟大学第2内科と信楽園病院には計16人が搬送され、入院治療を受けた。また、10月27日(水)からは、高齢で介護度の高い衰弱した患者11人が白根健生病院に入院し、透析治療を受けた。さらに、新潟大学、信楽園病院は被災施設、支援施設へ透析スタッフを派遣し、遠方から援助した。

VI.各施設での対応

 各施設の多くは透析スケジュールを2クールから3クールに増やし、時間を短縮して治療を行った。筆者の診療所を含め、支援施設は被災地内にあり、繰り返す余震の恐怖のなかで治療を継続した。肉体的、精神的につらい状況下での支援であったが県内外からのボランティアが駆けつけ、透析スタッフの負担を軽減した。

VII.行政の対応

 10月24日(日)、厚生労働省から人工透析の提供と医療の確保が県に指示された。今回の地震では透析治療についての対策本部設置はなかった。しかし、初期の段階で患者の搬送先が決定され、大きな混乱もなく、すべての患者に予定どおりの透析治療が提供できた。また、多数の協力により、幸いにも短期間で透析が再開された。しかし、災害の規模が大きく、長期化する場合には対策本部の設置が不可欠であり、行政との情報交換が必要である。

IX.まとめ

 中越地区の透析施設は普段から交流があり、一致団結し組織的に地震に対応することができた。大災害の対策として緊急時マニュアルの整備が大切であるが、平常時から連絡網を整え、コミュニケーションを深めておくことがマニュアルを活用する際に重要である。

 今回のような地方山間部の地震と都市型地震では被害の種類や程度が違うと考えられるが、中越地震の経験が全国の透析施設の防災対策に役立つことを期待する。


災害看護・医療に関する団体の活動

(菊池志津子ほか.インターナショナルナーシングレビュー 28: 107-112, 2005)


 以下、各団体を@会員数、A参加資格、B災害に関する主な活動内容、でまとめる。

<社団法人 日本看護協会>

(1)会員数:56万9,958人(2005年3月現在)

(2)参加資格:保健師、助産師、看護師、準看護師

(3)活動内容

  1. 災害発生時ネットワークシステム;被災地避難所等における看護活動で、被災地の県看護協会を通して行政からの依頼に応じ、ネットワークを通して支援ナースを募集し避難所等に派遣する。

  2. 義援金募集活動;国内外を問わず大規模災害発生時、被災住民や被災会員への支援活動を実施するため、義援金募集活動を行うことがある。

<日本災害看護協会>

(1)会員数:個人会員582名、組織会員70名、賛助会員4名の合計656名(2005年1月現在)

(2)参加資格:災害看護に関心のある個人

(3)活動内容

  1. 学術交流を目的とする年次大会の開催;災害看護に関連する研究活動の発表、情報交換の場として年1度開催

  2. 学術誌・ニュースレターの発行

  3. ネットワーク活動;災害発生時の看護ケアニーズに関する情報収集と分析のためにネットワーク活動を展開している。

  4. 「1.17メッセージ」の発信等の社会活動;阪神淡路大震災の被災者、看護師からの体験談を伝える。

  5. 災害看護学に関する教育・研修活動

  6. ホームページを利用した情報提供

<日本赤十字社>

(1)会員数:職員5万4,693人(2004年4月現在)、参加者はボランティアにつき不定

(2)参加資格:防災ボランティアとして個人登録した上で、平時から訓練や研修に参加して災害救護活動におけるノウハウを習得した者

(3)活動内容

  1. 医療救護

  2. 救護物資の配分

  3. 血液製剤の供給

  4. 義援金の受付、配布
    また、これと同時に、全国の赤十字病院では傷病者の受け入れ態勢を整える。

<国際緊急援助隊(JDR),または独立行政法人国際協力機構(JICA)>

(1)会員数:ボランティアにつき不定

(2)参加資格:ボランティアベースによる事前登録制度

(3)活動内容:海外の地域、特に開発途上地域における大規模な災害に対して、被災国または国際機関の要請に応じて国際緊急援助を実施する。国際緊急援助は人的援助、物的援助、資金援助の3つから成り、このうちJICAは人的援助と物的援助を担当している。人的援助は救助チーム・医療チーム・専門家チームから成り、災害の種類、被災国の要請に応じてチームを派遣する。物的援助は被災者の当面の生活を確保するためのテント、毛布、発電機などの緊急援助物質を給与する。

<特定非営利活動法人 アムダ(AMDA)>

(1)会員数:1,500名

(2)参加資格:看護職や医師、一般人

(3)活動内容:アジア、アフリカ、中南米14カ国で、災害などにより社会から取り残されている人々への医療救護と生活状態改善のための支援を実施している。

<特定非営利活動法人 国境なき医師団日本(MSF日本)>

(1)会員数:不明

(2)参加資格:A医師で、国内での書類選考、面接終了後にフランス、ベルギー、オランダ、スイス、スペインの5カ国の国境なき医師団に推薦され、登録・派遣される。

(3)活動内容

  1. 緊急援助;必要物質を送り、医師団を派遣する。
  2. 長期援助;緊急事態後の地域の医療環境を改善する。
  3. 証言活動;医療だけでは多くの命を救えない場合、厳しい現状を緩和するために被災者の話を聞き、その内容を世論に訴える。

<特定非営利活動法人 災害人道医療支援会>

(1)会員数:186人

(2)参加資格:資格なし

(3)活動内容

  1. 災害科学についての情報収集、研究開発、教育、出版活動を行う。

  2. 国内外の災害に対する医療支援を行う。

  3. 国内外の救援活動組織と共同した、国際的災害に人道救援医療活動を行う。

<特定非営利活動法人 日本災害医療支援機構(JVMAT)>

(1)会員数:500人

(2)参加資格:なし

(3)活動内容:

  1. (災害時) 関係医療機関、協力団体、登録メンバーに対する活動支援

  2. ( 同 )災害後72時間を中心とした救急医療活動に関する情報の収集と発信。

  3. (平常時) 防災訓練や災害発生直後の救急医療に関する調査研究活動、または災害医療活動支援に対する寄付の受け入れ。


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