災害は、「人間とそれを取り巻く環境の生態系の巨大な破壊によって生じた結果、重大かつ急激な発生のために被災地域がその対策に非常な努力を必要とするか、時には外部や国際的な援助を必要とするほどの大規模な非常事態」と定義されている。
自然災害の被害は、アジア、アフリカなど途上国の多い地域に集中する。これに、紛争、難民による被害を付け加えると、途上国の災害被害は甚大で、先進国において災害医療や緊急援助を考える際に、途上国における活動の重要性を認識することができる。自然災害は21世紀に地球の活動期に入ったといわれている。世界各地で地震、洪水、温暖化による異常気象などが、大きな被害をもたらしている。人類最大の死者を出したのは、2004年12月26日のスマトラ沖地震である。西アチェ県ムラボー沖150KmでM9.0の地震が発生した。この地震による津波はインド洋の諸国を襲い、約22万人余りの死者を出し、人類史上最大の災害をもたらした。筆者も派遣され9日で1436人の患者を診察したが、津波による外傷が多く、他には汚い海水を飲んだことによる呼吸不全、下痢、急性ストレス障害が見られた。津波によりアチェの26万人の人口のうち10万人以上が死亡した。
近年、災害が多様化してきている。その背景として、都市化と人口過密化、工場と地域の混在化、交通の過密化、交通の高速化と多数同乗化、地下の交通利用と商業化、建物の高層化などがあげられている。また被害の拡大の要因の第一としては、人口増加があげられる。共通した目的で100人以上の人員が、同一時間、同一地域に集合するものをMass gatheringと定義しているが、近年、このMass gatheringにおけるテロが問題となっている。ミュンヘンオリンピックやアトランタオリンピックで現実のものとなった。また、NBCといわれる、核、生物剤、化学剤によるテロの危険も、近年叫ばれている。2001年、フロリダで起きた炭ソ菌事件は生物剤の持つ潜在的脅威を世界中に知らしめ、わずか数gの粉末に世界中が戦慄し、一般市民は見えない恐怖に怯えた。NBC災害として、日本では1994年の松本サリン事件が有名である。オウム真理教によるテロであり、住宅地に流れたサリンにより7人が死亡した。翌年には東京地下鉄サリン事件も起こり、12人が死亡している。
2)日本
環太平洋地震帯に属する日本列島は地球上の15%の地震が発生するといわれている地震大国である。地震の防止や制御はできないが、地震災害による被害を極力減少させるためには防災関係機関の連携と継続的な努力、および耐震建築が必要である。
わずか数秒の間に、人命や財産を脅かすような環境破壊を生じ、平和な都会や町がたちまち崩れて破局をもたらすのが地震災害の特徴であり、多大な物的、人的被害を及ぼすことが多い。これは、地震発生に付随して、津波、火災、地滑りなどの二時災害を引き起こすためである。北海道南西沖地震を取り上げる。
1993年7月12日22時17分頃、北海道の南西沖で震源の深さ34Km、M7.8の地震が発生し、震源地の間近に位置した奥尻町を約5分後に大津波が襲った。地震、大津波、火事、山崩れの4つが重なり、死者230人を出した。また81人の重症者を出したが、全員津波による溺水であった。
1)自然災害
地殻変動や気象上の変化によって引き起こされるもので、地震、津波、火山噴火、台風、サイクロン、高潮、竜巻、強風、集中豪雨などの短期型と、洪水、干ばつなどの長期型に大別できる。自然災害の中で最も多いのは、洪水などの風水害によるものである。
また、災害をその影響が生じたり持続する期間によって、急性型と慢性型に分類することが可能である。
2)人為災害
人為災害としては、大型交通事故の頻度が比較的多く、工場爆発、化学物質漏洩、ガス爆発、放射線事故などがあり、局所災害として捉えることができる。また、大火災や民族紛争、人種間の武力衝突、内戦、国家間の戦争とそれに伴う難民の問題などがある。人道援助を行う救援団体にも攻撃の矛先が向けられたり、対立する勢力間で援助の綱引きが生じたり、社会のインフラストラクチャーの荒廃も加わって、医療を含む人道援助が極めて困難な状態がしばしば見られるようになってきた。このような災害を、complex humanitarian emergenciesと呼ぶ。
3)特殊災害
特殊災害には、本来、チェルノブイリ原子力発電所事故のような、局所的である人為災害が広域化したもの、重油流出事故のように、人為的災害でありながら広域災害化したもの、台風による豪雨と森林伐採による自然災害が相まって引き起こされた泥流災害のようなものが含まれる。
兵庫医科大学病院は地域の災害拠点病院で稼動病床数1034。看護師・看護助手・看護事務らあわせて879名。今回の災害事故の対応が比較的スムーズに進んだ理由の一つに、看護部長が副院長として院内権限を委ねられていることの強みを挙げた。
スタッフも何から手をつけていいのかわからなくてパニックになるようなことはなかった。普段から災害拠点病院ということで意識を高くもって、自ら動いた。一人ひとりがそういう動きができていたので、本当に混乱しなかった。
急性期の患者さんのメンタル的な危機、正常なストレス反応に関しては、看護師が介入することも可能だ。しかし、それが高じて死にたいとか自殺企図を思わせるような言動がある場合や、身体症状を伴う場合、異常なストレス反応なので精神科の専門職へ渡していく、そのボーダーラインをしっかりもっていることがクリティカル看護師の条件のひとつかもしれない。
天災や人災の災害現場で医療者ができることは何か。とくに看護師ならではの存在意義がそこにはあるはずだ。現に今回のJR事故では、看護師の働きを患者・家族はどれだけ心強く思い、支えられたことか。命を救うこと、つまり、人間一人ひとりの命と向き合って、その重みを改めて思った看護師たちが救命現場にあったことを知ってほしい。
■危険有害物質の特定
輸送中の化学物質の性質に関する情は、その輸送車両の危険表示板から得られる。この情報を消防司令室に伝える。危険表示板には、UKHIS 標識板やケムラー標識板といったものがある。2つに共通するのは、「製造物の国連番号」が記載されているという点である。これにより化学物質の性質を正確に特定し、応急処置
に関する情報を得られる。これらの情報は消防司令室から受け取る。
■中毒センター
中毒センターは、多数の化学傷病者に対応する病院に貴重な情報を提供することができ、化学物質の特定や解毒剤入手先の決定もしてくれる。
■現場での医療対応
医療指揮官は以下のことを確認する。
必要な防護服を着用していなければ、例外なく汚染地区に入ってはならない。傷病者は除染をうけ「非汚染」区域に移動した後に治療を受ける。このとき、緊急患者は除染を受ける前に治療を受けられるが、医療者が適切な防護服を着用している場合に限られる。
■病院での医療対応
病院でも除染装備、防護服、呼吸用保護具を使用する。そして、化学汚染評価チームを編成し、以下の任務を遂行する。
放射性線源があれば、現場に近づかずに、安全宣言がでるまで待機する。しかし、放射性線源に暴露されただけで汚染されていない被災者は救助者に危険を与えるものではないので治療する。相当量の放射性物質を摂取していない限り、その被災者から放射線は出ない。
汚染を受けた被災者は衣服を脱がせ洗浄する。モニタリング装置使用することができなければ、被災者は汚染されていると考えるべきであり、スタッフは防護服を着用していなければいけない。
病院では放射能汚染評価チームを編成し、以下の任務を遂行する。
├応急対応支援システム(EMS)
└→併せて[地震防災情報システム(DIS)]
・被害早期把握システム(H15:プロトタイプ運用開始)
昭和初期の建築基準…強度基準が低く、耐震性が弱い=補修必要
1995年3月20日、月曜日朝8時の通勤時間帯に、都内の営団地下鉄(当時)千代田線1編成、丸の内線
と日比谷線各2編成の計3路線5編成の列車内で、ほぼ同時にサリンが散布された。この犯行の結果、
約5500名の被害者が医療機関を受診した。死者は12名、傷害者は3795名を数え、そのうち1046名が
入院した。今回はこの事件が残した多くの教訓と課題を通して、化学兵器テロ災害における心のケ
アについて考えていきたい。
まず事件の被害者の心をケアしていくためには、急性中毒に特徴的な身体症状および神経精神症状
を理解しておく必要がある。サリンをはじめとした有機リン系農薬の急性中毒の症状には様々な身
体症状と神経精神症状とがある。その中で、心のケアをしていくために留意しておくべき点は、サ
リン中毒急性期に見られる不眠、不安、悪夢が心的外傷ストレス症状ではなく急性サリン中毒によ
る一過性せん妄状態である可能性が高いという点である。そう考えられる理由は、それらの神経精
神症状が睡眠障害と並行して改善しているためである。
次に、事件後の心的外傷性ストレス症状がどれくらいの割合で発生しているのかについて把握し
たい。まず早期の心的外傷性ストレス症状の割合を調べるため、大学病院などを受診した被害者を
対象として事件2ヶ月後と6ヵ月後に2回の質問紙調査を行い有効回答の得られた408名について分析
した。その結果、DSM-Wの診断基準を満たしたPTSD様障害群は全体で7.8%だった。また長期におけ
る心的外傷性ストレス症状の割合を調べるために、警視庁をはじめとしたいくつかの機関が調査を
行った。これらの調査結果をまとめると、事件5年後の時点における有訴率は再体験症状13〜26%、
回避症状13〜26%、地下鉄恐怖11〜25%となった。
実際にどのような心的外傷性ストレス症状がみられたのか、これらの調査を通して被害者の心理
状態を調べた。その結果、「生存者の罪責感」、「救助精神と二次汚染の恐怖との葛藤」、「地下
鉄恐怖」、「健康不安」の大きく4つの心理状態が被害者にみられた。
まず生存者の罪責感だが、これは災害や集団被害における生存者が犠牲者に対してしばしば抱く感
情である。この罪責感が被害者の自己価値感情を長く傷つけるのである。
2つめの救助精神と二次汚染の恐怖との葛藤とは、化学兵器としてのサリンの特徴ともいえる。す
なわち最初に被爆した者を救助しようとする者も二次的に汚染され、中毒に倒れる結果となる危険
がある。このように、二次汚染被害は救援者にも生命的脅威をもたらす心的外傷体験に繋がること
がある。また、このような事態は救助精神と二次汚染の恐怖との葛藤をしばしば生み出す。
3つめの地下鉄恐怖についてだが、これに関しては個人によって出現の程度は様々であった。例え
ば、事件後地下鉄はおろか電車に全く乗れなくなってしまった者、事件に遭遇した路線の地下鉄は
乗れない者などである。このように様々な回避の心理が現れた。
最後の健康不安についてだが、汚染災害では毒性物質暴露による実際上の健康被害を超えて、被災者の健康不安がしばしば必要以上に増殖してしまうことによる。そしてさらに、メディアやインターネット上で流布する様々な噂や科学的諸学説の情報などがそれに拍車をかける。このような健康不安をいたずらに増殖させないためには、リスクコミュニケーションがきわめて大事である。
これらのような心的外傷性ストレス症状が長期に続いたことを考えれば、症状が顕著な者は早い段階からPTSD治療に導入すべきだろう。その際には有効性のエビデンスに基づいた治療が提供されることが望ましい。ここで留意しておくべき点は、早期介入の目的は適切な情報提供と情緒的サポート、ならびにハイリスク者のスクリーニングとその後の適切なリファーを行うためのモニターと考えるべきだという点である。それは実際に事件1ヶ月後に行った1,2回のカウンセリングを通して得られた結果に基づいた考えである。
これらのことをまとめると、「急性中毒に特徴的な身体症状および神経精神症状の理解」「早期介入」「エビデンスに基づいたPTSD治療」「健康被害に関する適切なリスクコミュニケーション」の4つが化学兵器テロ災害に際しての心のケアのための留意点といえる。
以上のように、地下鉄サリン事件は災害後の心のケアについて多くの教訓を残した。しかしその全てが解決されたわけではない。その1つは被害者の心的外傷性ストレス症状が広範かつ長期に認められていたにも関わらず、組織だった継続的な心のケア対策はほとんど行われることのなかったことである。この点は、被害者の居住地が広域にわたる大規模交通災害に共通する問題点である。今後とも交通機関を舞台とした大型災害においては、心のケアを必要とする個々の被害者をどのように同定し、いかにして組織的系統的なメンタルヘルス活動を展開していくかが課題である。
JR西日本脱線事故被害者を受け入れた兵庫医科大学病院看護部
(永井祐子:看護教育 47巻2号 Page121-128, 2006)【背景】
【マネージメントナースが絶対必要】
【患者の心に向き合う】
【患者の心の怒り】
【患者の心頑張る=z
【退院に向けて】
【事故現場に急行した千鳥さんの話】
特殊災害
(小栗顕二ほか・監訳:大事故災害への医療対応、東京、永井書店、2005、p.191-197) 概要
1.化学物質の流出
―消防への通報
―現場付近から離れる
安全が確認されるまで汚染地区に立ち入らない2.放射性物質による汚染
3.多数の熱傷被災者
4.マスギャザリング
情報の統合一元化
(松島悠佐:大震災が遺したもの、東京、内外出版 2005、p.60-72)◎組織制度の設置
・震度6で自動的に内閣総理大臣官邸に関係省庁局長級幹部が参集
…内閣官房副長官、内閣官房副長官補、内閣危機管理官、内閣情報官、内閣府政策統括官(防災担当)、警察庁警備局長、防衛庁運用局長、海上保安庁警備救難監、気象庁次長、消防庁次長、その他
・地域被害早期評価システム(EES)による被害の推計
→初動の判断に資する情報体制
・各機関を連接する「中央防災無線」の充実、強化◎推定/概略情報の活用
・気象庁からの震度情報とあらかじめ全国各市町村に整備された被害規模の概要を把握するためのシステム
「建築物倒壊件数」「人的被害の状況」を約30分以内に推計
・H8から稼動。H11から「津波浸水域」も予測するように。
・医療機関、交通機関、道路等の防災関連施設の基礎データ
…人工衛星/航空機等で撮影した被災前後の画像データ比較
→コンピュータで比較/判読する。現在も開発中。◎蓄積情報、基礎情報の活用
→県や自治体の「被害見積」と「防災マップ」
「避難所の解説、避難経路/避難誘導措置」
…H16:新潟県中越地震の反省。実際の現場にどう生かすか。
→最近地震は無いが起こる可能性が高い地域
…土砂崩れや家や道路が流され、川が決壊しダム化した
< →基礎情報が生かされたとは言い難い。
→整備の遅れ(公的施設でも整備率2-3割)◎情報通信網の整備・強化
阪神大震災時…被害等でシステムダウン、通信不能になった。
H8:緊急連絡様回線、H10:首都圏衛星通信回線の整備。
→災害時、被災地に安否確認等の電話が集中するため容易に電話がつながらないこと。また、災害 により通信機器や通信回線自体が被災して通常の通信許容量より減少すること=輻輳。
…発生した場合、通信網の停止という最悪の事態を回避する目的で通信量の制限が設定され、一般の回線からの接続が制限される。
阪神大震災時…首都圏にしか存在しなかった。
H8:装備の購入、拡充を始める。
H13:全国の方面隊に装備、運用される。
→距離/地域的制約…自衛隊と警察消防の連携、相互補完が大事◎地方公共団体での防災無線網の整備/強化
・兵庫県にあった衛星通信防災無線は種々のトラブルで機能せず。
・神戸市近隣の消防局が応援に来たが、共通無線周波数が一波しかなかったために相互連携が取れなかった。
→H7:消防庁の通知で全国共通波を整備、広域支援体制の強化総括
→インフラ基盤をどう使いこなすか。
「平素から情報管理に関する正しい認識の下で地道な訓練を」
→各省庁…次官や官房長官 →地方公共団体…副知事や助役
「情報はそれ自体に主体的な意味があるわけで無く、正しい判断を行い、実行を誤らないようにする為に必要な要素である」
・土曜夕刻で自治体の態勢が手薄 ・日没後の停電。
・被災地が山岳部で道路が分断。 「状況不明が緊急事態の常」
地下鉄サリン事件被害者の心のケア
(飛鳥井望:精神医学 48巻3号 Page287-293, 2006)