我が国の災害医療のこれまで―災害医療を災害別に見て

原口義座ほか:救急医療ジャーナル 14(5): 52-56, 2006


はじめに

 災害の原因にはさまざまなものがあるが、それらは単独で起こるよりも、それに伴う二次災害などが複雑に絡み合っていることが多い。今回は比較的最近の災害を中心に、それらの特徴と災害医療体制がどうであったかを見ていく。

1.地震災害

<特徴>

<医療面>

2.津波災害

<特徴>

<医療面>

3.風水害

<特徴>

<医療面>

4.原子力災害

<特徴>

<医療面>

5.大規模テロ災害

<特徴>

<医療面>

6.毒ガス・中毒災害

<特徴>

7.感染症災害

<特徴>

<医療面>

まとめ

 災害の全体像を知ること、そしてそれらの災害の共通点や特殊性を知ることは適切な災害医療体制を整えるのに必要である。共通点に関しては、一定程度の準備を整えることによって多くの災害に対して効率のよい対応が期待できるだろう。たとえば、災害弱者の問題、建築物の脆弱性、一般市民への教育などが挙げられる。

 医療面での効率的な対応のひとつとして、組織的・統一的にトリアージを実施しなければいけない。トリアージが実施されないと、必要な患者に必要な医療を供給する作業(すなわち効率)が著しく低下する。現在のトリアージの問題点として、1)多数患者発生時のトリアージ集計結果の全体像が不明確なため、医療資源の有効利用・割当に障害となる点、2)搬送先。転送医療施設等が不明なため、各患者・家族がばらばらになる危険性、患者の取り違えの危険がある点、3)トリアージの基準、権限・責任の問題、などがあげられる。


災害サイクルと看護の役割

弘中陽子:インターナショナルナーシングレビュー 28: 45-49, 2005


【災害サイクルとは】

 災害が発生してからの時間的経過を災害サイクルという。地震、津波、台風による自然災害の場合、その経過には重大な類似点がある。災害サイクルを発生から 1)急性期、2)亜急性期、3)慢性期・復旧復興期、4)静穏期、5)前兆期に分け、各時期に適切な医療・看護活動を行うことにより、災害直後からの限られた人的・物質的資源の中で最大限の効果が発揮できる。

【急性期:災害が発生した直後から1週間】

 大災害の場合において、12時間以内に救助を行い、24時間以内に救命手術など治療を開始することで多くの人命の救助が期待される。災害医療では、多くの傷病者および地域全体を対象として活動をすることが必要となってくるため、看護師の役割も自ずと広がってくることになる。

1)発災から48時間

  1. 災害に関する情報を収集し関係者と協議する。特に病院の場合、入院患者の安全の確保のために速やかに非難活動を行う。
  2. 病院での継続医療が可能であれば、資器材の準備と活動の場(災害対策本部、トリアージエリア、診察室、処置室、臨時薬局、遺体安置所等)を設営する。
  3. 応急救護所の開設
  4. ひとりでも多くの命を救うために、訓練を受けた看護師がトリアージを行う。
  5. 応急処置と負債者の誘導を行う。
  6. 重症患者の搬送準備をする。
  7. 負傷者の継続観察を行う。
  8. マスコミ対応をする。

2)48時間から1週間

 発災後48時間を経過すると被災地外から救援の医療チームが派遣される。多くの救援チームが活動を同時に開始しようとするため、被災地の情報が一番混乱する時期である。

  1. 病院に収容している負債者・入院患者に対する継続看護
  2. 遅救出患者の収容・治療
  3. 軽症患者の外来治療
  4. 重傷者の後方搬送
  5. 避難所の巡回診療・救護所での継続活動
  6. 医療以外にも目を向けて、生活の視点で援助を行う。
  7. 人員・活動期間の調整を行う。
  8. 被災者や他県から派遣の医療チーム・ボランティアとのよい人間関係を保ち、人や場の調整、管理を行う。
  9. 精神的支援を行う。

3)後方支援活動

 被災地近隣の被害を受けていない病院や、ヘリコプターにより搬送受け入れ可能な病院は、入院患者の受け入れの準備や、受け入れが可能であるという情報発信をしていく。

4)看護師である前に一人の人間として

 重要なのはまず、自己の安全確保、家族の安全確保・安否確認、近隣の地域住民の助け合いである。看護師は、事故の被災状況よりもケアや救助に目を向けるように日常的に訓練されている。そのため、自分が被災者であること、看護師としての使命感を持つことでさまざまな葛藤やストレスを感じ、心身ともに影響を及ぼしてしまいやすい。だが、特に自己の安全・家族の安全確保ができていなければ、看護活動より自己・家族の安全確保を優先する必要がある。

【亜急性期:災害発生から2〜3週間】

 この時期病院では、救助された重症患者に対して集中治療が行われる。術後管理、集団感染、栄養障害、慢性疾患の急性増悪、急性のストレス障害を起こしやすい状況である。

1)病院看護師の役割

  1. 創傷の管理:術後管理を含む
  2. 衛生環境の調整:限られた水を使用してのトイレの使い方の指導
  3. 感染予防対策:うがい、手洗いの励行。冬は乾燥予防対策
  4. 精神的援助:被災者の話を傾聴する。生活・食事についてのアドバイス
  5. マンパワーの確保:外部ボランティアの受け入れ・活動に対してのサポート
  6. 勤務シフトの調整
  7. 看護師及び他の病院スタッフへの健康管理面の配慮:精神的なサポートも含む。

2)避難所の場合

  1. 感染症への対策・対応:集団で限られた室内で生活を共にするため、集団感染を引き起こしやすいため、予防対策が必要である。
  2. 災害時に支援を要する人への配慮:救護所で待っているだけではなく、避難所外への巡回診療活動も必要
  3. 慢性疾患患者への対応:生活・食事指導
  4. 傾聴:急性ストレス障害への対応
  5. 生活の援助:生活支援に対しての相談、相談窓口の紹介
  6. 安全面での配慮:避難経路の確保
  7. 医療チームの連携:医療チームの連携や調整が必要
  8. 避難所自治組織との連携:特に被災地外から支援活動に参加する場合は、現地の文化・習慣を尊重して活動していかなければならない。
  9. 子どもへの対応:遊びを通して(絵を描いたり地震の時のごっこ遊びをしたり、ダンボールの家をつぶすなどの行為をすることで)、地震を抽象的に再体験でき、その中で何が起こったのかということを整理し、感情を表出させることが可能である。このため、子どもにとっての遊び場をつくり、安心して遊ぶことのできる環境を整えていくことも重要である。

【慢性期・復旧復興期:2〜3ヶ月から2〜3年目の時期】

 避難所から自宅に戻ったり、仮設住宅や復興住宅へ移動していったりする時期

1)病院の場合

  1. 復旧を行うときには二次災害の危険性がある。二次災害の被災者に対しては、通常の医療体制に近い状況で治療・看護を提供する。
  2. 職員の健康管理においては、災害発生後のお互いの苦労をねぎらうことが大切である。災害時の苦労を分かち合い、自分のことをわかってもらえる人をつくる。必要であれば、2〜3日でも被災地を離れてゆっくりとリラックスできる環境をつくる。
  3. 自然災害に対する病院の防災対策に生かすために、災害発生時の病院の被災状況・活動に対する評価を行う。

2)避難所・仮設住宅・復興住宅の支援

  1. 病気の悪化、生活の苦悩からのアルコール依存、心的外傷後ストレス障害(PTSD)などにより、社会生活が困難となる状況がある。そのような状況にならないためにも、看護師や保健師の巡回訪問による傾聴や生活のアドバイス、時にはカウンセリングや精神専門医紹介が必要である。
  2. ひとり暮らしの高齢者の孤独死を防止する。仮設住宅や復興住宅に移るときはコミュニティごとの仮設住宅・復興住宅が理想である。
  3. 高齢者・障害者を寝たきりにしない。
  4. 仮設住宅・復興住宅を住みよい生活の場とするために、コミュニティ作成の手伝いをする。

【静穏期:災害の備えをしていく重要な時期】

 災害に対して、どれだけ準備ができているかが、災害が起きたときの被害の程度を大きく左右する。病院で働く看護師の立場と、一市民の立場からの防災対策が必要となってくる。

1)静穏期の病院における看護師の役割

  1. 病院防災マニュアルの作成・訓練:作成したマニュアルを元に病院の全職員がマニュアルを見なくても活動できるように訓練を行っておく。
  2. 病院内のハザードマップ(脆弱な部分の抽出)
  3. 災害対策医療資器材の開発・備蓄
  4. 災害医療・災害看護教育

2)静穏期の一市民として防災対策

  1. 自宅の防災マニュアルの作成:特に地震後数時間たってから発生する津波に対しては、どこに逃げるかによって命が助かるかどうかが左右される。自宅や勤務先の立地や、どこに避難するかを予め確かめておく。
  2. 自宅の地震対策:建物や家具・食器棚・本棚等の固定をする。自宅の建物診断は定期的に受けておく。
  3. 3日間の飲料水と食料の確保:災害が発生してから外部の支援が入ってくるまでに2〜3日かかる。最低でも一人当たり3日間の食料と水は確保しておくことが必要である。
  4. 自主防災組織・防災訓練への参加:災害時は「自分たちの地域は自分たちで守る」の精神で地域住民が協力し合い、人命を守ることが基本である。日ごろからお互いに声をかけ合い、隣近所に一人暮らしの人や寝たきりのお年寄り、体の不自由な人がいる場合には、災害時における安否調査の担当を決めておく。
  5. 救急法の訓練:災害時に負傷した地域住民に対し応急処置ができるように、日ごろの防災訓練を通して地域の方々を対象に正しい簡単な傷の手当の方法を指導していく。
  6. 実例(東京都武蔵野市境南町):自主防災組織の境南町防災懇談会が中心となって、年に3回定期的に防災訓練を行っている。2003年より年に1回、避難所となる小学校の体育館において、避難所を想定した宿泊訓練・救急法の訓練を行っている。対象者は小学生から高齢者までで、大人だけを対称にするのではなく地域全体を巻き込み、小さいころから自然に防災活動が身につけられるような援助も必要である。

【前兆期】

 地震に引き続いて起きる津波災害、台風災害時の大雨警報などが発令される時期に相当する。安全なところに非難するための情報や、救援物資、被災地域の情報を収集し、援助の要請に対して、受け入れ態勢を整えておくことが必要である。


神戸大学病院

中山伸一:立道 清・編、検証 そのとき医師たちになにができたか、清文社、大阪、1996、p.84-95


 阪神・淡路大震災の被災地に位置した神戸大学附属病院において、地震発生当日(平成7年1月17日)から7日間に行った救急診療対応についての報告である。

<病院の被災状況>

 建物はひび割れ多数であったが倒壊はまぬがれ、入院患者の負傷もなかった。X線単純撮影装置とCT装置は大きな損傷なく稼動可能で、緊急用のドライケミストリーによる血液生化学検査一式が測定可能であった。

 ライフラインの途絶状況は以下のとおりである。

<神戸大学附属病院救急部の構成>

 固定メンバーは部長、副部長の2名。他は医員、研修医はローテーションであり、総勢約20名で組織される。地震発生は休日の翌早朝であったため、6名(外科系医員1名、内科系医員1名、研修医4名)が休日当直勤務についていた。地震発生後、午前6時過ぎより外傷患者やいわゆるDead on Arrival(DOA)が殺到しはじめ、駆けつけた医師、看護師、技師や院内各病棟の当直医、研修医に応援を依頼して治療を開始した。

<震災時救急診療体制の概要>

 救急部が中心となって指揮をとりながら、Triage・Treatment・Transport・Transferの4Tを主眼に置き、以下のような対応を行った。

<救急診療状況の概要>

 震災当日(1月17日)の診療患者は363名、うちDOA 29名、入院患者113名であった。7日間の診療患者数は1168名、うちDOA 41名、入院患者191名、手術10件、入院後死亡11名であった。

 震災当日と翌日に搬送されたDOA患者の総数は31例あり、その死因は外傷性クモ膜下出血、脳内出血が12例、頸髄損傷10例、胸部外傷4例、窒息4例、外傷性クモ膜下出血と胸部内臓損傷の合併が1例の順で、全例胸部より頭側の外傷であった。

 7日間の入院患者191名は、外傷131例(68.6%)、疾病60例(31.4%)であった。外傷131例の内訳を見ると、単発の外傷では四肢38例(29%)、頭部23例(17.6%)、骨盤・腰部19例(14.6%)、脊椎骨折ないし損傷12例(9.1%)の順で、胸部、腹部単独の外傷は少なかった。2部位以上にわたる多発外傷例は24例(18.3%)であった。

<挫滅症候群>

 外傷患者中なんらかの筋挫滅が疑われた症例が少なくとも70例あり、このうちCreatinin>2.0mg/dl, CPK>1000 IU/Lであった32例を挫滅症候群と診断し治療を実施した。受傷部位として四肢11例、骨盤・腰部4例、その合併例6例などが多く、主に下半身の圧挫すなわち骨盤骨折と四肢の圧挫滅を有する例が29例と大部分を占めた。輸液療法を中心とした保存的治療と全身管理を全例に施行し、重症の13例に対し血液濾過透析を施行した。この際、血液濾過ポンプ数に限界があり、一部CAVHにて対処した。このうち死亡例2例を除く11例を転送したが、転院後2例が死亡した。保存的治療症例19例のうち15例は軽快し、4例が死亡した。転送は全体で18例に行い、このうち死亡は血液濾過を行っていた2例であった。全体で見ると32例中24例を救命し、死亡は8例(25%)であった。

<反省と課題>

 今回ほどの大きな災害に対するマニュアルは作成してなかったが、震災被災地の最前線に位置した病院として、災害時救急医療の肝要な点である4T、すなわちTriage・Treatment・Transport・Transferについて、各診療科の協力や震災地外の病院の支援を得ながら、ほぼ支障なく機能を果たし得たと考える。その大きな原動力となったのはやはり大学病院ならではの医師を中心としたマンパワーの動員が得られたことであり、その総括指揮に救急部があったからこそ可能であったと分析する。

 反省と課題としては、1)情報収集の不足、2)救急隊、前線病院、後方病院との情報の交換、伝達の不足、3)病院外への積極的な医師の派遣と遅れ、4)病院群の構成員としての有機的な働きの欠如、が挙げられる。これらの問題点をせんじ詰めれば、このような大災害時にいかにコミュニケーションをとるかということになろう。災害時における病院、救急隊、行政相互のコミュニケーションについての方法論を再検討することが今後の課題であり、そのためのシステムをつくる基礎はやはり平時の救急医療体制の充実にあると考える。普段からのよりよいコミュニケーションをはかることにより、災害医療システムを構築すべく努力が必要である。


初期被ばく医療機関の準備および傷病者の収容

原子力安全協会:緊急被ばく医療初動対応の手引き、p.13-19、2006)


初期被ばく医療機関の準備および傷病者の収容

 スムーズな受け入れと救命処置、および二次被ばく医療機関へ転送すべき傷病者の選定、転院搬送の手配、家族、報道関係者への対応が重要な使命である。

【情報収集と準備】

  1. 傷病者、放射線物質汚染の情報を得る。情報が得られない場合は汚染拡大防止のための準備をする。
  2. 原子力事務所から情報を得る際、放射線管理要員の同行を強く要請する。万一出来ない場合を想定して診療放射線技師にも協力依頼する。
  3. ヘリコプターによる傷病者の搬送、スタッフの派遣を適宜要請する。

【対応】

  1. 生命危機の傷病者の治療は汚染拡大防止措置に優先する。

    • 医療処置におけるスタッフへの二次被ばくは軽微

    • 医療スタッフの防護装備
      1. アラーム付き個人線量計
      2. 手袋2枚着用、1枚目の辺縁をテープで固定
      3. シューズカバーの開口部もテープで固定

  2. 二次被ばく医療機関へ転送させるべき傷病者を選定する。
    1. 全身高線量被ばく
       1)1時間以内の嘔気、嘔吐 2)24時間以内にリンパ球が50%以下に減少
    2. 放射性物質による内部汚染がある(放射線管理要員の判断)
    3. 放射線物質による体表面汚染が初期被ばく医療機関で除去不可
    4. 重篤な外傷、中毒、急病

  3. 個別傷病者連絡票の作成

     各傷病者の情報が全ての医療機関で統一した様式で行われることが望ましい。この連絡票は二次被ばく医療機関とのスムーズな連携、他機関との情報交換に役立つ。

  4. 家族への対応

     多数の傷病者の発生時には混乱が予想され、正確な情報を得てからの対応が望ましい。家族の心理面を考慮すると、専用の控え室、家族対応の看護師の対応が期待される。

  5. 報道関係者への対応

     予め担当者、控え室(会見会場)などを決めておくことが大切。プライバシー保護の観点から撮影、インタビュー等の制限についての検討、準備が必要。

二次被ばく医療機関への搬送

 初期被ばく医療機関への応援医師派遣や二次被ばく医療機関への転院搬送はヘリコプターの利用を考慮し、早急な対応を心がける。

【二次被ばく医療機関への搬送手段】

 二次被ばく医療機関への搬送手段としては、救急車およびヘリコプターが考えられる。

【ヘリコプターを利用する主な理由】

  1. 初期被ばく医療機関が二次被ばく医療機関から遠い場合が多く、搬送に時間を要す。
  2. 傷病者が多数の場合、救急車が不足し、転院搬送のための救急車の確保が困難になる。
  3. ヘリであれば往路に応援医師の派遣が可能であり、復路に応援医師が傷病者とともに同乗できるため、初期被ばく医療機関の医師が同乗しなくてすむ。
    1. 初期被ばく医療機関への積極的な応援医師、看護師の派遣
    2. 空路の転院搬送
      • ヘリ搬送時の注意点(気管挿管チューブカフの量、腸閉塞、気胸、気脳症等)
      • ヘリチームが必要とする情報収集

【出動前の汚染拡大防止措置】

  1. ヘリコプターの養生(時間を要すため、傷病者搬送用シート等で包む方法が現実的)
  2. 防護服などの着用
  3. 個人線量計のアラーム設定の確認
  4. 汚染傷病者搬送時の必要資機材

【機内への収納時の対応】

  1. 傷病者情報の確認
  2. 医師または看護しおよび放射線管理要因の同乗
  3. 搬送中の放射線防護と汚染管理

【空路搬送後の対応】

  1. ヘリ隊員の汚染検査
  2. ヘリ隊員の身体汚染発生時の措置
  3. 個人線量計の数値の確認
  4. 機内および機材の汚染検査およびその措置(救急車に準ずる)


国際救急医療

冨岡譲二:救急・集中治療 13: e54-57, 2001


 最近、世界各地でおこる災害、紛争において各国から被災地に対して援助の手がさしのべられるようになってきた。こういった援助を行う機関は政府組織(GO)と非政府組織(NGO)に分けられる。日本のGOでは自然災害に対する公的援助(ODA)を行う組織が国際緊急援助隊(JDR)でその中でとくに医療貢献を行うのが国際救急医療チーム(JMTDR)である。わが国のODAは特殊法人である国際協力事業団(JICA)をその実行主体機関としておりその中にJDR、JMTDRは事務局をおいている。

 わが国のGOという形で国際緊急援助活動を行ったのは1979年のカンボジア難民救済事業が初めてで、3年後にはJICAの中にJMTDRが組織され、以後日本の国際災害救援は、JMTDRが派遣されるようになった。JMTDRは医療支援を中心としていたが災害救援には捜索と救助、ロジスティックス、学術的調査なども不可欠であることが明らかになり1987年にこれらを統合した組織としてJDRが発足した。JDRには救助チーム、専門家チーム、医療援助を行うJMTDRと三つのチームが存在する。このなかで救助チームは警察庁・消防庁・海上保安庁・防衛庁から、専門家チームは関係各省や研究機関からそのつど人材が派遣されているがJMTDRは事前の登録制となっている。登録は医師・看護士・医療調整員の3分野に別れており一回に派遣されるのは医師3名、看護士6名、医療調整員3名の計12人が原則である。活動期間は出発から帰国までが2週間と決められている。

 このように始まったわが国の国際救急援助は現在では自然災害のみが対象とされており、難民支援や紛争地域への公的支援は行われていない。このような戦乱にかかわる地域の公的支援はNGOとの連携という形で行われてはいるが最近では複合災害の増加などで現在のJDRの枠組みでは適切な対処ができない事態が増えてきている。2001年の米国同時多発テロでは被災者支援という名目でJDRを招集したが合衆国政府の要請がなかったため派遣は見送りとなった。今後日本政府がどのようにGOを運営していくかは大きな課題である。

 NGOの運営は民間でおこなわれているが公的な資金援助をうけていたりGO組織と連携して活動したりしている。国境なき医師団(MSF)は1971年にフランスで設立され看護婦、助産婦、技術者、物資調達委員など各種職員のボランティアが年間3000人、世界80カ国で活動している。現在40カ国以上からボランティアが派遣されているがフランス、ベルギー、オランダ、スイス、スペインの5カ国が医師団を編成し医療援助プログラムを計画する組織をもっている。本部は存在せずそれぞれが独立して行う緩やかなネットワークを形成している。アムダは1979年1人の日本人医師と2人の医学生がカンボジア難民救済に駆けつけたが現地で全く歓迎されなく、このときの反省から現地での医療従事者事前に連絡をとりあうことが重要だと認識され1984年に結成された。現在では世界最大規模のNGOの一つであり医療分野のみならず非医療分野にも活動を広げている。

 現在の国際緊急援助ではNGO間、GOとの連携が広がっておりジャパンプラットホームはその代表格である。これはNGO、経済界、政府が対等に三社一体となりそれぞれの特性・資源をいかし、協力・連携して迅速かつ効率的に救済活動を行うためのシステムである。この組織の緊急支援の対象として想定されているのは難民支援、紛争下の被災者支援、大規模自然災害である。現在このジャパンプラットホームには17のNGOが参加している。

 国際赤十字とは赤十字国際委員会、国際赤十字・赤新月社連盟、各国の赤十字社・赤新月社の三つを総称した言い方である。赤十字国際委員会は主に戦争および紛争地域での医療援助、食料援助などの救援活動を行っている。財政は各国政府、寄付金によって支えられている。国際赤十字・赤新月社連盟は災害の救援や発展途上国などの健康増進や疫病予防などの活動をおこなっている。

 赤十字は1859年スイス人のジャン・アンリー・デュナンがイタリア統一戦争にて国際的救護団体の創設を訴えたことがきっかけとなり誕生した。1863年には16カ国が参加して国際会議が行われ赤十字規約が、翌年にはジュネーブ条約が調印された。回宗国ではクロスマークを嫌うため三日月のマークの赤新月社が活動することになった。戦争における救援だけでなく平時にも健康の増進、疫病予防などのため1919年にパリで各国赤十字社の国際的連合として赤十字社連盟が設立され、その後1986年に国際赤十字・赤新月社連盟と名称を変更している。

 国際機関の中で人道支援を行っている組織がありWHO、UNOCHA、UNHCRなどが代表でありこれらは国際連合に属している。これらの機関はGO、NGO組織を統括して活動の調整を行ったり計画を作成するといった活動をしている。WHOは非戦闘地域での保険活動、UNHCRは難民支援、UNOCHAは災害時などの人道支援の調整を行っている。


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