また、各評価尺度の評価要素は、阪神・淡路大震災時の応急対応行動を参照し選定した。
そして、アンケート調査で得られたデータをもとに3評価軸に関する各4評価尺度の計測について、上記の評価要素によって以下のように点数化する形で定式化した。
総合評価をするには各尺度を足し合わせるだけでは、重複や重要度の重みを無視することになる。そこで、重複を排除し、重要度を考慮した総合特性値に集約する必要がある。そこで、12尺度の計測値の主成分を3つにわけて新たな合成尺度を作った。
第一主成分は総合的な防災能力で、計画能力のウェイトが高く、資機材や情報の設備などハードな設備のウェイトは低い。第二主成分は構造的能力-非構造的能力軸で、ハード面のウェイトが高く、計画能力や防災教育などのソフト面はウェイトが低い。第三主成分は日常災害防備能力-突発災害防備能力軸で、資機材準備や情報態勢、防備体制がプラスで、逆に耐震・耐火設備、防災訓練・教育はマイナスである。
計算方法は別紙参照。500点以上だとかなり高いレベルらしい。
米国では、大部分の災害や緊急事態は、現地や州で対処する。現地や州の処理能力を超えると連邦政府が補足的援助を行う。今回はその援助の総合的体制、合衆国連邦対策計画(FRP)について検討する。
1、合衆国連邦対策計画(FRP)
合衆国で深刻な緊急事態になるとFRPが援助を総合的に調整する。FRPは連邦緊急管理庁(FEMA)、アメリカ赤十字、および20以上の連邦部局が共同で展開している。FRPは、援助のタイプを緊急支援機能(ESF)という12のカテゴリーに分類している。各ESFの『担当機関』がESFを指揮しいくつかの『支援機関』が作業を援助する。
実際に災害が起こったり兆候があれば、その州の政府はまず州緊急対策局(OES)を通じてFEMA地方事務局に通知する。地方事務局から本部に通知するが、このとき連邦の援助が必要と判断されれば州知事の要請を大統領大規模災害地域指定宣言用に処理し、援助タイプをつたえる。またOESへ連絡員を派遣する。次にFEMA本部は要請を大統領に連絡する。また、大統領に代わりその災害の連邦調整官(FCO)を任命する。その後FEMAは援助タイプにあったESFに任務の割り当てを行う。連邦の関係職員は被災地で援助活動を行う緊急対策チーム(ERT)とFEMA本部に残り全体の調整を行う緊急支援チーム(EST)にわかれる。
2、衛生サービス−ESF No.8
ESF No.8は災害時に被災者の衛生面においてどんなことを必要としているか特定し援助している。ESF No.8の担当機関は合衆国保険社会福祉省(HHS)で支援機関がアメリカ赤十字や退役軍人局(VA)医療専門家などである。大規模災害時には衛生面の問題として次のようなことがおこると想定される。1)患者の運搬が不十分になる。2)化学物質や放射性物質で汚染される。3)被災者に対する精神衛生での危機カウンセリングを緊急に必要とする。4)医療施設や設備崩壊により使用できなくなる。このような問題を解決するためにHHSは連邦衛生援助対策を調整し任務を割り当てている。任務は支援機関や国家災害医療システム(NDMS)などを利用して実行される。
3、国家災害医療システム(NDMS)
NDMSは災害時、現地の保健医療サービスが間に合わなくなる場合、医療業務の援助を行うための連邦政府機関、州および地方自治体ならびに民間企業や民間ボランティアの共同計画である。参加している連邦レベルの機関はHHS、国防総省(DoD)、VA、FEMAである。NDMSの目的は 1)災害時に被災地の機関が医学的問題を対処するのを援助する 2)統合した国家的医療対策能力を確立する、ことである。NDMSの活動の大部分をしめるのが合衆国中の災害医療援助チーム(DMAT)とよばれるボランティアチームの育成促進と支援である。DMATは災害時応急医療を提供する医療専門職および専門職助手の集団である。NDMSではDMATのほかに病院も重要な役割をはたす。合衆国大都市圏にある100ベット以上の規模の病院は自発的にNDMSに参加している。もし、患者の輸送が必要なら国防総省の航空搬送システムを利用しDMATが被災現場で患者の安定を維持する。
4、都市救難(US&R)対策システム−ESF No.9
US&Rの活動は崩壊した建造物に閉じ込められた犠牲者をみつけ救出し現場で治療を施すことである。閉じ込められた犠牲者の死亡率が72時間後には劇的に高まるので活動は早急に始めなければならない。このシステムの担当機関はFEMAで作業は28のUS&R特別捜査班が行う。特別捜査班は62人のメンバーからなり捜索、救助、医療、技術の4つの中から1つを割り当てられる。医療チームは4人の医療専門家と2人の内科医師からなる。これら医療専門家は閉じ込められた犠牲者が救出されるまえに瓦礫の中で救急医療を施す。犠牲者が瓦礫の中から救出された後はDMATのような他の医療関係職員に引き渡される。
災害は不可避かもしれないが、災害を想定しそそ対処を準備し計画することはそうではない。過去の災害から教訓を学び、次の災害時には医師、救急救命士、看護師、消防署長、政府、行政官、ボランティア組織などがチームとして協力して救助ができるように現実的な計画をつくることができる。確かにこれは大変だが、災害に対する最も効果的な対策であるといえる。
生物テロでの準備と対応は、化学テロと大きく異なる。効果がただちに露見する化学テロと違い、潜伏期間の存在する生物剤の曝露認識は、第一線の消防、警察関係者のみに頼ることはできない。地域に拡がる尋常でない疾患や毒素反応を正確に認識診断できる医師個人の能力や、的確な検査システム、集団発生把握を正確にモニターし、集積可能なサーベイランスシステム(疾病監視システム)が重要である。しかし、生物テロ対処の先進国である米国でさえ、ほとんどのシステムにおいて生物テロへの迅速な対応は期待できないとされているのが現状である。
生物剤曝露を把握するポイントは、生物テロによるのか自然発症によるのかの判断である。「特定の地域で異常な数の患者/死亡者、死んだ家畜が出た場合」では生物テロを考えて診断・治療を進めなければならない。 生物テロに対する厚生労働省の対応の概要(2002年3月)を以下に示す。
いずれの段階でも、国民への情報提供は重要である。
生物テロ対処の第一の特徴は「テロの実施状況によって対処が様々に変化すること」である。例として、
第二の特徴は「生物剤の潜伏期間内に感染拡大防止などの対処を図れる」ことである。生物剤は潜伏期間があるため、察知が遅れる可能性が高い。しかし、潜伏期間内にテロの察知・生物剤の同定・対処ができれば、犠牲者を最小限にできる可能性もある。
生物剤種の検知・同定については、警察・消防等の一部においては生物検知器を保有しており、現場での一次的な検知は可能である。保健・医療機関等は平素から生物テロに関する危機的感染症を熟知し、認知した場合はその情報を速やかに消防や警察等へ通報することが重要である。万が一、生物テロが敢行されたことが判明した場合、関係機関が連携して適切な対処を行えるシステムを構築すべきである。
2004年10月23日午後5時56分、最大震度7の大地震が新潟県の中越地域を襲った。日本 赤十字社では、1995年の阪神・淡路大震災を教訓として大規模な災害救護に備えて専門スタッ フや医療機材、関連資材などの改良や整備を重ねてきた。中越地震では緊急仮設診療所(dERU) 3基を初めて出動させ、救護活動の基地とした。また日赤では10月24日から12月10日まで に162班の救護班を投入し延べ11994人の診療を行った。そのような現場で活動している丸 山喜一という医師に聞いた。彼は地震発生時東京の自宅にいたがその夜には被災地へ出発した。そ して翌朝11時頃目的地に到着した。
救護班の構成は医師1人、看護師長1人、看護師2人、主事2人の計6人が基本構成だが、医療セ ンターの救護班は助産師と薬剤師を加えた8人で構成されている。今回1班の活動スケジュールは 2泊3日だった。被災者の状況は、阪神・淡路大震災の時には建物の崩壊によるクラッシュ症候群 などが注目されたが、中越地震ではそのようなケースは少なかった。主に軽症の外傷で、切り傷や 打撲、挫傷、火傷などだった。他にも糖尿病や高血圧など慢性疾患の薬の処方を求める人も大勢い た。災害時における救護班の役目は救急医療と違って、限られた時間と設備で、できる限り多くの 人を助けることである。被災者のメンタルヘルスについても考慮する必要があった。不眠を訴える 人が多く、専門チームが相談にあたった。また心のケアは救護スタッフに対しても欠かせないもの で、非日常の活動をするとなかなか日常の活動業務に戻れないストレス状態が見られる。現地から 離れ難くなったり、燃え尽き症候群や「私にしかできない」症候群になったりあるそうだ。防衛策 としては、毎日スタッフ同士でよく話し合い自分の中にため込まない。さらに、引揚げる時にはデ ブリーフィングで記録なしの話し合いを持つことだ。
今回初めて出動したdERUは200人の治療に
必要な医薬品、医療品が装備され、中程度の傷病者だと三日間の診療が可能だ。また、独自で情報
連絡網が確保できる最新の衛生通信機器、パソコンやプリンターも搭載され、さらに浄水設備や職
員ようの仮設トイレも常備して自己完結型の活動を行う。海外でのERUの基本は、救護対象を最
大3万人として期間は3ヶ月の活動となる。治療や医薬品の選択は世界保健機構(WHO)の基準
に則して行われ、その他予防的な母子保健やプライマリーヘルスケアによる地域保健、栄養管理な
どを指導するのもERUチームの役割だ。海外では宗教的な問題やコミュニケーションのとり方だ
とか、医学的なこと以外にも問題があり赤十字ではそのような研修を行っている。
東京都ではこれまで、大地震などの自然災害を想定し、医療救護班の編成や負傷者を受け入れる災害拠点病院の指定、医薬品を含む医療資器材の備蓄などのほか、災害時の医療救護活動に万全を期している。しかし、現体制での医療救護班は、避難所等に設置される医療救護所での活動が原則である。加えて、災害が発生した直後に被災現場へ早期に医療救護班を派遣するには一定の時間を要する。しかし、大規模な交通事故や航空機事故では、一瞬にして多数の負傷者が発生するため、直ちに災害現場で医療救護活動を開始する必要があるなどの課題があった。これらのことから、従来の医療救護体制に加え、災害現場において1人でも多くの負傷者を救うため、専門的な研修・訓練を受けた医師や看護師が医療器材を携行して現場に急行し、その場で救命処置等を行う災害医療派遣チーム「東京DMAT」を創設することとした。
DMATとは、災害現場で救命処置等に対応できる機動性を備え、専門的なトレーニングを受けた医療チームのことで、Disaster Medical Assistance Teamの略である。平成16年2月に災害医療の専門家や東京都医師会、東京消防庁などで構成する「東京DMAT計画運営検討委員会」を設置し、1)出動基準、出動体制等について、2)研修・訓練プログラムについて、3)現場携行用資材や装備品等について、の事項等について検討を行ってきた。「東京DMAT」の隊員は、日ごろ、医療機関において医療を行っている医師や看護師が隊員として現場に出向き医療活動を行うことから、災害現場での活動を模擬的に経験させるため、東京消防庁の訓練場において、実働する消防隊員と合同での訓練を実施している。通常、医師や看護師が現場に出向く場合はドクターカーや救急車により出場しているが、東京都における救急要請は、年間66万件と年々増加傾向にあり、「東京DMAT」の出場にあたって救急車を配車できる状態ではない。また一刻も早く現場に出向き1人でも多くの負傷者を救護することが第一である。これらのことから、今回、東京消防庁は、ポンプ隊1隊のメンバーが救急車両に乗り換え、指定病院に出向き、「東京DMAT」隊員を現場に搬送する新しいシステムを創設した。この隊は「東京DMAT連携隊」と称し、4人の隊員で編成され、「東京DMAT」の現場までの搬送はもとより、現場での消防隊との連携や安全確保など「東京DMAT」と一体になり有機的な連携活動を行う部隊である。
平成16年7月26日に検討委員会での検討結果を取りまとめ、8月2日に発足式を行った。初年度である平成16年度は、救急救命センターを有する東京都災害拠点病院のうち、7病院を災害医療派遣チーム「東京DMAT」を編成する病院として指定した。隊員数は医師と看護師あわせて89名である。「東京DMAT」は、都民の安全の確保を目指し、災害医療体制の更なる充実強化を図るため、保健医療圏単位での整備を図る予定である。さらに、広域災害対応等も踏まえた体制の構築についても検討していきたい。
災害後の一連の流れは災害サイクルとして知られており、急性対応期、復旧復興・リハビリテーション期、災害軽減期、準備期に分けられる。
本稿では、病院における災害軽減期、準備期の対応について述べる。
災害とは、通常の対応能力を超えた数の死傷者が同時に発生した場合をいう。その数は災害の種類、医療スタッフの数、使用可能な医療資源などの地域の対応能力により大きく変わりうるものである。
災害対応を検討する上ではじめに、起こりうる災害の種類と程度について検討する必要がある。自身、津波、河川の氾濫、集中豪雨、火山の噴火などの自然災害や火災、列車・航空機事故、高速道路事故、化学工場事故、爆発、イベント事故など人的災害について、過去に人命を奪うような災害がその地域に発生したかを調査する。
災害被害は災害の大きさのみならず、災害に対する対応の弱さに大きく影響を受ける。この対応の弱さを脆弱性(vulnerability)という。
病院の脆弱性は 1)的な脆弱性、2)非構造的な脆弱性、3)その他の脆弱性に分けられる。
起こりうる災害を想定し、病院の脆弱性を補強することが被害の軽減化の基本となる。
災害の準備は、災害対応計画と教育・訓練に大別される。 1.災害対応計画
災害対応計画とは、想定される災害に対応するために組織や個人の対応を文書化したものである。
A. 災害対応計画の作成する過程が極めて重要である
B. 現実に基づいた緻密な計画が必要である
C. 日常の救急診療から移行できる計画が必要である
2.災害教育・訓練
災害訓練は、災害用ベッド組み立て、担架搬送、防護服着脱、災害テント設営など個人訓練と、対応計画を地図や白板上に再現する机上シミュレーション、模擬患者を用いて全体の計画を訓練すつ総合訓練などがある。
3. 災害対応計画・訓練の成熟度
計画・訓練が高レベルになるほど災害対応について成熟した病院と考えられる。自分の病院はどのレベルに達しているか検討してみよう。