評価は、中項目は5段評価とし、小項目は3段階評価とした。なお各項目に対して病院の役割や機能 から考えて必要ないと考えられる場合には「NA;Not Applicable(評価非該当)」となる。
非常用備蓄食料品の有無については、一般病院も精神病院もともに大規模病院は中小規模病院より 完備率が高くなっている。また平均備蓄日数とは完備している施設の平均であり、中小規模病院でも 大規模病院と同等の日数を備えている事がわかった。これは日常業務に備蓄品のサイクルを組み込む ことでその施設の負担を最小限にできるためと考えられる。今回の調査では備蓄をしている病院では2 日から3日分の備蓄をしており、必要最小限であると考えられる。しかしながら、備蓄していない施設 も含めた病院の全体平均は一般病院、精神病院ともに2日以下であり、結局は備蓄していない病院が多 く、極めて不十分な状況であるといえる。
自院での災害発生時の対応や、地域での大規模災害発生時の対応について中小規模病院では、一般病 院と精神病院で大差はない。自院での災害発生時の対応策については8割近くの病院で考慮されてい る。一方、大規模災害への対応策については35%程度の施設でしか対応策が考慮されていない。中小 規模病院にとっては、大規模災害に積極的に対応することはかなりの負担と考えられ、その医療圏の 行政や医師会の指導下に入ったり、中核病院にある程度依存したりする傾向はむしろ当然であると考 えられる。
一方、大規模病院については詳細な項目を具体的に評価している。大規模精神病院では、自院での災 害に対するマニュアルの完備率とそのマニュアルに沿った防災訓練の実施率が100%であることは特筆 すべきことである。しかしながら、地域医療機関や地域住民との合同防災訓練の実施率は極端に低 く、大規模一般病院で20%、大規模精神病院で0%である。また、大規模一般病院は中核病院として高 度医療の担い手であり、手術中・集中治療管理中などを前提とした訓練も必要であると考えられる。 そのため地域医療機関との連携をとり安全な患者の搬送などを想定した合同訓練が必要と考えられ る。
地域の大規模災害発生時の対応については、大規模一般病院は必ずしも災害拠点病院ではないにして も地域の中核病院として多くのことが求められていると考えられている。すなわち、中小規模病院で は対応しきれない防災対策が多々あると思われ、これらの点を考慮すれば、地域住民・地域医療の機 関の期待はなおさら大きいものと考えられる。その意味でマニュアルの完備が適切でない施設が1/3程 度あることは早急に改善すべきことといえる。また審査項目は「3日程度」の医薬品や水・食料品の備 蓄の有無を問うものとなっているが、3日はあくまでも必要最小限の量であり、中核病院の評価として は、これ以上の備蓄が必要という考えもないとはいえない。
昨今、メディカルコントロール(MC)に係る協議会が設立され、救急隊員や救急救命士に対する指
示・助言の強化、事後検証、研修・教育の充実が具体的に検討されている。しかし、集団災害に対す
るMCの概念はまだ形成されていない。従来言われているMCは、医学的観点から、救急救命士を含む救
急隊員が行う応急処置等の質を保障することを目的としており、救急隊員の行う医療行為の質を保障
しようとしている(狭義のMC)。
一方、同時に多数の負傷者が発生する集団災害では、救急隊員が個々に行う応急処置の質を検証・
評価しても、全体像を捉えることはできないし、個々の応急処置が適切であっても、負傷者全体をマ
スと見た場合、その応急処置が負傷者全体の救命活動に適切であったかどうかを判断することはでき
ない。そこで、狭義のMCに加え、救急隊活動・救助活動を含む消防活動全体、集団災害対応に関係し
た警察、保健所、行政などの他の組織の活動も含め、医療という観点から、災害対応そのものを検
証・評価することが重要である(広義のMC)。
□救急活動
□搬送先医療機関
検証・評価作業終了後は関係した組織・個人を対象に、検証・評価会を実施する必要がある。この結
果を踏まえて、消防および医療機関の災害対応計画を見直し、次の集団災害に備える。
狭義のMCに必要な医学的知識、地域の救急医療体制に精通していることに加え、災害医療の知識、地
域防災計画も含め、消防機関や保険所などの集団災害対応計画にも精通しており、日頃より医療機
関、地域の災害訓練の立案や訓練に参加する必要がある。
□消防機関の指導者
救急救命士に求められる医学的知識に加え、災害医療の知識・集団災害現場や消火現場での現場指揮
に関する知識、消防の災害対応計画や地域災害計画などに精通している必要がある。
狭義のMCに比較して、集団災害ではマスコミなどの関心も高く、検証内容のいかんでは、訴訟問題も
生じる可能性がある。しかし、集団災害に対する医学的見地に立った検証・評価を含むMCは重要であ
り、各地域のMC協議会で実施にむけて十分な協議が必要であると考えられる。
化学災害事故においては原因化学物質に汚染された被災者を除染する必要があり、災害発生現場
(ホットゾーン)に隣接するウォームゾーンでの一次トリアージは一般に困難なものであり、時間が
かかる。また、トリアージに従い現場除染がされた場合でも、2次トリアージポストへの移動には重
症被災者の方が移動時間を要するため、被災者の状態の変化により、正しいトリアージがおこなわれ
なくなる可能性がある。そのため、現場除染終了直後の二次トリアージが必要とされる。
化学災害事故の場合は、二次トリアージポストにいくつかの特性を持つ。
トリアージの方法
わが国のトリアージタッグは4つの分類で表示される。治療・後送の優先順に赤、黄、緑、黒と色
分けされ、最優先治療群/緊急治療群(immediate)を赤、非緊急治療群/準緊急治療群/待機的治療群
(delayed)を黄、軽処置群/保留/軽症群(minimal)を緑、死亡および不処置群/死亡群
(expectant)を黒で示している。一般的な災害時には、これらのトリアージをSTART法(simple
triage and rapid treatment)で行っているが、化学剤による汚染の場合はその種類により症状、経
過が異なるため、それら特徴をふまえたうえでのトリアージが必要となる。トリアージ指揮官は、原
因化学物質による患者の自然経過を知っていることが第一でありその知識習得につとめる必要があ
り、物質が不明であっても有毒ガス災害の時には酸素投与や気道確保などの呼吸の補助をするだけで
救命率が上がることも知っておく必要がある。また、化学災害の二次トリアージポストには、気道確
保などの処置ができるようなスタッフの確保、また、対策本部から適切な指示をうけながらのトリ
アージを行うなどの通信手段システムの構築が必要であろう。
* START法 *
4つのステップから成り立ち、まず歩行可能かどうか、次に呼吸の評価、循環の評価、意識レベルの
評価へとトリアージをすすめる。歩行可能であれば緑か黄のタッグ、不可能なら呼吸の評価へとすす
む。自発呼吸があり、30回/分以上であれば赤のタッグ、それ以下なら循環の評価へとすすむ。自発呼
吸がなく気道確保をしても呼吸がみられない場合は黒のタッグ、呼吸があれば赤のタッグとする。次
に、自発呼吸があるが回数が30回/分以下である場合で、毛細血管再充血時間が2秒以上であれば赤の
タッグ、2秒未満の場合意識レベルの評価を行い、簡単な命令に従える場合に黄のタッグ、従えない
場合に赤のタッグとなる。もし、一巡目のトリアージがおわっても患者が二次トリアージポストに移
動していない場合は、被災者の時間経過による容態の変化を見逃さないために、二巡、三巡とトリ
アージをくりかえすべきとされている。
* 化学剤の特徴とそれぞれの被災者のトリアージ *
1)歩道橋が混雑するので、相当数の警備要因を適切に配置することはもちろん、花火大会会場まで
の群集の誘導、迂回路の設定を行う。
2)歩道橋から花火が見えないように、視界をさえぎる目隠しなどの工夫を歩道橋に施す。
3)花火打ち上げ終了時刻前後の時間帯は群集を誘導して、安全に分散させて解散できるように事前
に周到な措置を講ずる。
花火打ち上げ終了直後ころから、帰宅を急ぐ群衆と花火大会が終わったが夜店に行こうとする群衆
が歩道橋でひしめきあった。そして、群集のなだれが起こり転倒するものが続出し、胸部圧迫による
窒息等のため死者11人、その他の負傷者247人という惨事が発生した。死者11人の概要は以下の通り。
病院全体では、約400人余りの患者が8つの一般病棟に入院しており、それぞれのチームの外科医が約
200人の患者を1週間のうち2日で回診し、限られた時間内に判断、指示を出さねばならなかった。
回診終了後は手術室に直行し、他の外科医と分担して手術を行う。時には1人で10件以上の手術を行
うことがあった。オンコールチームは、午後4時からの回診・新患のトリアージを行い、必要であれば
引き続き手術を行う。スーダンからの患者の一部は、勤務時間後に到着することがあり、全身状態が
悪い疾例・胸腹部外傷など緊急性の高い場合には、病院からのコールで再度病院に赴き、診察・手術を
行った。
Bの場合は本部長が総理ではなく、国土庁長官が責任者に任命され、優先緊急車両がスムーズに通れる
ようにマイカー規制や違法駐車の実力排除、火災が発生している場合、延焼防止のための破壊消防、
消火用水の確保、あるいは化学消化剤の使用、自衛隊の大型ヘリコプターによる空中からの消火活動
などすぐにでもできることを何もしなかった。
以上の1.〜5.のような「天才の後に人災が来た」と言われても仕方がないようなまずい対応が、いたずらに被害を拡大させ、ノースリッジ地震の100倍の死者を出す結果を招いたといえる。これらのことから言えるのは、国民の生命と財産を預かる最高責任者には、必ず助けに来てくれると信じ、じっと耐えて待ち続けていた人たちの身になって考え、感情移入して我がことのように憂い悲しむという人間らしさを必要としているといえる。また逆に、緊急事態下での医療の現場ではある程度人権は制限されるべきである。この状況下で全員平等に治療を行うことは絶対に不可能であるため、重傷者を優先して治療を行うことが、より多くの人命を救うことにつながるためである。集団災害とメディカルコントロール
(甲斐達朗、救急医療ジャーナル vol.11, p.8-11, 通巻59号, 2003)隊活動と救急活動の検証・評価内容
2.災害現場からの情報発信:状況・増援の必要性・救護所・現場指揮所の必要性
3.災害現場のゾーニング:負傷者集積場、トリアージポスト、救護所、現場指揮所、緊急車両の搬入搬出経路の確保
4.搬送先病院の統括・把握:トリアージの管理
5.現場指揮隊長への情報提供集団災害に対する検証医師・MC医師ならびに消防機関の指導者に必要な知識および素養
二次トリアージポスト
(山下典雄ほか、救急医学 26: 229-234, 2002)第2編 事故原因に対する判断
(明石市民夏まつり事故調査委員会:第32回明石市民夏まつりにおける花火大会事故調査報告書
2002年1月、p.54-58)【事故の予見可能性及びその義務について】
【結果回避の可能性及びその義務について】
【事故の発生】
年齢 性別 死 因
0歳 女児 胸腹部圧挫傷・窒息、低酸素脳症、多臓器不全
2歳 男児 胸腹部圧挫傷・窒息
3歳 男児 胸腹部圧挫傷・窒息
5歳 女児 胸腹部圧挫傷・窒息
7歳 男児 全身圧迫・心停止
7歳 男児 全身圧迫・呼吸窮迫症候群
8歳 女児 胸腹部圧挫傷・窒息
9歳 男児 胸腹部圧挫傷・窒息
9歳 女児 胸腹部圧挫傷・窒息
71歳 女性 不明(来院時心肺停止)
75歳 女性 胸部圧迫・窒息
スーダン紛争被災者医療救援活動報告
(白子隆志:日本集団災害医学会誌 8: 258-263, 2004)はじめに
ロキチョキオとロピディン戦傷外科病院
スーダンからの患者輸送・トリアージ
外科チームと外科医
診療疾患とプロトコール
戦傷外科医の育成
ノースリッジ大地震が死者61名ですんだ理由
(佐々敦行:重大事件に学ぶ「危機管理」、文春文庫、東京、2004, p.136-144)
A ノースリッジ大地震:1994年1月17日午前4時35分、マグニチュード6.9の大地震
死者61名。
B 阪神淡路大震災:1995年1月17日午前5時46分、マグニチュード7.2の大地震
死者6433名、負傷者4万人以上、全・半壊家屋25万棟以上
これら二つの地震は同じ大都会で同じ1月17日に起き、マグニチュードも非常に近い。発生時刻も早朝
であり、1時間ほどのズレしかない。唯一の決定的な違いは犠牲になって亡くなられた人の数であ
る。なぜこのように阪神・淡路大地震の場合はノースリッジ大地震の100倍もの死者が出たのかを考え
ていくこととする。