(1995年11月の神戸にて)
毒物もしくはほかの化学災害を想起させる情報が入った場合、救急診療部門、病院事務、警備部門で 即座に連絡を取り合い、ゾーニング(危険度ごとに区域わけをして自由な人、物の出入りを防ぐこ と、警備部門が中心となって設定)し、除染設備を設置、同時に院内災害対策本部の立ち上げを開始 する。
解毒薬の確保を行う。絶対的に必要となるのは、国際化学物質安全プログラム勧告にて示されたA-1 群(30分以内に使用すべきで、有効性が確立しているもの)の解毒薬である。化学災害の原因物質が 事前に判明、もしくは発災初期に判明した場合には、薬剤部は独自に解毒薬の手配をはじめる。
医療機関のスタッフは除染エリアの外側と内側に分かれ、汚染チーム、非汚染チーム、被災者受け渡 しチームの3つに分ける。そのとき、一人の人間がチームを兼任することを避ける。医療機関スタッ フは適切な防護衣を装着する。非汚染区域では、通常の診療衣で可能であるが、化学災害の場合は厚 手のブチルゴム製の手袋も必要になってくる。
化学災害がほかの災害対応と最も異なる点は、化学災害の原因となった物質が適切に管理されなけれ ば、被災者はもちろん病院職員、病院設備が汚染され、二次被害が広がる点にある。二次被害防止の ためにゾーニングという概念が重要である。まず、病院周辺を含め、汚染区域と非汚染区域とに分け る。汚染区域は、除染を受けていない被災者を取り扱う区域で、一次トリアージエリアを置く。そこ でバイタルサインが不安定な被災者を赤タッグとし、歩行可能な被災者を緑タッグとし、そのほかの 被災者を黄タッグとし迅速にトリアージを行う。汚染地域には除染エリアも置かれ、被災者の除染も 行われる。そこで重症度順に、被災者の除染を行う。一次除染を受けたものとそうでないものが混同 しないように病院の入り口では警備要員によって分別を徹底する。一次除染(現場除染)を受けてい ない被災者が直接救急外来を受診した場合には、被災者を外来から外に出し、除染設備の立ち上げま で、一次救命処置を優先しながら肉眼的(目で見える汚染物質の除去)、乾的除染(着衣を脱衣させ て、着替えさせる除染)を開始する。その後、一次除染を受けた被災者と初めて合流し、除染後は被 災者手渡しチームによる、二次トリアージを経て、病院内の非汚染区域に移動する。そこでは、化学 物質暴露における二次救命処置を行う。基本的には特異的に治療可能な硫化水素、有機リン系毒物、 メトヘモグロビン生成毒物、シアン化物を順に鑑別していき、それらすべてが疑えない場合は、中毒 専門家の判断を待ち、維持療法に努めるべきである。また、この段階では、血液、吐物、尿などの生 体試料の確保にも努める。これらの分析により、原因物質の同定が可能となる。
毒物混入事件時には、胃洗浄時に、胃酸と反応して危険なガスを発生させる場合(アジ化ナトリウム 中毒時のアジ化水素、硫化物中毒の硫化水素、砒素中毒時の砒化水素、青酸化合物中毒のシアン化水 素など)があり、呼吸防護具を装着し、閉鎖的に胃洗浄を行う。
化学災害についてもほかの災害と同様、情報センターを設置する必要があり、情報の管理にあたる専 任チームを結成することが望ましい。そこで逐次、情報交換に努め、ほかの医療機関とも緊密に連絡 を取る。また、マスコミ対策も徹底させる。
被災者の安否を気にして多くの家族や友人が集まってくるので彼らの待機場所を確保する。また、災 害時カルテに基づいて、被災者の名前と重症度を定期的にリスト化し、彼らの問い合わせに応じる。 原則的に電話での問い合わせには応じない。
原則的に化学災害の原因物質判明までは、被災者を経過観察する。また、公衆衛生当局である保健所 と連絡を取り合って、疫学的フォローへの対応を行う。
医療スタッフ、被害者のPTSDに対して、検討会であるデブリーフィングを行う。院内のストレスデブ リーフィングは事故後速やかに行われるべきである。精神衛生上観点のみならず、事件後早期に徹底 的に対応の問題点を洗い出し、迅速な報告書作成のためにもデブリーフィングが重要である。
中毒原因物質 | 拮抗薬 | 中毒原因物質 | 拮抗薬 |
有機リン化合物 | 硫酸アトロピン | 麻薬 | 塩酸ナロキシン |
一酸化炭素 | 酸素 | メタノール | エタノール |
βブロッカー | グルカゴン | インシュリン | ブドウ糖 |
βブロッカー | イソプロテレノール | シアン | チオ硫酸ナトリウム |
βブロッカー | プレナルテロール | シアン | 亜硝酸ナトリウム |
メトヘモグロビン | メチレンブルー | ヘパリン | 硫酸プロタミン |
中枢性コリン剤 | フィゾズチグミン | フッ化水素 | グルコン酸カルシウム |
表.除染の選択基準
午後9時04分−別件出動していた第1救急隊がJR朝霧駅北側に到着。
しかし、午後8時45分ころからすでに歩道橋上で群集のなだれが生じていたにもかかわらず、現地本部 員、警備会社の責任、警察の警備責任者および消防職員らは多数傷病者の発生事故に気付いておらず、 また歩道橋北側の朝霧駅に救急車が派遣されていたとの情報も現地本部には知らされていなかった。
午後8時40分頃−歩道橋上で喧嘩が起こっているとの110番通報で機動隊が歩道橋南側の階段から歩道橋 上に駆け上がった。同時刻ころ実施運営本部に中年男性が「中がむちゃくちゃで電話しても通じな い。」と怒鳴り込んできたため、現地本部職員や消防職員が歩道橋南側の階段から歩道橋上へ駆け上が ろうとしたが、警察の機動隊員に規制され、上がれなかったため、橋上で何が起こっているのか確認で きなかった。また、現地本部警察警備本部員から現地消防本部員への事故発生の情報伝達も行われず、 現地派遣の消防職員らは歩道橋上で多数の傷病者が発生している事態の事故状況把握が遅れた。
午後9時07分−事故発生の約20分後、明石市消防本部の第1次大規模災害出動指令(傷病者10人以 上)。消防本部の指令室担当者は、119番通報への対応に追われ、現地消防本部員や救急隊員との無線 交信も電波障害を受け、情報の混乱が生じて救急対応の遅延につながった。
午後9時17分−第1次大規模要請で出動した消防隊員、救急隊員によって、朝霧歩道橋北側の駅前広場に 現地指揮所、応急救護所が設置され、救出されてきた多数の傷病者へのトリアージ開始。朝霧歩道橋南 側にも簡易的な応急救護所が設置。
午後9時22分−神戸市消防局への応援要請
午後9時23分−第2次大規模指令(傷病者20人以上)
午後9時46分−加古川消防本部への応援要請
午後9時53分−第3次大規模指令(傷病者30人以上)
午後10時50分−負傷者最終搬送
救急隊は指令室との通信がとれなかったため、独自で判断して医療機関との負傷者搬送受入交渉を行っ た。最終的に心肺機能停止患者(CPA)10人、重篤1、重症7、中等症19、軽症47の計84人の傷病者は、 明石市内の7病院(45人)、神戸市内の10病院(37人)、加古川市内の1病院(2人)へ搬送された。総 搬送時間は約2時間要した。
災害発生時のヘリコプターの使用は、傷病者や医療救護者や医薬品・医療機器などの搬送手段として考えられているが、現状は医療用ヘリコプターの整備が始まったばかりであり、僻地・離島を対象とした患者搬送が主となっている。
今回、埼玉県の緊急災害救助隊である「彩の国レスキュー隊」(埼玉県が平成8年より運用を開始した災害緊急援助隊の通称)の第6回合同訓練に参加する機会を得た。訓練形成は一般的な訓練方法とは異なり、より実践的にするためにすべて現場で判断・指揮するという「事前打ち合わせなし」方式で行われた。
大規模地震での山楽崩壊が発生、付近の集落を押しつぶし、また道路が寸断され、多数の被災者が救出を待ち望んでいるという想定の下、25キロ離れた現場にヘリコプターで向かい、災害現場上空約30メートルからホイストにてリベリング降下を行った。県の要請を受けてから一時間後に災害現場に到着した。
負傷者の状態を把握し、トリアージを行い、骨盤骨折と肝破裂2名をヘリコプターで搬送することを要請した。ホイストを使って負傷者を吊り上げ収容し、災害本部の救急隊へ引き継いだ。現場到着から約2時間20分後、災害活動終了となった。
災害時の救急医療は災害現場でのトリアージ、災害現場から医療機関への搬送、医療機関での治療の3点(triage,transportation,treatment:3T)を適切に行うことが重要である。災害現場でのトリアージを行うためには普段から常に重症度や治療の優先順序を考えながら経験を蓄積していなければならない。また、その経験を生かすためにはセミナー・講習会などに参加し、災害医療の特殊性や活動方法を学ぶ必要性がある。
問題点としては、ヘリコプターの搬送用の機器についてである。ポジションの移動や問診や聴診(騒音のため)が困難であったこと。また高度による血中酸素濃度の低下に必要な酸素ボンベや、医療機器(パルスオキシメーターや心電図)が設置されていなかったこと。情報伝達の際に専門用語が飛び交うことでの混乱が生じたことなどがあげられる。
しかし、この訓練を通じて防災航空隊と医療従事者とが密な連携を取った結果、お互いに認識を新たにした部分が数多くあった。このように他職種と連携した災害訓練を行うことによって、お互いに理解を深めることが出来たと思われる。普段から「顔の見える関係」を構築することが、災害時の活動に重要である。
阪神大震災では、日本の消防当局は倒壊家屋の下敷きになった人が水で圧死することを懸念した。さ
らに火災現場上空は上昇気流や乱気流でヘリの操縦が難しい点、ヘリのローター(回転翼)が叩き付
ける下向きの風(ダウンウォッシュ)で火が燃え上がる危険性がある点、100平方メートル程度の住
宅でも消火には20トン程度の水が必要で、11機(1,500リットルのバケット使用)から27機(600リッ
トルのバケット使用)と多数のヘリが必要な点、などを挙げてヘリ消火は不可能とした。
しかし、LAFDのメンデンホール氏によると、「水の投下のタイミングは炎が屋根を突き破って外に顔
を出した瞬間で、この状態だと家の中に生存者がいる可能性はゼロである。」といい、また「水を投
下するタイミングは初期火災の段階なので、操縦困難なほどの上昇気流や乱気流はないし、LAのヘリ
に装着する消火用タンクはベリー・タンク方式なので、バケットを用いる日本式よりも高度が下げら
れるためダウンウォッシュに煽られて火が燃え上がる前に水が叩き消してくれる。また、1.3トンの
水を落とせば屋根は簡単に破れるため冷却効果は抜群で、1軒の住宅火災なら1.3トンの水を4回投下
すれば消し止められる。」とのことであった。
当然ながら阪神大震災とノースリッジ地震では条件も異なり、同列に論じられない面もある。しか
し、このようなLAFDの空中消火の実績は、これからの日本が効果的な災害対処システムを構築してい
く上で、大いに参考になるに違いない。
通常、これらの車両をもとにLAFDは47部隊にのぼるタスクフォース(任務部隊)を編成している。
1組のタスクフォースは消防士10人、はしご車(5人)、消防車(4人)、ポンプ車(1人)各1台で構
成されている。
各部隊56人で編成されるタスクフォースは、コンクリートの下敷きになった被災者の救出のため、
ファイバースコープや呼吸音を聴き取る聴音器、重いコンクリート片などを持ち上げるためのエア
バッグのほか、水や食料など72時間分の自給能力を備えており、海外の災害に対しても命令から6時
間以内に出動できる。ちなみに、阪神大震災ではLAFDのタスクフォースが自ら出動を申し出たが、日
本側に受け入れてもらえなかったという。
レッド・タグは建物が危険であることを意味し、文字通り立ち入り禁止。イエロー・タグは一定の危険性はあるものの、建造物安全局の職員が一緒なら大切な品物を取りに
戻っても構わないといった、制限付き立ち入り許可建造物。
グリーン・タグは検査済みの建物を意味する。
地震発生から3ヶ月間に、建造物安全局は10万件以上を点検し、タグを貼ったが、レッド・タグは約
2,000件、イエロー・タグは約1万件だった。しかし、建造物安全局のクァドリ氏によるとイエロー・
タグの基準が曖昧であり、その分FEMAからの資金援助の際に悪用される危険性が大きいことがわか
り、新たな基準作りが必要になったとのことである。
JMTDR(Japan Medical Team for Disaster Relife)とはJICA(国際協力事業団)に所属し、日本
政府のカンボジア難民医療チーム活動3年間の教訓をもとに、1982年3月5日に発足したGO(政府機関)
の組織である。ボランタリー登録者のグループである。
歴史
JICAの災害援助体制
JICA国際援助隊(JDR)の活動
1)際緊急援助法に基づく国際緊急援助隊の派遣
2)国際協力事業団法に基づく緊急援助物資供与
災害補償
1, 労働災害補償
2, 特別補償
3, 海外旅行保険
国際緊急援助隊派遣の最近3年間のトピックス
先進国における国際緊急援助体制・手法
2000年12月に海外派遣の費用や保険を補償する制度が整理され、地方公務員の参加が可能になった。
1)阪神・淡路大震災
活動内容は救急期、救急医療期以降の感染症期の治療。医師3名、看護師5名、調整員2名。5日間の延べ患者数は365人。感冒が53%。
2)エル・サルバドル大地震
医療チームの今後の課題
災害医療チームのヘリコプタ−降下訓練を経験して
(高橋誠一、日本集団災害医学会誌 8: 45-50, 2003)初期消火に成功
(小川和久:ロスアンゼルス危機管理マニュアル、集英社、東京、1995、p.134-65)解説
ヘリによる空中消火
ロサンゼルス市消防局
Mutual Aid:相互支援
人命救助
ロサンゼルス市建造物安全局
JMTDRの立場から
(浅井康文ほか、救急医学 26: 163, 2002)
JDR医療チーム:JMTDRから選抜され災害地に派遣されるチームとすることが決定。
戦争や紛争に起因する難民はPKO法で、自然災害はJDR法で派遣されることが確認された。
疫病の発生や蔓延を防ぐ防疫活動
関係省庁の職員や民間の技術者を派遣
応急措置
安全な場所への移送
特別補償制度
1999年 トルコ西部地震(救援チーム、自衛隊:仮設住宅を輸送
台湾地震(救援チーム110人派遣)
2000年 モザンビーク洪水(医療チーム)
インドネシア地震(医療チーム)
2001年 エル・サルバドル大地震
インド西部地震(自衛隊が備蓄物資テント・毛布を航空輸送)
ノルウェー ドイツ スイス 対象災害 自然災害
人為災害
紛争自然災害
人為災害
紛争自然災害
人為災害
紛争どの段階で援助するか 緊急
(復旧)緊急
(復旧)緊急
(復旧)援助の方法
政府直接援助
・資金供与
NGO,UN支援
政府直接援助
・THWチーム派遣
・資金供与
NGO,UN支援
政府直接援助
・SDRチーム派遣
・資金供与
NGO,UN支援
地方公務員としてのJMTDRでの活動