DISASTER MEDICINE

Application for the Immediate Management and Triage of Civilian and Military Disaster Victims

Burcle FM Jr, Sanner PH and Wolcott BW

翻訳・青野 允、谷 壮吉、森 秀麿、中村紘一郎

(情報開発研究所、東京、1985)


12.環境による障害

Patricia H. Sanner, M.D.


A.熱による障害

 熱による障害は単純なものではなく,人体の熱交換の平衡機構の広範 な障害である.環境による熱障害は各人を訓練することによって防ぐこ とができる.それには環境の熱ストレスを十分に評価して計画的に仕事 をするとか,軍事訓練を行うとか,あるいは馴れるのに十分な時間をと るとかなどがある.

1)順応

   個体は順応とよばれる過程によってより高熱に耐えられるようになる. これは四つの生理的な反応の結果として生じる.最初の熱の曝露に始ま ってから,1週間で十分身につく,完全な順応,すなわち暑い環境で激し い仕事を最大限に行なえるようになるには,個体の熱に対する感受性に もよるが,2〜4週間かかる.完全な順応は,1日に2回,酸素を50分間 吸いながら仕事をすることによってより短かい期間で達成できる.四つ の生理的過程は次のとおりである.

  1. 好気的代謝が増える結果,骨格筋の能率が増加する.

  2. 最大発汗作用は,順応した人や熱に適応した人では,ほぼ適応しな い場合の1時間 1.5 Lから 3.0 Lへと増加する.

  3. アルドステロンの分泌が増えると,腎のNa+の排泄が減少し、汗の なかのNa+濃度が減少して血漿量が増加する.

  4. C血漿量が増加すると心筋の能率がよくなり,その結果として,暑い 環境で働く場合には心拍出量が増加し,心拍数が減少する.

 順応による生理的反応の効果は,好気的代謝が亢進し,汗の量が増え, 皮膚の血液循環が増えることである.したがって,順応するということ は熱に耐えうるようになることであって,熱の放出が増え,熱産生が減 ることである.

2)臨床症状

 基本的に熱の平衡障害を表すには三つの熱症候があるが,それらは, 熱痙攣,熱疲労,熱射病である.

a)熱痙攣

(1)徴候と症状

 患者は暑い環境で働いたあとに,短期間の間欠的で非常に強い筋肉の 痙攣を訴える.痙攣は通常,仕事に関係する筋肉に起きる.患者の体内 温度(中枢温)は正常であって,ほかの全身症状は伴わない.

(2)原因

 熱痙攣はNa十の消耗の結果として起こる.暑い環境で働く人は,塩と 水を喪失(発汗)した場合,水だけを補う.このために,順応した人でも 大量の汗をだすので熱痙攣はしばしば起きる.

(3)治療

 患者を涼しい場所に安静にさせて,経口か経静脈的に電解質液を与え る.普通は経口だけで十分である.経口で与えうる水分はしモネード, トマトジュースやスポーツ飲料である.0.1%の食塩水は水1カート(約 1.1L)こ塩錠剤2個を溶かしてつくるか,または5ガロン(約18.9L)の水に 携帯用食器セットのスプーン 4/3杯の塩を混ぜてつくる.

(4)予防

 暑いところで働く人には水と一緒に電解質液も飲むことをすすめる. 専用の電解質液を準備する場合には半分の強さで十分である.塩の錠剤 はすすめるれない.

b)熱疲労

(1)徴候と症状

 熱疲労の患者は筋痙攣を伴うか,あるいは伴わずに種々の全身徴候が 現れる.全身性の徴候は次の通りである.

(a)中枢神経系

 頭痛,失神,めまい,神経過敏.

(b)体液量減少

 渇き,低血圧,頻脈,立ちくらみ.

(c)消化器系

 悪心,嘔吐,食欲不振.

(d)身体系

 虚弱感,不快感.
 体温は正常か,少し上昇し発汗がある.

(2)原因

 熱疲労には二つの型がある.

(a)水喪失型

 この型は,水の利用が制限されたり(たとえば砂漠),または水が必要 であることがわからない(たとえば,小児,老人,意識混濁のある者の場 合)ときである.これらの患者は高ナトリウム性脱水である.体温はわず かに上昇する(37.7〜38.3℃).この型の熱疲労は非常に速く熱射病に移行 する.

(b)ナトリウム喪失型

 これは汗による熱痙攣に水だけを与えたことで起きる.患者は体液消 失と低ナトリウムの徴候を示す.体温は正常である.この型の熱疲労は 熱射病に移行しにくい.

(3)治療

 患者は涼しい場所に安静にしておく.経静脈的輸液のほうがよい.し かし現場で静脈輸液がなくて,意識があり経口で与えられればそれでも よい.生理食塩水が普通に使われる.しかし,重症の低ナトリウム血症 の場合には3%食塩水を使用する.経口液については前項「熱痙攣」の ところで述べた.

(4)予防

 熱痙攣の予防と同様に十分な水と食塩を確保する.小児や老人や不具 者を看護する人は,彼らの水分の要求に十分に注意しなければいけない.

c)熱射病

 熱射病は,報告によれば17〜70%の死亡率を有する救急疾患である. 熱にやられ,少しでも意識のもうろうとした患者は,状態が判明するま では熱射病として扱わねばならない.

 (1)徴候と症状

 熱射病には二つの臨床的な徴候がある.

(a)古典的な熱射病

 患者は通常,高齢であり,しばしば全身性疾患をもっている.古典的 熱射病は,熱波の続く間,流行性のパターンで起こる.直腸温は40.6℃ となり,皮膚は熱く,汗をかかず乾燥している.中枢神経症状が顕著で ある(たとえば混濁,昏睡,大発作,瞳孔散大または瞳孔反射が弱い).

(b)労働性熱射病

 患者は通常,正常かつ健康な若い人で,暑い環境で激しい筋肉運動を 行った場合に起きる(たとえばマラソン).労働性熱射病は突発的に発生 する.患者は直腸温で40.6℃以上になり,皮膚は熱く,湿っており,意 識混濁,昏睡や大発作,痙攣などの中枢神経症状を示す.それにしばし ば激しい筋肉崩壊,急性尿細管壊死(ATN),播種性血管内凝固,電解質 や酸塩基平衡の激しい異常をきたす.労働性熱射病ではミオグロビン尿 のために30%くらいでATNが起きる.はじめ低または高ナトリウム血 症と低カリウム血症がある.のちには広範な組織の破壊と腎不全のため に高カリウム血症となる.通常,熱による過換気と乳酸アシドーシスの ために呼吸性アルカローシスと代謝性アシドーシスの混合型となる.乳 酸アシドーシスは労働性熱射病の場合には平均値で 14.7 μm/ml となる.

 この熱射病の二つの型は,不整脈,伝導障害,心室性不整脈,頻脈性 不整脈などを伴う.

(2)管理

(a)入院前

  1. 急速冷却は最も重要な手段であり,ただちに始めねばならない.換 気扇のついたテントとか,エンジン部分が切り離せるような空調装置の ついた車などの涼しい環境に患者をおく.水タンクやホースからの水か, できれば氷のような,冷たい水を使用する

     方法:

    a.氷水の水槽にいれて,激しく患者の四肢をマッサージする

    b.氷水のマッサージと,蒸発をよくするために循環する空気にさらす(たとえば扇風機など)

  2. 気道と換気を確保し,できれば酸素を与える

  3. 乳酸加リンゲル液か生理食塩水を最初の4時間に約1,000〜1,200ml 輸液する

  4. 早急に病院へ移送する

(b)病院

  1. 体内温度が38.9℃ になるまで冷却を続ける

  2. 必要ならば人工呼吸を行う

  3. 保存的輸液:通常ここでみられる低血圧は皮膚の血管拡張であって, 冷却だけで反応する.通常,最初の4時間に1,000〜1,200mlの乳酸加リ ンゲル液または生理食塩水を輸液する.冷却だけで血圧が上昇しない場 合には,250〜500mlの生理食塩水を注意深く投与する.輸液負荷で血圧 の改善がみられない場合には,注意深くモニタしながらイソプロテレノ ールを1分間にlmg投与する.労働性熱射病のほうが古典的熱射病より も大量の輸液を必要とする

  4. 直腸温度計で体温を測定する

  5. 心電図モニタ

  6. 検査:血小板も含めて血球数,血清電解質,BUN,クレアチニン, 血液ガス,尿比重

  7. 高浸透圧液:労働性熱射病の場合にATNが起こりやすい.20%マ ンニトールを25gまたは40〜120mgのフロセミドを投与

  8. pHが 7.20よりも低い場合は重曹を投与する

(3)予防

(a)古典的熱射病

古典的熱射病を予防するいくつかの方法を次に列挙する.

  1. 熱波がきたときに危険性のある人々を確認する.通常は低所得者層 の密集地の高齢者が最も抵抗が弱い.生活設備の改善,扇風機などによ って,この層での熱射病は著明に減少する

  2. 救急医療関係者に命じて,野外治療を行う.熱波の間は救急車は常 に水を積んでいること

  3. 救急室には,水,水槽や扇風機を準備して熱射病に備えるか,また はこの地区で容易に準備できるようにする

  4. 長期の観察を注意深く行って,生活環境を十分に冷却する必要があ るときには,たやすく行えるようにすること.待機者は指定された間隔 で輸液を与えるような特定の指示を受けておく

(b)労働性熱射病

 この型の熱射病を予防する方法を次にあげる.

  1. 暑い気候に順応するために,2〜4週間の十分な時間をもつ緩徐な訓 練計画を立てるようにすること

  2. 順応するまでの間,締め付けるような衣服(たとえばフットボールの 肩当て)を避けること

  3. 運動練習のときに発汗着の着用を制限する

  4. 悪い環境状態を認識して,それに従った運動練習計画を立てる

  5. 労働性熱射病はマラソン中に起きるので,競技の主催者や競技者は アメリカスポーツ医学会のガイドラインに注意深く従うこと

  6. 16km以上の遠距離競走はWBGT指標(注1)が28℃以上のときには行 ってはいけない

    注1)湿球温度は環境熱強度のよい指標となる.

  7. 日中の乾球温度(注2)が27℃以上のときは,遠距離レースは午前9時以 前か午後4時以後に行うべきである

    注2)乾球温度は通常の温度計の大気温である.

  8. ランナーは水分補給を指示されるべきである.少なくとも関始ま え10〜15分に400〜500mlの水分をとるべきである。

    • WBGT指標=0.7×WB+0.2×BG+0.1×DB

    • WB(湿球):通常の温度計に湿ったカバーをかけて大気中にさらし たときの温度.大気の動きに注意をはらう.

    • BG(黒球):6インチ(15cm)の銅球を黒く塗って,その中央に置い た温度計の読み.直射熱に注意する.

    • DB(乾球):通常の温度計の読み.大気温を計る.

  9. 水やイオン水補給所は2〜2.5マイル(3〜4km)ごとに置かなけれ ばいけない

  10. 競技主催者は熱射病の対策を立てておくべきである

3)熱障害に対する一般的予防法

  1. 個人(たとえば運動,登山者,軍人)や監督者(たとえばコーチ,訓練 教官)に熱ストレスの徴候や症状および救急処置を教育する

  2. WBGT指標を使って環境の熱ストレスの強さを確認する

  3. 周囲の熱ストレスの状態に,練習時間や練習程度をあわせる

  4. 暑い気候での訓練の時間や程度を徐々に増やして,2〜4週間の順応 期間をとる

  5. 運動や労働時には特定の経口飲料規定をつくる

おわりに−−熱障害に対する野外および臨時の管理

 熱障害の診断および入院前の治療について述べてきた.本項では特定 の臨時の看護,特に個人の保護,野外での方法および熱障害のトリアー ジについて要約する.

a)個人の保護

 医療関係者または救助隊を確保して,熱障害が起きるのを避ける.今 まで述べたすべての方法を利用する.各人は次のようなことに特に注意 する.

  1. 水やイオン水で十分に水分をとる

  2. 過度の直射日光を避ける

  3. 日除けや頭にかぶり物をつける

  4. 医療関係者や救助隊を巡回させて,強い熱にさらすのを減らすよう にする

b)必要な野外での対策

(1)涼しい環境

 携帯用の発電機でまわす扇風機のあるテントや独自の電源をもつ車や 建物.

(2)冷たい物の補給

  1. 冷水(たとえば水タンクやホース)

  2. 可能ならば氷にれは,病院スーパー,レストラン,教会などで入 手する.あるいはその場所まで携帯用氷入れで運ぶ)

  3. 扇風機(電動または手動)

(3)補給水

  1. 輸液:乳酸加リンゲル液または生理食塩水

  2. 経口液:レモネード,トマトジュース,大きな容器にいれた半分に 薄めた市販イオン飲料

  3. その場で0.1%の生理食塩水がつくれるように,食塩錠あるいは食卓 塩を用意する

  4. 冷水

c)トリアージ

(1)熱射病

ただちに治療し緊急に病院へ引き渡す.

(2)熱疲労

ただちに治療する.必要ならば,臨時の施設で十分に治療することが できる.患者は保存的な処置と指示で現場に復帰させることができる.

(3)熱痙攣

臨時の施設で短時間に最少の治療を行う.各人は熱疲労のときと同様 現場に復帰させることができる.


B. 凍傷

 熱障害と同様に,局所の凍傷は環境による障害のうちでも予防できる ものである.傷害は末梢(たとえば,手,足,耳など)であり,体内温度 は正常である.組織の冷却の長さや程度といった環境因子が局所の凍傷 に関係する.特に,冷たい風に当たるとか,金属や水や石油が皮膚に触 れているとか,四肢を動かさない,あるいは動けないときなどである. 局所の凍傷にかかりやすいような生体側の因子,たとえば冷たい気候に 順応していないとか,教育されていないとか,また身体的因子,たとえ ば末梢血管障害,飲酒,喫煙などがあると凍傷を起こす.

1)冷凍によらない傷害

 氷点より高い冷温や湿気,靴や衣類による締め付けなどの相互作用に よって,血管収縮や血栓などの組織傷害を起こす.冷凍によらない傷害 には三つの型がある.すなわち,しもやけ(chilblains),塹壕足 (trench foot),浸漬足(immersion foot)である.

a)しもやけ(chilblains)

(1)徴候と症状

 これは局所の凍傷のいちばん軽い型である.曝露した部分に,患者は 痛み,かゆみ,発赤を訴える.この部の皮膚は敏感になっており,腫脹 発赤していて圧迫によって白くなる.水疱,大水疱や潰瘍がみられる.

(2)治療

 障害部位をマッサージして局所を温め,皮膚を再び冷却するのを防ぐ.

b)塹壕足(trench foot)

(1)徴候と症状

 壁壕足は長時間冷たい湿ったところに動かすにいると起きる.患者は 冷感,無感覚や下肢の痙攣を訴える.肢が腫れており,水疱を伴って発 赤し,壊死に移行する可能性をもっている.脈拍は触れない.

(2)治療

 濡れた衣服を取り去り,暖かいところで安静にする.障害部位は高く する.外科的な処置や切断は,1か月またはそれ以上経過して障害部位が 分離してくるまで,すべきではない.

c)浸浸足(immersion foot)

 肢を水のなかに長時間浸しておく場合に起きる.徴候,症状や治療は 塹壕足(trench foot)と同じである.

2)冷凍による傷害

 局所の凍傷による組織傷害は血管収縮と血栓と細胞外液の氷結の結果 として起こる.三つの型に区別されるが,はっきり区分されているわけ ではなくて,むしろ凍結による障害の程度による.これらは凍傷痛 (frostnip),表層凍傷,深層凍傷である.

a)凍傷痛(frostnip)

(1)徴候と症状

 凍傷の最も軽い型であり,通常,指先,趾先,耳,鼻,頬に起きる. 激しい場合には無感覚となり次いで痛みとなる.皮膚は浮腫や水疱を伴 わずに発赤や敏感状態となる.

(2)治療

 これは現場で完全に十分に治療できる唯一の凍傷である.濡れた衣類 をとる.障害部位を躯幹や腋窩に当てて温める.

b)表層凍傷

(1)徴候と症状

 表層凍傷は皮膚と皮下組織を含む.患者は冷感から無感覚となり,そ の部位が温かい感じとなる.これが最も独特な症状で,凍傷痛(frostnip) と凍傷(frostbite)とが異なるところである.診察で,皮膚は白く,触れる と蝋のように硬い.24〜36時間経つと障害部位は浮腫状となり,水疱ま たは大水疱ができる.

c)深層凍傷

(1)徴候と症状

 障害は皮下組織よりも深部に達する.症状は表層凍傷と同じである. 皮膚は白く,無感覚となり,浮腫,水疱が続き,岩のように硬くなる.

(2)治療(表層凍傷も同じ)

  1. 締め付けている衣類,濡れた衣類を取り除く.渇いた衣類または毛 布で凍傷部位を包む

  2. 凍傷部位は雪でこすらない.乾いた熱気や火や車の排気ガスに触れ させないこと

  3. アルコール,タバコを避ける.できれば熱い飲物をすすめる

  4. できるだけ早く温める.しかし,1回だけにする.再び凍る危険が ある場合には野外で始めないこと.凍傷の足でもよりひどくならずに長 い距離を歩くことができるが,いったん凍傷部が融けてくるとストレッ チャ−で運ばなければならなくなる.凍傷側の足または両肢を壁や床に さわらないように,十分大きな水槽で40.6〜43.3℃の湯に20〜40分つけ る.凍傷部の色が戻るまで続けるか,または40分くらいつけておく.温 かい湯や温度計がない場合には,体の温かい部位を使う(たとえば腋窩)

  5. 融けた組織は,注意深く,無菌的な方法で次のようにする

    a)趾を清潔な綿で分離し,高くあげる

    b)必要ならば,ゆるく包帯を巻く.しかし患者を動かすときだけに する.凍傷部を空気にさらすことが望ましい

    c)水疱は内容物が混濁してくるまでそのままにする

    d)凍傷部位には,いかなる軟膏もつけてはいけない

    e)必要ならば破傷風の予防をする

    f)いかなる外科的処置や切断も分離が完全になるまで延ばす


C 低体温

 低体温とは寒冷にさらされて,体内温度が35℃より低くなった状態を いう.低体温を測定するのに,普通の温度計は34.4℃まで,電子温度計 では32.2℃までしか目盛っていないので,しばしばもっと広い範囲の目 盛りのあるものが要求される.低体温はまさしく医学的緊急性があり, 死亡率はその重症度によって21〜81%である.軽度低体温(32.2〜35℃) では死亡率は低いが,重度低体温(32.2℃以下)では危険性がきわめて高 い.

1)素 因

  1. 罹患患者は,高齢者,スポーツマン,海の男やダイバーたちである

  2. 中毒状態(薬物やアルコールによる)で長時間寒さにさらされること

  3. 慢性疾患(たとえば甲状腺機能低下症,脳下垂体機能低下症)

  4. 中枢神経疾患が温度中枢の調節を変化させること

  5. 薬物,特にフェノチアジン,バルビタールは中枢の温度調節を変化 させる

  6. 長時間寒さにさらされること

2)臨床症状

  1. 非常に冷たいチアノーゼ様の皮膚や粘膜

  2. 呼吸数は非常に低下し,24℃で無呼吸となる

  3. 低血圧

  4. 心拍数は非常に減少し,30℃またはそれ以下では不整脈を伴って心 筋の被刺激性が高まり,15℃で心停止となる

  5. 中枢神経系は精神状態に異常をきたし(集中力がなくなり,無関心と なる),昏睡,深部健反射(DTR)が減少または消失する.瞳孔反射が弱く なる

  6. 30〜33℃で震えはなくなり,筋強直がそれにかわる

 低体温の患者は30℃に温めてからのち,蘇生に反応しなくなるまでは 死亡の宣告をしてはならない.

3)合併症

 低体温には予後に関係する種々の合併症がある.

  1. 循環:不整脈,心停止,心筋梗塞

  2. 呼吸:呼吸停止,誤嚥,気管支肺炎,肺水腫

  3. 腎:ATN

  4. 胃腸:出血,脳炎

  5. 局所の凍傷

4)治 療

a)入院前

 患者をできるだけ暖かいところ,または風を遮る場所に置く.濡れた 衣類を取り除き,乾いた毛布,または温かい乾いた衣類で包む.救助者 が患者と直接肌を接触して毛布あるいは寝袋のなかで温めるか,2人の救 助者の間に挟んで温める.必要ならば基本的な心肺蘇生術を行う.十分 に気道を確保して酸素を投与する.静脈輸液を注意深く行い,可能なら ば液を温める(たとえば,血液加温器,暖かい車の表面などで).患者は 早急に病院へ運ぶ必要がある.

b)病院

 再加温が最も重要な急を要する治療である.それらには三つの方法が ある.

 (1)受動的体表面法

 体内温を逃さないために,室温で毛布を用いる.これは入院前に行う ことができる.

 (2)能動的体表面法

 加温した毛布を巻くかまたは温水につける.

 (3)能動的体内法

 心臓や脳を温めるのに種々の方法がある.能動的な体内中枢加温は, 40℃に温めて加温した酸素をマスクまたは気管内カテーテルを通して与 える.40〜46℃に加温した輸液,加温した溶液による胃洗浄,腹膜潅流, 血液透析などである.最もよい二つの方法は,体外循環と,開胸して縦 隔も含めて温湯で洗浄する方法とである.

 種々の研究により,軽度低体温の患者(32.2℃かそれ以上)では受動的体 表面法で安全に再加温できる.体内温度が32.2℃以下でも,心血管機能 が安定している場合には,受動的体表面法や加温酸素,加温輸液のよう な単純な能動的体内法で再加温できる.体内温度が32.2℃以下で心血管 系が不安定である場合には,能動的体内法,加温水による腹膜潅流や血 液透析などの組み合わせが通常は必要である.

 再加温には二つの問題がある.

(a)アフタードロップ

 これは,再加温したときに躯幹温が,末梢血管拡張とそれによる冷た い血液が躯幹に循環するために,0.5〜3.0℃低下する.

(b)再加温ショック

 これは再加温が始まってすぐに血圧下降,心収縮停止,不整脈などが 突然みられる.これはたぶん冷たい血液が躯幹のほうへ流れる結果であ る.予想されるように,アフタードロップや再加温ショックは能動的体 表面法にしばしばみられ,能動的体内法にはあまりみられない.

c)注意深いモニタ

 バイタルサイン,中心静脈圧,尿量,心電図モニタ,そして血液ガス は,患者の体温によって補正されなければいけない.さもないと酸素分 圧の上昇とかpHの低下などが誤って報告されることになる.

d)強力な補助手段

 心肺蘇生,人工呼吸や輸液などが補助手段として使われる.不整脈な どは気管内挿管,経鼻胃腔ゾンデ挿入などのときに引き起こされる.こ の不整脈はこれらの処置を受けるまえに十分酸素が与えられていれば抑 えられる.心房細動は最もよくみられ,通常は治療を必要としない.除 細動は通常,患者の体内温度が27.7℃以上になるまで行わない.抗不整 脈薬や血管収縮薬は通常,適応とならない.

e)合併症の治療と基礎疾愚

 敗血症や肺炎は起これば治療する.

おわりに−−凍傷の野外および当座の看護

 局所的な凍傷および低体温の診断,入院前の治療について述べてきた. 次に当座の特殊な看護,看護にあたる人自身の保護,野外での処置や患 者のトリアージについて概要を述べる.

a)看護にあたる人自身の保護

 医療関係者あるいは救助者は,凍傷の災害にあうのを避けなければな らない.保護手段としては次のようなものがある.

  1. 十分な寒冷用の衣類や器具を確保し,その使用法を理解すること

  2. 重ね着する際には,締め付けず,乾燥したものをつけること.これ は空気を滞留させて保温に役立つ.重ね着はまた,発汗を防ぐために, 少しずつ脱いでいきやすい

  3. 放熱を減らすため,頭,耳,手を覆うこと

  4. 保護軟膏を,鼻,口唇,類に塗って,対流による放熱を防ぐこと

b)野外での処置や携帯品

  1. 暖かい仕切りや庇護物(たとえば保温テント,暖めた車)

  2. 毛布

  3. 滅菌した,締め付けない包帯材料

  4. 鎮痛薬,破傷風予防薬

  5. 輸液剤,輸液用器具

  6. 気道確保用器具,酸素

  7. 加温のための温水器具(凍傷部位を温めるのには必要ない)

c)トリアージ

  1. 低体温は早急な治療が必要であり,緊急に病院へ引き渡す

  2. 凍傷(frostbite),塹壕足(trench foot),浸漬足(immersion foot) は,患者が他の緊急を要する外傷があるか,または融かしたあとで再び 四肢が凍るおそれのある場合には,治療を後回しにする

  3. 凍傷痛やしもやけは最小の治療にする.これらの患者は応急処置で 十分治療でき,処置後十分に乾いた保護衣類や器具をつけて現場に復帰 させる


参考文献

−−熱による障害

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--凍傷,低体温

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――訳 森 秀魔


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