DISASTER MEDICINE

Application for the Immediate Management and Triage of Civilian and Military Disaster Victims

Burcle FM Jr, Sanner PH and Wolcott BW

翻訳・青野 允、谷 荘吉、森 秀麿、中村紘一郎

(情報開発研究所、東京、1985)


8.救出計画

第II部 地上救出法

― Patricia H Sanner, M.D.


はじめに

--訳・谷 荘吉

 災害時の医学的救出法には,二つの明確な観点がある。

  1. 被災者を被災地から安全地帯,または治療のための医療施設へ移動させる

  2. 医療設備を安全地帯へ送る

 医療派遣計画には,この両者の状況が含まれていなければならない。


A. 地上救出計画についての考察

1)脱出の一般的経路

 通常,自然災害にしても人為的災害にしても,被災者は,災害現場か ら高速道路のような誰でも思いつくような交通路を用いて脱出する。し たがって,徒歩で脱出する被災者のためにこれらの脱出路に渋滞が生ず ることは当然予想される。

2)集中行動

 集中行動というのは,調査を行った大部分の災害で常に観察されるこ とである。“災害現場へ" という著しい移動によって,政府または民間の 人間,車,輸送車などが,損害を受けた地域から被災者を搬送する際に 重大な妨害を受けることになる。集中行動は,おそらく制止することは できないであろう。しかし救済・救出の努力を妨害されないように工 夫することは可能である。集中行動を回避するには次のようないくつか の方法がある。

a)情報に遅延時間を設ける

 地方ラジオ局やテレビ局と協力して,災害事件の報道をわずかの時間 だけ遅らせてもらう。それによって,予想される集中行動の発生に対し て,警察が道路を閉鎖し整理することができる。

b)入口の整理と誘導経路

 最初は,警察や消防隊などだけが災害現場にはいり,効果的な救済・ 救出ができるようにする。それは入口を整理調整することで達成できる。 制服,反射板付きのチョッキ,帽子などの確認システム,または災害ID カードなどを用いる。

 直接救出できる規制道路をつくり,やじ馬を誘導する拡散道路を指定 するのも集中行動を転換する別の方法である。重要人物によって要請さ れたものであっても,そうした地区では,私用の自動車の数は制限すべ きである。


B. 被災者救出

1)直接救出

 損傷が最少で歩くことができる被災者は,災害現場を去るに当たって は,自分自身で一般の交通機関を用いて脱出すべきである。その他の被 災者は,ただちに警察および専門の救出隊員によって運搬してもらう。 直接救出には二つの問題が生じる。

  1. 職員数や収容能力を考慮しないと至近の医療施設は混雑する。

  2. 救出車両や隊員にとっては,比較的重症ではない傷害者のほうが 運びやすいので,最初に運び込まれてくることが多い。直接救出では, トリアージが成立しない。

2)段階的救出

 被災者搬送に軍隊が利用できるときには,段階的救出がすぐれている。 自分で決めて,災害現場をすでに離れてしまった被災者については調整 できない。しかし,一般的な交通手段による被災地からの脱出は,統制 をとることができるはずである。段階的救出には次の三つの要素がある。

  1. 被災者の“トリアージ"

  2. トリアージによる区別か,被災地の地区別かのどちらかによって, “集合地"を確立すること

  3. 集合地から施設への選別患者の“搬送"。その施設はほとんどの創傷 の治療ができ,同時に多数の被災者を治療できるところでなければなら ない。個々の傷害者にとって,適切な施設が最も近いところにあるとは 限らない。最小限度の傷害者は,治療の可能なできるだけ遠い施設まで 搬送すべきである。


C. 医療設備救出

 医療設備が破壊された地区,または災害が及んで医療設備が破壊され るような地区が発生する。医療施設という用語には,急性疾患ケアも慢 性疾患ケアもできる病院などのことだけでなく,養護ホーム,精神病院, リハビリテーションセンターなどのようなものも含まれている。医療設 備救出には次のようなものがある。

1)救出場所の選別

 被災地から離れたところで,安全地帯を確保しなければならない。そ れは学校,体育館,ほかの適当な建物などの単一な場所がよい。医療設 備の救出は,患者をいくつかの別々の場所へ搬送することも含まれてい る。たとえば,被災地外の別の病院とかへである。

2)資材および人員の準備

 十分な予告があれば,救出の準備ができる。まえもって,初期活動に 必要な器具と補給物資とを携えた専門家を,選択した救出地域に派遣す ることができる。専門家とは,患者の配置を調整するための婦長,照明・ 換気用などの電源確保のための営繕要員,患者ケアのための患者ケア要 員などの人々である。活動を開始するために必要な設備および補給物資 としては,小児用寝台,基本的な医薬品,静注輸液,縫合材料,気道確 保器具,人工呼吸器,食料と飲料水などが必要である。病院災害救助計 画は,この先発隊と計画的に合体して行うべきである。その計画を実行 するに当たって,特別な要員を指名し 各病院地区から集められた器具 と資材に,先発隊グループとしての名札付けをする必要がある。またそ のほかには,救出キットの準備と保管,各ユニットの箱詰めなどがある。

3)秩序正しい救出

 医療設備の救出は,余分の外傷を起こさないように,また遅滞もない ように秩序正しく進行すべきである。廊下,患者ケアユニット領域,病 棟翼などを使ったいくつかの方法が実行できる。エレベーターが使えな くなったら,患者をどのようにして運び出すか,同時に,歩行できない 患者を搬送するのに何を利用するか,を決めることが重要になってくる (麻袋,担架,手押し車などは,在来の病院ベッドよりもずっと実際的 で,搬送しやすい)。

4)車 両

 患者および職員をビルから運び出して,安全地帯まで搬送するために は,車両が必要である。ケアを続ける必要のある最も重症な患者を搬送 するためには,普通の病院車(救急車)が利用できる。その他の大部分の 患者は,たとえばバス,トラック,バンなどのような大型車両を用いれ ば,安全にかつ効率よく搬送できる。警察の護衛やボランティアによる 交通整理によって搬送がより容易になる。


D. 救出・搬送

1)普通の病院車

 標準救急車を利用する。しかし通常,それには台数に限りがあり,ま た1台当たりの患者搬送人員数に限りがある。従来の救急車が最も有効 に用いられるのは,最も重症の患者や最高の優先順位の受傷者を搬送す る場合である。

2)その他の車両

 多数の受傷者の救出は,臨機応変な対応によってのみ成功する。多数 の傷害者の搬送には,多数の車両が必要である。個人の自動車,タクシ ーも利用すべきである。その他の手段としては,次のようなものがある。

 a)バス

 バスは歩行できる患者を多数搬送するのにたいへんすぐれている。も し必要ならば,担架を座席を横切ってのせることもできる。患者と一緒 に付き添い者も搬送できる。

 b)移動用バン

 移動用バンは,歩行でき,座席に座ることの可能な患者と担架患者を 多数搬送することができる。照明と換気は,サイドドアを開ければ改善 できる。

 c)トラックとバン

 これらの車両は,かなり多くの,そして種々の受傷者の搬送に適して いる。悪天候の際には,無蓋トラックの利用は制約を受ける。

 d)鉄道

 鉄道を利用できる可能性は,被災地と安全地帯とを結ぶ路線の位置と その距離によって決定される(あまり離れていると利用できない)。

3)特殊環境

 ある種の災害状況下では,傷害者を搬送するために特殊な運搬手段が 必要である。たとえば,洪水にはボートやいかだが必要で,それは一般 市民や米国海難救助隊から入手できる。通常,積雪地の救出車に車両は, タイヤチェーンや除雪機などの特別な装備が必要となる。さらに,ある 種の積雪状況では,雪上車やそりのような特殊な車師が必要となる。地 すべりとか火山灰とかの場合には,安全に接近できる地上移動車が必要 である。


おわりに

 被災者や医療設備のじょうずな救出方法には,計画性と創造性とが必 要である。重要な観点は被災者の救出を容易にするために,予測される 集中行動をうまく誘導することである。被災者救出の段階は,@トリア ージ,A患者を集めること,B適切な施設への搬送,の順が最も効率が よく,効果的なシステムである。

 標準救急車は数が少ない。ほかの車両を使用することは,被災地から 治療施設へ多数の被災者を秩序正しく搬送するのに役立つ。


参考文献

--訳 谷 荘吉


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