(情報開発研究所、東京、1985)
rederick M.Burkle,Jr、M.D., M.P.H
民間でこの何年か用いられているトリアージは少しあいまいである。この修飾された形のトリアージは、日常まったく自動的に、医師の診察室、外来、救急室などでだいたい看護婦によって行われている。しかし、医師も、外来で予約患者をスケジュールどおりに診療している最中に突然、喘息患者の診察や治療で短時間そちらに手をとられることがある。その結果、スケジュールを作り直したり、遅れたりすることは日常茶飯事である。しかし、全部の患者に効果的なよい治療を行うことに重点がおかれている。
これに比して、トリアージを行わねばならない事態では、その場で治療の優先順位を決定しなければならない。たとえば田舎の病院で、限られた看護体制で2人の重症患者を抱えた場合には、待機体制の人々の応援が到着するまではどちらかの患者を優先させて治療するトリアージが必要な体制におかれる。
このトリアージ体制は、病院や救急医療部門ではしばしばまえもって準備されている。しかし、これは現場に十分な人員がそろえばただちに解除されるものである。
本稿では、通常の医療体制の能力を超えた多数の患者が発生し、長時間にわたりストレスの多い場面でトリアージを行わねばならないような、民間または軍事的大災害について言及したい。
トリアージは大災害時の医療対策の三大要素のうちの一つである。
民間災害では、現場に最初に到着した救急隊のうち上級のパラメディクか集中医療技術者(medical intensive care technician;MICT)が指揮をとる。現場のトリアージ指揮者は“TO”と反射性塗料で背中側と腹側にはっきり書いたチョッキをつけておく。軍隊では上級の衛生兵がこれに当たる。きわめてまれに、大災害時には、医師、看護婦からなるチームが現場に派遣されねばならないことがあるが、このような場含には消防隊や救急隊は萎縮してしまって仕事ができない。英国Be1fastにおいては過去20年問の民間災害で、医師・看護婦チームが出動したのはまれであった2)。
すべての地域の防災計画は病院の入口にトリアージ指揮者の名前を掲げておくべきであり、病院内の救急室の医師はあらかじめ決められたトリアージ指揮者がくるまではその役をつとめる。さらに指揮者が不在の場合を考慮して、かわりの指揮者の養成を行っておく。
トリアージ指揮者を選ぶことは非常にたいせつである。不幸にして、大災害時のトリアージ指揮者として上級外科医が責任者になっていたとすると、災害発生時には手術中であって現場に急行できないかもしれない。また、手術がじょうずなために最初の患者の手術を行うはめになることもある。このような事態での指揮者の不在は決定的な損害である。
適切な判断をくだすには外科的経験は必要ではあるが、いちおうある程度のことを全体的にこなせる一般医か一般外科医であって、ほかの任務についていない人が理想的なトリアージ指揮者である。
軍事災害時には、野戦病院のレベルでは、一般医で、トリアージの訓練を積み、外傷の初期評価、蘇生法、交信のできる者がこれに当たる。後方の軍病院でこれに当たるのは経験を積んだ上級外科医で、しばしば麻酔科医や整形外科医の助けを借りる3)。
トリアージは30分で終了することもあるが、数時間または1日を要することもある。この仕事は繊細さと協調性のある計画を要求し、消耗した医師や助手を交代させる必要がある。病院内でのトリアージ指揮者は通常、各科(たとえば臨床検査、X線、外科、ICU)の主任であり、彼らは各科の勝手な要求を退け、かつ各科間の壁を取り去り、緊密な連絡を常 に保つ。以下に、トリアージ指揮者に適した人の特徴をあげる。
数日の間は災害の実際の規模が不明なこともある。トリアージ指揮者は常に予想しえない状況の変化に注意する。経験のあるトリアージ指揮者のいた場合、事は適切に処理されている。患者の流れ、手当て、優先順位のすばやい確認などには、持続的に注意をはらっておく必要がある。
朝鮮戦争において、遅れて治療を開始すると、早期治療の場合よりも死亡率は高く、この理由として主として五つの要素が提起されていた4)。
これらの知見が衛生兵の教育に導入され、また、近年EMSの教育プログラムにも広く取り入れられ、下記の事項が特に強調されている5)。
さらに近年の民間または戦闘による災害対策により得られた優秀な成績により、各防災関係者やトリアージ指揮者に次の事項に注意するよう助言がなされている。
トリアージ指揮者は、いつでも二次救命処置法の原則を忘れずにAmerican Co1lege of Surgeonsの二次的外傷救命処置(advanced trauma 1ife support; ATLS)の推薦するガイドラインに沿って創傷の初期評価を行わなければならない6),7)。
トリアージの評価のためのガイドラインは外傷の重症度を表すいろいろな係数で表現されている(IPCAR, injury severity score, ER triage model, hospital trauma index, triage index, anatomic index of injury severity8), 9), 10), 11), 12), 13), 14)。種々の重要な考察や研究がなされているが、残念ながら、災害現揚のトリアージにはほとんど応用できない。
現在のところ、的確な判断、経験、トリアージの原則を守る以外によい方法はない。現在、経験豊かなトリアージ指揮者によって再評価がなされつつあり、直観的な方法が自動的に行われるようになるであろう。
1) トリアージの確実性
トリアージが現在、治療を必要としている負傷者をどれほど敏感にとらえるか、または見出すかが間題である(ただし、トリアージ後、数時間も現場に放置されていれば、トリアージの確実性は低くなる5), 15), 16)。
2)トリアージの特殊性
いかにうまく、トリアージが非緊急症例の混入を除外できるか(たとえば災害現場で、軽症者、加療の必要のない者、助けることが不可能な者、または助けるべき資材のない場合5), 15), 16)。
以下に示すような数量化されたデータは、防災計画の立案者にどの医療部門を優先すべきか示唆し、そしてトリアージ指揮者に種々の診断面においてどういう点を重視するかしないかを示唆する。2,3の標準的な効率の表し方があり、トリアージの評価に役立つであろう3)。
民間災害時でも少なくとも3か所のトリアージ場所(triage site)が存在する17)(図I-7)。
triage site 1,2ではトリアージはすばやく行い、蘇生部門、または他の部門へ患者を送る。triage site 3では決定的な治療、評価を行い、患者は病棟か、待期部門あるいは退院か、にそれぞれ移動する。
2)トリアージを成功させる方法
3)トリアージ:分類と手順
トリアージとは常に再評価を繰り返す連続した過程である。その基本は、被災者というものは外傷であれ、伝染病であれ、または放射線障害や熱傷であれ、同一のものである。トリアージによる分類は、病院の総力をあげて一人の患者に取り掛からねばならぬような患者を除外できなければやる価値がない。両極端の患者を病院にいれて、無用の重荷を強いてはならない(たとえば何もしなくても治癒するとか、治療してもまもなく死亡する患者など)。
4)triage site1(災害現場)
トリアージ指揮者の監督、指導力、臨床的判断はこの過程において最も重要な鍵である。
第1、 第2優先順位の患者に対するトリアージ回診は、患者数と傷害度によるが、数秒から15~30分程度で終了させる。
トリアージタッグに記入すべき事項を以下に掲げる。
(1) 搬出の方法
次は、閉じ込められている被災者でその順位は
(a) 赤色タッグ
(b) 黄色タッグ
(c) 緑色タッグ
(d) 灰色タッグ
タッグがすでになくなってしまったときには額にX印を消えないマジックペンで記入することが認められている19)(図I-10)。
ポータブル心電計は何人もの被災者の心拍を確認するのに便利である17)。死亡者にはみなで協カして適当にシートやビニール袋をかける。その後なるべく速く死体仮安置所に移送する。残った死体はビニール袋にいれて、防腐剤である4%ホルムアルデヒドを含む200ml溶液を腹腔内注入し、さらに200mlをビニール袋にいれておく。こうすれば、死体の腐敗を最大2週間遅らせることが可能である20)。大災害では死体の身許確認には長時間を要することがあり、特に重症の熱傷や体の変形がはなはだしいときに多い。
5)triage site 2(病院、救急室入口)
決められたトリアージ指揮者と助手はトリアージが完了するまで現場から離れない。
タッグをすばやく点検、蘇生法のABCが確実かどうかを確認。必要に応じて二次救命処置を行う。実際の処置は助手が行う。指揮者は処置に手を出してはいけない。さらに犠牲者の一団が到着すれば同様に処置する。triage site 1でのトリアージがうまくいっていれば、最重症患者のようすを特に慎重にみてもよい。しかし、あくまで全体の犠牲者の観察が必要である。
患者の状態は急激に変化する。緊張したtriage site 1の熱気のなかでは診断ミスも当然ありうる。ABCも不確実なことが多い。したがって、タッグのつけなおし、治療優先順位の変更の必要性も起きる。triage site 1でのトリアージタッグの正確さは約70%であるという。新しいタッグは古いタッグの上に重ねる。古いのをけっして捨ててはならない。
トリアージ指揮者は、看護婦、医学生、パラメディクまたは看護学生をそれぞれの患者に配置する。
c)患者の分類
triage site 2においてはすべての患者を以下の四つのカテゴリーのうちの一つにいれる21)。
6)triage site 3(病院内)
(1) 救急治療部門(immediate treatment area;ITA)
(c)施設
(a) 条件
(b) 例21)
(3) 非救急治療部門(de1ayed treatment area;DTA)
(b) 例21) 下肢の単純骨折、重症眼外傷、骨盤・脊椎骨折。
(c)施設
(4) 待期治療部門(expectant treatment area;ETA)
(b) 例21)手待ちの人員、資材で間に合わない重症多発外傷患者、重傷ではないが年齢やその他に心疾患などを有する患者、大量放射線被曝者。
(c)施設
b) 臨床検査部門
検査室主任または同等の経験を有するものが当たる。
(2) 予想される事態
平常時 | 災害時 |
血液一般 電解質 尿一般 腎機能検査 糖 血液ガス |
ヘマトクリット、ヘモグロビン ナトリウム、カリウム 比重、血尿 血液尿素窒素 デキストロスティック 炭酸ガス分圧 |
上級放射線専門医がこれに当たる。
(2) 予想される事態
(3) 注意事項
d) 外科部門
上級外科医がこれに当たる。
(2) 予想される事態
(3) 注意事項
e) 救急看護単位
看護部長、婦長がこれに当たる。
(2) 予想される事態
(3) 注意事項
救急ベッドは5日間使用されると計算する。スタッフの疲労、物資の不足は必ず生じ、ほかの病棟への移動を必要とする。それをしないと後の罹患率、死亡率が高くなる。
f) 内科部門
(1)水電解質に関するコンサルテーション
(2)感染症に関するコンサルテーション
(3) 放射線、化学性、環境性災害のコンサルテーション
g) 外来息者の退院前部門
医療資材が極度に少ない前線での一連の処置は楽ししい仕事ではない。しかし、生存のチャンスのある者は救出し、そうでない場合にはあとにまわすという軍事的決定が必要である。
朝鮮戦争では、トリアージの原則が守られたため、被害者の生存率の向上がみられた。それ以上の好成績がベトナム戦争で得られ、ここではよりきめの細かいトリアージ、そして救出が行われた 5), 28), 29)。表I-4にその成績を示した。
死亡率は第二次世界大戦以釆、有意に減少しており、これを表I-5に示す28)。ベトナム戦争で死亡率が1%に減少した理由は、ヘリコプターに よる早急な搬送、スタッフ、資材ともに豊富な病院、すばやいトリアー29)ジと処置、そして敵側の戦力の劣勢のためである。負傷者は一違の医療施設において適切な処置を受けていた(図I-11)。
第一次世界大戦 第二次世界大戦 朝鮮戦争 ベトナム戦争 |
12~18時間 6~12時間 2~4時間 1~2時間 |
第二次世界大戦 朝鮮戦争 ベトナム戦争 | 4.7% 2.0% 1.0% |
2)組織化された最初のトリアージ施設
この野外施設には1人の臨床経験豊かな医官と獣医、歯科医、看護婦と8人の衛生兵がいる33)。3軍(陸、海、空)野戦医療コースが現在すべての医療担当者のためにあり、救急蘇生法、トリアージについて教育を行っている。
戦場にあっては、医師でない医療担当者がこの施設で重要な役割を握っている。
もう1ステップ後方の施設または野戦病院への搬送は、武装した車輌で行われる。ヘリコプターは、戦場または最初のトリアージが行われた場所から負傷者を運ぶ。このような場合には、第2トリアージの場所を通り越して次の場所へ運ぶ。
3)第2トリアージ施設
最も重要なことは、その地方に特別な災害対策計画があり、それらの義務を妥当な方法で遂行することができる経験豊かなトリアージ指揮者が存在することである。また、そのために用意してある資材を十分に利用するのに最善を尽くす医療従事者が待機していることである。
初療に当たるとき、種々の程度のショック患者の処置、評価、モニタをすることがしばしばある。患者が手術室や搬送途中で決定的な治療を受けられるようになるまで患者の状態を安定させたり、また、安定した状態を保つことが要求される。このようなときには爆弾の上にでも座っているような感じとなり、時間が無限に長く感じられる。救急隊員は、犠牲者の状態をこれ以上安定させることができないと思われたら、ただ ちにトリアージ指揮者に報告しなければならない。輸血などの方法を用いて安定させ、優先順位をあげてすみやかに手術室に搬送するか、または治療のできる場所に送るかする責任がある。 災害という不安と混乱のなかでは、外傷に対する基本的蘇生法をしっかりのみこんでから仕事ができるとは限らない。したがって、初療に当たる人が病院にきたときに初療の方針を単純かつ明瞭に書いたガイドラインのリストを渡すのも一つの方法である。多くの医師、特に外科以外の専門家が外傷患者の取り扱いについて知識をひけらかすのはよくない。ガイドラインは、犠牲者に蘇生法を施すかどうか、蘇生法のABCのための予備的な処置が取られているかどうかを確かめるためにあるからである。
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b)臨床的ショック
(1) 第一段階:ただちに行うべき処置
(2) 第二段階:バイタルサインが安定したら
(3) 第三段階:搬送に備えての準備
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