意見交換

二相性波形(除細動器)の位置付け

救急医療メーリングリスト(eml-nc)より、050805


From: 越智元郎
Date: Fri, 05 Aug 2005 23:41:40 +0900
Subject: [eml-nc5: 1250] 二相性波形(除細動器)の位置付け

 救急救命九州研修所 畑中さん、eml-ncの皆様、市立八幡浜総合病院麻酔科 
越智元郎です。

〇
 8月7日(日)に宇和島市で開催されるICLSコースでモニターブースを担当す
ることになりました。コースでは二相性波形AEDの話題が出ると思われ、私もこ
れについて自分の意見をまとめておく必要があります。そこで、先日、日本麻
酔科学会で畑中さんにお教えいただきましたAHAのサイトの資料をみてみること
にしました。

越智より(eml-nc5: 0937)
|□畑中さんのご講演
| ILCOR(国際蘇生連絡委員会)の2005年会議の勧告については今年秋の誌
|上発表まで非公開ですが、畑中さんからAHA(アメリカ心臓協会)のサイト
|にかなりの資料が公開されていることをお教えいただきました。
	http://www.americanheart.org/presenter.jhtml?identifier=1200000
|上記ウェブで C2005を検索しますと、多数の資料を直接読むことができます。
|秋まで時間がありますので、ゆっくり上記の資料にあたってみたいと思いま
|す。畑中さん、わかりやすいご解説有難うございました。

〇
 私が参照したのは以下のワークシート(Biphasic vs Monophasic)です。
http://www.americanheart.org/downloadable/heart/1105453382698b.BiVsMono.KK.12Dec04.Final.pdf

 ここではG2000の以下の記載について再検討しています。
「Biphasic waveform defibrillation with shocks U<U 200 J is safe and has 
equivalent or higher efficacy for termination of ventricular fibrillation 
(VF) compared with higher-energy escalating monophasic-waveform shocks 
(Class IIa)」
*なおG2000は二相性波形が単相性と同様またはそれ以上に有用(Class IIa)と
 しながらも、いくつもある二相性波形のうちのどれが最も優れているのか、
 また二相性波形AEDによる最も有効なエネルギ−レベルがいくらであるのか
 などが確定されていないことから、AEDに関する決定的な位置づけを先延ば
 しにしています。

 C2005の今回の検討テーマは以下のものです。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
“Biphasic waveforms for use in transthoracic external defibrillation of 
VF cardiac arrest are more efficacious (higher rates of VF termination, 
ROSC, and survival) as well as safer (less adverse effects) than monophasic 
waveforms”.
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 そして、上記仮説に賛成、中立・反対のたくさんの論文をクラス評価してま
とめています。

 その結論はこのワークシートには書かれていないように思いますが、ウェブ
へ送られた以下のような個人意見が一つの方向性を物語っています。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
Comment-1) Based on the studies presented, I found a majority of the 
evidence confirms the superiority of biphasic waveform over monophasic 
waveform shocks. I think it is time for the AHA to update their 2000 
guidelines to make a definitive recommendation on the effectiveness 
and safety of biphasic defibrillation over the traditional monophasic 
defibrillators.
http://www.americanheart.org/presenter.jhtml?identifier=3028526
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 私も論争の根拠となる諸論文の質と量からみて、「monophasicの時代やない」
という結論が用意されているような気がしました。ただ、1点疑問は医療経済
的にどうなのか? ということがあります。
・「早期除細動」は今も極めて重要な転帰決定因子である。効果なbiphasicを
 1台買う代わりに、値崩れした monophasicを2台(以上)買って配置する方
 が社会的に有益では?
・monophasic → より高いエネルギ− → より強い心筋傷害 → より低い蘇生率
 という経路は十分には証明されていないのでは?

*「箱物」好きのわが国では早くから、「二相性波形」の(効果よりも)安全
 性ゆえに、救急救命士の包括的指示下の除細動や市民による除細動を許可し
 うるのだ・・という強い論調がありました。私は単相性波形の除細動器(旧
 来の半自動式除細動器など)をさっさと「廃棄」してしまい、日本中にピカ
 ピカの二相性波形AEDを並べるようなぜいたくはしないでいただきたいと思
 います。先進諸国最大(GDP比)の財政赤字をかかえるわが国ですから・・
 (あるいは二相性波形AEDの騒ぎが景気浮揚に役立つかも??)

 畑中さんをはじめ皆様のご意見はいかがでしょうか。


Date: Tue, 09 Aug 2005 10:10:03 +0900 From: 畑中哲生 Subject: [eml-nc5: 1266] 二相性波形(除細動器)の位置付け 越智さん、みなさん、こんにちは。 救急救命九州研修所の畑中です。 Biphasic vs. Monopashicについては、資料が膨大で、一つ一つを詳細に検討す るのは至難の業ですね。というわけで、私はすべての論文のを読んだわけではあ りませんので、かなりいい加減なコメントとしてお読みください。 越智さん、いわく: >  私も論争の根拠となる諸論文の質と量からみて、「monophasicの時代やない」 > という結論が用意されているような気がしました。ただ、1点疑問は医療経済 > 的にどうなのか? ということがあります。 > ・「早期除細動」は今も極めて重要な転帰決定因子である。効果なbiphasicを >  1台買う代わりに、値崩れした monophasicを2台(以上)買って配置する方 >  が社会的に有益では? 賛成です。Biphasicが生存率に与える優位性については、まだまだMonoを放棄さ せるには不十分なデータしか揃っていないと感じています。ROSCで見る限り、 Biphasicの方が優れているようですので、これはこれで一定の重みがあると思い ますが、現状は「Monoでもなんでも数ある方が得」ではないでしょうか。1台の Biphasicの代わりにMonoを2台....この戦術が有効かどうか、私はわかりません が、すくなくとも現行のMonoを放棄するべきではないと思います。 > ・monophasic → より高いエネルギ− → より強い心筋傷害 → より低い蘇生率 >  という経路は十分には証明されていないのでは? 「通電による心筋障害は確実に存在するが、長期の成績に有意な影響を及ぼす程 ではない」というのが一般的な解釈になっているように思います。さらに、現時 点で示されているBiとMonoの差については、波形そのものの影響だけでなく、む しろ除細動プロトコルの影響を受けている可能性もあります。 例えばBiphasic、150J固定で3連続する場合は、初回から最大Jを用いることにな ります。一方、Monoでは初回は遠慮がちに(200J)、だめなら漸増という図式で す。仮にBiphasic-150JとMonophasic-360Jが、同等の効果を持つとします。(こ のことを間接的に示すデータもありますね。) 150J(Bi)と360J(Mono)が同等であるという仮定自体が、Biphasicの優位性を 示すものであることは明らかですが、しかし、この差とは、すなわち心筋障害の 程度の差であって、そのことが決定的差になると考える必要はなさそうです(上 記)。つまり、ROSCさえ同等であるなら、どちらも同様に有用である可能性があ ります。 ところが、現行の3連続プロトコルを採用する限り、Biphasicの場合は初回から 最大出力を用いるのに対して、Monophasicの場合は3回目になって初めて最大出 力となります。ですから、もし、Monophasicを用いる場合に、初回から最大出力 (360J)を用いれば、Biphasicと同程度の効果が得られる可能性も残っていると 思います。何しろ、Monophasicを用いる場合、必要な360Jに到達する前に「不十 分な」エネルギーによる(無駄な)通電と、それに伴う(無駄な)解析・充電 (その間、心マは中断)という大変な悪条件を伴うわけですから(上記の仮定が 正しいとするならの話ですが)。 実際、Biphasicを用いる場合には2回目、3回目の累積ROSC率は1回目の成功率と それほど変わらないのに対し、Monophasicを用いる場合には、2回目、3回目とな るにつれて累積成功率が上がっていくことが示されています。これはBiphasicが 初回から最大出力を用いることが功を奏しているのかもしれません。 大変ややこしい話ですが、要するに、もしも(仮に)、3連続プロトコル改め1 −Shockプロトコルとなったら、そして、もしもMonophasicの場合にも、1-shock プロトコルとなり、かつ、もしも(仮に)Monophasicの1-shockは360J で行うと いうことになったとしたら、BiphasicとMonophasicの成績はそれほど違わないも のになるという可能性も残っていると思います。 ということで、貧乏国の日本としては、BiphasicでもMonoでも、「質より量」で 勝負するというのは、充分に魅力的な考え方かも知れません。また総選挙で金も かかることですしね。 -畑中哲生 救急救命九州研修所


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