新しい CPR世界指針と ILCOR、JRCのあり方

救急医療メーリングリスト(eml-nc)より


目次
福井 [eml-nc5: 0929] 日本麻酔科学会に参加して 
A  [eml-nc5: 0932] Re: 日本麻酔科学会に参加して 
B  [eml-nc5: 0933] Re: 日本麻酔科学会に参加して 
A  [eml-nc5: 0934] Re: 日本麻酔科学会に参加して 
福井 [eml-nc5: 0935] G2005 心マ呼吸比は? 
越智 [eml-nc5: 0937] Re: 0929 日本麻酔科学会に参加して 
C  [eml-nc5: 0938] Re: 日本麻酔科学会に参加して
福井 [eml-nc5: 0940] 遥かなるILCOR 
福井 [eml-nc5: 0948] J リーグとJRC
D  [eml-nc5: 0951] CPR時の呼吸数 
E  [eml-nc5: 0955] Re: CPR時の呼吸数 

畑中 [eml-nc5: 1078] JRC からのメッセージ

福井 [eml-nc5: 1085] Re: JRC からのメッセージ

From: 福井道彦(医師)
Subject: [eml-nc5: 0929] 日本麻酔科学会に参加して
Date: Sat, 4 Jun 2005 20:35:56 +0900

福井:大津市民病院です。
6月2日4日と飛び石で日本麻酔科学会に参会しました。

(中略)
本日(6/4)は九州研修所の畑中氏からG2005を予想する内容の講演がありました。

ポイントの一つが「BLSにおける絶え間ない心マの強調」といった印象でした。具体
的には、15:2を30:2に、3連発のDefを1回でだめなら心マを行うといった
案が示されているそうです。
その背景には、現行のBLSガイドラインが複雑微細になりすぎていて「心停止を見た
ら絶え間ない心マと早期除細動」の再確認の要素もあるようです。

ただ、「なぜ30:1なのか」に関するエビデンスはなさそう。100:1でも1:
0(CC only)でもOKのような感じがしました。G2000の「早期除細動1分遅れるごと
に7−10%社会復帰率低下」という高いエビデンスとPADという新戦略に対する高い推
奨度から比べると、まあ、マイナーチェンジ。
でも、マイナーチェンジにしたら、ちょっと、ころころ変えすぎですよね。

日本はどうするんでしょうか?
おそらく、日本におけるG2000関係の取組みの総括評価も無いまま、AHA2005ガイドラ
インの和訳配布でしょうか?

PADにしても、多くの国はG2000と同時にスタートして、G2005は正に五年の経過を踏
まえた見直しですが、日本のPADは2004年7月1日スタートで総括すべき5年間が存在し
ない。2000年版PADという種を遅蒔きながら蒔き終わって芽が出るか出ないかで、新
品種のPADの種まき?いつになったら結実するんでしょう?

せっかく、畑中さんから、新ガイドライン速報を示してもらっているのにワクワクし
てこない。夏休みの宿題を放ったまま、秋風を感じたような気分でしょうか?

「日本は消化不良だから、G2000でG2010まで行きます」
などという「英断」が下されることも無いんでしょうねえ・・・


From: 福井道彦 Subject: [eml-nc5: 0935] G2005 心マ呼吸比は? Date: Sun, 5 Jun 2005 11:36:51 +0900 Aさん、Bさん、G2005に関する追加情報ありがとうございます。 福井:大津市民病院です。 分かりやすくするのにタイトル換えました。 Compression OnlyのオプションはG2000にも明示されていますし、2−3年前、日本で 講演したIdris教授も「次のBLSガイドラインはABCDからCCCDへの変更だ」といった内 容でした。 先日以下のEditorialを目にしてタイトルだけメモしてました。 Cardiopulmonary resuscitation in the real world: when will the guidelines get the message? JAMA. 2005 Jan 19;293(3):363-5. Sanders AB, Ewy GA. EwyさんたちはEditorialとして「100:2でどうだ!」とぶち上げて「いつになった ら、ガイドラインは実態を反映するんだ!」と怒っておられました。 この中で「何が脳血管障害だ、何が不整脈解析だ。そんな内容はガイドラインを複雑 にするだけで救命率を上げるか?! 『絶え間ない心マと早期除細動』へ回帰しよう ・・・(かなり意訳しています 笑)」といった論旨を展開されていたと記憶しま す。 これは、私の想像ですが、Ewy Idris WeilといったCC onlyグループと15:2支持派 (誰か知りませんが)との妥協の数字が30:2なのかなと考えています。少なくと も、30:2を40:2にしたところで現時点では何の有意差を示すエビデンスもありませ ん。 そこで、実際のBLS指導では、30:2という数字は目安程度にして『絶え間ない心マと 早期除細動』の重要性に重きをおいた指導を構築すべきではないかと考えるしだいで す。 余談ですが、Ewyが指摘するACLSから不整脈他を除いたコースが日本のICLSですか ら、救急医学会は確りとその教育効果を評価して世界に自慢して欲しいですよね。


From: 越智元郎(医師) Date: Mon, 06 Jun 2005 07:13:56 +0900 Subject: [eml-nc5: 0937] Re: 0929 日本麻酔科学会に参加して  福井さん(大津市民病院)、・・さん(・・病院)、畑中さ ん(救急救命九州研修所)、eml-ncの皆様、市立八幡浜総合病院麻酔科  越智元郎です。 (中略) □畑中さんのご講演  ILCOR(国際蘇生連絡委員会)の2005年会議の勧告については今年秋の誌 上発表まで非公開ですが、畑中さんからAHA(アメリカ心臓協会)のサイト にかなりの資料が公開されていることをお教えいただきました。 http://www.americanheart.org/presenter.jhtml?identifier=1200000 上記ウェブで C2005を検索しますと、多数の資料を直接読むことができます。 http://www.americanheart.org/presenter.jhtml?identifier=10000015&q=C2005 秋まで時間がありますので、ゆっくり上記の資料にあたってみたいと思いま す。畑中さん、わかりやすいご解説有難うございました。  蘇生に関しても科学的知見の蓄積に伴い指導内容や実践が変わってゆくの はやむを得ない、あるいは望ましいことだと思います。ただ、会場で福井さ んもコメントしておられましたが、これらの国際的な蘇生方針の変更をどの ようにわが国に反映させてゆくかという流れにもどかしいものを感じます。 ・わが国がILCORを奉じる必然性は?  わが国はILCORの「客人」に過ぎず、遅々として進まないILCOR加盟のた  めの調整(現時点ではアジア蘇生協議会の設立が待たれる) ・わが国がAHAを奉じる現実は今後も?  JRCによる国内指針もあることはあるのですが、その指針も教育活動も  完全にAHAに押されていますね。 ・日本蘇生協議会(JRC) の活動は見えている?  一国の蘇生方針を決めることのできる機関として設立されたJRCの存在  とその活動が見えない(G2000の翻訳版刊行のみ。CPR&ECC普及活動は国  内の団体に委嘱)。  「日本心肺蘇生法協議会への提言」 http://plaza.umin.ac.jp/~GHDNet/00/k3sosei.htm  以上、少し辛口の感想になりましたが、失礼を致します。 福井さんより(eml-nc5: 0929): >ポイントの一つが「BLSにおける絶え間ない心マの強調」といった印象でした。具体 >的には、15:2を30:2に、3連発のDefを1回でだめなら心マを行うといった >案が示されているそうです。 >その背景には、現行のBLSガイドラインが複雑微細になりすぎていて「心停止を見た >ら絶え間ない心マと早期除細動」の再確認の要素もあるようです。


From: 福井道彦 Subject: [eml-nc5: 0940] 遥かなる ILCOR Date: Mon, 6 Jun 2005 22:41:11 +0900 福井:大津市民病院です。 タイトル変えました。 (中略) ILCORの設立趣旨は一国では集め切れない蘇生に関するエビデンスを国際協力で担保 して、質の高い国際ガイドラインを策定しようということだと思います。世界有数の 医療費を使いながら日本からの蘇生に関するエビデンスは0に近い。医療費に見合っ た「提案」ができて初めて、日本がILCORに参加する意味があると考えます。 JRCの仕事は「国際親善」などではなく「国内意見の集約と提案」だと思います。 2001年だったかにJRCの関係者からILCORビジネスミーティング参加報告を学会で聞き ましたが、「電話帳くらいの英語資料が送られてきてついていけなかった」「知り合 いの教授と旧交をあたためた」「帰りにウイーンフィル聞いてきました」「G2000の 日本語訳が大変」・・・ (中略) そもそも、JRCのメンバーはどのように選ばれたんですか? 「非政府組織で国を代表する唯一の蘇生関係団体」といったILCORの要求をJRCは本当 に満たしているんでしょうか? 私も蘇生関係者だと思うんですが、われわれはJRCメンバーを罷免できるんですか? 罷免というのは穏やかでないとしても、国の唯一の団体の活動内容に要望を上げられ るんですか?設立後、4年以上になると思いますが全くJRCという組織が見えませ ん。 繰り返しますが、JRCが国を代表する組織としての地位を不動にするには、国内意見 を集約し提案する活動を開始することと、AHAのようにホームページなどを通して直 接的に国民啓発活動を行い国民からの直接支持を得る必要もあると思います。 頑張れJRC!!


From: 福井道彦 Subject: [eml-nc5: 0948] J リーグと JRC Date: Wed, 8 Jun 2005 23:06:33 +0900 福井:大津市民病院です。 みなさんも、ワールドカップ本戦出場を喜ばれていることと思います。 以前、「JRCの仕事は国際親善ではなく国内意見の統合だ」みたいなことを書きまし た。 自分で書きながら「非政府組織で国を代表する唯一の団体」が具備すべき要項は何か などと、その後も考えることになってしまいました。 そして、今日、「日本サッカー協会なんか、最高峰の非政府唯一の国の代表だなあ」 と思ったしだいです。仮に政府が「現行のサッカー日本代表を国の代表と認めない」 なんて言ったら、政府の方が倒れるかもしれない(笑)。 JFLの頃を思い起こすと、今のJリーグがそこから生まれたことさえ信じられないほど の盛り上りです。川渕の強力なリーダーシップを超えたオーナーシップにより、サッ カー文化を日本に根付かせる戦略が国民の支持を確実に得てきているというところで しょうか・・・ やっぱり、JRCも唯一の日本代表となるには、蘇生文化を日本に定着させる運動を市 民に対して展開し、市民の支持を得ることが何より重要だとの考えが確信になってき ました。 頑張れJRC!!


Date: Mon, 04 Jul 2005 13:53:44 +0900 From: 畑中哲生(医師) Subject: [eml-nc5: 1078] JRC からのメッセージ 皆さん、こんにちは: 救急救命九州研修所の畑中です。 JRCの岡田会長から本メーリングリストの皆様へ、現状説 明と展望についてのアナウンスを預かっておりますので、 掲載させてください。ご質問、お問い合わせにつきまして は、畑中が責任を持って仲介いたします --------------------------------------------------- 日本蘇生協議会(JRC)の岡田です。JRCを取り巻く現状を 報告させて頂きます。 ●新規トレーニングセンター設立と協力の依頼 JRCはAHAのITOとして、国内のAHAコース普及に努めていま す。現在、コース開催は唯一のトレーニングセンターであ るACLS協会に委託してきました。ACLS協会の御尽力で多数 の受講者が登録されております。しかし、全国への心肺蘇 生法の普及と言う意味では、現状のままでは不充分であり ますので、このたび、ACLS協会と並んで新たなBLSトレー ニングセンターを認可いたしました(6月1日付け)。 さらに多くの受講希望者にお答えするために、JRC-ITOと しましては、今後、複数の新規トレーニングセンター (ACLSを含む)を認可する予定です。JRC−ITOの活動に協 力しても良いとお考えの方がおられましたら、お申し出頂 くよう、お願いします。 なお、新規トレーニングセンター設立に関するお問い合わ せがありましたら、どうぞ御遠慮なくお申し出下さい。連 絡先は、このメールングリストのメンバーであり、JRCの メンバーでもある畑中先生の個人メールへお願い致します。 個人情報を遺漏しないことは絶対に約束いたします。また、 ITOとしてのJRCは、現在、急速に普及しつつあるICLSと AHAのコースとは決して排他的な関係ではなく、互いに補 完・補助すべき立場にあるとの認識をもっております。 ●アジア蘇生協議会(Resuscitation Council of Asia: RCA)がまもなく発足 韓国(KACPR)、台湾(NRCT)、シンガポール(NRCS)と 日本(JRC)の4カ国でアジア蘇生協議会(Resuscitation Council of Asia: RCA)が発足することになりました。7 月16、17日に愛知万博の会場と愛知医科大学で「2005年国 際博覧会記念 第1回国際災害・救急シンポジウム」(愛 知万博記念災害・救急医療研究会:会長 愛知医科大学教 授野口宏先生)が開催される予定ですが、その折、4カ国 の代表者が集まってRCAの発会式(調印式)を行うことに なっています。プログラムの中にはACLS協会による Heartsaver AEDコースやアジア・米国からの招待者による シンポジウム「各国におけるChain of Survivalの現状」、 兵庫医大の丸川先生による「教育講演:災害医療(JR福知 山線列車事故からみえたこと)」もあります。畑中先生に も新しいガイドラインを紹介していただきます。多数のご 参加をお待ちいたします。この企画に関するお問い合わせ も畑中先生の個人メールへお願い致します。 ●ILCOR加盟と我が国の新ガイドライン RCAの結成によりILCOR加盟への準備がほぼ整ったことにな ります。ILCORとJRCとの関係については、このメーリング リスト上でも励ましの意味を込めた厳しい、だが前向きの コメントを頂いたと伺っております。JRCとしても単に ILCORの「乳を吸う」のではなく、新しいデータを提示で きる体制を模索しています。その一つとして、C-2005の策 定過程で明らかになった「この点に関するデータが欲しい のだが、実際にはそこを明らかにした研究がなされていな い」...そんなテーマを集積して、皆さんの研究のお手伝 いができればと考えています。 本年、秋にILCORのC-2005が発表になります。これに基づ く新しいガイドラインについては、関連学会レベルで、臨 床医学的な論議を経て我が国の事情にあった内容のガイド ラインを策定していただくよう働きかけております。 以上は、小さな一歩ですが、どうか御支援、ご期待くださ い。 --------------------以上--------------------------- -畑中哲生 救急救命九州研修所


Date: Tue, 5 Jul 2005 14:59:13 +0900 (JST) From: 福井道彦 Subject: [eml-nc5: 1085] Re: JRC からのメッセージ 畑中さんこんにちは。 福井:大津市民病院です。 JRCからの即時性の高いステートメントに接するのは初めてで 嬉しく感じました。是非、AHA同様にJRCのホームページから直 接国民に提言を発信し、蘇生に関する日本唯一の非政府代表と しての国内的な存在感を高めていただきたいと思います。 さて、今回のアナウンスで幾つかの疑問が解決できません。可 能な範囲でコメントをいただければ幸いです。 Q1.「JRCはAHAのコース普及が目的なんでしょうか?」 > ●新規トレーニングセンター設立と協力の依頼 > JRCはAHAのITOとして、国内のAHAコース普及に努めていま > す。現在、コース開催は唯一のトレーニングセンターであ > るACLS協会に委託してきました。 日本の標準二次救命講習はICLSだと理解しています。ICLSはG2000 を基に医師会・消防・日赤と作法のずれを修正し、日本救急医 学会・日本医師会などがコンセンサスを確認して創出した「日 本の統一蘇生コース」と言えると思います。各地で開催され、 日本医師会・日本救急医学会が認定した修了証書が発行されて います。ICLSの内容はACLSの簡易版ですが、G2000完全準拠で す。ヨーロッパでもICLS同様の1日コースが一定の成果を挙げ ているとの報告もあります。 Q2.「ICLSの教育効果等の検討・評価・展開に関する援助がAHA 版ACLS普及以上に優先するように思うのですがいかがでしょう?」 救急医学会のICLS認定管理にしても一部ボランティアの献身的 な奉仕で成立しているように理解しています。JRCには、そう いった日本の活動の育成援助をお願いしたいと思います。 BLSに関しても、本邦では2004年7月に厚労省から「非医療従事 者によるAEDの使用について」が提示され、「一般市民」「一 定頻度対応者」「講師」の3群分けでG2000準拠の講習内容が 示されました。AHAのBLSをそのまま流用することは不適切と考 えます。 Q3.「これら日本のBLS3コースに関わるコンセンサス調整と展 開の検討が喫緊の課題と考えますがいかがでしょう?」 JRCは日本を代表する団体でありAHAと並列する関係と理解しま す。JRCがAHAのACLSだけを「優遇」することに違和感がありま す。 AHAは世界で最も充実した講習コースを構築してきた実績もあ り学ぶことも多いと思います。幸い、その内容の紹介に日本ALCS 協会が多大な努力を払われ、日本にいながら「本物」のACLS講 習に触れる機会を提供されています。日本のACLSは同協会で一 本化することがコースの質の管理上も明快だと思います。トレ ーニングセンター不足があるのなら、まずACLS協会から現状報 告と協力要請が出て、その内容をJRCとして裏書する方が自然 だと思います。 Q4.「JRCとして、現在のACLS活動の限界をどうとらえて、AHAの トレーニングセンターをどれくらい増設して、新センターにど の程度の活動を期待され、日本全体でどれくらいの効果を予想 されているのでしょうか?」 Q5.「日本におけるAHAのACLS事業はNPO法人として公共性の高い 活動の場を整備充実されてきた日本ACLS協会にITO業務を含め て一括できないのでしょうか?」 RCAの設立、ILCORへの加盟などを勘案すると、JRCは「日本版 (アジア版?)プロバイダーマニュアル」作成管理に特化して 、内外の関係者の力を結集し世界に評価されるマニュアルを実 現させていただきたいと期待しております。 福井道彦 大津市民病院


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