ILCOR-CoSTR

第4部 二次救命処置
(Part 4: Advanced Life Support)

はじめに(Introduction)
原因と予防(Causes and Prevention)
気道と換気(Airway and Ventilation)
心停止中に投与される薬剤と輸液(Drugs and Fluids for for Cardiac Arrest)
モニタリングと循環補助(Monitoring and Assisting the Circulation)
切迫心停止期の不整脈(Periarrest Arrhythmias)
特殊な状況での心停止(Cardiac Arrest in Special Circumstances)
蘇生後の治療(Postresuscitation Care)
予後(Prognostication)


[現在の翻訳レベル=二次チェック後 060310] [原文] [参考文献

■はじめに

 ILCOR2次救命処置に関する特別委員会によって再検討されたトピックは次のようにまとめられる:(1)原因と予防、(2)気道と換気 (3)心停止中に投与される薬剤と輸液、(4)循環動態をモニターし補助するための手技と装置、(5)切迫心停止期の不整脈 (6)特殊状況下での心停止、(7)蘇生後の治療、(8)予後 である。 電気的除細動に関するトピックスは第3部で論じられる。

 ILCORが前回、2000年に検討して以来の、最も重要な進 歩には次のようなものが挙げられる。

 治療において確固とした推奨をおこなうためには、なお、多くの項目に関してデータが不十分で あった。下記についてはさらなる研究が特に求められるものである:


■原因と予防

 救助者は心停止を来たす非心原性の原因を見つけ、原因に即した一連の蘇生を試みることが可能かもしれない。病院内で心停止となるたいていの患者は心停止となる前の数時間には、悪化の徴候を示している。 これらの ハイリスク患者を早期に同定して、METs(合衆国では Rapid Response Teamという名称でも知られている)呼び出しによる即応治療は心停止の予防に役立つかもしれない。多くの国々で、病院がMETsのような早期警報のシステムを導入つつある。

心停止の病因の同定

科学的コンセンサス

 心停止の病因を直接扱ったデータは極めて少数である。1つの前向き研究(LOE 3)1と1つの後ろ向き研究(LOE 4)2は、救助者がいくつかの非心原性の原因を識別しうることを示唆した。

推奨される治療

 救助者は身体状況、病歴、あるいは心停止の前の状況などにより、心肺停止の非心原性の原因をつかむことができるかもしれない。 このような場合、救助者はその予想される非心原性の病因に基づいて治療をするべきである。

医学的緊急時チーム(MET)の効果

 ここで検討されたMETsとは、一般に重症患者治療の訓練を受けた医師と看護師で構成され、24時間稼動体制、応召に対し即時に反応可能、そして特異的で 明瞭な応召基準を有したものであった。 MET システムには通常、病棟スタッフに対する重篤な病状の早期認識法についての教育 戦略(strategy for educating ward staff)も含まれる。METシステムの変則形として、重症管理 outreach team や patient-at-risk team があ る。このような変則チームはすべて、重症もしくは心停止の危険性がある患者を同定する早期警戒 スコアリング(EWS)システムを用いている。

科学的コンセンサス

 METの導入前後で検討された2つの単一施設での支持的研究3,4によると、METの導入後、心停止率は有意に低下し、心停止後の転帰(例えば生存率やICU滞在期間)も改善した。1つのクラスター無作為化対照試験では、MET システムが導入された12の病院と通常のシステムのままであった11の病院との間で複合プライマリエンドポイント(心停止、予期せぬ死、計画せぬICU入院)では有意な差がなかったことを示している。この研究では、しかしながら、METシステムは緊急チームへの通報回数を有意に増やしている。一方、2つの中立的な研究で、成人の病院内での心停止と総死亡率を減少させ(LOE 3)6、ICUへの計画外の入室を減少させる傾向があることが示されて いる(LOE 3)7。また、1編の前後比較研究では、小児病院にMETシステムを導入した後、小児の心停止や死亡 が減少した8が、これらは統計上の有意差にまでは達しなかった。

 2つの前後比較研究(LOE 3)9,10が、EWSシステムの導入後に計画外のICU入院での死亡率が減少したことを 示した。院内での他の前後比較研究(LOE 3)11では、悪化のリスクがある成人患者を判別 し治療するためにEWSシステムを用いても、心停止の発生率や予定外ICU入室を有意に減少さ せることはできなかった。

推奨される治療

 成人の入院患者のためにMETシステムを導入する際には、実施における細部(例えば、チーム構成や利用条件、コールの基準、病院スタッフに対する教育や啓蒙(education and awareness of hospital staff)、チームの起動方 法)に十分配慮する必がである。成人の入院患者のためにEWSシステムの導入を考慮してもよい。


■気道と換気

 気道と換気管理に関連する検討会議でのトピックスは以下のように分類される。(1)基本的な気道管理器具、(2)高度な気道管理器具、(3)高度な気道管理器具を留置できたかどうかの確認、(4)高度な気道管理器具の固定法、(5)換気の方法。

基本的な気道装置

鼻咽頭エアウェイ

科学的コンセンサス

 麻酔科医が鼻咽頭エアウェイを頻繁にしかも有効に使用しているにも関わらず、CPR中のこれらの気道補 助具使用についてのデータはない。麻酔中の患者における1つの研究では、看護師が鼻咽頭エアウェイを挿入しても、麻酔科医の場合と比べ鼻咽頭損傷を起こす可能性が高くはならなかった(LOE 7)12。1つのLOE 5研究13は鼻咽頭エアウェイのサイズを測る伝統的な方法(患者の小指あるいは前鼻孔の計測)が鼻腔の広さとは相関せず、信頼できないことを示した。1編の報 告によると、鼻咽頭エアウェイの挿入が30%の症例で気道のどこかに出血を起こしていた(LOE 7) 14。2編の症例報告によると、頭蓋底骨折患者で鼻咽頭エアウェイの偶発的な頭蓋内挿入が認めら れた(LOE 7)15,16

推奨される治療

 頭蓋底骨折が判明していたり疑われていたりする時には口腔エアウェイが好ましいが、それが不 可能であったり気道が閉塞しているならば、鼻咽頭エアウェイを優しく挿入することが救命的とな る(すなわち、利益がリスクを上回る)かもしれない。

高度な気道管理器具

 気管チューブは一般に心停止時の気道管理に最適な手段であると考えられてきた。しかし適切な 訓練と経験なしには、気づかれない食道誤挿管といった合併症の発生率が容認できないほど高いことを示すエビデンスがある。CPR中の気管チューブの代用として比較研究された高度気道管理器具とし ては、バッグバルブマスクと、ラリンジアルマスク(LMA)や食道・気管コンビチューブ (気管食道コンビチューブ)がある。 心停止時に気道管理としてどの方法をルーチンとすればよい かを示すデータはない。最良の気道管理方法が何かについては、心停止現場状況の詳細と救助者の能力(competence)によって決まることになる。

気管挿管 対 バッグバルブマスクを用いた換気  W57

科学的コンセンサス

 成人の心停止において、バッグバルブマスク単独と気管挿管を伴う方法とで、気道と換気管理の効果について比較した無作為試験はなかった。

 気管挿管とバッグバルブマスク換気を比較した、唯一の無作為対照研究(LOE 7)17は、病院外で気道 管理を必要とした小児に対するものであった。 この研究では生存退院率(survival-to-discharge rates)について差がなかっ たが、この知見がどれほど成人の蘇生に適用できるかは不明である。この研究には重要な限界が 数点ある。それは、挿管法のためのたった6時間の追加訓練しかされていないこと、挿管を行う機 会が限られていること、そして短い搬送時間訳者註といったものである。 2編の研究で、成人の病院外心 停止の転帰を一般救急隊員とパラメディックのどちらに治療されたかで比較している(LOE 318; LOE 419)。パラメディックの行った処置には気管挿管、静脈内カテーテル留置18,19、薬剤投与19 があったが、生存退院率に差はなかった。

 気づかれない気管チューブ誤挿入の発生率は 6(LOE 5)20-22〜14%(LOE 5)23と報告されて いる。さらに、高度な気道管理器具に共通する問題であるが、挿管の試みが一般に 胸部圧迫の中断を必要とすることがある。

訳者註:症例選択にバイアスがかかっている。

推奨される治療

 心肺停止の成人患者の気道を確保して換気することに関し、ある特定の技法の使用を支持あるい は否定するエビデンスは不充分である。 病院前の医療提供者によるCPR中の換気法としては、バッグバルブマスクの単独使用、あるいは気管 挿管と併用した使用の両方が許容される。 救助者は気管挿管のリスクや利益と効果的な胸骨圧迫を行うことの必要性を天秤にかけなければならない(must weigh)熟慮しなければならない。 挿管の試みは胸部圧迫の中断を必要とするであろう、しかし一 度高度な気道管理器具が挿入されれば、換気するために胸骨圧迫を中断する必要が なくなる。医療提供者は少しでも胸骨圧迫を妨げないように、自己心拍の再開(ROSC)まで 挿管の試みを延期することもできる。 高度な気道管理器具を利用する医療システムでは、能力(competenceコンピテンス(目に見える 形で業務を遂行できる能力)を確実にす るために、適切な訓練や経験そして質の担保(quality assurance)といった要因について配慮すべきである。医療提供者 は気管チューブの位置を確認して、そしてチューブが適切に固定されていることを確かめなくては ならない(以下を参照のこと)。

気管挿管 対 気管食道コンビチューブ/ラリンジアルマスク W42A, W42B, W43A, W43B, W44A, W44B

科学的コンセンサス

 いくつかの地域では気管挿管が認められていないし、挿管する者の技能を維持するための機会が不充分である。このような状況下では、気付かれない食道挿管や気付かれないチューブの移動が高頻度 に発生していると、いくつかの研究が示している。気管挿管を長々と試みることは有害である。挿 管中の胸骨圧迫の中止は冠血流や脳潅流に悪影響を与えるであろう。CPR中の気道確保のために いくつかの代替の気道確保器具が考慮され、研究されてきた。気管食道コンビチューブとLMAだけ が、CPR中の使用について特に研究された代用の気道確保器具である。CPR中のLMAと気管食道コンビ チューブの使用に関する研究で、プライマリーエンドポイントとしての生存率を適切な統計学的パ ワーで示したものはなく、代わりに、たいていの研究者は挿管と換気の成功率を用いて研究してい た。

気管食道コンビチューブ

 5編の成人の蘇生患者に対する無作為対照試験(LOE 2)24-28と、さらに3編の麻酔患者を含んだ 無作為対照試験(LOE 7)29-31は、気管挿管と比較して気管食道コンビチューブはうまく挿入できる し、換気も容認できるレベルであることを述べている。経験豊かな医療提供者だけでなく、経験の乏しい医療提 供者にも有用であるし、病院外だけでなく、院内でも有用な方法であることが報告されている。さ らに、6編の研究がCPR中の気管食道コンビチューブ使用を支持している(LOE 332; LOE 433; LOE 534-37)。CPR中に気管食道コンビチューブを使用し、78.9〜98%の患者で良好な 換気が得られた(LOE 226,27,38; LOE 332; LOE 433; LOE 534,35)。

LMA

 対象として麻酔患者も含んだ、LMAと気管挿管を比較した7編の無作為対照試験(LOE 7)39-45およ び、LMAと他の気道確保・換気法を比較した他の7編の無作為対照試験(LOE 7)46-52について検討 (review)さ れた。これらの研究は実施者の経験の多少にかかわらず、LMAは気管挿管や他の気道確保・換気法 と比較して、高い割合で挿入できまた患者の換気も適切に実施できることを示した。

 病院前の成人蘇生における気管食道コンビチューブとLMAとを比較した1編の無作為交差研究(LOE 2)38は、LMAの挿入と換気の成功が高い割合で達成されたことを示した。

 非無作為研究(LOE 353-55; LOE 433; LOE 556-61)もまた、病院内外ともに経験の乏しい医療提供者での高い挿入成功率を示している。これらの非無作為研究(LOE 358; LOE 453; LOE 556)での合併症の発生率 は非常に低かった。

 一方、CPR中にLMAを用いた症例の71.5〜98%の症例で換気が良好であった (LOE 238; LOE 354; LOE 433;LOE 556,58-60)。

追加的な(additional)気道管理器具

 CPR中にラリンジアルチューブを使用した報告は、LOE 5の2つの研究62,63と、LOE 8 の1つの論 文64を含めてわずか2-3例でしかない。いかなる患者群においても、ラリンジアルチューブと気管挿管を比較した 研究はないが、麻酔患者を対象とした4つの無作為対照試験(LOE 7)65-68ではラリンゲアルチュー ブがLMAに比べ、より好ましい結果を示した。

 他の器具として、ProSeal LMA、挿管型LMA、airway management device、pharyngeal airway expressがある。CPR中のこれらの器具の使用に関するデータは報告されていない。

推奨される治療

 医療専従者が心停止状態での気道確保法として、気管挿管の代わりに気管食道コンビチューブあるいはLMAを使用することは容認できる。

高度気道管理器具の位置確認

 気付かれない食道挿管は気管挿管の最も重大な合併症である。気管チューブが正しい位置にあるか をルーチンに確認することでこのリスクが減少する。しかし、心停止中のチューブの位置確認としてどの方 法が最適かを示すデータはない。どの器具も他の確認方法を補完するものと考えるべきである。 一旦、挿入された後にチューブ位置をモニターするこれらの器具の能力を定量化して示したデータはない。

呼気CO2濃度 W47,W50

科学的コンセンサス

 1編の成人を対象としたメタアナリシス(LOE 1)69と1編の前向き対照コホート研究(LOE 3)70、症例報告(LOE 5)71-79、そして動物モデル(LOE 6)80,81 から得られたエビデンスによると、呼気 CO2検出器(波形によるも の、色によるもの、数値表示のもの)は、心停止中の気管チューブの位置確認器具として有 用である可能性を示している。 この中の14の文献のうち、10が色変化による評価69,71- 76,79,81,82、4つが数値表示69-71,77、そして4つが波形表示69,70,78,80の検出器に関してであった。心停止においてのデータは不十分であり、特定の方法を強く推奨することはできない。検討された論文から得られ た結果の範囲は次の通りで ある:

  • 気管への挿入が検出された率:33〜100%
  • 食道挿入が検出された率:97〜100%
  • テスト結果陽性時(呼気CO2検出)の気管挿入の確率:100%
  • テスト結果陰性時(呼気CO2非検出)の食道挿入の確率:20〜100%

 1編の成人の症例報告(LOE 5)82では、血流のある調律が存在するときには、呼気CO2検出が搬送中の 気管チューブ位置確認法として使用できることを示している。

 ヒトの心停止中に、気管食道コンビチューブあるいはLMAの位置の確認法として呼気CO2を直接評 価した研究はなかった。

推奨される治療

 医療関係者(ヘルスケアプロバイダー)は、呼気CO2濃度の評価は、特に心停止の患者において、気管チューブの正しい位置を確認法として 絶対確実ではないことを認識するべきである。呼気CO2濃度は、他のいくつかの方法のとともに気管 チューブの位置を確認する方法の1つととらえるべきである。連続的な CO2測定は搬送中の気管チューブの位置異常の早期発見に有用であろう。

食道挿管検知器 W48A,W51A,W51B

科学的コンセンサス

 少なくとも質がfair以上の8編の研究で、注射器(シリンジ)型または自動膨張球型食道探知機(EDD)の 正確さが評価された(LOE 321,77,83; LOE 584; LOE 7[非心停止状態]85-88)が、多くのものは対象数が少なかったり、対照群を欠いていたりした。

 EDDでは食道へ誤挿管された気管チューブの検出感度は非常に高かった(highly sensitive)(LOE 584; LOE 785-88)。心停止患者 を対象にした2つの研究(LOE 3)77,83では、EDDによって気管チュ−ブが気管内にあることを検出するには感度は低かった。これらの研究では、EDDがチュ−ブの食道内挿入を示唆したがために、本来正しく挿入されてい たはずの30%のチューブが抜去された可能性を示唆している(LOE 3)78

 手術室での1歳未満の20人の小児を対象とした研究で、EDDは感度、特異度はともに低かった。

推奨される治療

 EDD の使用はいくつかの気管チューブ確認方法のうち、単なる1つと 考えるべきである。

高度気道管理器具の固定方法

 気管チューブの不慮の位置異常はいつでも発生するが、蘇生中や搬送中に特に起こりやすい。気 管チューブを固定するための最も有効な方法についてはまだ確定していない。

気管チューブの固定法 W49A,W49B

科学的コンセンサス

 CPR中の気管チューブの固定について、異った方法を比較した研究はない。集中治療室での 2つの研究(LOE 7)90,91は、気管チューブ固定用に市販されている器具、背板(バックボード)、頚椎カラーやその他の方法は、テープでチューブを固定する伝統的な方法と比較し、チューブの事故抜管予防法とし ては同等であることを示した。

推奨される治療

 市販の気管チューブ固定器具(ホルダー)あるいは従来のテープやひも結び法のいずれかが、気管チューブ固 定法として使われるべきである。

換気のための方法

 二次救命処置(ALS)中の換気に特に着目した研究は非常に少ない。最近の3編の 観察的研究は、心停止 中に医療従事者の行う換気回数について報告している(LOE 5)92-94。うち2つの研究では 2つの研究92,93はCPRとECCのた めの2000年の国際ガイドラインによって勧告されたものよりはるかに多い換気回数をであったことを示している。 搬送用自動人工呼吸器(ATVs)を使用すれば適切な換気回数になるかもしれないが、バッグバルブマス クよりも優れているとはっきり示すデータはない。

心停止中の換気中断 W54A,W54B

科学的コンセンサス

 31の症例に関する18編のLOE 5論文95-112で、蘇生中止した後に予期せず心拍が再開した(そし て数症例では神経学的障害なしに長期生存した)と報告された。1編の症例報告はこの現象が閉塞 性呼吸器疾患(obstructive airway disease)の患者に起こることを示唆した(LOE 5)100。4編の研究(LOE 5)100,108-110によると、 蘇生中止後に6症例で予期しない心拍再開が起こり、換気がエアートラッピングと血行動態の不安 定化を引き起こすことが繰り返し見られた(非常に可能性が高い)と報告されている。 これらの研究の全ての著者は、PEAの蘇生中には一定の時間、呼吸回路から外すことがエアートラッ ピング防止に有用だろうと示唆している。

搬送用自動人工呼吸器(Automatic Transport Ventilators、ATV) W55,W152A

科学的コンセンサス

 人体模型を用いた模擬心停止の研究は、バッグバルブマスク法に比較して、「流量制限酸素駆動手動 トリガー式蘇生装置」訳者註とマスクによる換気法では胃の膨満が有意に減少することを示した(LOE 6) 113。麻酔中の、心停止ではないが気道が確保されていない患者が、消防士によって換気された際、手 動トリガー流量制限酸素駆動式蘇生器とマスクで換気されたほうが、バッグバルブマスク法で換気 された時よりも胃の膨満が少なかった(LOE 5)114。 都市部の病院外設定で、大部分が心停止の挿管患者に対する前向きコホート研究によると、ATV で換気された患者とバッグバルブ法で換気された患者の間に動脈血ガスの値に有意な差は認められ なかった(LOE 4)115。2編の実験的研究によると、ATVは気道が無防備の成人患者のCPRにおいて、安 全で効果的なマスク換気法となり得る (LOE 6)116,117

訳者註:手動で(換気を)トリガーした、送気量が 規定された、酸素圧駆動のレサシテータ

推奨される治療

 医療関係者(ヘルスケアプロバイダー) が高度気道管理器具の挿入された成人心停止患者に対して手動トリガー流量制限式蘇生装置またはATVを使用して用いることは妥当である。 高度気道管理器具が挿入されていない成 人患者に対するATVの使用については、第2部「成人の一次救命処置」で論じられている。


■心停止のための薬剤と輸液

 2005年のConsensus Conferenceで議論された心停止の間の薬剤使用に関する疑問は、以下のように分類 される。(1)血管収縮薬、(2)抗不整脈薬、(3)他の薬剤や輸液、(4)代替投与経路

血管収縮薬

 蘇生治療中にエピネフリン/アドレナリンが広く使用され、バソプレシンを含むいくつかの研 究があるにもかかわらず、ヒトの心停止のどの段階にせよ、どの昇圧剤 にせよ、昇圧剤をルーチンで使用するのことがが生存退院率を上昇させるかどうかを示し たプラセボ対照試験はない。現在のエビデンスではどんな薬剤に関しても、ある いはどんな薬剤のシリーズに関しても、 支持、またはこれに反論するのに不十分である。ただしヒトでのデータが欠如してはいるが、蘇生時にルーチンに血管収縮薬を使用することを(現在行われているように)続けることは合理的である。

エピネフリンとバソプレシン   W83B,W83E,W83F,W83G,W83H,W84A, W84B,W84D,W85A,W85B,W85C,W112

科学的コンセンサス

 有望だが低レベルのデータ(LOE 2118;LOE 5119-121)と多数の適切に行われた動物実験[LOE 6]があるにもかかわらず、成人心停止に対する2つの大規模無作為化対照研究(LOE 1)122,123は、最初の血管収縮薬として、エピネフリン(1mg、必要ならば繰り返して)と比較してバソプレシン(40U、1つの研究で はこの量を繰り返して)の使用は、心拍再開率や生存率を上昇させることを示せなかった。全ての(心電図)リズムを含む を伴う 病院外心停止に関する1つの大きな多施設試験(LOE 1)123では、エピネフリン(1mg、必要ならば繰り返して)と比較し てバソプレシン(40U、必要ならばこの量を繰り返して)の使用は、post hoc解析において心静止の患者 のサブグループで生存退院率に著明に改善が見られたが、神経学的に後遺症のない生存率での改善はみられなかった。 5つの無作為化試験のメタ解析(LOE 1)124は、心拍再開(ROSC)、24時間以内の死亡または退院前の死亡に対し、バソプレシンと エピネフリンの間に統計学的な相違を示さなかった。 初期リズムごとのサブグループ解析では、 退院までの死亡率に有意差を示さなかった(LOE 1)。124

示さなかった。

推奨される治療

 プラセボ対照試験がないにも関わらず、エピネフリンは心停止において血管収縮薬であり続けてきた 。いかなる心停止リズムにおいても、エピネフリンの代わり、もしくはそ れに加える形でバソプレッシンを使用することを支持または反論するエビデンスは充分でなかった。

α-メチルノルエピネフリン W83B

科学的コンセンサス

 予備的動物研究(LOE 6)125-127では、動物のVFモデルにα-メチルノルエピネフリンの使用が短時間では 短期間では若干有用である可能性が示唆された。現段階ではヒトでの研究は発表されていない。

エンドセリン W83D,W83I

科学的コンセンサス

 5つの動物での心停止研究(LEO 6)128-132はエンドセリン-1によって冠潅流圧が改善されると報告したが、心筋血流量の増加は引き起こしていなかった。ヒトでの研究は発表されていない。

抗不整脈薬

 ヒトの心停止の間にルーチン投与されるいかなる抗不整脈薬にも、退院生存率を増加させ るというエビデンスはなかった。電気的除細動に抵抗して反復するVF(shock-refractory VF)にアミ オダロンを使用すると、プラセボやリドカインと比較して、生存入院率といった短期の転帰が改善する。ヒトの長期の転帰についての データはないが、(現在と同様に)抗不整脈薬をルーチンに使い続けることは妥当である。

アミオダロン W83A,W83I

科学的コンセンサス

 成人における2つの盲験無作為化臨床試験(LOE 1)133,134では、病院外で治療抵抗性のVF/無脈性VTの患者に対する救急救命士(paramedic)によるアミオダロンの投与(300mg;5mg/kg)がプラセボやリドカインと比べて入院生存率を改善していた。さらに、別の研究(LOE 7)135-139では、アミオダロンをVF、もしくは血行動態不安定なVT のヒトや動物に投与すると、除細動への反応が改善すると報告された。

推奨される治療

 短期の生存利益を考え、アミオダロンの難治性VF/VTへの使用を考慮するべきである。

他の薬剤と輸液

 心停止患者への他の薬剤(例えば:緩衝液、アミノフィリン、アトロピン、カルシウム、マグネシウム)のルー チンに投与することが生存退院率を上昇させるというエビデンスはない。心停止、特に心停止が肺動脈塞栓症によって起き たときには、線溶療法が奏効することがいくつかの文献で報告されている。

アミノフィリン W98A,W98B

科学的コンセンサス

 1つの症例累積研究(LEO 5)140と3つの小規模な無作為化試験(LOE 2)141-143では、アミノフィリンを徐脈性心停止または心静止(bradyasystolic cardiac arrest)に投与しても心拍再開率を上昇させないことが示された。生存退院率へのアミノフィリンの効果を示す研究はない。徐脈性心停止または心静止へのアミノフィリン投与が有害だというエビデンスはもない(LOE 2141-143;LOE 5140)。

アトロピン W97A,W97B

科学的コンセンサス

 成人における5つの前向き非無作為化対照コホート研究(LOE 3144-147)と1つのLOE 4研究148は、アトロピンを用いた治療と 病院内または病院外心停止後の有益性との間に全く関連がないことを示した。 not associated with any consistent benefits

緩衝液 W34,W100A,W100B

科学的コンセンサス

 CPRの間、炭酸水素ナトリウムの使用に基づいたLOE 1,2または3の研究は発表 されていなかった。1つのLOE 2の研究149は、プラセボ(中性)に対する重炭酸塩(トリボネート)の利点を示さず、そして炭酸水素ナトリウムの無作為な臨床使用に関する5つの後ろ向き解析には結論が出ていなかった(LOE 4)150-154。1つのLOE 4研究155では、より早くより頻繁に重炭酸ナトリウムを使用している救急医療サービス(EMS)システムの方が、心拍再開率や生存退院率が有意に高いこと、長期的な神経学的予後がより良いことを示唆した。

 動物研究の結果は矛盾していて、結論に達していない。重炭酸ナトリウムは、三環系抗うつ薬や 他の短時間ナトリウムチャネル阻害薬による心血管毒性(低血圧、不整脈)を治療するのに効果的である(下記の"薬物過量使用と中毒" 参照)。1つのLOE 5の出版物156のみが、三環系薬の中毒で起こったVFに対して重炭酸ナトリウムの使用が成功したことを報告していた。

推奨される治療

 心停止に対するCPR(特に病院外の心停止)の間、あるいは心拍再開後にルーチンに重炭酸ナトリウムを投与することは推奨されない。致死的な高カリウム血症または高カリウム血症に関連した心停止、既存の代謝性アシドーシスあるいは三環系抗うつ薬の過剰使用に対しては重炭酸ナトリウムを考慮してもよい。

マグネシウム W83K,W101A,W101B

 病院内または病院外での成人に対する研究 (LOE 2157-160;LOE 3161;LOE 7162) や動物研究(LOE 6)163-166 は、マグネシウムがCPRの間に投与されても心拍再開率が上昇しないことを示した。5人の患者による1つの小規模な症例累積研究(LOE 5)167 の結果は、除細動に抵抗性あるいはエピネフリン/リドカインに抵抗性のVFにマグネシウムを投与すると効果があることを示している。

推奨される治療

 マグネシウムは低マグネシウム血症やtorsades de pointes ⇒ トルサード型心室頻拍(torsades de pointes )に対して投与されるべきである。しかし心 停止に対しルーチンに使用することを支持あるいはこれに反論するためのデータは不十分である。

CPR中の線溶療法 W96A,W96B,W96C

科学的コンセンサス

 標準的CPR手技で蘇生に失敗した後で、特に心停止に至る症状が急性肺塞栓症や他の推定できる心原性要因であるとき、線溶剤を投与することで成人の蘇生に成功したことが報告されて来た(LOE 3168; LOE 4169-171;LOE 5172-176)。一方で、初期介入に反応しない原因不明の(with undifferentiated)病院外PEA患者に、鑑別診断をすることなく(with undifferentiated)線溶剤を投与しても明らかな効果がないことを、1つの大規模臨床試験(LOE 2)177が示した。 4つの臨床研究 (LOE 3168;LOE 4169-171) と5つの症例累積研究(LOE 5)172-176が、非外傷性心停止に対するCPRの間に線溶療法を用いでも出血性合併症が増加しないことを示した。2つの動物研究(LOE 6)178,179 が、CPR中の線溶療法が大脳再潅流の面で有効であることを示した。

推奨される治療

 肺塞栓症が判明しているか疑われている心停止の成人患者に対し、線溶療法は考慮されるべきである。他の要因による心停止に対する線溶療法については、そのルーチン使用を支持する、あるいはこれに反対するデータも不十分である。

輸液 W105

科学的コンセンサス

 正常循環血液量の心停止において、ルーチンの輸液使用と不使用とで比較したヒトの研究は発表 されていない。実験的な心室細動に関する4つの動物研究(LOE 6)180-183では、経静脈的輸液のルーチン使用に対し、支持も反対もしていない。もし循環血液量減少が疑われるなら、輸液はされるべきである。

薬剤投与のための代替経路

 もし静脈路が確保できないならば、蘇生薬の骨髄内(IO)投与により適切な血中濃度を得るであろう。蘇生薬は同様に気管チューブを通じて投与することができる、これによって得られる血中濃度は不安定(variable)で、同じ薬剤が静脈内あるいは骨髄内投与によって与えられる濃度よりもある程度低くなる。

骨髄内経路 W29

 成人と小児に対する2つの前向き研究(LOE 3)184,185 と6つの他の研究(LOE 4186; LOE 5187-189; LOE 7190,191) が、骨髄内投与は輸液蘇生や薬剤投与においても、検査的評価ににおいても、安全かつ効果的で、またどの年代にも使えることを報告して いる。

気管チューブからの薬剤投与 W32,W108

科学的コンセンサス

アトロピンとエピネフリン

 1つの、成人における歴史的非無作為化コホート研究(LOE 4)192 では、薬剤(アトロピンとアドレナリン)の気管投与群 と比較して静脈内投与群では、心拍再開率(27% vs 15%, P=0.01) や生存入院率(20% vs 9%, P<0.01) が有意に高かった。静脈内投与後の患者の退院生存率が5%であったのに比べ、気管投与後のを患者では生存退院は無かった。

エピネフリン

 CPR中に経気管的に投与されたエピネフリン等量(equipotent epinephrine dose)は静脈内投与量の3〜10倍であった(LOE 5193; LOE 6194)。5〜10mlの0.9%食塩水で希釈されたエピネフリン(2〜3mg)の気管支内投与により治療的血中濃度に達した(LOE 5) 193。0.9%の生理食塩水よりむしろ水で希釈すると、エピネフリン気管投与後の血中濃度がより高くなった(LOE 6) 195

 CPR中の肺潅流量は通常のわずか10〜30%であり、肺内へのエピネフリン貯留を起こす。エピネフリンが多量に経気道投与された後に心拍出量が回復したとき、エピネフリンの肺から肺循環への遷延した再吸収が起きるかも知れず(LOE 6)194、高血圧、悪性不整脈、そしてVFの再発を引き起こすかもしれない。

リドカイン

 報告されているすべての研究は血行動態が安定した非心停止の患者に行われた。経気管投与された(after tracheal tube instillation)リドカインは治療的血中濃度に達したが(LOE 5) 、196,197LMA挿管を通しての投与だと治療的血中濃度に達したのは患者の40%でしかなかった(LOE 5) 197,198。麻酔中の健康な成人では、経気道的投与はリドカインの血中濃度の上昇が遅延した。 これらの研究のうちいくらかでは(LOE 5) 198,200、ただしすべてではない(LOE 2199; LOE 5196)が、カテーテルを使用してリドカインを気管支深く投与した場合、直接気管チューブを通して投与されるよりも血中濃度が低かった。0.9%の塩化ナトリウムの代わりに水で希釈すると、経気管支的リドカイン投与では、より高濃度の血中濃度とPaO2の低下の減少が認めらられた ⇒ 高い血漿濃度を得るとともに、PO2の低下も少なかった(LOE 5) 201

バソプレシン

 経気管支的バソプレッシン投与は、経気管支的エピネフリン投与の同等量より拡張期血圧の増加にいっそう効果があった(LOE 6) 202。小規模な動物研究ではあるが、経気管支的バソプレッシン投与はプラセボよりCPR中の冠動脈潅流圧を上昇させ、生存率を改善した(LOE 6)203

推奨される治療

 もし静脈路確保が遅れているか、あるいは確保できないなら、骨髄内投与を考慮するべきである。 もし血管内経路(IVまたはIO)の確保が遅れているか、あるいは確保できないなら、気管チューブを通して薬剤を投与する。直接気管チューブの中に薬剤を注入するのと比較して、経気管支的な注入には効果がない。 0.9%生理食塩水の代わりに水で希釈すれば、薬剤吸収はより良くなるかもしれない。


■モニタリングと循環補助
(Monitoring and Assisting the Circulation)

 (1)心停止に対するCPRの効果(performance)をモニターする、あるいは(2)循環を補助する(標準的なCPRへの代替として)ための技術と装置の使用に関連した特定の疑問について、2005年コンセンサス会議の間に議論された。それらは以 下に挙げられたものである。

CPRの効果(performance)のモニター

 呼気終末CO2濃度を心拍再開(ROCS)の指標として用いることができる。 動脈血血液ガス分析が治療を導く手助けとなるかもしれない。冠動脈潅流量の測定は助けになるかもしれないが、測定は難しく、ルーチンには利用できない。

心停止中の治療を導くための呼気終末CO2測定 W92A,W92B

科学的コンセンサス

 このトピックを直接扱った研究はなかった。過去の5年間に発表された研究はそれ以前の文献と一致しており、それは蘇生中の呼気終末CO2濃度がより高濃度であれば心拍再開しやすいことを示して いる(LOE 5)。204-207
 実験的なモデルで、蘇生中の呼気終末CO2濃度は心拍出量や冠動脈潅流圧、心停止の蘇生成功と関連していた(LOE 6)。208-214 8つの症例累積研究が、心停止後の蘇生が成功した患者では蘇生できなかった患者と比較して、呼気終末CO2濃度が有意に高かったことを示した(LOE 5)73,204-207,215-217。  呼気CO2測定(カプノメトリ)は同じく心拍再開(ROCS)を早期に捉える指標として用いることができる。(LOE 5218,219; LOE 6220)。
 計744人の患者の症例累積研究で、心停止のためCPRを受けている挿管された成人で最大呼気終末CO2濃度が10mmHg未満であると、CPRが理想的であっても予後 ⇒ 転帰が悪かった(LOE 5) 。204,205,217,221-223 2つの研究(LOE 5)217,223 において,呼気終末CO2濃度が10mmHg未満であった患者の心拍再開(ROCS)や生存率に差がなかったことから、この予後指標は蘇生開始直後では信頼できないかもしれない。2つの追加的研究(LOE 5)221,222 は、5人の患者が、呼気終末CO2濃度が10mmHg未満であったにも関わらず心拍再開(ROCS)した(1人は救命できた)ことを報告している。

推奨される治療

 呼気終末CO2濃度測定は蘇生中の心拍出量の、安全で効果的な非侵襲的指標であり、挿管された患者の心拍再開(ROCS)の初期指標ともなり得る。

心停止中の動脈血ガス測定 W93A,W93B

科学的コンセンサス

 1つのLOE5研究224と10のLOE7研究225-234 によると、動脈血ガス測定値は、病院内外の両方の状況下で、心停止時や蘇生中の組織アシドーシスの度合いの指標としては不正確であった。同じ研究は、アシドーシスの度合いを示すために動脈血と混合静脈血のガス分析とが共に必要であることを示している。

 動脈血ガス分析はそれ単独で、低酸素血症の程度を明らかにすることができる(LOE 5235; LOE 6236,237; LOE 7225,227,231,238-240)。動脈血液ガス分析は代謝性アシドーシスの程度を明らかにする(highlight)こともできる(LOE 5241;LOE 6236;LOE 7225,227,230,231,238,239) 。

 動脈血CO2濃度はCPR中の換気が適切かどうかの指標となる(LOE 2242; LOE 5235; LOE 6236; LOE 792,227,239,243)。もし換気が一定なら、PaCO2の増加はCPR間に改善された灌流の指標となるかもしれない(LOE 5244; LOE 6209,245; LOE 7246)。

推奨される治療

 心停止間の動脈血ガス測定がCPR中の低酸素血症の程度と換気の適切性の評価を可能にするが、組織のアシドーシスの程度を知るためには信頼できる指標ではない。 。

蘇生を導くための冠動脈潅流圧 W95A,W95C

科学的コンセンサス

 冠動脈潅流圧(CPP:coronary perfusion pressure)(CPR中の大動脈弛緩[拡張]期圧から右心房拡張期圧を差し引いたもの)が心筋血流と心拍再開(15mmHg以上が心拍再開を示唆)に関連している(LOE 3)。247,248CPPの増加は動物実験(LOE 6)249 において24時間生存率の改善と関連し、エピネフリンやバソプレシン、アンギオテンシンIIの研究においては心筋血流の改善と心拍再開に関連している(LOE 6) 。249-251

推奨される治療

 CPPが心停止中の治療を導くことができる。ICUにおいては直接動脈圧や中心静脈圧の測定をできることでCPPの算出が潜在的に有用になものとなる。ICU以外では直接動脈圧や中心静脈圧の侵襲的測定が技術的に難しく、心停止中のCPPをルーチンに算出するのは困難である。

心停止中に循環を補助する技術と装置

 標準的なCPRを補助するいくつかの手技や器具が検討されており、これに関連したデータが広範囲に再検討された。1つの多施設ヒト研究(LOE 2)94 では病院到着前の蘇生中に胸部圧迫の質が低かったり頻繁に中断されたことが示された。新しい手技や器具を用いたCPRが現行の標準的なCPRよ りすぐれているかもしれないということが、いくつかのグループの手による検討で、報告されてい る。しかし、どのような手技もその成功は救助者への教育や訓練(人的資源も含み)にかかっている。 ただし、これらの技術や装置についての情報は限られており、一貫していなかったり(conflicting)、 短期間の予後についてのみの反対または支持するものであるため、それらのルーチン使用を支持するか、反対するか の推奨はできる段階にない

心静止に対する経皮的ペーシング W104

科学的コンセンサス

 3つの無作為化対照試験(LOE 2)252-254や他の研究(LOE 3255;LOE 5256-259;LOE 6260;LOE 7261)は、病院到着前もしくは病院内(緊急部門)で心静止の患者に救急隊員または医師がペーシングを試みても、入院率もしくは退院生存率が改善しないことを示唆した。

推奨される治療

 心静止の患者に対しペーシングは推奨しない。

蘇生指導(プロンプト)装置 W190A,W190B

科学的コンセンサス

 成人における2つの研究(LOE 5)93,94が、病院外と病院内ともに、蘇生指導(プロンプト)装置を用いずに行う蘇生処置はしばしば質が低いものであったことを示している。成人における1つの研究(LOE 3) 、262小児における1つの研究(LOE 3)、263あるいは動物実験(LOE 6)264,265 やマネキンでの研究(LOE 6)266-272 は、様々な方式での蘇生指導(プロンプト)装置による フィードバックがなされると、呼気終末CO2濃度あるいは実施されたCPRの質、もしくは両方が一貫して改善したことを示した。1つのマネキンでの研究では(LOE 6) 、270蘇生指導(プロンプト)装置を救助者の手と傷病者の胸の間に置いて用いたとき、救助者の95%が手掌起部や手首に不快を感じたと報告したが、長期的な障害(injury)は記録されていなかった。事前に訓練されたパラメディックの学生における交差研究は、音声でフィードバックすると、正しい吹き込み、正しい圧迫の深さや圧迫時間で実施した者の割合が有意に上昇することを示した(LOE 6)。268看護学生による同様の研究でも吹き込みや圧迫の深さが改善した(LOE 6)。272

推奨される治療

 蘇生指導(プロンプト)装置は蘇生手技の質を改善するかもしれない。Part8”各分野間のトピックス”も参照のこと。

間歇的腹部圧迫心肺蘇生法 W73A,W73B

科学的コンセンサス

 病院内で心停止をおこした症例を扱った2つの無作為化対照試験(LOE 1273; LOE 2274)において、この手技の訓練を受けた救助者によって間歇的腹部圧迫心肺蘇生法(IAC-CPR)がなされた場合、標準的な心肺蘇生(CPR)が行われた場合と比較して、心拍再開率や生存率が改善されたことを示した。これらの研究の1つ(LOE 1273)は生存退院率も改善したことを報告している。このデータと交差研究に基づくデータ(LOE 3)275は2つのメタ分析で結びつけられた(LOE 1)276,277。 病院外心停止についての1つの無作為化対照試験(LOE 2)278は、この手技の訓練を受けた救助者によってIAC-CPRがされても、標準的CPRと比較して生存率の優位性を示していない。 ある有害事象(some harm)が1人の小児で報告された(LOE 5)279。わずか な割合の患者に対してしか死後の調査をしていないが、考慮すべき有害事象が引き起こされるとい うエビデンスはない。

高頻度心肺蘇生法 W74,W163H

科学的コンセンサス

 9人の患者についての1つの臨床試験(LOE 4)280は、高頻度心肺蘇生法(1分間に120回の圧迫)は標準的蘇生法よりも血行動態を改善することを示した。3つの基礎的研究(LOE 6)281-283 が、高頻度心肺蘇生法(1分間に120〜150回の圧迫)は外傷を増加させることなく血行動態を改善することを示した。1つの他の基礎的研究(LOE 6)284 によれば、高頻度心肺蘇生法は標準的蘇生法と比べ血行動態は改善しなかった。

能動圧迫-減圧心肺蘇生法 ACD-CPR (Active Compression-Decompression)CPR W75A,W75B,W163J

科学的コンセンサス

 短期の生存率(LOE 2)285,286 や神経学的後遺症のない生存率(LOE 1)287の改善を示唆する初期の有望な研究にも関わらず、10の研究のコクランメタ分析(LOE 1)288(4162人の患者を含む)は病院外において能動圧迫-減圧心肺蘇生法(ACD-CPR)と標準的蘇生法を比較し、早期の生存率や退院率を著明に増加することはなかった。病院内で心停止を起こした後に行ったACD-CPRと標準的CPRの比較をした2つの研究のあるメタ分析(LOE 1)288では、早期の生存率や退院率に有意な差は認められなかった。ある小規模の研究(LOE 4)289は、標準的蘇生法単独と比較してACD-CPR群では胸骨骨折の増加に伴う有害事象を示したが、大規模なメタ分析288ではACD-CPRによる合併症の増加は認められなかった。

荷重負荷バンド心肺蘇生法 LDB-CPR (Load Distributing Band) CPR W76A,W76B,W163F

科学的コンセンサス

 荷重負荷バンド(LDB)は空気圧で駆動するきついバンドと背板で構成される胸郭周囲圧迫装置である。162人の成人による症例対照試験(LOE 4)290では、LDB-CPRが適切に訓練された救助者によって病院前心停止患者にLDB-CPRを行ったところ、救急部までの生存率が改善したと。 LDB-CPRの使用は、末期患者を扱った1つの病院内研究(LOE 3)291 と2つの基礎的研究(LOE 6)292,293によると、血行動態を改善する。

機械(ピストン)心肺蘇生法(ピストンCPR) W77A,W77B,W163B,W163E

科学的コンセンサス

 1つの前向き無作為化研究と成人による2つの後ろ向き無作為化交差試験(LOE 2)294-296は、自動的な機械の(ピストン)心肺蘇生法が医師やパラメディックにより病院内もしくは病院前で行われると、呼気終末CO2濃度や平均動脈圧が改善することを示した。動物におけるいくつかの研究(LOE 6)297-300によれば、機械(ピストン)による心肺蘇生法は呼気終末CO2濃度や心拍出量、脳血流量、平均動脈圧、そして短期の神経学的予後を改善していた。

ルンド大学心停止システム心肺蘇生法 W77B,W163D

科学的コンセンサス

 ルンド大学心停止システム(LUCAS)はガス駆動で胸骨を圧迫する装置に、陰圧をくわえるカップが合体したものである 。発表されたヒト対象の無作為化研究でLUCAS心肺蘇生法と標準的心肺蘇生法を比較したものはなかった。心室細動とした豚を調べた1つの研究では、LUCAS心肺蘇生法は標準的蘇生法と比較して、血行動態の改善と短期間の生存率を改善していた(LOE 6) 299。LUCASはまた20人の患者に用いられたが、転帰に関するデータは十分とはいえないことが報告されている(LOE 6) 。299

段階的な胸部-腹部圧迫-減圧心肺蘇生法
PTACD-CPR (Phased Thoracic-Abdominal Compression-Decompression CPR)
 W78B,W163C,W168

科学的コンセンサス

 段階的な胸部-腹部の圧迫-減圧(PTACD)心肺蘇生法は間歇的腹部圧迫心肺蘇生法(IAC-CPR)と能動圧迫-減圧心肺蘇生法(ACD-CPR)の概念を合わせたものである。1つのモデリング研究(LOE 7)301と1つの基礎的研究(LOE 6)302 がPTACD-CPRは血行動態を改善することを示した。成人における1つの無作為化臨床試験(LOE 2)301と追加の実験的研究(LOE 6302,303; LOE 7304)では、病院前または病院内で二次救命処置(ALS)を行っている間、循環補助のためにPTACD-CPRが用いられても心停止患者の生存率が改善しないことを示した。PTACD-CPRは正しく使用されれば、CPRの開始を遅らせるものではなく、 、使用に関して有意な不利益や に明らかになった不利益や有害事象もなかった。

最小限侵襲直接心臓マッサージ
MIDCM(Minimally Invasive Direct Cardiac Massage)
 W79A,W79B

科学的コンセンサス

 最小限侵襲直接心臓マッサージ(MIDCM)は、胸壁の小切開部よりプランジャーのような装置を挿入し、直接心臓の圧迫を可能にする装置である。MIDCMは、1つの基礎的研究(LOE 6)305 では標準的なCPRと比較して心拍再開(ROCS)と冠潅流圧を改善させ、 2つの基礎的研究(LOE 6)306,307では開胸心マッサージと同様の全身血流や心筋血流、脳血流を生み出した。1つの臨床試験(LOE 3)308 において、MIDCM装置が患者に装着され、標準的蘇生法よりも血圧が改善した。しかし、この研究では、MIDCM装置の使用により1人の患者で心破裂が生じた。1つの基礎的研究(LOE 6)309 では、MIDCM は標準的な体外電気的除細動での電気的除細動閾値を増加させたが、電極の1つとしてMIDCM装置が用いられれば電気的除細動閾値は減少した。

インピーダンス閾値装置
ITD (Impedance Threshold Device)
 W80,W163A,W163I

科学的コンセンサス

 インピーダンス閾値装置(ITD)は胸骨圧迫と胸の再挙上との間に空気が肺に入るのを制限するバルブのことである 。これは胸腔内圧を減少させ、そして心臓の静脈還流量を増すように設計されたものである。230人の成人についての無作為化研究(LOE 2)310は、ITDが病院前心停止(PEAのみ)の患者に標準的蘇生法を行っているときに用いられると、ICUへの入院と24時間生存率を増加させると報告した。5つの基礎的研究(LOE 6)311-315と1つの臨床研究(LOE 2)316において、ITDの追加は標準的CPRの間に血行動態を改善した。
 400人の成人についての無作為化研究(LOE 1)317は、病院前心停止患者にITDがACD-CPRとともに用いられると、心拍再開や24時間生存率を改善させことを示した。1つの基礎的研究(LOE 6)318と1つの臨床研究(LOE 2)319においてACD-CPRの間にITDを追加すると、血行動態を改善した。しかし、1つの基礎的研究(LOE 6)314は、ACD-CPRの間にITDの使用することでの血行動態の改善を示すことができなかった。標準的CPRと比較して、210人の病院前患者についての無作為化研究(LOE 1)320ではITDがACDとともに用いられると心拍再開や24時間生存の率が上昇し、2つの基礎的研究(LOE 6)321,322 では血行動態が改善した。

体外循環技術と侵襲的潅流装置 W28,W82

科学的コンセンサス

 成人のデータだけが3つの症例累積研究(LOE 5)323-325から得られている。うち1つは、体外心肺蘇生法(ECPR)は開心術後の患者では他の原因により心停止となった患者よりも成功率が高かったことを示した。他の2つの研究324,325は、低体温または薬物中毒に関連した心停止を除いて、心停止により救急部に搬送された患者にとってECPRは有益ではないことを示唆した。

開胸心肺蘇生法 W81B

科学的コンセンサス

 蘇生のための開胸心肺蘇生法に関する前向き無作為化研究は発表されていなかった。 4つのヒト対象の適切な研究が再検討され、2つは心臓手術後(LOE 4326; LOE 5327)で2つは病院外心停止後(LOE 4328; LOE 5329)であった。 開胸心臓マッサージによる客観的な利点として、冠動脈潅流圧の改善329と心拍再開の増加328がある。動物研究(LOE 6)330-344 によるエビデンスでは、開胸心肺蘇生法は閉胸心肺蘇生法と比べ、よりいっそう生存率を高め、潅流圧や臓器血流を増やすことができる。

推奨される治療

 開胸心肺蘇生法は心臓胸部手術後の術後早期における心停止、もしくは既に開胸または開腹されているときに考慮されるべきである。


■切迫心停止期の不整脈(Periarrest Arrhythmias)

狭いQRS幅の頻拍

 心停止期の狭いQRS幅の頻拍に対する治療として4つのオプションがある:電気的除細動,身体的操作,薬理学的除細動,もしくは心拍コントロール.どれを選択するかは患者と調律の安定性による.血行動態的に不安定な患者の狭いQRS幅の頻拍は電気的除細動で最もよく治療される.

心房細動のための薬物療法 W86

科学的コンセンサス

 成人における1つの無作為化比較試験とその他3つの研究が,マグネシウム(LOE 3),345 ジルチアゼム(LOE 2),346 かβ遮断薬 (LOE 2)347,348 が院外(LOE 3)349でも,院内でも,医師,看護師,救急隊によって投与されたとき,急速心室反応(rapid ventricular response(?))を伴う心房細動患者の心拍数コントロールに奏功した.349

 成人における2つの無作為化比較試験(LOE 2)350,351と,他の研究がイブチライド(ibutilide),ジゴキシン,クロニジン,マグネシウム,もしくはアミオダロンが,院内で,医師,看護師のよって心房細動患者に投与されたとき,調律(rhythm)の改善を示した.

推奨される治療

 マグネシウム,ジルチアゼムかβ遮断薬は急速心室反応(rapid ventricular response(?))を伴う心房細動患者の心拍コントロールに対して使えるかもしれない.アミオダロン,イブチライド(ibutilide),プロパフェノン(propafenone),フレケイナイド(flecainide),ジゴキシン,クロニジン,もしくはマグネシウムは心房細動患者のリズムコントロールに使ってもよい.

通常の狭いQRS幅の頻拍に対する薬物治療 W87

科学的コンセンサス

 救急部門(ED)おける1つの無作為試験で,発作性上室性頻拍 (PSVT)の患者148人中41 人 (28%)は頸動脈洞マッサージかバルサルバ法 (LOE 2)352によって洞調律に復帰した.1つの研究(LOE 4)353は,若い患者における安定したPSVTは最初にバルサルバ法で治療されるかもしれないが,その時80%は成功しないだろうということを示した.

 5つの前向きの比較、非無作為化コホート研究 (LOE 2354; LOE 3355-358は,院内でも院外でもPSVTを復帰させるのにアデノシンが安全で効果的であることを示唆した.2つの無作為臨床試験は (LOE 2)355,359,アデノシンとカルシウムチャンネル拮抗薬ではPSVTを復帰させる割合に差はないが,アデノシンの効果がより急速で,副作用はベラパミルでより重篤であったと示した.

 救急部門(ED)における1つの無作為臨床試験 (LOE 2)360は,ベラパミル(99%)と ジルチアゼム(96%)の点滴では,PSVTを復帰させる割合に差はないことを示した.救急部門(ED)における1つの無作為臨床試験 (LOE 1)361はエスモロール(25%)に比べジルチアゼム(100%)はPSVTをより復帰させると示した.1つの電気生理学的研究(LOE 6)362はアミオダロンが誘発された持続性リエントリによる(induced sustained reentran)PSVTの抑制において100%の効果を達成したことを示した.

推奨される治療

 安定した狭いQRS幅の頻拍(心房細動と心房粗動を除く)は最初,迷走神経法 (高齢者 に対する頸動脈洞マッサージ は避ける)で治療されるべきである:これらはPSVTの20%を止めるだろう.もし迷走神経法が使われなかったり,失敗した場合 はアデノシンを投与する.

 カルシウムチャンネル拮抗薬(ベラパミルかジルチアゼム)の点滴もしくはアミオダロン はアデノシンに反応しない10-15%の患者の2番目の治療として使えるかもしれない.不 安定なPSVTに対する治療の選択肢として電気的除細動がある;電気的除細動がすぐに使えない場合はアデノシンの急速ボーラス静注を試みてもよい.

広いQRS幅の頻拍

 広いQRS幅 (broad-complex)の頻拍に対する治療の選択は患者の安定性によって決定 される.不安定な広いQRS幅の頻拍では電気的除細動を治療の選択とする.

安定した心室頻拍に対する薬物治療 W35, W88

科学的コンセンサス

 3つの観察的研究(LOE 5)363-365では、アミオダロンがショック抵抗性か、薬剤に反応しないVTを止めるのに効果的であることが示唆された。1つの無作為化平行研究 (LOE 2)138 はaqueous アミオダロンがリドカインに比べ,ショック抵抗性のVTの治療により効果的であることを示唆した.

 1つの無作為研究(LOE 2)366は,プロカインアミドがリドカインより自発的VTを止めるのに勝っていることを示唆した.レトロスペクティブな分析(LOE 5)367-369では,リドカインは急性心筋梗塞を伴った患者,伴っていない患者のVTを止める率が低いことが示唆された.

 1つの無作為化比較試験(LOE 1)370が,急性遷延性VTに対してソタロール(sotalol)がリドカインより有意に効果的であることを示唆した.1つのメタ分析(LOE 1)367が,ソタロール一回静注によるtorsades de pointesの全体の危険性はおよそ0.1%であることを示した.

推奨される治療

 アミオダロン,プロカインアミド,とソタロールは安定して遷延したVTを止めるのに効果的である.

多形性心室頻拍に対する薬物治療 W89

科学的コンセンサス

 1つの観察的研究(LOE 5)371が,マグネシウム静注はQT 間隔の正常な患者の多形性VT(torsades de pointesを除いて)を止めないことを示した.リドカインは効果がないが,恐らくアミオダロンは効果がある(LOE 4).372

推奨される治療

 血行動態的が安定している多形性VTに対して,電気的治療が望ましくないか,効果がないとき,アミオダロンによる治療が効果的であろう.

Torsades de Pointes に対する治療 W90

科学的コンセンサス

 2つの観察的研究(LOE 5)371,373が,マグネシウム静注がQT 間隔が延長し手いる患者のtorsades de pointesを効果的に止めることを示した.1つの成人の症例累積研究(LOE 5)374が,イソプロテレノールか心室ペーシングが,徐脈と薬剤性QT延長を伴っ たtorsades de pointesを止めるのに効果的であることを示した.

推奨される治療

 マグネシウム,イソプロテレノールおよび心室ペーシングは torsades de pointesの治療に使用できる.

徐脈

 切迫心停止期において救助者は徐脈の可逆的な原因を探し治療すべきである.可逆的な原因がないとき,アトロピンは急性の症候性徐脈に対して第一選択の薬剤であり続ける.ドパミン,エピネフリン,イソプロテレノールやテオフィリンによる第2の薬物治療が成功するかもしれないが,アトロピンに反応しない場合は,通常経皮的ペーシングを必要とする.手拳ペーシングは電気的ペーシングユニットが到着するまで試みてもよい.

症状のある徐脈の薬物治療 W91

科学的コンセンサス

 1つの成人の無作為臨床試験(LOE 2)375と1つの成人の歴史的コホート研究と追加報告(LOE 4),376-379では,アトロピンの静注は徐脈に伴う心拍数,症状,徴候を改善した.0.5mgの初回用量,必要があれば総量1.5mg間で繰り返すことは,院内,院外の症状のある徐脈の治療に効果的であった.

 入院成人における2つの前向き比較非無作為コホート研究(LOE 4)376,380では,テオフィリンの静脈内投与は,アトロピンに反応しない徐脈に伴う,心拍数,症状,徴候を改善した.1つの症例累積研究 (LOE 5)379はアトロピンに反応しない薬剤性の症状のある徐脈を伴った入院患者にグルカゴン(初回3 mg 引き続き必要があれば 3 mg/hの持続静注)の静脈投与が行われたとき,徐脈に伴う心拍数,症状,徴候の改善を記 載した.

 10人の健康なボランティアにおける1つの研究は、アトロピン 3mgの用量が、安静時の心拍数を達成可能な最大な増加を起こすことを示唆した(LOE7).381 1つの研究はアトロピンが心臓移植後患者で逆説的にAVブロックを起こすかもしれないことを示唆した(LOE5).382

推奨される治療

 症候性の徐脈に対しては,アトロピン0.5〜1mgを静注し,総量3mgになるまで3〜5分ごとに繰り返す.アトロピン(もしくは最終的な管理を遅らせないなら第2の薬剤?)に反応しない患者では経皮的ペーシングをすぐに開始できるように準備する.重篤な症候性の徐脈,特にブロック部位がHis-Purkinjeレベル以下のときにもペーシングが推奨される.症候性徐脈に対する第2の薬剤には,ドパミン,エピネフリン,イソプロテレノール,そしてテオフィリンが含まれる.β遮断薬やカルシウムチャンネル拮抗薬が徐脈の潜在的な原因である場合,グルカゴンの静注を考慮する.心臓移植後の患者にはアトロピンを使用すべきでない.

心停止における手拳ペーシング W58

科学的コンセンサス

 3つの症例累積研究は手拳ペーシングが奏功しうることを示唆した.最も大規模 な研究の内2つには100例(LOE 5),383 と50例384の患者が含まれていた.手拳ペーシングと2つの電気方式と同じ患者で比較した1つの研究(LOE 5)385は3つの方法が同様に効果的であることを明らかにした.選択された症例累積研究では握った手拳で胸骨の左下縁を毎分50から70回(bpm)の生理学的な回数で心臓をペーシングするという,連続してリズミカルな叩打が最も効果的な方法であることを示唆されている(LOE 5).383,384手拳ペーシングの病院前における症例報告はない.事実上,全ての出版された手拳ペーシングの症例では,完全心ブロックが徐脈の根元であった.

推奨される治療

 手拳ペーシングは,電気式ペースメーカー(経皮的か経静脈的)が使えるまで,血行動態的に不安定な徐脈性不整脈においては考慮されてもよい.


■特殊な状況での心停止(Cardiac Arrest in Special Circumstances)

 ある状況では、患者の生存のチャンスを最大限にするために、標準的な蘇生法の変法が求められる。これらの特別な状況の多くにおいては、重篤な患者を認識することで、心停止を防ぐ早期治療が可能となる。コンセンサスの過程で再検討された特別な状況は、環境(低体温、溺水、感電)、妊娠、喘息、そして薬物の過量投与/中毒に分類することができる。

環境

低体温 W131, W162A

科学的コンセンサス

脈のある低体温の患者

 一つの無作為比較研究 (LOE 1)386は実験的な偶発的低体温モデルにおいて、積極的な表面からの加温は金属製ホイルで断熱するよりより効果的であることを示した。2つの研究(LOE 4)387,388は体表の温風加温装置と暖かい輸液によって積極的な再加温に成功したことを示した。

心停止のある低体温患者

 2つの研究(LOE 4)389,390は侵襲的な再加温(体外循環、人工心肺バイパス)を使うことで、遷延したCPRでの蘇生の成功と、改善の成功を示した。積極的で非侵襲的な再加温(温風、暖かい輸液)を使用することで、低体温における心停止からの蘇生の成功が報告されている(LOE 4)。389

 窒息疑いのある低体温性心停止に比べ窒息のない低体温性心停止の方が予後がよい、ということが報告された(LOE 4)。389 雪崩の犠牲者では、小さなエアポケットが心停止の窒息の一因を防いでいるかもしれない(LOE 5)。391

推奨される治療

 循環のある心拍があり、心停止が起こっていない低体温の患者に対しては、積極的な(非侵襲的な)体外式の加温(電気毛布、温風、そして暖められた輸液)を考慮する。重篤な低体温で心停止の患者には、侵襲的な加温(人工心肺バイパス、体外循環)が有益かもしれない。

溺水 W132, W160A, W160B

 さらなる情報についてはPart 2:"成人一次救命処置"の“溺水”を参照しなさい。

科学的コンセンサス

 1つの研究が、溺水患者で、重篤な外傷の臨床的な徴候がある場合だけ、頸部脊椎損傷の危険があるということを示唆した(LOE 4)。392 3つの単一症例報告(LOE 5)393-395が、新鮮な水によって引き起こされた重症呼吸促迫症候群に対する外因性界面活性剤の使用を報告した:2人の患者が生存した。1つの症例報告が2人の溺水患者に対して、非侵襲的陽圧換気の使用を報告した(LOE 5)。396 浸水後にステロイド(LOE 5)、397 一酸化窒素(LOE 5)、398 ROSC後の体外膜型肺(ECMO)による再加温(LOE 5)、389 ROSC後の治療的低体温を使用することについて支持したり、反対するエビデンスはなかった。浸水後の重篤な低体温の若い小児での体外膜型肺(ECMO)の使用について症例報告がある (LOE 5)。401,402

推奨される治療

 浸水している患者は水から連れ出し、最も早く利用できる方法で蘇生すべきである。危険因子(飛び込み、ウォータースライドの使用、外傷、アルコールの既往)や外傷の臨床的徴候や、神経学的徴候がある患者のみ、頸椎、胸椎の安定化をし、潜在的な脊髄損傷があるものとして治療すべきである。

感電 W135

科学的コンセンサス

 感電、落雷外傷の患者に対して、早期のBLSとALSが救命的で、短期そして長期の心的、神経学的後遺症を減らすであろうと、症例報告(LOE 5)403-412で示唆された。

 落雷外傷と電撃症の患者についての症例報告では、多発外傷の合併に可能性について、また最初の救助者の安全性を確実にすることの重要性について強調されている。生存者は永久的な神経学的、心的後遺症を残す可能性がある。

妊娠

妊娠中における心停止の病因 W119C, W134

科学的コンセンサス

 1つの大規模症例累積研究(LOE 5)413は、心停止の可逆的な原因の系統的な検討が、熟練した救助者が院内での妊娠中の心停止の病因を確定することを可能にするであろうということを示唆した。

 周心停止期の蘇生のシナリオから推定されるエビデンス(LOE 7)414,415は訓練された救助者による超音波診断が病院内での妊娠中の心停止の原因としての腹腔内出血を確定することを助けるであろうことを示唆した。

推奨される治療

 蘇生が試みられている間、救助者は妊娠中の心停止の一般的で可逆的な原因を確定するようにすべきである。妊娠と妊娠中の心停止の可能性のある原因を検出することにおいて、熟達した操作者による腹部超音波装置の使用を考慮すべきである、しかし、このことでその他の治療を遅らせるべきではない。

妊娠における蘇生のテクニック W134

科学的コンセンサス

 1つの症例累積研究(LOE 5)416と多数の症例報告(LOE 7417; LOE 8418-421)は、院内での熟達した救助者による初期蘇生の努力が失敗したなら、妊娠中の心停止の5分以内に胎児娩出を遂行させたとき、母胎と新生児の生存退院率が改善したことを報告した。

 麻酔(LOE 7)422とマネキンでの研究(LOE 6423)による推定では、左に15度傾けることで、妊婦の多くに見られる大動脈大静脈の圧迫を解除し、どういう状況でも救助者による胸部圧迫を効果的なものにするであろうことを示唆した。

 ヒトのボランティアでの研究(LOE 7)424は、妊娠中は経胸腔的なインピーダンスに変化はないことを示した。どのような状況でも、妊娠中の心停止に対して除細動が試みられるとき、標準の推奨された成人に対するエネルギーレベルを用いるべきである。

推奨される治療

 もし、初期の蘇生努力が失敗したら、母体と胎児の生存率を改善させるために、胎児の帝王切開による娩出(子宮切開)を心停止の発症から5分以内に実行すべきである。妊婦の大部分に認められる下大静脈の圧迫を解除するために、身体を15度左に傾けることが求められる。成人の除細動に用いられるエネルギーレベルは妊娠中の使用においても適切である。

喘息

喘息における除細動 W119B, W133

科学的コンセンサス

 健康な成人における一つのボランティアでの研究(LOE 7)425は、呼気終末陽圧(PEEP)の増加で経胸腔的なインピーダンスが増加することを示し、どのような臨床の状況でも、喘息による心停止の患者に対して、初期の除細動の試みが失敗したときは、ショックエネルギーを増加することが要求されるであろうということを示唆した。

推奨される治療

 もし喘息とVFのある患者で、除細動の初期の試みが失敗するなら、より高いショックエネルギーを考慮すべきである。

喘息における人工呼吸 W119B

科学的コンセンサス

 非心停止患者の体系的再検討から推定されるエビデンスは(LOE 7)426、ヘリウム/酸素の混合ガスが院内での心停止の間、喘息患者の肺を換気するために使われたとき、動的過膨張(auto-PEEP)が減ることを示唆した。

 3つの非心停止の症例累積研究から推定されるエビデンス(LOE 7)427-429は、喘息患者は心停止中、特に、推奨されるものより多い一回換気量と回数で人工呼吸されたとき、gas trappingを起こす危険性があることを示唆した。2つの小規模な症例累積研究と(LOE 5)430,431事例報告(LOE 8)432では、どのような臨床的状況でも、喘息による心停止患者に対して、胸壁の圧迫とそれに続くgas trappingを開放する無呼吸の期間をおくことによる一貫した利点を示すことができなかった。(上の"心停止中の人工呼吸中断,"も参照のこと)

 非心停止の症例累積研究から推測されるエビデンス(LOE 7)428は、どのような状況でも喘息による心停止の患者に対して、訓練された救助者によって早期に気管挿管されれば、肺の換気が改善され、胃の膨張を減らすことを示唆した。

 2つの非心停止の症例報告からのエビデンス(LOE 7433; LOE 8434)では、喘息による心停止での、開胸人工呼吸と心圧迫ついて、支持も反対もされなかった。

推奨される治療

 喘息に関連する心停止での、ヘリウム/酸素混合ガスの使用について、支持したり反対する十分なデータはない。

 動的な過膨張が起こるなら、胸壁の圧迫や無呼吸の期間はgas trappingを開放するかもしれない。喘息に関連する心停止では、人工呼吸を容易にし、胃の膨張の危険性を最小化するために、早期に気管挿管されるべきである。

薬剤過量服用、中毒 W198

中毒に対する炭酸水素ナトリウムと電解質異常 W197A, W197B, W197C, W197D, W197E

科学的コンセンサス

 2人の小児のカルシウムチャンネル拮抗薬過量服用に対する重炭酸塩の使用からのエビデンス(LOE 5)435では、ニフェジピンの致命的過量服用においては、カルシウムチャンネル拮抗薬の過量服用における重炭酸塩の価値については支持も反対もしなかった。

 三環系抗うつ薬の過量服用に関連する、不整脈や低血圧に対する炭酸水素ナトリウム治療のヒトでの比較研究はない。しかし、症例報告 (LOE 5);436,437動物での研究(LOE 6)、438-447そして生体外での研究(LOE 6 445,448,449; LOE 7 450,451)からのエビデンスは、三環系抗うつ薬によって起こった不整脈や低血圧を治療するために、炭酸水素ナトリウムの使用を支持した。

推奨される治療

 炭酸水素ナトリウムは三環系抗うつ薬による不整脈や低血圧の治療に推奨される。重炭酸による治療の最適な目標pHについて検討した研究はないが、pH7.45から7.55は一般に受け入れられ、合理的であるように見える。

オピオイド過量服用におけるナロキソン投与前の人工呼吸 W18, W106

科学的コンセンサス

 成人での症例累積研究(LOE 5)452-454からのエビデンスとLOE 7 455,456 と LOE 8 457の研究からの推定では、病院前でのオピオイドによる呼吸抑制のある患者に対して、ナロキソン投与前に、救急隊員によって人工呼吸が行われたときその副作用はより少ないことを示唆している。


■蘇生後の治療(Postresuscitation Care)

 心拍再開(ROSC)は心停止から完全回復というゴールへの最初の一歩である。蘇生後の治療は最終的な転帰に大きな影響を及ぼすものと思われるが、この時相に関連したデータは比較的少数しかない。確定したガイドラインがない中で、様々な方面から蘇生後治療が試みられている。蘇生後の治療は以下の分野に分類される。 (1) 換気, (2) 体温調節 (治療的低体温および高体温の予防と治療), (3) 痙攣のコントロールと鎮静, そして (4) 他の支持療法 (血糖コントロール、凝固系のコントロール、予防的抗不整脈薬治療)である。

 治療的低体温は心停止生存者の神経学的転帰を改善する、そして高体温は明らかに有害である。血糖値の厳格なコントロールは重症患者の転帰を改善するが、蘇生後にもこの治療が有効かどうかは不明である。昏睡状態にある心停止からの生存者の転帰予測には問題が残っている。心停止72時間後の正中神経刺激による体性感覚誘発電位測定は有用のようだが、いくつかの血清マーカーについての結論は出ていない。

換気

動脈血二酸化炭素のコントロール W114B

科学的コンセンサス

 成人での5編の研究(LOE 2458,459; LOE 3460; LOE 5461; LOE 7462)と多数の動物研究(LOE 6)463-465 は心停止後の低炭酸ガス血症(脳虚血)の有害作用を示している。2編の研究は中立的なエビデンスを示している(LOE 5466; LOE 6467)。

推奨される治療

 心停止からの蘇生後にPaCO2を特定の値を目標に設定することを支持するデータはない。しかしながら、脳障害患者から推定されるデータは正常二酸化炭素状態になるように換気するのが適当であることを示唆している。ルーチンに過換気にすることは害となり得るし避けるべきである。

体温コントロール

治療的低体温 W109A,W109B

科学的コンセンサス

 2編の無作為臨床研究では病院外のVFによる心停止から蘇生された後も昏睡状態が続いた成人患者で、心拍再開(ROSC)から数分ないし数時間以内に冷却された場合は転帰が改善したことを示した。これらの研究対象となった患者は33℃468または32℃から34℃の範囲に46912から24時間冷却された。心停止後低体温治療研究 (the Hypothermia After Cardiac Arrest study, HACA study) 468では少数の院内心停止の患者群を含んでいた。

 1つの研究470では、最初の心電図がPEA/asystoleであった病院外心停止から心拍再開(ROSC)後の昏睡成人患者は、冷却されると代謝上のエンドポイント(乳酸と酸素摂取)が改善することが報告された。小規模の研究(LOE 4)471では非VF心停止後、昏睡状態にある生存者に対して治療的低体温が有益であることが示された。

 体外また体内冷却法は数分から数時間以内に使用開始することができる(LOE 1468; LOE 2469,470; LOE 5472-475)。心停止後の治療的低体温により転帰が改善したと報告した研究は体外冷却法を使用していたものだけであった(LOE 1468; LOE 2469,470)。30mL/kg の4℃生理食塩水を輸液すると核心温は約1.5℃低下した(LOE 5)472,473,475。1編の心停止患者での研究(LOE 5)474と3編の他の研究(LOE 7)476-478は血管内冷却法は体外法に比較して核心温をより正確にコントロールできることを報告している。

 治療的低体温で転帰が改善したと記述している研究では持続的体温モニタリングが使用された(LOE 1468; LOE 2469,470)。多数の動物実験(LOE 6)479-484は冷却を可能な限り速やかに開始し、そして適当な期間(例えば12から24時間)続けることの重要性を示している。冷却の開始、程度、持続時間などについての最適な指標はわかっていない。

 心停止の生存者には痙攣やミオクローヌスが起きる(LOE 5474,485-487)。シバリングは鎮静と間欠的または持続的な神経筋遮断を必要とする。持続的な神経筋遮断は痙攣活動を隠すことがある。

推奨される治療

 病院外心停止後で自己循環はあるが意識のない成人患者に対して、最初の調律がVFの場合は12時間から24時間は32℃ないし34℃に冷却すべきである。院内の心停止または、最初の調律がVFではない病院外心停止後で自己循環はあるが意識のない成人患者には12時間から24時間は32℃ないし34℃に冷却することを考慮してもよい。

高体温の予防と治療 W110

科学的コンセンサス

 心停止後の最初の48時間に、心停止後高体温の時期がよくある(LOE 4)488-490。心停止後の高体温を予防するための解熱薬(または物理的冷却器具)の臨床的な効果について検討した前向き比較研究はない。

 体温が37℃以上では1℃上昇する毎に好ましくない神経学的転帰となる危険性が増大する(LOE 3)491。高体温は脳卒中後の患者の罹病率と死亡率の上昇に関連していた(LOE 7)492。脳卒中後の発熱はアセトアミノフェンやイブプロフェンのような解熱薬ではうまく治療できなかったが(LOE 7)493,494、解熱薬や物理的冷却法は全脳虚血の動物モデルで脳梗塞の容量減少と関連していた(LOE 7)495,496

推奨される治療

 心停止後の高体温は避けるべきである。

痙攣コントロールと鎮静

痙攣の予防とコントロール W111A,W111B

科学的コンセンサス

 成人の心停止後に予防的に抗痙攣薬を使用することに直接的に言及した研究はない。痙攣が心停止(LOE 4497,498; LOE 5486,499-501; LOE 8501)や呼吸停止(LOE 5)502を引き起こすことを示すデータはある。

推奨される治療

 痙攣は脳の酸素需要を増加し生命を脅かす不整脈と呼吸停止の原因となるので、心停止に引き続く痙攣は即座に効果的に治療されなければならない。一度痙攣の誘引となり得る原因(例、頭蓋内出血、電解質異常など)が除外されたら、最初の発作の後に維持療法を開始すべきである。

鎮静と薬理学的筋弛緩 W113

科学的コンセンサス

 心停止後に一定の期間、人工呼吸、鎮静、神経筋遮断をすることについては支持するデータも否定するデータもない。1編の成人を対象とした観察的研究(LOE 5)503では病院外または病院内の心停止の後、鎮静が48時間以上に延長されると、肺炎の発生率が上昇したと報告されている。

他の支持療法

血糖コントロール W115A,W115B

科学的コンセンサス

 インスリンを用いた厳密な血糖コントロール(範囲 80〜110 mg/dL または 4.4〜6.1 mmol/L)は重篤な成人患者の病院死亡率を減少させる(LOE 1504; LOE 4505)が、このことは心停止後の患者では示されていない。いくつかのヒトの研究は心停止からの蘇生後の高血糖と神経学的に不良な転帰との強い関連を示している(LOE 7)514-517

 重篤な患者における血糖の至適目標値は決定されていない。昏睡患者では低血糖が認識されないという特別な危険性があり、この合併症の危険性は目標血糖値が低いほど増加する(LOE 8)。ラットの研究ではブドウ糖とインスリンは窒息性心停止後の脳の予後を改善したことを示している(LOE 6)518。治療的低体温は高血糖と関連していた(LOE 2)469

推奨される治療

 心停止後には頻回に血糖値を測定すべきであり、高血糖はインスリンで治療すべきであるが低血糖は避けなければならない。

血液凝固のコントロール W116

科学的コンセンサス

 抗凝固療法が単独で心拍再開(ROSC)後の予後を改善にするか検討した研究はない。ヒトで遷延性の心停止後に線溶薬とヘパリンを組み合わせて投与(抗凝固)した3編の非実験的な報告(LOE 4168; LOE 5519; LOE 6179)では、心拍再開(ROSC)率が有意に改善したが、24時間生存率には影響しなかった。

予防的抗不整脈薬治療 W118A,W118B

科学的コンセンサス

 心停止の蘇生直後から予防的に抗不整脈薬治療を開始することについて、具体的にあるいは直接的に言及した研究はない。6編の研究(LOE 5)520-525 によれば、あらゆる原因による心停止からの生存者に予防的に抗不整脈薬が投与された場合の長期生存の改善効果が一定ではないことを示している。6編の研究(LOE 1526-528; LOE 2529,530; LOE 3531) は心停止からの生存者に対して埋め込み型除細動器(ICD)が抗不整脈薬よりも生存率を改善することを示した。

推奨される治療

 どんな病因であっても、心停止から生存した患者に予防的に抗不整脈薬を投与することは推奨も否定もされない。しかしながら、蘇生中に安定した調律にうまく復帰させた抗不整脈薬をその後も投与しつづけることは妥当かもしれない。


■予後予測(Prognostication)

心停止中の予後予測

予後予測における神経学的検査の価値 W122A,W122B

科学的コンセンサス

 5編の研究 (LOE 4532,533; LOE 5534-536) では心停止中に行われた神経学的検査で成人の予後が多少なりとも予測できるとしているが、臨床的評価法として使用しても予後不良を予測するには実用性は不十分である。

推奨される治療

 心停止中の神経学的検査結果に基づき予後を予測することは推奨できないし、そうすべきではない。

蘇生後の予後予測

予後予測における標準的血液検査の価値 W12B

科学的コンセンサス

 心停止からの予後予測に対する生物学的指標の有用性を検討した8編のヒトの前向き研究では、急性期に予後予測をする上で臨床的に役に立つものはひとつもなかった。1編のヒトの後ろ向き研究ではクレアチンキナーゼ-MB(creatine kinase-MB)が生存の独立した予測因子となりえることが示唆された(LOE 4),539が、測定が確定するまでに時間がかかるため臨床的にはあまり役に立たないであろう。

 いくつかの動物実験(LOE 6),544-556では、乳酸と酸塩基の値が不良な転帰と関連する傾向が示された。これらの研究では、妥当な予後予測となる生化学的指標の値を明らかにした予測モデルを結論として形成できたものはなかった。

予後予測における神経特異エノラーゼ(Neuron-Specific Enolase)と蛋白質S-100b(Protein S-100b)の価値 W126

科学的コンセンサス

 1編の無作為比較研究(LOE 2),5574編の前向き比較研究(LOE 3),558-561、そして11編の症例報告/コホート研究 (LOE 4506,539,562-564; LOE 5512,513,565-568) で神経特異エノラーゼ(NSE) とたんぱく質S-100bが心停止の予後指標として有用である可能性が示唆された。しかしこれらの研究の95%信頼区間(CI)は広く、(機能レベルについての記述なしに)意識回復は転帰「良好」と判断された。
 このトピックについての唯一のメタ解析は、5%の偽陽性率で95%の信頼区間を得るには、被験者数が約600名必要と見積もっている。このような大規模研究はされていない。

推奨される治療

 心停止の予後予測として信頼できる血液検査(NSE、S-100b、塩基欠乏、血糖、soluble P-selectin)はない。

体性感覚誘発電位 W124A,W124B

科学的コンセンサス

 18編の前向き研究(LOE 3)568,570-586 と1編のメタ解析(LOE 1)587 では、心停止後少なくとも72時間昏睡状態にある正常体温患者の予後不良は、正中神経刺激の体性感覚誘発電位で、100%の特異度で予測できることを示した。低酸素−無酸素に起因する昏睡患者では、両側性に誘発電位のN20成分が欠如していれば一様に致死的である。

推奨される治療

 心停止から72時間後に正中神経刺激による体性誘発感覚電位測定を行い、低酸素−無酸素性昏睡の患者の致死的な予後を予測することが可能である。

脳波

科学的コンセンサス

 心停止から少なくとも24〜48時間後に行われる脳波検査ついては、ヒトの症例報告(LOE 5)578,585,588-598と動物実験(LOE 6)599-601で検討されている。修正 HockadayスケールのグレードI(θ-δ活動を伴う正常α波)、グレードIV(α昏睡、棘波、鋭波、徐波でバックグラウンド活動の非常に乏しいもの)、グレードV(平坦から等電位)が予後予測に最も有用であった。しかし、グレードIIとグレードIIIの脳波の場合は予後予測は不可能であった。

推奨される治療

 心停止から少なくとも24から48時間後に行われる脳波検査は脳波グレードI、IV、Vの患者の予後予測に役立つ。


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