公開資料:救命救急センター等での歯科医研修問題について

社団法人 北海道歯科医師会からの提供資料

御礼:本資料を提供いただきました社団法人 北海道歯科医師会各位に深謝申し上げます。
なお、縦書きの文書をウェブ用に横書きに書き換えさせていただきましたことをお断り申し上げます。
(ウェブ責任者(愛媛大学医学部救急医学 越智元郎



目 次


平成14年 1月17日_

要 望 書

札幌地方検察庁
検事正 桜井 浩 殿

社団法人 北海道歯科医師会___
会 長  永 山 一 行___


 近年、我が国では、医学の進歩と医療制度の充実に伴い、従来は不可能であった重症患者の救命が可能になり、重症慢性疾患や重度身体障害を抱えて生活している患者が急増しております。一方、QOLの概念が一般社会通念として定着したことから、歯科治療の恩恵に浴することの少なかった重症有病者や在宅寝たきり高齢者なども、質の高い歯科治療を希望することが多くなっております。

 全身の予備能が低下している高齢者や有病者などの歯科治療に際しては、治療に伴う全身疾患の増悪あるいは偶発症の発生リスクが非常に高いため、これを回避するためには緊密な医科歯科連携が必要であることは言うまでもありません。しかし、十分な予防処置を講じたとしても、これらの発生を完全に防止することは困難であり、歯科医師が救命救急の初期対応をせざるを得ないような状況が生じることは充分想定し得ることであります。このような患者に安全で質の高い歯科治療を提供するためには、全身状態の把握ならびに救急時の対応法等についての知識・技術を習得した歯科医師の存在が不可欠であり、人材育成のため歯科医師の医科領域における研修が必要不可欠です。実際、歯科医師の研修の必要性を認識し、これまで全国の多くの医学部附属病院等に歯科医師の研修を受け入れて頂いております。

 このような背景の下に、市立札幌病院は、自らの資質の向上をめざす歯科医師の熱意に応えるべく、歯科医師の救急医療研修を受け入れてきたものと理解しております。今回、救命救急センター部長と研修を行った三名の歯科医師が、その研修の一環として行った行為について医師法違反に当たる疑いがあるとの容疑で告発され、札幌地検に送検されたことは驚きとして受け止めております。今後、彼らに刑事罰が与えられるようなことになれば、歯科医師の研修を受け入れる医師および医療機関が皆無となることは明らかで、これからの社会に必要とされる高い資質を持った歯科医師の養成が困難になります。このような事態は、これからの社会にとって大きな損失となることでしょう。 

 貴職におかれましては、以上のような事情をご考慮頂き、特段のご配慮を賜りますよう御願い申し上げます。


平成13年12月13日_

要 望 書

社団法人 日本歯科医師会
会長  臼 田 貞 夫 様

社団法人 北海道歯科医師会___
会 長  永 山 一 行___


 平成一三年九月、市立札幌病院救命救急センターで研修を受けた歯科医師三人と同センター部長である医師が、研修中に専門外治療を行ったとして、医師法第一七条違反で告発されました。同病院内のレジデント教育委員会に認められた研修プログラムにより、麻酔科、救命救急センター及び歯科口腔外科で研修を受けていた中で、違法性を問われたものです。

 歯科においても、口腔外科分野の診療には麻酔や救命救急などの知識と技術が必要であり、これらの研修が不可欠です。このため、歯科医師の研修は歯科大学付属病院やいわゆる病院歯科のみならず、医科大学付属病院等においても広く行われていることはご承知の通りです。

 又、歯科医療の範囲は口腔領域の悪性腫瘍にまで及ぶことから、医師と歯科医師は互いにその専門性を尊重しつつ分担して診療に当たっていますが、症例によっては耳鼻科や形成外科など医科との連携の下で処置に当たらなければならないことも少なくありません。

 高齢社会となった今日、訪問歯科診療のニーズは急速に増大していますが、在宅療養者は慢性疾患や後遺症などの障害を有することから、ベッドサイドでの処置は大きなリスクを伴います。「かかりつけ歯科医」として高齢者・障害者の歯科治療に当たる時、全身疾患の基礎知識や管理手法が求められており、適切な研修機関で研鑽を積むことは歯科医師の責務であるといっても過言ではありません。特に高次歯科医療を提供する後方支援病院の歯科医師を養成するためにも、医科・歯科協力態勢の診療を修得することが必要となります。

 良質で高度な歯科医療を国民に適切かつ安全に提供するため、歯科医師の医科における研修の必要性と正当性をご理解いただき、早急に法律の整備を進めるよう、厚生労働省に強く働きかけることを要望します。


北歯発第 815 号_
平成14年1月18日_

各都府県歯科医師会長 様

社団法人 北海道歯科医師会___
会 長  永 山 一 行___


市立札幌病院研修医問題への支援について(お願い)


 時下、益々ご清栄のこととお慶び申し上げます。平素は、格別のご高配を賜り厚くお礼申し上げます。

 さて、標記の件、既に新聞報道等でご承知かと存じますが、平成13年9月市立札幌病院救命救急センターで研修を受けた歯科医師3人と同センター部長である医師が研修中に専門外治療を行ったとして医師法第17条違反で告発され、本年1月10日に札幌地検に同法違反の疑いで書類送検されました。

 これらの研修は、北海道大学歯学部口腔外科で2年間以上の研修を終了した後、市立札幌病院歯科口腔外科研修医として採用され、「レジデント教育委員会」のプログラムに基づき研修が進められてきたものです。かかりつけ歯科医として高齢者・障害者などの歯科治療に際し、全身疾患の基礎知識が必要であり、適切な研修機関で研鑚を積むことは、良質な歯科医療を提供するため不可欠です。特に歯科口腔外科医は、その診療範囲の特殊性から全身管理や救急の技法を習得することが求められ、全国で多数の医科医療機関において研修が実施されております。

 厚生労働省は、市立札幌病院の問題について同法違反であるとの見解を示していますが、これは歯科、特に口腔外科や歯科麻酔領域での歯科側の努力と医科側の理解・協力によって定着されつつある研修体制を否定する事につながります。さらに、今後本件が起訴されて司法の裁きに委ねられることになれば、この研修制度そのものの崩壊を招きかねません。

 本会としては、その影響が全国に及ぶことから昨年12月14日小職が臼田日歯会長に面談の上、厚生労働省への働きかけを要望しておりますが、今般の書類送検を受けて札幌地方検察庁に対しても要望書の提出を理事会決議致しました。又、同窓会を中核に支援組織も立ち上がり本格的活動を開始しておりますが、本会もその一員として歯科医師の医科における研修の必要性と正当性を関係機関に訴えていく所存です。我々の考えが札幌地方検察庁に正しく理解され、適正な判断(不起訴)を得るには関係団体からも数多くの要望が提出されることが重要と考えています。

 つきましては、本問題の及ぼす重要性と支援活動の趣意をご理解賜り、貴会からも本会と同様趣旨の要望書を札幌地方検察庁に提出願えれば誠に幸いです。

 尚、要望書は本会で取りまとめの上札幌地方検察庁に持参しますので、1月30日までにご送付下さいますようお願い致します。時節柄何かとお忙しい所誠に恐縮ですがご理解・ご協力を重ねてお願い申し上げます。

  参考資料


■救命救急センター等での歯科医研修問題について