第92回
2011年11月29日

「できることから始めました。-市中病院の試行錯誤の3年間-」

千曲中央病院 副院長・消化器内科
宮林 千春先生

過日、当地区の第56回東信医学会に海堂尊先生をお招きし、特別講演をしていただいた。信州(長野県)は北信、南信、中信と東信に分けられ、その東信地区で行われる医学会であり、内科医も外科医も小児科医も産婦人科医も眼科医も皮膚科医も科を問わず集う会である。学会としては珍しい部類に入ると思うが、当院のAiの実際を地域の先生方に知ってもらういい機会でもある。特別講演「Ai・2011」が始まって10分、Aiによる死因究明は極めて理にかなっている検査であること、医療者にとっても社会にとっても必要な仕組みであること、言わんとしていることに聴衆はすぐに賛同し了解し、引き込まれるように聞き入っている。今や社会的にも容認されたこの言葉と説得力は地域の医療、看取りにおいても欠かせないものとなっている。

市中の一般病院である当院ではAiの適応を1) 救急で、死後または蘇生中断した場合で死因が不明な場合(以下救急Aiと略す)、2) すでに死亡しており警察の検視段階で依頼があった場合(以下検視Aiと略す)としている。当院では平成21年1月より検視Aiを受け入れている。

平成21年1月 ~平成23年9月の搬送時または搬送後死亡件数 407件のうち、救急Aiが57件、検視Aiが21 件、合計78件であった。Ai 施行率=(救急Ai + 検視Ai) / 搬送時または搬送後死亡件数 と定義すると、Ai 施行率は全期間で19.2%であった。これをAi導入初期の前期(平成21年1月 ~平成22年1月)と後期(平成22年2月 ~平成23年9月)に分けると、それぞれ15.0%、34.9%となる。医師にも警察にもAiが浸透し認知度が上がっていることが数字に表れている。

救急Aiについては、多くの施設でされているとおり、救急医療の延長でAiが施行され、死に至った病態、原因を遺族に告げられることが多い。その費用を誰が負担するか。救急医療の延長であることを理由に保険請求をしている施設もあれば、院長の一声で持ち出しにしている施設もある。当地区おける施設の状況を筆者が伝聞する限りにおいてはその割合は半々である。当院はこと救急Aiに関しては前者である。救急医が現場で苦悩するAiの費用負担を保険請求することが社会問題になるのであれば、それはそれで正面から費用負担に関する議論をする絶好の機会である。

検視Ai 21 件について述べる。依頼元は同一地域の警察署からの検視Aiが15件 (71%)、隣接する警察署からの検視Ai が6件 (29%)であった。救急Aiは多くの施設で行われるが、検視Aiとなると受け入れも難しい状況で、長野県東信・北信地区において受け入れ可能施設はわずか数施設に限られる。長野県を二分する背景人口を抱えているにもかかわらず、である。当院の検視Aiでは、CT操作室において当日担当の医師(放射線科以外の医師)が即時読影を行い、検視官に画像所見を示し、死因について協議し死体検案書を作成している。後日、放射線科医(週1回の非常勤)を交え画像診断について再討議し死因診断の正当性を確認するか、Ai情報センターに読影依頼をするようにしている。

当初は同意書も専門家による読影もなく、レントゲンフィルム出力でデータ保管なしで運用していた。責任の所在が不明確であること、詳細なデータ保存の必要があること、さらにAi情報センターが設立されたことなどの理由から、最近は遺族から文書で同意を得、 画像データ保管はCD-Rで保存すると同時にAi情報センターへ読影を依頼し、報告書は正式文書として警察を通じて遺族に手渡すようにした。費用についてはAi学会推奨の撮影料20,000円+読影診断料30,000円+消費税2,500円=52,500円を遺族に請求することにしている。死体検案料と合わせると10万円近くなる。本当の死因を知りたいという遺族の熱意は金額ではないというものの実際に窓口でこの額を請求すると、えっ?とたじろぐ遺族は多い。通常の病気療養中に保険診療でCTを撮った場合の窓口支払額の10倍といった感覚なのであろう。同意書の最新版で金額も記載し明朗会計となったことと死因が判明して納得できた安堵感からか金銭的なトラブルは未だない。

Aiにより驚くような死因がわかるとはいえ、すべての症例において直接死因が推定できるわけではない。所見を認めないことも死因究明においては重要なデータであることを私たちは学んだ。Aiセンターを作って、読影専門家をおいて、ネットワークを作って・・云々と考えたら、ものすごいことを始めるのだと身構え悩んでしまった。地方の市中病院で初めてやることだから試行錯誤でやってみるかと気を取り直し、まず自病院でできる範囲でAiを始めて、読影は情報センターに依頼し、近隣の病院および警察に声をかけて合同の情報交換会や勉強会を行い、読影結果を会でフィードバックすることにした。

なんだ、いつもの外来診療、病院連携と同じではないかと、気が楽になった感がする。