AHA新ガイドライン 第10部(8) 妊娠に関連した心停止
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■心停止を防ぐための鍵 ■心停止の妊娠女性への蘇生 ■要約 □参考文献 |
―ホルモンの変化により胃食道括約筋の働きが充分でないため、食餌逆流の危険性が増加する。意識のない妊娠女性に対する陽圧換気中は継続的な輪状軟骨圧迫が必要である。
―胸骨のやや高い位置、つまり胸骨中心よりわずか上を心臓マッサージする。これは妊娠した子宮により横隔膜と腹部臓器が上へ押し上げられていることに適応するものである4。
―標準的な2次救命処置の除細動と同等量で除細動を行う(classUa)。5二次救命処置の無脈心停止のアルゴリズムを参照せよ(Part7.2"心停止の処置")。直流の除細動によるショックが胎児の心臓に不利益な結果をもたらしたという証拠はない。
―もし胎児または子宮のモニターが設置されているならば、除細動の前に取り外しが必要がある。
―蘇生においては早急に気道を確実に確保しなければならない。胃食道括約筋の働きが不充分であることによる食餌逆流の危険が増加のため、気管挿管を試みる間とその前には継続的な輪状軟骨圧迫を行う。
―気道が浮腫で狭くなっているかもしれないため、妊娠していない女性用いる内径より0.5-1mmほど小さい挿管チューブを準備し用いる6。
―妊娠している患者は、肺の機能的残気量が低下しており、酸素需要量が増大しているため、早く低酸素血症に陥る。そのため、救助者は酸素投与と人工換気が出来るよう準備すべきである。
―正しく挿管チューブが挿入できたかどうか臨床的評価や呼気CO2検出器といった器具で確認しなければならない。妊娠後期において、確実に挿管チューブが気管に入っていても、食道検知器具は食道に入っている(バルブを押しても再び膨らまない)と示しやすい。このことは、適切に挿入した挿管チューブを抜去してしまうことにつながる。
―母体の横隔膜が挙上していることから、人工換気量は減らす必要があるかもしれない。
―蘇生治療の二次救命処置法に従う。
―エピネフリン、バゾプレッシン、そしてドーパミンといった昇圧物質は子宮への血流を低下させる。しかしながら、奨励されている量の薬を投与することに選択の余地はない。母体は蘇生されなければ、胎児の蘇生の機会は失われる。
−マグネシウムの過量投与。マグネシウムを投与されている子癇の女性に、医療的な過量投与はありうることである。特に乏尿の女性にはありうる。グルコン酸カルシウム(1アンプルまたは1g)の投与は、マグネシウム中毒に選択される処置である。経験的なカルシウム投与は救命になるかもしれない8,9。
―急性冠動脈疾患。妊娠女性は他の病態と関連して急性冠動脈疾患を経験するかもしれない。妊娠中に線維溶解は相対的に禁忌であるため、経皮的な冠動脈治療はST上昇心筋梗塞に対する再開通の治療方法である10。
―前子癇状態/子癇。前子癇状態/子癇は妊娠20週以降に起こり、重症高血圧と最終的には瀰漫した組織機能不全に陥る。もし治療されなければ、母体と胎児の罹病と死亡につながる。
―大動脈解離。妊娠した女性は自然発生の大動脈解離の危険度が高い。
―生命を脅かす肺塞栓と梗塞。妊娠した女性において、巨大で生命を脅かす肺塞栓11-13と虚血性梗塞14に対し線維溶解を使用して成功したという報告がある。
―羊水塞栓。分娩中に生命を脅かす羊水塞栓を起こした女性に対して、心肺バイパスを使用し成功したとの報告がある15。
―外傷と薬物中毒。妊娠した女性は、社会の多くが悩む事故や精神的疾患の例外にはならない。家庭内暴力も妊娠中は増加し、事実、殺人や自殺は妊娠中の死亡原因の筆頭である6,7。
蘇生チームリーダーは、妊娠した女性が心肺停止に陥ってすぐに緊急帝王切開(帝王切開分娩)プロトコールの必要性を考慮すべきである4,16-18。妊娠24から25週以降の胎児の最もよい蘇生率は、母体の心拍が停止して5分以内に分娩に至っている場合である16,19-21。これによるとプロバイダーは心肺停止後4分以内に帝王切開を開始することが要求される。
緊急帝王切開は積極的な方法である。潜在的に生存能力のある胎児を救助することは、母体の蘇生でもあるという反対の印象を受けるかもしれない6,10,22-24。しかし母体は静脈還流や心拍出量が回復しない限りは蘇生出来ない。分娩により子宮は空になり、静脈閉塞や動脈圧迫両方が解除される。帝王切開は胎児にとって、新生児としての蘇生が始まることにもなる。
忘れてはならない危機的な点としては、母体の心臓への血流を回復出来なければ、母体も胎児も両方失ってしまうことである4,18,25,26。救助者が一次救命処置と二次救命処置により心停止が回復するかどうか判断しなければならない許容時間は4から5分である。蘇生チームには、緊急帝王切開を開始するまでに経過をみる余裕の時間などない27。緊急帝王切開を緊急に決め、実際に胎児が分娩するまでの時間は、産科のガイドラインでの30分をはるかに越える時間の差があるとの最近の報告がある28-29。
静脈確保と二次的な気道確保は数分以内に行う必要がある。ほとんどの場合、実際の帝王切開は静脈確保と気管挿管されるまでは行うことは出来ない。蘇生チームリーダーは妊娠した女性において心肺停止を認めた場合はすぐに緊急帝王切開のプロトコールを活動すべきである。チームリーダーが児を娩出するまでに、静脈は確保されて第一の薬剤は投与され、二次的な気道確保もされ、そして心肺停止の即時の可逆性が判断される。
緊急帝王切開の決定
蘇生チームは緊急帝王切開の必要性を判断する際に母体と胎児のいくつかの要因を考慮すべきである。
―妊娠20週未満。母体の心拍出を妨げるほどの子宮の大きさではないため、緊急帝王切開分娩は考慮する必要はない。
―妊娠20から23週。週数からは蘇生がおぼつかない娩出された胎児の救命のためではなく、母体の蘇生の成功のために緊急帝王切開を行う。
―妊娠およそ24から25週以降。母体と胎児両方を救命するために、緊急帝王切開を行う。
―母体の心停止から児が娩出されるまでの時間が短い。
―母体に前心停止状態の低酸素血症が持続していない。
―母体が心停止となる前に胎児仮死の兆候がわずかにあるかない。
―母体に積極的かつ効果的な蘇生努力。
―帝王切開が新生児集中治療室を備えた医療センターで行われること。
―十分な設備と備品が使用可能であるか?
―緊急帝王切開が救助者の経験と技術の処置範囲内であるか?
―新生児に対する治療のために、特に新生児が満期産でない場合、新生児/小児の技術的支援が利用可能であるか?
―分娩後に産婦人科医による母体の支援がただちに出来るかどうか?
高度な整備
専門家や団体は高度な整備の重要性を強調してきた4,18,26。医療センターは、そこでの緊急帝王切開が実行できるかどうか再検討しなければならないし、もし出来るならただちに実現する最良の方法を確立しなければならない。計画は産科と小児科の協働で作られるべきである。
換気
循環
除細動
換気
循環
鑑別診断と判断
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心停止を防ぐための鍵
(Key Interventions to Prevent Arrest)■心停止の妊娠女性への蘇生
一次救命処置の修正箇所
二次救命処置の修正箇所
心肺停止における妊娠した女性に対する緊急帝王切開(帝王切開分娩)
■要約
二次救命処置アプローチ 妊娠女性に対する修正点 一次ABCDサーベイ
気道確保
または
または二次ABCDサーベイ
気道確保
―酸素需要または肺機能が破綻すれば、患者は低酸素血症に陥る。機能的肺残気量が減少するために、蓄えが少なくなる。分換気量と1回換気量は増加する。
―効果的な酸素化と換気のために換気支持を用いる。