生命科学若手セミナー

静岡生命科学若手フォーラムでは毎月1回生命科学若手セミナーを開催しています。参加費は無料で飲食もOKの気軽なセミナーです。学生も含めて、多くの方のご参加をお待ちしています。

【第98回生命科学若手セミナー】
日時: 2019年12月19日(木曜日)17:00-18:30
場所: 静岡大学 共通教育A棟302室
演者: 佐田亜衣子 博士(熊本大学国際先端医学研究機構)
演題: "皮膚の再生と老化を担う幹細胞のはたらき"
要旨:  皮膚は、外界から身体を守るバリアとして働くほか、水分量や体温の調節、知覚など、生命維持に必須の役割を果たしている。皮膚には、表皮、毛包を再生する幹細胞が存在し、表皮のターンオーバーや、毛の生え変わり、皮膚損傷の治癒などに働く。毛包幹細胞に関する研究は、2000年代初めに毛包のバルジ領域に幹細胞が局在することが発見されて以来、細胞・分子レベルで理解が進んできた。一方、表皮幹細胞は、1980年代にヒト表皮幹細胞の体外培養と自家移植による熱傷治療が世界で初めて成功し、再生医療に古くから利用されてきたが、幹細胞の基礎的特性の理解が遅れていた。本セミナーでは、皮膚の基本構造や幹細胞の局在、表皮幹細胞モデルについて概説した後、「細胞分裂頻度の違い」という視点から表皮幹細胞の不均一性を捉えた我々の研究成果を紹介する。
 古典的なモデルにおいて、組織幹細胞は、細胞分裂頻度を低く抑えることで、分裂に伴って起こりうる幹細胞のがん化や老化を防ぐと提唱されていた。私たちはこれまでに、新たに同定した分子マーカーを用い、マウス表皮においてこのモデルを検証したところ、分裂頻度の低い細胞だけでなく、本来幹細胞ではないと考えられてきた活発に分裂する細胞も、幹細胞として働くことを発見した(Nat. Cell. Biol. 2016)。これら2種類の幹細胞は、恒常状態では独立して働くが、皮膚損傷等の危機的な状況に置かれると、互いの機能を補完し合う能力を保持する。表皮幹細胞の不均一性は、皮膚の老化や再生にどのような意義を持つのか?どのように制御されているのか?本日は、未だ謎の多い表皮幹細胞の実態について議論を深めたい。
問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡大学 理学部 成川礼(narikawa.rei@shizuoka.ac.jp)

【第97回生命科学若手セミナー】
日時: 2019年11月25日(月曜日)15:00-16:30
場所: 静岡大学 静岡キャンパス 理学部A棟大会議室
演者: 張翼 博士(国立研究開発法人海洋研究開発機構)
演題: "異分野融合によるタンパク質探索ツールの開発と応用"
要旨:  タンパク質に変異を導入し、機能改善された変異体を選別・取得する、あるいは得られた変異体にさらに追加の変異を導入し同じステップを繰り返すという古典的な手法は、タンパク質工学分野を大いに支えている。しかし、従来の手法は、細胞培養やタンパク質精製に強く依存しており、特に変異体ライブラリーのサイズの増大につれて、必要とされる時間と労力とコストは限界を迎えがちである。しかも、本当に目的のタンパク質自体の機能が改善されているか、それとも単にタンパク質発現量が向上して見掛け上の機能向上だけなのか、を見分けるのは一般的に困難である。
 私は、従来の方法の弱点を克服するために、最近の研究で、微少量均一液滴を並列展開するフェムトリットル・ドロップレット・アレイ技術を開発した。この技術には様々な応用展開が考えられますが、一例として合計約10ナノリットルという極微量の変異酵素ライブラリー溶液から、活性が大幅に改良された変異体を最短1日で取得するスクリーニングに成功し、ツールとしての有用性が確かめられた。これは、膨大な遺伝子ライブラリーから機能が確実に改良された変異体を迅速にかつ低コストで選別できる新しい方法論の確立を提示している。この方法は、微細加工技術・タンパク質合成技術・顕微操作技術および統計学に立脚しており、類を見ない、独特なバイオ研究支援ツールとなっている。これからも、さらなる改善と様々な応用に繋げていこうとしている。
問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡大学 理学部 成川礼(narikawa.rei@shizuoka.ac.jp)

【第96回生命科学若手セミナー】
日時: 2019年10月31日(木曜日)16:30-18:00
場所: 静岡大学 静岡キャンパス 理学部A棟大会議室
演者: Matthias Rogner 博士(Bochum大学、ドイツ)
演題: "Remodeling of photosynthetic electron transport in Synechocystis PCC 6803 for future hydrogen production from water"
要旨:  Photosynthetic microorganisms such as the cyanobacterium Synechocystis sp. PCC 6803 (Synechocystis) can be exploited for the light-driven synthesis of valuable compounds. Energetically, this is much more rewarding if photosynthetic electrons are branched-off at Ferredoxin (Fd), which provides electrons for a variety of fundamental metabolic pathways in the cell, with the Ferredoxin-NADP-Oxido-Reductase (FNR, PetH) being the main target. In order to re-direct electrons from Fd to another consumer, the high electron transport rate between Fd and FNR has to be weakened [1]. Based on our previous in vitro experiments, corresponding FNR-mutants at position FNR_K190 [2] have now been generated in Synechocystis cells to study their impact on the cellular metabolism and their potential for a future hydrogen producing design cell. Out of two promising candidates, mutation FNR_K190D proved to be lethal due to oxidative stress, while FNR_K190A was successfully generated and characterized: The light induced NADPH formation is clearly impaired in this mutant and it shows also major metabolic adaptations like a higher glucose metabolism as evidenced by quantitative mass spectrometric analysis. These results indicate a high potential for the future use of photosynthetic electrons in engineered design cells ? for instance for hydrogen production. They also reveal substantial differences in the interaction of proteins if characterized in an in vitro environment [3] in comparison with the physiological conditions of whole cells which have to be considered in remodeling processes.

- 主要参考文献-
1. Rogner M (2013) Biochem Soc Trans, 2013. 41(5), 1254-9
2. Wiegand K et al. (2018) Biochim Biophys Acta 1859(4), 253-262
3. Kothe T et al. (2013) Angew Chem Int Ed 52, 14233-14236
問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡大学 理学部 成川礼(narikawa.rei@shizuoka.ac.jp)

【第95回生命科学若手セミナー】
日時: 2019年7月10日(水曜日)18:00-
場所: 静岡県立大学 草薙キャンパス 食品栄養科学部棟2F 5216教室
演者: 榛葉 有希 氏(静岡県立大学 食品栄養科学部)
演題: 「持久運動トレーニングの動脈硬化予防機序の解明 ~骨格筋PGC-1αとマイオカインに着目して~」
要旨:  運動などによる身体活動量の増加が動脈硬化を予防することはよく知られており、その理由の一つに、血中HDLコレステロール (HDL-C)濃度の上昇があげられる。一方、運動によって持久力が向上している人では、血中脂質プロファイルには関係なく冠動脈疾患による死亡リスクが低いことがわかっている。つまり、持久運動トレーニングによる動脈硬化予防機序を血中HDL-Cの上昇だけでは十分に説明できない。よって、身体活動量増加による動脈硬化の予防には、持久力向上に起因する別の作用機序の存在が強く示唆される。
 演者の所属する研究室では、運動によって骨格筋で発現が増加する転写共役因子PGC-1αが、全身持久力を向上させることを骨格筋特異的PGC-1α過剰発現(「筋PGC-1α」)マウスを用いて明らかにしてきた。近年、マイオカインと呼ばれる生理活性物質が骨格筋から分泌されることが明らかになった。骨格筋でのPGC-1α発現増加に応答して分泌されるマイオカインである、IrisinやBAIBAの存在も報告されている。Irisinは白色脂肪組織の褐色化や、認知機能の改善、BAIBAは白色脂肪組織の褐色化と肝臓でのβ酸化を促進することが報告されている。これらの報告は、PGC-1α依存的なマイオカインが他臓器機能に影響を及ぼすという新概念を提示している。もし仮に血管内皮に作用して動脈硬化を抑制するPGC-1α依存的なマイオカインが存在するのであれば、持久運動トレーニングが動脈硬化を抑制する理由に、運動が骨格筋のPGC-1α発現を増加させ、動脈硬化を抑制するマイオカインの産生と分泌を促進させること、そしてこの物質が血管内皮細胞に作用し、動脈硬化を抑制することが考えられる。そこで本研究では、骨格筋におけるPGC-1αの発現増加が動脈硬化を抑制するか否かを明らかにすることを目的とした。
 動脈硬化易発症モデルマウスであるApoE欠損(「ApoE-KO」)マウスと、「筋PGC-1α」マウスを交配させた「筋PGC-1α/ApoE-KO」マウスを作出し、その動脈硬化巣面積を測定した。「筋PGC-1α/ApoE-KO」マウスの動脈硬化巣面積が「ApoE-KO」マウスと比較して44%減少しており、骨格筋でのPGC-1α発現増加が動脈硬化を抑制することを明らかにした。その抑制機序を調べるために、動脈遺伝子発現量を調べたところ、「筋PGC-1α/ApoE-KO」マウスでは、動脈硬化の初期病変の形成に関与するVCAM-1とMCP-1の遺伝子発現量が「ApoE-KO」マウスのおよそ半分に低下し、動脈硬化巣中のVCAM-1とMCP-1のタンパク質発現量も有意に低下していた。一方で、動脈硬化の主因とされている血中脂質プロファイルには変化がなかった。また、血管内皮細胞 (HUVEC)にIrisin、BAIBAを添加したところ、TNF-α刺激によるVCAM-1遺伝子とタンパク質発現量の増加が有意に抑制された。
 以上の結果から、持久運動トレーニングが動脈硬化を抑制する理由として、骨格筋PGC-1αの発現増加が関与していることが示唆された。さらにその機序の一端として、PGC-1α依存的なマイオカインであるIrisin、BAIBAが関与する可能性も示した。なお、その抑制機序には血中脂質プロファイルの変化は関与していなかった。
問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡県立大学 食品栄養科学部 大原裕也(y-ohhara@u-shizuoka-ken.ac.jp)

【第94回生命科学若手セミナー】
日時: 2019年6月10日(月曜日)17:00-18:30
場所: 静岡大学 静岡キャンパス 総合研究棟4階 414室
演者: 佐藤守俊 博士(東京大学・総合文化研究科)
演題: 「生命現象の光操作技術の創出」
要旨:  生命現象を光で操作できるとしたら,どうなるだろう?
 例えば,細胞内シグナル伝達を司る分子を光で操作できるようになれば,代謝,分泌,細胞増殖,細胞分化,細胞死などを,意のままにコントロールできるようになるかもしれない.光でゲノムの塩基配列を書き換えたり,遺伝子のはたらきを操作できるようになったらどうだろう?光が得意とする高い時間・空間制御能をもってすれば,狙ったtime windowのみで,狙った生体部位のみで,様々な生命機能や疾患をコントロールできるかもしれない.
 このような未来を実現すべく,私たちは新しい技術の開発を行っています.

- 主要参考文献-
Nihongaki et al. (2017) Nat. Methods, 14: 963-966
Kawano et al.(2016) Nat. Chem. Biol., 12: 1059-1064
Nihongaki et al. (2015) Nat. Biotechnol., 33: 755-60
Kawano et al. (2015) Nat. Commun., 6: 6256

問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡大学 理学部 成川礼(narikawa.rei@shizuoka.ac.jp)

【第93回生命科学若手セミナー】
日時: 2019年5月31日(金曜日)17:00-18:30
場所: 静岡大学 静岡キャンパス 理学部A棟2階 大会議室
演者: 池内 昌彦 博士(東京大学・総合文化研究科)
演題: 「シアノバクテリアのエンジニアリングで何を目指すか?」
要旨:  シアノバクテリアは植物の葉緑体の祖先生物であり、現在の原核生物では唯一の酸素発生型光合成を行う生物群である。また、原核生物の特徴として、種間多様性が膨大で、無数の興味深い遺伝子をもっている。その遺伝子操作は大腸菌など他の細菌と類似の手法が使え、植物とちがって単純な細胞体制をもつので、遺伝子操作の結果の解釈も比較的容易である。このような利点を生かした研究として、拡張された光合成機能の理解と改変および光応答現象の理解と応用などが想定される。もちろんシアノバクテリアは他の細菌類とは大きく離れた分類群であり、独自の細胞内環境をもつので、その理解や応用なども魅力的である。また、シアノバクテリアは太古から地球生態系に大きな役割を果たしてきた生物であり、その役割の分子的側面を理解することにも役立つ可能性がある。
 私たちは、このような観点から、光合成の機能解析と物質生産への応用、光応答現象の理解と応用などに絞った研究を展開してきた。ここでは、物質生産のための遺伝子改変の試みや光受容体の分子生物学研究から生態学への展開の試みなどについて紹介したい。
問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡大学 理学部 成川礼(narikawa.rei@shizuoka.ac.jp)

【第92回生命科学若手セミナー】
日時: 2019年3月11日(月)15:00-17:00
場所: 静岡大学 静岡キャンパス 総合研究棟4階 414室
セミナー1
演者: 三宅 敬太 氏(静岡大学大学院 総合科学技術研究科)
演題: 『ユニークなシアノバクテリアがもつ色素合成酵素PcyAの光受容と光合成に対応する機能分化』
要旨:  シアノバクテリアは光をエネルギーとして光合成を行い、それ故に光を情報として受容する高度なシステムを持つ。光合成では、クロロフィルの吸収できない短波長の光エネルギーを捕集するフィコビリソーム(PBS)タンパク質複合体が存在し、光情報の受容では、シアノバクテリオクロム(CBCR)という光受容体が中心的な役割を果たす。これら両方において、光吸収はビリン色素が担う。この2つの機能を担う主要なビリン色素としてフィコシアノビリン(PCB)が知られている。シアノバクテリアではPcyAというフェレドキシン依存性ビリン色素還元酵素がPCBの合成を行なっている。この酵素はフェレドキシン依存的に、ビリベルジン(BV)を基質として二段階の還元反応を触媒し、ジヒドロビリベルジン(DHBV)を介し、PCBを合成する。このようなフェレドキシン依存性ビリン色素還元酵素は、還元反応に電子を必要とする。この電子はフェレドキシンによって供給される。さらにこのフェレドキシンに電子を供給するのはフェレドキシンNADP?還元酵素 (FNR)である。私は光合成や光受容の多様性に興味を持ち、?Acaryochloris ?marina ?MBIC 11017(?A. ?11017) という特殊なシアノバクテリアのビリン合成に着目している。通常のシアノバクテリアでは光合成反応中心色素はクロロフィル?a?だが、?A. ?11017では、より長波長の光を吸収するクロロフィル?d?となっている。そのため、情報として受容する光質も同様に長波長化している可能性が示唆される。また他のシアノバクテリア同様、PBSを有し、短波長の光質を捕集することも強く示唆される。つまり、?A. ?11017はビリン色素を基盤として、長波長と短波長の両方の光質を吸収するシステムを持つと期待される。興味深いことに、モデルシアノバクテリアには通常PcyAホモログは1つのみ存在するが、?A. ?11017のゲノムにおいては、多くの光受容体遺伝子と共にメイン染色体上に存在するAmPcyAcと、PBS遺伝子と共にプラスミド上に存在するAmPcyApの2つのPcyAホモログが例外的に見出された。
 本研究ではそれぞれのPcyAホモログの生化学的な解析を行なった。さらにそれぞれの酵素と、光受容に関わるCBCRもしくは光捕集に関わるPBS構成要素のフィコシアニンタンパク質αサブユニットとの共発現を行なった。その結果、光受容体と共にコードされている AmPcyAcはPCBより長波長の光を吸収することができる中間体DHBVを蓄積しつつPCBを合成することを明らかにし、共発現によってCBCRにDHBVが結合し、機能する可能性を示唆した。一方で、PBS関連遺伝子と共にコードされているAmPcyApはPCBを中間体の一過的な蓄積を介して効率よくPCBを合成することを明らかにし、共発現によってフィコシアニンタンパク質αサブユニットがPCBのみを結合していることを明らかにした。したがってここまでで、これまで中間体としてのみ考えられてきた中間体色素DHBVがAmPcyAcによって供給されることによって、生理学的に光受容に関与している可能性を考えた。しかし、 AmPcyAcは中間体も供給するがPCBも有意に合成する。このことから、よりAmPcyAcが?A.? 11017内でどのように機能するのか考える上で、PcyAに還元力を供給しているフェレドキシンに着目し、解析を行なった。その結果、?A. 11017から7つのフェレドキシンホモログが見出され、いずれのホモログも還元力に必須な2Fe-2Sクラスターを結合する可能性があった。系統解析の結果、その中でもAM1_5515、AM1_1650、AM1_C0139に着目し、AmPcyAcとの酵素活性を測定し、合成色素に違いがあるのかを確認した。ここではこの結果をもとにマイナーに保存されているフェレドキシンが還元力を有する可能性について議論する。
セミナー2
演者: 伏見 圭司 博士(静岡大学理学部)
演題: 『光スイッチの開発を目指したシアノバクテリオクロムの分子基盤』
要旨:  光は光質(波長)、光量(強度)、照射場所、照射時間という4つのパラメーターを自由に制御することが可能なツールであり、数多くの分析技術に利用されています。近年では、光合成生物を始めとする様々な生物のゲノム情報から光を感知する色素タンパク質の一種である「光受容体」が単離・同定され、その諸性質が明らかにされています。光受容体は、特定の波長光を吸収することによって光変換(可逆的な分子構造の変化)を示します。この特性を利用し、光操作によって生物活性を制御する「光スイッチ」の開発を目指す光遺伝学(オプトジェネティクス)が急速に発展しています。本研究室では、シアノバクテリアのみがもつ光受容体である「シアノバクテリオクロム(CBCR)」に焦点を当て、光スイッチの基盤となる分子の創出を行っております。これまでに、国内・国外の研究グループが、生化学的、光化学的、タンパク質工学的手法を組み合わせた CBCR の機能解析、構造解析が行われ、多彩な光変換を示す分子が発見、開発されてきました。本研究では、これらの蓄積された知見を基に、1.哺乳類内在性色素を結合する近赤外光感知型分子、2.多段階的機能改変による 6 種類の可視光感知型分子を創出すると共に、その分子基盤を解析しました。

1. 哺乳類内在性色素を結合する近赤外光感知型分子
 CBCR・AnPixJg2 の結晶構造を基に、哺乳類内在性色素・ビリベルジン(BV)を結合しない CBCR と BV を結合する CBCR のアミノ酸配列を比較し、BV の結合に重要なアミノ酸残基を抽出しました。これらのアミノ酸残基を置換し、生化学的、光化学的解析を繰り返すことで、最終的に重要な 4 つのアミノ酸残基を特定しました。さらに、 X 線結晶構造解析により改変型 CBCR・AnPixJg2_BV4 の分子機構を解明しました。野生型と改変型の構造を比較した結果、BV はタンパク質との結合部位が異なっており、これら 4 つのアミノ酸残基は、空間的な位置のずれによって生じた立体障害を回避し、新たな水素結合を形成することで、BV を安定的に結合していることが分かりました。

2.多段階的機能改変による 6 種類の可視光感知型分子
 色素の異性化反応と光変換過程で重要な機能をもつ Cys 残基が保存されているサブファミリーの中で、その Cys 残基をもたない CBCR・AM1_1499g1 の分光的解析に加え、変異導入による吸収波長の改変を行った結果、Cys 残基の脱着、色素の異性化反応の有無、色素の環構造の高度な捩れを制御することに成功した。これらの機能改変を組み合わせることで、最終的に、1 つの分子を基にして、橙色光 / 緑色光、黄色光 / 青緑色光、青色光 / 青緑色光、橙色光 / 黄色光、黄色光 / 緑色光、青色光 / 緑色光 の 6 つの光変換を示す分子を創出することに成功しました。
問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡大学 理学部 成川礼(narikawa.rei@shizuoka.ac.jp)

【第91回生命科学若手セミナー】
日時: 2019年3月5日(火曜日)18:00-19:00
場所: 静岡県立大学 草薙キャンパス 食品栄養科学部棟2F 5216教室
演者: 本山智晴(静岡県立大学 薬食生命科学総合学府)
演題: 「L-アミノ酸を起点とするピラジン合成酵素群の発見とその解析」
要旨:  ピラジン化合物は、加工食品等に広く存在し、香料や医薬品、またその原料としても有用な化合物である。これらは非酵素的に産生される化合物であると考えられていたが、ある種の植物や微生物は多様なピラジン化合物を二次代謝産物として生産することが報告されている。さらに近年、短鎖型L-スレオニン脱水素酵素 (TDH) を起点としてピラジン化合物を合成する細菌が報告され、生物間の相互作用に影響を与えうる伝達物質としての可能性が示唆されている。しかし、ピラジン化合物の生合成に、TDH以外の酵素が関与しているのか、非酵素的反応も関わっているのか、詳細は不明である。
 私は、TDH遺伝子の近傍に、機能未知な遺伝子Aが、複数のゲノム上で保存されていることに注目し研究を進めてきた。詳細な機能や機構は解析中だが、この遺伝子Aの産物である酵素Aは、複数のアミノ酸と反応する事、ある条件においてピラジン化合物を作ることを見出している。
 今回のセミナーでは、TDHに関しては未だ解明されていない生成物脱離機構を、高分解能X線結晶構造、量子化学計算、変異体解析を組み合わせることにより分子レベルで解明した結果、加えて、酵素AについてはGC/MS分析により基質や生成物の同定、X線結晶構造解析による立体構造の決定および活性中心の同定を行った結果について報告する。さらに、当研究室独自の手法を用いたTDHのin silico スクリーニング、スクリーニングにより選抜したライブラリーを用いた、祖先型および完全コンセンサス設計法により設計した人工TDHについても報告する。
問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡県立大学 食品栄養科学部 大原裕也(y-ohhara@u-shizuoka-ken.ac.jp)

【第90回生命科学若手セミナー】
日時: 2019年2月22日(金曜日)16:00-17:30
場所: 静岡大学 静岡キャンパス 理学部B棟2階 212室
演者: 河野風雲 博士(コロンビア大学)
演題: 「光遺伝学セミナー:細胞内の分子を光で自在に操る技術」
要旨:  光遺伝学といえば,緑藻類のクラミドモナス由来のチャネルロドプシン 2 に代表される ように,イオン透過性の光受容膜タンパク質を使った脳内での神経細胞の光制御がよく知 られていますが,近年では細胞内のタンパク質や核酸などの生体分子を光で自由に操る技 術開発が大きな盛り上がりを見せています.これは植物や菌類が有する光受容体などの光応答性のタンパク質を光スイッチタンパク質として利用しており,細胞内の興味のあるタンパク質と光スイッチタンパク質を遺伝子工学的に融合させることによって,任意の光照射領域やタイミングで自在に操ることを可能にする技術です.この光応答性のタンパク質 を基にした遺伝子コード型の光スイッチタンパク質は,例えば蛍光タンパク質を使ったラ イブセル蛍光イメージング技術と組み合わせることによって,従来では理解が困難であっ た細胞現象や分子機能メカニズムを解明するための新しいバイオリサーチツールとして期 待されています.
 本講演ではまず,アカパンカビに存在する青色光受容体を基に,様々な遺伝子改変を施すことで独自に開発した遺伝子コード型の光スイッチタンパク質“Magnets”(参考文献 1) の開発研究をお話しします.そして,Magnetsを開発したことによって初めて実現した高い効率を有する遺伝子組換え技術(参考文献 2)を紹介します.また,現在報告されている 光スイッチタンパク質の種類や使い方,実際の応用例などを紹介すると共に,現状の光遺伝学の問題点・今後の課題,将来性などをユーザー側の立場に立って議論致します.
問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡大学 理学部 成川礼(narikawa.rei@shizuoka.ac.jp)

【第89回生命科学若手セミナー】
日時: 2018年12月21日(金) 16:00-17:30
場所: 静岡大学 農学総合棟4F 405室
セミナー1
演者: 大吉崇文 博士(静岡大学 学術院 理学領域)
演題: 『核酸立体構造を読みとる特殊ペプチド』
要旨:  内容:生体内の核酸は、1本鎖や2本鎖だけでなく、多くの局所構造を形成する。四重鎖はそのような核酸局所構造の1つで、細胞のガン化や神経変性疾患に関わっていることが報告されている。そのため、四重鎖を標的とする薬剤の開発や、タンパク質による四重鎖の認識機構の解明が求めれている。そこで、今回はこの四重鎖に結合する特殊ペプチドやタンパク質による認識機構、さらに特殊ペプチドの機能評価を紹介する。
セミナー2
演者: 小谷真也 博士(静岡大学 学術院 農学領域)
演題: 『異宿主による天然生理活性ペプチドの生産』
要旨:  内容:これまでバンコマイシンなど様々なペプチド性抗生物質が得られ、細菌感染症治療薬として用いられてきた。その多くは放線菌といわれる土壌放線菌が生産することが知られている。近年、数多くの放線菌のゲノムの塩基配列が明らかとなり、データベースから簡単に情報を手に入れることができる。そこで、ゲノムの中に埋もれているペプチド性化合物を掘り起こす(ゲノムマイニング)研究が盛んになっている。発表者は、異宿主生産に取り組んでおり、最近の知見を発表する。
問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡大学 学術院 理学領域 大吉崇文(oyoshi.takanori@shizuoka.ac.jp) *セミナー1
静岡大学 学術院 農学領域 小谷真也(kodani.shinya@shizuoka.ac.jp) *セミナー2

【第88回生命科学若手セミナー】
日時: 2018年9月13日(木曜日)16:00-17:30
場所: 静岡大学 静岡キャンパス 総合研究棟4階 414室
演者: 濤川一彦 博士(ドイツ・ブラウンシュバイク工科大学・動物学研究所)
演題: 「ゼブラフィッシュを使って知る脊髄小脳変性症の発症の仕組み」
要旨:  脊髄小脳変性症という神経難病を耳にされたことありますか? この難病と闘い続けた木藤亜也さんの手記「1リットルの涙」は今から30年ほど前に出版され、大反響を呼びました。その実話に基づいたテレビドラマを視聴して、この病気を知った方も多いのではないでしょうか。不幸にもこの病気に侵されてしまった患者さんは運動の協調性を司る小脳が萎縮していくことが原因で、歩行時にふらつくようになり、箸などを上手に使えなくなったり、呂律が回らないなどの症状が出てきます。このような運動失調の症状は10?20年かけて徐々に悪化し、最後は寝たきりになり、予後が非常に不良の難病です。
 私達は医学・創薬分野での利用への期待が高まってきている小型熱帯魚ゼブラフィッシュに遺伝子操作を施す事によって、生体内蛍光イメージングを可能とする新たな脊髄小脳変性症のモデル動物を作製しました。今回のセミナーでは、私達の作成したゼブラフィッシュモデルを紹介し、さらに培養細胞で行っている脊髄小脳変性症の原因遺伝子の細胞生物学的な解析も交えながら、この難病の発症機序の解明に向けた私達の研究活動の一端を紹介させていただきたいと思います

問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡大学 理学部 成川礼(narikawa.rei@shizuoka.ac.jp)

【第87回生命科学若手セミナー】
日時: 2017年12月22日(金曜日)16:00-17:30
場所: 静岡大学 農学研究棟2F 225号室
セミナー1
演者: 大吉崇文 博士(静岡大学 学術院 理学領域)
演題: 『3つのアミノ酸からなるポリペプチドの単純さと複雑さ』
要旨:  内容:アルギニンとグリシンと芳香族アミノ酸の3つのアミノ酸からなる核酸結合タンパク質が、酵母からヒトまで進化的によく保存されていることが知られています。しかし、このポリペプチドがどのような構造を形成しているのか、またどんな核酸に結合して機能しているのか、最近論争になっています。今回はこの単純な一次構造からなるポリペプチドの、複雑な構造と機能についてお話します。
セミナー2
演者: 小谷真也 氏(静岡大学 学術院 農学領域)
演題: 『ゲノムを掘りまくれ!! - ゲノムマイニングと異宿主生産』
要旨:  内容:近年、数多くの放線菌のゲノムの塩基配列が明らかとなり、データベースから簡単に情報を手に入れることができる。そこで、ゲノムの中に埋もれている化合物を掘り起こす(ゲノムマイニング)研究が盛んになっている。発表者の研究室では、ゲノムマイニングを利用した生理活性物質の生産を行っている。とくに、チオペプチドと呼ばれるチアゾールを含む環状構造を有した細胞毒性を有すると思われる有望な化合物が得られている。さらに最近の研究で、発現ベクターを用いた異宿主生産にも成功している。最近の研究から新しいペプチドをいかに”発掘”するか紹介する。
問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡大学 学術院 理学領域 大吉崇文(oyoshi.takanori@shizuoka.ac.jp) *セミナー1
静岡大学 学術院 農学領域 小谷真也(kodani.shinya@shizuoka.ac.jp) *セミナー2

【第86回生命科学若手セミナー】
日時: 2017年10月5日(木曜日)16:00-17:00
場所: 静岡大学 農学総合棟5F 540号室
演者: Dr. Hildgund Schrempf(Faculty of Biology and Chemistry, Osnabruck University, Germany(ドイツ・オスナブリュック大学 生物/))
演題: 「Relevance of talented streptomycetes for ecology, medicine and biotechnology(“才能ある細菌”ストレプトミセス属放線菌の生態,医療,生物工学との関連性)」
要旨:  ストレプトミセス属放線菌は高度に分化した真正細菌であり,多くの土壌や限られた海洋生息 地で優先的に存在する。植物とその根圏,限られた昆虫や蠕虫,そしてサンゴや海綿にも見出されるこ とが多くなりつつある。
 ストレプトミセス属放線菌が生産する極めて多様な分泌酵素の多くは,生体高分子の代謝回転 や有害化合物の無毒化に深く関わっており,生物工学的に利用されている。注目すべきは,スト レプトミセス属放線菌が,原核および真核生物の様々な過程を促したり阻害したりする非常に多 様な二次代謝産物を生産することである。多くの二次代謝産物は抗生物質,防かび剤,細胞増殖 抑制剤,免疫応答調節因子として作用するので,医療分野で用いられている。多くのストレプト ミセス属放線菌株のゲノム情報が急速に蓄積しつつあり,それによって,これまで知られていな かった二次代謝産物の生合成に関わると推定される未知の遺伝子群が数多く見出さている。それ らの二次代謝産物の化学構造と機能を解き明かす方法を開発することは未来を切り開く価値ある 挑戦である。
 ストレプトミセス属放線菌のゲノムには“オーファン遺伝子”と呼ばれる機能不明の推定遺伝子 が数多く存在する。それらの機能を解明することは大抵困難であるが,それらを紐解き,細菌の 多彩な技に関する人類の視野を広げることは,やりがいのあることである。私たちの生化学的, 遺伝学的,生理学的研究によって,“オーファン遺伝子”にコードされたタンパク質は,原形質膜 に組み込まれたものもあれば,古典的な経路によって分泌されるものもある。あるいは,細胞外 へと向かう小?(これは最近同定された)によって運搬されるものもある。新たに機能が解明さ れたものには,トランスポーターや興味深い性質を持つ緒酵素,高分子を形成する単一タンパク 質集合体,低分子の代謝物や自然生息地に大量に存在する巨大分子に高い親和性をもつタンパク 質がある。ストレプトミセス属放線菌とその変異株の社会微生物学的な研究によって,二次代謝 産物とタンパク質の機能が解明された。

問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡理工科大学 理工学部 齋藤明広(saito.akihiro@sist.ac.jp)
静岡大学 農学部 小谷真也(kodani.shinya@shizuoka.ac.jp)

【第85回生命科学若手セミナー】
日時: 2017年9月26日(火曜日)15:00-16:00
場所: 静岡大学 理学部大会議室(理学部A棟2階)
演者: 花田智 博士(首都大学東京 理工・生命科学)
演題: 「酸素非発生型光合成 ?光合成の起源と進化?」
要旨:  酸素非発生型光合成とは、その名の通り、酸素発生を伴わない光合成のことである。酸素発生型光合成がシアノバクテリアにしか認められないのに対し、この酸素非発生型光合成はバクテリアの中に広く見られ、系統的に離れた6つの系統群に散在している。また、シアノバクテリアではふたつの光化学系(光化学系IとII)が光合成に関与していることが明らかとなっているが、酸素非発生型光合成を行うバクテリアでは一方の光化学系しか持たないことが分かっている。ゲノム配列に基づく系統解析から、酸素非発生型光合成は酸素発生型光合成より古くに出現したことが強く示唆されている。しかし、光合成の起源やその進化過程に関しては未だ議論の渦中にあり、明確な結論は出ていない。本講演では、酸素非発生型光合成の生理学的多様性を説明するとともに、未だ謎多き光合成の起源や進化過程について論じたい。また、酸素が発生する以前の古地球の環境での微生物生態系にまで想像の翼を広げてみたい。

問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡大学 グリーン科学技術研究所 木村浩之(kimura.hiroyuki@shizuoka.ac.jp)

【第84回生命科学若手セミナー】
日時: 2017年6月28日(水曜日)17:00-18:30
場所: 静岡大学 総合研究棟 4階414号室
演者: 河野優 博士(東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻)
演題: 「可視光変動光が光合成に与える影響と遠赤色光による補光効果」
要旨:  自然環境下では様々な周期で光の強度や波長組成が変動する(変動光)。上空に障害物のない裸地でさえも、光強度が太陽の日周運動のみによる変化を示す日は、年数日程度しかない。林の下層部(林床)の光環境は、さらに複雑な変動を示す。植物は生育場所や季節によって異なる変動光環境に適応しているはずである。光合成に利用できない過剰な光(強光)は、光合成系に傷害を与える(光阻害)。それに対して、植物は光合成系を守る機構を有している。チラコイド膜ルーメン側のpHの低下に応答して起こる、光化学系II(PSII)の光捕集アンテナ内での熱散逸、シトクロームb6/f複合体での電子伝達の抑制や、酸素への電子の流れを防ぐ光化学系I(PSI)での循環的電子伝達経路(CEF-PSI)、活性酸素の消去系などの代替的電子伝達経路がよく知られている。これらは、連続強光下でPSIIの保護に効くことが確認されている。一方、PSIは強光を当て続けても傷害を受けない。ところが近年、変動光がストレス要因になりうることが分かり、植物の応答とともにその重要性が注目されつつある。
 強光に高い感受性を示すPSIIに対して、PSIは変動光に対しては感受性が高く、PSI光阻害が起こりうる。PSI光阻害回避には、PSIの電子受容側の電子伝達の律速を小さくして有害な活性酸素の生成を防ぐことが重要なので、上記の保護機構の関与が提唱されている。シロイヌナズナやイネは、それらの防御系を有しているにもかかわらず、PSI光阻害が起こる。実験室内で示されているこれらの結果に反して、野外でのPSI光阻害の報告例はほとんどない。
 太陽光には、400 - 700 nmの波長の光(光合成有効放射)だけでなく、遠赤色光(FR光)も豊富に含まれているが、光合成研究では、長らくFR光は無視される傾向にあった。確かに、生育光として定常光にFR光を補光した場合、光合成装置の量的変化をほとんどもたらさない。しかしながら、PSIがFR光によって優先的に励起されるため、光合成電子伝達系の活性はFR光の有無によって変わる。このことは、これまで可視光や単色光の下で測定されてきた変動光に対する応答や阻害は、野外植物の正しい応答を反映していない可能性を強く示唆している。実際、発表者は、顕著にPSI光阻害を起こす可視光変動光のバックグラウンド光として一定強度のFR光が存在すると、PSI光阻害がほぼ抑えられることを見出している。野外で採取した植物でも、程度は生育光環境や種に依存して異なるものの、可視光変動光処理によってPSI光阻害が起こった。しかし、FR光の補光によってPSI光阻害は完全に抑えられた。これらの結果は、光阻害の回避はFR光の存在下で最も効果的に実現されることを示唆している。セミナーでは、変動光が光合成に与える影響と、CO2吸収やO2発生に直接関与しないFR光による光合成系の効果的な調節について紹介する。

問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡大学 理学部 粟井光一郎(awai.koichiro@shizuoka.ac.jp)

【第83回生命科学若手セミナー】
日時: 2017年6月20日(火曜日)17:30-19:00
場所: 静岡大学 理学部A棟2階 大会義室
演者: 矢澤真幸 博士(コロンビア大学)
演題: 「How Does Biotechnology Open New Avenues?
- Innovative Tool Development & Human iPS Cell Modeling for Drug Development -」
要旨:  Taking advantage of human induced pluripotent stem (iPS) cell technology, we have generated human cardiomyocytes and neurons from patients with inherited cardiac diseases and psychiatric disease such as autism. Together with bioinformatics approaches using a variety of cellular assays including live cell imaging, electrophysiological recordings, gene expression profiling and bioengineering tools, our group has identified novel therapeutic targets for the diseases. Here, I plan to talk about future directions of pharmaceutical researches using human iPS cell and rodent models as well as screens of chemical compounds that can rescue the molecular and cellular defects in cardiac diseases including cardiac arrhythmias and cardiomyopathy. Meantime, I’d like to introduce our preliminary results for developing novel tools that allow us to unveil the molecular and cellular mechanisms underlying biological activities and pathophysiological conditions in human diseases.

問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡大学 理学部 成川礼(narikawa.rei@shizuoka.ac.jp)

【第82回生命科学若手セミナー】
日時: 2017年6月14日(水曜日)18:00-19:30
場所: 静岡大学 農学総合棟5F 540号室
演者: 大原裕也 博士(静岡県立大学 食品栄養科学部)
演題: 幼虫が昇る「大人への階段」
要旨:  動物の発育過程は,成長期と成熟期に大別される.成長期の個体は栄養を摂取し体サイズを増加させ,その後,成熟期において生殖能力を持つ成体へと移行する.成熟過程はステロイドホルモンによって誘発されることは多くの動物において共通しており,ステロイドホルモンの産生が活性化するか否かは成長期における栄養状態に大きく影響を受けると考えられている.しかしながら,生体内の栄養状態を感知しステロイドホルモン産生の活性化を決定する分子メカニズムはこれまで不明であった.私たちは,モデル動物であるショウジョウバエを用い,変態を誘発するエクジステロイドの産生制御メカニズムの解明と,その上流で機能する栄養シグナルの同定に取り組んでいる.本セミナーでは,エクジステロイド産生の制御におけるキープレイヤーとして同定した,分裂を伴わない細胞周期である核内倍加について紹介する(Ohhara, et al., PloS Genet. 2017).

問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡大学 学術院 農学領域 小谷真也(kodani.shinya@shizuoka.ac.jp)

【第81回生命科学若手セミナー】
日時: 2017年5月17日(水曜日)18:00-19:00
場所: 静岡大学教育学部C棟3階309A室
演者: 森山侑輝 博士(ハワード・ヒューズ医療研究所, カリフォルニア大学ロサンゼルス校)
演題: 『Self-organizationによるアフリカツメガエル半胚Twin形成メカニズム』
要旨:  胚や発生中の様々な器官は実験的操作後に驚くべきSelf-organization能を有している。アフリカツメガエル初期胞胚を左右対称にカットした場合、それぞれの半胚が双生児のオタマジャクシとなる。半胚が失われた半分をどの様に再生するのかというメカニズムはその実験手法の難しさが故に長い間未解明なままである。
 我々はまず、高頻度で半胚からオタマジャクシを獲得できる実験手法を確立した。次に、運命追跡法とin situハイブリダイゼーション法を組み合わせた解析により半胚ではオーガナイザーが本来形成される位置とは90度シフトした場所に形成されることを明らかにした。更に、Chd-BMP signalに着目した免疫染色法により背側オーガナイザーと腹側オーガナイザーを可視化すると、どちらとも90度シフトした位置に形成されることが明らかになった。
 本発表では半胚で起きているSelf-organizationは半胚が新たに形成されたタンパク質濃度勾配を読み取った上で、背側オーガナイザーと腹側オーガナイザーを90度シフトした場所に再構成することによって生じていることを説明する。

問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡大学 教育学部 雪田聡(yukita.akira@shizuoka.ac.jp)

【第80回生命科学若手セミナー】
日時: 2016年12月21日(水曜日)16:00-17:30
場所: 静岡大学 農学研究棟2F 225号室
セミナー1
演者: 大吉崇文 博士(静岡大学 学術院 理学領域)
演題: 『非ワトソンクリック型核酸を制御するタンパク質ファミリー』
要旨:  非ワトソンクリック型塩基 対は、ガン遺伝子や染色体末端のテロメアなどで多くみられることから、その機能と構造制御機構が注目されている。私たちの研究室では、これらの核酸に結合するタンパク質を見出し、機能解明を目指してきた。その結果、タンパク質中のアルギニンーグリシンーグリシンという単純なアミノ酸の繰り返し配列を有するポリペプチド鎖が鍵になっていることがわかってきた。この単純なポリペプチド鎖がもつ性質を中心に紹介する。
セミナー2
演者: 小谷真也 氏(静岡大学 学術院 農学領域)
演題: 『ゲノムマイニングによる天然生理活性ペプチドの探索』
要旨:  内容:これまでバンコマイシンなど様々なペプチド性抗生物質が得られ、細菌感染症治療薬として用いられてきた。その多くは放線菌といわれる土壌放線菌が生産することが知られている。近年、数多くの放線菌のゲノムの塩基配列が明らかとなり、データベースから簡単に情報を手に入れることができる。そこで、ゲノムの中に埋もれているペプチド性化合物を掘り起こす(ゲノムマイニング)研究が盛んになっている。最近の研究から新しいペプチドをいかに発見するか紹介する。
問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡大学 学術院 理学領域 大吉崇文(stohyos@ipc.shizuoka.ac.jp) *セミナー1
静岡大学 学術院 農学領域 小谷真也(kodani.shinya@shizuoka.ac.jp) *セミナー2

【第79回生命科学若手セミナー】
日時: 2016年10月7日(金曜日)16:00-17:00
場所: 静岡大学 農学部総合棟 307号室
演者: 久保田雄貴 氏(静岡大学総合科学技術研究科農学専攻)
演題: 『植物病原細菌Pantoea ananatisの新規病原性遺伝子領域について』
要旨:  Pantoea ananatisはグラム陰性,通性嫌気性の桿菌で腸内細菌科に属する植物病原細菌である。イネ,ネギ,メロン,パイナップルなどの様々な植物に病気を引き起こすと共に土壌や水圏などの環境中や人からも分離されることが報告されている。このような多様性を持つ本菌であるが,その病原性機構はほとんど明らかになっていない。植物病原細菌の主要な病原性因子としてはPseudomonas syringaeXanthomonas属細菌などの多くのグラム陰性植物病原細菌が持つⅢ型分泌装置とこれによって分泌されるエフェクタータンパク,Agrobacterium属に知られるⅣ型分泌機構,コロナチンやタブトキシンなどの様々な毒素などがよく知られている。しかしP. ananatisにおいてこれらに類する病原性因子は未だ見つかっておらず,他の植物病原細菌とは異なる未知の病原性機構を備えていると考えられており,我々は病原性機構の解明を目的として研究を行ってきた。これを解析するためにトランスポゾンタギングによってランダムに遺伝子変異を導入することで病原性関連遺伝子の特定を試みた。本研究において1万を超える変異株の病原性解析,ゲノム解析からP. ananatisに特異的な病原性遺伝子領域を見出すことができた。新たに見出したP. ananatisに特異的病原性遺伝子領域に関するこれまでの研究成果について紹介する。
問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡大学 学術院 農学領域 小谷真也(kodani.shinya@shizuoka.ac.jp)

【第78回生命科学若手セミナー】
日時: 2016年9月22日(木曜日)16:05-17:35
場所: 静岡大学静岡キャンパス 理学部B棟2階 212室
演者: 梅野太輔 博士(千葉大学大学院工学研究科)
演題: 『生体高分子の恊働様式を進化デザインする』
要旨:  自然界には,タンパク質やDNAからなる様々な分子素子があり,これらを「うまく」組み合わせると,生合成経路や複雑な情報処理・制御回路などを作ることができます。私たちは,このような分子システム、分子デバイス機能の進化工学技術を研究してきました。進化分子工学は,いわば分子の育種技術であり,酵素やセンサ素子としてのタンパク質機能の改良・改変手法としての有効性は繰り返し確かめられてきました。本講演では,この進化デザインが,複数のタンパク質と遺伝子調節配列の集積機能の創出・改良においても,極めて強力な手法であることをお示しします。また,進化工学の結果えられたものを調べることによって,それぞれの命題について,我々の想像してなかった解法がみつかることもあります。この「こたえ合わせ」作業から我々が学んだことども,についてもご紹介できればと思います。
問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡大学 学術院 理学領域 成川礼(narikawa.rei@shizuoka.ac.jp)

【第77回生命科学若手セミナー】
日時: 2016年7月21日(木曜日)17:00-18:30
場所: 静岡大学 農学部総合棟 2階225号室
演者: 八丈野孝 博士(愛媛大学農学部食料生産学科)
演題: 『植物病原菌の感染戦略におけるエフェクタータンパク質の病原性機能』
要旨:  植物は、様々な微生物の細胞壁等の生体構成成分を膜貫通型受容体キナーゼにより認識して免疫反応を引き起こし、防御している。ところが病原性を持つ微生物、つまり病原菌は、数多くのエフェクター(病原性タンパク質)を宿主細胞内へ送り込み、免疫反応を抑制して感染を成立させる。それに対して、抵抗性を持つ植物はNLR(nucleotide binding domain and leucine-rich repeat-containing protein)細胞内受容体を持っており、エフェクターを認識して過敏感細胞死(hypersensitive cell death; HR細胞死)等のより強力な免疫反応を誘導し、病原菌の感染行動を停止させる。植物病理学分野においては古くからオオムギが研究されており、重要病害であるオオムギうどんこ病菌(Blumeria graminis f. sp. hordei)に対するNLRは数多く同定されている。しかし、それらが認識するエフェクターはおろか、まだほとんど見つかっていない。我々の研究室では、本菌がどのようなエフェクターを持つのか、また、感染過程のどの時期にエフェクターが分泌されるのかを解析している。本セミナーでは、プロテオーム解析より単離されたオルガネラ局在型エフェクターをはじめ、最新の結果について紹介する。
問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡大学 農学部 応用生命科学科 本橋令子(motohashi.reiko@shizuoka.ac.jp)

【第76回生命科学若手セミナー】
日時: 2016年7月8日(金曜日)14:00-15:30
場所: 静岡大学 理学部A棟2階 大会義室
演者: 平野美奈子 博士(光産業創成大学院大学・光バイオ分野)
演題: 『イオンチャネルの構造機能相関研究と応用技術開発』
要旨:  イオンチャネルは生体膜を貫通するタンパク質で、細胞内外のイオンの出入りを調節することにより細胞の多くの生理機能を調節している。イオンチャネルは、環境変化を感知するセンサー領域とイオン透過に関わるポア領域を持っており、センサーによる環境変化の感知が何らかの形でポア領域に伝達され、ポアの開閉が制御されると考えられている。しかしながら、センサーからポアへの情報伝達の機構も含め、チャネルの活性制御の分子機構の詳細は明らかにされていない。我々は、カリウムチャネルの一つであるKcsAチャネルでは、細胞内領域が環境変化の感知と活性制御に重要であることを明らかにし、細胞内領域がチャネルの開閉に伴い膜方向へ構造変化することを見いだした。これを確認するため、AFMの探針で細胞内領域を膜方向へ操作したところ、活性を著しく変化させることができた。これらの知見から、細胞内領域によるKcsAチャネルの活性制御機構のモデルを提案する。
 また、上記の研究から派生した2つの研究・開発についても紹介する。1つ目はイオンチャネルの活性を高効率・簡便に測定する方法の開発である。電気生理学的なイオンチャネルの活性測定は時間がかかる上、煩雑な操作が必要であるが、それらの問題点を解消した新しい手法を開発した。2つ目は、KcsAチャネルの活性制御の知見を利用した新規光感受性イオンチャネルの創製の研究である。現在、KcsAチャネルの活性制御に重要な細胞内領域を青色光感受性蛋白質・ドメインに置換し、それらの構造変化を用いてKcsAチャネルの開閉を操作することに取り組んでいる。
問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡大学 理学部 生物科学科 成川礼(narikawa.rei@shizuoka.ac.jp)

【第75回生命科学若手セミナー】
日時: 2016年6月27日(月曜日)17:00-18:30
場所: 静岡大学 総合研究棟 4階414室
演者: 前田宏 博士(ウィスコンシン大学マディソン校)
演題: 『植物におけるチロシン合成経路の多様性進化』
要旨:  固着の植物は、進化の過程で数多くの化合物を生合成する機構を獲得し、常に変化する環境に適応してきた。これらの植物二次代謝化合物の多くは、人の必須栄養素や医薬品としても、大変重要な役割を担っている。当研究室では、これら二次代謝経路へ基質を提供する一次代謝経路に関わる酵素の制御機構及びその進化について調べ、得られた知見をもとに、重要二次代謝経路への炭素フラックス供給を最適化することを目指している。
 芳香族アミノ酸であるチロシンは、タンパク生合成に必須であるが、多種多様な植物天然化合物(モルヒネ、ビタミンEなど)の前駆体としても重要である。シロイナズナを含む多くの植物では、チロシンはアロジェン酸脱水酵素(TyrAa/ADH)を介して葉緑体内で合成される。また、TyrAa/ADH酵素はチロシンによるフィードバック阻害を受ける。当研究室では、チロシン由来のベタレイン色素を多く蓄積する甜菜より、非感受性のTyrAa/ADH酵素を単離・同定した。また、大豆などのマメ科では、葉緑体局在のTyrAa/ADH酵素に加えて、非感受性のプレフェン酸脱水酵素(TyrAp/PDH)が細胞質に存在することが明らかとなった。以上の結果より、チロシン合成経路およびその制御機構が植物種によって大きく違うことが明らかとなった。本発表では、これら特性の異なる酵素の生理学的・進化学的意義、また機能構造解析および有用化合物生産への応用に関して議論する。
問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡大 学術院 理学領域 粟井光一郎(awai.koichiro@shizuoka.ac.jp)

【第74回生命科学若手セミナー】
日時: 2016年5月18日(水曜日)16:00-17:30
場所: 静岡大学 総合研究棟 4階414室
演者: 大森正之 先生(東京大学名誉教授)
演題: 『地球の生命、宇宙の生命 -藍藻のcAMP信号伝達系から考える-』
要旨:  地球は生命で溢れている。特に風薫る新緑の季節、人は皆生命を実感する。しかし、近くの月も金星も、火星も生命の存在すら見出しにくい。木星の惑星にはひょっとしたら・・・?何故って水があるらしいですから。太陽系を飛び出しても水さえ見つかれば、ひょっとしたら・・・? 水って不思議ですね。地球に水が出現したのはおよそ39億年前。その直後に生命らしきものが存在したのではないかと言われている。はっきり生命と呼べるバクテリアが生まれたのはおよそ30数億年前であろうか。そんな古い歴史を持つバクテリアの中に藍藻(シアノバクテリア)がいる。地球上で最初に光のエネルギーで水を分解し、その時得られる還元力(電子)で、ガス体の二酸化炭素を還元し、有機物すなわち我々の体の構成物質を作ることに成功した。なんともすごい能力を開発したものである。
 この藍藻は今も地球上のいたる所に生息しており、長い間の地球環境の変化を生き抜いてきただけに、素晴らしい生命維持装置をもっている。その一つにcAMPを媒体とする情報伝達機構(cAMP信号伝達系)がある。それってなんなの。 実は私たちの体の血糖値の調節機構そのものなのだ。このメカニズムが崩れると、私たちは糖尿病になったり、低血糖症になったりする。では藍藻も糖尿病になるというのか。生育の悪い藍藻は培地に糖を分泌するので培地が甘くなるなんてことは聞いたことはない。藍藻での機能はちょっと違い、cAMP信号伝達系は、光環境を含む環境情報を伝える手段として使われている。地球上で初めて植物型光合成を始めた生物としては当然のことかも知れない。ちなみに私たちが光を感じるのはcGMP信号伝達系による。
 藍藻に光応答cAMP信号伝達系があるなどと言うことは、誰も考えていなかった。むろんこの私も。ところが藍藻細胞内のcAMP量を調べる過程で、光のみならず様々な環境変化に対応して、cAMP量が顕著に変動することが明らかとなった。これは大変だぞと、そのメカニズムを解明すべく、いろいろな実験を行い、当時は新しかった分子生物学的手法を用いることによって、cAMP合成酵素の遺伝子を見つけることができた。その時の苦労話は皆さんの研究の何かのお役に立つかも。さて、遺伝子の構造解析から、藍藻は何種類ものアデニル酸シクラーゼを持っていることが判明した。それは何を意味するか。きっと異なる環境変化に対応して異なるアデニル酸シクラーゼ系が活動するのだろう。例えば、青い光は運動を促進することがあるが、ある特定のアデニル酸シクラーゼ遺伝子を破壊すると、青色光による運動の促進は見られなくなる。cAMP信号伝達系は光以外にも、pHや酸素濃度などの環境変化に対応する非常に大事な信号伝達系であるが、このような複雑な調節機構がはるか太古の時代に完成しており、それが進化の過程で私たちヒトにも伝えられてきたのだろう。もっとも、高等植物ではその存在が疑われているのは何故だろう。動物と植物の生きざまの違いに根差しているのかも知れない。情報処理機構の生物による違いは、生命そのものの多様さ、奥深さ、不思議さにつながっているように思えてくる。
問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡大 学術院 理学領域 粟井光一郎(awai.koichiro@shizuoka.ac.jp)

【第73回生命科学若手セミナー】
日時: 2015年9月11日(金曜日)17:30~19:00
場所: 静岡大学 総合研究棟 4階414室
演者: 矢守航 先生 (千葉大学 環境健康フィールド科学センター)
演題: 『光合成能力の強化に基づくバイオマス生産性の向上に向けた取り組み』
要旨:  地球レベルの急激な人口増加と環境の変化は、深刻な食糧不足を招きつつあり、いかに作物の収量を増加させるかは、植物科学研究の社会貢献において最も重要な課題である。光合成は作物の生産性を決定する最も重要な代謝であるため、光合成研究は極めて重要な問題解決に直結している (Yamori et al., Plant, Cell & Environment, 2015)。今後、飛躍的な生産性の向上を計るために個葉のポテンシャルとしての光合成能力の向上が重要となることは言うまでもない。これまでのほとんどの光合成研究では、定常状態における光合成の環境応答制御メカニズムやその能力強化が焦点となっている。しかし、植物の受ける光強度は一日を通して常に変動しており、必ずしも一定ではない。野外環境における植物の物質生産力強化を考えれば、定常状態における光合成能力の強化よりも、むしろ、変動する光環境下における光合成能力の強化に着目する必要がある。そこで、今回の発表では、“変動する光環境下における光合成能力の強化”に着目した私の研究事例を紹介したい。
 また、現在、私が所属する千葉大学には、日本最大級の植物工場拠点がある。植物工場とは、光、温度、二酸化炭素、栄養などをコンピュータで管理しながら作物を栽培する施設のことである (Yamori et al., Journal of Rice Research, 2014)。現在、私は植物工場における野菜栽培において、効率の良い栽培技術の開発を目的として研究を行っている。今回の発表では、植物工場の概要を簡単に紹介し、特に「光」に着目した我々の研究を紹介したい。
問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡大 学術院 理学領域 成川礼(narikawa.rei@shizuoka.ac.jp)

【第72回生命科学若手セミナー】
日時: 2015年6月26日(金曜日)17:00~18:30
場所: 静岡大学 総合研究棟 4階414室
演者: 渡辺智 先生 (東京農業大学 応用生物科学部 バイオサイエンス学科)
演題: 『複数コピーのゲノムを持つシアノバクテリアの増殖機構』
要旨:  シアノバクテリアは植物と同様の酸素発生型光合成を行う原核藻類である。中でも淡水性シアノバクテリアSynechococcus elongatus PCC 7942やSynechocystis sp. PCC6803は初期に全ゲノムが決定し、光合成のモデル生物として多くの研究が行われて来た。淡水性シアノバクテリアの多くは細胞あたり複数コピーのゲノムを持つことが知られているが、複数コピーゲノムの複製のメカニズムは不明であった。我々のグループではSynechococcus 7942を材料として複数コピーゲノムの複製機構の研究を行っており、Synechococcus 7942のDNA複製は、光合成に依存すること (Ohbayashi et al., FEMS Lett., 2013)、大腸菌、枯草菌と同様に単一の複製開始点より両方向に進行するθ型複製であるということを報告した(Watanabe et al., Mol. Microbiol., 2012)。また同時にシアノバクテリアのDNA複製が複数コピーゲノム間で非同調的に開始することを世界に先駆けて提唱した。本セミナーではこれらについて解説すると共に、複数コピーゲノムの制御機構について、最新の知見を交えて議論したい。
問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡大 学術院 理学領域 粟井光一郎(awai.koichiro@shizuoka.ac.jp)

【第71回生命科学若手セミナー】
日時: 2015年5月29日(金曜日)16:00~17:00
場所: 静岡大学 農学研究棟5F 540号室
演者: 中塚貴司 先生(静岡大学農学部共生バイオサイエンス学科)
演題: 『花が彩る分子メカニズムの解明 』
要旨:   花は花弁に蓄積している植物色素の違いにより、様々な花色を表現している。植物色素は、フラボノイド(アントシアニン)、カロテノイド、クロロフィル、ベタレインがよく知られている。フラボノイドの一つであるアントシアニンは、赤から青まで幅広い色の発色に寄与している。青花を有するリンドウを用いて明らかにしたフラボノイド色素の制御メカニズムについて紹介する。一方、ベタレイン色素は一部のナデシコ目植物とキノコ類にしか存在しないが、特徴的な色調を示す。そこで、遺伝子工学を用いてナデシコ目植物以外でのベタレイン産生の可能性についても紹介する。
問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡大 学術院 農学領域 小谷真也(kodani.shinya@shizuoka.ac.jp)

【第70回生命科学若手セミナー】
日時: 2014年11月21日(金曜日)16:00~17:00
場所: 静岡大学 大学会館 セミナー室
演者: 黒田裕樹 先生 (慶應義塾大学・環境情報学部)
演題: 『脊椎動物のボディプラン?卵に背中を作る機構』
“The Body Plan of Vertebrates; How the Dorsal Region is Created in Egg?”
要旨:   脊椎動物をそうたらしめる組織。真っ先にその例として挙げられるのが脊索であろう。脊索は自身が背側の中軸中胚葉として胚の中央に君臨するだけでなく、神経や筋肉などの周辺組織も誘導する。自身の役割を果たした後は直ちに消滅する。我々は、この健気なまでに脊椎動物のボディプランに貢献しようとする脊索が形成される機構、ならびにその上流となる機構について調べることにした。
  形成機構について注目したのが、脊索前駆細胞が有する強力な集合能力である。我々はプロトカドヘリンを対象としたPCRスクリーニングを行い、脊索に強い発現を示すAxial protocadherin (AXPC)を発見した。AXPCを強制発現させた表皮細胞は脊索前駆細胞と同様の接着性を有し、また、AXPCの働きを阻害した胚は、脊索構造を完全に失った。以上の結果より、AXPCが脊索の形成に必須の接着分子であると結論づけた。上流機構として注目したのが、Wntシグナルの働き方である。我々は、Wntシグナルが活性化される領域に中胚葉誘導非依存的に持つ役割が存在することを発見した。そして、中胚葉誘導シグナルが働きかけることによって脊椎動物の背側構造が誘導されることを示唆させる結果を得ることができた。
  本研究は、脊椎動物の背側を効率良く誘導する方法の発見とも呼べるだろう。背側だけで脊椎動物ができるわけではない。しかし、背側の存在を人工的に導くことによって、幹細胞からどれだけ完成度の高い脊椎動物生命体が得られるのかについて、今後、検討していきたい。
 
問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡大学教育学部 竹下温子(ehtakes@ipc.shizuoka.ac.jp)

【第69回生命科学若手セミナー】
日時: 2014年11月5日(金曜日)16:00~17:00
場所: 静岡大学 理学部B棟212号室
演者: 伊澤大介 先生 (英国Cambridge大学 Gurdon Institute)
演題: 『紡錘体チェックポイント機構における新たな阻害機構の発見』
要旨:  細胞分裂は、均等な染色体分配を経て遺伝的に同一の情報をもつ二つの娘細胞を作り出す過程である。分裂期における均等な染色体分裂を保障するために必須な監視機構が紡錘体チェックポイントである。紡錘体チェックポイントの異常は染色体の不均等分配を引き起こし、細胞死や癌などの重篤な疾患のきっかけとなる。紡錘体チェックポイントは、紡錘体に未接着の動原体に活性化して細胞全体に影響を及ぼす拡散性の染色体分配遅延シグナルを発し、そのシグナルは一つの未接着動原体で染色体分配を遅延するのに十分な強力なシグナルである。しかし、染色体分配遅延シグナルの分子レベルでの理解には至っていない。
  これまでの知見から、紡錘体チェックポイントは染色体分配に必須なユビキンチンリガーゼAPC/C(Anaphase Promoting Complex/Cyclosome)の活性化因子Cdc20タンパク質に働きかけ、Cdc20を紡錘体チェックポイントタンパク質Mad2、BubR1からなる複合体MCC(Mitotic Checkpoint Complex)に取り込むことによりのAPC/Cの活性化を防ぐ。その過程は、まず接着動原体にMad1/Mad2が結合し、さらにもう一つのMad2と結合し構造変化を誘導する。その結果、Mad2が活性化しCdc20への結合が可能となる。その後、Mad2-Cdc20複合体は、BubR1に結合しMCCを形成する。MCCがどの時点で細胞質に拡散するか不明であるが、最終的にAPC/Cと結合しAPC/CとMCCの複合体を形成し、それを不活性状態にする。このMCCの形成機構は酵母からヒトまで真核生物に広く保存されており、MCCの形成は紡錘体チェックポイントの活性に必須である。本セミナーでは、どのようにしてMCCがAPC/Cを阻害するかについて最新の研究成果に触れ、MCC自身が拡散性の染色体分配遅延シグナルの性質を持っていることを紹介する。
 
問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡大大学院理学研究科・丑丸敬史(takashi.ushimaru@gmail.com)

【第68回生命科学若手セミナー】
日時: 2014年10月17日(金曜日)16:00~17:00
場所: 静岡大学 理学部B棟2階 204講義室
演者: 成川礼 先生 (静岡大学 理学研究科 生物学専攻)
演題: 『光合成原核生物シアノバクテリアの光応答戦略解明とその応用利用』
要旨:  光合成生物は光をエネルギーとして利用しており、それ故に、光を最重要な情報としても捉え、高度な光応答機構を備えている。シアノバクテリアは、地球上で最初に酸素発生型光合成を行った原核生物であり、植物の葉緑体と起源を同一としている。シアノバクテリアは、海洋、陸地、淡水域、汽水域、温泉、砂漠、極地など、地球上のあらゆるところに生育している。また、単細胞球菌・桿菌、糸状体、分枝糸状体、螺旋状糸状体など、様々な形態のものが存在している。一部のシアノバクテリアは、窒素固定を専門に行うヘテロシストを形成する分化能を示すものもいる。このように、シアノバクテリアは起源を単一とするにも関わらず、その生理生態的特徴は非常に多様化している。
 一方、近年のゲノム解析の急速な進展により、50種以上のシアノバクテリアのゲノム情報が利用可能となっている。これらのゲノムを比較することで、上記の生理生態的多様性と対応するように、ゲノム情報も量的・質的に多様化していることが分かってきている。中でも、淡水、陸生のシアノバクテリアにおいて、環境情報の感知・応答系の遺伝子群が特に豊富に存在することが明らかとなった。これらのことから、形質転換技術が確立している淡水・陸生のシアノバクテリアを対象とすることで、その光応答戦略を分子レベルから細胞・個体レベルまで詳細に理解できると考え、これまで研究を行ってきた。
 本発表では、シアノバクテリア固有の光受容体であるシアノバクテリオクロムに焦点を当てて、その光感知・シグナル伝達・形質発現について概説する。また、最近では、私達が発見した光受容体を用いて、細胞を光で制御するオプトジェネティクスや細胞内分子動態を可視化する分子イメージングに資する光スイッチ・蛍光プローブ開発にも着手しているので、その進捗についても簡単に紹介する。
 
問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡大大学院農学研究科・茶山和敏 (acksaya@ipc.shizuoka.ac.jp)

【第67回生命科学若手セミナー】
日時: 2014年7月25日(金曜日)16:00~17:00
場所: 静岡大学 総合研究棟・農学系(農学部新棟) 2階 225室(セミナー室)
演者: 樋口富彦 先生 (静岡大学 創造科学技術大学院)
演題: 『温帯域に生息する造礁サンゴの低水温ストレス応答と生存戦』
要旨:  造礁サンゴは沖縄など熱帯・亜熱帯地域でしか見られないと思われがちですが、静岡県を含む温帯地域でも生息しています。近年の地球温暖化に伴い、温帯に生息する造礁サンゴの生息域拡大が報告され、温帯域サンゴの動態が注視されています。温帯域のサンゴにとって最も大きなストレスは冬の低水温です。温帯域に生息するサンゴを用いて、低水温ストレスに対する応答を調べたところ、サンゴに共生する褐虫藻の光合成能低下、宿主サンゴによる呼吸や骨格成長速度の低下が見られました。また、褐虫藻がサンゴ体内から減少するサンゴの白化現象も確認されました。サンゴの白化は、沖縄では主に高水温時に確認され、褐虫藻の生成する過剰な活性酸素が原因によるサンゴー褐虫藻の共生関係の崩壊だと考えられています。一方で、温帯域のサンゴでは低水温時に白化が起こりましたが、その際、過剰な活性酸素は認められず、高水温による白化とは違ったメカニズムであることが示唆されました。セミナーでは、用宗フィールドで行った室内実験および伊豆下田で行っている現場での実験結果を併せて紹介します。  
問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡大大学院農学研究科・小谷真也 (askodan@ipc.shizuoka.ac.jp)

【第66回生命科学若手セミナー】
日時: 2014年7月4日(金曜日)16:00~17:00
場所: 静岡大学 総合研究棟・農学系(農学部新棟) 2階 225室(セミナー室)
演者: 松原央達 氏 (静岡大学 創造科学技術大学院 博士課程3年)
演題: 『減数分裂の進行と染色体分配におけるオートファジーの役割』
要旨:  オートファジーは細胞内のタンパク質やオルガネラを分解する機構の一つで、アミノ酸のリサイクル、エネルギーの供給を行い、低栄養状態における細胞の生存に関わっていると考えられており、様々な病気や老化、がん化などに関わることが指摘されている。酵母ではオートファジーは配偶子形成時に起こる減数分裂の開始に必須であり、分裂開始に必要な窒素源を供給する働きを持つと考えられる。我々は減数分裂期の染色体分配制御機構の解明をめざし、分裂酵母をもちいて減数分裂期に染色体分配異常を示す変異株のスクリーニングを行い、オートファジー変異株を取得した。これらオートファジー変異株は減数分裂の開始だけでなく、進行中にも窒素源を必要とし、オートファジーが進行中にも窒素源供給を行うと考えられた。さらに、変異株は減数分裂において染色体がスピンドルから脱落する異常を示し、これはオーロラキナーゼの異常によって起こることを見いだした。このことより、オートファジーが働かないと窒素源供給が不足し、オーロラキナーゼの働きが異常となり、減数分裂進行異常や染色体分配異常が起こると考えられた。これらの結果はオートファジーが低栄養状態におかれた細胞の生存だけでなく、分裂にも寄与していることを示している。今回得られた知見は酵母の分裂だけでなく、がん細胞の形成や増殖の機構の解明にも有用であると現在考えている。  
問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡大学大学院理学研究科・山本歩 (sayamam@ipc.shizuoka.ac.jp)

【第65回生命科学若手セミナー】
日時: 2013年12月13日(金曜日)16:00~18:00
場所: 静岡大学 総合研究棟 4階412室
演者1: 坂本亘先生 (岡山大学 資源植物科学研究所)
演題: 『葉緑体におけるホメオスタシスとストレス応答』
要旨:  葉緑体(クロロプラスト)は光合成を行う細胞内の小器官(オルガネラ)で、進化の過程で始原細胞に共生した光合成細菌(シアノバクテリア)に由来する。細胞内共生により生じた葉緑体は、下等生物では分化せず葉緑体のまま光合成を続ける。しかし高等植物では、器官分化に伴って、光合成以外の様々な機能を担うようになり、光合成をせずにデンプンや色素を貯蔵するアミロプラスト、クロモプラストなどに転換するようになった。これらを総称してプラスチド(plastid = 可塑性の高い小器官)と呼ぶ。このようなプラスチドの機能転換は、共生由来のバクテリアにはないので、高等植物が獲得した現象である。植物は、プラスチドをうまく進化させながら光合成をしない器官を作り、地上の環境ストレスに適応する体勢を作り上げていったのである。
 プラスチドは、葉が発生する茎頂組織ではプロプラスチドとして存在するが、葉の分化に従って葉緑体になり光合成を行う。葉緑体の分化は、光化学装置と集光アンテナ、ATP合成酵素を持ったチラコイド膜のダイナミックな形成を伴うが、これらがどのように形成され、維持されるのかについては、非常に多くのことを考えなければならない。例えば、葉緑体は細胞内に多数存在するので、どのように分裂して増えているのだろうか?葉緑体は細胞内共生に由来するため、バクテリア由来のDNAを持っているが、葉緑体内でタンパク質合成されるしくみや、細胞質から輸送されるタンパク質とどのように光合成装置を作るのだろうか?葉緑体の膜はどのように維持されているのだろうか?葉緑体はどのように遺伝するのだろうか?演者らの研究室では、これらの葉緑体分化に関わる新たな因子を遺伝学的に見つける研究を長く行っている。今回は、光合成と葉緑体の機能に関わる突然変異体の解析を通して明らかになった葉緑体ホメオスタシス(恒常性維持)のしくみや、光ストレス応答などについて例を挙げながら紹介する。  
演者2: 加藤裕介先生 (岡山大学 資源植物科学研究所)
演題: 『光化学系II修復におけるD1タンパク質分解メカニズム』
要旨:  光は植物の生育に必要だが、同時にチラコイド膜上の光合成装置に損傷を与えており、光合成能の低下、光阻害を引き起こす。光化学系IIの反応中心タンパク質D1は光による損傷のターゲットであり、植物は損傷を受けたD1を特異的かつ迅速に分解し、新たなD1に置き換える修復サイクル(PSII repair cycle)により光合成能を維持している。損傷を受けたD1の分解は光化学系II修復過程で重要なため、私達はシロイヌナズナを用いてこれを担うプロテアーゼの解析を進めてきた。本セミナーでは光化学系修復サイクルの全体像を説明するとともに、D1分解に焦点をあて、二つの原核生物型プロテアーゼ(FtsH、Deg)の役割とその協調的な分解機構、さらにD1リン酸化によるD1分解過程の調節について紹介する。
 
問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡大学大学院理学研究科・粟井光一郎 (dkawai@ipc.shizuoka.ac.jp)

【第64回生命科学若手セミナー】
日時: 2013年11月27日(水曜日)17:00~
場所: 静岡大学理学部B棟B212室
演者: 上野勝先生(広島大学大学院 先端物質科学研究科)
演題: 『テロメア維持破綻のゲノム全体への影響』
要旨:  染色体の安定な維持は老化やがんの防止に必須である。特に染色体末端(テロメア)の安定な維持は、ゲノム全体の維持に大きな影響を与える。テロメア保護に異常をきたすとテロメアがDNA切断末端と認識され、不適切なDNA修復反応が起こり、テロメアでDNA組換えが起こったり、テロメア同士が融合して環状染色体が生じることがある。
 今回の発表では、環状染色体が出来た場合や、テロメアでDNA組換えが起こったときにゲノム全体に与える悪影響について発見したことを紹介する。
問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡大学大学院理学研究科・丑丸敬史 (sbtushi@ipc.shizuoka.ac.jp)

【第63回生命科学若手セミナー】
日時: 2013年11月14日(木曜日)17:00~18:00
場所: 静岡大学 総合研究棟 4階414室
演者: 薬袋良一先生(筑波大学大学院システム情報工学科)
演題: 『タンパク質の表面構造比較手法の開発と機能解析への応用』
要旨:  低分子薬剤は特定の標的タンパク質に作用することでその薬理効果を発揮していると考えられてきた。現在の創薬研究は、薬剤分子が特異的に結合する標的タンパク質を同定することから始まる。しかし、近年、薬剤が予期しない標的と相互作用するという例が数多く明らかとなり、副作用の要因として注目されている。このcross-activityの原因は、構造の類似した結合部位が複数のタンパク質に存在するためと考えられている。そこで、我々は結合部位の原子配置に注目した構造比較計算手法を開発し、タンパク質の表面構造を網羅的に比較して類似性を評価することを試みた。また、本手法を利用して2つのタンパク質表面を探索して類似した部分領域を検出するツールの開発も行った。これらの手法とツールを用いて、立体構造の得られるタンパク質全体を対象に、「潜在的リガンド結合領域の総当り構造比較」・「既存の薬剤結合部位と類似した表面の探索」・「DNA結合表面の構造比較」といった網羅的な解析を行った。その結果、種類の異なるタンパク質間で同種の低分子が結合する類似表面箇所を新規に複数検出した。また、新規の薬剤結合部位候補を多数得た。本セミナーではこれらの報告とともに現在行っている 解析についても簡単に紹介したい。
 
問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡大学大学院農学研究科・堀池徳祐 (dthorii@ipc.shizuoka.ac.jp)

【第62回生命科学若手セミナー】
日時: 2013年9月20日(金曜日)17:00~
場所: 静岡大学理学部B棟 B211号室
演者: 広瀬侑先生(豊橋技術科学大学エレクトロニクス先端融合研究所)
演題: 『ゲノムからシアノバクテリアの光応答を読み解く』
要旨:  シアノバクテリアは酸素発生型の光合成を行う原核生物であり、680nm付近の赤い光に加え、470-640nm付近の青~緑~橙といった様々な波長を吸収して光合成を行う能力をもつものが知られている。一部のシアノバクテリアは、緑色光と赤色光を吸収するアンテナタンパク質の組成を換える能力を持ち、この現象は「補色順化」と呼ばれている。補色順化は100年以上も前から知られる古典的な光応答現象であるが、その分子メカニズムは最近まで不明であった。私は東京大学池内昌彦先生の下で、修士~博士~ポスドクの時代を通して、補色順化の光受容機構とシグナル伝達経路の解明に取り組んできた。その結果、緑色光と赤色光を受容するフィトクロム型の光受容体が、転写因子のリン酸化/脱リン酸化を介して、光合成アンテナ遺伝子の発現を制御するという機構が解明することができた。本セミナーでは、最近の次世代DNAシークエンサーを使った研究内容についても紹介しつつ、シアノバクテリア研究の醍醐味を少しでも感じてもらえれば幸いである。
 
問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡大学大学院理学研究科・粟井光一郎 (dkawai@ipc.shizuoka.ac.jp)

【第61回生命科学若手セミナー】
日時: 2013年7月25日(木曜日)14:00~
場所: 静岡大学理学部B212
演者: 藤岡優子先生(微生物化学研究所)
演題: 『オートファジー始動の分子基盤』
要旨:  細胞内のタンパク質やオルガネラが適切に分解されることは、細胞が正常に機能するために重要である。オートファジーは、栄養飢餓などに応じて、細胞が自身の構成成分である細胞質やオルガネラをリソソーム/液胞に輸送し、分解する現象であり、細胞の恒常性維持に働いている。オートファジーの始動には、Atg1キナーゼが低活性型から高活性型へと変換することが重要である。富栄養条件下、栄養センサーであるTorキナーゼは、Atg1キナーゼの活性化因子であるAtg13のリン酸化を通して、Atg1の活性を負に制御することでオートファジーを抑制している。一方、飢餓になるとTorキナーゼの活性が阻害され、Atg13の脱リン酸化を通してAtg1キナーゼが高活性型となり、オートファジーが始動すると考えられている。しかし、Atg13のリン酸化/脱リン酸化を介した制御が分子レベルでどのように行われているのか、詳細なメカニズムはわかっていない。
 我々はAtg1、Atg13、そしてもう一つのAtg1制御因子であるAtg17の構造学的、生化学的解析から、これまでに明らかになっていなかったオートファジー始動の制御機構の一端を分子レベルで解明することに成功した。本セミナーでは自身の研究成果とともに、オートファジーの分子メカニズムについての最新の知見を紹介する。
 
問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡大学大学院理学研究科・丑丸敬史 (sbtushi@ipc.shizuoka.ac.jp)TEL 054-238-4772

【第60回生命科学若手セミナー】
日時: 2013年6月27日(木曜日)18:00~
場所: 大学会館3Fセミナールーム
演者: 大吉崇文先生(静岡大学理学研究科化学専攻)
演題: 『DNA局所構造によるエピジェネティクスの制御』
要旨: 1953年にワトソンとクリックによって明らかにされた遺伝子のDNA二重らせん構造は、今日の生命科学の基礎となっています。さらにこの発見から半世紀たった2003年に、ヒトゲノム計画によりヒトがもつゲノムの塩基配列が解読されました。しかし、今日に至ってもDNAの機能についてはわからないことが多く残っています。その理由の1つに、DNAは二重らせん構造だけでなく、様々な局所構造を形成して、それぞれの構造に依存した機能を発揮しているからではないかと予想されています。
本講演では最近見出しました、DNA局所構造の1つであるグアニン四重鎖構造とエピジェネティクスとの関係を紹介いたします。グアニン四重鎖構造は、細胞の寿命やガン化に関わるDNA領域が形成すると考えられているため特に近年注目されていますが、細胞内の機能についてはほとんど解明されていませんでした。今回新たな発見したグアニン四重鎖構造によるエピジェネティクスの制御は、この構造が抗ガン剤などの薬剤の標的として有用であることを示しただけでなく、今後の医学や薬学の発展に大きく貢献できると考えています。
問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡大学教育学部理科教育講座・雪田聡 (eayukit@ipc.shizuoka.ac.jp)TEL 054-238-4304

【第59回生命科学若手セミナー】
日時: 2013年5月31日(金) 17:00~
場所: 静岡大学大学会館3階セミナールーム
演者: 雪田聡 先生 (静岡大学教育学部理科教育講座)
演題: 『骨芽細胞分化および初期発生過程においてSUMO化修飾が担う役割』
要旨:  SUMO (Small Ubiquitin-related Modifier) 化修飾はユビキチンに類似したタンパク質翻訳後修飾である(下図参照)。これまでの研究から、SUMO化修飾は様々なタンパク質の活性や細胞内局在を制御し、細胞内のシグナル伝達や細胞周期などに重要な役割を担っていることが明らかになってきている。特に、多くの転写因子がSUMO化修飾により活性の制御を受けていることが報告されており、Wntシグナル、BMPシグナル、TGF-βシグナルにおいて転写因子として機能するTcf/LEFやSmad4もSUMO化修飾の標的タンパク質である。

 私は培養細胞とアフリカツメガエルを用い、前述の細胞内シグナル伝達によって制御される骨芽細胞分化および初期発生過程での形態形成におけるSUMO化修飾の役割について研究を行ってきた。特に、SUMO結合酵素(E2)やSUMO-1タンパク質の機能阻害および脱SUMO化酵素の過剰発現によってSUMO化修飾を阻害した場合の骨芽細胞分化、形態形成への影響につ いて検討を行ってきたので紹介させていただきたい。
 学部生や大学院生から教員まで学部学科を問わず聴講歓迎
問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
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静岡大学大学院理学研究科・大吉崇文 (stohyos@ipc.shizuoka.ac.jp)TEL 054-238-4760

【第58回生命科学若手セミナー】
日時: 2012年12月13日(木) 16:30~17:30
場所: 静岡大学理学部B棟2階B212号室
演者: 湯山-樋口 育子 先生 (静岡大学創造科学技術大学院)
演題: 『サンゴと褐虫藻の細胞内共生を遺伝子発現解析から明らかにする』
要旨:  サンゴの細胞内には褐虫藻と呼ばれる渦鞭毛藻の一種が共生している。サンゴは褐虫藻の光合成産物を利用するため、褐虫藻の存在はサンゴの成長に欠かせないものである。しかし、サンゴは水温上昇や汚染等の影響を受けやすく、サンゴ体内から褐虫藻が抜け出る『白化現象』が度々報告される。白化した状態が続くとサンゴは死んでしまうため、夏場の異常気象の影響を受けて地域のサンゴ礁が壊滅状態になることも多い。そこで、白化現象や細胞内共生のしくみを明らかにするため、培養した褐虫藻株を共生させた稚サンゴをモデル生物として用い、遺伝子発現解析を行ってきた。
 また、サンゴに共生する褐虫藻には複数の遺伝子型が存在する。白化現象の後、生存したサンゴでは通常とは異なるタイプの褐虫藻が共生することから、共生する褐虫藻のタイプによりサンゴのストレス応答性が異なる可能性が考えられてきた。そこで、様々な褐虫藻株をサンゴに共生させ、そのストレス応答性を比較する試みをしてきた。
 上記の遺伝子発現解析の結果に加え、褐虫藻がサンゴのストレス応答にどのように影響しているかについて、最近の研究成果を紹介する。を発現してきた。現在までに行ってきたカイコを用いた組換えタンパク質の改良について紹介する。
問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡大学理学部・竹内浩昭 (sbhtake@ipc.shizuoka.ac.jp)

【第57回生命科学若手セミナー】
日時: 2012年11月21日(水) 17:00~18:30
場所: 静岡大学農学部A棟1階110号室(第3会議室)
演者1: 加藤 竜也 先生 (静岡大学農学部)
演題1: 『カイコを用いた組換えタンパク質生産の改良』
要旨1:  組換えタンパク質生産は、大腸菌・酵母・昆虫細胞・植物・哺乳動物細胞など様々な生物および細胞を宿主として行われている。2005年に静岡大学生物工学研究室の朴教授らによりカイコに感染するBombyx mori nucleopolyhedrovirus (BmNPV)バクミドが開発されて以降、カイコ幼虫またはさなぎを用いた組換えタンパク質生産が簡便かつ迅速に可能になり、現在様々な組換えタンパク質がカイコを用いて行われている。
 カイコは高いタンパク質生産能を有しており、組換えタンパク質の高生産が可能であるが、さらに生産性を上げるために現在までに様々な改良を行っている。例えば、BmNPVバクミドに含まれるシステインプロテアーゼを欠損させることで、組換えタンパク質のプロテアーゼによる分解を抑えたり、昆虫細胞系で用いられるSf-9やHighFive細胞に用いても組換えタンパク質生産を行うことができるBmNPVバクミド(ハイブリッドバクミド)の開発などである。それら改良したBmNPVバクミドを利用して、本研究で様々な組換えタンパク質を発現してきた。現在までに行ってきたカイコを用いた組換えタンパク質の改良について紹介する。
演者2: 董 金華 先生 (静岡大学農学部)
演題2: 『ファージ提示法を用いたモノクローナル抗体の開発と応用』
要旨2:  抗体は、B細胞の産生する糖タンパク分子で、特定のタンパク質などの分子を認識し、脊椎動物の感染防御機構において重要な役割を担っている。抗体は主に血液中や体液中に存在し、体内に侵入してきた細菌やウイルスなどの微生物と結合し、形成された複合体が白血球やマクロファージといった食細胞に認識・貪食され、体内から除去される。抗体がガン細胞など特定の細胞にも結合でき、また副作用も少ないから、近年新しい医薬品としても大きな期待が寄せられている。モノクローナル抗体の開発はハイブリドーマ技術の他に、ファージ提示法もよく使われる。本研究では、抗原と直接結合する抗体の可変領域をヒトIgG重鎖定常領域CH1と軽鎖定常領域Ck 遺伝子と結合させ、Fab抗体断片として線維状ファージM13の外被タンパクg3pのN末端に提示するファージミドベクターpDong1/Fabを構築した。またpDong1/Fabを用いて、数多くの抗体を開発してきた。
1.高病原性トリインフルエンザウイルスH5N1抗体の開発
 H5N1ウイルスは,日本へでもしばしば被害をもたらし、特に迅速かつ高感度な診断を要するターゲットである。本研究ではH5N1ウイルスの表面蛋白質ヘマグルチニン(HA)ペプチドで免疫したマウスの脾臓RNAから抗体遺伝子を増幅した後に、pDong1/Fabに組込み、抗体ライブラリを作製した。その後,ペプチドに特異的に結合する抗体をパニーングにより多数取得した。これらの抗体を用いて,HAタンパク質の定量に成功した。またインフルエンザウイルスで感染された細胞の染色実験では,これらの抗体がウイルスと結合することも確認できた。
2.ネオスポラカニナム原虫抗体の開発
 ネオスポラ症はウシの感染症の一種で、感染されたウシに流産が起こり、畜産業に大きな被害を与えている。本研究では、ネオスポラ原虫の表面タンパク質をカイコ発現システムで発現し、マウスの免疫及びファージ提示法を用いて、2株の抗ネオスポラ原虫抗体を開発した。これらの抗体が原虫と結合でき、また原虫直接測定にも使える。これらの抗体がネオスポラ症の診断やウシ農場原虫汚染のモニターリングに有用だと思われる。
問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡大学農学部・茶山和敏 (acksaya@ipc.shizuoka.ac.jp)

【第56回生命科学若手セミナー】
日時: 2012年11月2日(金) 16:30~17:30
場所: 静岡大学農学部A棟1階110号室
演者: 米田 夕子 先生 (静岡大学農学部)
演題: 『キトヘテロオリゴ糖の化学合成』
要旨:  キチンはカニ・エビなど甲殻類の外骨格などから得られる天然多糖であり、その資源が豊富なことから、今後さまざまの方面での利活用法の開発が期待されている。キチンは、N-アセチルグルコサミンがb-1,4グリコシド結合により多数つながった化学構造をもつ。このキチンを脱アセチル化したものがキトサンであり、これはグルコサミンから構成される。キチン、キトサンには、その構造の中にそれぞれ多少のグルコサミン、N-アセチルグルコサミンを含むものがあるため、これらは合わせてキチン質と呼ばれている。
 キチン質を完全に加水分解するとN-アセチルグルコサミンおよびグルコサミン単糖が得られるが、加水分解を制御することでオリゴ糖を生成できる。このうちキトヘテロオリゴ糖は、N-アセチルグルコサミンおよびグルコサミンの両者を構成単糖としてもつ。キトヘテロオリゴ糖の示すさまざまな生理活性や物理化学的性質は、(1) 重合度、(2) N-アセチルグルコサミンとグルコサミンの比率ならびに配列、に支配されることが知られている。キトヘテロオリゴ糖を調製する方法としては、酸加水分解法、酵素的手法が有力であるが、特定のキトヘテロオリゴ糖を分離・精製することが大きな問題となる。また、得られたキトヘテロオリゴ糖の化学構造の決定も困難な場合が多い。そこで、これら問題の解決に、化学構造の明確なキトヘテロオリゴ糖の標品が必要となる。
 ここでは、キトヘテロオリゴ糖の化学合成について、その合成戦略と合成法について紹介する。
問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡大学創造科学技術大学院・小谷真也 (askodan@ipc.shizuoka.ac.jp)

【第55回生命科学若手セミナー】
日時: 2012年7月27日(金) 17:00~18:00
場所: 静岡大学大学会館3階セミナールーム
演者: 竹本 裕之 先生 (静岡大学機器分析センター)
演題: 『植物のSOSシグナルに対する寄生蜂エルビアブラバチの応答は2段階の学習によって獲得される』
要旨:  私達が現在目にする生物とその生態は長年に渡る無機的環境や他の生物との関わりあいの中で形成されてきたものである。生物と生物の関わり(生物間相互作用)を理解するためには、それぞれの生物種の視点でその相互作用メカニズムを明らかにすることが重要である。私は植物の生産する化学物質が生物間相互作用においてどのように機能しているかを明らかにしたいと思っている。
 植物は昆虫などの植食者に食べられた際に、植食者を捕食する昆虫等を誘引する揮発性物質を放出する。植食者の天敵を動員することによって植物のダメージが低下する場合は、植物による間接的な防衛となっており、この関係はそれらの植物‐植食者‐捕食者の3者間で共進化した相互作用である。この相互作用は食害によって誘導される揮発性物質によって媒介されているが、この揮発性物質はさまざまな場合(例えば植食者の種類など)でその組成や組成比が異なることが知られている。相互作用のメカニズムを理解するためには、捕食者が特異的な揮発性物質に対してどのように応答しているかを明らかにする必要がある。私はソラマメ‐エンドウヒゲナガアブラムシ‐寄生蜂エルビアブラバチの3者の相互作用系を用いて、この疑問について検討した。今回は、寄主アブラムシに食べられた植物が放出する特異的な揮発性物質に対して応答する能力を寄生蜂が幼虫期と羽化時の2段階の学習によって獲得しているという研究成果を紹介する。
問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡大学理学部 山本 歩 (sayamam@ipc.shizuoka.ac.jp)

【第54回生命科学若手セミナー】
日時: 2012年6月28日(木) 18:00~19:00
場所: 静岡大学農学部A棟A110室
演者: 竹下 温子 先生 (静岡大学教育学部)
演題: 『長期の自発的運動(習慣的運動)がマウスの内臓脂肪低下および血漿アミノ酸レベルを変化させる』
要旨:  運動の効果については、多くの研究がなされているが、長期の運動効果について人で検討するためには様々な制限もあり、難しい。本研究ではストレスの少ない運動負荷のモデルマウスを確立し、6か月間にわたる飼育後、糖質・脂質・アミノ酸代謝などの生態指標を測定し、長期の自発的運動(習慣的運動)が生体に及ぼす影響を調べた。
 本発表ではその結果を示し運動の重要性について考えていく。
問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡大学農学部 日野真吾 (ashino@ipc.shizuoka.ac.jp)

【第53回生命科学若手セミナー】
日時: 2012年5月25日(金) 17:30~19:00
場所: 静岡大学農学部A棟537室
(5階までエレベーターで上がって左側を少し進んだ左側にある部屋)
演者1: 齋藤 明広 先生(静岡理工科大学理工学部物質生命科学科)
演題1: 『ストレプトミセス属放線菌とキチンの深い関係』
要旨1:  ストレプトミセス属放線菌は,グラム陽性の土壌細菌であり,抗生物質をはじめとする多くの有用物質を二次代謝産物として生産する。主な棲息場所である土壌では,生物遺骸などに含まれる生体高分子を分解する役割を担っていると考えられており,昆虫のクチクラ層やカビの細胞壁に含まれるアミノ多糖“キチン”を分解する能力を持つこともストレプトミセス属放線菌の特長である。本発表では,ストレプトミセス属放線菌のキチン認識・分解・代謝系を紹介するとともに,抗生物質生産系とキチン分解物代謝系の関係についても議論する。
演者2: 大椙 弘順 先生(静岡理工科大学総合情報学部人間情報デザイン学科)
演題2: 『生命の仕組みを単純化して、生物的に振る舞う人工システムを造りたいですね。
    --- 発生・再生に学ぶ、自己修復分散制御システム』
要旨2:  演者は元々は発生生物学の研究者で、80~90年代はパターン形成の分子機構を知りたいとの思いで実験系の研究を行ってきた。近年、発生や再生の分子機構についてその実体が少しずつ明らかになるにつけ、演者の関心は、生物的な振る舞いを人工的なものに応用できないか、というものに移ってしまった。むしろ、生命の仕組みを理解する一つの手段として、現実の生物が実施している複雑な仕組みから、そのエッセンスを極めて単純化した形で抽出し、その単純化した仕組みから生物的挙動をとるような人工システムを構築することができれば、それが生命の本質的な理解にもつながるのではないか、という考え方である。このような経緯なども含め、今回は、「幹細胞」と「ボトムアップ的細胞間相互作用」を基盤にした、「自己修復分散制御システムの構築」について紹介する。
問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡理工科大学総合情報学部 奥村 哲 (tetsuok-tmdu@umin.ac.jp)

【第52回生命科学若手セミナー】
日時: 2012年5月16日(水) 16:30~17:30
場所: 静岡大学農学部A棟110室
演者: 土'田 努 先生(富山大学 先端ライフサイエンス拠点)
演題: 『微小な細菌が、虫の食餌や装いを変え、天敵からの逃れやすさも操作する!?』
要旨:  現存する既知生物種の過半数を占める昆虫類は、実にさまざまな環境に適応し繁栄を遂げている。普通の動物では栄養にすることのできない植物汁液や朽ち木、脊椎動物の血液だけを一生涯の餌として、大増殖できるものも数多く存在する。これらの昆虫がこのような栄養価に乏しい餌に適応している秘密は、その体内に存在する、特殊な代謝系をもつ“共生微生物”である。
 これまでに演者らは、エンドウヒゲナガアブラムシの様々な 共生細菌を主な研究対象として、野外における感染状況の分子生態学的調査や、実験室内での微生物学的操作実験、分子生物学や細胞生物学的解析、化学分析等を組み合わせて研究を行ってきた。それにより、特定の共生細菌が、栄養代謝への寄与に留まらず、宿主アブラムシの植物適応や、捕食者から見つかりにくいように虫の体の色を変化させる、といった驚くべき環境適応作用を担っていることを明らかにした。本会では、我々の研究成果を中心に、これまでに報告された共生細菌によるアブラムシの環境適応作用について概説する。さらには、共生細菌による環境適応の分子メカニズムについて、現在進行中の課題についても紹介したい。
 土田努さんは、「共生細菌による宿主の食性、体色の変化」について研究されており、すでにScienceに2回という大変優秀な若手研究者です。
Tsuchida T., Koga R., Horikawa M., Tsunoda T., Maoka T., Matsumoto S., Simon J.-C., Fukatsu T. (2010) Symbiotic bacterium modifies aphid body color. Science 303: 1102- 1104.
Tsuchida T., Koga R., Fukatsu T. (2004) Host plant specialization governed by facultative symbiont. Science 303: 1989-1989.

 また、別途メールで紹介しますにように、引き続いて17:30から第198回静岡ライフサイエンスセミナーとしてお二方に話をして頂きますのでそちらも聞いて頂ければ幸いです。
問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡大学農学部 田上陽介 (tagamiy@gmail.com)

【第50回生命科学若手セミナー】
日時: 2012年4月27日(金) 16:00~17:00
場所: 静岡大学大学会館3階セミナールーム
演者: 石原 顕紀 先生(静岡大学理学部生物科学科)
演題: 『内分泌撹乱化学物質が甲状腺系に及ぼす影響
        ~網羅的遺伝子発現解析の観点から~』
要旨:  性ホルモンや甲状腺ホルモンなどは、細胞内シグナル分子であり、それらの核内受容体はスーパーファミリーを形成し、リガンド依存性の転写調節因子であることが知られている。内分泌撹乱化学物質は、性ホルモン系を撹乱する作用を有する事からその危険性が注目されて来たが、近年甲状腺系に及ぼす影響も懸念されるようになってきた。甲状腺ホルモンは、胎児期の脳の発達等に関与しており、この系の撹乱は生体にとって危惧すべき重要な問題である。発表者は、甲状腺系における化学物質の影響に関して、血中ホルモン結合タンパク質トランスサイレチン(TTR)と甲状腺ホルモンの結合に及ぼす影響、甲状腺ホルモン受容体(TR)と甲状腺ホルモンの結合に及ぼす影響等について検討を行ってきた。
 化学物質が、血中タンパク質によって仲介される甲状腺ホルモン作用に及ぼす影響が重要であるのは明らかである一方、核内での転写調節に及ぼす影響についても近年注目されるようになってきている。甲状腺ホルモンによって発現応答を示す遺伝子のうち、化学物質によって発現が撹乱される遺伝子群をゲノムワイドに探索し、その転写撹乱がどのようなメカニズムによってなされているか明らかにする事を目的とし、研究を行った。本発表では、この発現解析のデータを軸に、甲状腺系に及ぼす化学物質の影響について、明らかになってきたことを紹介したい。
問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡大学理学部 大吉崇文 (stohyos@ipc.shizuoka.ac.jp)

【第51回生命科学若手セミナー】
日時: 2012年4月24日(火) 16:00~17:00
場所: 静岡大学大学会館3階セミナールーム
演者: 内藤 泰宏 先生(慶應義塾大学・環境情報学部・准教授)
演題: 『コンピュータシミュレーションで生命現象を解明する』
要旨:  分子レベルの生命現象は非常に複雑なシステムである。そのため、遺伝子レベルの知見と、細胞、組織、個体レベルの知見を結びあわせる際、そのことごとくを因果関係の連鎖として描写することは非常に困難であり、多くの場合、統計などを駆使した相関関係の検出によって知見の間隙が埋め合わされている。多数の素過程が同時並行に稼働する生命現象を、因果的に連鎖する素過程の集合として把握するための手法として、コンピュータシミュレーションを挙げることができる。今回は、分子レベルの数理モデルを束ねることによって、細胞レベルあるいは組織レベルの機能を再現する試みとして、心筋細胞の発生過程のシミュレーション、ならびに肝臓の代謝区域化のシミュレーションの研究を紹介する。
問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡大学教育学部 黒田裕樹 (ehkurod@ipc.shizuoka.ac.jp)

【第49回生命科学若手セミナー】
日時: 2011年12月21日(水) 17:00~18:00
場所: 静岡大学大学会館3階セミナールーム
演者: 小池 亨 先生,阿部 尚弘 先生(静岡大学理学部生物科学科)
演題: 『ラット初期発生及び肝再生過程におけるPDX-1転写因子の発現解析』
要旨:   肝臓は再生能力の高い臓器であり,その再生には2つの機構が存在することが知られている。その1つが「代償性肥大」であり,肝部分切除後などに残っている肝細胞や胆管上皮細胞などの肝臓内の細胞が分化状態を保ったまま増殖することで元の大きさに戻るというものである。もう1つが「肝前駆細胞」が寄与する再生機構であり,薬剤肝障害やウィルス性肝障害など,肝細胞の増殖が抑制された条件下で働く。このような条件下では肝前駆細胞が素早く増殖し,その後,肝細胞や胆管上皮細胞に分化することで肝組織の修復に寄与する。一方で,肝前駆細胞が腫瘍前駆細胞として肝癌発生にも関わるということが古くから示唆されている。このように肝前駆細胞は肝再生・癌化の機構を理解するうえで重要な位置づけにある細胞であるが,その起源や細胞系譜,分子特性は未だ十分に明らかになっていない。
 我々は最近,ラット薬剤肝障害モデルを用いた肝前駆細胞の細胞特性解析を進めるなかで,胆管上皮細胞および肝前駆細胞がPancreatic and Duodenal Homeobox 1(PDX-1)転写因子を発現していることを発見した。さらに,ラット肝前駆細胞株,及びヒトB型劇症肝炎標本においてもその発現を確認した。本セミナーではこれら発現解析のデータを紹介するとともに,PDX?1の細胞癌化への関与の可能性を示した知見についても紹介し,PDX-1の肝再生・癌化における役割について考察し,今後の研究の方向性についても議論を交わしたい。
 また,PDX?1の発現解析を進める中で,ラット初期発生過程におけるPDX-1の極めてユニークな発現も発見したので,その最新データについても紹介したい。
問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡大学理学部 小池 亨 (stkoike@ipc.shizuoka.ac.jp)

【第48回生命科学若手セミナー】
日時: 2011年12月20日(火) 16:30~17:30
場所: 静岡大学教育学部B棟218号室
演者: 乾 雅史 先生(ポスドク, イタリアPadua大学,Department of Medical Biotechnologies,Section of Histology and Embryology)
演題: 『脱ユビキチン化酵素USP15はR-Smadのモノユビキチン化を介してTGFβシグナルを制御する』
要旨:  TGFβシグナルは細胞内メッセンジャーであるR-Smadのユビキチン化により抑制 的に制御されている.これまで,複数のユビキチンリガーゼとそれによ るR-Smadのポリユビキチン化および分解の促進が報告されてきたが,それらと拮抗する脱ユビキチン化酵素が存在するかどうかは不明であった.この論文 において,筆者らは,TGFβシグナルあるいはBMPシグナルの伝達に不可欠なR-Smadの脱ユビキチン化酵素としてUSP15を同定した.R- Smadはタンパク質分解にはかかわらないモノユビキチン化によりそのDNA結合活性が抑制され,USP15がこのモノユビキチン化修飾を除去することは TGFβシグナルあるいはBMPシグナルによる標的遺伝子の発現,また,細胞の分化や運動に必須であった.この論文は,R-Smadのモノユビキチン化と USP15による脱ユビキチン化というTGFβの新しい可逆的な制御機構を明らかにした.
(掲載論文:Nature Cell Biology, 2011, PMID 21947082)
問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp
静岡大学教育学部 黒田 裕樹 (ehkurod@ipc.shizuoka.ac.jp)

【第47回生命科学若手セミナー】
日時: 2011年10月28日(金)17:00~18:00
場所: 静岡大学大学会館3階セミナールーム
演者: 根津 修 先生 (静岡大学農学部共生バイオサイエンス学科 特任助教)
演題: 『植物ウイルスがコードするRNAサイレンシング抑制タンパク質の解析』
要旨:  RNAサイレンシングはmicroRNAやsmall interfering RNA (siRNA)等の21~24 nt程度の低分子 RNAを介した植物の遺伝子発現調節機構である。動物ではRNA干渉 (RNAi)と呼ばれるこの機構は、植物ではウイルスに対する防御応答反応の1つとして利用されることが知られている。植物ウイルスの多くはRNAをゲノムとするものが多く、DNAをゲノムとするウイルスも自身がコードする遺伝子を発現させるためにRNAを転写することから、RNAの分解や転写制御を伴うRNAサイレンシングはウイルス種を問わない汎用性の高い防御応答反応である。一方、植物ウイルスはRNAサイレンシングに対抗するため、サプレッサーと呼ばれるRNAサイレンシング抑制タンパク質をコードしており、現在までに異なるウイルス種から30種類以上のサプレッサーが同定されてきた。本発表では、サプレッサーが未同定であったウイルスからのサプレッサーの同定や、ウイルスの感染拡大過程におけるサプレッサーの役割等について紹介する。
問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp

【第46回生命科学若手セミナー】
日時: 2011年9月27日(火)16:00~17:00
場所: 静岡大学大学共通教育A棟304室
演者: 鎌田 芳彰 先生 (基礎生物学研究所)
演題: 『腹が減ってからの戦(いくさ)~飢餓環境はどのようにしてオートファジーを誘導するか~』
要旨:  栄養源は細胞の成長・増殖、そして生存に不可欠なものです。栄養源が枯渇した条件では、細胞は自己の細胞質成分を分解・リサイクルして栄養源の調達を行い、飢餓環境を生き延びることができます。この現象がオートファジー(自食作用)です。1990年代に出芽酵母を用いた遺伝学的解析が行われ、オートファジーに関わるATG (autophagy)遺伝子群が発見されました。それをきっかけとして、オートファジーの研究はめざましい進歩を遂げ、今日に至っています。
 さて、飢餓環境はどのようにしてオートファジーを誘導するのでしょうか?細胞の栄養センシングには、プロテインキナーゼの一種Tor (target of rapamycin)タンパクが重要な役割を果たしており、Torの不活性化は擬似栄養飢餓状態を引き起こします。Torはオートファジーの誘導にも関与していますが、そのメカニズムは不明でした。
 最近、私たちの研究から、Atgタンパクの一つAtg13がTorによるオートファジー制御の分子スイッチとして機能することが解りました。すなわち、富栄養条件では、TorがAtg13を直接リン酸化してオートファジーを抑制しており、一方飢餓条件では、Torの不活性化に伴いAtg13は脱リン酸化され、それが引き金になってオートファジーが誘導されます。今回のセミナーでは、出芽酵母においてTorがオートファジーを制御する仕組みについて御紹介したいと思います。
問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp

【第45回生命科学若手セミナー】
日時: 2011年7月22日(金)17:00~18:00
場所: 静岡大学大学会館3階セミナールーム
演者: 木村 浩之 先生(静岡大学理学部地球科学科 講師)
演題: 『プロテオロドプシンを有する海洋細菌の光応答遺伝子発現機構~米国ボストンでの留学体験談を交えながら~』
要旨:  私は、2009年2月から2011年2月までJSPSの海外特別研究員制度を利用して米国マサチューセッツ州に留学していました。セミナーの前半では、海外留学を希望する大学院生やポスドクの方々の進路の参考になるよう、できるだけ多くの写真をお見せしながら、米国での研究生活を紹介したいと思います。また、米国と日本の文化の違いや日本人ポスドクの苦労について、私が感じたままにお話したいと思います。
 セミナーの後半では、MITの Ed DeLong教授のもとで行ったプロテオロドプシンを持つ海洋細菌のトランスクリプトームについて話をします。プロテオロドプシンは、緑または青の波長の光を吸収して水素イオン(プロトン)を細胞外に排出する膜タンパクです。プロテオロドプシンを有する海洋細菌は有光層にてプロトンポンプを作動させ、細胞の内側と外側に水素イオンの濃度勾配を作り出します。そして、膜タンパクの一種であるATP合成酵素を経由して細胞内に水素イオンを取り込むことにより、ATPを合成します。近年の海洋細菌を対象としたメタゲノム解析により、海洋の有光層に生息する多くの従属栄養細菌がゲノム上にプロテオロドプシン遺伝子を有し、光合成とは全く異なるシステムによって光からエネルギーを獲得していることが明らかとなりました。セミナーでは、明暗それぞれの条件下で培養したプロテオロドプシンを持つ海洋細菌の網羅的遺伝子応答解析を行った研究について紹介します。
問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp

【第44回生命科学若手セミナー】
日時: 2011年7月1日(金)17:00~
場所: 静岡大学農学部A棟110室
演者: 日野 真吾 先生(静岡大学農学部応用生物化学科 助教)
演題: 『β-グルカンの免疫調節作用~その吸収から分解まで~』
要旨:  β-グルカンは自然界に広く分布しているグルコースを構成糖とする不溶性多糖(食物繊維)であり、動物においては非自己分子として認識される。β-グルカンは、食品中にも含まれ、経口投与により免疫系に作用することが報告されているがその作用機構については明らかになっていない。本発表ではβ-グルカンの腸管吸収と細胞内消化および免疫賦活作用とβグルカンの構造との関係について紹介する。
問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp

【第43回生命科学若手セミナー】
日時: 2011年6月15日(水)12:00~
場所: 静岡県立大学食品栄養科学部3階5313講義室
演者: 島村 裕子 先生(静岡県立大学食品栄養科学部 助教)
演題: 『市販食品およびヒト手指から分離した黄色ブドウ球菌の性状と食中毒菌の不快臭の前駆体を利用した食中毒制御法の確立』
要旨:  黄色ブドウ球菌は毒素を産生することで食中毒を引き起こす。本菌において、食中毒起因菌の多くが、エンテロトキシンA (SEA) 産生株によるものである。これまでに、本菌の生育とSEA産生能に関する研究は多数なされているが、近年、実際に日本で食品から分離されたSEA産生株での報告はほとんどなされていない。
 本セミナーでは、食中毒予防対策の一助として演者がこれまでに進めてきた、市販食品より分離した黄色ブドウ球菌の性質やSEA産生株の毒素生産能について報告するとともに、食中毒菌の不快臭の前駆体を利用した食中毒菌検出法についても紹介したい。
問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
E-mail gsbyf@ipc.shizuoka.ac.jp


【第42回生命科学若手セミナー】



日時:2010年12月15日(水)17:00~
場所:静岡県立大学食品栄養科学部1階5112講義室


演者:伊藤 圭祐 先生(静岡県立大学食品栄養科学部 助教)
演題:『酵母システムによるタンパク質生産と解析法
  -味覚修飾タンパク質ミラクリンとヒト味覚受容体-』

要旨:
 近年、ヒト味覚受容体が相次いで同定され、その制御を目指したレセプター・リガンド間相互作用の解析が進められている。しかし、詳細な相互作用メカニズムの解析に不可欠なレセプター・リガンド両タンパク質の調製は容易ではない。真核生物である酵母をツールとしたタンパク質発現システムは、高等生物由来タンパク質の機能的発現に優位性を持つことに加え、解析のスループットが高いことが特徴である。本セミナーではこれらの特徴を活かして演者がこれまでに進めてきた、味覚修飾タンパク質ミラクリンの生産と機能解析、味覚受容体の立体構造解明を目指したアプローチを紹介する。 。


問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
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【第41回生命科学若手セミナー】



日時:2010年10月13日(水)16:00~
場所:静岡大学理学部B棟2階213講義室


演者1:高濱 謙太朗 氏(静岡大学創造科学技術大学院博士課程1年)
演題1:『テロメア結合 タンパク質TLSのグアニン四重鎖結合性の解析』

要旨1:
 生物の寿命やガン化に関係する染色体末端部位テロメアは、テロメアDNA、テロメアRNA及び様々なタンパク質からなる複合体であることが知られている。これらの複合体により、テロメアは安定に維持されていると考えられている。しかし、この複合体が形成される機構やその機能については不明な点が多い。当研究室ではこれまでに、テロメアに存在することが報告されているタンパク質TLS (Translocated in liposarcoma)とテロメアDNAまたはRNAとの結合性を解析した。その結果、TLSはテロメアDNAやRNAが形成するグアニン四重鎖構造に対し、構造特異的に結合することが明らかになった。更に、TLSとテロメアDNA及びRNAは同時に結合しうることが明らかになった。


演者2:山本 歩 先生(静岡大学理学部化学科)
演題2:『減数分裂におけるテロメアを介した染色体の動態制御機構』

要旨2:
 生物は精子や卵子といった配偶子を形成することによって次世代の個体を生み出す。この配偶子形成に必須な減数分裂では細胞増殖にみられる体細胞分裂と異なり、相同染色体の分配がおこる。この分配には対合と呼ばれる相同染色体の物理的な結合が必要だが、どのような機構によって相同染色体が空間的に近接し、結合するかはこれまで多くが未解明であった。近年、多くの生物においてテロメアがこの対合に重要な役割を果たすことが明らかになっている。我々は分裂酵母をモデル生物として研究し、減数分裂におけるテロメアの核内配置が核膜タンパク質を介して細胞質微小管とその微小管上を移動するモータータンパク質によって制御されることを見いだした。これらをもとに、真核生物に共通した相同染色体の対合機構を考察する。


問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
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【第40回生命科学若手セミナー】



日時:2010年7月16日(金)16:00~
場所:静岡大学 農学部 B棟2階・201講義室 


演者:大西 利幸 先生(静岡大学若手グローバル研究リーダー育成拠点)
演題:『化学的視点から見た植物の防御機構』

要旨:
 根を張った土地で一生を全うする植物は、常に生物ストレスや環境ストレスに曝され、その結果多様な防御システムを獲得し進化させてきた。昆虫や微生物から身を守る生理活性物質(二次代謝産物)の生合成も防御システムの一つと考えられている。本発表では樹木の二次代謝産物であるジテルペン樹脂酸 (樹脂) の生合成に注目し、その生合成および生理機能について発表する。


問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
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【第39回生命科学若手セミナー】



日時:2010年6月25日(金)16:00~
場所:静岡大学 大学会館1階 研修室


演者1:岡田 令子 先生(静岡大学創造科学技術大学院)
演題1:『両生類の生活環境と生体調節』

要旨1:
 無尾両生類は幼生から成体へと変態する過程で,その生活環境・形態・機能を大きく変化させる。両生類の変態が甲状腺ホルモンにより促進されることは古くから知られていたが,その上位の調節機構については明らかにされていなかった。本発表では,両生類の視床下部-下垂体-甲状腺系の調節機構について,特に視床下部因子による下垂体の調節を中心に比較生物学的な視点から紹介する。また,両生類が外部環境の変化に適応するための様々な生体調節機構の変化とその制御についても紹介したい。


演者2:一家 崇志 先生(静岡大学 農学部 応用生物化学科)
演題2:『酸性土壌における植物の耐性戦略』

要旨2:
 世界の耕作可能面積の約50%を占めている酸性土壌では作物の生産量が制限される。これには様々なイオンによる根の生育阻害が関与している。これらイオンに対する耐性機構を分子レベルで理解することは,酸性土壌を対象とする分子改良に大きく貢献する。この分野の研究にいおいては国内外共に活発な研究解明が進められているが,今回は特に,主要なストレス因子であるアルミニウムストレスと低pH(プロトン)ストレスに焦点を置き,シロイヌナズナ等により明らかにされつつある耐性機構について紹介する。


問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
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【第38回生命科学若手フォーラム特別セミナー】



日時:2010年1月21日(木)16:00~
場所:静岡大学 大学会館2階・研修室


演者:田中 愼 先生(国立長寿医療センター・加齢動物育成室長)
演題:「長寿医療と実験動物」

要旨:
 長寿医療ないし長寿科学が実験動物に需要を立てるのは、老年病と老化機構の解明に資する動物モデル系である。高齢者が罹患する主たる老年病は、認知症と骨粗鬆症であり、支援機器や社会制度・医療体制からの適切な支援を模索するのも長寿医療分野の務めである。例え基礎老化の生物系分野の課題であっても、実験動物を用いた研究では外挿には限界がある。ところが、動物実験の特性を十分に理解できていないことから、実験動物での実験では解明できない研究領域であるにもかかわらず動物実験が実施されている現状が存在している。今回は、実験動物の生存性・卵巣の形態・下顎骨や大腿骨の形態と特性を指標にモデル動物としての可能性と限界を考えてみたい。
 老化の研究に係る動物実験にあっては、個々の実験動物種における基準となる生存曲線が解明できれば多くの研究において有用である。しかしながら、特定のげっし目実験動物を除くと信頼の置ける結果はほとんどなく、最も記録されているラットやマウスでも、種差・系統差・性差が顕著であるためヒトへの外挿には至らない。これはげっし目実験動物の脳の解剖学的な違いから、MCIのようなヒトの疾患に対しては全く外挿出来ないことに似ている。生殖腺の加齢変化のうち、卵巣に関するものでは、構成組織の形態に明確な種差があり加齢変化を追究する事にさえ意味をなさない場合がある。骨に至っては、より顕著で、構成する成分は類似性の高いものではあるが、これらを通覧して比較できる指標は存在していない。
 これらの過不足を、これまでに得た成果をもとに紹介し、動物実験の限界を打開する策を考えるとともに長寿医療分野での有効な動物実験のあり方を探ってみたい。


問合先: 静岡大学農学部応用生物化学科・茶山和敏
TEL 054-238-4865
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【第37回生命科学若手フォーラム特別セミナー】



日時:2009年10月23日(金)13:30~15:30
場所:静岡大学 農学部B棟 201


『ヤトロファセミナー』

演者:高橋広明 講師(NPO法人地球と未来の環境基金)
演題:「インドネシアでの現地聞き取り調査に基づくヤトロファの実用可能性評価」

演者:松田 智 講師(静岡大学工学部)
演題:「タイにおけるジャトロファとオイルパーム事情」

演者:明石 欣也 講師(奈良先端科学技術大学院大学)
演題:「バイオ燃料植物ヤトロファ: 植物の特性と分子育種の方向性」


問合先: 静岡大学農学部共生バイオサイエンス学科・本橋 令子
TEL 054-238-4831
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【第36回生命科学若手フォーラム特別セミナー】



日時:2009年7月14日(火)14:30~15:30
場所:静岡大学共通教育D棟106室 (D棟1Fの左奥の右側の部屋)

演者:橋本主税 (JT生命誌研究所 主任研究員 / 大阪大学客員教授)
演題:「両生類の原腸形成運動について ~頭が先か尻尾が先か?~」

要旨:
 左右相称動物を形づくるには、発生の初期に3次元の座標軸(体軸)を決める必要がある。近年の分子生物学的解析から、体軸形成に関わる遺伝子群は脊椎動物を通じて共通であることが示唆されており、したがって両生類の研究からほ乳類の理解が進んでいるというのはある程度は事実である。両生類の体軸形成は、イモリやサンショウウオが主に用いられる実験発生学的 研究と、アフリカツメガエルが主に貢献する分子生物学的研究の二本柱によって解析されているが、両生類の発生機構は基本的に等しいという暗黙の了解がその前提にある。しかし、あらためてその形態形成運動を見てみると両生類の種間では驚くほど異なっていることが分かって来た。本セミナーでは、ツメガエルの原腸形成運動の解析から見えて来たこととその意味について考察する。

問合先: 静岡大学教育学部・黒田裕樹
TEL 054-238-4304
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【第35回生命科学若手セミナー】



日時:2009年7月6日(水)17:00~18:00
場所:静岡大学B棟2階B212室


演者:丑丸 敬史 先生(静岡大学理学部生物科学科)
演題:「染色体の正確な分配に必須なAurora kinaseの分裂期局在移動機構の解析」

要旨:
 分裂後期における染色体分配が正しく行われるためには、それ以前の分裂中期に染色体が微小管に正しく結合(KT-MT結合)されることが必要である。この正確なKT-MT結合の確立に必須な働きを果たすプロテインキナーゼがAurora kinaseである。分裂中期にはAurora kinaseは動原体に局在し、正しいKT-MT 結合の確立に寄与するが、染色体が両極に分配される分裂後期には微小管の中央部(ミッドゾーン)へ移動しそこで細胞質分裂を制御する。本セミナーでは、このAurora kinaseの移動についての、演者の研究室の知見を含め最近の研究の進展を紹介する。


問合先: 静岡大学理学部生物科学科 丑丸敬史
TEL 054-238-4772
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【第34回生命科学若手フォーラム特別セミナー】



日時:2009年6月24日(水)16:00~18:00
場所:静岡大学理学部B棟2階B213室


演者1:天野 豊己 先生(静岡大学理学部)
演題1:「植物由来FtsHプロテアーゼの分子機構」

要旨1:
 FtsHプロテアーゼは膜結合性のATP依存性プロテアーゼである。植物においては、葉緑体のチラコイド膜に局在しており、光化学系IIの主要サブユニットであるD1タンパク質の代謝回転を担っている。このタンパク質は原核生物の細胞膜にも存在し、膜タンパク質の品質管理を行っている。本発表では、植物のFtsHプロテアーゼについて、原核生物型の酵素には見られなかった新たな機能について紹介する。また、本酵素の応用的活用法についても議論を深めたいと考えている。


演者2:堀池 徳祐 先生(静岡大学農学部/静岡大学若手グローバル研究リーダー育成拠点)
演題2:「DMRを特徴づける配列パターンの探索」

要旨2:
 DMR(Differentially methylated region)は単孔類を除く哺乳類において父親由来、あるいは母親由来のアリルのみがメチル化される現象であり、ゲノムインプリンティングの原因の一つとなっている。しかしメチル化されている領域、あるいはその境界がどのようなメカニズムで酵素によって認識されるか分かっていない。本発表ではこれらの配列の特徴を検出する試みについて紹介する。なお、この解析では発表者が以前所属していた国立遺伝学研究所、人類遺伝研究部門により得られ、論文に発表されたデータを用いた。


問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
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【第33回生命科学若手フォーラム特別セミナー】



日時:2009年5月28日(木)17:00~18:30
場所:静岡大学大学会館一階研修室(生協トラベルセンター横)


演者1:安部 淳 先生(静岡大学農学部)
演題1:「処女雌の繁殖戦略:交尾なしでも産卵行動を調節する寄生バチ」

要旨1:
 ハチやアリなどの昆虫は、単数倍数性の性決定機構を持ち、雌は受精卵から、雄は未受精卵から成長する。そのため、交尾経験のない処女雌であっても、雄個体のみを産むことが可能である。その中でも、寄生バチMelittobiaの処女雌は、ごく少数の雄卵を産み、自らの息子と交尾した後、正常に雌雄を産卵することが知られている。今回は、処女雌が他の交尾雌と同じ寄主に産卵する場合について検討した。この場合、処女雌の息子は交尾雌の娘と交尾できるため、処女雌は単独で産卵するときよりも多くの息子を産んだほうが有利であると、数理モデルによって予測される。実際に、DNAマーカーを用いて、交尾雌と一緒に産卵した処女雌の息子数を測定したところ、モデルの予測どおり、単独産卵時よりも多くの雄を産んでいることがわかった。雄しか産めないという形で繁殖戦略が限定されている処女雌であっても、状況に応じて産卵行動を適応的に変化させていることが本研究によって示された。


演者2:粟井 光一郎 先生(静岡大学若手グローバル研究リーダー育成拠点)
演題2:「色素体-小胞体間脂質輸送に関わるタンパク質複合体」

要旨2:
 光合成膜であるチラコイド膜の脂質合成には2つの経路が存在する。1つの経路では、葉緑体で合成された脂肪酸が一度小胞体に運ばれた後、グリセロ脂質前駆体であるフォスファチジン酸(PA)に取り込まれ、再び葉緑体に戻ってチラコイド膜のガラクト脂質合成に用いられる(真核型経路)。もう1つの経路では、脂肪酸が色素体内でグリセロール骨格に取り込まれ、ガラクト脂質合成に用いられる(原核型経路)。これらのうち、真核型経路が阻害された変異株をモデル植物であるシロイヌナズナから単離したところ、チラコイド膜脂質の合成が原核型経路に依存するようになった。また、これらの変異株では葉においてトリアシルグリセロール、トリガラクトシルジアシルグリセロール(TGD)の蓄積が観察されことから、tgd変異株と名づけられた。tgd変異遺伝子座の1つ、TGD1はバクテリアのマルチサブユニット型ABCトランスポーターの膜貫通タンパク質をコードしていた。また、TGD2はバクテリア型ABCトランスポーターの基質結合タンパク質と相同性を持ち、色素体内包膜に局在していた。TGD2の?タ末端基質結合領域を用いて脂質結合解析を行ったところPAを特異的に結合することがわかった。TGD3は葉緑体に局在するATPaseであることがわかり、これらのタンパク質が複合体を形成し、色素体外包膜から内包膜へのPAの輸送に関与していると考えられた。一方、TGD4タンパク質は小胞体膜に存在することがわかり、これらのタンパク質群を介した、小胞体から葉緑体への脂質輸送が提唱された。


問合先: 静岡生命科学若手フォーラム事務局
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【第32回生命科学若手フォーラム特別セミナー】


日時:2009年3月31日(火)15:30~16:20
場所:静岡大学大学会館研修室


演者:杉本 薫 (カリフォルニア工科大学 Elliot Meyerowitz研究室http://www.its.caltech.edu/?plantlab/・ポスドク)
演題:「シロイヌナズナにおける異なる組織由来のカルスの解析」

要旨:
 植物体の組織片を、適当量の植物ホルモン存在下で培養すると、シュートや根などの植物体を構成する全ての組織が誘導される。これより、多くの動物細胞と異なり、植物細胞には分化全能性が備わっていることが古くから提唱されてきた。しかし、何が植物細胞に分化全能性をもたらしているのか、そのメカニズムは依然として多くが未解明である。再生過程の植物細胞がどのような分化状態をたどっているのか、また、異なる組織由来の再生現象同士に共通の機構が存在するのか、といった基礎的な疑問ですら未だ解明が待たれている。これらの基礎的な疑問に答えるため、われわれは、根、双葉、花弁の三つの組織を用いて植物再生実験を行い、新組織形成の前段階に誘導される無定形細胞塊(カルス)のキャラクタリゼーションをそれぞれの組織について行った。その結果、共焦点顕微鏡を用いた根組織マーカーの観察と、マイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析により、われわれは、どの組織由来のカルスもみな、根端分裂組織(root apical meristem)に類似した組織であることを示した。さらに、遺伝子変異体の解析と組織マーカーの観察により、カルス形成と側根原基形成が、それぞれの開始段階で同様の分子制御下にあり、ともにpericycle cells(内鞘細胞)の分裂により開始されることを示した。以上より、われわれは、pericycle様細胞のroot meristem様組織への分化が、植物体の地上地下さまざまな組織由来のカルス形成に共通する機構であることを示唆した。

問合先: 静岡大学教育学部・黒田裕樹
TEL 054-238-4304
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【第31回生命科学若手セミナー】


日時: 2008年12月12日(金)17:00~18:30
場所: 静岡大学理学部B202室


演者1:徳岡 徹 (静岡大学理学部生物科学科)
演題1:「被子植物:キントラノオ目の系統とその花や果実の形態形質の進化」

要旨1:
 被子植物の分類システムにDNAの塩基配列のような分子生物学的なデータが導入されるようになって20年弱が経った。その間に形態中心の分類システムは大きく変革され、新たな高次分類群が定義されてきた。その一つであるキントラノオ目は29科700属あまりからなる大きな分類群である。この目にはトウダイグサ科やイイギリ科などの分類の困難な(科の中で非常に形態的多様性が高い)科やスミレ科、ヒルギ科、オトギリソウ科などこれまでの分類システムでは全く関係の無かった科がひとまとめに含まれている。演者はこれまでキントラノオ目内における科間の系統関係とその中のトウダイグサ科における属間関係を明らかにするための系統解析を行ってきた。これらの結果を報告する。同時に、演者は花や果実の解剖学的研究をトウダイグサ科を中心に行ってきた。花や果実の解剖学的形質は保存的であると考えられており、高次分類群間の系統分類を考える上で非常に重要である可能性がある。これらの結果も併せて報告したい。

問合先: 静岡大学理学部生物科学科・徳岡 徹
TEL 054-238-4774
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演者2:楢本正明(静岡大学農学部環境森林科学科)
演題2:『光環境変化に対する光合成の応答 -光合成反応及び順化について-』

要旨2:
 植物の生育・成長において光合成は重要であり、光合成は様々な環境要因によって影響を受ける。森林では、垂直的・水平的に多様な光環境が存在し、また間伐等の施業により光環境を制御することが可能である。そのため、光環境に対する光合成の応答を理解することは重要である。
 ブナ林床を対象に行った研究から、日変化レベルで起こる光合成の反応と、光合成順化過程に関する研究について紹介する。

問合先: 静岡大学農学部環境森林科学科・楢本正明
TEL 054-238-3020
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【第30回生命科学若手セミナー】

日時: 2008年11月5日(水)17:00~18:30
場所: 静岡大学大学会館2階研修室(生協トラベルセンター横)

演者1: 加藤 竜也 先生 (静岡大学農学部応用生物化学科)
演題1: 『昆虫および昆虫細胞を用いた組換えタンパク質の生産について』

要旨1:
 現在までに多くの生物のゲノム情報が解読され、ポストゲノム研究として遺伝子産物であるタンパク質の解析がますます重要になってきている。特に多くの高等生物由来のタンパク質は活性を持つために翻訳後修飾が必要であり、動物細胞と類似したタンパク質修飾能を有する昆虫細胞を用いた組換えタンパク質生産が広く用いられている。セミナーでは、本研究室で行ってきた昆虫細胞を用いた効率的なタンパク質生産を紹介するとともに、昆虫そのもの(カイコ幼虫)を用いたタンパク質生産についても紹介したいと思います。

問合先: 静岡大学農学部応用生物化学科・加藤竜也
TEL 054-238-4937
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演者2: 宗林 留美 先生 (静岡大学理学部地球科学科)
演題2: 『海と微生物と微量金属:この三本の矢が大気の二酸化炭素を減らす?増やす?』

要旨2:
 近年、海水に鉄を散布して植物プランクトンの光合成による有機物生産を高め、生産された有機物を海洋深部に輸送させることで、大気中の二酸化炭素を海洋に隔離しようとする試みが盛んに行われています。これに対し、演者は、従属栄養微生物による有機物分解が亜鉛やマンガンにより促進され、海洋深部への有機物輸送効率が低下する可能性があることを見出しました。また、演者は、亜鉛などの複数の微量金属が同時に作用することで植物プランクトンの暗所耐性の向上に寄与し得ることを発見しました。これらの知見は、海水中の微量金属が海洋の炭素貯蔵能力にもたらす効果が、微量金属が作用する生物の種類や深度により異なり、これまで想像されていた以上に複雑であることを示唆しています。是非、様々な分野から御助言をいただき、今後の研究や共同研究のきっかけができたらと願っています。

問合先: 静岡大学理学部地球科学科・宗林留美
TEL 054-238-4934
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【第29回生命科学若手フォーラム特別セミナー】

日時:2008年11月4日(火)16:00~17:30
場所:静岡大学 農学部 B棟 210教室

演者:安部 淳 氏(岐阜大学・応用生物)
演題:「極端な雌偏向性比を示す寄生バチMelittobia」

要旨:
 雄と雌の子をどのような割合で産むべきかという性比調節の研究は、進化生物学や応用生物学において、とても興味深いテーマである。単独性の狩りバチやハナバチの寄生バチであるMelittobia(ヒメコバチ科)は、極端な雌偏向性比(雄率1~5%)を示すことが知られている。この極端な性比は、産卵する母親にとって何らかの利益をもたらすため進化してきたと考えられるが、既存の理論ではこの性比を説明することができない。そこで、新たな仮説として、雄間闘争の効果について考えた。本属の雄成虫は羽化後殺し合いの闘争を行うが、この闘争で遅れて羽化する雄は圧倒的に殺されやすいことがわかった。このため、母バチは殺されやすい後から羽化する雄を産むのを避け、雌偏向性比で産んでいると考えられる。雄間闘争の効果を組み込んだ数理的モデルについても紹介し、 Melittobiaがこのような極端な雌偏向性比を示す理由を考察する。


問合先: 静岡大学農学部共生バイオサイエンス学科 田上陽介
TEL 054-238-4825
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【第28回生命科学若手セミナー】

日時:2008年10月27日(月)16:30~18:00
場所:静岡大学大学会館2階研修室(生協トラベルセンター横)


演者1:本間 智寛 氏(東海大学短期大学部食物栄養学科)

演題1:「イソギンチャクのペプチド毒およびその前駆体の構造解析」

要旨1:
 刺胞動物イソギンチャクは代表的な海洋刺毒動物で、刺胞と呼ばれる特殊な毒器官を触手や本体に無数に持ち、その中に含まれる毒成分を利用して餌動物である魚やカニなどを麻痺させ捕食している。イソギンチャク毒は20 kDaの溶血毒、3-5 kDaのNaチャネル毒および3.5-6.5 kDaのKチャネル毒に大別されるが、Naチャネル毒とKチャネル毒はその特異な作用機構から、一部はすでにイオンチャネル研究のための貴重な薬理学的試薬として有効利用されている。その一方で、演者らは、既知のイソギンチャク毒とはまったく異なる一次構造をした新規ペプチド毒を数多く単離し、イソギンチャクには新規ペプチド毒が広く分布することを明らかにしてきた。こうした背景のもとに、イソギンチャクを海洋生化学資源としてさらに有効利用することを目的として、各種イソギンチャクからサワガニに対する致死活性および麻痺活性を指標にして新規ペプチド毒を単離し、その構造解析を行っている。最新の知見を踏まえて、これまでの研究成果について発表する。

問合先: 東海大学短期大学部食物栄養学科・本間 智寛
TEL 054-261-6321 内線3253
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演者2:奥村 哲 氏(静岡理工科大学総合情報学部)

演題2:「ジュウシマツNIf核へのムシモール刺激は「歌文法」を修飾する」

要旨2:
 鳴禽類の雄は雌にむかってさえずる。なかでもジュウシマツの歌は特に複雑な音の並びをもつ。われわれはその音素列の生成規則(歌文法)が脳でどのようにつくられているのか? を研究してきた。先行研究の結果から、歌神経核の中でNIf核とHVC核間のネットワークによって歌文法が生成されることを仮定した。そこで、その上流側(NIf)の神経活動を薬物によって変化させることによって、歌文法にどのような影響が生じるかを、マイクロダイアリシス法を用いて検討した。実験ではNIf核の近傍をGABAアゴニストであるmuscimol で潅流した。その結果、NIf核の抑制は、音素間の遷移パターンや系列のエントロピーを変化させることを観察し、この変化は時間の経過とともに回復可能であることを確認した。さらにこの系に関する知見を反映させたニューラルネットワークモデル作成し、どのようなパラメータが、本実験で得られたような文法の変化を再現するかを検討した。当日は、時間が許す限り会場と対話し、歌鳥の脳科学の面白さを紹介したい。

問合先: 静岡理工科大学総合情報学部・奥村 哲
TEL 0538-45-0210
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【第27回生命科学若手フォーラム特別セミナー】
 (県立大で開催される特別セミナー)

日時:2008年9月19日(金)16:00~18:00 (18:10より懇親会)
場所:静岡県立大学食品棟1階5112教室 
             (http://www.u-shizuoka-ken.ac.jp/outline/cam_map/index.html) 


プログラム:

 開会の辞 16:00~16:05
  河原崎 泰昌(静岡県立大学・食品栄養科学部)

 講演1 16:05~16:35
 「リジン残基の酸化的脱アミノ化によるタンパク質の架橋化反応」
  演者 赤川 貢(大阪府立大学院・生命環境科学研究科)
  座長 石井 剛志(静岡県立大学・食品栄養科学部)

 講演2 16:35~17:05
  「がん予防食品因子ベンジルイソチオシアネートによる細胞増殖抑制メカニズム」
  演者 三好 規之(静岡県立大学・食品栄養科学部)
  座長 榊原 啓之(静岡県立大学大学院・環境科学研究所)

 紹介講演 17:05~17:10
 「静岡県立大学「創友会」について」
  演者 鈴木 拓史(静岡県立大学大学院・博士後期課程3年)

 講演3 17:10~17:25
 「新規酵母レポーター遺伝子の開発とその利用」
  演者 神谷 拓摩(静岡県立大学大学院・博士後期課程2年)
  座長 森 大気 (静岡県立大学大学院・博士後期課程2年)

 講演4 17:25~17:55
 「ナノ物質の遺伝毒性」
  演者 増田 修一(静岡県立大学・食品栄養科学部)
  座長 伊藤 創平(静岡県立大学大学院・生活健康科学研究科)

 閉会の辞 17:55~18:00
  黒田 裕樹(静岡大学・教育学部)

 懇親会 18:10~
  (参加費:教職員1500-2000円程度,学生無料;予定)


問合先: 静岡県立大学食品栄養科学部 石井 剛志
TEL:054-264-5525
E-mail:
静岡大学教育学部 黒田 裕樹(静岡生命科学若手フォーラム代表)
TEL:054-238-4304
E-mail:





【第26回生命科学若手セミナー】

日時:2008年7月18日(金)17:00~18:00
場所:静岡大学 理学部B棟2階 B212

演者:木村 浩之(静岡大学理学部)
演題:「地下圏微生物によるメタン生成と次世代バイオ燃料としての可能性」

要旨:
 静岡県中西部の地下圏は、有機物リッチな海底堆積物に由来する厚い堆積層によって構成されている。これらの堆積層の地下1,000m以深には高温の地下帯水層が存在し、さらに、そこには大量のメタンが溶存している。演者らは、静岡県中西部の温泉施設が所有する掘削孔から地下水を採取し、溶存ガスの化学分析、各種同位体分析、微生物の嫌気培養および遺伝子解析を試みてきた。その結果、有機物を分解し水素を発生させる発酵細菌と水素を電子供与体とするメタン生成菌の存在が明らかとなり、これらの微生物群集の共生関係によってメタン生成が起こることが示唆された。
 ここでは、演者らのグループによってこれまで得られた化学・微生物研究の結果を紹介するとともに、地下帯水層中メタンの次世代バイオ燃料としての可能性について話題提供したい。


問合先: 静岡大学理学部地球科学科 木村 浩之
TEL 054-238-4784
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【第25回生命科学若手セミナー】


日時:2008年6月6日(金)16:30-18:00
場所:静岡大学理学部B212
テーマ:「モデル生物におけるTOR研究の進展」


演題1:『分裂酵母のTORシグナル伝達経路』
演者1:瓜谷眞裕 氏(静岡大学理学部)

要旨1:
 TORはさまざまなタンパク質の「運命(合成、局在、分解)」を制御するタンパク質リン酸化酵素であり、ガン化、ストレス応答、肥満、老化などの高次の生命現象にも関係する。TORは細胞の増殖と成長に必須であり、抗生物質ラパマイシンによるTORの阻害は、細胞に栄養源枯渇の時と同じような挙動をさせる。従って、TORは栄養状況に応じて増殖と成長をコントロールする”栄養シグナル伝達経路”の中心的役割を担うと考えられるが、そのシグナル伝達の機構については依然不明な点が多い。分裂酵母は、TORシグナル伝達経路の構成要素が高等生物とよく似ている点で優秀なモデル系だが、ラパマイシンで細胞の増殖阻害が見られないことから、これまで研究がされて来なかった。演者らは、ゲノムデータベース上にTORの遺伝子(2つ)を発見し、それらの遺伝子の変異株を作成、解析することで、シグナル伝達の機構とTORの機能について研究してきた。ここでは、演者らのグループで得られたこれまでの結果を示し、最新の知見について話題提供をしたい。

問合先: 静岡大学理学部化学科 瓜谷眞裕
TEL 054-238-4761
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演題2:『出芽酵母のTORによる細胞周期進行制御』
演者2:丑丸敬史 氏(静岡大学理学部)

要旨2:
 TOR(Target Of Rapamycin)は栄養源の有無に応答して、細胞の増殖、老化、アポトーシスに深く関与するプロテインキナーゼである。増殖中の細胞でTORがラパマイシン等で不活性化すると、細胞は栄養源飢餓と同様に最終的にG1期に停止する。しかし、他の細胞周期進行におけるTORの関与は不明である。当研究室では、G1期以外の細胞周期進行におけるTORの関与を明らかにする目的で、ラパマイシン処理した細胞におけるCdcタンパク質(細胞周期進行に関連したタンパク質)の量と局在への影響を調べた。その結果、TORがG1期以外の細胞周期進行も広範囲に制御している実体が示唆された。それを受けて、各細胞周期進行におけるTORの重要性の詳細の解析を進めている。本発表では、TORの活性がS期のDNA複製と出芽の両イベントに必要である事を報告する。更にその分子機構に関しても併せて報告する。

問合先: 静岡大学理学部生物科学科 丑丸敬史
TEL 054-238-4772
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【第24回生命科学若手フォーラム特別セミナー】


日時:2008年5月23日(金)16:00~18:00
場所:静岡大学農学部B棟201室


演題1:『放線菌の気菌糸誘導物質』
演者1:小谷真也先生(静岡大学創造科学技術大学院)

要旨1:
 放線菌は土壌に住むグラム陽性細菌であり、ストレプトマイシンに代表される抗生物質を産生することで人間にとって非常に重要な微生物である。それでは、なぜ放線菌は抗生物質を作るのか?最近の研究で、抗生物質ランチビオティック様物質が形態分化を促進することが明らかとなった。この結果は、ある種の抗生物質が、もともとは自己制御物質として使われていた可能性を示唆する。微生物学に興味のある研究者、学生の聴講を歓迎します。


演題2:『イネの標的遺伝子改変法; Waxyターゲティングからの展開』
演者2:寺田理枝先生(基礎生物学研究所;分子遺伝学研究部門)

要旨2:
 イネは重要穀物であると同時に、単子葉のモデル植物として全塩基配列情報を基本とするデーターベース化が進んでいる。標的遺伝子を相同組換えによって予定のデザインに組換える遺伝子ターゲティング法はWaxy遺伝子の改変以降も、全塩基配列情報を活用し、様々な内在遺伝子の改変体を作出してきた。これらの変異体では遺伝子本来のプロモーター活性を精密に解析するなど、従来のランダム形質転換では見ることのできなかった精密な遺伝子の機能解析をはじめ、様々な遺伝子改変の可能性が示されてきた。ポジティブ・ネガティブ選抜法による遺伝子ターゲティング法の原理と遺伝子改変の現状、今後の展開について報告する。


問合先:静岡大学農学部共生バイオサイエンス学科 本橋 令子
    TEL 054-238-4831;内線4831
    E-mail 




日本農芸化学会中部支部 第151回例会
若手シンポジウム


「酸化ストレスに挑む:抗酸化性物質研究の現在」

(第23回生命科学若手フォーラム特別セミナー)



日  時 : 平成19年11月17日(土) 13:00~17:30
会  場 : 静岡県立大学小講堂(←5211講義室から変更)
〒422-8526 静岡市駿河区谷田52-1
参加費 : 無料



このポスターはこちらからダウンロードできます。


主  催: 日本農芸化学会中部支部
共  催: 静岡県立大学グローバルCOE
静岡生命科学若手フォーラム
問合せ先:

〒422-8526 静岡市駿河区谷田52-1

静岡県立大学食品栄養科学部 酒井坦
Tel: 054-264-5576

静岡県立大学食品栄養科学部 杉山靖正
Tel: 054-264-5555






【第22回生命科学若手フォーラム特別セミナー】


日時:2007年9月21日(金)15:00~16:00
場所:静岡大学農学部B棟207室

演者:山本大地 博士(Children’s Hospital Oakland Research Institute)
演題:The molecular interaction between low density lipoprotein receptor and apolipoprotein E by using fluorescence resonance energy transfer (FRET)
蛍光共鳴エネルギー移動法(FRET)を用いたlow density lipoprotein 受容体とアポリポプロテインEの分子間相互作用

要旨:
 脂質は生体膜の構成成分、ホルモンの前駆体、さらには栄養源としても機能しており、高等生物にとって必須物質の一つである。一方、脂質の大量摂取は高脂血症を引き起こし、動脈硬化や心疾患の大きなリスクファクターとなる。Low density lipoprotein (LDL) 受容体は血中脂質の除去に重要な機能を果たしており、脂質を含んだリポプロテインを認識し、エンドサイトーシスにより細胞内に脂質を取り込むことが明らかとなっている。近年、受容体を標的とした薬剤開発が盛んに研究されており、LDL受容体も高脂血症改善薬の標的として期待されてきた。しかしながら、LDL受容体とリガンドは 脂質を含んだ複合体のため、結晶構造解析、NMR解析等にも適さず、薬剤開発に寄与する構造研究は困難を極めてきた。そこで、演者らは近年注目を集めているfluorescence resonance energy transfer(FRET)を用いてLDL受容体とリガンドの分子間相互作用を検討した。その結果、脂質と受容体との結合構造を明らかにする新たな知見を得たので紹介したい。

問合先:静岡大学農学部共生バイオサイエンス学科 本橋 令子
    TEL 054-238-4831;内線4831
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【第21回生命科学若手フォーラム特別セミナー】


日時:2007年9月20日(木)17:00~18:00
場所:静岡大学・大学会館一階研修室(生協トラベルセンター横)

演者:下川 哲昭 氏(群馬大学 大学院医学系研究科 器官機能生理学分野)
演題:「受容体の膜輸送と分解を制御するCIN85の機能解析」

要旨:
 EGF受容体はリガンドとの結合後、二量体形成、自己リン酸化が引き起こされシグナルの伝達が開始する。その後エンドサイトーシスにより取り込まれエンドゾームを経てリソゾームでの分解やリサイクル過程に選別される。CIN85(Cbl-interacting protein of 85 kDa)はRING型のubiquitin ligaseとして機能するCblと相互作用を持つアダプター蛋白質として同定され、現在その発現や機能が相次いで報告されている。我々はCIN85がEGFの刺激後、EGF受容体の膜輸送、特にEndocytosisによるDown-regulationに関与していることを報告した。さらにこの分子の個体における生理的意義を明らかにする目的でCIN85ノックアウトマウスを作製した。本セミナーではCIN85欠損における表現型の解析結果を示し、膜輸送複合体分子としてのCIN85の機能について討論したい。

参考文献
1)Haglund K, Shimokawa N, Szymkiewicz I, Dikic I.
Cbl-directed monoubiquitination of CIN85 is involved in regulation of ligand-induced degradation of EGF receptors. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.99, 12191-12196, 2002.
2)Haglund K, Ivankovic-Dikic I, Shimokawa N, Kruh GD, Dikic I.
Recruitment of Pyk2 and Cbl to lipid rafts mediates signals important for actin reorganization in growing neurites. J. Cell Sci. 117, 2557-2568, 2004.

問合先:農学部応用生物化学科 茶山和敏
    TEL 054-238-4865;内線4865
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【第20回生命科学若手セミナー】


日時:2007年8月1日(水)17:00~18:00
場所:静岡大学理学部B棟212室


演者1: 鈴木雅一・尾串雄次・田中滋康 (静岡大学理学部生物学教室)
演題1: 「無尾両生類のアクアポリンと環境適応」

要旨1:
 両生類は水界から陸上へ進出した最初の脊椎動物である。多くの無尾両生類は腹側皮膚より水を吸収すると共に、膀胱に蓄えた尿から水を再吸収することにより水分を効率よく保持している。これらの組織での水移動は抗利尿 ホルモンであるバソトシンにより促進する場合が知られており、tight junctionを持つ上皮組織を介した水移動のモデル系として古くから利用されてきた。私達は水チャネルタンパクであるアクアポリンに着目して、無尾両生類における水移動の分子機構を研究する過程で、腹側皮膚型、膀胱型、腎臓型の3種類のアクアポリンの存在を見いだした。本セミナーでは、これらのアクアポリンが無尾両生類の水代謝と環境適応にどの様に関わっているか紹介したい。

問合先:静岡大学理学部生物科学科 鈴木 雅一
    TEL 054-238-4769;内線4769
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演者2: 竹内浩昭・両角博人・小柳奈保子 (静岡大学理学部生物学教室)
演題2: 「無尾両生類の腹部皮膚を介した水吸収と化学感覚」

要旨2:
 無尾両生類は口からではなく皮膚から水分を吸収することが知られており、特に、砂漠など乾燥地に棲息するヒキガエルでは、腹部を水源に押しつけて水分吸収しようとする積極的な飲水行動が観察される。この飲水時、水源が塩類を含む高張液である場合、直ちに飲水行動を停止して逃避行動を示すことから、ヒキガエルの皮膚は体液の水分やミネラルの恒常性を保つだけでなく、塩類に対する化学検出器(化学感覚器)としても機能することがわかってきた。私達は、ヒキガエル腹部皮膚の化学感覚器(味覚器)としての機能に着目して解析し、塩味・酸味・苦味・甘味などの味覚情報が腹部皮膚と脊髄神経を介して脳に伝えられて飲水行動の制御に関わる可能性を見いだした。本セミナーでは行動実験の結果を中心に紹介する。

問合先:静岡大学理学部生物科学科 竹内 浩昭
    TEL 054-238-4773;内線4773
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【第19回生命科学若手フォーラム特別セミナー】

日時:2007年7月13日(金)17:00~18:00
場所:静岡大学農学部B棟201室
演者:吉積 毅 氏(理化学研究所・植物科学研究センター・植物ゲノム機能研究チーム)
演題:「エンドリデュプリケーションを正に制御する因子の探索」

要旨:
 エンドリデュプリケーションは特殊な細胞周期の一つで、「細胞分裂を伴わないDNA複製」と定義され、様々な生物種において認められる。エンドリデュプリケーションにより核のDNA含量の倍数化が生じ、しばしば細胞の大型化も観察される。植物では、様々な器官を構成する細胞においてエンドリデュプリケーションが観察される。このことから、植物がエンドリデュプリケーションを用いることで細胞のサイズを制御していることが考えられる。しかし、エンドリデュプリケーションを制御する分子機構については、あまり知見が得られていない。
 本研究チームでは、DNA含量が増大する変異株をアクチベーションタギングラインから単離するユニークなスクリーニング法を開発し、遺伝学的な解析を行っている。得られた変異株の多くは胚軸や子葉でDNA含量の増大が見られ、この増大と共に器官の大型化も観察された。これら変異株をincreased level of polyploidy (ilp)と名付け、解析を行っている。本セミナーでは、変異株の一つであるilp1-1Dについて行った詳細な解析を中心に報告したい。

問合先:静岡大学農学部共生バイオサイエンス学科 本橋 令子
    TEL 054-238-4831;内線4831
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【第18回生命科学若手フォーラム特別セミナー】

日時:2007年7月5日(木)17:30~18:30(時刻変更の可能性有り)
場所:静岡大学理学部B棟212室
演者:上原雅行 氏(大阪大学大学院生命機能研究科 個体機能学講座発生遺伝学グループ・特任研究員)
演題:「マウスの頭部形成におけるレチノイン酸濃度の制御機構」

要旨:
 活性型のビタミンAであるレチノイン酸(以下RA)は脊 椎動物の形態形成に重要な働きをしており、正常な発生のためにはこの濃度が正しい時期と場所で適切に保たれていなければならない。古くからRAの欠乏および過剰が引き起こす発生異常については、奇形学・栄養学の分野で知られていたが、形態形成におけるRAの合成および代謝酵素の役割が分子レベルで明らかになってきたのはごく最近のことである。とりわけRAを不活性化する代謝経路は、我々によってレチノイン酸代謝酵素CYP26(A1, B1, C1)がクローニングされたことにより、ここ数年ようやく端緒についたばかりである。
 現在までに我々はこの3つの酵素を基点とする独自の視点から、遺伝子変異マウス作製等の遺伝学的アプローチを駆使しながら、生体内におけるRA合成酵素によるRA合成とCYP26によるRAの代謝不活化のバランスの重要性を明らかにしている。
 本セミナーでは、頭部形成におけるCYP26の役割、RA濃度や分布が頭部形成の局面でどのように制御されているのかについて、これまで演者が行ってきた研究結果を中心に紹介する。

<略歴>
 2000年3月 静岡大学 理学部 生物地球環境科学科(田中滋康教授)卒業
 2002年3月 奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科修士課程修了
 日本学術振興会特別研究員(DC)を経て、
 2007年3月 大阪大学 医学系研究科 博士課程 修了(医学博士)

<本研究における評価>
・国際発生生物学会 ベストポスター賞 受賞(2005年)
・大阪大学 医学系研究科 博士課程優秀賞 受賞(2007年)

問合先:静岡大学理学部生物科学科 丑丸敬史
    TEL 054-238-4772
    E-mail 





【第17回生命科学若手セミナー】


日時:2007年6月18日(月)16:00~17:00
場所:静岡大学遺伝子実験施設1階セミナー室


演者1: 道羅 英夫 氏(静岡大学遺伝子実験施設)
演題1: 「静岡大学遺伝子実験施設の共同利用機器の紹介」

要旨1:
 静岡大学遺伝子実験施設は遺伝子に関する研究と教育を支援するために、学内共同利用施設として、平成10年4月に設置された。現在では約30種の機器やソフトウェアを整備し、特にDNAシーケンサーやプロテインシーケンサー、共焦点走査型レーザー顕微鏡、飛行時間型質量分析装置(TOF-MS)等がよく利用されている。
 今回のセミナーでは少し趣向を変えて、遺伝子実験施設に導入されている機器の紹介をしたい。例えばTOF-MSなどは研究分野に関わらず、タンパク質の網羅的解析を行うためには非常に有用なツールであり、共同研究に大いに役立っている。その研究内容については、2番目の演者の徳元先生にお話しいただくことになっている。
 セミナー終了後は希望があれば遺伝子実験施設の機器を実際に見ていただく見学も行う予定ですので、この機会にぜひお越しください。

問合先:静岡大学遺伝子実験施設 道羅 英夫
    TEL 054-238-6354;内線6354
    E-mail 


演者2: 徳元 俊伸 氏(静岡大学理学部生物科学科)
演題2: 「プロテアソームの活性調節機構の存在について」

要旨2:
 プロテアソームはあえて説明する必要が無い程に有名になっている細胞内プロテアーゼであるが、ユビキチン経路のプロテアーゼであり、一般には(現在の教科書では)常に活性型で存在しているとされている。しかし、精製プロテアソームを2次元電気泳動で分離すればこの酵素複合体には多くの翻訳後修飾がなされ、また複数の因子群と結合していることが分かる。それにも関わらずプロテアソーム自体が活性調節を受けているという考え方は受け入れられずにいた。我々はプロテアソームのα4サブユニットの細胞周期依存的なリン酸化の変動(G2期でのリン酸化)、また、分子シャペロンの一種がプロテアソームと分裂期特異的に結合していることの発見を機に、プロテアソーム自体が活性調節を受けていることを提唱してきた。本セミナーでは最近行なったTOF-MS装置を用いたペプチドマスフィンガープリントによるプロテアソーム構成因子、結合因子の細胞周期依存的な変化の網羅的解析の結果を中心に、プロテアソームの活性調節に関する研究動向を紹介したい。また、さらなる解析のために必要となる実験装置についても議論したい。

問合先:静岡大学理学部生物科学科 徳元 俊伸
    TEL 054-238-4778;内線4778
    E-mail 





【第16回生命科学若手フォーラム特別セミナー】

日時:2007年6月8日(金)17:00~18:00
場所:静岡大学 農学部 B棟201
演題:「植物の時計と形の制御」
演者:溝口 剛 先生(筑波大学大学院生命環境科学研究科)

要旨:
 生物における多くの生理応答が約24時間周期の内因性リズム(概日リズムまたはサーカディアンリズム)機構の制御を受けている。この制御系で中心的な役割を果たすものとして「概日時計」という概念が提案された。ショジョウバエ、アカパンカビ、マウス、シアノバクテリア、アラビドプシスを用いた分子遺伝学的研究により、その実体が徐々に明らかになりつつある。
 植物では、概日時計が短期的な生理応答(葉の上下運動や遺伝子発現の日周性)ばかりではなく、長期的な生理応答(光周期依存型の花成制御、胚軸/葉柄長の制御)にも深く関わっていることが、ここ10年の分子遺伝学的研究により明らかにされてきた。
 我々は、概日時計が複数の異なる生理応答をどのような分子機構により制御しているのかを明らかにするため、「光周期依存型の花成制御過程」と「胚軸/葉柄長の制御過程」が変化したモデル植物アラビドプシスの変異体の解析を行っている。また、アラビドプシス研究で得られた知見の、モデル作物トマト(Micro-Tom)への応用を試みている。現在までに得られている知見を紹介し、「光周性花成」と「植物器官伸長制御」における概日時計の役割について考察する。

文献:
Mizoguchi et al. Developmental Cell 2002
Oda et al. Plant Physiol 2003
Oda et al. FEBS Lett 2004
Fujiwara et al. Plant Biotech 2005a,b,c
Mizoguchi et al. Plant Cell 2005
Mizoguchi et al. Int Rev Cytol 2006
Mizoguchi et al. Plant Biotech 2007
Tajima et al. Plant Biotech 2007
Niinuma et al. Plant Biotech 2007
Nakamichi et al. Plant Cell Physiol 2007 in press

問合先:農学部生物生産科学科 本橋 令子
    TEL 054-238-4831;内線4831
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【第15回生命科学若手フォーラム特別セミナー】

日時: 2007年5月24日(木)17:00~18:00
場所: 静岡大学理学部B212
演者: Frank Uhlmann 博士(Cancer Research UK)
演題: "Mitotic chromosome condensation and segregation"

要旨:
 Mitotic chromosome structure depends on the chromosomal condensin complex. Without condensin, metaphase chromosomes remain undercondensed and lack structural stability. We have asked where along budding yeast chromosomes the condensin complex associates, and what we can learn from its binding pattern about the mechanism of chromosome condensation. Our results suggest that condensin, like its relative the cohesin complex, is loaded onto chromosomes by a loading factor, the Scc2/4 complex. Unlike cohesin, that moves away from its loading sites after the loading reaction, condensing remains at the loading sites. We discuss the implications of these patterns on mitotic chromosome structure.
 Furthermore, condensin is required during anaphase to promote sister chromatid resolution. In the absence of condensin, strong anaphase bridges and segregation defects are observed. How condensin promotes sister chromatid resolution is unknown. We have used the budding yeast rDNA as a model locus, whose segregation depends on condensin activity during anaphase. We show that anaphase bridges in a condensin mutant are resolved by ectopic expression of a foreign (Chlorella virus) but not endogenous yeast topoisomerase II (topo II). This suggests that catenation prevents sister rDNA segregation, and that yeast topo II is ineffective in decatenating the rDNA, and maybe other chromosomal regions, in the absence of condensin.

Uhlmann博士はKim Nasmyth博士のラボでのポスドクを経て、現在Cancer Research UKでラボを主宰している新進気鋭の若手研究者です。2006年のEMBO Gold Medalも受賞されました。今回は、染色体の凝集のメカニズムに関するセミナーを行ってもらいます。

問合先:静岡大学理学部生物科学科 丑丸敬史
    TEL 054-238-4772;内線4772
    E-mail 




【第14回生命科学若手セミナー】

日時: 2007年5月9日(水) 17:30~
場所: 大学会館1階研修室(生協トラベルセンター横)


演者1: 茶山和敏 氏(農学部応用生物化学科)
演題1: 「動脈硬化症って何? -免疫機能やホルモンとの関係-」

要旨1:
 動脈硬化症って知っていますか? 最近問題になっているメタボリックシンドロームが進行すると、最終的には死につながるような深刻な病気になるのですが、罹患率がもっとも高いのが動脈硬化症で、心筋梗塞や脳血栓などの直接的な原因になる恐ろしい病気です。
 私は昨年9月末までの一年間、アメリカのデューク大学で免疫に関する研究をしてきました。そこで、たまたま動脈硬化症と免疫細胞さらにはホルモンがどのように関係しているかについて調べることになり、動脈硬化症の発症に免疫機能、特に樹状細胞やホルモンが深く関与している可能性を示唆する結果を得ました。本セミナーでは、私が留学したデューク大学の紹介も含めて、動脈硬化症とはどのような病気なのか、また免疫機能・ホルモンとの関係についてお話しします。最近お腹の脂肪が気になっているあなた、動脈硬化症予備軍かもしれませんよ。ぜひ聴きに来てください。

問合先:農学部応用生物化学科 茶山和敏
    TEL 054-238-4865;内線4865
    E-mail 


演者2: 田上陽介 氏(農学部共生バイオサイエンス学科)
演題2: 「クローン作りは細菌におまかせ!-昆虫細胞内共生細菌の働き-」

要旨2:
 一般的には、受精卵または体細胞の核を、核を取り除いた未受精卵に移植してクローンを作ります。しかし、昆虫にはこのクローン作りを助けてくれる細菌がいます。そのような細菌のなかでも代表的な細菌を《ボルバキア》といいます。このボルバキアには様々な系統があり、実に20%以上の昆虫種に感染しているといわれています。そして、ボルバキアは昆虫種によっては雄のみを選択的に殺したり、遺伝的な雄を雌にしたり、細胞質不和合を起こしたりと、クローン作りだけでなく様々な「悪さ」をしています。
 本セミナーでは、タマゴバチにおけるボルバキアの影響に関するこれまで行ってきた生態研究とハモグリバエ、アザミウマや寄生蜂などの農業害虫や天敵を用いて行っている応用研究について紹介します。今後は、昆虫とボルバキアの相互作用メカニズムの解明にも取り組みたいと思っておりますので、助言や共同研究のお誘いを期待しています。

問合先:農学部共生バイオサイエンス学科 田上陽介
    TEL 054-238-4825;内線4825
    E-mail 




【第13回生命科学若手フォーラム特別セミナー】

日時: 2007年4月20日(金) 17:00~18:00
場所: 静岡大学農学部A棟 537室(製図演習室)
演者: 服部 勉 先生(東北大学名誉教授・アチックラボ代表)
演題: 「微生物、土、鉱物: 新しい視点をもとめて」

要旨:
微生物、土、鉱物の間にどんな関係があるのだろうか?
ずっと以前は、「こんな面倒なことを考えないでおこう」、そう考えました。
しばらくして、「少々関係はありそうだが、まじめに考えている余裕がない・・・」と片付けました。
それが最近になって急に、「いや、これこそが、もっともホットな問題だ」、そう思うようになりました。
来聴のみなさんとの対話によって、この問題を深めることができたら、と願っています。

服部先生はこのたび、長年にわたる業績 「土壌微生物とその生息環境に関する研究」 により、平成19年度 日本農学賞を受賞されました。
土壌、および土壌微生物に興味をお持ちの、多くの方の参加をお待ちしております。
学部生も歓迎しております。

問合先:農学部共生バイオサイエンス学科 鮫島玲子
    TEL 054-238-4874;内線4874
    E-mail 




【第12回生命科学若手フォーラム特別セミナー】


日時: 2006年12月1日(金)17:00~18:00
場所: 静岡大学農学部B棟201室
演題: 『子葉特異的葉緑体形成機構の解析』
演者: 島田裕士 氏(東京工業大学大学院生命理工学研究科)

要旨:
 双子葉植物の子葉と本葉は同じ光合成器官であるが、本葉がシュート頂端分裂組織から分化するのに対して子葉は子葉原基として胚発生中の種子の中で形成される。またシロイヌナズナなどの無胚乳種子では子葉は種子の中で栄養貯蔵組織として機能し、発芽後に光合成組織となる。このように子葉と本葉はその形成過程が異なるだけでなく葉緑体の形成過程も異なっていると思われる。シロイヌナズナ変異体abc2は子葉のみが白化し、本葉は正常に緑化する。この変異体の子葉の色素体は、光照射下で生育させた植物体では膜構造が未発達で野生型とは顕著に異なる葉緑体が形成されるが、暗所で生育させた植物体では野生型同様に正常なエチオプラストを形成する。
 本セミナーではABC2タンパク質の機能と子葉特異的な葉緑体形成機構について報告する。

問合先:農学部生物生産科学科 本橋 令子
    TEL 054-238-4831;内線4831
    E-mail 




【第11回生命科学若手セミナー】

日時: 2006年11月22日(水)17:00~18:00
場所: 静岡大学理学部B棟213室
演題: 『光とスピンによるタンパク質ラジカル反応の解析』
演者: 小堀康博 氏(静岡大学理学部化学科)

要旨:
 タンパク質においてラジカル化されたアミノ酸残基が、様々な酵素反応の初期過程に重要な役割を果たすことが知られており、タンパク質の立体構造や分子運動がどのようにアミノ酸残基ラジカルによる触媒過程を制御しているのかに大きな関心が持たれる。我々はタンパク質ラジカルが関与する反応の物理化学的メカニズムを実験的に解明する目的で、時間分解ESR法を用いてタンパク質活性領域における光誘起電子移動反応を測定している。
 本セミナーでは、血清アルブミン薬物結合領域における光誘起プロトン共役電子移動によるスピンダイナミクスの研究を紹介する。ラジカル化したトリプトファン残基のナノ秒時間分解ESR スペクトルを室温において観測することに初めて成功した。タンパク質特定領域におけるトリプトファンラジカルの立体構造やラジカル対の分子運動について報告する。

問合先:理学部化学科 小堀 康博
    TEL 054-238-4758;内線4758
    E-mail 




【第10回生命科学若手フォーラム特別セミナー】

日時: 2006年10月27日(金)17:00~18:00
場所: 静岡大学農学部B棟201室
演題: 『シロイヌナズナF-boxタンパク質ファミリーの機能解析』
演者: 黒田浩文 氏(理化学研究所 植物科学研究センター 植物ゲノム機能解析チーム)

要旨:
 F-boxタンパク質はユビキチンシステムのE3の一つであるSCF複合体の構成タンパク質であり、ユビキチン化の標的タンパク質に対するレセプターをして働く。我々は、In Silico解析からシロイヌナズナゲノムに存在するF-boxタンパク質を568個予測している。これまでに約20のF-boxタンパク質の生理的機能が報告されているが、予測した遺伝子の殆どが機能未知である。我々は、多くのスプライシングバリアントを含むF-boxタンパク質ORFセットを作成し、F-boxタンパク質の機能解析を行っている。
 本セミナーでは、F-boxタンパク質のスプライシングバリアントの解析およびORFセットを用いた機能解析例について報告する。

問合先:農学部生物生産科学科 本橋 令子
    TEL 054-238-4831;内線4831
    E-mail 



【第9回生命科学若手セミナー】


日時: 2006年7月21日(金)17:00~18:00
場所: 静岡大学理学部B棟213室
演題: 『DNAの原子特異的反応とその応用 ーDNAの化学的性質から標的分子設計までー』
演者: 大吉 崇文 氏(静岡大学理学部化学科・助手)     

要旨:
 ヒトゲノムの塩基配列がほぼ決定された現在、遺伝子レベルでの変異に基づいた病気に対する治療法の開発が待ち望まれている。そこでDNAの任意配列を認識できるピロール-イミダゾールポリアミドを合成してその遺伝子発現阻害能を検討した。その結果、ピロール-イミダゾールポリアミドはDNAに塩基配列特異的に結合して、転写を阻害することをin vitro transcriptionやほ乳類細胞を用いた系で確認した。
 またこれまで様々な遺伝子発現調節蛋白が特定の塩基配列に結合することより遺伝子発現が制御されていることが示されてきた。しかし巧妙な遺伝子発現の制御は蛋白―蛋白相互作用はもちろん、蛋白が結合することによって誘起されるDNAの局所構造によってもおこることが示唆されている。しかし生きた細胞中のDNA局所構造の検出法がないため、その生物学的な役割は不明である。そこでDNAに光反応性のハロウラシルを取り込ませ、その光反応性を利用することによってDNAの局所構造の1つであるベントDNAやZ型DNAの検出方法の確立を目的として研究を行なった。その結果、ハロウラシルの光反応性はDNA構造依存的であることが明らかとなった。これは光反応を用いるとDNA構造を検出できる可能性を示している。

問合先:静岡大学理学部化学科・大吉 崇文 
    TEL:054-238-4760
     E-mail:



【第8回生命科学若手セミナー】


日時: 2006年6月2日(金)17:00~
場所: 静岡大学農学部B棟201
演題: 『カンキツ果実の成熟過程におけるカロテノイド蓄積機構』
演者: 加藤雅也 氏(静岡大学農学部共生バイオサイエンス学科)

要旨:
 β-クリプトキサンチンは、カロテノイドの1種であり、ウンシュウミカンの砂じょう(果肉)に多量に蓄積する。このβ-クリプトキサンチンは、ビタミンA効力を有するほか、動物実験の結果等から、がんや骨粗しょう症の予防に有効であることが示唆されている。このような機能性を有するβ-クリプトキサンチンの蓄積メカニズムを解明するために、β-クリプトキサンチンを蓄積するウンシュウミカン、ビオラキサンチンを蓄積するバレンシアオレンジ、カロテノイド含量の少ないリスボンレモンを研究材料とした。カロテノイド含量・組成の異なる3品種において、カロテノイド生合成・分解に関わる酵素遺伝子の発現を調査したところ、明確な品種間差が認められた。本セミナーでは、この研究から得られた結果をもとに、カンキツ果実の成熟過程におけるカロテノイド蓄積機構について紹介する。

問合先:静岡大学農学部共生バイオサイエンス学科・加藤雅也
    TEL:054-238-4830
    E-mail:



【第7回生命科学若手セミナー】

日時: 2006年5月12日(金)17:00~18:00
場所: 静岡大学理学部B棟213室
演題: 『減数分裂の染色体分配制御機構 ースピンドルチェックポイントとAPC活性化因子の働きー』
演者: 山本 歩 氏(静岡大学理学部化学科・助教授)

要旨:
 減数分裂は生殖細胞形成に必須であり体細胞分裂と異なり一回のDNA複製後、二回の染色体分配が起る。この染色体分配の制御機構は多くが未解明である。染色体分配の起るanaphaseはユビキチン化酵素であるanaphase promoting complex (APC)によって開始し、このAPC活性はAPC活性化因子およびスピンドルと染色体の正しい結合を保証するスピンドルチェックポイント因子によって制御されている。本研究では減数分裂のanaphase制御機構の解明をめざし、分裂酵母の減数分裂においてAPC活性化因子とスピンドルチェックポイント因子の役割を解析した。減数分裂では体細胞分裂と同様に、スピンドルと染色体の結合に異常が生じるとスピンドルチェックポイントがAPC活 性化因子の一つであるSlp1(Cdc20ホモログ)を介してanaphase開始を遅延した。おもしろいことにスピンドルチェックポイントが第一分裂のanaphase開始を遅延すると、第二分裂ではanapahase開始が早まることを見いだした。さらにこの第二分裂のanaphase早期開始は減数分裂特異的なAPC活性化因子であるFzr1に依存することを見いだした。これらの結果は減数分裂特異的なanaphase制御機構が存在することを示している。
 これまでの知見をふまえ、体細胞分裂と減数分裂のanaphase制御機構の違いについて議論したい。

問合先:静岡大学理学部化学科・山本 歩
    TEL:054-238-4762
    E-mail:



【第6回生命科学若手フォーラム特別セミナー】


日時:2006年3月24日(金)16:00~17:00
場所:農学部A棟537(製図室)
演題:『ポテトにおけるポテトウイルスX抵抗性遺伝子の単離と機能解析』
演者:亀井綾子 氏(UC Berkeley Plant Gene Expression Center・ポスドク)

要旨:
 ポテトはイネ、トウモロコシ、小麦に続いて世界で4番目に生産量の多い作物であると同時に病害による損失が多い作物でもある。代表的な病気に放線菌によるそうか病やポテトウイルスによる病斑形成があげられ、ある種のポテトウイルスはポテトと同じナス科であるタバコにも被害を与える。
 ポテトウイルスX(PVX)に対する抵抗性には4つの遺伝子(Nb、Nx、Rx1、Rx2)の存在が明らかになっており、近年Rx1及びRx2遺伝子が同定された。一方Nb及びNx遺伝子は染色体上の位置は明らかになっているものの、数十年経った今でも遺伝子の同定には至っていない。本研究ではPVX抵抗性遺伝子であるNb遺伝子の同定を試みた。本研究室で行われたポテトゲノムプロジェクトによるゲノム配列情報、及びナス科に属するタバコ、トマトのDNA配列、これまでに明らかになったDNAマーカー情報を元にNbの有力な候補遺伝子を単離した。この候補遺伝子の構造及び植物における機能を、PVX抵抗性反応を中心に報告する。

問合先:農学部生物生産科学科 本橋 令子
    TEL 054-238-4831;内線4831
    E-mail 



【第5回生命科学若手セミナー】


日時:2005年11月24日(木)17:45~18:45
場所:理学部B212室
演題:『古細菌による脱窒の生化学』
演者:藤原健智 氏(静岡大学理学部生物地球環境科学科・助教授)

要旨:
 脱窒とは、環境中の過剰の硝酸塩を窒素ガスに変換し大気中に還元する微生物作用であり、窒素サイクルの重要な素過程の一つである。私は、真正細菌(Bacteria)とは全く別系統の生物である古細菌(Archaea)による脱窒の仕組みについて研究を行なっている。塩湖・塩田などの高濃度塩水環境に好んで生息する好塩性古細菌をターゲットとし、脱窒に関与する酵素タンパク質類の精製・遺伝子クローニングを行なうとともに、その誘導制御のメカニズムについても分析を進めている。その結果、古細菌による脱窒は、真正細菌のものとは性質が大きく異なることがわかってきた。
 その名前が示すように、古細菌には、極限環境に適応することで細々と生き延びてきた遺存的な生き物というイメージがある。ところが実際には、海洋や土壌などの普通の環境にも、古細菌は広く存在しているらしい。古細菌による脱窒という“趣味的”な研究も、地球環境中のグローバルな窒素サイクルを理解する上で今後大きな意味を持ってくるかもしれない。

問合先: 理学部生物学教室 藤原健智(TEL:054-238-4776;内線4776)



【第4回生命科学若手フォーラム特別セミナー】

日時:2005年10月24日(月)17:30~18:30
場所:農学部B棟203号室
演題:『種子貯蔵タンパク質の細胞内輸送と蓄積におけるRNAターゲティングの関与』
演者:鷲田治彦 氏(ワシントン州立大学 生物化学研究所)

要旨:
 高等植物におけるタンパク質の細胞内輸送、蓄積機構の研究は日進月歩で進んでいるが、翻訳前のRNAの偏在について着目した報告は非常に少ない。酵母の娘細胞や、動物、昆虫類での胚発生、神経細胞の発達等においてRNAの細胞内局在は、そのタンパク質の位置を決定する重要な機構であるにもかかわらず、植物ではわずかにカサノリ等数例が知られているだけである。
 イネ、及びトウモロコシ種子貯蔵タンパク質RNAの小胞体サブドメインへの選択的ターゲティングと、その翻訳産物であるタンパク質の最終蓄積部位の関係について、最新の情報を紹介したい。

関連著書:Washida et al., (2006) Targeting of RNAs to ER subdomains and its relationship with protein localization. In The Plant Endoplasmic Reticulum. Edited by DG. Robinson, Springer-Verlag, Heidelberg, Germany (in press)



【第3回生命科学若手セミナー】
【静岡県立大学・静岡大学生命科学系若手教員交流会】


開催日時:2005年6月24日(金)17:00~20:00
場所:静岡大学 大学会館
17:00から18:00までセミナーを行った後、18:00から20:00まで交流会を行う。
詳細は以下の通りです。

1、第3回生命科学若手セミナー

主催:静岡生命科学若手フォーラム
時間:17:00~18:00
場所:静岡大学 大学会館1階 研修室
演題:『キノコの異物代謝能を探る ~環境浄化における一提案~』
演者:平井浩文 氏(静岡大学農学部森林資源科学科・助教授)

要旨:
 キノコの中でも、シイタケ・ヒラタケ等の白色腐朽菌は、木材の主要成分であり、かつ難分解性であるリグニン(芳香族ポリマー)を高度に分解出来る唯一の微生物である。白色腐朽菌によるリグニン分解機構については、1980年代から活発に研究され、さらに近年では、そのリグニン(異物)代謝能を、難分解性環境汚染物質分解へ応用するといった研究(バイオレメディエーション)も行われている。
 演者らは、自然界より高活性リグニン分解菌を分離し、本菌株が既存の白色腐朽菌とは異なるリグニン分解酵素を産生していることを解明し、さらに本酵素は、これまでin vitroにおいて分解例のないダイオキシン等の塩素化芳香族化合物をも分解しうることを明らかにした。
 なお、今回の発表では、白色腐朽菌の異物代謝能を幅広く利用するために、昨年度、アメリカ合衆国ミシガン州立大学において「遺伝子組換え植物によるファイトレメディエーション」について研究を行ってきたので、併せて発表する。

2、静岡県立大学・静岡大学生命科学系若手教員交流会

時間:18:00~20:00
場所:静岡大学 大学会館2階 食堂
会費:3000円(飲み物代も含む)



【第2回生命科学若手セミナー】

日時:2005年5月26日(木)18:30~
場所:静岡大学農学部A棟6階A634 応用生物化学科会議室
演題:『STILL DEFAULT BUT.....
 ERK/MAPK Is Required for Neural Induction in Amphibian Dissociated Animal Cap Cells
 神経ディフォルトモデルに対する新たな検証
 ERK/MAPK こそが両生類のアニマルキャップ解離細胞における神経誘導の原因』
演者:黒田 裕樹 氏(静岡大学教育学部理科教育講座・助教授)
    (前所属:Howard Hughes Medical Institute in UCLA)

要旨:
 両生類の胞胚(ホ乳類の胚盤胞に相当)の予定外胚葉(AC)領域は胚性幹(ES)細胞と類似した未分化幹細胞群として知られている。ES細胞を神経化させるのは容易ではないが、AC細胞では細胞間の接着を阻害するだけで神経に分化することが知られており、細胞が解離する際に神経阻害分子であるBMPが細胞間から流出するため、と説明されてきた。

 今回、我々はこの説明が誤りであることを指摘し、異なる分子メカニズムによってAC解離細胞が神経化されていることを明らかにした。具体的には、解離細胞において、1)BMPが流出せずに細胞表面上に残留・機能していること、そして2)Ras/MAPKの解離時の細胞ストレス応答による活性化こそがディフォルトの神経を誘導していたこと、の2点を明らかに示した。




【第1回生命科学若手セミナー】


日時:2005年4月28日(木)17:00~
場所:静岡大学大学会館1階研修室(生協トラベルセンター向かいの部屋)
演題:『T細胞レセプター(TCR)刺激によるERKシグナル伝達系の活性化とERKシグナル伝達系によるT細胞活性化制御機構の解析』
演者:小池 亨 氏(静岡大学理学部生物地球環境科学科・助手)

要旨:
 本セミナーでは、私がポスドク時代に行なったT細胞シグナル伝達に関する研究成果を紹介する。
 実験にはJurkat T細胞株をモデルシステムとして用いた。TCR刺激によって活性化されるERKシグナル系のT細胞活性化に対する役割を,ERK特異的なインヒビターを用いて解析した。その主な成果として、1)T細胞活性化にはERKの持続的活性化が必要であること、2)NF-kBファミリー転写因子の一つ、c-Relの活性化にERKの持続的活性化が必要であることを示した。
 次にERKシグナル系によって発現制御されている遺伝子を同定するためにcDNAサブトラクション、Gene Chip解析を行なった。そこで得られた遺伝子の機能解明に向け、培養細胞での過剰発現やノックアウトマウスの作製、トランスジェニックマウスの作製を進めた。さらに、二次元電気泳動を用いて、ERKシグナル系によって発現・修飾が制御されている分子の同定も試みた。
 以上、未発表のデータや研究手法も含めて簡単に紹介し,本セミナーが若手フォーラムでの活発な研究の議論の場となることを期待する。