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第六回公判について(07/7/20)

 第六回公判 傍聴記

10時開廷

 今回はこの事件の鑑定書を書いた新潟大学医学部産婦人科教授の田中憲一先生でした。午前中は検事の尋問に答えた。この中で重要で問題になったところは、癒着胎盤の予測であったが、田中教授は2枚の超音波写真から子宮前壁で子宮と癒着を疑っていいと思ったと証言した。しかし、その2枚の超音波写真のうち1枚は子宮頚管の内子宮口から主に後壁の一部に胎盤が存在する写真で、田中教授は内子宮口のところにある低エコーが存在するところを指し、ここが癒着をしていると疑ってもよい所見と証言した。そこは血管が存在するところで、決して癒着を疑わせる所見ではないことは専門家が見ればわかる所見である。内子宮口の所が癒着していることは稀であるし、実際に今回の場合前壁にあった胎盤は簡単に剥離し、癒着は後壁に認められたのである。もう一枚も子宮前壁のところに存在していた血管を指し、2枚の写真から癒着を疑ってもよいとした。これも、時々前置胎盤?の時にみられる所見で癒着胎盤特有の所見ではない。癒着を疑ってもよい所見だからMRIをすべきだったと証言。MRIは有用とされているが、決してMRIをとったから癒着胎盤を診断できるまでには現在のところ至っていない。

午後は13時30分より開廷

 弁護側の尋問。本人は産婦人科専門医であるが産婦人科のうち腫瘍専門であり周産期(産科:今回の前置胎盤?・癒着胎盤は周産期部門の疾患)の専門でないことを認めた。検察より、産婦人科一般の知識として鑑定してくれと頼まれたので鑑定書を書いたと証言。癒着胎盤を剥離する際、クーパーも使用することもあることを鑑定書を書いた時点では知らなかったといい、後で周産期の専門家にクーパーも使うこともあると聞いたと証言した。過去に1回のみ癒着胎盤の症例の手術に、それも第三助手で立ち会ったことがあるだけで自分自身で帝王切開時でも経膣分娩でも癒着胎盤の経験がない医師が、医師一人の人生を狂わすような鑑定書を書くべきではないと思うのは私だけであろうか。

 胎盤はく離に15分かかっていることから、また、病理鑑定書から癒着の範囲は広いと思った。胎盤を用手剥離しているうちに剥離困難であった場合は子宮摘出すべきだったと証言。これに対し、弁護側は剥離困難とは具体的にどのような状態をいうのかという質問に対し、明確な答えは出来ず、また、無理な剥離とはどのような剥離の仕方をするのかという質問にも明確に答えができず、成書には無理に剥離すると摘出された胎盤はぼろぼろになると書いてあると証言。弁護側は摘出された胎盤の写真をみせ、胎盤の胎児面がぼろぼろになっていないことを認めた。

 死亡原因は、鑑定書の通り、大量出血によるDICであると証言し、羊水栓塞の可能性はあるが、否定的に証言した。

 今回の証言では、検事側にも弁護側にも立場が立つような証言に始終した感じであり、少なくとも自分が書いた鑑定書に対し、自信をもって証言していたとは感じられなかった。鑑定書はそのまま証拠として提出されたが、裁判官が今回の証人尋問をどのように受けとめるかが大きな点であると思われた。

 次回は8月31日、加藤医師本人の証人尋問であり、これも重要な証言となると思われる。

              (文責 佐藤章)

 第6回公判(07/7/20) 傍聴記録(詳細)

傍聴人のメモを書き起こしたものであること、聞き取れなかった部分や完全に正確でない部分があることをご了承ください。

!証人: 鑑定書を作成した医師

【検察側主尋問】 10:00〜

証人の氏名・職業の確認の後、宣誓

検察1: 証人は産婦人科の専門医ですね

証人: はい

検察1: N大学大学院医歯学総合研究科産婦人科学教室の教授ですね

証人:はい

検察1: N大学医歯学総合病院産婦人科科長、周産・母子医療センター長ですね

証人: はい

検察1: 経歴・所属学会一覧を示しますが、間違いありませんか

証人: はい

検察1: 産科婦人科にはどのような専門がありますか

証人: 周産期、腫瘍、生殖、婦人科内分泌の4つです

検察1: 証人の専門は

証人: 腫瘍

検察1: 先生はお産を取り扱ったことはありますか

証人: はい。T赤十字病院と厚生連M病院に勤めていた頃に扱いました

検察1: それはいつ頃ですか

証人: 昭和47〜50年10月

検察1: 何件くらい扱いましたか

証人: T赤十字の2年で約2000件、M病院で998件です。

検察1: 他にお産を扱ったことはありますか

証人: 大学の医員、助手をしている頃と留学の前、講師時代、T産婦人科でも扱いました

検察1: それぞれどのくらい扱ったのですか

証人: 覚えていません

検察1: T産婦人科では?

証人: 月に10件ほどです

検察1: 半年だから60件程度ということですか

証人: はい

検察1: 今は臨床に携わっていますか

証人: 主に婦人科を

検察1: 婦人科の臨床に携わっているということでよろしいですか

証人: はい

検察1: どのくらいの時間ですか

証人: 外来が4時間を週2回で合計8時間、手術が3〜2時間、週2回前後。

検察1: 他には

証人: 外勤で4時間くらいを月2回

検察1: 現在産科には携わっていますか

証人: 大学では無い。外勤では時々

検察1: 時々とは

証人: 一回の外来で3〜4人携わっています

検察1: 携わるというのは直接診療するということですか

証人: 外来で診療しているということ

検察1: N大学病院の周産・母子医療センター長として産科に関わっていますか

証人: はい。月1回の回診、異常があった時の指示・指導など

検察1: 異常時とはどんなときですか

証人: 胎児に異常を認めた時など、相談・報告があった時に指導する

検察1: 術前検討はどのような立場の人が参加するのですか

証人: 産婦人科医師全員と研修医、学生

検察1: 何について検討するのですか

証人: 手術の方式、翌週に予定された手術全てについて

検察1: 証人も立ち会うということですか

証人: はい、原則毎週参加する。

検察1: 本件以外に鑑定の経験はありますか

証人: 7件あります

検察1: すべて産婦人科の鑑定ですか

証人: はい

検察1: 7件は腫瘍に関するものだけですか

証人: 異なるものもあった

検察1: それは何件ですか

証人: 6件

検察1: 腫瘍の鑑定は1件ということでよろしいですか

証人: はい

検察1: 平成16年12月17日、大野病院における帝王切開手術について、福島県の警察から本件の鑑定を依頼された経緯については

証人: 富岡警察の刑事さんが来られて、依頼されました

検察1: なぜ証人が鑑定人に選ばれたと認識していますか

証人: 「過去の鑑定で立派なものがあった」「鑑定で困っているのでお願いした」と言われました

検察1: どういう事例か、依頼されたときに聞いていましたか

証人: 帝王切開の際に亡くなった妊婦の死因について

検察1: (聞き取れず)

証人: 周産期の専門ではなく産婦人科一般の専門医の知識でしか鑑定できないが、それでよろしいかと聞いたが、警察は「お願いしたい」ということでした

検察1: 鑑定を請けるか否かについてはどう考えましたか

証人: 死亡診断書の記載の可否についての質問事項については分からないと答え、断った

検察1: 鑑定の経過・結果は書面にまとめられましたね

証人: はい

検察1: 鑑定書を示します。これは証人の産婦人科専門医としての知識・経験に基づいてまとめられたものと伺ってよろしいですか

証人: 知識経験と、それに文献的考察も加えてまとめました

検察1: 証人は今回の出廷前に改めてこの鑑定書を読まれましたね

証人: はい

検察1: 誤記や訂正すべき箇所がありますか

証人: あります

(以下22項目について誤字脱字誤変換の訂正)

【鑑定書訂正事項】

「司法警察員策栄」→「司法警察員作成」

「肺野や肺静脈への水分の…」→「貯留」を加える

「2/6」→「12/6」

「disseminated intracoagulation」→「disseminated intravascular coagulation」

「混濁及ぶ」→「混濁及び」

「(7) 7 超音波診断」→「(7) 超音波診断」

「1/29」→「11/29」

「出血は5000m以上」→「出血は5000ml以上」

「腹」誤変換

「用手的に胎盤できない癒着」→「用手的に剥離できない癒着」

「午後6時1分」→「午後7時1分」

「前回帝王切開の前置胎盤?症例」→「前回帝王切開の全前置胎盤?症例」

「(4)」→「(3)」

「大出血の遭遇した」→「大出血に遭遇した」

「院内採決」→「院内採血」

「確立」→「確率」

「20000mlに達し」→「12000mlに達し」

  注: 「その時点での出血は12000mlだという認識だったが20000mlと誤記してしまった」とのこと。その時点での出血量については他の部分で12000mlと記載されているらしい。

「胎盤娩出後用手剥離」→「児娩出後用手剥離」

「副作用等重要な事項画が」→「副作用等重要な事項が」

「III」→「IV」

「子宮筋腫への」→「子宮筋層への」

「剥離する」→「剥離しない」

検察1: 本件の患者さんは癒着胎盤と診断されているがご存じですか

証人: はい

検察1: 癒着胎盤とは端的にどういうものであると証人は認識していますか

証人: 脱落膜が欠損しており、胎盤が筋層に直接付着、あるいは筋層に入り込んだ状態

検察1: 楔入胎盤、嵌入胎盤、穿通胎盤という種類があるということですが、それぞれどういうものですか

証人: 楔入胎盤は脱落膜が無く、胎盤組織が子宮筋層に付着しているもの、嵌入胎盤は筋層に絨毛組織が侵入したもの、穿入胎盤は筋層を絨毛組織が通り越しているものだと思います

検察1: 証人が穿入胎盤とおっしゃったのは穿通胎盤と同じと考えてよろしいですか

証人: あ、はい

検察1: 楔入、嵌入、穿通の区別はどのように判断されるのですか

証人: 摘出胎盤または至急組織を顕微鏡で見てどの程度入り込んでいるかを観察する

検察1: 顕微鏡的に観察する以前に、つまり手術前にこれらの分類を確定診断できますか

証人: …………できないと思います

検察1: 臨床的に癒着胎盤と判断することはできますか

証人: ある程度できると思います

検察1: どのように

証人: 帝王切開で子宮を見たときに、明らかに胎盤組織が子宮表面に見えた時や、胎盤の剥離が困難あるいは不可能な場合

検察1: 癒着胎盤でない時はどのように胎盤は娩出されるのですか

証人: 児娩出後子宮収縮で胎盤とのずれが生じて剥離する、と認識している

検察1: はがれない時の判断ですが、どうするのですか

証人: 20〜30分待っても剥離しなければ、用手剥離術を行います

検察1: 用手剥離の前に臍帯を引っ張ることはありますか

証人: 教科書的には引っ張るなと書いてあるが、実際には軽く引っ張ることはある

検察1: 実際には引っ張るのに、教科書に引っ張るなと書かれているのはどういう意味があるのですか

証人: 無理に引っ張ると子宮内反症という病気を引き起こすので

検察1: 用手剥離は具体的にはどうするのですか

証人: 子宮と胎盤の間に手を入れて、手刀で切るようにして

検察1: 具体的にはどのように

証人: 左手で子宮を持って、右手で手刀を…

検察1: 左手で胎盤を持って…

証人: 違います。左手で子宮底部を持ち、右手の5本の指をすぼめるようにして…

(言葉で記録に残す必要があるため、しつこく聞いていたとのこと)

検察1: どの程度の力でおこなうのですか

証人: 言葉では表現できかねます

検察1: 癒着胎盤の場合のひっかかりとはどのような感じなのですか

証人: 用手剥離の経験は何度もあるが、癒着胎盤の(用手剥離の)経験はないので分かりかねる。文献的には索状に強固に触れ剥離しないときには癒着胎盤と考える。

検察1: 普通は用手剥離にはどのくらいの時間がかかるのですか

証人: 数十秒〜長くて1、2分

検察1: 証人の言う、引っかかりを感じるという癒着胎盤は、3種類の分類ではどれに当たるのですか

証人: 嵌入胎盤か穿通胎盤の場合

検察1: 楔入胎盤なら用手剥離できるということですか

証人: できると思います

検察1: 剥離できないときはどのように対応するのですか

証人: 癒着の範囲、深さにもよるが、剥離を中断し子宮摘出すると成書には書いてあります

検察1: 成書とは

証人: 種々の教科書や学術論文

検察1: 用手剥離を中断する理由は

証人: 強固に癒着した胎盤を無理にはがすと大出血すると理解している

検察1: それはどういうことですか

証人: 筋層と胎盤が密に接しているので、筋層を傷つける危険性があるため。胎盤組織が残っても大出血する

検察1: 胎盤の血流は豊富なのですか

証人: 豊富です

検察1: どの部分の血流が豊富なのですか

証人: 基本的に胎盤は全て血流が豊富です。癒着部分は・・・(以後書き取れず)

検察1: 妊娠中の子宮筋層の血流は?

証人: 通常より豊富と思っている

検察1: (密に接しているときはどうするのですか?・・・書き取れず)

証人: (子宮を傷つけないように、胎盤組織を残さないようにします?・・・書き取れず)

検察1: 子宮筋層を傷つけるとどうして大出血するのですか

証人: 筋層が傷つけられるからです

検察1: 筋層を傷つけられるとどうして大出血するのですか

証人: 子宮筋層に限らず人の身体は血管があるので血管が傷つけられれば出血する

検察1: 胎盤組織を残した場合はどうして大出血するのですか

証人: 胎盤と子宮筋層が密に接しているのでのっこった胎盤からも筋層からも出血する。(・・・以後書き取れず)

検察1: 胎盤を残すと子宮が収縮しないと考える理由は

証人: 筋層の上に胎盤というモノが乗っているわけだから、その部分は収縮しないと思う。

検察1: 筋層を傷つけると収縮にはどう影響するのですか

証人: 筋層を傷つけると収縮は弱くなると思います。残った筋層が多ければ収縮は強いと思いますが

検察1: 筋層を傷つけた場合の出血と収縮しない時の出血はどちらが多くなりますか

証人: 教科書や論文には傷つけると大出血すると書かれているので、傷つけた時の出血は収縮しない時の出血よりも多いと思います

検察1: 用手剥離できない胎盤を無理に剥離した場合、どの程度出血するのですか

証人: 剥離した深さ、面積、位置によると思います

検察1: 傷つけた深さと出血の関係は

証人: 深いほど多くなると思います

検察1: 広さと出血の関係は

証人: 広いほど多くなると思います

検察1: 深さや広さと出血量は比例するのですか

証人: 一般的にはそう思いがちですが、私には判断できません。場所によります。太い血管の近くなどでは面積が小さくても大出血すると思います

検察1: 場所というのは

証人: 血管の豊富さ、どのくらい太い血管があるか

検察1: どのくらい出血するのか、文献や症例報告などではどう書かれているのですか

証人: 当施設での経験では、数千〜3万までの出血がありました

検察1: どのくらいの時間で出血したのですか

証人: 数十分

検察1: 数十分間で数千〜3万出血すると、母体にはどのような影響がありますか

証人: 失血によるショック状態になります

検察1: 失血によるショックとはどういうことですか

証人: 供給する血液が減るとその先の臓器が損傷を受けたり、ポンプである心臓が働きすぎ心不全になったりする

検察1: 無理に剥離した場合、出血箇所の止血は容易ですか

証人: 一般的には困難だと思います。深さや位置によると思いますが。強固な癒着があれば用手剥離はしない方がいい。

検察1: 用手剥離すべきでないとは、用手だけでなく、クーパーなどの器具を用いることもすべきではないということですか

証人: 私としてはしない方がいいと思っています

検察1: それはなぜですか証人: 成書、文献にそのように書いてあるからです

検察1: 証人自身の考えとして、理由付けはありますか

証人: 繰り返しになるが無理に剥離すれば胎盤を傷つけたり胎盤が残ったりするからだと思います

検察1: 用手剥離ができないというのは、用手剥離をしている途中で剥離できなくなるということか、最初から剥離できないことを表しているのか

証人: 出血量、癒着部分によって違うが、基本的に剥離が困難、不可能なら続けないほうが良いと思います。範囲が狭ければ癒着を続けることもあると思います、あ、すみません、剥離です

検察1: 狭いというのは具体的にどのくらいですか

証人: お答えできません。具体的に何cmであるとかは書いていないので。その場の術者が出血量、癒着の範囲から判断することです。成書には「出血大量なら子宮摘出を考える」と書いてありますが

検察1: 出血量が多いというのは具体的にはどのくらいですか

証人: 当施設では2500ml以上で予期せぬ出血として報告しています。ただし、これは癒着胎盤、前置胎盤?は除きます。通常は2500mlで大量ですが、癒着胎盤、前置胎盤?ではどの辺から大量とは答えかねます

検察1: 狭い、狭くないという判断は可能ですか

証人: 術者ならある程度可能ではないかと思います

検察1: どのようなことを根拠に判断するのですか

証人: 剥離できるところを剥離し、困難・不可能なところがどのくらい残ったかを見て

検察1: 狭くても太い血管があると出血が多くなるとおっしゃったが

証人: 狭くても出血が多い場合もあれば少ない場合もあると思います

検察1: 狭い部分をはがすときに注意することは

証人: 無理に筋層を傷つけるようなことは行わない

検察1: 帝王切開と経膣分娩で対応は違うのですか

証人: 基本的にはないが、帝王切開では子宮が目の前にあるのでその後の処置(止血術・子宮摘出術などのことと思われるが、説明はなし)は容易と思います。

検察1: それが剥離継続への判断に影響しますか

証人: 私は困難または不可能なものを無理に剥離すれば困難な出血が起こりうることを考えれば、無理に剥離しないほうがいいと思います。

検察1: 用手的に剥離しているところで剥離が困難あるいは不可能になったときに、胎盤が付いたまま子宮摘出することは可能でしょうか

証人: 可能だと思います

検察1: 子宮動脈の同定は可能ですか

証人: できると思います

検察1: 子宮摘出の判断で、患者の子宮温存の希望は影響するでしょうか

証人: すると思います。温存を強く希望するときは、それに則った治療を行います

検察1: 具体的には

証人: 癒着の程度によりますが、出血がなければ全く剥離せずに帝王切開を終了させ、抗癌剤や動脈塞栓を行います。癒着が少なければ剥離を続けるかもしれません

検察1: 抗癌剤などを使うのは出血が無い場合ということだが、出血がある程度ある場合は

証人: 患者さんの希望によると思います

検察1: どういうことですか

証人: 患者さんが命の危険を冒してでも子宮を温存したいということであれば剥離を続けることはありうると思います

検察1: 命の危険を冒してでも、とおっしゃったが、そうでない場合は

証人: より安全な治療をしたほうがいいと思います

検察1: より安全な治療とは

証人: 原則的に無理な剥離をせずに子宮摘出を行うということですが、場所により主治医が判断することだと思います。

検察1: それは平成16年12月当時一般的な考え方だったということでしょうか

証人: そう思っています

検察1: なぜですか

証人: 当時調査した文献にそのような記載があったからです

検察1: 当時というのは

証人: 鑑定を依頼された昨年7月か8月かはっきりしませんがその頃です

検察1: 昨年というのは一昨年の間違いですね

証人: はい

検察1: 具体的にはどのように記載されていたか覚えていますか

証人: 正確には覚えていません

検察1: 覚えている内容は

証人: 覚えていないというのは文献の名前や著者名などで、共通した記載内容は「無理な剥離はせずに子宮摘出に移る方が良い」と

検察1: 証人自身の癒着胎盤症例の経験は

証人: 正確に覚えているのは1例。なりたての頃にもう1例あったかと思うが、はっきりと覚えていません

検察1: どのように関わられたのですか

証人: 帝王切開の第2助手か第3助手として、それから術後管理を

検察1: いつ頃ですか

証人: 昭和52年か53年

検察1: どこで

証人: N大学の附属病院

検察1: 術者は

証人: 当時の主任教授です

検察1: その教授の専門は

証人: 腫瘍でした

検察1: 経過は

証人: 前置胎盤?の診断で帝王切開。終わって教授が手を下ろした後も出血が続いたので、教授に戻ってもらってガーゼを詰めて止血した。教授は大丈夫と言っていたが出血が持続して、もう一度教授が来て子宮摘出しかない、と。数万の出血からDICになり管理に苦労しました。

検察1: 何名で止血作業をしたのですか

証人: 10名以上と思います

検察1: 止血にはどのくらい時間がかかりましたか

証人: 正確ではないが数時間と思います

検察1: 教授から何か言われましたか

証人: 癒着胎盤を無理に剥離して出血したと。君たちも注意しなさいと言われました

検察1: 無理に剥離することの危険の趣旨は何と聞きましたか

証人: 聞いていません

検察1: どういう趣旨でそう言われたと思いますか

証人: この患者さんで大変だったから、同じことを繰り返さないように、と

検察1: (ほかに)新潟大学病院で癒着胎盤に関与したことは

証人: 報告等はあるが、直接関与はない

検察1: 癒着胎盤の症例では証人はどういう助言・指導を行うのですか

証人: 事前に癒着胎盤の有無の慎重に診断するように、また大量出血や子宮摘出の可能性があるということを患者さんに説明して同意を得るように、と

検察1: 術中のことについては何か助言・指導をしますか

証人: 無理な剥離はしないように、と

検察1: 癒着胎盤の頻度はどの程度なのですか

証人: 稀だと思います

検察1: 具体的な数字は

証人: 通常の妊娠では稀です

検察1: 最近の頻度の変化はありますか

証人: 増えていると思います

検察1: 増えている理由は何でしょうか

証人: わが国では帝王切開の頻度が上がっていることによると思います

検察1: 帝王切開が増えるとなぜ癒着胎盤が増えるのでしょうか

証人: 前回の帝王切開創に胎盤が付着するからです

検察1: 前回の帝王切開創に胎盤が付着すると癒着胎盤の頻度が上がるということですか

証人: はい

検察1: 前置胎盤?では癒着胎盤の頻度はどうなりますか

証人: 脱落膜の無い頚管付近に胎盤があるので増えます

検察1: 前壁、後壁では頻度は変わりますか

証人: 後壁では少なくなります

検察1: 前壁の場合は

証人: 後壁に比べて前壁では高くなります

検察1: 前回帝王切開で前置胎盤?の場合の頻度は

証人: 文献によって違うが、3〜25%といわれています

検察1: 事前に診断するとおっしゃったが、それは可能ですか

証人: ある程度可能だと思います

検察1: どんな検査で診断するのですか

証人: 超音波診断装置やMRI検査

検察1: 超音波診断装置やMRIで疑われた場合、確定的に診断できるのですか

証人: ある程度は

検察1: ある程度というのはどういうことですか

証人: 臨床的に絶対ということは無いからです

検察1: 前回帝王切開で、超音波検査、MRIで癒着胎盤が疑われる結果が出ない場合、癒着胎盤は無いと言えますか

証人: 臨床診断としては可能です

検察1: 臨床診断というのは

証人: 100%ということは無いので

検察1: 癒着胎盤が疑われるとき、何か準備をしますか

証人: 出血量が多いことが予想されるので、輸血の準備をしたほうがいいと思います

検察1: 具体的な量は

証人: 具体的な量は分からないが、個人的には5000mlくらいの出血に備えます

検察1: 手術の体制については

証人: 多数の医師が居た方がいい

検察1: どのくらいの人数ですか

証人: 術者の熟練度によると思います

検察1: 熟練度が低い場合には

証人: 熟練度が低い医師だけでやるのはいかがなものかと思います

検察1: 本件では癒着胎盤が疑われる所見はありましたが

証人: 12月3日と6日の超音波写真で疑ってもよいと思いました

検察1: 他には

証人: ありません

検察1: 12月3日と6日の超音波写真から疑ってもよいと考えたのですか? 前回帝王切開であることや胎盤位置についてはどうか

証人: 前回帝王切開と前置胎盤?で、超音波で疑われる所見があるので、全体論として疑ってもよいと思いました

検察1: 超音波の具体的にどのようなところで、疑ってもよいと思ったのですか(2枚の写真を供覧)

検察1: これはどういう方法の検査ですか?

証人: プローベを膣内に入れて児の様子を見たものです。

検察1: 2枚の写真はどのような関係ですか

証人: 2枚はほぼ同じ場所で、2枚目はカラードプラの写真です

検察1: カラードプラではどのようなことが分かるのですか

証人: モノの流れ、この場合は血流があるかどうかが分かります

検察1: 一般論としてどのように血流の有無が分かるのですか

証人: どちらがどちらかは忘れましたが、赤なら手前から奥に、青は奥から手前に血流が流れているということです。どちらが赤でどちらが青かは違っているかも分かりませんが

検察1: この写真のどこに何が写っているか、写真に書き込んで説明していただけますか

検察1: 超音波写真からどのように思いましたか

証人: 癒着胎盤を疑ってもよいと思いました

検察1: それはどのようなところからですか

証人: 子宮後壁と胎盤の間にhypoechoicなところがあり、癒着は無いと考えられます。しかし、前壁に行くとhypoなところが認められないので疑ってよいと。但し、プローベを強く押し付けるとhypoな領域が無くなることがあり、術者のやり方によるのでこの写真だけからは判断できないと感じました

検察1: hypoechoicというのはどこのことですか

証人: 子宮筋層と胎盤の間に黒いところがあるなら、癒着の可能性は無い…少ないということです

検察1: これの有無は判断にどういう影響があるのですか

証人: あると筋層と胎盤の癒着の可能性が少ないということになります

検察1: その根拠は何ですか

証人: 密着していればこういうところには見えないと思います

検察1: 前壁にはhypoechoicな領域はありますか?

証人: これでは認められません

検察1: この写真から後壁に癒着胎盤があったか無かったかは言えますか

証人: 分かりません。この写真は一つの断面だけなので、この部分には無いが隣の部分にはあるかも知れない。疑う材料にはなると思いますが

検察1: カラードプラからは何が言えますか

証人: 血流は胎盤の血流だと思いますが、これが子宮後壁に行っているかどうかは分かりません

検察1: 血流の範囲を図に書き込んでいただけますか

検察1: エコー写真で子宮や胎盤の血流から癒着胎盤を疑わせる根拠になりますか

証人: 胎盤から子宮へ血流が行っている場合などは

検察1: 本件ではいかがですか

証人: 個人的には、写真のこの部分に血流があるので、隣接する部位も調べることが重要だと思うが、胎盤から子宮へ血流が行っているかどうか、この写真からは判断できません

検察1: 部位や程度については

証人: 前壁癒着を疑ってもいいと思います

検察1: 次に12月6日の超音波写真を示します

検察1: これはどのように撮影された写真ですか

証人: これはプローベをお腹に当てて撮影されたものです

検察1: 何が写っているのか説明していただけますか(3日の写真と同様に写真に書き込んで図示)

検察1: この写真から癒着胎盤の有無は

証人: このような血流がある場合、疑って次の検査をしてもいいと思うが、癒着胎盤かどうかは判断できません

検察1: 他の検査とは何ですか

証人: MRIです

検察1: なぜMRI検査をしたほうがいいのですか

証人: この写真だけでなく、12月3日と12月6日の写真の両方から考えて

検察1: この血流はどんなものと言えますか

証人: プローベが縦か横かで違ってきます。縦なら胎盤の中、子宮の中、膀胱内、これらの皮下の組織の血流だろうと

検察1: そのような組織の血流では癒着胎盤を疑うのですか

証人: これだけでは分からないが、12月3日の写真を考えると疑ってもよいと思います

検察1: 横だった場合は

証人: 臍帯内の血流と考えてもよいと思います

検察1: 検査時の縦と横の頻度は

証人: 同じくらいだと思います

検察1: MRI検査を行うことが妊婦に悪影響を及ぼすことはありますか

証人: この週数なら無いと思います

検察1: 12月17日に帝王切開をしていますが、癒着胎盤を疑っての検査として、12月3日、6日の検査は十分ですか

証人: 前置胎盤?の診断は分娩直前に行うものですので、直前にもう一度検査するべきだったと思います。2週間の間に子宮が伸びることで胎盤の位置がずれることがあるためです。

検察1: 本件では12月17日までに胎盤の位置が移動したことは考えられますか

証人: 一般的には少ないと思うが、この症例では、というのは分からない。(推定体重と出生時の体重から、この間に)あまり胎児は成長していないので、ずれてはいないと思いますが、分かりません

検察1: 本件で被告人が開腹後に子宮に直接プローベを当てて超音波検査をしたことは知っていますか

証人: はい

検察1: 何のためだと思いますか

証人: 胎盤の位置を確認するためだと思います

検察1: それはなぜ行うのですか

証人: 帝王切開で胎盤を切らないためだと思います

検察1: 被告人がクーパーを使って胎盤を剥離したことをご存知ですか

証人: はい

検察1: 術中の判断に対する鑑定に際し、どのようなものを参考にしましたか

証人: S先生(第5回で尋問を受けた病理医)の鑑定書を参考にしました

検察1: 癒着胎盤の範囲、程度については

証人: 筋層の1/2までに侵入し、広い範囲に、とS先生の鑑定にありました

検察1: S博士の鑑定とその他の資料から証人はどう推測しましたか

証人: 与えられた資料から考えて、範囲は広かったと思いました

検察1: それはなぜですか

証人: S先生の鑑定書、K先生(被告人)の手術記録、供述調書に「かなり広い」「時間がかかった」とありました

検察1: 時間がかかったから広いと推測したと

証人: 時間によって正確な範囲は推測できませんが、15分もかかったということは広い範囲なのではないかと思いました

検察1: その根拠は

証人: 通常(癒着でない用手剥離)は数十秒から数分で剥離できるので、苦労されたんだろう、と

検察1: 麻酔記録や輸血量などは参考にしましたか

証人: 質問の意味が理解できません

検察1: その他に癒着胎盤の範囲を考える参考 資料はありましたか

証人: ありません

検察1: S博士が前回法廷で証言しましたが、法廷証言の内容が鑑定書と違っていることはご存知ですか

証人: 知りません

検察1: 今回の法廷の前に説明したことは覚えていますか

証人: 説明されたことは覚えているが……内容ははっきりと覚えていません

検察1: S博士の公判廷証言により範囲や程度の判断に影響することはありますか

証人: 癒着の範囲や程度が著しく変わっているならば影響すると思います。見てみないとわかりません

検察1: (S医師の証言内容を示して)前回のS博士の証言を前提とすると、証人の鑑定内容は変わりますか

証人: 変わらないと思います

検察1: 前回の証言を前提として、被告人はどのような処置が必要だったと考えますか

証人: 質問の意味が分かりません

検察1: 児娩出後に臍帯を引っ張り、子宮収縮剤を使っても胎盤が娩出せず、用手剥離を始めてそれが困難になった場合、何をするべきだったと思いますか

証人: 分かりません。何とも言えません

検察1: S博士の鑑定による癒着範囲を前提として、被告人はどうすべきだと思いますか。

証人: K先生が困難・不可能と判断されたのであれば、子宮摘出に移るべきだと思います

検察1: S博士の鑑定を前提として、剥離が困難・不可能な場合はどうするべきですか

証人: 癒着の範囲によりますが、手術記録などを見るとやめたほうがよかったのではないかと思う

検察1: 本件で当時、子宮摘出に移行できたと思いますか

証人: 分かりません

検察1: 資料を前提に聞いていますが

証人: 癒着の範囲は広かったと推定しますが

検察1: その場合、どのように判断しますか

証人: 私はそういう場合には子宮摘出する

検察1: この時点で子宮摘出に移行できたと思われますか

証人: どの時点ですか

検察1: 胎盤剥離が困難・不可能になった時点です

証人: いつだか分かりません

検察1: K医師の供述調書によると14時15分前後とありますが。

証人: その前後であれば可能だったと思います

検察1: その時点で用手剥離を中止し子宮摘出に移行していれば救命可能性はありましたか

証人: 可能性はあると思います

検察1: 本件では胎盤剥離後に子宮摘出が行われたのはご存知ですか

証人: はい

検察1: 子宮摘出の時期は適切だったと思いますか

証人: ちょっと遅かったのではないかと思います

検察1: いつ移行すべきだったと考えますか

証人: 胎盤剥離後、出血のコントロールが付かなくなった時点で

検察1: 胎盤の剥離後ですか

証人: 本来は剥離する前に移行した方がよかったが、剥離後であっても待たずに早めに移ったほうがよかったのではないかと思います

検察1: 麻酔記録上、大量出血しているが、子宮摘出はできたと思いますか

証人: 判断できません

検察1: 止血の手段にはどのようなものがあるのですか

証人: 長いヨードホルムガーゼによるタンポン圧迫、双手圧迫など

検察1: 他には

証人: 内腸骨動脈を縛ったり、総腸骨動脈を一時的に縛る方法があります

検察1: なぜですか

証人: 子宮がこれらの動脈に血液を供給されているからです

検察1: 子宮動脈の結紮ではどうですか

証人: ある程度は効果があるが、成書にはもっと上流で結紮するとあります

検察1: なぜ上流で縛るのですか

証人: 妊娠子宮は子宮動脈だけでなく、ほかの上流の動脈でも血液を供給されているからだと思います

この後、別の検察1から用手剥離の動作を表現について確認があり、検察側主尋問は12時30分終了

【弁護側反対尋問】 13:30〜

弁護1: 弁護団の平岩からです。先生のご経歴を拝見すると、先生は、日本産科婦人科学会の正会員でいらっしゃいますね。

証人: はい

弁護1: 日本産科婦人科学会は、産科学会と婦人科学会、二つの学会が一つになってできたということはご存じですか

証人: はい

弁護1: 産科と婦人科では、専門分野が異なるということですか

証人: はい

弁護1: 産科の専門分野は、周産期医療ですね

証人: はい

弁護1: 婦人科の専門分野は婦人科腫瘍と、婦人科内分泌の二つにわかれますね

証人: はい

弁護1: 周産期医療は、お産をめぐる医療という理解でよろしいですか

証人: はい

弁護1: 婦人科腫瘍では、子宮癌とか、卵巣癌、そういうものを扱う

証人: はい

弁護1: 婦人科内分泌は更年期障害などを扱う

証人: はい

弁護1: 別に不妊が独立してあるとのことですね

証人: はい

弁護1: 先生のご専門は婦人科腫瘍ということですが

証人: はい

弁護1: 経歴では、当初産科もおやりになった。その後は、婦人科腫瘍、研究あるいは医療に携わっていたと。

証人: はい

弁護1: 本件で問題となっている、帝王切開、全前置胎盤?、癒着胎盤のというのは、いずれも周産期医療に関する分野ですね

証人: はい

弁護1: 先生は今回、捜査機関の依頼をうけて鑑定書を作成された

証人: はい

弁護1: 本件は全前置胎盤?の患者さんで、帝王切開を行ったところ、癒着胎盤があったという事案ですね

証人: はい

弁護1: いずれも周産期医療に属する事柄ですが、婦人科腫瘍の専門家である先生が、専門外の事柄でなぜ鑑定書を書かれたのですか

証人: 警察に依頼されたからです。

弁護1: 周産期の専門の先生に頼むべきであるとはおっしゃらなかったのですか

証人: そういうことは申しませんでした。

弁護1: ご証言では、婦人科の、いや産婦人科の専門医として鑑定書を書いた、とおっしゃいましたが、

証人: はい

弁護1: 産婦人科の専門医とは、産科婦人科学会が認定している、産婦人科の専門医ということですね。

証人: はい

弁護1: 本件のあった、昭和、いや平成16年に、日本産科婦人科学会の会員は1万6千名くらいいたのではないですか

証人: はっきりとは知りませんが、・・

弁護1: 産婦人科の専門医は、1万2千人くらいいたのではないですか

証人: さだかではありませんが、そのくらいです。

弁護1: 被告人のK医師も、産婦人科の専門医であることはご存じですね

証人: はい

弁護1: 産婦人科医として周産期・婦人科を問わず5年の臨床経験があると、ほとんどの医師が、産婦人科の専門医になれるのではないですか

証人: はい

弁護1: 最高裁判所の医療問題訴訟委員会から学会に対して、鑑定医候補者の推薦に関して協力依頼があり、学会医会あわせて二百数十名の鑑定医団があることはご存じですか

検察1: 異議あり、鑑定人の弾劾です。

弁護1: 鑑定人の証言の資質を明らかにするためです

裁判長: 異議を却下します。つづけて

弁護1: 二百数十名の鑑定医団には、大学の教授、准教授、講師らが専門分野にわかれて鑑定人を引き受けるということになっているのですね。

証人: そう思う

弁護1: 先生は、婦人科腫瘍の分野で鑑定人候補者になっていますね。

証人: 昨年までは

弁護1: 先生は、周産期では鑑定人になっていませんね

証人: はい

弁護1: 周産期医療に関することで、産婦人科の専門医の知識で書くということについて、先生は言われたということですが、それに対して警察官は何も言いませんでしたか

証人: 言っていませんでした。

弁護1: わが国の周産期の専門家で、先生が信頼をおく方にはどういう方がいらっしゃいますか

証人: 名前を挙げるということですか

弁護1: はい

証人: 東北大学の岡村教授、福島県立医大の佐藤教授、北里大学の海野教授、昭和大学の岡井教授、名誉教授ですが大阪大学の村田名誉教授、九州大学の中野名誉教授、宮崎大学の池ノ上教授です。

弁護1: 本件についてそのような方が鑑定書を書くのがより適切だとお考えになりますか

証人: そう思います

弁護1: 先生が名前を挙げた、東北大学の岡村先生、宮崎大学の池ノ上先生には、弁護側の意見書作成をしていただいているが、証人はご存じですか

証人: いいえ

弁護1: 今回の鑑定を先生がおやりになった。刑事上の過失があるかないかということで、先生は鑑定をなさったわけですか

証人: 私は医学上、安全な医療をするにはどうすればいいかという観点で鑑定を行いました。

弁護1: 癒着胎盤で、先生が臨床現場で癒着胎盤の患者さんを実際に見られたのは一回あると言われましたね

証人; 明らかに思い出すのは一回です。

弁護1: 昭和何年ですか

証人: 昭和52〜53年か

弁護1: 今から三十数年前ですね。

証人: そうですね

弁護1: 先生が医者になってまもなくですか

証人: まもなくでもないですよ。5年くらいです。

弁護1: 癒着胎盤の患者を臨床の現場でみたのは、それ1回ですか

証人: 診療にたずさわったのは、その1回です。

弁護1: 当然、癒着胎盤の患者さんについて、超音波検査をしたこともないですね

証人; ないです

弁護1; 先生の患者さんは、経膣分娩でしたか、帝王切開でしたか

証人: 帝王切開でした

弁護1: その患者さんについて、術前診察や検査に関与されましたか

証人; してません

弁護1: 評価には関与されましたか

証人: 意味がわかりません

弁護1: 術後の評価には関与されましたか

証人: はい

弁護1: 癒着の患者さんの執刀医は誰でしたか

証人: 当時の主任教授でした

弁護1; 腫瘍専門の先生でしたか

証人; はい

弁護1: 先生は、第二助手か第三助手でしたか

証人: そうです

弁護1: そのとき何名の医師が、手術に立ち合いましたか

証人: 最初4,5名、手術後には十数名。

弁護1: 大出血のために医師が集まったのですか

証人; そうです

弁護1: 執刀医が主任教授、第一助手が出血の吸引をしたりしますね。先生は、第二または第三助手だった。

証人; そうです

弁護1: 先生は具体的に施術中に何をされましたか

証人: 執刀医や第一助手の手術がうまくいくように介助する。

弁護1: 具体的にはどのようなことをしましたか

証人: 出血をガーゼで拭いたり子宮を押さえたりしました

弁護1: あとの二人はどのようなことをしましたか

証人: 一人は外回り、もう一人は執刀医のわきにいて、その手伝いをしました。

弁護1: 麻酔の専門医はいなかったのですか

証人: いや、大学での手術でしたのでいました。

弁護1: では全部で6名でしたね

証人: そうです。

弁護1: その症例では術前に癒着胎盤がわかっていましたか

証人: わかっていなかったと思います。

弁護1: 執刀医は、どの段階で癒着胎盤がわかったのですか

証人: わかりません

弁護1: 執刀医は用手剥離が困難でしたか

証人: 困難だったと思います

弁護1: 術中に癒着胎盤と、執刀医にはわかったのではないですか

証人: それはわかりません。執刀医が手術後に、癒着胎盤だった、無理な剥離をしたので大出血した、胎盤は無理に剥がしちゃいかん、とそう言ったので私達にわかりました。

弁護1:それは先生がということですよね。そうでなくて執刀医はいつわかったのかについて、

検察1: 異議あり、既に証人はどの段階で癒着胎盤がわかったか、明確にわからないと答えています。

弁護1: 癒着の部位は子宮の前壁でしたか、後壁でしたか

証人: わかりません

弁護1: どうしてわからないのか

証人: 全前置胎盤?ということだけわかっていましたが、前壁癒着か後壁かは術者しかわからない。

弁護1: 術後の評価に関わった時にはどちらかわからなかったのですか

証人: 聞いていません。

弁護1: 執刀医が癒着胎盤を無理に剥がしたと言われたが、胎盤の剥離終了までどれくらいかかったのですか

証人: 正確には覚えていませんが、数分だった

弁護1: 胎盤剥離中から出血が始まったのですか

証人: そうです

弁護1: 出血はどれくらいでしたか

証人: 正確には覚えていない、大量。

弁護1: 先生の思い描く、大量とは、数量ではおよそどれくらいですか

証人: 数千cc

弁護1: 数千cc。2,3千ccか、4,5千ccか

証人: 3千ccくらいだと思う

弁護1: 胎盤剥離が終了して出血はどのようになりましたか

証人: 持続していたが、主任教授が子宮筋を一時的に縫合した。

弁護1: トータルの出血量は数万だと言われましたね。具体的に言うとどうなりますか

証人: 2万から3万です

弁護1: 胎盤剥離後に子宮を摘出されたわけですね。

証人: はい

弁護1: 救命のためには苦労した

証人: はい

弁護1: どのくらいの時間要しましたか

証人: 数日です

弁護1: その症例で死亡していると、本件と同じで無理に胎盤を剥離し出血多量で死亡したということで、過失があったと先生はお考えですか

検察2: 異議あり、仮定の質問です

弁護1: いや、仮定の質問は先ほどもおやりになったでしょう

裁判長: 異議に対する反論は

弁護1: 仮定ではなく具体的事案についての質問です

裁判長: 異議は棄却します

弁護1: その症例は、一命を取り留めたから良かったですが、もし亡くなっていたら、先生は、無理に胎盤を剥離し死亡させたということで、過失があったとお考えですか

検察2: 異議あり、死因の特定をしないうえで考えをきいています。

弁護1: 先生は過失があったとお考えですか

証人: 時代が違いますから何とも言えない

弁護1: それが先生が自分で経験された癒着胎盤の例ですね。先生は癒着した胎盤を自分の手で剥離した経験ないんですね。

証人: ありません

弁護1: 平成18年度に新潟大学の先生の教室で三例の癒着胎盤の症例があったと、症例検討会があり、それがホームページで公表されたのはご存じですか

証人: はい

弁護1: 三例とも、胎盤剥離を続行して剥離を完了していますね

証人: はい

弁護1: 先生が鑑定書の作成を依頼された時点で大野病院の事故調査委員会の報告書をご覧になりましたか

証人: はい

弁護1: 鑑定書はその報告書に依拠すればいいんだと思いませんでしたか

証人: 参考にはなりました

弁護1: 先生は鑑定書で、児娩出時午後2時37分から胎盤剥離完了する午後2時50分頃までに、5000mlの出血が認められていると、述べておられますが、ご記憶にありますか

証人: はい

弁護1: この5000mlは、羊水込みですね

証人: そうです

弁護1: 事故調査委員会の報告書でも、胎盤娩出後5000mlという記述がありますが、ご記憶にありますか

証人: はい

弁護1: 麻酔チャート

検察1: 異議あり、示す目的を明確に

弁護1: 今の記述についてです

裁判長: 明確化のためですね

弁護1: はい

裁判長: どうぞ

    (モニタに麻酔チャートが映される)

弁護1: ここに出血量の記録があり、胎盤娩出後の午後2時20分の出血量は、2555ml。羊水込みですが、おわかりですね

証人: はい

弁護1: あの、先生は出血量についての記載は原資料からでなく、どういうことで調査委員会報告書に依拠されたんですか

証人: 調査委員会の資料だけでなく、加藤先生が書かれたカルテ記載にも5000mlとありました

弁護1: 一番正確な出血量の記録、麻酔チャートに依拠しなかったのは、どういう理由ですか

証人: 麻酔チャートも、正確な・・出血量の記録ではなく、その前後で、10分後くらいには7500、なので、前後、胎盤娩出前後に5000mlという判断をしました。

弁護1: でも先生の鑑定書の記載を見ますと、時間を特定して、児娩出の午後2時37分から、胎盤摘出が完了した午後2時50分頃までの間に、5000mlの出血が認められている、こう述べられていますが。不正確でその前後ということですか

検察1: 異議ありどちらが正確かわからないのに誤導です。

弁護1: 明らかでしょう、麻酔チャートとの比較で、違うのだから。

検察2: 麻酔チャートは時間時間で出血量をとっていないのだから、

弁護1: 今までずっとそれでやってきたじゃないですか!

裁判長: 異議の理由はなんですか

検察2: 誤導です

裁判長: それに対してどうですか

弁護1: もう、客観的資料との比較で明らかですから、質問を変えますが。

先生は癒着胎盤の術前診断では、超音波検査、MRI検査が有用であるとお考えですか

証人: はい

弁護1: 超音波検査で癒着胎盤がないというふうに診断された場合でも、MRI検査は必要ですか

証人: 超音波検査で、診断医が癒着がない、明らかに必要ない、と診断されれば、必要ないと思います。

弁護1: 先生は妊娠子宮に対する超音波検査を日常的にされていますか

証人: 大学では、新患で毎週金曜日に新患の妊婦さんが来られたときに、患者さんに対して行っています。

弁護1: 妊婦検診の際の超音波検査は、5分ないし10分程度で行われるものですか

証人: それくらいのときと、もう少し精密に行うことがあります

弁護1: 同じ場所について、プローベの角度や、押さえる強さを変えて検査するのですか

証人: はい

弁護1: その角度、強さの違いで得られる画像が変化するのではないですか

証人: そうです

弁護1: そうした変化を経時的にみながら、医師は総合的な判断をくだすのではないですか

証人: そうです

弁護1: 写真というのは検査中のごく一部に過ぎないのではないですか

証人: はい

弁護1: 先ほど、この写真から癒着胎盤を疑うべきであったと、先生は証言されましたね。

証人: ・・・いえ・・

裁判長: 示す意義を

弁護1: 先ほど、検察官が示された写真について確認したい。これは調書に添付されますね

裁判長: そうですね、はい。

    (超音波検査の写真が示される)

弁護1: まず、12月3日。青いマジックでしるしをした、ここに血流が認められるから、先生は癒着胎盤を疑うべきであったと。

証人: いえ、疑っても良い、ということです。

弁護1: でも、今の血流はごく一般的に見られるものではないですか

証人: 見られることもあります

弁護1: 先生は癒着胎盤の患者さんについて診察をされたことはない、ということは当然、癒着胎盤の超音波検査をやったこともない。それなのにどうして、この血流をみて、癒着胎盤を疑ったらいい、などということがわかるのですか

証人: それは、前回帝王切開で、全前置胎盤?なので、他の人よりその、前壁の癒着胎盤の確率が高いと。

弁護1: それは一般的に言われていることですね。前回帝王切開で全前置胎盤?の場合は、前壁に癒着しやすい。だからそれを疑う、それは結構ですよ。そのことと、今のその超音波検査、これで青のマジックで、なんか白く見える、血流がある、だから疑うべきだ、ということは全く結びつかないのではないですか。

証人: 本で書いてあるのが、その子宮前壁の線が見えない、ということが書いてあるので、疑ってもよいのかなと・・

弁護1: 本で書いたことは別にして、この、ここでは、先生がさきほど、ここには癒着はないと述べられましたね。

証人: ない

弁護1: でもここでは疑ってもいいというのは、どういうことか。先生が周産期の専門家で日常的に癒着胎盤をみて超音波検査を何回かされているのであれば、そう言われるのもわかるんですけどね。一度もみていないのに、そこまで言われるのはどんな理由からですか。

検察1: 産婦人科の専門家しかわからないということなのに、誤導ではないですか

弁護1: 誤導ではないですよ。先生が間違える可能性を言っている

裁判長: 異議を棄却します

弁護1: 先生の判断には誤りがないという点をお聞きしたい

証人: 自分の判断が正しいとは私も思っていないんですよ。ただ私は日常診療でも、大学でも、こうして検討しているわけでね、必要があれば疑って、検査をしなさい、とこういうふうに教室の若い人たちにも言っている。

弁護1: 12月6日のこの超音波検査写真も、血流と書いてますね。この存在をもって癒着胎盤を疑うべきであったと、先生は証言されましたね。

証人: 違うと思います

弁護1: そうではない!? 

証人: それは12月3日と両方でもってですね・・・

弁護1: 3日はとりあえず、6日のものではどこが疑わしいとお考えですか

証人: それは、胎盤付着部位に豊富な血流が認められるから

弁護1: ですから、豊富な血流があるから、という先ほどの証言ではなかったですか

証人: そうです

弁護1: しかし、術者、加藤医師は、いろんな角度、強さで血流のところをみて、これは膀胱下の血流である、と診断をされたのですね。それは先生の鑑定書にも書いてありますね。

証人: はい

弁護1: とすると、これは膀胱下の血流であって、癒着胎盤を疑わせる血流とは違うものではありませんか

証人: 私の趣旨はですね、これがどういった血流である、ということではなくて、いろんな種々の所見があったら、癒着胎盤のことを疑ってもよろしいんじゃないかと、そういうことです。

弁護1: 種々の所見があれば、というのは、どういうことですか

証人: 12月3日のエコー所見、12月6日の血流の所見、あるいはこの患者さんが前回帝王切開でかつ前置胎盤?なら、疑っても良いということです

弁護1: この写真で、白く写っている血流の横に黒っぽく移っているのが膀胱ですよね

証人: と思います

弁護1: 胎盤はこの楕円形、扇形の下の線の左側のほうにある

証人: モニターでは判断できない

弁護1: ま、さらにこれは専門家の医師に聞くことにして、先生はこの血流をみて、癒着胎盤を疑って良かったとお考えになるということですね

証人: 12月3日の所見とあわせて

弁護1: さらに、12月6日の後でも、帝王切開術の直前にエコーによる検査をしたほうがよい、とそう証言されましたね

証人: はい

弁護1: 12月13日にも超音波検査をされていますが、ご存知ですか

証人: はい

弁護1: 3日、6日、13日。すると、直前にやったほうがいいというのは、13日は経腹でやっていますから、13日も経膣でやったほうがいいということですか

証人: そうではなくて、13日には所見の記載がなかったので、どのような検査やったかわからないと。推定体重しか書いていなかったので。

弁護1: 当然術者は、推定体重をみるだけではなくて、超音波をやる中でいろいろなことをやっているのではないですか

証人: 私は当事者でないのでわかりません

弁護1: 直前にやったほうがいいという超音波検査は、経膣ですか、経腹ですか

証人: どちらでもいいと思います

弁護1: どちらでもいい! この全前置胎盤?について、娩出の直前に経膣の超音波検査をやると、出血を引き起こす危険があるといわれているのをご存知ですか

証人: そうも言われています

弁護1: 本件で被告人のK医師は超音波検査で子宮の前壁に癒着胎盤がないと診断しているが、その診断は間違いだというふうに、先生はお考えですか

証人: 判断しかねます

弁護1: 本件では帝王切開の術中、子宮壁に直接プローベをあてて、超音波検査を行って、その結果、子宮前壁に胎盤の癒着はないと判断していますが、このことはご存知ですか

証人: カルテの記載では、前壁に胎盤がないということは記載していますが、癒着胎盤ついては書かれていなかったと思います。

弁護1: しかし当然、前回帝王切開の既往がある、全前置胎盤?であれば、当然術者がプローベを直接子宮にあてるということは、そういう癒着胎盤の有無も含めてみているのではありませんか

検察1: 異議あり、証人がやったことのないことについて質問しています

弁護1: 施術の一般的な方法についてきいています。そういうことを判断するために診ているのではありませんか

証人: そういうこともあるかと思いますが、カルテの記載がないので判断しかねる

弁護1: 先生は鑑定書で、S教授による鑑定書の結果により、癒着胎盤が子宮前壁にあったということは明らかである、とこう述べておられますね。そうすると先生の鑑定書は先ほど検察の質問にあったが、S鑑定に基づいて、子宮前壁に癒着胎盤があったと、それを前提にして、検査の結果についても鑑定書をお書きになっていますか

証人: 前提にはしています。

弁護1: さきほど検察からも聞かれていたが、先生は癒着がどの範囲にあったとして、鑑定書をお書きになったのか

証人: 前壁と後壁の広い部分です。

弁護1: 広い部分というのは抽象的だが、先ほど検察官から示された写真に斜線で書かれた範囲は、全体からみると、必ずしも広くは見えないですが、それは主観的な評価の問題なんですね。そこにあったという前提で書かれているのですね。

証人: ・・・(・・・はい? 聞き取れず)

弁護1: 癒着胎盤の程度について、二分の一程度であると。それは、絨毛が子宮筋層の二分の一まで入り込んでいたということをお書きになったのですね。あるいはそういうS鑑定の結果を前提に書かれているのですね。

証人: はい

弁護1: 今の二分の一程度、子宮筋層に入り込んでいた、とお考えになっているのは、先ほど写真で示された、どの部分なのですか? 斜線が全部、そうだということですか

証人: そうは思いませんが、あの部分の枠の中だと思います。

弁護1: 先ほど検察官が示した癒着胎盤の甲6添付の写真No.5、証言、えー、S写真の貼付の写真5,青い斜線がひいてある、この部分が癒着していたということですか

証人: はい

弁護1: で、この部分のどの範囲が二分の一と考えているのですか

証人: それは、わからない

弁護1: わからない。では、写真3、ここでも青い斜線がひいてありますね、これが癒着の範囲であると。では、この部分のどの範囲が二分の一ですか証人: それは私が鑑定書を書いた段階では、わかりませんでした。

弁護1: わからないのに、先生は二分の一はいっているという前提にお書きになったのですか

証人: それはS鑑定に、二分の一入った嵌入胎盤と記載があったからです。

弁護1: 二分の一、絨毛が子宮筋層に侵入している嵌入胎盤と、S鑑定には書いてありますね。先生はそれを前提に、困難とか、そういう癒着胎盤だという判断をされたわけでしょ。ですから、二分の一の範囲はどこか、というのは、極めて重要、先生の鑑定意見を書くにあたって、重要なことなわけです。そうですよね。ですから、どの部分ですかとお訊きしているのです。

証人: わからない

弁護1: わからない、というよりも、S鑑定で、二分の一、絨毛が子宮筋層に入っていた、そして癒着胎盤の範囲はここである、と書いていたから、むしろ先生の鑑定書の記載は、癒着をしている部分は、二分の一、癒着をしていることを前提に書かれているのではないですか

検察1: 証人はS鑑定を参考にした、他のことも考慮した、それだけで鑑定したとは言っていない。

弁護1: 異議は理由になりません

裁判長: 棄却します

弁護1: 先生は、他のことも参考にして、子宮筋層への侵入への程度を判断されたと。では他の何を参考にして子宮筋層への程度を判断されてますか。侵入の程度については。

裁判長: 異議だったら、はっきり言ってください

検察1: 程度については、剥離困難の程度において、他のものを参考にしたと・・

弁護1: 侵入の程度について、きいています。

裁判長: 異議を棄却します

弁護1: 先生は、どこが二分の一か、わからないと。S鑑定にはどこが二分の一なのか、書かれていないわけです。書いていないけれど、先生は二分の一を前提にしたのですよね。どの範囲について二分の一か。癒着している全体が二分の一だということを前提にして鑑定書をお書きになったのではないですか、と訊いているわけです。

証人: 鑑定書の・・・他にもある(聞き取れず)(私も聞き取れていません)

弁護1: 侵入の程度について、何を参考にされたのですか

証人: S鑑定です

弁護1: 他には、ないですよね。S鑑定しかないんですから。でも、どの範囲が二分の一か、書いてないですよね。

検察1: 異議あり、繰り返しです

弁護1: 訊いているのに、はっきりと答えられないから、お訊きしているのです

裁判長: 異議を棄却します

弁護1: 二分の一、というのは癒着胎盤の、どの範囲が二分の一と鑑定書をお書きになりましたか

証人: ・・・

検察1: 誤導です。このマッピングした写真をみて、証人は鑑定書を作成していません。

弁護1: 写真は異なるが、二分の一については離れていません。

裁判長: ではその写真を離れて

弁護1: では先生がお考えになった、鑑定書を作成した時、癒着の範囲というのはどういう範囲だったのですか。そういうことしか言えませんよね。

証人: はい

弁護1: では範囲についてお伺いします。広い範囲で癒着があった、具体的にはどこですか

証人: 私はS先生が絨毛が残っていたと言われた場所、と考えていました。

弁護1: S先生がいった、絨毛が残っていた場所というのは、写真の中で番号をふってあって、赤い数字が書かれた部分ではありませんか

証人: そうです

弁護1: ではその部分を示して頂きたいですがよろしいですか。次の絨毛が残っていると指摘された部分を書いた、それが、甲6の写真7。S鑑定の写真7を。書き込みが。この赤い数字で書かれた部分が先生は癒着の範囲だと考えたということですね

証人: はい

弁護1: 癒着の範囲はわかる。では程度は、S鑑定では二分の一といっています。赤い数字のどの部分が二分の一ですか。

証人: わかりかねます

弁護1: わかりかねる、というのは、S鑑定ではどの部分が二分の一か書いていないからですね

証人: はい

弁護1: どこかが二分の一かもしれないが、全体が二分の一でなかったかもしれない。しかし一方、先生はわかりかねると言いながら、いちおう癒着の範囲は赤い数字で書いたところ、程度は二分の一、とかいてあります。するとここが二分の一、かもしれないわけですよね

検察3: 異議あり、先ほどら、どこかわからない、と証人は言っています。弁護側が全ての範囲が二分の一だと押しつけています。

弁護1: 質問を変えます。先生はどの部分が二分の一か確認しないまま、鑑定書を書いたのですね

証人: はい

弁護1: 病理的に、子宮筋層の半分まで絨毛が侵入している、入り込んでいる、ということについて、通常どのような方法で判断されますか

証人: 顕微鏡的に見て、判断する

弁護1: つまり、子宮筋層のどの部分まで絨毛がはいりこんでいるか、組織標本を顕微鏡で見て、判断されるわけですね

証人: そうだと思います

弁護1: S証人は、顕微鏡標本をご覧になり、胎盤に絨毛が子宮筋層の何割まで入っているから、何割ほど癒着しているとか、そういう判断方法をとるは、可能でしょうか? 今先生がおっしゃったのと同じ方法ですね。今の質問はおわかりですね

証人: わかりかねます

弁護1: 先生は、標本をみて、子宮筋層のどこまで絨毛が侵入しているかによって癒着の程度は判断すると言われましたね。調書の328頁にもあるように、顕微鏡をみて、絨毛が子宮筋層のこのあたりまで入っているから、何割癒着か、判断することが可能か、という質問を受けたのですが、先生は可能、と言いましたね。

証人: そうです

弁護1: 先生はそういう方法で判断すると。けれどS証人は、それは難しいと答えています。S鑑定はそういう方法で絨毛の侵入具合を判断していない。そのことはご存じでしたか

証人: 鑑定書作成時点には、わかりませんでした

弁護1: S医師は、ホルマリンで固定された子宮の標本を観察されて、胎盤が残存している、つまり胎盤があったとされる子宮壁の厚さと、癒着のなかった同じ位置の、あるいはこれに相当する他の部分の子宮壁の厚さを比較して、半分くらいに薄くなっているから、胎盤は子宮筋層の二分の一程度入っている、こういうふうに証言されているんですよ。こんな手法で胎盤の侵入の程度を判断されるってことを、先生はお聞きになったことがありますか

検察3: 異議あり、主尋問の範囲外です。S鑑定については

弁護1: 程度の問題をきいています

裁判長: 異議を棄却します

弁護1: そういう方法で判断されること、先生はご存じですか

証人: 私は知りません

弁護1: 先生は、胎盤が前回の帝王切開創にかかっている所見があると、鑑定書にお書きになっていますが、所見とは何ですか

証人: それは、S先生の鑑定です。K先生の供述調書も参考にしました

弁護1: K医師は、供述でどういうことを言っていますか

証人: 隣の町の先生に応援を頼む電話をしたときの内容に、前回帝王切開創にかかっている、と聞いたように思う

弁護1: K先生は、先輩である双葉厚生病院のK先生に応援を依頼するにあたって、たいしたことがないのに依頼するのは失礼だから、自分では、胎盤が前回の帝王切開創にかかっていないと思ったが、かかっているかもしれない、というふうに電話をしたと言っていますが、そのことは先生はお聞きになったことがありますか

検察1: 異議あり、そういう立証はされていない

弁護1: 聞いたことがあるかないかという事実を聞いているんですよ

裁判長: 棄却します

証人: 私は与えられた資料だけを参考にしました

弁護1: 聞いていない、ということですね。病理鑑定をした、S証人が、今回の帝王切開創にかかっていたという、捜査段階での供述を、この法廷で、かかっていなかったと変更しているが、先ほどの鑑定書は胎盤が今回の帝王切開層にかかっていることを前提に書かれたものですか。S先生の前の供述やなんかを参考に書かれた、そのままということですか

検察1: 異議あり、S先生は証言を変えたわけでは・・・K医師ではないと・・

弁護1: K医師ではなく、S先生ですよ。S先生は法廷での証言は、今回の帝王切開創にかかっていないと変えましたよ

検察1: 前回の帝王切開創にかかっていない、という誤導です

弁護1: 今回の帝王切開創にかかっていないという、前の段階の供述を、と言っています。

裁判長: 異議を棄却します

弁護1: S証人は胎盤が今回帝王切開創にかかっていたという捜査段階の供述を、この法廷ではかかっていなかったと変更していますが、先生の鑑定書は変更前の段階のままですか

証人: そうです

弁護1: 先生は用手剥離困難、または不可能な癒着胎盤を無理に剥離してはいけないとお考えですね

証人: はい

弁護1: その根拠は、ひとつは先生の、三十年前の大出血の例、それからそのとき無理に剥離してはいけないと言われたと、それがひとつの根拠ですか

証人: ええ

弁護1: それから、文献で書かれている、それがひとつ。あるいは大野病院の事故調査報告書も影響していますか

証人: そうです

弁護1: 先生自身、ご自分の臨床医としての経験、一回しかない癒着胎盤の経験の時には、先生は第二、第三の助手で、先生自身が執刀されたわけではないですね。先生自身の医者としての執刀医としての経験に基づいたご証言ではないわけですよね

証人: はい

弁護1: あるいはそういう執刀医としての経験に基づいた判断ではないわけですね。

証人: はい

弁護1: 成書、と言われたのは、教科書のことですか

証人: はい

弁護1: そういうもので書かれている、施術方法というのは一般的なことで書かれているのであって、臨床の現場ではいくらでも違う方法が行われている、それは先生もご存じですね

証人: はい

弁護1: 成書では、臍帯を引っ張ってはいけないとされていますが、でも臨床の現場では臍帯を引っ張るということは普通に行われている

証人: 軽く引っ張ることとされています

弁護1: 用手剥離が困難あるいは不可能というのは、いつの時点で判断されるのですか

証人: 帝王切開で、明らかなもの、穿通しているものは剥離を始める前に・・・(以後書き取れず)

弁護1: つまり、用手剥離を始める前に、穿通胎盤とわかる場合には剥離しないですね。用手剥離困難とは、具体的にはどういう場合をいうのでしょうか

証人: 用手剥離を進めていく・・

弁護1: 剥離前にわかる場合はどうやってわかりますか

証人: 子宮表面から太い血管があるとか、胎盤が透けて見えるとか、そういう場合には穿通胎盤か深い嵌入胎盤。

弁護1: 剥離開始後はどうですか

証人: 強固な癒着で、手ではがせなければ剥離不可能と判断する

弁護1: しかし、剥離が困難というのは。剥離不可能は、できないことですよね。剥離してしまったら、不可能とは言えないですね。

証人: そうですね

弁護1: 剥離困難とはかなり主観的なんですが、誰が判断するのですか

証人: それはそのときの術者です

弁護1: 先ほど先生は、後どの程度か、術者にあとどのくらい残っているか、どの程度、というのは、判断できます?

証人: できる場合もあるしできない場合もある

弁護1: やってみなければ、わからないということが多分にありますね

検察1: 異議あり、できるかできないか、は証言の範囲をこえています

裁判長: 質問を変えて

弁護1: 今の前提では、用手剥離が困難あるいは不可能というのは、癒着胎盤の定義に即すると、どういう場合ですか

証人: 穿通あるいは嵌入胎盤の場合

弁護1: 嵌入胎盤でも程度がありますが、程度が重い場合、程度が軽い場合。先生の考えでは、嵌入胎盤の時はどういう場合でもいけないという前提ですか、嵌入の程度によってかわりますか

検察1: 重いというのがどういうことをさされているのか

弁護1: 嵌入の程度ですから。子宮筋層の中で何割、数量的にどのくらい入っているかによって、剥離してはいけない場合か剥離をしても大丈夫な場合かに違いがあるのですかという質問です

検察1: えっと、数についてのことですか

弁護1: 侵入の程度ですよ。

証人: 私が調べた範囲内では数字の記載されたものがありません。私には判断しかねます

弁護1: 記載されていない

証人: はい

弁護1: だから先生には判断しかねる

証人: そうですね

弁護1: しかし、嵌入胎盤はですね、確かに子宮筋層に深く入り込んでいる嵌入胎盤のことはありますが、子宮筋層にわずか二割程度侵入しているような嵌入胎盤の場合には剥離してもいいというふうにお考えになりませんか

証人: そう思います

弁護1: 今回の子宮筋層のどの程度胎盤が入り込んでいるか、胎盤病理の専門家の中山先生が鑑定されているのをご存じですか

証人: 知りません

弁護1: 中山先生は、先生がおっしゃったように、子宮筋層をプレパラートでみて、どこまで入っているかちゃんとみて、五分の一程度と判断しています。そういう前提にたって

検察2: 異議あり、前提が明確でないのに範囲を度外視して、安易な程度のみで言っています。前提が立証されていないにもかかわらず、包括的に質問しています。

裁判長: 異議が出たので質問を変えてください

弁護1: この証人には、ここまでで結構です。今の嵌入胎盤について、嵌入がどういう具合、程度、範囲なのか、後で病理検査で初めてわかるということが、施術中にはなかなかわからないのではないですか

証人: そうです

弁護1: つまり、術者の判断に委ねられているのが臨床の現実ではないですか

証人: そうです

弁護1: 先生は鑑定書で、癒着胎盤が強く疑われた場合は、帝王切開時、児の娩出後、胎盤を剥離せず、子宮摘出に移行するとされている、と述べています。これは文献からの引用ですね。

証人: これは文献を参考にしましたが、私の文です。

弁護1: これは今の、胎盤剥離前に癒着胎盤と判断できた時の場合ですね

証人: そうです

弁護1: 先生は鑑定書で、癒着胎盤について、胎盤剥離中に大量出血をきたした場合、双手圧迫、子宮内へのガーゼ充填、内腸骨動脈の結紮など止血操作を行う、と書かれていますね。この場合は、胎盤剥離を中断して止血操作、その後の胎盤剥離を行うのですか、それとも胎盤剥離を終了させてから、止血操作を行うということですか

証人: それはケース・バイ・ケースだと思います

弁護1: 両方ある。そうすると、ケース・バイ・ケースそれを使い分けるのは、誰ですか

証人: 術者

弁護1: 本件でいえばK医師が判断するということですね

証人: そうです

弁護1: 先生の先ほどの証言の中で、胎盤を剥離中に用手剥離が困難なとき、不可能のときでなく困難のとき、子宮を摘出すべきである、とありますが、どういうことですか。

証人: 一般論ですが、癒着の範囲、場所にもよります。

弁護1: でも、範囲、程度、はなかなか手術中にはわからない。そういう段階で中止して子宮摘出するということになると、日本中でたくさんの子宮をとることになりますか

証人: ならない

弁護1: 子宮をなるべく残して欲しい、挙児希望の強いときはどうですか

証人: そういうときには、摘出を最初からは行わないこともあります

弁護1: 双手圧迫は胎盤が剥離されないとやりにくいのではないですか

証人: 胎盤がないときより、あったほうがやりにくい

弁護1: 用手剥離中、癒着胎盤を認めた場合、剥離を進めるか、やめるかどうかは、術者が判断すること、と先生はお考えですね

証人: はい

弁護1: K医師は、胎盤を急いで剥離して止血をはかる、子宮収縮による止血効果を考えているが、そのように考えること、胎盤をとって、子宮収縮による止血を期待はおかしいことですか

検察2: 異議あり、癒着の場所の情報がないのに質問しています。報告書にあった場所についても情報をいれるべきです

弁護1: 私は今回の事案そのものについてきいています。

裁判長: 異議を棄却します

証人: 私はそれも一つの考えだと思います。が、私は、今回は、カルテ記載や供述から、クーパーが必要で剥離が困難だったのではないかということ、剥離に十数分かかったことを考え合わせると、無理な剥離だったんじゃないかと思います。この場合には剥離をやめて、子宮摘出にうつるべきだったのではないかと、思うわけです。

弁護1: 今回は全前置胎盤?の症例で、剥離中の出血は2000ml、羊水込み。この方は胎盤が大きめで羊水も多かったと思われますが、それでも出血量から剥離中止し子宮摘出にしたほうがいいというふうにお考えですか

証人: 出血量だけではないというふうに考えます。

弁護1: 胎盤剥離途中で、2000の出血であったが、その後の出血量がどれくらいか予想できますか

証人: できません

弁護1: 胎盤剥離にクーパーを用いてはいけないと、先生はお考えですか

証人: 判断しかねます

弁護1: 先生が鑑定書をお書きになった時点では、いけないとお考えになっていたのですね

証人: 鑑定書を書いた時点で、クーパーについて文献に書いていなかった。胎盤は用手的に剥離するもので、器具を使わなければいけないのは、用手的に困難ということであると。そのように記載していました。

弁護1: クーパーを使うことそのものがいけないと言っているのではなく、手で剥離できないからクーパーを使った。だから用手的に剥離が困難だった、だからいけない、と、そういうことですね

証人: そういうふうに記載しています

弁護1: 先生のお考えをきいているのですが、先生はクーパーを使う剥離方法がいけないというのか、用手でできないからクーパーを使ったからいけないとお考えなのか

証人: 用手をつかってできないから、クーパーを使った。

弁護1: どんなふうに、K医師がクーパーを使ったか、ご存じですか

証人: わからない

弁護1: 先生が手術中にクーパーをお使いになるとき、どのような使い方ですか

証人: 組織を切るのに使います

弁護1: 今回も組織を切るためにつかったとお考えになったのではないですか

証人: 違います

弁護1: しかし、先生の鑑定書では、「クーパーで剥離した切断端からの持続的な出血」とあるので、クーパーで、切断をした、と明かに書いてありますね。そういうふうにお考えになった事もあるのではないですか

証人: それは私の記載の間違いで、切断した端ではなく、クーパーで剥離した端、ということです。

弁護1: どんなふうに使ったかわからないということでしたね。クーパーの先端は、術者であるK医師に見えていたと思いますか

証人: わかりません

弁護1: どういう前提でですか

証人: クーパーで剥離するのは出血しない場所、明らかに見える部分の膜状の癒着の剥離に用いる。

弁護1: 明かに目で見えるところであれば、使うこともある、ということですね。K医師は、クーパーについて先端が見えていると言っていますが、先生はご存じでなかったのですか

証人: 与えられた供述書では、ない・・そういう記載はなかった・・と思う。

弁護1: 先生は、子宮筋層を傷つけることが、出血の原因と、傷つけることについて先ほど答えておられましたね。今回の中で子宮筋層をクーパーで切りつけた記載がありますか

証人: わかりません

弁護1: わからないのではなくて、ないのではないですか

証人: 与えられた資料の中にはない

弁護1: 被告人は、子宮を傷つけないようクーパーを使った、と言っていますが、ご存じでしたか

証人: 鑑定書を書いたときの資料にはなかった

弁護1: 用手剥離だと、子宮筋層と胎盤の両方に力を加えてしまうが、クーパーでは局所的なのでかえって子宮筋層を傷つけない、ということがありませんか

証人: わかりません

弁護1: 現在先生の鑑定書を読む限りでは、クーパーがいけないと書かれていますが、現在も考えに変化はありませんか

証人: それは、わかりません

弁護1: 先生のお考えは前の通りなのかどうかという質問なので、わからないということはないのではありませんか

証人: 鑑定書を書いた時点では、そのような成書の記載もないのでいけないと思っていました。最近色々な周産期の専門家が、色々な方法の剥離もありえると言っていた。エビデンスをもって示されるのなら、意見に耳を傾け、考えを改めるということになると思います

弁護1: 先生は、鑑定書で、胎盤剥離後子宮の損傷部から約7000mlの出血が認められたと。先生はこの出血の原因として、止血不十分とDICが考えられるということですね

証人: はい

弁護1: 麻酔表によると、午後4時15分に12480ml、午後5時15分までの、一時間で5000ml弱の出血がありました。そのことはだいたいおわかりですか

証人: はい

弁護1: この出血について先生は、鑑定書の中で、新たな骨盤内の臓器の損傷か、DICを発症したため子宮筋層断端からの出血か判断しかねる、とありますが、ご記憶ですか

証人: はい

弁護1: しかし、入院カルテの記載にもK医師、助手のM医師の記載では、大血管損傷は記載されていなかったのではないですか。出血の原因は産科DICの可能性が高いのではないですか

証人: 術者が気づかない臓器の損傷、出血の可能性もあります

弁護1: しかし、その後の検討でも記載されていないですね

証人: しかし、解剖がされていないので、わからない。

弁護1: 入院カルテでもK医師の供述でも、大血管の損傷などは記載されていないのではないですか。証拠上ないものに基づくよりは、もう一つの考えられる原因、凝固の問題、産科DICの可能性が高いということになりませんか

検察2: 異議あり、重複になります。

弁護1: 鑑定書の別の場所で、先生は出血量及び血小板数から判断すると子宮全摘術に移行した午後5時30分には、DICまたはDICに近い状態にあったと考えてもおかしくない、と書いておられますね。DICの病態として、鑑定書の中で、「DICがおこると、ひどい出血傾向がおこる」と。機序について説明がありますが、原因について、種々の機転としか説明がありませんが、どういう機転でDICはおこりますか

証人: 大量出血により血液の凝固因子が失われる、あるいは、羊水塞栓、あるいは種々の疾患で体の末梢での凝固因子の消費

弁護1: 鑑定書の中で、羊水塞栓のとき、特有の症状である、呼吸困難や胸内苦悶がカルテや麻酔チャートに見当たらない、と書かれていますが、羊水塞栓で必ず発生するものですか

証人: ないときもありますが、大多数の症例では出るといわれています

弁護1: しかし、羊水塞栓の初発症状として呼吸困難や胸痛は良く知られていますが、頻度は27.5%から51%、出血や血圧低下、けいれんで発症することも少なくない、と、書かれているのではないですか。すると、必ず発生するというわけではないですね

証人: そういうこともある

弁護1: 妊産婦におこった急性呼吸循環不全、DICがおこった場合、まず羊水塞栓の疑うことが必要、このように学会機関誌に書いてありますがご存じですか

検察2: 異議あり、正しいかどうか不明

弁護1: 言われているのはご存じですか

証人: はい

弁護1: 先生は呼吸困難や胸内苦悶の記載がないこと、羊水塞栓が陣痛開始後におこることが多いとされていることから、陣痛開始前に帝王切開された本件において、羊水塞栓発症の可能性は低いといわざるを得ない、と鑑定書にお書きになっておられますが、今の文献の記載から、羊水塞栓の発症を疑ってもおかしくないのではないですか

証人: 本件のような大量の出血のない場合は、そういうことを考えても良いが、本件はまず大量の出血が存在するので、そういうことより出血を考える。

弁護1: 先生は先ほどの証言で、胎盤娩出後、もっと早く子宮摘出をされたほうが良かったということでしたね

証人: はい

弁護1: でも、先生も麻酔表で胎盤娩出後の血圧の状態はおわかりですね

証人: はい

弁護1: 胎盤娩出後の血圧の状態で、子宮摘出術が可能だったのですか

証人: 困難だと思いましたが、その時点で出血が止まっているかどうかが一つの判断材料であると考えました

弁護1: 困難だと思うけれどできた、ということですか

証人: 困難ですけども、出血を止めることが一番大事だと。仮に出血がなければ、子宮をとる必要もなかったのです

弁護1: 麻酔チャートにあらわれたような血圧の状態では、むしろ子宮摘出のほうが生命の危険が大きいのではないですか

証人: 出血の状況にもよると思います。出血が止まるのであれば、そうでもない

弁護1: 今日の証言で、先生が癒着胎盤について述べられたことは、医学文献に基づく知識である、ということでよろしいですか

証人: はい

裁判長: では、まだ若干あるので、15分休憩、25分から再開とします。

【弁護側 反対尋問続】15:25〜

裁判長: だいぶお疲れのところですが、再開いたします

弁護2: 特別弁護人の澤からお尋ねします。

裁判長: 専門家の判定は、引き継ぎでは何もしないと聞いている

検察: 何もしないというのではなく

弁護:   (やりとり、あまり聞き取れず)

裁判長: 直接の質問はされないということなので、主任の方からでよろしいですか

弁護3: では、弁護人の水谷からお伺いします。先程話が出ましたが、呼吸困難や気分不快は、DIC兆候を示す症状ですか

証人: DICの時にもそういう症状が出ます

弁護3: DICスコアをご存じですね

証人: はい

弁護3: DICスコアには気分不快や呼吸困難が書かれていることをご存じですか

証人: はい

弁護3: 証人は鑑定書作成時、患者さんが胎盤剥離中、気分不快を訴えていたのは知っていますか

証人: 私が覚えているのは、胎盤剥離中ではなく、ショックになったときに気分不快を訴えたので、全身麻酔に変えたということです

弁護3: 被告人は、供述調書で剥離中気分不快があったと供述しているが、ご覧になっていますか

証人: 記憶にありません

弁護3: 胎盤剥離中に気分不快があったのは、DIC発症の可能性を示すとしてよろしいですか

証人: 可能性はあります

【検察側尋問】

裁判長: よろしいですか。では、再尋問で。

検察1: 証人の専門は腫瘍だということで、証人は鑑定人を引き受ける上で、周産期の専門家でないと警察にことわったのですね。

証人: はい

検察1: 証人は鑑定について、専門分野はどのような関係がありますか

証人: 案件によります

検察1: 案件のどのような違いが引き受けるかどうかの違いになりますか

証人: 内容が産婦人科からかけはなれた、専門性を求めるかどうかです

検察1: 具体的には

証人: 例えば、新生児とか

検察1: 証人は産婦人科の専門医ということで、鑑定を受けるにあたって、高度な専門性を求められた症例は、本件以外に鑑定を行われた7例の中に、婦人科以外の疾患はありましたか

証人: 一般的な産婦人科の症例でした

検察1: 証人の知識と経験で、鑑定した結果、専門的な判断ができないことはありましたか

証人: 一つ二つ、判断できないので専門医にみてもらいたいということがありました

検察1: 結論として鑑定しなかったことはある、ということですか

証人: はい

検察1: 今回の事案について鑑定を引き受ける際にはどうでしたか

証人: 一般的な癒着胎盤の出血で、調査委員会の立派な報告書がありましたので、それを参考に調査すれば可能と考えました。

検察1: ちなみに証人が判断できない高度な鑑定とは、どのような鑑定ですか

証人: 自分の鑑定が正しいかどうか判断できないが、私は、まあ、一般的な産婦人科医のレベルで出来る範囲をやりました

検察1: 事故調査委員会報告書をご覧になりましたか

証人: はい

検察1: それを引き写したりしましたか

証人: 参考にはしましたが、引き写したわけではありません

検察1: 証人自身が鑑定資料をみて、判断された結果をまとめられたのですね

証人: そういうところもあるが、調査委員会報告書を流用というか、かなり参考にしたところもありますが、トータルとしては自分で判断しました。

検察1: 午前中にも超音波の写真をみましたが、証人はエコーの写真をご覧になったことがありますね

証人: はい

検察1: 癒着の指針について様々な文献があるということですが、鑑定にあたって証人は文献をお読みになりましたか

証人: 種々の文献をみました

検察1: 鑑定時に文献をみましたか

証人: はい

検察1: 患者さんの超音波検査の鑑定については文献を見ましたか

証人: はい

検察: どなたかに意見を求められましたか

証人: 勤務病院の専門家に相談しました

検察1: どの立場の専門家でしたか

証人: 周産期センターの医師です

検察1: 証人はその勤務されている医師の意見を聞いたことについても、鑑定書の根拠にされましたか

証人: 参考にしました。

検察1: 癒着について、エコー検査の写真は自身で撮影しなくても、ご覧になりますか

証人: あります

検察1: その際、超音波検査を見て、話し合い、検討したりしますか

証人: あります

検察1: あと、N大の癒着胎盤の3例については、ホームページ上に報告がありますが、よろしいですか

証人: もっと多数について検討した内容だと思います

検察1: 3例というのは把握されていますか

証人: そうです

検察1: その症例については病理組織診断をされていますか

証人: いいえ

検察1: 病理検査を行わず、癒着胎盤の程度はわからないのではないですか

証人: わかりません

検察1: 患者さんの癒着胎盤が、どの程度癒着かということについて、問われていましたが、そもそも臨床の際に、癒着の重要な診断のポイントはどういう点ですか

証人: 胎盤剥離不可能または困難ということです

検察1: 胎盤剥離困難または不可能のとき、そこで胎盤が楔入か、嵌入か、深さは考慮いたしますか

証人: すみません、もう一度言ってください

検察1: 胎盤の用手剥離困難または剥離不可能のとき、胎盤の癒着の程度、嵌入胎盤かどうかを判断するものですか

証人: 私が言っているのは、教室の医師にいつも言っているのは、無理に胎盤を剥離すると大出血するので、慎重にやれ、と言っている。

検察1: どの程度の癒着か考えるものですか、そしてそれが重要ですか

証人: 癒着の範囲は参考にしますが、癒着の深さはそのときはわかりません

検察1: 深さについて判断するのはいつですか

証人: 子宮をとった後です

検察1: 用手剥離困難または不能のとき、不能とはできないことですが、困難な場合、とはどういうことですか

証人: それは、困難なとき・・

検察1: では、無理な用手剥離というのはどんなことですか

証人: それは、すーっと剥がれなくなったときには、ヘンだなと、無理に剥離をするなと。その場所が広いというときには特に。うんと範囲が狭いとやってしまうこともあるが・・。抽象的だがそうとしか言いようがない。

検察1: 用手剥離とはこういうもの、と話して貰っていましたが、通常の剥離ができないところを剥離するのが、無理な剥離ということですね

証人: そうです。

検察1: 先程証人がおっしゃった、やってしまうこともある、というのはどういうことですか

証人: 何平方メートルというより、そのときの術者が判断することです。術者の判断で、可能だな、というときは、剥離することもあります。

検察1: 証人がおっしゃった、狭いとうのと、うんと狭いというのはどう違うのですか

証人: 何とも言いようがない。文献もなし、やられた方に訊いても答えられない。

検察1: 狭い、またはうんと狭い範囲の剥離したところ、出血、ということはありますか

証人: でることもおそれはある。

検察1: 手技をするかについての判断は、どのような事を念頭に決定するものですか。

証人: 私はできるだけ、安全な医療を目指して、出血しないような方法でやってほしい、と常々言っています。

検察1: 具体的にはどういうことですか

証人: 癒着胎盤を無理に剥離すると大出血するということです。

検察1: 大出血したらどうするのですか

証人: すぐ止血措置をするが、生命の危機もある。

検察1: 証人は、より安全な医療を前提とした判断をしたということですね

証人: そうです

検察1: S鑑定書、供述書で今回癒着胎盤の範囲と、今回の帝王切開創の位置関係がどうなっているか、ご覧になったことがありますか

証人: 記憶にありません

検察1: 証人は、鑑定時、位置関係については何を参考に判断されましたか

証人: K医師供述書、子宮標本についてのS鑑定にある赤い番号の部分、前回帝王切開創も近いので、それを見ました。

検察1: 今回のS鑑定の癒着の範囲は、赤い番号を前提にしましたね

証人: はい

検察1: 証人は、他の資料を含めてどういうお考えをもったのか、

証人: ・・・(聞き取れず)

検察1: 被告の供述で、剥離時間はご記憶ですか

証人: 覚えています。

検察1: 癒着の程度、嵌入・楔入の程度はいかがでしょうか。S鑑定、被告人の供述調書、剥離時間から考えてどうですか

証人: S鑑定のみ参考にしました。

検察1: 剥離時間は15分なので、広いと。分類上も嵌入ではと考えたのではないですか

証人: それは判断いたしかねます

検察1: 判定はS鑑定では、嵌入胎盤と診断されているのは覚えておられますか

証人: 覚えています。S先生の鑑定書には、嵌入としかなかったので、私は赤い数字の部分がそうかと思ったのですが、正確には同定できません。

検察1: 鑑定書の段階で、クーパーを用いた胎盤剥離とは、どのようにクーパーを用いたか、推測は可能ですか

証人: 正しいか、間違っているか判断しかねるが、推測は可能です。S鑑定では、剥離は手で行ったのか、クーパーを使用したか不明とありましたので、こするようにしたのか、と推測しますが、わかりません。

検察1: S鑑定の記載の中で、予想される生創機転について、鋭利な刃物ではなく用手剥離または鉗子という記載があったことを覚えていらっしゃいますか

証人: はい

検察1: 証人はその記載を前提に鑑定をされたのではないですか

証人: そうです

検察1: クーパーを使用した剥離の際に、クーパーの先端が視野にはいっていたかについてはどうお考えですか

証人: わかりません

検察1: 子宮内面から出血があるときは、クーパーの先端が見えにくくなることはないですか

証人: 普通出血があれば、視野には入りませんが、血液を全部吸引したら視野に入ります。それと出血の程度によります。

検察1: 出血が多ければ見にくいのですね

証人: そうです

検察1: 証人は鑑定書の中で、出血量5000mlと記載されましたが、その根拠についてご記憶ですか

証人: はい

検察1: 証人はカルテの記載を見たので、そう記載されたとおっしゃっていましたね

証人: はい

検察1: カルテをご覧になって、麻酔チャートの出血量との整合性は判断されましたか

証人: しませんでした

検察1: 妥当な数字かどうかについてはどうですか

証人: 出血量については、その時点の数値というより、その前後の数字を考えていました。胎盤剥離の前後の5分、10分に、それくらいの出血を認めたと考えました。

検察1: また別のことを伺いますが、本件は胎盤の付着部位が、前置胎盤?ということですが、子宮から胎盤を娩出し、子宮収縮により止血効果があることについて、確認したいのですが、どうですか

証人: 子宮頚部の子宮の収縮は、他の部分と違いがあります。

検察1: 子宮頚部の子宮収縮は、他の部分に比べてどうですか

証人: 子宮頚部は子宮体部に比べて収縮しません

検察1: 死因についてですが、証人は鑑定書で、死因について、大量の出血による心室細動、出血の原因として、胎盤をクーパーで剥離した際の出血、とされていますが、今も結論に変更はございませんか

証人: ありません

検察1: 産科DICについては、どのようなことから判断しますか

証人: 全身の血液が止まりにくい状況からです

検察1: 点滴の部分からの出血はその際に参考になりますか

証人: 一つの症状であります。全身の血が止まらない症状、点滴刺入部、創からの出血ということもある

検察1: coagulaが認められるかは、判断になりますか

証人: いつcoagulaができたかによります

検察1: coagulaとは何ですか

証人: 出血した血液が、凝固因子により豆腐のように固まる。どの時点の出血によるかによる。産科DICは、coagulaが存在するのは、凝固因子があるときの出血でみられます。

検察1: 産科DIC、羊水塞栓の可能性も考慮した上で、死因は判断されていますね

証人: 大量出血があるので、他の可能性もありますが、その中で一番可能性があるのが、出血ということです

検察3: エコー検査について質問します。証人はエコーの所見によって患者さんが癒着胎盤の否定の確定診断はできたと考えますか。何%でしょうか

証人: 可能です。が、臨床的には、100%完全ということはないと思います。

検察2: 証人は癒着胎盤の診断は無理と言っておられるようですが、一方で、ケース・バイ・ケースということですね。しかしその場合について、具体的に訊かれると、癒着の範囲や程度について、さらに具体的に訊かれると証人はなかなか答えられない、ということですね。確認したいのですが、午前、午後にきかれているが、エコー、MRIで、確定的に癒着胎盤であるという診断はできないということですね、

証人: 100%はできません

検察2: 剥がれにくい胎盤を用手的に剥離していく中で、どの程度癒着が深いか広いか、確定的には判断できないということですね

証人: 範囲はある程度予測できるけれども、深さは難しい。

検察2: 最終的には、病理検査を経て明かにされるということでしたね。

証人: そうです

検察2: そうしますと先程の弁護人の質問をきいていましても、たとえば、嵌入胎盤の深さが筋層の2割なのか5割なのか、そういうことを前提に剥離をするかしないか、という議論は意味がないんじゃないかと思うのですが、いかがでしょうか。

証人: そうですね。嵌入の程度は後から

検察2: 剥離してみないと、わからないということですよね。

証人:そうです

検察2: で、癒着胎盤の怖さというのは、先程から先生がおっしゃるように大量の出血に至る場合がある。ということで、証人としてはこれを念頭において無理な剥離をするな、という理解でよろしいですか

証人: よいです

【弁護側再反対訊問】

裁判長: ではよろしいですか

弁護1: 弁護人の平岩からお尋ねします。先生は今、N大学の医局検討会で、3例の癒着胎盤をききましたが、先生の答えはもっとたくさんあったと。医局検討会は前置胎盤?症例における癒着胎盤の術前評価、ということで、34例の前置胎盤?の症例でうち3例の癒着胎盤ということでしたが

証人: 他にもありました

弁護1: いえ、ホームページで出されているものは、トータル34例、うち癒着胎盤3例でした

証人: 他にもありました

弁護1: 文書で公表されているものと違うということですか。34例のうち、癒着なしが31、ありが3、こういうことを出されていますね

証人: はい

弁護1: 癒着は34例中3例でしたね

証人: はい

弁護1: エコーについてですが、エコーは基本的には動画ですよね

証人: そうです

弁護1: 動画を見ながら医者が総合的に判断する、写真は一時停止で写真にとっている、動画全体をみている術者の判断が重要ですね

証人: はい

弁護1: 先生も癒着胎盤の成書をご覧になって、無理に胎盤を剥がすと、胎盤がちぎれたりする、ということはご存じですか

証人: はい

弁護1: 弁39証

裁判長:示す根拠を言ってください

弁護1: 無理に胎盤を剥がすとどうなるかと、本件の胎盤を比較したい

検察3: 異議、反対尋問の範囲を超えています

検察1: 検察の尋問のどの部分に対する反対尋問か

弁護1: 無理に胎盤を剥がしたらどうなるかを示したい

裁判長: 続けてください

弁護1: 癒着胎盤を無理にはがすとどうなりますか

検察3: 示す主旨を

裁判長: もう示しましたよ

弁護1: この例では、無理に胎盤を剥がしたことで、胎盤がちぎれたりしていませんか

証人: 母体面については判断しかねます。胎児面についてはちぎれていりません

弁護1: ちぎれるというのは、どういうことですか

証人:分葉が取れるということもちぎれると言います。

弁護1: 終わります。

裁判長: これで終わります。証人は退廷ください

検察:期日前整理を行いたい。本日の甲37号証で、T鑑定の作成者が321条に基づいて取調請求をしたい。

弁護: 今日の尋問では、鑑定書の限られた部分についてであるので、今日尋問で出た部分について出された分は良いが、項目で触れられていない部分は、不相当と考える。

裁判長: 具体的にはどの分ですか

弁護: 目的がないので、一番から順にいきますと、1の、鑑定事項は結構です。・・じゃ、もう次回までに回答で良いですか

検察: 誤解があるが、鑑定書は作成されたものを供述したので、申請と作成過程があります

弁護1: こちらの意見です。

裁判長: 特定はできないが、ということですか

弁護: そうです

裁判長: 提示していただけますか

検察: (裁判長に見せる)

裁判長: (戻す)裁判所としては、成立は立証ができているので、採用はいたします

検察: 取調は

裁判長: どのくらいかかりますか

検察: 10分程度です

裁判長: じゃ、簡潔に。

検察朗読: 

【鑑定資料】

 死因は、心室細動による心停止である。心室細動の原因には、冠動脈など心臓疾患、ショック、感電、溺死、低Na、K血症、薬剤があるが、本件では、検査により冠動脈心臓疾患なく、ショックによる循環不全から心筋虚血に至ったと考えている。拡張型心筋症などの疾患はなかった。

 ショックの原因は、不整脈、心原性、羊水肺塞栓、アナフィラキシーがある。羊水肺塞栓の可能性は低い。血管拡張性のショックの可能性も低い。心室細動は継続した出血によるショックで、他の原因は考えにくいため、大量出血による心室細動である。出血の原因は胎盤剥離、クーパーで行った部分からの出血である。

 鑑定の考察追加として、診断についての過誤については、帝王切開術前の検査には過誤はないとする。12月3日、6日の超音波検査の所見から疑っても良いと。前回帝王切開の前置胎盤?症例はカラードップラーを行い、超音波検査、MRIを行うことは専門医の基本的診療であると考える。 MRIの非実施の過誤について、MRIで確定診断を求める必要がある。

 大出血に対応できるため、本件のように5000ml以上の出血がある場合には、5000ml以上の出血に対応する輸血・輸液準備が必要であり、他施設の応援が可能であれば手術をスタートして良い。県立大野病院では、対応可能であるので、手術開始自体は問題と考えにくい。

 用手剥離とクーパーによる剥離について、カルテの記載や判定から、クーパー剥離については判定困難(メモ不十分)

 産科2004年、研修ノート62頁による。子宮が赤黒い等は癒着胎盤を疑い子宮摘出を行う、挙児希望のときのみ、温存的治療が許される。本件は剥離困難の時点で子宮摘出を行う。摘出時期への移行の時期については、剥がしてしまった場合、用手剥離不能の時点で剥離を中止し子宮摘出を行う、胎盤娩出後は輸血などをおこない子宮全摘を行う。胎盤剥離後の出血の一部分はDICによる出血だが、大部分は剥離面からの出血である。

 子宮前壁の血管怒張をもって、本件は癒着の検討を行うべきだった。遅くとも双手圧迫による止血困難であった時点で、血小板含む輸血で状態改善後速やかに子宮摘出すべきであった。

 止血操作は胎盤剥離面の縫合、用手圧迫など一般的なもので、輸血の発注が遅かった。

 執刀医と助手、麻酔医が手術に立ち合ったが、応援に熟練した助手がいれば、クーパーによる剥離を阻止すべきであった。執刀医が応援依頼をしない点は理解不能。助手は産科医でないことから責められない。

 麻酔医は執刀医からどう説明されていたか、術中については出血量など正確な病態把握を行うべきであった。

 帝王切開前の癒着胎盤の判断時期について、精査を行っていれば結果が変わった可能性があった。

 癒着の可能性が早くにわかれば、用手剥離の途中までのときには、内外の医師の応援要請、家族への説明、麻酔医に輸血発注の指示を行い、子宮摘出を行い結果の回避が可能であった。 止血に全力をつくし、子宮摘出に移行したら、救命が可能であった。

 ショックに陥ってから一時間以上経過したため、心停止に至った。

 12月14日の家族への説明時に、high riskとの認識はあったが、癒着胎盤ではあっても必ず死亡する場合ではない。

 予見して処置を行う必要があった。

 家族への説明の不備、カルテの記載が少ない、informed consentの内容が悪い、結果家族がリスクの理解が不十分であったのは説明が悪いためである。

裁判長: 以上です。次回は8月31日の予定です。