第七回公判について(07/8/31)
第七回公判 傍聴記
加藤被告本人の尋問で、今回も福島地方裁判所第二法廷で、午前9時30分から、いつもより30分早く開始された。
午前中は弁護側からの尋問であった。
勾留中の検事の取り調べの調書について、弁護側の尋問がなされた。
胎盤剥離の際にクーパーを使用したことについて、加藤医師はクーパーを使用した方が剥離しやすい、盲目的に剥離するよりよい、もう少しで胎盤剥離が終わるところでもあり、クーパーを使用すれば子宮壁を傷つけることはないと考えて行った。胎盤剥離面をみながら索状物をクーパーでそぐようにしたが、その際、その部分からは出血はなかった。
しかし、検察側はクーパー使用は危険であるとの考えで、このことは違法行為であり、クーパーを使用したことが殺人者の如く取り扱われたことが明らかになった。
加藤医師は、摘出された胎盤をみて、副胎盤と思われ、このことは術前に診断できないことも話したが、調書では副胎盤ではないと書かれたことなど、取り調べでは、やはり冷静になって調書を読んで訂正してもらうことができなかったことを証言した。
重要な点は、癒着していた所は後壁の一部のところであり、前壁にあった胎盤は、用手剥離もクーパー使用することもなく、すんなり剥離したことを証言した。
午後は1時30分より開廷、検察側からの尋問であった。
検察側は、癒着胎盤と診断書に記載してあるが、いつの時点で診断したのかを、しつこく聞いた。また、胎盤が子宮前壁にかかっていたか、付着について聞き、前壁に胎盤が付着していたのならば癒着胎盤を疑うべきではなかったのかを聞いた。
加藤被告本人は、術前のカルテに癒着胎盤の疑いがあると記載したが、超音波をその後数回みて、前壁にも胎盤があるが、前回帝王切開創には胎盤はかかっておらず、癒着胎盤(前壁には癒着していない)ではないと判断し、従ってMRIも施行しなかった(MRIを施行したからといって診断できる可能性も低い)と証言したが、検察側は、カルテに記載した癒着胎盤という言葉に、術前に癒着胎盤を予見していたのではないかと何回も問い詰めた。 また手術開始後、前回帝王切開創が見えていたのではないかと聞いてきた。なぜそれが問題になるのか、前壁に付着していた胎盤は癒着しておらず、すんなり剥離しているのに、なぜ問題にするのか、私には理解できなかったし、手術をしたことのない人が、帝王切開をしたことがあるようなことを言って質問することに大きな疑問を感じた。
手術中に胎盤剥離をしている途中で、クーパーをなぜ使用したか、癒着と気づいたのはいつか、と再び質問し、加藤被告は前述した如く、証言した。
クーパーの使い方まで質問したが、実際にクーパーがそこになく、質問はそこで途切れた一幕もあった。加藤被告は、一環して医療過誤はなかったと証言した。
検察側の尋問は、午後1時30分から5時過ぎても、同じような質問をくりかえし、弁護側が検事側の尋問に対する反対尋問の時間がとれない旨、裁判官に申し入れたが、検察側は尋問を中止せず、裁判官の方はこれを許した。
検察側尋問は予定時間を超過して午後7時まで続いた。一応検察側の加藤被告に対する尋問は終わり、検察側の尋問に対する反対尋問は、後日、弁護側の証人喚問の間に行うことなり、午後7時に閉廷した。
佐藤 章
傍聴記録 詳報
この記録は傍聴人のメモをもとにしております。完全に正確でない部分、聞き取れなかった部分があることをご了承ください。
午前
【弁護側主尋問】
弁護人: 逮捕拘留されたのはいつですか。
加藤医師: 昨年2月18日です。
弁護人: 検察に送致されたのは翌日ですか。
加藤医師: はい。
弁護人: 起訴されるまで21日間拘留されたのですか。
加藤医師: はい。
弁護人: 当時、何人ぐらいの患者さんを担当していましたか。
加藤医師: 10人くらいです。
弁護人: 手術の予定はありましたか。
加藤医師: はい。3月はじめに入っていました。
弁護人: 外来では何人の患者を診察していましたか。
加藤医師: 日に20人から30人くらいだと思います。
弁護人: 逮捕拘留されて引き継ぎはできましたか。
加藤医師: いえ、突然の逮捕でしたし、接見も認められなかったので。
弁護人: 患者さんが気がかりではありませんでしたか。
加藤医師: はい、気がかりでした。
弁護人: 早く拘留を解かれたいと思いましたか。
加藤医師: はい思いました。
弁護人: 解かれたかった理由は何ですか。
加藤医師: 患者さんの診療をしなければと思いました。
弁護人: お子さんはいらっしゃいますか。
加藤医師: はい、一人おります。
弁護人: お子さんの誕生日はいつですか。
加藤医師: 昨年の2月25日です。
弁護人: 逮捕拘留された時、奥さんは妊娠何週でしたか。
加藤医師: 〓(聞き取れず)週で、いつ生まれてもおかしくない状況でした。
弁護人: 予定日はいつでしたか。
加藤医師: 2月22日です。
弁護人: 誰が赤ちゃんをとり上げる予定でしたか。
加藤医師: 私がとりあげる予定でした。
弁護人: お子さんが生まれたと聞いて、どんな気持ちになりましたか。
加藤医師: 嬉しかったんですけれども、とりあげることも会うこともできず悔しい感じがしました。
弁護人: 早く会いたかったのではありませんか。
加藤医師: はい、早く会いたかったです。
弁護人: 取り調べは毎日ありましたか。
加藤医師: はい。
弁護人: 1日の取り調べ時間は長くてどれくらいでしたか。
加藤医師: 8時間程度でした。
弁護人: 取り調べの際、拘置場から検察庁まで移動しませんでしたか。
加藤医師: はい、移動しました。
弁護人: 移動にはどの程度の時間かかりましたか。
加藤医師: 往復2時間弱です。
弁護人: すると移動と取り調べで1日11時間弱とられたということですね。
加藤医師: そうなります。
弁護人: そのように長い取り調べが行われたのは、拘置中ずっとですか。
加藤医師: 最後の1週間だけです。
弁護人: そのときの長い取り調べ時間とはどの程度でしたか。
加藤医師: 7時間から9時間でした。
弁護人: 休憩はなかったのですか。
加藤医師: いえ、食事とトイレの時間はありました。
弁護人: 取り調べを受けている時、冷静に考えられましたか。
加藤医師: いえ、突然逮捕されて変な緊張感があって、頭がボーッとする感じで、何が重要か分からない状態でした。
弁護人: 調書の読み聞かせはありませんでしたか。
加藤医師: それはありました。
弁護人: 調書を作成されたのはいつですか。
加藤医師: ほとんどが最後の1週間でした。
弁護人: 検面調書が21通ありますが、そのうち何通が最後の1週間に作成されたものですか。
加藤医師: 20通です。
弁護人: 自由時間はありましたか。
加藤医師: 留置場に戻ってからもありませんでした。
弁護人: 取り調べの内容を整理する時間はありましたか。
加藤医師: 筆記用具を貸してもらえませんでしたので、よく整理できませんでした。弁護人: 医学書を読むことはできましたか。
加藤医師: いえ、読めませんでした。
弁護人: 留置場では何をしていましたか。
加藤医師: 寝るだけです。
弁護人: 弁護士との接見はできましたか。
加藤医師: はい。
弁護人: 文書のやりとりはできませんでしたか。
加藤医師: できましたが、受け渡しする文書はコピーを取られるので、自由にはできませんでした。
弁護人: コピーを取られるかと思うと、渡しづらかったのですね。
加藤医師: はい。
弁護人: 取り調べを担当した検事はどなたでしたか。
加藤医師: 田中(と聞こえた)検事です。
弁護人: 田中検事が取り調べ中に声を荒らげたことはありませんでしたか。
加藤医師: はい、ありました。
弁護人: どんなときに声を荒らげましたか。
加藤医師: 私が経験したことや思ったことを話すと、それに対して声を上げまくしたてる感じで「そんなことはないでしょう」と言われました。
弁護人: 例えば、どんなやりとりですか。
加藤医師: 胎盤剥離する時の剥離面からの出血を説明している時、宮本先生が上手に吸引してくれていたのもあると思うのですが大量ではなかった、ガーゼのカウントも気になる量ではなかったと話したところ、「大量出血を吸引が上手だったせいにするのか」とか「カウントが遅かったせいにするのか」とか言われました。
弁護人: そのように言われて、どう思いましたか。
加藤医師: 何も言うことができず、違う言い方で話をしようとするのですが、なかなかそれも伝わりませんでした。
弁護人: 調書に署名する前に読み聞かせがあったと思いますが、その際訂正を求めたことはありましたか。
加藤医師: はい。
弁護人: 訂正してもらえましたか。
加藤医師: 訂正していただけることも、していただけないこともありました。
弁護人: なぜ、訂正してもらえなかったのですか。
加藤医師: 訂正の時になると、怒ったような不機嫌なような感じで、言ってもなかなかそれを訂正してくれないのです。
弁護人: 訂正を申し入れやすかったですか。
加藤医師: いえ、訂正したいと思っても訂正できなかったこともありました。
弁護人: 記憶と違うことが調書にされたこともありましたか。
加藤医師: はい、ありました。
弁護人: 乙24号証の調書では「用手剥離が困難になった場合、それまでは直ちに子宮摘出に移っていた」という供述がありますが、これは事実ですか。
加藤医師: いえ、こういうことはありません。むしろ、子宮摘出しないケースの方が多かったです。
弁護人: 後日の調書では訂正されましたか。
加藤医師: はい。
弁護人: 乙28号証。(メモ漏れ)
加藤医師: はい。
弁護人: 2通の調書間には矛盾があるわけですね。
加藤医師: はい。
弁護人: (メモ漏れ)福島県立医大のS先生とのやりとりは電話ではなく申し送りだったとの供述内容になっていますが。
加藤医師: 状況を詳しく覚えていなくて、詳しく覚えていないと話しましたが、このように断定的な調書にされてしまいました。
弁護人: 乙19号証「胎盤のある部分を切ったことが分かりました」との供述がありますが、これは事実ですか。
加藤医師: いえ、術中にも超音波検査して胎盤の位置を確かめましたから、切っていません。
弁護人: 取り調べ中にも、そのことを説明しましたか。
加藤医師: しました。何回もしました。
弁護人: ではなぜそのような調書になったのですか。
加藤医師: S先生(病理鑑定者)の鑑定書を見せられまして、病理的にはそのように見えているのかと驚き、手術の時にはそんなことなかったのに何かおかしいなと思いながらも、調書にまとめられてしまいました。
弁護人: S先生は、この法廷で、胎盤の部位は切っていなかったと訂正しましたね。
加藤医師: 臨床的判断と病理的判断が一致してホっとしました。
裁判長 もっと大きな声で話してください。
弁護人: 「看護師が書き足した」という供述があります。
加藤医師: 僕が書き足したんじゃないかと言われて、いやH先生(麻酔医)じゃないかと思うのですけれど分かりません。看護師の人かもしれません、と言ったら、このような表現になりました。
弁護人: 「副胎盤はなかったと思っている」という供述は。
加藤医師: いえ、副胎盤は見えていましたし、実際にそう思っています。超音波で見た時には分からなかったと言ったらこうなりました。
弁護人: 「最初は3本指で剥離していましたが、だんだん指が入らなくなり、2本、1本となって最後にクーパーを用いました」という供述は。
加藤医師: いえ、指が入らなかったのではありません。
弁護人: では、なぜクーパーを用いたのですか。
加藤医師: 用手剥離でかなり剥がれて、剥がし終える時期だったので出血を目で見ることのできるクーパーを用いました。用手剥離は盲目的なので、見える状態で剥離したかったのです。見えないところでやる場合、子宮を傷つけたり胎盤の取り残しが出たりしますが、見えていればとり残しもないし、子宮も傷つけないからです。
弁護人: 経膣分娩でもクーパーを用いますか。
加藤医師: いえ、経膣分娩ではクーパーの先端が見えないので、使いません。
弁護人: 帝王切開で先端が見えるから用いたのですね。
加藤医師: そうです。
弁護人: クーパーの方が細かい操作ができると考えてよろしいですか。
加藤医師: それはあります。
弁護人: 検察官にそれを説明しましたか。
加藤医師: はい。
弁護人: 何度も説明しましたか。
加藤医師: はい。
弁護人: では、なぜ調書があのようになっているのですか。
加藤医師: 最初から指が入らなかったからクーパーを使ったというのが頭にあったみたいで、なかなか理解してもらえないようでした。
弁護人: クーパーは危険だという認識ですか。
加藤医師: そうです。
弁護人: どうしましたか。
加藤医師: 何度も説明しましたが、理解してもらえず、納得してもらえずでした。
弁護人: 噛み合わない状態はどれ位の期間続きましたか。
加藤医師: 逮捕拘留されてからずっとです。
弁護人: 調書を取られる3月4日までずっとですか。
加藤医師: はい、ずっとです。
弁護人: 具体的には、どういう状況で指3本、2本、1本という話になったのですか。
加藤医師: 検察官と話をしている時に、手が入らなかったからでないかと言うのに対して、僕はずっとさっきの説明をしていたのに、なかなか理解してもらえず、何回も同じことを言われ続けて、じゃあ一体どう言えばいいんですかという話になって、「たとえば指が3本でも2本でも1本でも入らなくなったので、クーパーを使用したみたいに言えばいいんですか」と聞いたら、「そういうような具体的な話がいいんだ!」とメモを取られてしまい、検察官どうしでもそういう引き継ぎをしているので、メモを取られてしまったので同じような話をしなくちゃいけないのかなと思いました。
弁護人: 現実にそういう状態はあったのですか。
加藤医師: いえ、そういう状態はありませんでした。
弁護人: 検察官は、クーパーを使うことが問題だという意識だったのですね。
加藤医師: はい。クーパーを使うこと自体が違法行為であり、言い方を換えると、あなたは殺人者だと言われました。
弁護人: 身柄拘置についての見通しは教えてもらえていましたか。
加藤医師: 起訴(?聞き取れず)までは出してもらえないと聞きました。
弁護人: Aさんが初めて外来で受診したのはいつですか。
加藤医師: 平成16年の5月6日です。
弁護人: 初診時に何をしましたか。
加藤医師: 問診をしました。
弁護人: 通院のきっかけを覚えていますか。
加藤医師: はい。
弁護人: どういうきっかけですか。
加藤医師: ご自分で妊娠検査薬で妊娠が分かった後で下腹部痛と出血があったためということでした。
弁護人: Aさんは過去に分娩歴がありましたね。
加藤医師: はい。過去に妊娠を1回、帝王切開による分娩を経験しています。
弁護人: その1回は、どこで出産したかご存じですか。
加藤医師: 双葉厚生病院と聞いています。
弁護人: 超音波検査をしますね。
加藤医師: はい。
弁護人: どういう種類がありますか。
加藤医師: 経膣超音波と経腹超音波とがあります。
弁護人: 子宮観察をする場合、時間はどの程度かかりますか。
加藤医師: 経膣超音波は2〜3分、経腹超音波は5〜10分です。
弁護人: エコー検査とは動画を見ながら行うものですね。
加藤医師: はい、プローベを動かしながら見ます。
弁護人: プローベを止めていても画像は動きますね。
加藤医師: はい。
弁護人: 動画を記録に残す場合どのようにしますか。
加藤医師: 所見のあるところをいったん止めて写真に撮って残します。
弁護人: どういった場合に写真に残しますか。
加藤医師: 患者さんに対して説明する場合と診断上必要な場合です。
弁護人: カルテに記載しますか。
加藤医師: はい。
弁護人: Aさんに何と説明したか覚えていますか。
加藤医師: いえ、明確には覚えていません。
(外来カルテを示す。傍聴席から画面見えず)
弁護人: 「避妊手術せず」との記載がありますね。
加藤医師: はい。
弁護人: これはどういうことですか。
加藤医師: もう一人子供がほしいとのことだったので、子宮温存を頭に入れておこうと思いました。
弁護人: 子宮温存が必要だと。
加藤医師: もう一人産むには必要だなと。
弁護人: 他のスタッフからもAさんの意向は聞きましたか。
加藤医師: はい、Y看護師から「Aさんが、もう一人ほしいと言っている」と聞きました。
弁護人: 入院したのは妊娠何週でしたか。
加藤医師: 妊娠34週(メモ不完全?)でした。
弁護人: 入院の理由はなんですか。
加藤医師: 切迫早産の危険があるためでした。
(入院カルテを示し、前回公判で田中憲一・新潟大教授が「癒着胎盤を疑ってもよい」と証言した12月3日のエコー写真を示す)
弁護人: 赤ちゃんの大きさはどうでしたか。
加藤医師: ちょっと大きめでした。
弁護人: 低輝度の部分が(メモ漏れ)
加藤医師: 尿中の出血は膀胱炎によるものと診断しました。
弁護人: 前回、田中証人が癒着を疑ってよいと証言しましたが、そう言えると思いますか。
加藤医師: いえ、言えないと思います。田中先生のおっしゃるのは診断のためということですが、血流が胎盤と離れて存在していますから。
弁護人: なぜMRIを撮らなかったのですか。
加藤医師: 超音波で診断できていましたし、MRIは信頼性が低かったので。
弁護人: 田中証人は、分娩直前にも超音波検査をして、全前置胎盤?の診断をした方がよかったと証言しましたが、そうした方がよかったと思いますか。
加藤医師: いえ、必要ないと思います。全前置胎盤?と診断していますし、出血や腹痛などの症状もないのに、わざわざ子宮口を刺激する必要はないと思います。田中先生は胎盤が動くからとおっしゃいましたが、この週数で何の症状もなく動くことはないので。
弁護人: 臨月での経膣超音波は通常行うものですか。
加藤医師: むやみやたらにやると出血するので危険と教えられています。
弁護人: 「MAP5単位用意」の記載がありますね。
加藤医師: はい。
弁護人: なぜ5単位にしたのですか。
加藤医師: 前置胎盤?の場合、5単位が妥当と本に書いてあるので。
弁護人: 大野病院でも過去に前置胎盤?の症例が一例あったとのことでしたが、その時も5単位でしたか。
加藤医師: はい。
弁護人: その際は足りましたか。
加藤医師: 5単位用意しましたが、輸血の必要はありませんでした。
弁護人: 大野病院で前置胎盤?の症例を取り扱うことに問題があると思いますか。
加藤医師: 問題あるとは思っていません。
弁護人: なぜですか。
加藤医師: 施設スタッフがしっかりしていますし、同規模の施設でも引き受けていますので。
弁護人: Aさんとご家族に、手術について説明しましたか。
加藤医師: はい。
弁護人: いつしましたか。
加藤医師: 12月14日に説明しました。
弁護人: どのように説明しましたか。
加藤医師: 帝王切開手術の話と前置胎盤?の危険性について、輸血の可能性や子宮摘出の可能性について話をしました。
弁護人: この図はその時に用いたものですか。
加藤医師: そうです。
弁護人: 図はAさんの子宮を描いたものですか。
加藤医師: いえ、一般的な前置胎盤?の図です。
弁護人: なぜAさんと異なる図を用いたのですか。
加藤医師: 危険性を分かってもらうためです。
弁護人: 輸血の可能性や子宮摘出の可能性を分かってもらうためですか。
加藤医師: そうです。
弁護人: なぜ輸血の可能性があるのですか。
加藤医師: 前置胎盤?ですので出血が多くなる場合があるためです。
弁護人: では子宮摘出の可能性があるのは、なぜですか。
加藤医師: やはり前置胎盤?ですので出血が多くなる場合があるためです。
弁護人: 3人目のお子さんの話は出ましたか。
加藤医師: はい。
弁護人: どのような話でしたか。
加藤医師: 3人目を望んでいるというお話でした。
弁護人: 手術を行ったのはいつですか。
加藤医師: 12月17日でした。
弁護人: その日、双葉厚生病院のK医師に電話しましたね。
加藤医師: はい。
弁護人: なぜ電話をしたのですか。
加藤医師: 出血が多くなって子宮摘出の判断に迷う場合に意見を求めるためです。
弁護人: K医師に応援を求めるのは初めてですか。
加藤医師: はい、初めてです。
弁護人: 具体的にどのように説明しましたか。
加藤医師: 前回帝王切開で胎盤が後壁にあるタイプの全前置胎盤?と説明しました。
弁護人: 症例を説明して、すぐに応援を承諾してもらえましたか。
加藤医師: いえ。
弁護人: K医師から質問されましたか。
加藤医師: はい。
弁護人: どのような質問ですか。
加藤医師: 前回帝王切開創に胎盤がかかってないかと尋ねられました。
弁護人: どう答えましたか。
加藤医師: 一部かかっているかもしれないけれど大丈夫です、と答えました。
弁護人: 胎盤が傷跡にかかっているかもしれないと思っていたのですか。
加藤医師: いえ、そうは思っていませんでした。
弁護人: ではなぜ、そのように伝えたのですか。
加藤医師: 医局の先輩であるK医師に初めてお手伝いを依頼するのに、何でもない症例でお呼びするのは気がひけたからです。
弁護人: 応援は了承してもらえたのですか。
加藤医師: 了承はしていただけたのですが、どうしてもという時は呼んでくれ、と言われました。
弁護人: 続いて手術の時について伺います。最初に何をしましたか。
加藤医師: 通常のように切開して開腹しました。
弁護人: 何センチくらい切開しましたか。
加藤医師: 大体10センチくらいです。
弁護人: 子宮を見ることができる状態にするために、その傷を広げますか。
加藤医師: はい、開創器で広げます。
弁護人: 子宮全部が見えますか。
加藤医師: いや、一部しか見えません。
弁護人: 見える形状と範囲はどの程度ですか。
加藤医師: 楕円形でタテ10センチ、横11〜12センチです。
弁護人: 子宮表面の色はどうでしたか。
加藤医師: 通常と同じピンク色でした。
弁護人: 子宮表面に異常を認めましたか。
加藤医師: いえ。
弁護人: 血管の隆起を見ましたか。
加藤医師: はい見ました。
弁護人: 開創器で見える範囲に子宮を動かせば、見えない部分も見えるのでしょうか。
加藤医師: 開創器の方を動かせば、ある程度は見えるようになります。
弁護人: 血管の隆起があったのは、子宮のどのあたりですか。
加藤医師: 子宮の下部です。
弁護人: 前壁の下部ですか。
加藤医師: はい。
弁護人: どれくらいの範囲ですか。
加藤医師: 4、5センチ四方です。
弁護人: 血管の太さや数はどの程度でしたか。
加藤医師: 2、3ミリで数本でした。
弁護人: この血管は異常所見でしたか。
加藤医師: いや異常所見ではありませんでした。
弁護人: なぜ異常ではないと判断したのですか。
加藤医師: 前回帝王切開の場合や前置胎盤?の症例であれば、このような細い血管が表面に見られるのはよくあることです。
弁護人: 癒着胎盤の所見とは異なりますか。
加藤医師: 全く明らかに違います。
弁護人: プローベで血管をなでたらどうなりましたか。
加藤医師: すぐに消えました。
弁護人: 癒着胎盤の際に見える血管はどのようなものですか。
加藤医師: 大小不整でゴツゴツしたような感じで色も違うし、押しても消えません。
弁護人: 自身で癒着胎盤の症例を見たことがありますか。
加藤医師: はい、大学病院で診療したことがあるのと文献でも見ています。
弁護人: 癒着胎盤とは様子が異なったのですね。
加藤医師: はい、様子が異なります。
弁護人: 開腹後に超音波検査をしましたね。
加藤医師: はい。
弁護人: なぜですか。
加藤医師: 胎盤の位置を確認して切開位置を決めるためと前壁に癒着がないことを確かめるためです。
弁護人: なぜ開腹後に行ったのですか。
加藤医師: 経腹よりも精度が高いのです。
弁護人: 前回帝王切開創は分かりましたか。
加藤医師: いえ、分かりませんでした。
弁護人: 傷跡があるであろう範囲は分かりましたか。
加藤医師: あるであろう範囲は分かりました。
弁護人: その部分に胎盤は乗っていましたか。
加藤医師: いえ、ありませんでした。
弁護人: 胎盤の位置はどうでしたか。
加藤医師: 前壁の下の方にあるのが分かりました。
弁護人: 前壁に癒着があるかどうかはどうですか。
加藤医師: まず癒着の可能性はないと診断しました。
弁護人: 確認のうえ切開したのですね。
加藤医師: はい。
弁護人: 子宮切開創の大きさはどの程度ですか。
加藤医師: Uの字に切開しました。はじめと終わりの距離がだいたい1センチくらいです。
弁護人: なぜその大きさなのですか。
加藤医師: そこから赤ちゃんを取りだすからです。
弁護人: 出血が多かったというようなことはありませんでしたか。
加藤医師: 異常はありませんでした。
弁護人: 次に児の娩出を行いましたね。
加藤医師: はい。
弁護人: 赤ちゃんの体重は。
加藤医師: 3000グラムでした。
弁護人: 36週で3000グラムは大きいですか。
加藤医師: 通常に比べると大きめです。
弁護人: 羊水量はどうでしたか。
加藤医師: 羊水量も多めでした。
弁護人: 赤ちゃんの大きさと羊水の量とは医学的に見て比例する比例すると言えるのでしょうか。
加藤医師: はい。
弁護人: 娩出を終了した時点での羊水の量はどのくらいでしたか。
加藤医師: 娩出を終了した時点でカウント2000という数字がありましたので、その時は出血してなかったので、ほとんど羊水だと思います。
弁護人: カウントは吸引されたものでしょうか。
加藤医師: 吸引だけです。ガーゼはまだ使用していませんでした。
弁護人: 吸引は直接ですか。
加藤医師: はい。
弁護人: 赤ちゃんに対してどのような処置をしましたか。
加藤医師: 顔をガーゼでぬぐい、さい帯の根元をペアンで挟み(メモ不完全)で児担当の助産師に渡しました。
弁護人: 子宮に対してはどのような処置をしましたか。
加藤医師: 切開創の端っこから出血することがあるので4カ所にペアンをかけました。
弁護人: 母体側に残ったさい帯はどういう処理をしましたか。
加藤医師: ペアンで挟みました。
弁護人: ペアンとは何ですか。
加藤医師: 組織を傷つけずにつかむことのできる、はさみのような形のギザギザの断面ででも切れないものです。
弁護人: 子宮収縮を促すために何かしましたか。
加藤医師: 子宮収縮剤の入った注射器を看護師からもらって、子宮体部に筋肉注射しました。
弁護人: その後で何をしましたか。
加藤医師: 子宮マッサージをしました。
弁護人: 子宮の観察はお腹の中でしたのですか。
加藤医師: 腹腔内から外へ引っ張り出して胎盤の位置を確認しました。
弁護人: どこにありましたか。
加藤医師: 後壁全部と前壁のかなり下の方にありました。
弁護人: どのようにありましたか。
加藤医師: 左右どちらに寄るでもなく全面にありました。
弁護人: 前壁のかなり下の方というのは目で見たわけですか。
加藤医師: 目で見たのと、親指と人差し指で子宮の壁を挟んで、胎盤のある厚い部分を確認しました。
弁護人: その結果どうでしたか。
加藤医師: 胎盤は前壁の下の方にだけありました。
弁護人: 前回帝王切開創の上にありましたか。
加藤医師: いえ、ありませんでした。
弁護人: その後、胎盤の摘出に移ったわけですね。
加藤医師: はい。
弁護人: どのように行いましたか。
加藤医師: さい帯を引っ張りました。
弁護人: 田中証人は引っ張っちゃいけないと証言しましたが。
加藤医師: それは経膣分娩の話だと思います。帝王切開の場合、局部が見えているので問題ありません。
弁護人: どうなりましたか。
加藤医師: 子宮の内側が持ち上がる感じになりました。
弁護人: 胎盤は剥離しましたか。
加藤医師: いえ。
弁護人: なぜですか。
加藤医師: 子宮の収縮がかなり悪いなと思い、子宮をマッサージしました。
弁護人: マッサージしたら収縮しましたか。
加藤医師: かなり収縮しました。
弁護人: 胎盤は剥離しましたか。
加藤医師: 胎盤は剥離しませんでした。
弁護人: 子宮の内側はその時も持ち上がりましたか。
加藤医師: いえ。
弁護人: どうしましたか。
加藤医師: 子宮の収縮がよくないので、後壁の上の方から用手剥離することにしました。
弁護人: 帝王切開の際に用手剥離をするのは通常のことですか。
加藤医師: はい。
弁護人: 児娩出後から用手剥離に移るまでどの程度の時間でしたか。
加藤医師: 3〜4分だと思います。
弁護人: 手段は。
加藤医師: Aさんの左側に立っていて右利きなので、右手を手刀のように切開創に入れて手の甲側が子宮壁、手の平側が胎盤側に来るようにして、小刻みに動かしました。弁護人: 左手はどうしていましたか。
加藤医師: 胎盤がはがれてきたので、その胎盤を持っていました。
弁護人: 引っ張っていたのですか。
加藤医師: いや、引っ張ったのではなく、支える感じです。
弁護人: 右手の指先は見えますか。
加藤医師: 見えません。
弁護人: 見えないのですか。
加藤医師: 切開創から手を入れて胎盤も出てきている状態なので。
弁護人: 子宮は腹腔の外に出したままですか。
加藤医師: 出したままだと内腔が狭くて戻すと広がるので、お腹へ戻してやっていました。
弁護人: どの程度剥離できましたか。
加藤医師: 通常の3分の2以上いった感じがしました。
弁護人: 左手で持っている感触からですか。
加藤医師: そうです。重さと大きさからです。
弁護人: 胎盤の写真があれば、どの程度か示せますか。
加藤医師: はい。
(胎盤の写真が示され、用手剥離で剥がれた部分をマーキングする)
弁護人: 剥離がしづらくなりましたか。
加藤医師: はい。
弁護人: どのようにしましたか。
加藤医師: クーパーを併用するようにしました。
弁護人: なぜクーパーを用いたのですか。
加藤医師: クーパーを使うと剥離面が見えたので、クーパーが使えると感じました。しかも盲目的な用手剥離より子宮を傷つけずに済むのと、その前に用手剥離でかなりの部分を終えていて、もう少しで剥離を終えるところだったので使いました。
弁護人: クーパーだと剥離面が見えるのですね。
加藤医師: はい、見えているので安全です。
弁護人: もし帝王切開でなかったら、クーパーを使っていますか。
加藤医師: いえ使っていません。
弁護人: 併用になったのは、どの辺りですか。
加藤医師: 子宮後壁にくっついてる部分の下の方です。
弁護人: (メモなし)
加藤医師: たまたまですが、U字の切り込みだったので直線的に切っているよりは視界も開けていましたし、また出血の吸引も上手にしてくれていいたので見やすい状況でした。
弁護人: 下の方に手を入れれば直接見えたのですね。
加藤医師: はい。
弁護人: クーパーだと子宮が傷つかないのは、なぜですか。
加藤医師: クーパー先端にピンポイントに力をかけられるからです。
弁護人: 手よりクーパーの方が細かい作業に向いているということですか。
加藤医師: はい。
弁護人: なぜ用手とクーパーとを併用したのですか。
加藤医師: 用手の方がスピードが速いので、剥離しづらくなったらクーパー、しやすくなったら手という感じで使い分けました。
弁護人: 用手とクーパーとの違いは何ですか。
加藤医師: 用手は速く剥離できますが見えないので大ざっぱです。クーパーはスピードは遅いけれど、剥離している場所が見えているので違いがあります。
弁護人: 用手だと見えないのですか。
加藤医師: はい見えません。
弁護人: クーパーだと見えるのですか。
加藤医師: はい見えます。
弁護人: クーパーの方が、より丁寧という印象ですか。
加藤医師: はい、その通りです。
弁護人: どのタイプのクーパーを使いましたか。
加藤医師: 長いタイプの先端が湾曲していて先端が丸く鈍になっているタイプです。
(動作の説明用に加藤医師:がクーパーを握った状態の手の写真を示す)
弁護人: クーパーをどのように使いましたか。
加藤医師: なでるように使いました。
弁護人: どのように差し入れましたか。
加藤医師: 用手剥離と同じように山側が子宮側、谷側が胎盤側で先端は自分の方を向いているように差し入れました。
弁護人: なぜなでるように使ったのですか。
加藤医師: いろいろな使い方をしていましたが、(メモ不完全)
弁護人: 子宮壁と胎盤との間に索状物はありませんでしたか。
加藤医師: ありました。
弁護人: 索状物とはどのようなものですか。
加藤医師: 薄い膜のようなものです。
弁護人: この場合はどうしましたか。
加藤医師: クーパーの先端を閉じたまま削ぐように使いました。
弁護人: 索状物が堅いようなときにはどうしましたか。
加藤医師: クーパーを開いて少し切れ込みを入れ、また先端を閉じて削ぐようにしました。
弁護人: 索状物から出血はありましたか。
加藤医師: ありませんでした。
弁護人: 索状物に血管は通っていましたか。
加藤医師: 出血しませんでしたので通っていなかったと思います。
弁護人: このことを検察官に説明しましたか。
加藤医師: はい。
弁護人: 何度も説明しましたか。
加藤医師: はい。
弁護人: なぜ、そのような調書が残っていないのですか。
加藤医師: 筋張ったところを削ぐように剥がしたことは記載されていますが、それ以外の部分についてはクーパーを使ったこと自体が悪い感じで、あまり理解してもらえませんでした。
弁護人: 用手とクーパーとを併用した範囲について先ほどの写真に範囲を書き込むことはできますか。
加藤医師: はい。
(書き入れる)
弁護人: 前壁部分の胎盤はどうなりましたか。
加藤医師: 左手で胎盤を持っていましたので、剥離面を見ようと左手を持ち上げたら、後壁下部から子宮口、前壁のあたりにあった部分がペロンと剥がれました。
弁護人: クーパーは使っていないのですね。
加藤医師: 使っていません。用手剥離もしていません。
(「ペロンと剥がれた」部分を写真に書き入れる)
弁護人: 児の娩出完了から用手剥離に移るまで3〜4分ですね。
加藤医師: はい。
弁護人: 用手剥離の開始から胎盤剥離終了まで9〜10分ですね。
加藤医師: はい。
弁護人: 剥離の際、出血、血圧、脈拍は管理していましたね。
加藤医師: はい。
弁護人: 児娩出直後の出血量はどれくらいでしたか。
加藤医師: 羊水込みで2000ミリリットルでした。
弁護人: 胎盤剥離完了直後の出血量は。
加藤医師: 2555ミリリットルでした。
弁護人: この間の出血の様子はどうですか。
加藤医師: 子宮壁からジワジワと出る感じでした。
弁護人: 急に増えるようなことはありませんでしたか。
加藤医師: いえ、ありませんでした。
弁護人: クーパーを用いてから、急に増えたりはしませんでしたか。
加藤医師: いえ、ありませんでした。
弁護人: 血圧は安定していましたか。
加藤医師: はい、安定していました。
弁護人: 脈拍はいかがですか。
加藤医師: はい、安定していました。
弁護人: 剥離しづらくなった時に中断しようとは考えませんでしたか。
加藤医師: いえ、出血、血圧、脈拍すべて安定していましたので。
弁護人: 剥離を完了すると、どのような効果が見込まれましたか。
加藤医師: 子宮の収縮が良好になると考えられました。
弁護人: 娩出した胎盤は通常と同じものでしたか。
加藤医師: いえ、重くて大きい胎盤でした。
弁護人: 他に通常と異なるところはありませんでしたか。
加藤医師: 膜のような部分が胎盤の実質と実質とをつないでいました。
弁護人: 胎盤実質のない部分が存在したのですね。
加藤医師: はい。
弁護人: 医学上このような胎盤を何と呼びますか。
加藤医師: 複胎盤様胎盤、分葉胎盤、膜様胎盤などと言います。
弁護人: カルテには何と記載しましたか。
加藤医師: 複胎盤様胎盤と記載しました。
弁護人: 次に出血状況について伺います。剥離した後どうなりましたか。
加藤医師: 出血量が増えてきました。
弁護人: どのような処置をしましたか。
加藤医師: ガーゼで止血処置をしました。
弁護人: どのようにですか。
加藤医師: 内腔にガーゼを入れて圧迫しました。
弁護人: どのように子宮に手をかけるのですか。
加藤医師: 最初はガーゼの上から手で押しつけていたのですが、その後は外から覆うようにして圧迫しました。
弁護人: 圧迫していた時間はどの程度ですか。
加藤医師: 5〜6分だと思います。
弁護人: 圧迫の他に止血処置はしませんでしたか。
加藤医師: 子宮収縮剤をもう一度筋注したり、ガーゼをいったん取り出して止血縫合したり3回くらい繰り返して、ペアンで血管を挟んだりもしました。それから血小板輸血製剤を看護師さんに頼んだりしました。
弁護人: マッサージはどうですか。
加藤医師: しています。
弁護人: 動脈血流に対する止血操作は何かしませんでしたか。
加藤医師: 子宮動脈をペアンで挟みました。
弁護人: 他に血流への働きかけ(?)はありませんでしたか。
加藤医師: 先ほども説明したように止血剤として血小板製剤を持ってくるよう看護師さんにお願いしました。
弁護人: 輸血は始まっていましたか。
加藤医師: はい。
弁護人: 子宮摘出を決断したのはいつですか。
加藤医師: 血圧が低下して、出血が羊水込み7000ミリリットルくらいのところで決断しました。
弁護人: それは何時頃のことですか。
加藤医師: たしか15時35分ごろだと思います。
弁護人: 院長をはじめとする他の人から応援を呼んだらどうかという話は出ませんでしたか。
加藤医師: はい出ましたが、人手は足りていたし子宮摘出することなので断りました。
弁護人: 止血について人手は足りていたのですか。
加藤医師: 宮本先生と交代で子宮を圧迫していました。
弁護人: 子宮摘出に関する人手はどうですか。
加藤医師: 子宮摘出の場合、普段は第二助手が入るのですが、経験豊富なY看護師が加わってくれたので大丈夫でした。
弁護人: 実際に子宮摘出に移ったのはいつのことですか。
加藤医師: 頼んだ輸血が届いたときなので16時半ごろだと思います。
弁護人: Aさんはどのような状態でしたか。
加藤医師: 低血圧状態で全身麻酔してもらってました。
弁護人: 血圧の安定を待ちましたか。
加藤医師: はい。
弁護人: 子宮摘出は何時のことですか。
加藤医師: 詳しくは思い出せませんが、輸血が届いて血圧が上がり始めたところでした。
(麻酔記録を示す)
弁護人: この記録を見ると、それは何時頃のことになりますか。
加藤医師: 16時35分ごろです。
弁護人: なぜ血圧の安定を待ったのですか。
加藤医師: 血圧の低い状態で摘出をするのは余りに無謀で、下手すると摘出中に亡くなる危険がありました。
弁護人: 摘出はスムーズに進みましたか。
加藤医師: はい。
弁護人: なぜでしょう。
加藤医師: 胎盤を摘出していたことで術野が確保できていたからだと思います。
弁護人: (メモ漏れ)
加藤医師: 下部に胎盤があると膨らんでしまって、子宮下部の周りにある血管の操作など狭くなってしまうからです。
弁護人: 血管の操作とはどういうものですか。
加藤医師: 子宮動脈の血流を結紮遮断する必要があります。
弁護人: 子宮動脈とはどのような血管ですか。
(子宮のエコー写真を示し、加藤医師:が、それを使って説明)
弁護人: 結紮する糸が動脈以外の部分にかかってしまうことはありますか。
加藤医師: ええ、動脈の枝の部分は壁にも近いので糸がかかってしまうことがあります。
弁護人: 今回もそのようなことがありましたか。
加藤医師: はい、境が分かりづらいこともあって壁の方まで糸をかけてしまいました。なぜ分かったかというと、子宮を摘出している時に糸が引っ掛かったからで、そこの部分のケッサツをやり直しましたけれど、特にその部分で出血が多くなることはありませんでした。
弁護人: その他に糸が残ることはありますか。
加藤医師: はい。動脈結紮しても子宮頸部への血流はあるので、その時に子宮頚部の止血縫合をしたことはあります。
弁護人: 子宮の出血はどのような様子でしたか。
加藤医師: 血液特有の粘りがなくサラサラした水のような感じでした。
弁護人: どのように思いましたか。
加藤医師: 産科DICによるものと思いました。
弁護人: 産科DICの診療経験はありますか。
加藤医師: はい。大学病院でも大野病院でも経験があります。
弁護人: 合計すると何例ほど経験していますか。
加藤医師: 10例ほどです。
弁護人: DICとAさんの容体と関係あると思いますか。
加藤医師: ええ、関係あると思います。
弁護人: 産科DICを起こさなかったら、どうなったと思いますか。
加藤医師: 助かったと思います。
弁護人: 子宮摘出が完了したのは何時ごろですか。
加藤医師: 1時間ほどかかりましたので17時35分ごろと思います。
弁護人: その後どうしましたか。
加藤医師: 閉腹作業に移りました。
弁護人: Aさんの状態はいかがでしたか。
加藤医師: 安定しているように見えました。
弁護人: その後で心室細動を起こすのですが、その時どう思いましたか。
加藤医師: かなり動揺しました。
弁護人: なぜですか。
加藤医師: それなりに順調に来ていたし、出血面もなかったので、安心していたからです。
弁護人: その後どうしましたか。
加藤医師: 心臓マッサージをしたり薬剤投与をしたりしました。
弁護人: 蘇生術を施したということですね。
加藤医師: はい。
弁護人: 蘇生術はどの程度の時間やりましたか。
加藤医師: 約1時間です。
弁護人: ご家族への説明のために手術室を出たのは何時ですか。
加藤医師: 18時30分です。
弁護人: それまでにご家族に説明しようとは思いませんでしたか。
加藤医師: そのような余裕はありませんでしたから。
弁護人: 最終的に死亡を確認したのは何時ですか。
加藤医師: 19時1分です。
弁護人: 終わります。
午後
【検察側反対尋問】
検察官: 帝王切開手術の前に、癒着胎盤の疑いを持っていましたか。
加藤医師: 持っていませんでした。
検察官: 手術中に用手剥離からクーパー併用になった時には癒着胎盤の疑いを持ちましたか。
加藤医師: 疑いは少し持ちました。
検察官: 少しというのは、どういうことですか。
加藤医師: 少しです。
検察官: 理由は何ですか。
加藤医師: 切り替わるにあたって、少し剥離しにくい部分が出てきたからです。
検察官: しにくい部分とは具体的にはどういう部分ですか。
加藤医師: 剥離のスピードが遅くなるということと、しにくいのはしにくいので何と説明すればいいのか、力を入れれば剥離できるけれど力を入れる程のものでもないような。
検察官: しにくいとは、他の患者さんの用手剥離より、ということですか。
加藤医師: そうです。
検察官: その後、子宮からの出血が多くなってきた、その理由を当時はどう考えていましたか。
加藤医師: 剥離を終わった後ということでしょうか。弛緩出血、収縮が少し悪いかなというのも頭にありましたし、胎盤を剥離すると実際にどうしても普通に出血するので、ただ突然出血は増えたことに関してはハッキリとは分かりません。
検察官: 原因が分かっていなかったのですか。
加藤医師: ・・・
検察官: 手術が終わるまでずっとですか。
加藤医師: 子宮の収縮が悪いこと、癒着胎盤、その他にVTが起こるような何かがあったのだろうと考えていました。
検察官: 出血の原因として癒着胎盤も考えたのですね。
加藤医師: 原因として起こりうることを色々考えなきゃいけないので、そのうちの一つとして考えに入れていたということです。
検察官: 死因は何時ごろに判断しましたか。
加藤医師: H先生と手術後に話をした中で、考えられる中で、そういう原因だろうという話をしました。それは手術室から出て病棟に行くまでの間でした。
検察官: 死亡診断書・死体検案書に死因を書いたのはいつですか。
加藤医師: 亡くなって、サインする前です。
検察官: それは何時のことですか。
加藤医師: 覚えていません。
検察官: 出来事の中では何をした後のことですか。
加藤医師: ご遺族への説明をした後です。
検察官: その時は何と判断しましたか。
加藤医師: 癒着胎盤による出血性ショックです。
検察官: そうですか。(死亡診断書を示す)直接の死因は何ですか。
加藤医師: 心室細動です。
検察官: 心室細動の原因は何ですか。
加藤医師: 出血性ショックです。
検察官: その原因は何ですか。
加藤医師: 癒着胎盤です。
検察官: 癒着胎盤による出血性ショックで心室細動を起こしたのが死因と判断したわけですね。
加藤医師: 完全にではありませんが、他の死因も考えつつ、H先生とも相談して、こうだろうと考えました。
検察官: 癒着胎盤をメインの死因と判断したわけですね。
加藤医師: メインではありません。
検察官: 死後の病理解剖で癒着が見つかったのは認めますね。
加藤医師: はい。
検察官: 術中にも癒着の疑いを持ったと先ほど証言しましたね。
加藤医師: はい。
検察官: 前回帝王切開で全前置胎盤?の症例ですね。
加藤医師: はい。
検察官: この場合、癒着胎盤が起こりやすいというのは当時の知識として持っていましたか。
加藤医師: はい、持っていました。
検察官: そのメカニズムについてはどのような知識を持っていましたか。
加藤医師: 前回創に胎盤が乗っているような場合は癒着が起きやすいです。
検察官: 前回創に胎盤が乗っているかどうかが大事ということですね。
加藤医師: いえ、前壁にあるか後壁にあるかで違います。前壁にあって乗っている場合は癒着が起きやすいです。
検察官: なぜ起きやすいのですか。
加藤医師: 帝王切開の傷痕は一回切った場所なので筋層へ絨毛が浸潤しやすくなります。
検察官: 前壁と後壁とで違うと言いましたが、後壁でも癒着の可能性は高いのではないですか。
加藤医師: いや、そういうわけではないと思います。
検察官: なぜ、そう言えますか。
加藤医師: 外国の論文でそういうのがありました。
検察官: 当時その知識があったわけですね。
加藤医師: はい。
検察官: 胎盤が後壁にあれば心配しなくてもよいというが、後壁メインであっても全前置胎盤?なら前へも回ってるわけですね。ならば癒着の心配をしなくてはならないのでないですか。
加藤医師: ある程度はそうしなくちゃいけないのでしょうか。
検察官: あなたの当時の認識としては、内子宮口を超えて胎盤が前へ来ているものが(メモ不完全)。
加藤医師: もう一度お願いします。
検察官: 内子宮口を超えて前へ来ているなら、癒着を疑わなければならないのではありませんか。
加藤医師: ケースによっては、そういう場合もあると思います。
検察官: 手術前に前壁にかかる部分があることは認識していましたか。
加藤医師: はい。
検察官: 前壁にかかっているものが前回創にかかっていないかは、あなた自身も(メモ不完全)
加藤医師: (メモ漏れ)
検察官: 今回、前壁に回っている胎盤が前回切開創にかかっているとの疑いは持っていなかったのですか。
加藤医師: 持っていません。
検察官: しかし検査はしていますよね。その段階では、いかがですか。
加藤医師: ほとんどないという診断の下での疑いです。
検察官: 具体的に疑ったことはありませんか。
加藤医師: 具体的にはありません。
検察官: カルテに記載しませんでしたか。
加藤医師: 記載しましたが、具体的な疑いではありません。
(甲15号証のカルテを示す。「placenta accreta(癒着胎盤) or previa bleeding(前置胎盤?による出血) 注意」という記述を確認する)
検察官: 膀胱炎と診断していますね。
加藤医師: はい。
検察官: (メモ不完全)
加藤医師: 頭の中に片隅というわけではなく、おしっこの中に少量でも血液成分があったので一般的な注意が必要と考えたのです。あくまでも膀胱炎と診断したうえです。
検察官: 一般的な注意として何か検査を行いますか。
加藤医師: 尿潜血検査を行います。
検察官: (メモ不完全)
加藤医師: 深く考えていなくて、念のためにちょっと書いただけです。
検察官: 尿潜血だと何を疑いますか。
加藤医師: 膀胱の裏側の部分に癒着胎盤がある時に潜血があることがあります。
検察官: では癒着胎盤を疑ってもよかったのではありませんか。
加藤医師: 潜血は1回限りだったのと、他にも膀胱炎の症状が出ているところだったので、潜血が続くようなら考えなきゃという感じでした。
検察官: 癒着胎盤で尿潜血があるのは、胎盤が前壁を突き破っているのを疑うということになりますか。
加藤医師: 前提としてはそういうことになります。
検察官: 可能性として当時考えていましたか。
加藤医師: それは絶対に膀胱の高さにないということはありませんでした。膀胱の裏側に胎盤がありましたので絶対にないとは言えないと思います。
検察官: このことに関して検察に聞かれたことはありませんか。
加藤医師: かすかには記憶があります。
検察官: 癒着胎盤注意で他の検査は何かしましたか。
加藤医師: 超音波検査をしました。
検察官: 疑いがないと記載しましたか。
加藤医師: 3日の時点ではないと思っていましたが、膀胱炎という診断はもうついているので、注意と記載はしましたが、そんなに深い意味はないです。
検察官: Aさん以外に子宮に直接超音波検査をしたことはありましたか。
加藤医師: ないです。
検察官: 癒着胎盤のエコー検査をしたことはありましたか。
加藤医師: ないです。検察官: どのように診断するか知っていましたか。
加藤医師: はい。
検察官: どのように診断するのですか。
加藤医師: 色々な方法はありますが、血流が豊富であったり子宮筋層に黒い部分があったり絨毛が見えたりしたら疑います。
検察官: 誰に教えてもらいましたか。
加藤医師: 本を見て学びました。
検察官: 本とは何ですか。書名を挙げられますか。
加藤医師: 以前からその知識はありましたが、どこで読んだとはちょっと今挙げられません。
検察官: あなた以外の別の医師がエコーを一緒に見たことはありましたか。
加藤医師: ありません。
検察官: エコー検査の写真を第三者に見てもらったことはありますか。
加藤医師: 僕が頼んで見てもらったことはありませんでしたけれど、お手伝いの医師がチラチラと見たことはあると思います。
検察官: あなた以外の他の医師に相談しましたか。
加藤医師: 今回はそのような所見がなかったので相談してません。
検察官: 前壁側に胎盤が回ってきている場合、癒着を疑う必要があったとは感じませんか。
加藤医師: 感じません。
検察官: 前置胎盤?のときの血流と癒着胎盤と血流で判断はつくのですか。
加藤医師: 血流の豊富さが違います。
検察官: 12月6日の経腹エコー検査の目的は何ですか。
加藤医師: 単に赤ちゃんの大きさを見るためにやったのですが、+αで何か所見はないかとプローベを動かしていたら、たまたま膀胱の所に血流があったので記載しました。
検察官: (メモ不完全)
加藤医師: 28週の時点で診断をつけられたのは、ハッキリとした全前置胎盤?だったからです。
検察官: 内子宮口を完全に覆っていたからですか。
加藤医師: はい。
検察官: カルテに一部前置胎盤?と記載したことはありませんか。
加藤医師: 何かの時に誤って記載したことは覚えています。
検察官: なぜ誤ったのですか。
加藤医師: 実際は一部(メモ不完全)
検察官: 胎盤が内子宮口を完全に覆っていても、胎盤が前後ろ均等でなく後壁メインの場合は一部に含まれると思っていたのではありませんか。
加藤医師: 含まれるというわけではなく勘違いです。
検察官: 事故調査委員会で指摘されて間違いに気づいたのではありませんでしたか。
加藤医師: 頭の中では理解していたのですが、調査委員会で言われたことは覚えています。
検察官: エコー検査の結果をプリントアウトしてカルテに貼りましたね。
加藤医師: はい。
検察官: Aさんに説明も加えましたね。
加藤医師: はい。加えました。
検察官: カルテに記載しましたか。
加藤医師: いや、しませんでした。
検察官: なぜ記載しなかったのですか。
加藤医師: 通常は記載しないと思います。
検察官: あなた以外の人がカルテを事後的に見て癒着胎盤でないと判断できますか。
加藤医師: 分からないと思います。
検察官: 分かるように書く必要はないのですか。
加藤医師: 所見があればプリントアウトして残します。所見がなければ記載する必要はないと思います。
検察官: (メモ不完全)
加藤医師: 後からそういう風に言われると困るのですが、所見も全くなくて疑うことがなければ書きようがありません。
検察官: 一般的には他の人が見ても分かるようにカルテを書くべきではありませんか。
加藤医師: 一般的には他の人が見ても分かるようにするべきだとは思います。
検察官: 他の人の中には患者さんも含まれるのではありませんか。
加藤医師: 最近の世の中の流れ的にカルテ開示というのもありますので、患者さんが見ても分かるよう書くように心がけるべきなんでしょうが、正直そこまでは気にして記載していません。
検察官: 疑うような所見はないとのことでしたが、他に検査方法はありませんか。
加藤医師: 保険診療上は認められていませんが、MRIがあります。
検察官: なぜMRI検査をしなかったのですか。
加藤医師: 超音波でしっかり診断できていましたし、MRIの癒着胎盤に対する信用性は高くありません。
検察官: 信用性が高くないと当時認識していたのですか。
加藤医師: そうです。
検察官: 効果があるとの意見もありますが、信用性が高くないとは具体的にどういうことですか。
加藤医師: MRIで癒着はないと診断したのに実際には癒着があったり、逆だったり、大学でMRIを撮ったケースではほとんど外れでした。
検察官: MRIで癒着が疑われて、実際に癒着があったケースはありませんでしたか。
加藤医師: 症例としてはありました。
検察官: そういうことがあるなら、念のためにやろうとは思いませんでしたか。
加藤医師: 当時の認識としては、帝王切開創に胎盤がかかっているなら、診断するためにMRIやろうという意識でした。
検察官: MRIをやれば後壁の癒着も診断できましたか。
加藤医師: 文献的には筋腫を取った後で診断できたというものがありますが、通常の妊娠について言えば信用性としてはあまりないと思います。
検察官: 判断できるけれど信用性が低いということですか。
加藤医師: 判断というか通常はやらないということです。
検察官: MRIをやれば、前壁でも後壁でも癒着を診断できたかもしれないとは思いませんか。
加藤医師: 思っていません。癒着があると思っていればやったかもしれませんが。
検察官: 前壁に癒着があったとは考えていませんか。 加藤医師: 考えてないです。
検察官: MRIの信頼性が高くないということですが、ではエコーで癒着胎盤は確実に診断できるのですか。
加藤医師: いや、確実ではありません。ただ経膣超音波が最も適していて、MRIよりは精度が高いです。
検察官: Aさんに、MRI検査があることを伝えたうえで、やらないと選択したのですか。
加藤医師: 伝えていません。
検察官: 手術前は前回帝王切開創に胎盤はかかっていないという認識だったのですね。
加藤医師: かかっていないという認識でした。
検察官: かかっているかもしれない、ではない。
加藤医師: はい。
検察官: それなのに術前に直接エコー検査をしたのですか。
加藤医師: かかっているとは思っていないが、でも医学的に絶対はないので、確認しました。
検察官: どういう経緯から創にかかっていないと考えたのですか。
加藤医師: エコー検査です。
検察官: 具体的にいつのエコーですか。
加藤医師: 外来中から妊娠初期から割合ハッキリと前回帝王切開創が見えていましたので、かかっていないのは確認していました。
検察官: 何%(メモ不完全)
加藤医師: 最後の経膣超音波では、ハッキリ分かりませんでした。
検察官: 内子宮口はエコー画像で見えますか。
加藤医師: 経膣超音波で分かる方もいますし、内子宮口は分からない方は分からないです。
検察官: あなたの認識としては、この写真で内子宮口は分かりますか。
加藤医師: ハッキリではありませんが、たぶんあれだろうというのは分かりました。
検察官: 通常の帝王切開はどこを切開しますか。
加藤医師: 子宮下部を横向きに切開します。
検察官: 他に操作はありませんか。
加藤医師: 膀胱を下へ動かします。
検察官: 膀胱を下へ動かすと言いますと、どういうことですか。
加藤医師: 念のため膀胱と子宮とを剥離して下へ下げてからやるようにしています。(中略)
検察官: 二回目の帝王切開の際、通常切開する位置はどこですか。
加藤医師: 基本的に前回の帝王切開創より気持ち高い位置を切ります。
検察官: そこが基本なのはなぜですか。
加藤医師: ズラして切るためです。
検察官: 離すのでなく近くにする意味は何ですか。
加藤医師: 標準的に子宮下部を切ることになっています。
検察官: 切開する時に下部と体部の違いはありますか。
加藤医師: あります。
検察官: どうして下部が標準的なのですか。
加藤医師: 体部をタテに切るのは古典的な手法で、出血量が多くなってしまうし、産後の経過もよくありません。またタテに切った場合、次の妊娠の時に必ず帝王切開になります。
検察官: タテに切った後で経膣分娩しようとすると子宮が破裂しますか。
加藤医師: 症例的にはあります。
検察官: 検査の時、どのように切開するか考えていましたか。
加藤医師: はい。
検察官: どのように切開しようと考えていましたか。
加藤医師: 通常通り下部をU字に切開しようと考えていました。
検察官: どの辺りを切開しようかと思っていましたか。
加藤医師: ある程度は考えていました。
検察官: どの段階で考えていましたか。
加藤医師: 入院中です。
(子宮の図を書かせ、内子宮口と頸部、体部の範囲と、前回帝王切開創があると思われた範囲、今回切開しようと思っていた範囲を図示させる)
検察官: 手術をするまでに、どこを切開しようというのは変わっていましたか。何個か考えていましたか。
加藤医師: はい。
検察官: 入院して検査していく中で変わっていったのですか。
加藤医師: はい、変わっていったと思います。
検察官: カルテに記載しましたか。
加藤医師: はい。
検察官: いつのカルテか覚えていますか。
加藤医師: いえ。
検察官: カルテを見れば思いだせますか。
加藤医師: はい。
(甲15号証の入院カルテを示す)
検察官: (メモなし)
加藤医師: あまり切開する場所は考えないですし、ふつう通りに切ろうと思っただけです。
検察官: 12月13日のカルテに記載されているエコー検査写真の隣の図ですが、これはどういう趣旨で書いたものですか。
加藤医師: 子宮がローテーションしていて右へ傾いていて胎盤は左にずれていたので、切開位置をこのように決めようかと書きました。
検察官: 胎盤の位置が左にずれていたのですか。
加藤医師: 主に後壁にあると考えていて、ずっと安静に横になっていたものですから、子宮が左へ回旋していて、胎盤も一緒にずれていました。
検察官: どこを切開しようと考えていたのですか。
加藤医師: 高さはふつうの位置で考えていました。
検察官: 胎盤のある位置を切開しないようにと考えたのですか。
加藤医師: はい。
検察官: その理由は何ですか。
加藤医師: 胎盤を切れば出血が多くなるからです。
検察官: カルテの記載では図に線を引いていますが、これは何ですか。
加藤医師: 胎盤は絵では左寄りに見えているので(メモ漏れ)
検察官: 子宮後壁の左側に胎盤が寄っているということですか。
加藤医師: そうではなくて、図では左側にあるということです。
検察官: 「こう切開するか」と記載されているのは、胎盤にかからない位置を切開するという趣旨ですか。
加藤医師: そういう意味ではありません。
検察官: 12月14日にAさん夫妻に手術について説明しましたね。
加藤医師: はい。
検察官: どういう場所を切開する予定という説明をしましたか。
加藤医師: いや、記憶にないです。
検察官: 12月14日付の医師記録、このページに記載ありませんか。
加藤医師: 多分これです。
検察官: この図は一般的な子宮であってAさんの子宮ではないとのことでしたか。
加藤医師: はい、一般的な子宮です。
検察官: この線は何ですか。
加藤医師: 切開する場所です。
検察官: なぜこの右寄りの位置に書いてあるのですか。
加藤医師: ローテーションしていたのに合わせて書いただけで、説明の時には別に右寄りとは言っていません。
検察官: 「胎盤の付着していない場所」と言った覚えはありませんか。
加藤医師: 覚えていません。
検察官: そういう話はなかったということですか、ハッキリとは覚えていないということですか。
加藤医師: ムンテラで一般的な話として胎盤を切ると出血が大量にあるので避けるというような話はしたかもしれません。
検察官: 12月14日付の看護処置記録には証人が「胎盤の付着していない場所を切開する」と説明したと書いてありますが。
加藤医師: 記載していたということは言ったのでしょう。ただ、意味としては典型例とは違っているということです。
検察官: では、この図は何のために書いた図ですか。
加藤医師: 流れ的にこうなっている。普通の胎盤ならこう、前置胎盤?ならこう、ということでAさんの子宮ではありません。
検察官: 「く」の字を逆にしたようなマークは何ですか。
加藤医師: 切開して赤ちゃんを取り出す位置です。
検察官: 前回帝王切開創ではありませんか。
加藤医師: それはありませんね。
検察官: 何のためにここを切るという説明をしたのですか。
加藤医師: ・・・
検察官: 子宮を切る時に胎盤を切る可能性があるからではありませんか。
加藤医師: いや、それはないです。
検察官: 開腹後に超音波検査をしましたね。
加藤医師: はい。
検察官: 術中に超音波検査をすることは12月6日に決めたのですか。
加藤医師: はい。
(12月6日のカルテを示す)
検察官: 何のために超音波を使おうと思ったのですか。
加藤医師: 胎盤の位置を最終確認するという意味で使いました。
検察官: どうして位置を確認する必要があったのですか。
加藤医師: 経腹超音波で見るには限界があるからです。
検察官: 胎盤は前回帝王切開創にはかかっていないと思っていたのですか。
加藤医師: はい。
検察官: 何を根拠にそう考えていたのですか。
加藤医師: 今までの超音波検査です。
検察官: ならば、なぜ開腹後に超音波検査をやる必要があったのですか。
加藤医師: これは本にも書いてありますが、後壁に付着しているものでも前壁は要注意と、辺縁がハッキリしないことがあり、なだらかにくっついている場合など色々あるので、その辺縁部を確認したいというのもありました。
検察官: ならば切開位置に胎盤かかっていると否定できないのでは。
加藤医師: 切開する場所ではなく胎盤の位置を確認しろとしか書いてありません。
検察官: 開腹後の超音波検査で後壁の胎盤は分かりますか。
加藤医師: いや後壁は分からないです。
検察官: 見えるのは前壁だけですね。
加藤医師: はい。
検察官: ならば前壁に胎盤があるから検査したということになりませんか。
加藤医師: 念のためということです。
検察官: 前回帝王切開創にかかっているかもしれないと考えてはいましたか。
加藤医師: ほとんど考えていないうちの念のためということで、やらなくてもいいかなと思ったのですが念を入れたということです。
検察官: 開腹後の超音波検査はよくやるのですか。
加藤医師: いや今回が初めてです。
検察官: それなりの理由があったのではありませんか。
加藤医師: 胎盤の辺縁がどこまで来ているか確認したかったということです。検察官: 念のため確率は低くとも胎盤が見つかったら、前回帝王切開創にかかるのではありませんか。
加藤医師: もちろんです。
検察官: 開腹後にプローベで検査することを決めたのが12月6日で濃厚赤血球5単位を準備することを決めたのも12月6日ですね。
加藤医師: はい。
検察官: 看護師やH医師に事前に説明しましたか。
加藤医師: 覚えていません。
検察官: 前回の傷にかかっているかもしれないと説明しましたか。
加藤医師: 覚えていません。
検察官: 言ったかもしれないし、言わなかったかもしれないということですか。
加藤医師: 説明したかどうかを覚えていないということです。
検察官: 双葉厚生病院のK医師には何と説明したか覚えていますか。
加藤医師: 「一部かかっているかもしれないけれど大丈夫です」と言いました。
検察官: あえて事実と異なることを言ったのですか。
加藤医師: はい。
検察官: 応援依頼したのは初めてですか。
加藤医師: はい。
検察官: 何のために応援依頼したのですか。
加藤医師: 出血が多くなって子宮摘出の判断に迷った時に相談しようと思いました。
検察官: 事実と違う説明をしたのはなぜですか。
加藤医師: まず断られることはないと思ったのですが、何でもない症例でお願いするのは気がひけたからです。
検察官: 断られることがないなら事実を話せばよいではないですか。
加藤医師: 断られはしないと思っていましたが、渋っている感じがありました。
検察官: K医師からMRIをやったかと聞かれませんでしたか。
加藤医師: 聞かれました。
検察官: 後壁メインということを説明した後にそう言われたのではありませんか。
加藤医師: やった方がいいと思っているのかなと思いました。
検察官: なぜ、そんなことを言うのだと思いましたか。
加藤医師: 何でだろうと考えました。
検察官: なぜ、そんなムダなことを言うのだろうと思ったわけですか。
加藤医師: はい。
検察官: そのようなことを言う医師に応援を頼んだわけですか。
加藤医師: ・・・
検察官: (福島県立医大助手の)S医師とのやりとりに関して、検面調書に「どういう状況だが覚えていませんが」ときちんと書いてありませんか。
加藤医師: 読み違えたということでしょうか。
検察官: そんなに実際と違うという印象なのですか。
加藤医師: 違うという印象です。
検察官: 調書の状況なら、あいまいな表現になっていると思いますが。
加藤医師: ・・・
検察官: Kさんという看護師から進言を受けませんでしたか。
加藤医師: 進言というか、話をしました。
検察官: 本当にここでやるのか、と言われませんでしたか。
加藤医師: はい。
検察官: そう言われてどう思いましたか。
加藤医師: Kさんは助産師で外来ではベテランの助産師なんですが、頭が少し大きいと帝王切開しましょうとか、少し出血が多いとすぐに他の病院に送りましょうというような、何でも大袈裟にとらえる人なので、いつものことだと思いました。
検察官: 前回帝王切開の前置胎盤?で大変な出血をした症例があったからという話ではありませんでしたか。
加藤医師: 大学でそういう症例があったという話でしたが、いつもの送りたい送ろう、かと思いました。
検察官: 手術前にS医師と話をしましたね。
加藤医師: はい。
検察官: 前回帝王切開創と胎盤の位置についてどのように話をしましたか。
加藤医師: 覚えていません。
検察官: かかっていないと思っているという話でしたか。
加藤医師: 覚えていません。
検察官: かかっているかどうかという話をしたこと自体はいかがですか。
加藤医師: 聞いたかもしれませんけれど覚えていません。
検察官: S医師から応援について話が出ましたね。
加藤医師: はい。
検察官: なぜS医師がそんなことを言ったと思いますか。
加藤医師: S先生の心境やそう言った理由までは分かりません。
検察官: あなた自身のこととして、なぜS先生がそんなことを言ったのか思い当たることはありませんか。
加藤医師: まあ通常は前置胎盤?で出血の多くない症例が多いのですが、そうでないケースもあるので注意しろということでないかと思います。
検察官: 大野病院へ派遣されるにあたって、医局から応援について何か言われていませんでしたか。
加藤医師: 言われていました。
検察官: どのように言われていたのですか。あまり呼ぶなとは言われていませんでしたか。
加藤医師: 問題ない帝王切開なら外科の先生と一緒にやってくれと言われていました。
検察官: 問題ない場合との留保つきですか。
加藤医師: はい。
検察官: 大野病院では以前にも前置胎盤?の症例があり、この時には母子とも無事だったのですね。
加藤医師: はい。
検察官: その手術の際は麻酔科医はいましたか。
加藤医師: 連絡したけれど来てもらえませんでした。
検察官: どうしましたか。
加藤医師: 私が麻酔をかけて帝王切開を行いました。
検察官: その症例では胎盤の癒着はあったのですか。
加藤医師: ありませんでした。
検察官: 出血量はいくらでしたか。
加藤医師: 1800ミリリットルです。
検察官: 輸血はしましたか。
加藤医師: しませんでした。
検察官: 麻酔が効かなくて大変だったということはありませんか。
加藤医師: はいありました。腰椎麻酔だったのですが、途中から痛がっていました。
検察官: 前置胎盤?の症例を手術する時に教訓のようなものはありましたか。
加藤医師: 麻酔科の先生はいた方がいいなと思いました。
検察官: いればできると思いましたか。
加藤医師: いればできると思いました。
検察官: 大野病院はスタッフが揃っていると思ったわけですね。
加藤医師: はい。
検察官: ならばK医師に応援を依頼しておく必要はあったのですか。
加藤医師: ・・・
検察官: 普通の前置胎盤?でないと思ったからこそ応援を依頼したのでありませんか。
加藤医師: S先生と話をした時にK先生の話も出てきたような気もします。
検察官: K医師に連絡したのは手術当日の12月17日ですね。
加藤医師: はい。
検察官: Aさん夫妻に応援の話をしませんでしたか。
加藤医師: しました。
検察官: でも14日の時点では応援の依頼をしていませんよね。
加藤医師: はい。
検察官: どういう風に説明したのですか。
加藤医師: 何かあったら呼ぼうと思っています、と話しました。
検察官: K医師に約束も取っていないのに、なぜ説明したのですか。
加藤医師: お話をしていても、来れなくなっちゃうこともあるので、当日話をした方がいいかなと思いました。
検察官: (メモ不完全)
加藤医師: 断られることはまずあり得ません。
検察官: K医師がお産か何かで来られないとしたら、どうするのですか。
加藤医師: その場合は応援が可能な時間へずらそうと思っていました。
検察官: 実際には何時に連絡しましたか。
加藤医師: お昼ごろです。
検察官: 応援の医師の都合が悪ければ時間をずらすと看護師やH医師に伝えていましたか。
加藤医師: いや言っていません。
検察官: 12月14日に子宮摘出の説明はしましたか。
加藤医師: はい。
検察官: Aさんが子宮温存希望であるとの認識でしたか。
加藤医師: 温存希望というか、もう一人欲しいという希望は認識していました。
検察官: 子宮摘出の可能性について説明して同意書をもらった時、妊娠について改めて聴取しましたか。
加藤医師: はい聞きました。
検察官: Aさんが子宮摘出を渋る様子はありましたか。
加藤医師: それはありませんでした。
検察官: 不妊手術をするかどうかは毎回聴いているのですか。
加藤医師: 2回目以降の帝王切開を行う時と経膣分娩を何度かしていて帝王切開になった際には聴いています。
検察官: 不妊手術を希望しないとのことだったのですね。
加藤医師: はい。
検察官: それのみで子宮温存希望と判断したのですか。
加藤医師: もう一人子供がほしいともおっしゃっていたので。
検察官: Aさんが子宮温存希望であるということが、手術中のあなたの判断に影響を与えましたか。
加藤医師: 影響はありませんでした。
検察官: それはないということですか。
加藤医師: はい。
検察官: 開腹後、前回帝王切開創は見えましたか。
加藤医師: 見えませんでした。
検察官: なぜ見えなかったのですか。
加藤医師: 最近は見えない方が多いです。
検察官: それはなぜですか。
加藤医師: 子宮を縫うときに溶ける糸を使うので。溶けないと傷の周囲が硬くなったりします。
検察官: 見える場合は線のように見えるのですか。
加藤医師: 線だったり一部筋層が薄くなったりします。
検察官: 前回帝王切開創の所は開腹後のエコー検査で分かりましたか。
加藤医師: 膀胱を介して見ましたが分かりませんでした。
検察官: 膀胱を下げて確認しないのですか。
加藤医師: それも可能ですが、膀胱の上からでも見えます。
検察官: エコーの結果、前回帝王切開創に胎盤はかかっていましたか。
加藤医師: かかっていませんでした。
検察官: なぜ外から膀胱の上からしか確認しなかったのですか。膀胱を下げれば目視できたのではありませんか。
加藤医師: 術中に下げて見た時にも見えませんでした。
検察官: 今回は膀胱を下ろしたのですか。
加藤医師: はい。
検察官: 先ほど膀胱の上から見たと証言しませんでしたか。
加藤医師: ですから、術中には膀胱も下ろしました。
検察官: 膀胱を下ろさなかったのではないのですか。
加藤医師: 帝王切開の前に通常通り下ろしています。
検察官: 子宮を切開して子宮の中を見ましたね。
加藤医師: はい。
検察官: 胎盤はほぼ後壁全体に広がっていたのですか。
加藤医師: はい。
検察官: 前壁にもありましたか。
加藤医師: 前壁の下の方にしか胎盤は存在していませんでした。
検察官: 前壁の確認は目視ですか。手を使いましたか。
加藤医師: 両方やってます。
検察官: 子宮収縮不良の原因は何ですか。
加藤医師: 色々なケースがあり、その時に考えたわけではありませんが、赤ちゃんが大きかった、羊水量が多かったからというのも考えられますし、弛緩出血かなというのもあります。
検察官: 当時はどのように考えていましたか。
加藤医師: 子宮の収縮が悪いとしか考えていませんでした。
検察官: 子宮の収縮不良の—
弁護人: 子宮の収縮不良とは、いつの時点のことを指しているのですか。胎盤剥離前と剥離後とでは医学的な意味が違いますので、きちんと整理してから質問してください。
検察官: では改めてお尋ねしますが、子宮の収縮不良があった時に何が考えられますか。胎盤剥離前と後とで整理して答えてくださいね。でないと、こちらには分かりませんから。
弁護人: 何いってんだ。質問者が整理するのが当たり前だろう。
検察官: では、子宮の収縮不良があった、その時には癒着胎盤を疑わなかったのですか。
加藤医師: 何か話が飛んでいる気がするのですが、もう一度お願いします。
検察官: さい帯を引っ張ると通常なら胎盤はどうなるのですか。
加藤医師: 剥離します。
検察官: とすると、引っ張っても撮れずに用手剥離に移った時点で癒着を疑いませんでしたか。
加藤医師: 用手剥離を開始した時には全く頭にありませんでした。
検察官: 子宮収縮剤を注射すると通常は収縮が起きるものですか。
加藤医師: 起こる方も起こらない方もいて、人それぞれです。
検察官: 人それぞれとは、たとえば注射後30秒、1分で収縮が起きるのか、どの程度の時間がかかるものですか。
加藤医師: 収縮剤を打たなくてもいく人もいるし、収縮剤打って収縮する方も、マッサージして収縮する方もいます。
検察官: 本件では収縮剤は効果がありましたか。
加藤医師: 効果はあまりありませんでした。遅かったと思います。
検察官: どの時点から効果が出てきましたか。
加藤医師: 収縮剤を打ってマッサージを始めたら収縮してきました。
検察官: 用手剥離を始めたのは、どの時点ですか。
加藤医師: マッサージをして収縮してきた後にさい帯を引っ張っても剥離して来なかったので用手剥離に移りました。
検察官: その時点では癒着しているとは思いませんでしたか。
加藤医師: 思いませんでした。
検察官: 通常の娩出後に児の処置に要する時間はどの程度ですか。
加藤医師: 4〜5分です。
検察官: 何までの時間ですか。
加藤医師: 胎盤剥離までの時間です。
検察官: 検察での取調べで、再現実験をしましたね。
加藤医師: しました。
検察官: それは正確なものでしたか。
加藤医師: 行為がいくつか抜けていました。
検察官: 実際には何分だったのですか。
加藤医師: 分からないという問答があって、実際にやらされましたが、冷静さを欠いていたので、時間が早くなってしまいました。
検察官: なぜ手技が抜けたのですか。
加藤医師: 理由になるか分かりませんが、動揺して、ゆっくりやるべき所で早くなってしまいました。
検察官: 検察官:から早くやれとか手技を抜けとか言われたわけではないでしょう。
加藤医師: はい。
検察官: 具体的に何が抜けたのですか。
加藤医師: ゆっくり時間をかけるべきところを早くやってしまいました。
弁護人: あのー、いや、異議じゃないんですけどね、この反対尋問いつまでやるつもりなんですか。帰りの新幹線もありますんでね。この後、東京で仕事があるので、私午後6時には出なきゃいけないのですが、再主尋問の時間があるか心配になってしまいまして。
検察官: あと1時間半はかかります。
弁護人: 期日前整理では弁護側2時間、検察側3時間となっていませんでしたか。既に3時間を超えていますよ。
検察官: とりあえず3時間だが、主尋問の内容が分からないので、4時間になるか5時間になるか流動的と言ったはずです。
裁判長: 期日前整理の調書には3時間と書いてありますが。
検察官: 流動的と申し上げたかと。
裁判長: 再主尋問は何分くらいかかりますか。
弁護人: 30分くらいは必要だと思います。既に20問はありますから。
裁判長: 検察も5時半までに終わらせることはできませんか。
検察官: 無理です。
裁判長: どこかでいったん切って期日を改めますか。
弁護人: ならば、せめて反対尋問は終わらせてもらえませんか。
裁判長: 被告人質問ですからね。。。では、検察は5時50分で終わらせてください。
検察官: 続けます。再現実験の結果、かかったのは35秒程度ではありませんでいたか。
加藤医師: はい。
検察官: その違いは何ですか。
加藤医師: 通常ではあり得ないことですし、頭を整理してからやってみると4〜5分かかりました。
検察官: 手術当時、癒着胎盤の場合、自然に娩出されないという知識を持っていましたか。
加藤医師: それは知っていました。
検察官: 今回は疑わなかったのですか。
加藤医師: それより収縮不良の方に目がいっていました。
検察官: 癒着胎盤の可能性を排除したのですか。
加藤医師: 最初は全く考えていませんでした。
検察官: 産科の教科書には、注意事項として通常の用手剥離の際「静かに」行うよう書いてありますが、「静かに」とはどういうことですか。
加藤医師: 静かにということではないでしょうか。
検察官: 具体的にどういうことですか。
加藤医師: ボンヤリとは分かりますけれど、具体的には・・・
検察官: 丁寧に力を込めないこと、ではありませんか。
加藤医師: そういう意味だと思います。時と場合、場所にもよると思いますけれど。
検察官: 「静かに」というのに理由はあるのでしょうか。
加藤医師: 無理をしないでという意味だと思います。
検察官: なぜ無理をしないでなのですか。
加藤医師: 無理をすれば、胎盤は剥がれないか、子宮筋層を傷つけたり、胎盤が残ってしまったりするからだと思います。
検察官: 収縮が進んでいない子宮は薄いですか。
加藤医師: 収縮が進めば厚くなるという意味では薄いです。
検察官: 薄い時に無理にやったら壁を突き抜けてしまうことはありませんか。
加藤医師: いやちょっと分かりませんけれど。
検察官: 先ほどの話だと用手剥離に移るまで4〜5分でしたね。
加藤医師: はい。
検察官: 胎盤剥離をしづらくなったことはありますか。
加藤医師: はい。クーパー併用になる前には少しありました。
検察官: それまでは通常の用手剥離でしたか。
加藤医師: はい。
検察官: 剥離できなくなったのとは違うのですか。
加藤医師: スピードは遅くなってきましたけれど剥離できないというわけではありません。
検察官: それは手にかかる感触とか圧力、引っかかりで判断したわけですか。
(接続が変なのでメモが漏れているかもしれません)
加藤医師: 所々というか場所によってそういう所がありました。
検察官: 取れない場所だったのではありませんか。
加藤医師: いやそうではありません。
検察官: 検察官:に指が3本、2本、1本という調書を取られたけれど、そういう状況ではなかったのですね。
加藤医師: はい。
検察官: それならば用手剥離で最後まで行けるでしょう。
加藤医師: それもできるんですが、そのころには癒着胎盤も頭に入ってきたので指先の感覚だけでは危険かなと思いました。
検察官: どういう所から癒着胎盤を疑うようになったのですか。
加藤医師: 気持ち剥離しづらくなったことからです。
検察官: 癒着と判断するのは、どういう場合ですか。
加藤医師: 胎盤剥離した時に強い出血がある場合です。
検察官: 他にはありませんか。
加藤医師: 剥離が終わった後に胎盤が残ってしまう場合です。
検察官: 用手剥離を続けられない時に癒着とは判断しないのですか。
加藤医師: それは用手剥離が全くできないなら臨床的に癒着胎盤と判断することはできると思います。
検察官: 最初から剥離できないということですか。途中からできなくなった場合はどうですか。
加藤医師: 剥離して出血があるかないかが関係してくると思います。
検察官: 出血量が大きいという判断ですか。
加藤医師: それが特徴の第一だと思います。
検察官: 何が大量の出血の原因ですか。
加藤医師: 癒着を剥がした際の出血です。胎盤を剥がせば出血はするので、それがとても多いことになります。
検察官: 剥離してみないと分からないのですか。
加藤医師: そういうことになります。
検察官: クーパーを使おうと判断したのはなぜですか。
加藤医師: 胎盤の3分の2以上剥がれてて、もうすぐ剥がし終えると考えたこと、目で見えていたのでクーパーの方が剥離する部分に力を込めやすいのでピンポイントで狙えると思いました。
検察官: 終わりに近づいていたという認識ですか。
加藤医師: はい。
検察官: 用手剥離でも剥がせたなら、指先には触感がありませんか。
加藤医師: ある程度はあります。
検察官: クーパーは指に比べて判断しやすいのですか。
加藤医師: クーパーを使うと感触は判断しづらいのですが、使えるところは指を使ったので。
検察官: クーパーを持ち替えたのは何回ですか。
加藤医師: 詳しくは覚えていません。
検察官: どういうところで持ち替えましたか。
加藤医師: 指先では剥がれにくいと感じたところです。
検察官: どちらが多かったですか。
加藤医師: 併用し始めたころは用手の方が多かったです。
検察官: 用手剥離しづらい所とは、どこでしたか。
加藤医師: 場所は特定できませんが、索状物があったような場所です。
検察官: 他にはどういう所ですか。
加藤医師: 具体的には言えません。
検察官: 場所ではなく状態で言うとどういう場所ですか。
加藤医師: 状態で言うと、用手剥離しづらい場所です。
検察官: 索状物に切れ目を入れたというのは、どの辺のことですか。
加藤医師: 何カ所かありますが、子宮後壁のどちらかというと下の方です。
検察官: 胎盤が残存していたのは、どの辺りですか。
加藤医師: 場所的には用手剥離した所です。
検察官: (メモ漏れ)
加藤医師: 普段と変わらなかったので病理の結果を見て驚きました。
検察官: 粗っぽく剥がしたとか急いで剥がしたことはありませんか。
加藤医師: そういうことはありません。
検察官: 索状物から出血はありませんでしたか。
加藤医師: 今回はなかったので血管が入ってなかったと思います。
検察官: それは切る前に分かるものですか。
加藤医師: 事前には分かりませんが、チョコチョコ切れ目を入れるので、もし血管が入っていれば分かります。今回はありませんでした。
検察官: 癒着胎盤(メモ読めず)出血する危険性があるのではありませんか。
加藤医師: それはなかったです。特段、異常な出血もなかったので。
検察官: 用手剥離の方が速く進むのですか。
加藤医師: はい、面積的には速く進みます。クーパーもなでるように使うなら速いのですが、削ぐようにやると遅いです。
検察官: なぜ遅くなるのですか。
加藤医師: 慎重にやるためです。
検察官: 慎重にやる理由は何ですか。
加藤医師: 癒着の可能性があるからです。
検察官: 用手剥離の際は指先が見えないのですか。
加藤医師: 見えません。
検察官: クーパーを使うと先端が見えるのですか。
加藤医師: 見えるように使っていました。
検察官: 出血がある場合、クーパーの先端は見えますか。
加藤医師: 見えません。
検察官: 今回、出血があったのではありませんか。
加藤医師: 僕の認識的には大量というか多い出血があったとは感じていませんでした。
検察官: 子宮の下部に血が溜まって見えないのではありませんか。
加藤医師: 今回は見えたので多くなかったと思います。刃先は見えました。
検察官: やろうとした時に血が見えて中断したことはありませんでしたか。
加藤医師: 途中で中断したことはありませんでした。
検察官: 出血は吸引していたのですね。
加藤医師: はい吸引していました。
検察官: M先生(第一助手)が吸引していたのですね。
加藤医師: はい。
検察官: 剥離と吸引と同時にはできないのでないですか。
加藤医師: いやお腹の中に一緒に入ってます。
検察官: 用手剥離単独の時とクーパー併用の時の時間の割合はどの程度ですか。
加藤医師: 用手の時の方がスムーズだったのでクーパー併用の方が時間がかかったと思います。
検察官: 捜査段階では3:7と証言していますが。
加藤医師: どの位の時間剥離していたのかハッキリ覚えていません。
検察官: クーパーを併用し始めたのはどこですか。
加藤医師: 後壁の途中です。
検察官: 剥離を続けたのは収縮を期待してですか。
加藤医師: はい。
検察官: 子宮体部と下部とで収縮の違いはありますか。
加藤医師: 割合的には頭の方、てっぺんの方が大きいです。
検察官: 前置胎盤?の出血が多いのはなぜですか。
加藤医師: 子宮下部から出血するからです。
検察官: なぜ子宮下部だと出血が多くなるのですか。
加藤医師: 子宮下部は○○膜が○○(メモ読めず)しているような場所が多いので癒着まではいかないのですが、収縮するのが弱いことが多いです。
検察官: 付着する部位の収縮が悪いのですか。
加藤医師: 症例によってはそうです。
検察官: 剥離している時、本当に収縮を期待していましたか。
加藤医師: どの辺りを剥離しているかによって、ある程度変わりますが、分かりませんが収縮すると思うんですが。
検察官: 前置胎盤?だけでも出血するのですか。
加藤医師: はい。
検察官: 前置胎盤?で出血があるから急いで剥がしたのではないのですか。
加藤医師: それより剥がし終えるまでちょっとだったので、急いで剥がすというのも違うのですが。
検察官: 胎盤剥離中はどこを剥離しているかは分からないものですか。
加藤医師: ええ、現場では子宮のどの辺りかは分かりません。
検察官: 捜査段階で弁護士と相談した時も今日と同じ説明をしましたか。
加藤医師: はい。
検察官: 今回あなたの罪状認否でクーパーを使った理由について、どう述べたか覚えていますか。
加藤医師: 覚えてないですけど。
検察官: 第一回の公判で「剥離しづらくなったので、できるだけ素早く子宮前壁から剥がす〜」と述べませんでしたか。
加藤医師: いや、そういう趣旨ではありません。
検察官: なぜそういう趣旨ではないのに、公判で述べたのですか。
加藤医師: ・・・
検察官: 弁護士が冒頭陳述したのは、あなたの述べてないことですか。覚えてませんか。
加藤医師: 覚えてます。
検察官: やっぱりクーパーを使ったのは急ぐためじゃないの。
加藤医師: いえそうではありません。
検察官: 急ぐためと説明したんじゃない。
加藤医師: もう一度お願いします。
検察官: 素早くというのが理由でしょ。
加藤医師: 用手剥離しづらくなると時間がかかるので。
検察官: クーパーを使ったデメリットは何ですか。
加藤医師: ・・・
検察官: 帝王切開だと視野が確保されているからクーパーを使ったという説明でしたよね。
加藤医師: クーパーも色々な使い方をしていたので、使い方によってはスピードが遅くなりますから。
検察官: クーパーを使った根拠は何ですか。
加藤医師: 文献です(メモ不完全)。
検察官: そんなに胎盤剥離にクーパーがいいなら、事前に。(メモ欠落)
加藤医師: 説明してますよ。
検察官: 今のべたことは当時のあなたの考えですか。
加藤医師: はい。
検察官: 事故後、いろいろな人と話をしたり文献を読んだりして、それでこう考えるようになったのではありませんか。
加藤医師: いえ違います。
検察官: 胎盤剥離後の全身状態について伺いますが、血圧低下はありませんでしたか。
加藤医師: 剥離中に下がり出しましたが、一時的なものでした。
検察官: 出血量が多くなると血圧は下がりますか。
加藤医師: 一般的にはそうです。
検察官: 循環血液量を維持するためにポンピングが行われていたのは認識していますね。
加藤医師: はい。
検察官: H医師が2本のラインを通じて輸液を行っていたのですね。
加藤医師: はい。
検察官: 輸液するのはよくあることですか。
加藤医師: たまにあります。血圧が下がった時なんかにやります。
検察官: 出血量が増えて循環血液量が足りなくなった時にするのではありませんか。
加藤医師: それもあります。
(麻酔記録を示す)
検察官: 2時50分にヘスパンダーを入れていますね。
加藤医師: はい。
検察官: このときにポンピングが始まったのですか。
加藤医師: いつからポンピングしていたかは分かりません。
検察官: 出血をどの段階で確認しましたか。
加藤医師: 胎盤を娩出した後です。
検察官: どの位後ですか。
加藤医師: そんなに時間経っていないと思います。
検察官: どこからですか。
加藤医師: 子宮壁全体からジワジワ出てくる感じでした。
検察官: 子宮後壁下部からではありませんか。
加藤医師: いや別に、体の傾きの関係で子宮下部に血液が溜まることはありますが、下部から出ていたということではありません。
検察官: 2555という数字を当時聞きましたか。
加藤医師: 覚えがあります。
検察官: 5000は記録(メモ不完全)
加藤医師: 5000ミリリットルぐらいか?と書きました。
検察官: 場所は特定できませんか。
加藤医師: 表に書いてあります。
検察官: 間もなくそんなに出血があったわけですね。
加藤医師: 間もないかどうかは(メモ不完全)
裁判長 6時10分まで休憩します。まだ終わらないでしょう。
検察官: あと30分はかかるかと思います。
検察官: 手術が終わった後で経過を作成しましたね。
加藤医師: はい。
検察官: いつ付けたものですか。
加藤医師: 手術当日か午後12時を回っていたかだと思います。
検察官: どういう内容を書いたか覚えていますか。
加藤医師: はい覚えています。
検察官: どのようなことを書きましたか。
加藤医師: 詳しくは覚えていません。
検察官: 見れば分かりますか。
加藤医師: はい。
(手術経過を示す)
検察官: これまでの説明と違うところがありませんか。
加藤医師: 混乱した中で記録したものです。
検察官: あえて事実と違うことを書くことはありますか。
加藤医師: 記憶がハッキリしない状況については
検察官: 胎盤剥離後15分で5000ミリリットルという記述がありますね。
加藤医師: はい。
検察官: これは事実の経過ですか。
加藤医師:
検察官: 「ペアンで」剥がしたという記述がありますが。
加藤医師: 「クーパー」の誤りだと思います。
検察官: なぜ誤ったのですか。
加藤医師: この時の心理状態が心の置きどころがないというか動揺しながら書いたためだと思います。
検察官: 「索状物を子宮より切除して」というところでクーパーを使ったのが正しいのですね。
加藤医師: はい。
検察官: なぜ胎盤剥離した時にペアンを使ったと間違えたのですか。
加藤医師: はい。
検察官: 「辛うじて剥離可能な状態」とは、どういう状態ですか。
加藤医師: 用手剥離がしづらくなったことだと思います。
検察官: 「時間を要し出血も多かった」と書いてあるのは。
加藤医師: 剥離終了の時なのか、その後のことなのか。
検察官: 剥離終了時ではないのですか。
加藤医師: カルテにはそう書きましたが、実際は違います。
検察官: 事実があったのでそのように記載したのではないのですか。
加藤医師: そういうわけではありません。
検察官: なぜ、そのように記載したのですか。
加藤医師: 麻酔記録をしっかり読んだわけじゃなかったので、5000ミリリットルが妙に頭に残っていて、そういう記載になったと思います。
検察官: 胎盤剥離が終わった時、出血が5000ミリリットルだったのではありませんか。
加藤医師: この時はそうではないと思います。
検察官: 先ほど2555が頭にあったと証言しましたね。
加藤医師: はい。
検察官: ならば、なぜ2555を書かなかったのですか。
加藤医師: スタッフの5000が頭に残っていて、そのように書きました。
検察官: あなた自身も見たのではありませんか。
加藤医師: 5000を見ましたが、いつ見たのかハッキリしていません。
検察官: 裏は続きですか。
加藤医師: はい。
検察官: bleeding5000mlくらいか、と書いてありますね。
加藤医師: はい。
検察官: これはあなたが体験したことそのままではないのですか。
加藤医師: そのままではありません。この時点かどうかは分かりません。
検察官: ご遺族に説明しましたね。
加藤医師: はい。
検察官: 同じように説明しましたか。
加藤医師: 詳しくは覚えていません。
検察官: ハサミを使って切ったら出血が多くなったという説明をしませんでしたか。加藤医師: 覚えはありません。
検察官: 事実経過の中でクーパーと用手を併用したのですね。
加藤医師: はい。
検察官: クーパーを持ち替えたのを実演してもらえませんか。クーパーを用意しましたので。
(弁護側から「弁護側が同じことをやりたいと言ったら手続きを踏めと言われて写真提出になったのに、検察だったら認められるのか」、などと異議が出て、持ち越しに)
検察官: 冒頭陳述の際「信頼してくれた患者さんを亡くしてしまったことは医師として忸怩たる思いがある」と述べましたが、医師として患者が死亡してしまって残念だという以外に、結果的に落ち度があったと思う事はありますか。あの時、あれをやれば良かったと思うことがありますか。
加藤医師: 落ち度は特にないと思っています。医師として精一杯のことをやりました。精一杯のことをやったからこそ、その結果にすごく悔しい思いをしています。
検察官: 当時の知識や技術、経験が足りなかったとは考えていませんか。
加藤医師: 医師として日々勉強していく身にあるわけですから、もっと勉強しようという意味ではあります。
検察官: MRIをやっておけばよかったとは思いませんか。
加藤医師: MRIをやっておけばよかったとは思いません。
検察官: 癒着胎盤に対する知識・認識が不足していたとは思いませんか。
加藤医師: それも思いません。
検察官: 医局から人に来てもらえば良かったとは思いませんか。
加藤医師: この時の状況から見れば、来てもらえばよかったとは思いません。
検察官: 用手剥離にクーパーを併用したことは問題だったとは思いませんか。
加藤医師: それも思いません。
検察官: あなた自身の診断・手技にも落ち度はなかったと考えているのですか。
加藤医師: はい。特に落ち度はなかったと考えています。
検事が交代。
検察官: 逮捕拘留期間中から複数の弁護人を選任していましたね。
加藤医師: はい。
検察官: 接見に来てくれていましたね。
加藤医師: はい。
検察官: 面会に来てくれたのは6人でありませんでしたか。
加藤医師: 人数までは記憶していませんが複数でした。
検察官: どれ位、面会に来てくれましたか。
加藤医師: どれ位というと頻度ですか。
検察官: 面会がなかった日はどのくらいですか。
加藤医師: 何日かありましたが、よく分かりません。
検察官: 21日くらいの期間で面会がなかったのは5日だけ(?)ではなかったですか。
加藤医師: 分かりません。
検察官: 1日の面会時間はどれ位でしたか。たとえば平岡先生は。
加藤医師: 詳しく覚えていません。
検察官: 2時間くらいなかったですか。
加藤医師: ちょっと覚えてないですね。
検察官: では水谷先生の場合は1回どのくらいの時間ですか。
加藤医師: いや、ちょっと覚えてないです。
検察官: 2時間以上なかったですか。
加藤医師: 覚えていないので覚えていません。
検察官: 弁護士の先生方から取り調べに対するアドバイスはありませんでしたか。
加藤医師: 色々な話はさせていただきました。
検察官: 訂正してくれない調書のことも相談したのではありませんか。
加藤医師: 話はしています。
検察官: 訂正する必要があるところは全部伝えましたか。
加藤医師: 全部は話できていないと思います。
検察官: 全部ではないにせよ、問題だと思う事は話したのではありませんか。
加藤医師: 話はしてあります。
検察官: 弁護士の先生から検察への訂正申し入れはされましたか。
加藤医師: いやちょっと分からないです。
検察官: あなたが話したことに対する先生方のアドバイスはどんなことでしたか。
加藤医師: 気を確かに持ってとか精神的なことを言われました。
検察官: 他にはどんな助言がありましたか。
加藤医師: いや、ちょっと覚えてないです。
検察官: どんな助言があったか覚えてないくらいの、その程度の相談だったのですか。
加藤医師: 分からないです。
検察官: 調書に署名・指印しましたね。
加藤医師: はい。
検察官: 検察官:に読んでもらって、署名・指印したものですね。
加藤医師: はい。
(延々と調書全部の署名・指印部分を加藤医師:に見せる)
検察官: 拘留されている期間に訂正申し入れをして訂正してもらったものはありましたか。
(メモ不完全)
加藤医師: あったような気がします。
(訂正の入っている調書を示す)
検察官: 今、見てもらっている調書は、午前中の尋問にも出てきた3月4日作成の「3本から2本、2本から1本」の調書ではありませんか。
加藤医師: はい、そうです。
検察官: 3本、2本、1本については訂正がされていなくて
(断続的に弁護側から異議が出るが認められず)
検察官: なぜ、3本、2本、1本についても訂正申し入れをしなかったのですか。
加藤医師: その時は訂正箇所の方に目が行ってしまったのだと思います。
検察官: 違うことについては違うで訂正してくれたのですから、3本・2本・1本も訂正してもらえばよかったのではありませんか。
加藤医師: 2つ訂正という感じまで頭が回らなくて、読み聞かせられている最中に、どう訂正してもらおうかシナリオを考えているので、他のところまで気が回らなくなっていたのだと思います。
検察官: 3本・2本・1本については訂正申し入れをしていないですね。
加藤医師: いないです。
検察官: (メモ不完全)図を書いたり線を書きいれたものは、あなたが書き込んだものですか。
加藤医師: 現物を見てないから、ちょっと分からないのですが、僕が書いて提出したものがありました。
検察官: この「く」を逆にしたような印の所に青字で「前回帝王切開創」と書いてありますね。
加藤医師: はい。
検察官: 終わります。
裁判長: では、本日はここまで。次回は9月28日の午前10時からですか。
加藤医師: すみません、今の質問でよろしいですか。
裁判長: はい。
加藤医師: 「く」の逆に書いた部分ですが、この時の記憶が確かでなかったために、このように記載したものです。
午後7時尋問終了。