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第九回公判について(07/10/26)

第九回公判について(07/10/26)

 第九回 公判傍聴記  福島地方裁判所第一法廷にて

 午前10時開廷、弁護側の証人として、東北大学医学部産婦人科教授(周産期学)岡村州博先生。

 午前中は弁護側からの尋問。

 岡村教授の、1万例の分娩経験中、前置胎盤?症例で癒着胎盤であった例は、7〜8例位であり、開腹後、穿通胎盤であった症例1例のみ、癒着を剥離せず子宮摘出術を」施行した。後はすべて胎盤を用手剥離したと証言。癒着した胎盤を剥離すれば当然出血するが、剥離を始めたら最後まで胎盤剥離をし、止血操作をしたと証言。

 クーパーで剥離した経験はないが、局所的な癒着であれば、クーパーを使用しても何ら差し支えはないと証言した。

 その後は外来、入院カルテ上の超音波断層写真を中心として、説明がなされ、前壁にかかっていた胎盤から癒着胎盤と診断するものはないと証言した。またMRIでの癒着胎盤の診断については診断価値は高くなく、今回の場合MRI施行にても後壁の癒着は診断できなかったろうと証言し、MRIの診断精度はあまり高くないことも強調した。外来・入院カルテの超音波断層写真、カルテの記載から、加藤医師は慎重であり、また超音波断層法の読みに対する能力は高いと評価した。

 午後11時30分より検察側の尋問。

 実際に癒着胎盤があったのであるから、加藤医師は超音波検査で診断できなかったではないかという質問に対し、超音波検査で後壁の癒着胎盤は診断できないこと、また、前壁にある胎盤の超音波検査では、癒着胎盤を疑う所見がなかったということであって、診断に100%確実ということはないこと、診断は難しいことを証言した。

 また、加藤医師の産科医としての技量(超音波検査の読み)が高いことも証言した。

 平成17年春、加藤医師が逮捕される1年前に、富岡警察署から本件の鑑定を依頼したことを検察側がとりあげ、なぜ、拒否したかを尋ねた。岡村教授は刑事問題の鑑定書を依頼されたのが初めてであったことと、その当時、多忙で時間がとれなかった事でことわったと証言した。

 今回の岡村教授の証言から、少なくとも前壁にかかっていた胎盤所見から、超音波断層写真上、癒着胎盤を疑う所見はなかったと証言したこと、(臨床的にも前壁にあった胎盤はスムーズに剥離できている)、臨床的に胎盤剥離を始めたら最後まで胎盤を剥離して、次いで止血操作をすること、クーパーも使用することもありえること、MRIは現在までのところ癒着胎盤の診断価値は高くないことを明確に証言したことが、特筆すべきことであった。岡村教授は周産期医療の専門家として、豊富な経験と知識に基づき、明確な説明をされ、上記内容は裁判官の先生方も理解されたと考えている。

 午後3時45分より、加藤医師の被告人尋問、8月分の続きが行われた。

 逮捕拘留中の検察による調書で、訂正してもらいたい点がいくつかあったが、それがうまくいかなかったと証言。特にクーパー使用についてはしつこく聞かれ、胎盤を剥がせなかったからクーパーを使ったのだろうと言われ、何度も違うと答えたが、納得してもらえず、「例えば指が3本、2本、入らなくなって、1本でもダメで、クーパーを使用した、と言うのですか」と答えたら、具体的で良いと言われ、メモをとられてしまったと証言した。

 やはり、医学的(臨床的)なことを理解していない人が調書をとることに問題があることがはっきりしたといえると思われた。

 次回公判は、11月30日(金)午後10時から、弁護側証人として池之上宮崎大学医学部産婦人科学教授が証人として立つことになっている。

              平成19年10月31日   文責  佐藤 章

 第九回公判傍聴記録

第九回公判傍聴詳報

この記録は傍聴人のメモを起こしたものです。完全に正確でない部分があることをご了承ください。

(10:00開廷)

裁判長: それでは開廷いたします。前回、第六回公判後、事実間整理を行った結果、採用した、岡村州博氏を証人として訊問を行います。

弁護1: 裁判長、経歴は略歴を事前に検察に渡しております。そこに若干の補足を証書に添付することとしてください

裁判長: よろしいですね はい。それじゃ

証人宣誓

【弁護側主尋問】

弁護1: 弁護人の平岩からお尋ねします。先生のご経歴は略歴に記載された通りですね

証人: はい、その通りでございます

弁護1: 平成18年3月には、日本産科婦人科学会の周産期委員会の委員長をされていましたね

証人: その通りでございます

弁護1: 周産期医療というのは、妊娠と分娩に関係する医療ということでよろしいですか

証人: はい

弁護1: 現在先生は東北大学医学部産科婦人科教授、周産母子センター長、大学病院の副病院長を兼任されていますね

証人: はい

弁護1: 略歴によると、先生は昭和49年から、1年10ヶ月、東北大学細菌学教室に在籍された他は、33年間、周産期医療の臨床と研究に関わってこられましたね

証人: はい。細菌学教室在籍時も、妊娠に関する研究をしておりましたので、ずっと周産期医療にたずさわっておりました

弁護1: 先生は33年間に分娩を何件くらい担当されたのですか

証人: 詳しい記録はないのですが、1万件以上は立ち会っています

弁護1: その1万件の分娩の中に帝王切開による分娩は

証人: 記録はないですが、1500件から2000件くらい

弁護1: 一般的に、帝王切開は15%くらいですか

証人: だいたいそれくらいです。私ども大学病院では30%くらいです

弁護1: 多いのですね。30%というと、3千件ですね

証人: それくらいになります

弁護1: 帝王切開の比率が高いのは、大学病院では、ハイリスクの患者さんをあつかうからですか

証人: そのとおりです。

弁護1: 残りの30%とすると、7千件は経膣分娩であつかっていらっしゃるのですか

証人: そうです

弁護1: そうしますと、2千から3千件の、帝王切開のうち、前置胎盤?の症例は何例くらいありますか

証人: 100件から200件が、前置胎盤?の症例です

弁護1: 前置胎盤?が最近増えているということはありますか

証人: 大変増えています。

弁護1: 何件くらい、数でいえば

証人: まだ10月ですが、今年に入って20件くらいです

弁護1: 去年はどうですか

証人: 14,5件と記憶しております

弁護1: どうして急に前置胎盤?が増えたのですか

証人: この大野病院事件の影響もあるかと思いますが、少しリスクのあるものは、大学病院に運ばれてくるようになりました。

弁護1: 前置胎盤?の症例が増えて、よりハイリスクの患者さんの診療に影響はありますか

証人: 大変大学病院が忙しくなりました。大学でなくちゃいけない診療、ハイリスクの患者さん以外の、軽いリスクの患者さんも、多くは大学病院に運ばれたり、紹介されることによって、多忙になりました

弁護1: 前置胎盤?では、分娩後、用手剥離しないで胎盤を剥離することはありますか

証人: 前置胎盤?の症例ですか

弁護1: そうです

証人: 半分くらいは、用手剥離しています

弁護1: 通常の帝王切開のときは、用手剥離しなくても自然に剥離するのですか

証人: 子宮収縮を促すことで、胎盤剥離することがほとんどです。時には用手剥離します

弁護1: 前置胎盤?の場合、用手剥離の際に出血することはありますか

証人: もちろん、用手剥離の際には、かなり出血があります

弁護1: 出血は剥離の当初からですか

証人: もちろん胎盤の付着を剥がすのですから、はがした部位から当初から出血します

弁護1: 出血によっては、剥離を中断して、剥離をしないということはありますか

証人: 私の経験ではありません、胎盤剥離を始めたら最後まで完遂します

弁護1: なぜ剥離を中断しないで胎盤をとってしまうのですか

証人: 剥離を始めたら出血が多くはじまりますので、その出血をまず止血しなければならないので、胎盤を全て剥離するのが第一です。その後で止血操作をします

弁護1: 胎盤を剥離するとその後の止血操作が容易であるということですか

証人: 子宮収縮で止血を行うことが第一なので、まず胎盤を剥がして、子宮収縮をうながし、そこで剥がれたところを実際に見ることができますので、その時点で止血します。

弁護1: 前置胎盤?の場合、子宮下部に胎盤がついているので、子宮をはがしても止血しにくい、ということですが、本件でも子宮下部に胎盤が付着していたので、胎盤をはがしても止血しにくいということがありましたか

証人: 子宮下部は子宮筋の発達が悪いので、胎盤を剥がしても収縮がよくないということになります

弁護1: しかしそれでも剥がした方が全体的な収縮は良い

証人: 前置胎盤?の場合でも、止血には局所でなく筋の全体的な収縮をはかることが大切なことなので、まずは胎盤をはがしてしまうことが第一です

弁護1: 出血する箇所というのは、胎盤がついていた全ての箇所からですか

証人: 胎盤付着場所から全面的に出血します

弁護1: 先ほど、100例から200例の前置胎盤?の症例があったとのことですが、その中で癒着胎盤の症例はありましたか

証人: 臨床的には、私の記録では、8から10例くらいあると思います

弁護1: 帝王切開の場合、開腹後子宮をみただけで癒着胎盤だとわかった症例はありましたか

証人: 1例のみです

弁護1: その症例ではどんな処置をされましたか

証人: 前回帝王切開で、子宮の前の方に胎盤がついていました。そのまま赤ちゃんを出した後に子宮をとる手術をしました

弁護1: 子宮を摘出した結果、癒着胎盤の程度はわかりましたか

証人: 穿通胎盤でした

弁護1: その1例を除いて、癒着胎盤の例でも胎盤を剥離していますか

証人: 結果的にはそうなります。前置胎盤?の例が殆どですので、前置胎盤?の例でも胎盤をはがします

弁護1: 先ほど癒着胎盤10例ということでしたが、胎盤をはがしているわけですか

証人: 臨床的な癒着胎盤ではそうです

弁護1: 臨床的な癒着胎盤というのは、胎盤をはがしてしまっているので、子宮を残しているから、病理学的には病理検査をする余地がないということですね

証人: そうです

弁護1: 約・・質問撤回。経膣分娩のことを伺います。胎盤がはがしにくい場合は何例くらい

証人: 記録してませんのではっきりわかりませんが、10例以上はあったと思います

弁護1: 胎盤がはがしにくいときはどうしますか

証人: 胎盤が出てこないときですが、用手剥離をします

弁護1: 用手剥離で簡単にとれなかった例もあるのですか

証人: 用手剥離でとれなかった例もありまして、ある意味むしってくる形で胎盤をとる場合があります

弁護1: 今の「むしったりする形で胎盤をとる」のは何例くらいですか

証人: 記録してないのですが、数例くらいはある

弁護1: 経膣分娩ですから子宮の中は見えませんね。手探りで胎盤を探して、むしったり縫ったりする

証人: はい

弁護1: 胎盤を取り残したりすることはありますか

証人: 後で、超音波検査で見ます。見ながら胎盤を鉗子できれいにひっぱり出すということをしたことがございます

弁護1: 胎盤鉗子は胎盤をはさむものですか

証人: そうです

弁護1: はさむものをいれて、超音波でみながら、胎盤をはがしてくる

証人: はい

弁護1: そのように無理に胎盤をはがしたとき、出血はするのですか

証人: するときもありますが、子宮の収縮によって止まる場合もあります

弁護1: そうすると今の経膣分娩の時にはすべて胎盤もはがしてしまう

証人: できるだけはがします

弁護1: それも病理学的に検査に出していないので、病理学的に癒着胎盤と診断にはならないのですね

証人: 子宮を摘出していませんので、病理診断できません

弁護1: でも、臨床的には癒着胎盤と診断された

証人: 胎盤が出ないのをもって、診断すればそうなります

弁護1: そうしますと、1万件の分娩で、胎盤を剥離しなかったのは、1例だけで、あとは全例胎盤を剥離したのですね

証人: そうです

弁護1: ハイリスクの患者さんが多く集まる東北大学病院でもそうですね

証人: はい

弁護1: 前置胎盤?の症例で帝王切開のとき、開腹して子宮の表面を見たとき、血管の怒張がみられることはありますか

証人: 前置胎盤?の場合、胎盤が下のほうにあるので、血管が怒張していることはしばしばあります

弁護1: 血管の怒張は、子宮の下の方に胎盤があるからですか

証人: はい

弁護1: 先生の扱った症例で、分娩中の出血量が多いもので、どのくらいありましたか

証人: 1万を越す、2万くらいのものもありました

弁護1: 最大のものはどれくらいですか

証人: 2万をこして3万近くのがありました

弁護1: どういう原因で大量の出血がおきるのですか

証人: 血液疾患で血が固まらない病態を発症した妊婦さんでおこります

弁護1: いわゆる産科DICということですか

証人: そうです

弁護1: そのような症例は何例くらいありますか

証人: 2、3例だと思います

弁護1: 命に別状なかったですか

証人: 幸いなことに救命できました

弁護1: 先生は、本件で問題となっている、福島県立大野病院で帝王切開手術後に亡くなった患者さんの、術前診断や手術における過誤の有無について、鑑定意見書を作成されたことがございますね

証人: はい、ございます

弁護1: 最初の鑑定意見書は、平成18年12月13日に検察庁に開示されていますが、その前に作成されたと伺ってよろしいですか

証人: はい

弁護1: 書面の同一性の証明のため、弁131号証、追加の鑑定書である、弁153号証を示します。映して良いですね

裁判長: はい

弁護1: ちょっとご覧いただいて、これで間違いないですか

証人: はい、間違いございません

弁護1: 141号証が回答書、これも先生がお書きになったので間違いございませんか

証人: はい

弁護1: 弁131号証の署名押印は先生のものですか

証人: はい

弁護1: 弁141号証の署名押印も先生がご自分で

証人: はい

弁護1: 弁153号証の鑑定意見書、これは平成19年9月26日付けになっていますが、これも先生が署名押印、ご自分でなさいましたか

証人: はい

弁護1: 鑑定書につきましては、先生が鑑定された結果を確認して、その上でサインされたと伺って良いですか

証人: はい、その通りでございます

弁護1: 2つの鑑定書は、先生の周産期医療の専門家としての知識経験を基づいて作成されたものですか

証人: はい

弁護1: 2つの鑑定書は誰に依頼されましたか

証人: 平岩弁護士から、回答の項目を依頼されました

弁護1: どのような資料にもとづいて作成されたのですか

証人: 私の経験と、文献等の検索

弁護1: 直接的に鑑定の前提となる資料は何をお使いになりましたか

証人: 外来カルテとかそういうものですか。外来診療録と入院診療録を

弁護1: それ以外に検討された書類はございますか

証人: ございません、か、意味がちょっとわかりませんか

弁護1: 外来カルテ、入院カルテ、それ以外に検察官で作成された供述調書

証人: 供述調書も読ませていただきました

弁護1: そういうものをもとに作成されたのですね

証人: はい

弁護1: 先生には、本件以外の鑑定のご経験はありますか

証人: はい、ございます

弁護1: 何件ありますか

証人: 5、6件だったと思います

弁護1: 鑑定された件はすべて周産期医療に関するものですか

証人: はい、その通りでございます

弁護1: 鑑定でうかがいますが、本件の患者さんが、前回帝王切開を行われており、今回2度目の帝王切開術で、前置胎盤?、癒着胎盤という病気であったことはご存じですね

証人: 存じております

弁護1: 通院時・入院時に加藤医師がどのような診療、診断したかは、カルテでわかっておりますか

証人: 読ませていただきました

弁護1: カルテをみないで記憶だけでご証言はできますか

証人: それは難しいです

弁護1: では記憶喚起と正確に表現していただくため、甲15号証 入院カルテと、甲36号証、通院カルテを示します。先生のご覧になったカルテはこの二つですか。

証人: はい

弁護1: 36号証、通院カルテの4枚目ですが、右側に、平成16年5月6日初診、妊娠5w切迫流産、とありますね。これは切迫流産とは22週未満で流産の可能性のある状態ですか

証人: はい、そうです

弁護1: 前のページの記載を見ますと、ダクチル、アドナ、トランサミンが処方されていますが、何のために処方されたのですか

証人: ダクチルは子宮収縮を抑制する薬、アドナ、トランサミンは止血剤です

弁護1: この日の診療では、経膣超音波断層検査が行われ、3枚の写真がカルテに貼っていますが、加藤医師はどのような診断をしていますか

証人: 上の写真は胎嚢の大きさを測っています。この部分ですね。それで胎嚢と子宮の中にあることを確認してます。

裁判長: これ記録にのこす必要ありますか。「この部分」というのは記録に残らないので

弁護1: 代名詞でなくおっしゃっていただけますか

証人: 子宮の中に黒く見えるのが胎嚢で

弁護1: 真ん中の上の方に

証人: はい。この部分ですね

弁護1: +と+の間の部分、

証人: これが胎嚢と言います。これが子宮の中にあることを確認しています。次の写真

弁護1: 診療の結果は前の外診というページにありますね

証人: 外診という下のところに、エコーと書いていますが、ここに写真の説明を記載しています。超音波検査について2枚目の写真をもとに記載しています。子宮全体の図を書いて、GS in utero、胎嚢は子宮の中にある。fetus未 は、胎児がまだ見えない、C/S woundは、前回の帝王切開のキズがここにあると推定しています。

弁護1: 写真によりますと、どのあたりですか

証人: 上から2つめの写真で、音響陰影が縦にあります、黒いところです

弁護1: 黒い線ですね

証人: 超音波を通しづらいものが前にあるということになりますので、この部分に前の帝王切開の残りのようなもの、又は非常に小さい筋腫がある場合に、超音波が後ろに通らない。ですから、この部分に前回帝王切開のキズがあると推測したのです

弁護: 写真の

裁判長: 音響陰影というのはどこにあるのですか

証人: 写真の黒い部分です

弁護1: 胎嚢の右を斜めに走る、縦の線です

裁判長: はい、その上のさすのですか

証人: 陰をつくる、上のところが、前回帝王切開の瘢痕であろうと推定しているのです

弁護1: 最後の写真は何か異常がありますか

証人: 両側の卵巣を見ていますが、異常はございません

弁護1: 超音波検査について、超音波すなわち、パルスを発射して、反射をプローブでキャッチして画像化して、物体の様子を推測する検査方法と理解して良いですか

証人: はい、そうです

弁護1: 1秒間に10枚以上の画像が記録され、アニメーションのように動きのある画像が提示されるのですか

証人: はい

弁護1: 妊婦さんの検診の際の超音波検査は、何分くらい行われますか

証人: 経膣超音波検査はだいたい2分から3分、お腹からの検査はだいたい5分くらいかなと思います

弁護1: 1秒間に10枚以上の断面像、写真にとると、1分間に600枚、5分間だと3000枚の写真ということになりますか

証人: そういうことになりますね

弁護1: 妊婦にこの検査を行うことで、どんなことがわかるのですか

証人: まず、子宮、卵巣、胎盤、そういう状況を把握できます。胎児の状況も見ることができます

弁護1: 胎児の生育状態も見ることができますか

証人: そのとおりです

弁護1: カルテに写真が貼ってありますが、担当医はどういう写真をカルテに貼るのですか

証人: 診療の場合には目的とするものがありますので、それにあった、何をみたいか目的にあった写真を貼ります

弁護1: カルテに貼られた数枚の写真から、撮影目的以外の特定の病気の診断をすることは可能ですか

証人: 時には可能ですが、目的以外のものはなかなか出ていないので難しいことが多いです

弁護1: 何か特定の病気があれば、その画像を写真に残すということになるのですね

証人: そうです

弁護1: 甲36号証のカルテの記載に戻りますが、平成16年5月11日、5w3dは、妊娠5週3日ということですか

証人: その通りでございます

弁護1: 超音波の写真の下に、FHB(+)とありますが何を意味しますか

証人: fetal heart beats、この時点で胎児心拍確認した、です

弁護1: この写真で異常はございますか

証人: 全くございません

弁護1: 平成16年5月15日、入院、5月25日、退院、とありますね。何のためですか

証人: これは掃除をしていて出血があったということで、切迫流産の安静のための入院です

弁護1: 平成16年6月1日、妊8w3dの欄に、2枚の写真が貼ってあり、Pl low positionと記載がありますがどういう意味ですか

証人: Plというのは、placenta 胎盤、low positionは低い位置にあるということです

弁護1: 胎盤の位置が子宮の下部にあると伺ってよいですか

証人: この時期はまだ胎盤と呼ぶ時期ではないですが、胎盤になる絨毛組織が、子宮の低い位置にあるということですね

弁護1: 絨毛組織が子宮下部にあると何か問題はありますか

証人: 前置胎盤?になる可能性があります

弁護1: 加藤医師はそれを意識して記載されているのですか

証人: そうだと思います

弁護1: 2枚の写真がカルテに貼ってありますが

証人: 上の写真は赤ちゃんの頭殿長、頭からおしりまでの長さを測って、妊娠週数が正しいか確認しています。EDCは、分娩予定日を確認しています

弁護1: 平成16年6月15日、10w3dのページ、2枚の超音波写真に、Pl post lowとありますが、どうい意味ですか

証人: placeta posterior low これは胎盤が後壁の低い位置にあるということです

弁護1: 胎盤に発展する絨毛が、後壁に付着しているということは、妊娠に伴って変わることがありますか

証人: 付着部位は変わりません

弁護1: 前回帝王切開のときに胎盤が癒着しやすいといわれていますが、そうですか

証人: 前壁にある場合はそういうことはあります

弁護1: 本件のように後壁にある場合はどうですか

証人: 前壁付着に比べると格段に低いと思います

弁護1: 後壁付着の場合に、前壁にある前回帝王切開の瘢痕に付着することがないので低いということですか

証人: 前方にあるときに比べて、格段に低いということです

弁護1: 平成16年6月1日、6月15日と、加藤医師は胎盤位置について超音波検査の写真をカルテに残していますが、何のためと思われますか

証人: これは前置胎盤?になる可能性があるとのことで、慎重に見ているということだと思います

弁護1: 平成16年7月6日、妊娠13w6d、Pl post migration中と書いてありますが

証人: これはplacenta、胎盤が、posteriorは後壁にあり、migrationは移動するという意味です

弁護1: 具体的に移動するとは

証人: これは、難しいのですが、胎盤に足がはえて動いているわけではありませんが、この手首が内子宮口とすると、妊娠初期は子宮が収縮しているので、手のひらが閉じているようになっていて、手のひらの上のところに胎盤があります。妊娠経過とともに、子宮下部が進展してきて、上にあった胎盤が内子宮口にかぶってない、胎盤があがってくるように見える

裁判長: 説明を詳しくしていただかないと、記録上

弁護1: 子宮が、手のひらがひらくように開いてきて

証人: 妊娠初期は子宮下部が収縮しているので、その上に胎盤が乗っているように見える。妊娠経過とともにそれが開いてきて、子宮が大きくなると、それと共に胎盤の位置が相対的に移動しているように見えるのを、migrationと呼んでいます。

弁護1: 子宮後壁にある、そのこと自体は変わっていないのですね

証人: はい、そうです

弁護1: この日の記載に、yellow discharge(+)

証人: 黄色のおりものがある

弁護1: それは何ですか

証人: 正常所見と思われます

弁護: 生理的な分泌物ということですか

証人: はい

弁護1: 他に異常はありますか

証人: 特にありません

弁護1: 平成16年8月3日、妊娠17w3dには、Pl post low previa(+)の記載がありますが

証人: 今度はお腹からの超音波検査をみていて、胎盤が後壁にあって、低い位置にある。そしてpreviaが前置胎盤?ですが、前置胎盤?プラスと書いています

弁護1: 下に超音波写真が3枚貼っていますが、一番下の8月3日の写真がありますが、この写真で異常所見はありますか

証人: 右側の方、腹からみて下の白い部分が胎盤になります。この部分の所見が先ほどの所見で記載しています

弁護1: 右の白い部分を示している

証人: 子宮口がここにありますので・・

弁護1: 右の黒い部分ですね。異常はありますか

証人: 前置胎盤?になる可能性、絨毛組織が下の方にあります。それ以上特にはございません

弁護1: 21w6d、previa likeとあります

証人: 前置胎盤?らしい、前置胎盤?になりそうだということです

弁護1: はっきりとはわからないがということですか

証人: はい

弁護1: その右上にfemale?の記載がありますが、これは

証人: 赤ちゃんは女の子か、ということです

弁護1: AFV enoughとは

証人: Amniotic fluid volume、羊水量が十分であるという意味です

弁護1: 21w6dで超音波検査で性別がわかるのですか

証人: この時点で女の子の診断は難しいもので、その診断ができるのは超音波診断にすぐれた技量をお持ちだったと思います。

弁護1: カルテの記載で前置胎盤?の他に異常所見はございますか

証人: ございません

弁護1: 平成16年10月1日、妊娠25w6dの欄ですが、「previaのため、11月末〜12月入院か、C/S日12/24(17)」と記載していますが、これは帝王切開予定日ということですか

証人: そうです

弁護1: この時期に入院手術の予定をたてるのは適当ですか

証人: 前置胎盤?はいつ出血するかわからないので、この時期の入院は妥当です。帝王切開手術日を決めるのも用意を周到にするということですから問題ないです

弁護: 他の異常はありますか

証人: ないです

弁護1: 加藤医師は、10月1日の時点で、県立大野病院で前置胎盤?の患者さんの帝王切開手術を行う予定をしていますが、前置胎盤?がわかっているのに大野病院で手術を行うのに問題はありませんでしたか

証人: 前置胎盤?に関しまして多くの病院で、帝王切開をやっています。大野病院には、麻酔科の先生が常勤でいて、外科医もいるので、何ら問題ないと思います。

弁護1: 当時の先生がいらした東北地方で、大野病院のレベルの病院で前置胎盤?の手術は普通に行われていましたか

証人: 普通に行われていました。

弁護1: 平成16年10月22日、妊娠28w6dの欄で、previa(+)の記載で、likeの文字がなくなっていますが、この時点で加藤医師は、previaすなわち前置胎盤?の確定診断をしたと理解して良いですか

証人: その通りです

弁護1: 写真が貼ってありますが、この超音波写真から何が言えますか

証人: これは、頚管長を測っています。内子宮口に胎盤がかかっているので、要するに前置胎盤?とわかります

弁護1: 頚管長は何のために測るのですか

証人: 早産のとき、頚管長が短くなります。前置胎盤?では早産の可能性が出てきますと、頚管長が短くなってくるのですが、出血する可能性があるので、それを確認します。

弁護1: 頚管長に異常はありますか

証人: それはありません

弁護1: この写真で癒着胎盤の所見はありますか

証人: ありません。胎盤は、写真の左上の白く見えるところですが、そこと子宮筋の間に黒い線が見えますが、これはclear spaceと呼んでいますが、これがはっきりしているので、癒着胎盤の所見はありません。

裁判長: 胎盤の範囲はどこからどこまで

証人: ここで見る範囲はプローベがここで、

弁護1: 左の上の部分ですか

証人: そうです、胎盤はこの部分

弁護1: 左側をしめている範囲

裁判長: 子宮筋の部分はどこですか

証人: この黒いところの外側、下側です

裁判長: はい

弁護1: カルテの指導欄にmadせず、と記載がありますがどういう意味ですか

証人: これはMadeleine手術といって、卵管をしばって不妊となる手術、要するに不妊手術をしない

弁護1: 患者さんはさらに赤ちゃんを希望するということですね

証人: そうです

弁護1: 当然、子宮摘出することを望んでいないということになりますか

証人: もちろんです

弁護1: 前壁以外の胎盤の付着の記載がないですが、これは何故ですか

証人: これは超音波でみる場合にはまず全体的に見て、この場合はまず頚管長の長さをみています。全体的に見ますが、所見がなければ写真は保存しません。そういうことだろうと思います

弁護1: 超音波検査をするというのはその都度、子宮全体を見ると伺ってよろしいですか

証人: そのたびに全体的にみています

弁護1: 平成16年11月4日、妊娠30w5dの欄ですが、異常所見はありますか

証人: 特に、時々おなかがはるようになったということで、ウテメリンという、子宮収縮抑制剤を処方しておりますが、他は異常ありません

弁護1: 平成16年11月19日、妊娠32w6dの欄には、超音波の写真がありますが、この写真に癒着胎盤の所見はありますか

証人: これは先ほど申し上げたように、胎盤が左側、子宮の筋層が右側にあって、間に黒いspaceがあるので、癒着の所見はありません

弁護1: 黒い、先ほどおっしゃったclear spaceあると、癒着がないと判断されるのですか

証人: そう判断します

弁護1: 次に平成16年11月22日、妊娠33w2d、超音波検査の写真がありますが、画像から何がわかりますか

証人: ここで赤ちゃんの推定体重を出しています。2576 gと書いてございます。赤ちゃんの発育を記録しています

弁護1: 写真に+ +が2つありますが、何を意味するのですか

証人: 赤ちゃんの体重を出すのに、大腿骨の長さをはかります、もう一つ、FTAとあります。大腿骨の長さをFL、femur lengthと言います。FTAは胴回りの面積、BPDは赤ちゃんの頭の大きさです。この3つの値をもって、推定体重を出しているということです

弁護1: 異常所見はありますか

証人: ありません

弁護1: 処置欄に入院とありますが、この日から入院ですか

証人: そうです

弁護1: では甲15、入院カルテについてお尋ねしますが、11月22日から26日、29日から12月3日まで、連日診察していますが、12月2日までの欄に、癒着胎盤の疑いをもつ所見はございますか

証人: 何もありません

弁護1: 12月2日の記載で、超音波検査の写真の上のほうに、yellow discharge(+)の記載がありますが、黄色のおりものがあるということですか

証人: そうです

弁護1: 12月3日、妊娠36w6dの日、カルテの超音波写真はどのような目的で撮影されたのですか

証人: 二つの写真で、上の写真は、+ +の間の頚管長を測定しています。下の写真は血流をみる写真です

弁護1: 下の写真はカラードップラーの写真ですか

証人: そうです

弁護1: 下の写真はどうしてカラードップラーとわかるのですか

証人: この写真は右側の、カラーバーのところに、ms、ミリ/secondですね、血流の速度を測るバーがあります。正面の台形が見えますが、この部分で血流を見る、という端子領域です。これをみれば血流を測っていることがわかります

弁護1: この2枚の写真から、胎盤の位置がわかりますか

証人: 内子宮口を覆っている位置にあります。前置胎盤?です

弁護1: 前回11月29日の超音波写真と比べて、変わったところはありますか

証人: 特にこの12月3日は、プローブを圧しつけているかなという気がしますが、それ以外はありません

弁護1: プローブを圧しつけると、写真にどう現れますか

証人: まず頚管の厚さが、この部分が押しつけられて隙間がなくなります。頚管前唇が薄く見えます

弁護1: 写真の真ん中上の黒く写っているところですね。台形の右上

証人: はい

弁護1: 12月3日の、下の超音波写真の右側には、血流(+)の記載がありますが、どういうことですか

証人: 台形の中に血流が見られるということです。

弁護1: 今の写真で血流のある場所はどこですか

証人: 胎盤の中のこの部分です

弁護1: 台形の中の真ん中から下にかけて

証人: そうです

弁護1: 前置胎盤?の超音波検査をされたことはありますか

証人: 何回もあります

弁護1: 何回くらいですか

証人: 数えられないくらいあります

弁護1: この血流から癒着胎盤の存在を疑いますか

証人: 100%の否定は難しいですが、前置胎盤?の場合、これくらいの血流はときどき見ますので、これをもって癒着胎盤とは言えないです。

弁護1: この血流がある場所は、子宮のどこにあたりますか

証人: 内子宮口、がこの部分ですので、内子宮口のそばです

弁護1: 台形の右斜めの線に沿った左のあたりが内子宮口ですか

証人: そうです

弁護1: 先生は本件の癒着胎盤の位置が後壁を中心にしたものだったということはご存じですか

証人: 聞いております

弁護1: 場所が違うということになりますか

証人: どういう

弁護1: 内子宮口と後壁が

証人: はい、全く違うところです

弁護1: この2枚の写真で、子宮の後壁に癒着胎盤の所見はありますか

証人: 上の写真の左側白い部分が、胎盤の後壁になります

弁護1: 白っぽく写っている部分、左側の下の方が子宮後壁

証人: 胎盤組織が均一に写っています。癒着胎盤を疑うのは無理です

弁護1: 癒着胎盤の場合、そこの組織が均一に見えないのですか

証人: いわゆる、スイスチーズ用、胎盤の中に黒っぽく穴があいている、これだと白く均一に見えますが、蜂の巣状に黒い穴があいているように見えるのが、一般的な癒着胎盤の像です

弁護1: 次のページですが、「yellow discharge(+)だが、尿中潜血(±)につき、placenta accreta、or previa bleeding注意」とありますね。意味は

証人: 黄色い分泌物が少しあるが、尿には潜血反応がプラスマイナスなので、癒着胎盤又は前置胎盤?の出血に注意しましょう、という意味です

弁護1: ±というのは、量的にどれくらいの量ですか

証人: 肉眼で全くわからないですが、微量の血液が尿中にまじっている

弁護1: 尿中にごくわずかの血がまじっている場合、癒着胎盤を疑いますか

証人: 尿潜血は時々妊婦にみられる所見ですので、これをもって癒着胎盤と診断するのは、過剰診断というか、診断のいきすぎです。

弁護1: 前置胎盤?でない普通の妊婦にもみられるのですか

証人: そうです。

弁護: 平成16年12月6日、超音波写真の横に、膀胱下血流(+)の記載がありますね。どの部分に血流があるのですか

証人: 超音波写真の台形の範囲の真ん中に白い芋虫のように見えているのが血流です。

弁護1: 赤線で

証人: 個々の部分です

弁護1: この血流は癒着胎盤を疑う根拠になりますか

証人: 正常の方の超音波検査でも頻繁に観察されます。ですからこれをもって癒着胎盤とは言えないです。

弁護1: 今のも、前置胎盤?や癒着胎盤でない、普通の妊婦さんにも見られるのですね

証人: はい、そうです

弁護1: 「本日、尿潜血(−)」の記載が、12月10日にありますね。12月6日には、癒着胎盤や前置胎盤?の出血に注意とあったのですが、これによって前回の注意すべき点が変わってくるものですか

証人: 尿に血液がなくなったという時点でこの疑いを払拭したんじゃないかと思います。

弁護1: 癒着胎盤を疑わせる所見はありますか

証人: この結果から癒着胎盤を疑う所見はありません

弁護1: 白い芋虫状の血流があるのは、子宮のどのあたりにあたりますか

証人: 子宮の前壁、膀胱に近い部分です

弁護1: 「C/S時、Echoプローベ、清潔で」と記載があるのはどういうことですか

証人: 帝王切開をやる時に、手術中開腹後に超音波検査を行うので、超音波のプローブを清潔にしておいてくれ、ということです

弁護1: プローベとプローブは同じ意味ですか

証人: 同じ意味です

弁護1: お腹を開いた後に、子宮に直接プローベをあてる超音波検査は、普通に行うものですか

証人: 普通に行うことではないです。帝王切開をする時に非常に慎重にしているなと考えました

弁護1: 術中のプローブは子宮のどのあたりを見るのですか

証人: 腹壁がありません。腹壁は超音波検査の邪魔になるので、直接子宮にあてることで、子宮の中全体をかなりきれいに見ることができます

弁護1: 経膣、経腹に比べて、精度はどう違うのですか

証人: 経腹に比べてかなり精度が高いと言えます

弁護1: 癒着胎盤があれば、術中の超音波検査で診断できますか

証人: それは程度問題です。穿通胎盤ならわかりますが、軽いとこれでもなかなか難しいです

弁護1: MAP 5単位準備というのは何を意味しますか

証人: MAPは血流を保存する処置の頭文字で、保存血濃厚赤血球が5単位、1000ccを準備という意味です

弁護1: 加藤医師の記録から判断して、患者さんの病状から、MAP5単位の準備は適当ですか

証人: 私ども東北大学でも、前置胎盤?の帝王切開手術時には、MAP 5単位準備しています。ですから非常に妥当なところです

弁護1: 平成16年12月7日、妊娠35w3dですが、癒着胎盤に関する異常はありますか

証人: 癒着胎盤に関する異常所見はありません。GB、これはgenital bleedingで出血があったという記載。訴えがあったので膣鏡で調べると、yellow-white、黄白っぽい色のおりものがあり、膣からの出血ではない、そばの毛嚢炎から出血していた、この不正出血の訴えは前置胎盤?からの出血ではない、ということです。

弁護1:次に12月13日、妊娠36w2dのところですが、癒着胎盤に関する異常はありますか

証人: 写真は胎児の発育を見ています。特に問題はありません

弁護1: 平成16年12月14日、妊娠36w3dですが、「本人夫へのMT」 と記載されていますね。手術の説明をしたということですか

証人: Munt Therapieという俗語の略で、本人と夫へ手術の説明をした、ということです

弁護1: 子宮胎盤の図が手書きされていますが、本件の患者さんの状態の図ですか

証人: そうではないですね

弁護1: どうしてそうではないと言えるのですか

証人: 本件について、胎盤は後壁に付着していたのは間違いありません。この図は胎盤が前の方にあります。これは一般的な前置胎盤?の帝王切開の説明図で説明したんだろうと思います

弁護1: 12月17日、妊娠36w6dで、帝王切開術により出産ということになるのですか

証人: そうです

弁護1: 証人で出た田中先生は、術前にも経膣超音波検査を行うべきであったと証言していますが、前置胎盤?の患者さんで手術直前にもすべきですか

証人: する必要はないと思いますが

弁護1: することによる危険はありますか

証人: プローブを押しつけると、大出血をおこすことがあります。術前に所見が十分にとられていますから、この場合は必要ないと思います。

弁護1: 先生はカルテを子細に検討されましたが、手術前に癒着胎盤を予見することはできましたでしょうか

証人; 大変難しい。まずできません

弁護1: 手術後、後壁に部分的に嵌入胎盤が見つかったことはご存じですか

証人: はい

弁護1: 超音波検査では筋層と胎盤にclear spaceが観察できたということ。なぜ超音波検査で癒着胎盤を見つけることができなかったのでしょうか

証人: 超音波検査の限界と考えられます。また、癒着部分が小さい場合、診断はなかなかできません

弁護1: 加藤医師は本件ではMRIは行っていませんでしたが、必要だと思われますか

証人: 加藤医師が使っている超音波検査の機械はすぐれたものです。このような機械を使っていて、MRIを行う必要はないと考えます

弁護1: MRIをしていれば、本件の癒着胎盤は発見されましたか

証人: 難しいところです。MRIもやってみると、母体の呼吸によって、浅い呼吸を頻繁にするので子宮が動いて、画像のゆがみが生じます。MRIを行ったとしても、画像の読みが難しいと思います

弁護1: クーパーについてお尋ねします。先生はクーパーを使用したことはありますか

証人: もちろん毎回使っております

弁護1: どのような場合ですか

証人: ものを切る場合。先端がまるくなっているので、それにより組織を剥離する際にも重要で、頻繁に使います

弁護1: 具体的にどんな場合、症例に使いますか

証人: 私は以前にはがんの手術を行っておりましたが、クーパーを使って組織をはがすには有効です

弁護1: 組織と組織がくっついているところをはがすと伺ってよろしいですか

証人: 鋭的にはがすことで出血を抑えます

弁護1: 先生は胎盤剥離のためにクーパーを使ったことはありますか

証人: ありません

弁護1: 今まで使わなかった理由は何ですか

証人: 用手剥離で十分はがれたので、使う必要がなかったということです

弁護1: 加藤医師は、胎盤の剥離の一部にクーパーを使用していますが、クーパーを使用すべきでないと考えられますか

証人: それはケースバイケースです。胎盤をはがすことに必要なら、使わざるを得ないこともあります

弁護1: 先生も必要と判断されれば、クーパーを使用することもあると伺ってよろしいですか

証人: そう考えています

弁護1: 加藤医師の診察や診断をカルテを用いて検討されましたが、加藤医師の診察診断で、間違いはありますか

証人: 間違いは何もありません

弁護1: 先生は加藤医師の産科医としての技術はどう判断されますか

証人: 超音波診断の技術をみると、周産期医療に習熟しています。よく勉強しています。加藤医師は慎重に患者さんをみていると思います

弁護1: 先生が本件患者の担当医であれば、加藤医師と違った処置をとられましたか

証人: まずないです。全く同じ事をしたと思っています

弁護1: 以上で終わります

裁判長: 反対尋問にうつってよろしいですね、じゃあ

【検察側反対主尋問】

検察1:では検察官の鈴木から質問させていただきます。できるだけ前を向いてお答え下さい

証人: はいわかりました

検察1: 癒着胎盤の診断は、病理組織検査で確認されたことを知っていますか

証人: はい

検察1: 癒着胎盤は時に母体の死をひきおこすものでよろしいでしょうか

証人: はい

検察1: 癒着胎盤の特徴のひとつに出血量が多いということがありますか

証人: はい。癒着胎盤をはがした場合、出血が多い

検察1: どの程度の出血と推定されていますか

証人: 私の経験では、5千から6千

検察1: その5千から6千の出血がある時間は何時間ですか、長い時間ですか

証人: それは術中の出血なので、なかなかどの時点かわからないので、答えようがありません

検察1: 出血があるとお答えになったのですが、術中の比較的短い時間、5分10分で5千から6千、ということもあるのでしょうか

証人: 臨床的には胎盤を剥がしてみて、出血が止まらないものも臨床的に癒着胎盤と診断しているので、出血は多いといって良いと思います。

検察1: 癒着胎盤の患者さんが亡くなられる場合、大量出血によるショック死もあるのですか

証人: あります

検察1: なぜ出血が多いのですか

証人: 床脱落膜が欠損しているので、絨毛が直接筋に侵入しています。はがした場合そこに欠損ができるため出血が多い

検察1: 臨床的にとおっしゃっていますが、癒着胎盤を剥がした場合の出血が問題になるのは、いわゆる楔入胎盤は剥がれるのですか、穿通胎盤は、大きなものをおっしゃっているのですか

証人: 臨床的には子宮を残しているので、胎盤をはがして出血が多くても、子宮は残しているので病理診断でどれだけ筋層に侵入しているかはわかりません。穿通胎盤は外からわかりますが、なかなか判断が難しいです

検察1: 術中には、癒着胎盤の程度はわからないのですか

証人: わかりません

検察1: そうすると、癒着胎盤を無理に剥離した場合に、出血がある

弁護2: 異議あり、検察官は無理に無理にと言っていますが、「無理に」というのは重要です。証人が受け止める無理と、検察官の無理の定義をはっきりしてからきいてください

裁判長: どうですか

検察2: 先ほど証人が、無理にとおっしゃったので、先ほど証人がおっしゃった無理について

弁護3: 異議あり、いつ無理に、と言いましたか、言ってないです

裁判長: 異議の理由は

弁護3: 誤導です

検察1: 先ほどおっしゃったと理解していますが

証人: 私がもし、無理にと言ったのだったら撤回します。無理にはがしたことはありません

検察1: 癒着胎盤をはがした場合の出血は、面からの出血ですか、それとも癒着部位からの出血ですか

証人: 癒着胎盤をはがした場合とおっしゃいますが、癒着胎盤は術前には診断できません。前置胎盤?をはがしたときであれば答えられますが、それで良いですか

検察1: 私が聞いている質問はそれと違うのですが

証人: 癒着胎盤をはがすとき、ということは、癒着胎盤がわかっているということですよね

検察1: では質問を変えます。臨床的にとおっしゃいましたが、術前には癒着胎盤はわからないといいますが、臨床的に癒着胎盤を診断する方法はないのですか

証人: 胎盤をはがしてみて出血が非常に多くて止まらない時、臨床的には癒着胎盤といいます

検察1: 胎盤が用手剥離してみて、胎盤と筋層に隙間が無くて、はがれないばあいを臨床的に癒着胎盤というのは、どうですか

証人: 胎盤が全くはがれないという経験はないので、答えられません

検察1: 胎盤と筋層の間に、隙間がなくて、剥離できない場合を、臨床的に癒着胎盤とするのはどうですか

弁護2: 異議あり、胎盤と子宮に隙間があると検察官はおっしゃいましたが、それはくっついてないってことですよね。でも胎盤は子宮に付着している。検察は認識が違います。検察は間違った事実認定をしていますので、誤導です

検察1: 基本的に証人の意見書に書かれた意見書の言葉を用いて質問していますので、誤導とは思っていません

弁護2: では検察の定義と、証人の違いを証人に自覚してもらってから、質問してください

裁判長: 異議ですか

弁護2: 異議ですよ、証人の認識と検察官の認識が一致してないのですから、答えが違ってきます。誤導です

検察3: それについては既に

弁護2: 私が申し上げているのは証人の答えと検察官の認識が食い違っている

裁判長: 検察は訊き方を工夫して聞いてください

検察1: 臨床的癒着胎盤の診断の仕方があるかどうかですが、用手剥離を試みても、はがれない場合、又は隙間がない、これを癒着胎盤と臨床的に診断する、こういう考え方のあるのを知っていますか

証人: 知っています

検察1: どういう証人は考え方ですか

証人: 記載があるのは知っていますが、実際に経験がありませんのでコメント不能です。胎盤はほとんどはがしたら、はがれるからです

検察1: 証人に、経験がないことと、考えが本当かということは、別の問題だと思うんですが

証人: そうだが、私にはそれだけ前置胎盤?の経験があるので、記載があるのはそれはそれとして、一般的とは思えない

検察1: 証人自身には、経験がないとのことですが、用手剥離ができない、子宮と胎盤に隙間がなくて胎盤の剥離ができない、というのはありえないということですか

証人: ありえない、とは言っていませんが、胎盤ははがすと殆どはがれてしまいます。普通、分娩で用手剥離しても、全部きれいにとれなくて胎盤をむしりとることもあります。残りの一部は子宮に強固にくっついているのかなと推測できる、そういう経験はあります

検察1: 帝王切開でも、胎盤は自然に剥離し又は用手剥離で難なくはがれるのですか

証人: それは前置胎盤?のはなしですか

検察1: はい

証人: そうです

検察1: 通常の用手剥離でひっかかるということはないのですか

証人: 殆ど感じておりません。指の感覚ではがしてしまう

検察1: さきほど、ちぎるとかむしる、とかいう言い方がありましたね、ちぎったりむしったりしながら剥離するのも用手剥離の範疇ですか

証人: 帝王切開では見えています。経膣では見えないのでむしってとることもあり、用手剥離の一つです。胎盤がきれいにとれることがないこともあるので、そういう場合には、ちょっと表現が適切かどうかわかりませんが、そういうようなことになることもある

検察1: 臨床的に隙間が無くて剥離できないときを、癒着胎盤とする、という考え方については信じていらっしゃらないということ(メモ不完全)

証人: 隙間がなくてというのは、手を入れて、入らないということであればそれはほとんどありません

検察1: ということで臨床的に癒着胎盤の診断をするかどうかだが

証人: 穿通胎盤は術前にわかることがあります。もう一つは胎盤をはがしてみて、その部分から非常に出血が多いときは、癒着胎盤があったのかな、と判断するのです

検察1: 出血が多いだけの要素ですか

証人: そのように判断します

検察1: 前置胎盤?の分娩の際に、大量出血があるときは疑うのですか

証人: 癒着胎盤を疑ってもよい

検察1: 前置胎盤?で出血が多いとき、癒着胎盤を疑うとき、他のファクターはないのですか

証人: 例えば

検察1: ひっかかるとか

証人: 先ほどから申し上げているが、ひっかかりは殆ど感じたことはなく、出血状況で判断する

検察1: 前置胎盤?についても、出血多くなるのが知られていますね

証人: ええ

検察1: もともと前置胎盤?で出血量が多いと、癒着胎盤で、臨床的な判断の仕分けは

証人: 経験的なものなのですが、前置胎盤?でも全面的にじわじわと出血します。そういうものと、癒着胎盤であろうと思われるかなりの出血は、区別はつくと思っています

検察1 勢いですか

証人: 程度、まあ勢いです

検察1: 前置胎盤?は帝王切開しているのでよろしいですね

証人: はい

検察1: 前置胎盤?と癒着胎盤、具体的に程度の違いを説明していただけますでしょうか

証人: 前置胎盤?はまず子宮収縮を促すのが止血の手段です。それをもってしても、収縮が十分してもなかなか出血がかなり出てくるときに、癒着胎盤を考えます。

検察1: 前置胎盤?は子宮下部からの出血ですね

証人: はい

検察1: 子宮後壁、下部で出血、もっと中央というか、そこから剥離中に出血がある場合は前置胎盤?ですか

証人: 胎盤剥離すると、必ず出血します。前置胎盤?であれば、前置胎盤?の出血とおっしゃることはその通りです

検察1: 証人のお考えで、出血の程度によって臨床的に前置胎盤?と癒着胎盤の判断をわけるということですが、癒着胎盤の止血は具体的にはどうやってなされるのですか

証人: 先ほどから申し上げているとおり、まず第一に子宮収縮を促します。あとは出血をおさえて止める。それでも止まらない場合、縫合、縫って止血をはかる

検察1: 癒着胎盤に由来する出血は、止血は容易ですか

証人: 前置胎盤?はじわじわと出血するので、子宮の収縮をうながせば止血できる、それでもできない場合、ある程度縫合するなり止血操作が必要です

検察1: 止血は困難ですか

証人: ケースバイケースです。出血部位にもよりますし、色々な場合があります

検察1 止血にはマンパワーが多い方が効果が高いですか

証人: マンパワーとは、手術に入るということですか

検察1: 例えば、助手の医師に経験があるとか、多く、複数の産婦人科の医者が応援に来てくれるとかいうことはどうですか

弁護4: 今回主尋問で、応援については聞いていません

裁判長: どうですか

検察1: 癒着胎盤の一般的なことについての質問であるため、異議は不適当です

裁判長: 異議を棄却します

証人: 手術に入れる人数は決まっていますし、スペースのこともある。たくさん人が来ても、たくさんいればいいというものではないです。質問の主旨がわからないので、どういうご質問か、具体的に言っていただけますか

検察1: 術者1人で、産婦人科医が1人で、出血が多いということのとき、術者が産婦人科一人で当たるよりも他に一人二人いるとか、外科医がいるとかいうことについてはいかがですか

弁護1: 異議があります。本件は、1人ではなく、外科医の助手もついています。本件のことか一般的なことを聞いているのか、本件であれば、麻酔医、外科医もいることを前提に聞いてください

検察1: 一般論ということですが、具体的にと証人が言ったので、具体例をあげたまでです

裁判長: ちゃんとお聞きになったほうがよろしいんじゃないですか

検察1: 質問を撤回します。次の質問にうつります。癒着胎盤の出血で、止血にあたるのも重要ですが、輸血も重要ですか

証人: 癒着胎盤の話ですか

検察1: 癒着胎盤、前置胎盤?の場合で

証人: 前置胎盤?では輸血の準備をします

検察1: 癒着胎盤ではさらに出血が多くなると先ほど証人はおっしゃいましたね。すると輸血量は多いにこしたことはない

証人: 癒着胎盤とわかっていればですね、当然そうです

検察1: 次の質問にうつります。一般的に前回帝王切開で、前置胎盤?では、癒着胎盤の頻度は高くなるのですか

証人: その通りです

検察1: どうしてリスクが高くなるのですか

証人: これは、特に胎盤が前壁にある場合ですが、前回の帝王切開創に胎盤がかかっていると、脱落膜が発育しづらく、癒着胎盤になりやすい

検察1: 特にということで、おっしゃったのは、今回、いや胎盤が前に付着のときですか

証人: はい

検察1: 後壁付着の前置胎盤?でも、癒着胎盤であることはありますか

証人: あります

検察1: そうすると、その場合は、前回帝王切開瘢痕にかかわらず、癒着胎盤があるのですか

証人: 瘢痕に胎盤がかかっているときよりは、格段に可能性が低いです。前置胎盤?は普通の妊娠より癒着胎盤の率が高いが、前回帝王切開して胎盤が後ろにあるとき、と、帝王切開なくて胎盤が後壁付着の時とは、同じくらいです。

検察1: 全前置胎盤?は内子宮口を完全に覆いますか

証人: 全前置胎盤?、部分前置胎盤?でもそうですが、内子宮口を覆っています

検察1: すると後壁付着でも、前置胎盤?なら、胎盤は前壁にかかるのですか

証人: 定義では、それは分娩の時内子宮口が開いた際に、胎盤が一部内子宮口にかかるのを部分、全部かかるのが全前置胎盤?。後壁付着であっても子宮口を越えて前壁にかかるもの、前壁付着であっても子宮口を越えて後壁にかかるものを前置胎盤?といいます。

検察1: 証人の説明によると、後壁付着でも前壁にかかることがあるということですね

証人: かかることはあります

検察1: 後壁付着の前置胎盤?でも、前回帝王切開瘢痕にかかることはありますか

証人: 胎盤がどのくらいかかっているかによりますが、可能性を全面的に否定するものではありません

検察1: 前回帝王切開瘢痕にかかっているケースも考えられると

証人: 程度問題です

裁判長: キリの良いところで休憩を取りたいですが、あとどの程度ですか

検察1: 5分くらいです

裁判長: じゃ続けて

検察1: そうすると、後壁付着の前置胎盤?でも、前回帝王切開瘢痕との位置関係によっては、癒着胎盤は多いということですか

証人: 内子宮口と帝王切開創はかなり離れています。後壁に殆どの胎盤があるときは、瘢痕までいかない可能性が殆どです

検察1: 証人はカルテをみて、超音波検査の写真もみていますが、前回帝王切開創と胎盤の位置関係は、癒着胎盤のリスクの判断には重要ですか

証人: もちろんそういうことになります

検察1: 終わります

裁判長: それでは午後1時10分からです

【検察側反対尋問続き】

(13:10〜)

裁判長: では検察から続きですね

検察1: ではあの、続いて鈴木の方から、証人にうかがいます。癒着胎盤の術前検査について、癒着胎盤を調べる方法で、超音波、MRI検査があるのは、午前中証言されましたね。妊娠中に癒着胎盤を診断するのは難しいのですか

証人: 穿通胎盤の診断はできるが、それ以外はかなり難しい

検察1: 妊娠中の検査では、結果的に後に穿通胎盤以外の癒着胎盤を判明した場合でも、妊娠中の検査で把握できなかった例があるということですか

証人: そうです

検察1: 妊娠中には癒着胎盤でないだろうということで、実際は癒着胎盤であったということがありうるということですか

証人: そういうことになります

検察1: 妊娠中に癒着胎盤を確定診断するのが難しいと、お母さんと赤ちゃんの安全のためには、癒着胎盤のリスクがある場合の帝王切開では、癒着胎盤を念頭において、帝王切開にあたるべきという考えはいかがですか

証人: 先ほど申しましたが、胎盤が前回帝王切開の瘢痕にかかる場合、胎盤が前にある場合には癒着胎盤に気をつけます。それ以外は先ほど言いましたが、リスクが変わらないので、普通の前置胎盤?と同様に関わります。

検察1: 証人には、前回帝王切開瘢痕と胎盤の位置関係が重要ということですか

証人: 繰り返しますが、胎盤が前壁にある、前回帝王切開のときにはハイリスクです。

検察1: 前壁でとおっしゃいましたが、後壁付着で、前回帝王切開創にかかっている場合は、同じように癒着胎盤の危険を考えても良いですか

証人: 後壁は前壁に胎盤が少しいっている。頚部より前にいっている、帝王切開のときにはそんな下ではやらない、もっと上でやります。かなり距離があるので、瘢痕部にかかるリスクは非常に少ないのです。

検察1: リスクの問題ではなくて、実際に仮定で、後壁付着で前回帝王切開瘢痕部にかかっている可能性があるとわかっているときには、癒着胎盤を考えてのぞむのが妥当ではないですか

証人: ですから後壁に胎盤があるときには、瘢痕にはほとんどかからないのです

検察1: ほとんど、とは可能性ですか、範囲ですか

証人: 範囲であればまずかかることはありません

検察1 通常、帝王切開は、子宮下部を横に切るということですが、子宮下部は頚部と表現されると伺ってよろしいですか

証人: ええ

検察1: 通常帝王切開で横切開の部位は、内子宮口からどれくらいですか

証人: 解剖学的にいいますと膀胱の上です。下にいくと膀胱を損傷するので

検察1: 子宮下部

証人: 下部でも上の方、あまり上だと筋層が厚いので、あまり上はダメですが、下は薄い。子宮下部でもあまり下にいきすぎず、それでも上の方です

検察1: 次の質問にうつります。超音波検査について、経腹超音波断層検査で、後壁はわかりにくいと伺ってよろしいですか

証人: わかりづらいです

検察1: それは何故ですか

証人: なかなか超音波が達しない、距離があるのでクリアに見えない、操作はできるが、そこを見たい場合は見づらい。

検察1: 経膣による超音波断層法検査は、証人の考えでは、膣から近いところが鮮明にうつるということですか、離れていくとうつりにくくなる

証人: 結構です。近いとよく見え、遠いと見にくくなります

検察1: 遠いと届かないので

証人: そういうことです

検察1: 上にいくと、膣から遠いと画像が荒くなる

証人: はい

検察1: そうすると、子宮後壁の上のほうの胎盤はわかりにくい

証人: 経膣より経腹ほうがわかるが、そうです。比較問題ですが、前に比べると、後壁は距離が遠いので、わかりづらい。

検察1: 後壁の上の様子を調べるとき、MRIは有効ではないのですか

証人: 先ほど申し上げましたが、ケースによっては有効です。この場合超音波わかりづらいがある程度見えます、胎盤だとわかるので、MRIが有効かどうかは、ケースバイケースです

検察1: 場合によっては、そういう場合も、必要かもしれないと

証人: 場合によっては有効かも、という程度です

検察1: 後壁の癒着胎盤は、超音波検査でclear spaceが消失で癒着胎盤を疑う

証人: 疑うことは可能です

検察1: 証人は患者さんの後壁の右側下部に嵌入胎盤が認められたことはご存じですか

証人: 聞いています。

検察1: 超音波検査をしたけれども、被告人は結果的に嵌入胎盤を見つけることができなかったということになるわけですか

証人: 被告人とは、

検察1: 加藤医師は、超音波検査を行ったが、嵌入胎盤を疑わせる所見を認めることができなかったということですか

証人: 疑う所見がなかった、のであって、見つけることができなかったのではないでしょう

検察1: でも、実際は嵌入胎盤があったわけですよね

証人: ありました

検察1: でも、加藤被告はそれを疑わせる像を見つけられなかった、これはどういうことでしょうか

証人: なかったのです

検察1: どういうことですか

証人: 検査は100%診断できるものではありません。所見がなかったから、疑わなかった、ということです。

検察1: 検査をしても、実際には嵌入胎盤があった、という一つの症例だということですか

証人: 診断効率は何をやっても100%ということではない、一応検査をしたが、所見がなかった。しかし、病理診断で嵌入胎盤という症例だと考えます。

検察1: 残されている超音波検査の写真は、1コマであるということでしたね

証人: はい

検察1: 印刷されたものが、カルテにあったんですね

証人: はい

検察1: それを見て証人は鑑定を書かれた

証人: はい

検察1: そうしますと、超音波検査の写真に残っていない部分に癒着胎盤の所見が出ていたということは考えられませんか

証人: まず一般的に医師は、超音波検査の際に、まず全体をみます。異常があれば必ずそれを残します。癒着を疑わせる所見があれば、必ず記録をカルテに貼ります。残っていないのは、なかったと

検察1: それは証人ご自身の経験と知識からですか

証人: カルテを見ると、加藤先生は慎重にみています。癒着胎盤の可能性も考えて尿潜血反応とかもみています。超音波検査で疑いがあれば、必ず書くと思います。

検察1: 本人から聞いたのですか

証人: いいえ、僕がカルテを見て、非常に慎重にやっているから、そうやると思う、私の考えです。

検察1: 加藤医師の能力についてはどのように判断されて鑑定書書かれてますか

証人: 資料を見ていると、私にはこれまでの経験から超音波検査の技術を判断する能力が自分にはあると思うのですが、そういう目で見て、超音波検査に、加藤医師は非常に習熟していると思います。

検察: 結果的に嵌入胎盤だったのですが、それが術前の診療記録に残っていないのは、加藤医師の技量や経験を疑わないですか

証人: それは全くないです。

検察1: 具体的な術前検査の経過報告と、証人の鑑定意見について伺いますが、カルテを見たほうが答えやすいですか

証人: 質問によりますが

検察1: 記録に卵管結紮の希望がないと残されていた、とお答えでしたが、希望しないのは、不妊治療を希望しないということですか

証人: 卵管結紮をしないということは、もう一人子供がほしいという裏付けです

検察1: それは生命の危険と比較し、その理解の上のことですか

証人: 質問の意味がわからないのですが

検察1: どの程度の希望ですか

証人: どの程度、というのが曖昧でよくわからないのですが、子がほしいという希望、これは100%か10%かと言われても難しいです。

検察1: 分娩時に生命の危険があっても残すことを希望するのか、どうかというのはいかがですか

証人: そこまではわかりませんが、卵管結紮をしないのは、もう一人子供がほしい、それ以外の何ものでもないと思います

検察1: 手術の際に、危険がある、その際に子宮をとる可能性があるのを、確認するかは別の話ですか

証人: 要するに医師は色んな状況、色んな場面を念頭において説明します。それは当然です

検察1: 私の質問は違っているのですが

証人: よくわからないです

検察1: 質問を撤回します

弁護2: どこからどこまでですか

検察1: 一度お話、質問したものは撤回できないので、これ以上質問しないということです

検察1: 超音波検査の写真や、カルテの写真を見た方が答えやすいですか

証人: はい

検察1: 甲15号証、カルテの12月3日の記載を示したいと思います。直接みていただいても。12月3日の写真、医師記録貼付の2枚の写真で伺います。胎盤が内子宮口から前壁にかけてかかっている

証人: はい、前置胎盤?です

検察1: この2枚の写真だけから、前回帝王切開創がどこかはわかりますか

証人: わかりません

検察1: 妊娠初期の超音波検査では前回帝王切開創を確認できましたね

証人: あれは推定です、確認ではありません

検察1: では推定できましたね、12月3日以降、分娩まで、超音波検査にて、前回帝王切開創は推定できたのでしょうか、写真だけで

証人: 写真からはわかりません

検察1: 12月3日の2枚の写真で、胎盤が前壁のどの高さまでかわかりますか

証人: わかりません、どちらの写真も途中で切れています

検察1: これ以前から分娩まで、前壁のどの高さまで胎盤がかかるか、推定できる写真はありましたか

証人: 残っている写真の記録では、前回帝王切開創をみるのは非常に難しいです。超音波では

検察1: では胎盤と子宮の境界が不明である場合、癒着胎盤を疑わせる所見だということですね

証人: はい

検察1: 12月3日の超音波検査では、不明確ですか、前壁は

証人: 前壁ははっきりしません。不明確ということになります

検察1: その理由は何ですか

証人: もしあったとしても、経膣検査で、膣に圧をかけているので、見えなくなるという可能性があります

検察1: 見るときにプローブを頚管部を押し込んでいる。下の写真では

証人: 下の写真のこの黒い丸が超音波のプローブです。頚部の前の方が薄くなり、押し込んでいる。プローブに圧をかけすぎた写真です

検察1: 言葉で説明すると、台形の中の右の薄い黒いところが頚管頚部で、左から右下の黒い線が頚管部

証人: 頚管部は右上と下の2つある、台形のみぎの下のところ

検察1: 内子宮口というのが

証人: ここ、台形の中の右の真ん中。

検察1: 白と黒と境界あたり

証人: はい

検察1: 長さの計測の指標が上にある

証人: はい

検察1:頚管長が長く計測されているので、引き気味が良い、これは押しつけている

証人: はい。これはやや押しつけていますが、頚管長が31mmですので、これくらいでも十分です。

検察1: 12月6日で伺いますが、12月6日には芋虫状の血流が認められたという検査ですね。写真が残っていますが、写真を残すのは結果を残すことということですが。これは何のための写真ですか

証人: 胎盤の辺縁に血流がみられます。それだけですね。それで写真を撮った。

検察1: 証人によると、こういう血流は珍しいことではないとのことではなかったでしょうか

証人: 珍しくありません

検察1: それを残すのは、疑いがあるから残したとは考えられないのでしょうか

証人: 疑いがあるとすれば、血流が豊富で出血が多くなるので、それを残したのではないかと思います。

検察1: 先ほど証人は、これがあるからといって癒着胎盤ではないと言われましたが、癒着胎盤の場合はこのような血流が認められるのでしょうか

証人: 癒着胎盤の血流は、私は穿通胎盤の一例しか経験がありませんが、虫食い状の胎盤がでてきて、それで非常に血流が多くみえます。こういう単純なものでは全く違います。

検察1: 証人は穿通胎盤をみた

証人: はい

検察1: 証人が超音波検査をみたのはその例だけですか

証人: 手術前に診断したのはその1例です

検察1: 臨床的に癒着胎盤の症例は他にもあったのですよね

証人: はい

検察1: 振り返って、そういう例の超音波検査の写真を見たときに癒着胎盤を疑う所見は

証人: あまりないのです、異常所見があればとっているはずですが、それがないのは、異常所見がなくてそのままになったと思います。古いことであまり記憶にはありませんが

検察1: 12月3日に戻ってしまいますが、尿中潜血(±)でaccretaまたはprevia bleeding注意とありますよね。潜血反応は通常でも特段珍しくないのですか

証人: 妊娠中は血流が豊富になるので、時々、尿潜血陽性はあります。特に(±)で、とりたてて癒着胎盤の議論はちょっと行き過ぎかと思っている

検察1: 診療録には特に、尿潜血(±)につき、accreta注意とありますが、なぜ疑ったのか、その理由はいかがですか

証人: 非常に慎重に、要するに前置胎盤?なので癒着の可能性もゼロではないということで、慎重に見ているということです。私としては尿中潜血(±)だからといって即癒着胎盤は考えすぎでないかと思います

検察1: 一般的な知識で、なぜ癒着胎盤で潜血が陽性になるのですか

証人: 膀胱まで胎盤絨毛細胞が浸潤しているとき、筋層を越えて膀胱まで浸潤のとき、尿中に出血がみられ、尿潜血陽性となります

検察1: 尿中潜血から癒着胎盤を疑うのは、癒着胎盤が考えに入っていたということですか

証人: 考えられると思います。12月3日の超音波検査では、右の黒いところが膀胱です。膀胱のところにかかっている可能性も考えていると思います。

検察1: 今示されたのは、台形の右側の部分のところですね

証人: はい

検察1: で、12月6日の尿潜血で(−)ということを書いてますね。一度記録上、placenta accreta or previa bleeding注意と疑っていますが、それを否定している結論の記載はわかりますか

証人: 記載はありませんが、(−)はそういう意味でしょう。尿潜血(±)から疑い、(−)になっているから、その可能性は否定された、私はそう解釈します

検察1: 12月6日の時点で、加藤医師は術中超音波検査を行うとカルテに残していて、証人は良い判断だと評価されていますが、これは何のためですか

証人: 前置胎盤?は、後壁にあっても、少し前壁にかかってます。胎盤を避けて帝王切開しないと出血するので、胎盤がどこまでか、切開創を入れる前に見る、これは出血を少なくするためにも慎重な操作だと思います。

検察1: 切開創を入れる前に胎盤を確認するということですね。

証人: ええ

検察1: 癒着胎盤ではないという結論はその前に出ていたということですね

証人: 胎盤を避けるため、と私は考えます

検察1: 前回帝王切開創と胎盤の関係で、どのような状態だという認識をもっていましたか、かかってるかかかってないか

証人: かかっていないと思っていたと思います。可能性はあったが、いろんな検査の結果、そう判断したと思います

検察1: 鑑定書を書かれた際、どういう資料を参照されたかと質問があったときに、警察の調書を見たことがあるとおっしゃいましたね。麻酔医の供述調書をご覧になったご記憶はございますか

証人: 読んだ記憶はありますが、はっきりとは内容は覚えていません

検察1: 読んだ上で鑑定されましたか

証人: 読んだと思います

検察1: 麻酔科医が術前、加藤医師より、前回帝王切開創にかかっているかもしれないので、もし胎盤がくいこんでいるようなら、子宮全摘すると聞いたと述べています

証人: 記憶にないです

検察1: そういう事は鑑定の前提にされているのですか

証人: 私の範囲内でカルテ、知識をもとに客観的に書くもので、人の話は参考にしておりません

検察1: 近隣の双葉厚生病院の加藤先生の調書はご覧になりましたか

証人: 同様、読んではいますが、一字一句検討しながら読んでいません

検察1: 場合によっては応援が必要と言われたという内容

証人: それは覚えています

検察1: 前置胎盤?で帝王切開の症例で、前回帝王切開創に胎盤の一部がかかっていると聞いたという内容を覚えていますか

証人: 多分そういうことだったと思います

検察1: それは鑑定の前提にしていますか

証人: しておりません

検察1: MRI検査について、証人はMRIをやるか決める以前の問題として、加藤先生は癒着胎盤でないと判断していたという理解ですか

証人: 癒着胎盤と思っていなかったということだと

検察1: 証人の意見書には、癒着胎盤でないと判断していたのだから、と書いていましたが、証人として、加藤先生が判断していた、という、

証人: そう判断していたと思います

検察: 証人が記録や資料を見ての判断ですか

証人: もちろん、最初から100%否定はしていません。医師の考え方は一番最初に悪いことを考え、だんだん否定していきます。前置胎盤?のときに、癒着胎盤は頭にあります。でも検査でだんだん否定していく、このケースは癒着胎盤はないと判断した、そういうことです

検察1: だんだん否定していった、どの時点ですか

証人: 帝王切開する時点の前ということですね

検察1: 12月6日に術中超音波検査を決めた。そのときに癒着胎盤を考えていたのではないでしょうか

証人: ですから、術中の超音波は癒着胎盤のためではなく、切開で胎盤を避けるという目的だった。胎盤を切ると出血が多くなるので、思慮深い判断だったと思います

検察1: 前回帝王切開創と胎盤の位置関係がわかっていなかったということではないですか

証人: 前回帝王切開瘢痕は、妊娠後期になると見た目にはほとんどわかりません。子宮壁の薄さで判断するが、なかなかわかりません。でも経験上、このへんに帝王切開創をおくというのはだいたいわかるのです。何回も反復帝王切開をやってますが、前の帝王切開創はわかることもありますが、わからないことも非常に多い。

検察1: 直接プローブをあてて、超音波検査をやったことは、胎盤の位置を確認して切開の場所を決めたということですか

証人: はい

検察1: その上で切開した。そのときに前回帝王切開創と胎盤の関係は記録上はわからないですね

証人: 記録上は超音波検査でも肉眼所見でもわかりません。帝王切開創はどこにおくかは経験上だいたいわかるので、わかるものです。このへんが前回帝王切開創だろう、というのがそれでわかります。帝王切開手術をやったことのある人なら必ずわかるのです

検察1: そのあたりを見たかどうかは

証人: プローベは、子宮全体を見るのです、前壁を見たと思いますがわかりません

検察1: 写真は残っていませんね。客観的にはわからない

証人: ええ、記録が残っていないのでわかりません

検察1: 通常、帝王切開は胎盤娩出、失礼、児の娩出後、胎盤娩出まで、時間はどれくらいかかるのですか

証人: 通常数分です。赤ちゃんが生まれて臍帯を切って娩出し、数分

検察1: 数分とは何分ですか

証人: 私はできるだけ早くします。1、2分。

検察1: 早くというのはどうしてですか

証人: 早いほうが出血量が少ないからです

検察1: 胎盤が自然に排出されるのが早いほうが

証人: それでは不十分です。子宮収縮剤を打って収縮させてということです

検察1: 収縮効果で娩出がされる

証人: それではがれる場合と、はがれない場合があります

検察: はがれない場合は用手剥離を行う

証人: はい

検察1: 指の感覚ではがれるかどうかわかるのですか

証人: 私は何百回としましたが、手の感覚で感じたことはありません。手で剥がしてしまうので、指先の感覚というご質問の主旨がわかりません

検察1: 胎盤は抵抗なくはがれてくる

証人: 剥がれたというより、はがしたということですが、そういうようなことで、そういう感覚は感じたことがありません

検察1: 娩出後、被告は用手剥離をはじめ、クーパーを使用して剥離を完了させた

証人: はい

検察1: 証人としては、どのあたりまで用手で剥離して、どのあたりまでクーパーか

弁護2: 異議あり、本日の証人に本件の胎盤の術中の用手剥離について主尋問はしておりません。本件についてクーパーを使ったことについて問われても、読み込んでいませんし、反対尋問の範囲を超えています。次の証人であれば

検察2: 異議に理由ありません。まず一つには鑑定書の中身に反対尋問が及びます、もうひとつは、同じ立場なら同じことをしたと証言しているので、同じ立場でどのようなことをしたか、前提の確認が必要です。

裁判長: その件についてはどうですか

弁護1: 帝王切開、そこから児の娩出、用手剥離、手術中の範囲については、次回の証人にきく。今回は証人の経験から、外来・入院カルテをもとに証人の経験として、どう診断したのか、一般的な経験として癒着胎盤のこと、クーパーの使用についてきいています。本件に即してでなく、一般的なことに限って聞いていますので、主尋問の範囲を超えています。手術中の具体的なことについては次の証人でお聞き下さい。

裁判長: 鑑定書の中身、裁判所はわからないが、手術のことは記載はされているのですか

弁護1: それなら限定して、鑑定書にあるがどうかとかいうように聞いてください。

裁判長: そうですね、今回の証人をとりあげるとき、重複しないようにするとは、検察官の方から要望があったことです。どうしても聞きたいということであれば、限定してということで

検察1: もう一つの理由として、主尋問ででていることについて、それに対する尋問がなかったので、それについても、反対尋問が及ぶということになります。同じ立場であれば同じ事をしたとおっしゃってますので

裁判長: では、その先含めてお聞き下さい

検察1: 再度質問いたしますが、証人は、加藤医師がどのあたりまで用手剥離を行い、どのあたりまでクーパーを使用したという認識ですか

証人: 記憶がはっきりしませんので申し上げられませんが、ある程度まで用手で剥離して、一部クーパーをつかったというように認識しています

検察1: 大部分ですか

証人: それ以上はわかりません

検察1: どの資料でそれをお知りになったのですか、証人がそのように認識されたのはどういう資料をもとにそう

証人: えっと、何を見たか記憶にありませんが、そういうような調書を読んだのではないかと思います

検察1: 加藤医師のですか

証人: 私は今記憶がはっきりしないので、答えられないが

検察1: では胎盤付着部位はどこでしたか

証人: 後壁に広範囲に、胎盤がかなり大きかったと記憶しています

検察1: どれくらいですか

証人: 記憶していませんが、

弁護: 意義あり、主尋問は証人の経験としてクーパーの使用についてきいています。本件についてクーパーを使ったことについて言われても、前提となる資料を証人は読み込んでいませんので、答えられません。主尋問の範囲を超えています

裁判長: よろしいですか

検察3: クーパーを使っただろうと証人は述べていますので、証人は主尋問で同じ立場であれば、という前提がどうなのか明らかにしなければなりません

弁護1: では主尋問の範囲を限定する意味ありませんね。何のためなのか

裁判長: 検察官は範囲を限定することにこだわっておられたので、それをちゃんと考えて、やってください

検察1: ですから、主尋問の範囲で質問しますと、・・事実関係の中で・(検察と弁護側同時に話しメモとれず)、ここは重なってできませんとおっしゃった

弁護1: それは違います。本人の経験については聞きますということです。主尋問について二人は必要ないでしょう、といわれた、きちんと主尋問の範囲を限定してくれ、それが検察の言い分だったんでは

検察1: でも限定できてませんよねぇ。クーパー使用は両方の証人にかかっていますよね。それについてどちらかにしてくださいと再三申し上げましたよね。でも結局重複しているのは弁護側のほうです

弁護1: 今回の証人は入院・外来カルテをもとに証人の経験として、一般的なクーパーの使用について聞いてるんですよ。本件に即して本件のこの手術中について、本件のクーパーの具体的な使い方について、本件の胎盤剥離がどういうのが適切だったか、そんな質問一切してませんよ。

検察3: クーパーの使用については関係があるから(メモ不十分)お聞きになった

弁護1: 一般の産科医として、クーパーの使用をきいているではありませんか。

検察1: では本件と同じ立場であればと証人への質問の主旨は何でしたか。

裁判長: はい、もうやめてください。では主尋問は証人の経験に即してということできいていただいて。中身の正確性でどうしてもきくところはきいて、弁護側は内容の区分けをすると言われていたので、その範囲で聞いてください。

検察2: 本件で、証人が同じ立場だったら被告と同じことをしたとあるので、前提を確認することは内容の信用性を吟味する上で重要です

裁判長: そこに影響するのであればですね。ただしぼった主旨がない。最初から弁護側に全部準備してもらうことが必要でしょ

検察2: 検察はクーパーの使用については尋問が必要ということで

弁護1: 一般論としてきくということで、こちらはあくまで言っていますよ

検察2: 本件と一般論とどう関係があるのですか

弁護1: 検察官だって、一般論として前置きでたくさん聞いているではないか。それは本件と関係ないとでも言うのですか

検察1: 主尋問では一般論と理解してよろしいですか

弁護1: 尋問と答えをよく吟味してお考えください

裁判長: 続けてください

検察1: 鑑定書と追加意見書で、本件の手術中の流れを説明されていますが、まとめてはおられませんね

証人: 手術中ですか、まとめてません

検察1: どのあたりまで胎盤が付着していたとか、どのあたりがクーパーを使ったとか、出血とか明確にしていませんよね

証人: してません

検察1: それを明確にしてからでないと、鑑定書追加は証人も説明できないのではないですか

弁護1: 異議あり、追加は術前検査のことについて述べています。手術については述べていません。誤導です。

検察1: 意見書です。追加については誤りでしたので改めます。最初の意見書ではしっかりまとめておられませんね

証人: しっかりまとめて、というのはどうかわかりませんが、まとめておりません

検察1: 証人は、最初の意見書はどういう前提でお書きになっていたのですか

証人: 書き方がまずいと言われるのでしたら、そうなのでしょうが、こういうことについて、意見を述べてと弁護人から言われたことについて、意見を述べました。

検察1: 出血については、どの程度のことで

証人: ちょっと私の書いた意見書をみせてください。出血についてどう書いたかはっきり記憶がないので

裁判長: 何号証のどこですか

弁護1: 弁131号証、項目毎になりたっています

証人: お聞きになったのは、項目4、5ですか

検察1: そうです

証人: わかりました

弁護1: 質問してください

証人: だいたい内容わかりますけども

検察1: 胎盤剥離中の出血状況はどの程度か、いつからか、どういうご理解を前提にされましたか

証人: 胎盤は剥離したら先ほど申しましたが、剥離したところから出血があります。剥離を始めた時点で出血します

検察1: クーパー使用の前後でも同じですか

証人: 胎盤をはがせばどんどん出血するので、クーパーを使う前から出血します

検察1: クーパー使用前後で出血は顕著に増えましたか

証人: それは考えていません

検察1: 癒着の範囲は少しだという理解ですか、どう理解していますか

証人: 病理をちゃんと読んでいませんというか記憶がちゃんとありません、一部と理解しています

検察1: 病理の資料はあったのですか

証人: 記憶がないですが、写真はながめていましたが、記録をよく読むことはしていません

検察1: 病理は検察側と弁護側のものとがあるが

証人: 検察と思いますが、弁護側は一切見ておりませんし、鑑定結果は知りません

検察1: 局所的というご理解だったのですか

証人: そういう話は聞いていましたが実際どの部分にどの程度だったかは聞いていません

検察1: 鑑定書の中で、局所的にと、書かれています。クーパー使用は局所的にと書いてありますが、そういう前提ですか

証人: そうきいています

検察1: 局所的にとはどの程度ですか

証人: 難しいですね。局所的です

検察1: 日本語ではごく一部という定義ですが、医学的に違う意味がありますか

証人: ないです

検察1: 鑑定書に書かれた前提で、胎盤の位置関係などはわからないのですか

証人: わかりません

検察1: 前提にされているのですか

証人: 経験ないので

検察1: 隙間がなくて用手剥離できなかったということは、前提でないのですか

証人: 話は聞いたことがありますが、自分は経験がないです

検察1: 剥離困難という状況があったかどうかについては

証人: 剥離困難という意味は、用手剥離で剥がれなかったと理解しているかということですか

検察1: 隙間が無くということを前提としているか

証人: 前提というのはよくわからない

検察1: 6ページ、剥離困難でない、と、下から3行目です

証人: 剥離困難ではない、用手剥離できているということです

検察1: 剥離困難は通常なく、今回はなかったということですか

証人: 用手剥離できたと思っています

検察1: 資料で事実を知った上で鑑定を書かれているが、証人の前提事実と違うことを記載されている資料はご覧になっていないのですか

証人: 具体的にいってください

検察1: 病理は

証人: 見ましたが、あまり詳細には検討していません

検察1: 杉野博士のものですか

証人: はい

検察1: 被告人の供述は

証人: 読みました

検察1: 検察側の

証人: だと思います

検察1: わりと枚数がありましたか

証人: あったと思います

検察1: 事故調査報告書は

証人: 読みました

検察1: 用手剥離できなかったという被告人の供述書は見ましたか

証人: 加藤先生の

検察1: はい、加藤医師のです

証人: あったかもしれません

検察1: 3本、2本、1本というような内容の

証人: あったと思いますね

検察1: それは前提とはしていない

証人: 私の経験が前提ですので、それを前提としたコメントを書いたのではありません

検察1: 事故調の剥離困難という記載がありますが

証人: ちょっとわかりません。前提にしていない

検察1: カルテに、剥離できなかったので、とあるが、それでペアンで、という記載があったのですが、これは前提にはされてないのですか

証人: 記憶はあります

検察1: 器具を使わないと剥離できない状況があったのではないかと推定されないのですか

証人: 推定だが、私たちは剥離してしまうので、残るかどうかは判断できない。はがさなければいけない時に、それをペアン、クーパーで剥離するということだ

検察1: 医師記録に、児娩出から胎盤娩出まで、何分とあったか、記憶がありますか

証人: はっきりしない、少し長かった

検察1: 13分と記載ございますが、なぜかかったのですか

証人: わかりません。かなり出血が多く、止血操作とかに時間がかかったのではないか

検察1: 胎盤剥離まで出血するので、剥離の時間がかかったということですか

証人: 何回も言いますが、胎盤は剥がすと出血しますので、剥離というより、剥離と止血両方です

検察1: 次の質問にうつります。一般的にクーパーを用いた、・・・撤回します。剥離時にクーパーを使用したことはありますか

証人: ありません

検察1: それは必要ないからですか

証人: そうです

検察1: 胎盤剥離にクーパーを容認するテキストを目にしたことはありますか

証人: 私は記憶にありません

検察1: クーパーで胎盤剥離のメリットは

証人: 私はクーパーを好んで使います。便利です。切るのではなく剥離するのに便利で、ある意味胎盤をクーパーで剥がすのは、なるほどなと思いました。切るのと剥がすのは大違いです。私ははがすときにはクーパーを好んで使います

検察1: それは婦人科のがんの手術ですか

証人: がんの手術であろうと、他の手術であろうとかわりません

検察1: 刃をあけると、pin pointで先端に力が入りますね

証人: 刃をあけません。閉じたまま剥離します。切るのではありません

検察1: 閉じたとき、先端に力がかかりすぎないのですか

証人: 先端は丸いのである程度力を入れても突き刺さるということはありません、ある意味安全です

検察1: pin pointで力が入りやすいのではないということですね

証人: 刃はある程度の幅がありますので、

検察1: 狭い範囲のことですが

証人: pinというのは針ですよね。針にはなってないですから

検察1: でも範囲は狭いですよね

証人: 安全面があるわけですから

検察1: ただまあ、分娩時の妊娠子宮はやわらかい、子宮下部は筋が薄いですね

証人: 結構です

検察1: そこに力が入ると子宮を傷つけるということは

証人: 胎盤は剥がれるときに既に傷ついているわけです。子宮に刃が入り込むということは、まずないです。

検察1: 嵌入胎盤で子宮筋層に浸潤する、そこをクーパーで剥離する際に子宮を傷つけるということはありますか

証人: 胎盤が既に入っているので、子宮筋は既に傷ついているわけです。それ以上で、クーパーで傷つけることはまずありません

検察1: 視野ですが、クーパー先端が、仮に、・・(書き取れず)

証人: 手術の前提として、盲目的なこともありますが、開腹するのは見ながらの操作が大前提です

検察1: 別の質問ですが、今回事前の患者さんの超音波検査で羊水の量は異常はあったのですか

証人: 羊水量はenoughとカルテにありますが、これは正常ということです

検察1: 末期は100から800になるということですが、それは良いですか。enoughはそういうことですか

証人: 妊娠週数で違います

検察1: 妊娠末期にはどうですか

証人: 末期は800以上は羊水過多です。しかし超音波検査で羊水腔の大きさで判断します。羊水量の診断はそのようにして総合的に判断するものです

検察1: 今回多すぎると書いていたのを見ましたか

証人: 羊水量が多いと書いているのはなかったと思います

検察1: 1800だと多いですか

証人: 多いと思いますね

検察1: 超音波検査で気づきますか

証人: 気づくと思います

検察1: カルテを患者さんにわかりやすく日本語で書くという考え方はいかがですか

証人: 私もそのように若い医師に指導しています

検察1: 第三者にわかるようにということですか

証人: そうですね

検察1: ムンテラとかMTとかはどうですか

証人: 残念ながら私も書きます。図を書いて、説明したことを書くということだと思います

検察1: 患者さんにもわかるように説明する

証人: もちろんです

検察1: 患者さんに前回帝王切開で、前置胎盤?の危険は説明するとして、癒着の危険を説明する説明についてはそういうことが考えられますよということを説明するのはどうですか

証人: 医師の場合は、それが0.1%でも、あるリスクは全て話しておくのが前提で、それが杞憂に終わるのがベストです。色々な可能性は最悪の場合からお話する。しかし、まず母体死亡がありますよね、というような話は、あまりに不安をかきたてるので、そういうように話さないと思います

検察1: 癒着胎盤のことの説明はあったと思いますか

証人: 癒着胎盤のことより前に前置胎盤?で出血が多く、子宮をとる可能性は十分あるので、その説明はします

検察1: 癒着胎盤についてはどうですか

証人: そこまではどうでしょうか。この場合、癒着胎盤はあまり考えていなかったと思いますので、前置胎盤?でも子宮をとることがあるので、どこまで話すかというのはある。出血で輸血をする可能性とかそういう話は当然します

検察1: 患者さんとご主人に説明した図は、一般的な前置胎盤?の図ですか

証人: そう思います

検察1: なぜ、患者さんの胎盤を書かず、一般的な図を書いたのですか

証人: 推測ですが、前置胎盤?の場合、出血が多い。これに関して、出血が多い場合胎盤を切り開くこともあるので、そういうことを前提に色々お話したのではないでしょうか。医師は楽観的でなく慎重な話をします。

検察1: なぜ患者さんの胎盤に即して書かなかったのでしょうか

証人: その場にいないからわかりません。一般的にあの図を見ると、患者さんに胎盤がここにあって切開という一般的な話をしたのではないでしょうか。

検察1: 子宮の切開線は別のところに描いてあったのですか

証人: 図にあったと思います

検察1: 記憶喚起のため、12月4日の医師記録を示します

証人: 私の理解では、この部分

検察1: 逆くの字のところ

証人: 説明のときに、こういうところに入るという

検察1: 前回、今回、

証人: 今回とか前回とかではありません。一般的に、下の方を切りますよ、というような説明と理解しています

検察1: この5時から8時のは胎盤ですか

証人: ええ、胎盤だろうと思います

検察1: 胎盤のところの切開の危険性を説明しているのですか

証人: そう私は理解します。胎盤の中に入ると出血が多いので、避けたい。しかしやむを得ないときもあります

検察1: 逆くの字が前回帝王切開創の可能性で、そこにかかっているよ、ということの可能性はありますか

証人: それはないですね。そうは全然思わない。今初めてそんなことを言われました

検察1: 下から5、6、7行目の図で、切開のところをご覧ください。これはどういう図でしょうか

証人: 子宮切開をこのようにするかもしれない、切開線はふつうはこうではないが、という説明につかったと思うが

検察1: なぜこの図か推測できますか

証人: 推測ですが、胎盤の位置で、避けるためにこう切開かもしれないと、術中超音波検査もやっているわけですし、これは出血量が多くなるかもしれないが、胎盤を切るともっと多くなるので、避けるためにこういう切り方をすることもある。

検察1: こういう切開にはどういう意義があるのですか

証人: 切開を、胎盤を避けてやる

検察1: 胎盤がここにあると

証人: U字型に切ることもありますよ、一般的に説明したのだと思いますが

検察1: 前回12月3日にも同じ記載があったと覚えていますか、いや13日でした

証人: ああわかりました、この図ですか

検察1: U字で線でこう切開かと書いているから、こういう理解ですか

証人: そういうふうに判断しています。避ける意味で、右側には切開ということだと思いますね

検察1: 左について・・・撤回します。一般的なこと、証人の経験について、今まで臨床的癒着胎盤をあつかった件数は8件ですね。

証人: 記録は完全ではないですが、8件です

検察1: そのなかで証人が術者として、手術に入られたのは

証人: 全例ではないですが、前置胎盤?などの場合には手術に入りますし、教授ですので回診のときに把握します。

検察1: 証人の職歴の中でいいますと、東北大学病院

証人: ほとんど東北大病院で、それ以外では記録がないのですが、私はずっと周産期医療にたずさわり、前置胎盤?はかなり経験しています。癒着胎盤もそういう経験です

検察1: 前置胎盤?で出血が多くて、臨床的癒着胎盤の経験について話しましたね。術前からリスクが高いのはわかっているのですか

証人: 前置胎盤?は普通の帝王切開より出血は多いです。それなりのリスクがあるのは間違いない

検察1: 東北大では何人が手術に入りますか

証人: 手術医と助手2名と麻酔科医と、新生児対応の小児科医です

検察1: リスクが高い帝王切開の症例は日中を選ぶということはありますか

証人: 緊急手術以外は夜中はやりません

検察1: 手術準備に輸血を準備され、それ以上に必要な時にはどうするのですか

証人: 輸血部にオーダーします

検察1: どれくらいで届きますか

証人: 状況によりますが、交差反応などすると1時間くらいです

検察1: 手術で準備血以外に使えるものはありますか

証人: ちょっと今の主旨がわかりませんが、輸血部で準備します。タイプアンドスクリーンといって血液型をあわせたものを輸血部に用意しています

検察1: 鑑定を5、6件されているということですね

証人: 記憶は定かでないですが、5、6件です

検察1: 全部周産期医療ですか

証人: 周産期医療です

検察1: どんなケースを鑑定されたか記憶はありますか

証人: 判例に載っていますので読んでいただいたらわかりますが、赤ちゃん、母親のこと、色々です

検察1: 具体的にどのような例を鑑定されたのですか

証人: この場ではっきりわからないですが、ひとりは子癇かてんかんかわからない、そのまま常置(位)胎盤早期剥離で、赤ちゃんが亡くなって母体も脳症で入院となった。もうひとつは新生児の帝王切開で、胎児の低酸素症で、帝王切開の判断にかかわるものです。あとの記憶はちょっと定かでありません

検察1: 時期はいつ頃からいつ頃ですか

証人: 鑑定の時期ですか、最近は忙しくてやっていませんが、多分2、3年前が最後かと

検察1: 最初はいつですか

証人: わかりません

検察1: 民事・刑事はどちらですか

証人:  全部民事です

検察1: 依頼はどこからでしたか

証人: 全部裁判所からです

検察1: 証人としての裁判所への出廷は

証人: 鑑定人としてですか、初めてです

検察1: 今回の意見書についてですが、昨年の12月13日より前にできたとのことですが、具体的にいつできたのですか

証人: 書いていなくて申し訳ないですが、覚えていません。

検察1: いつころ頼まれたのですか

証人: 覚えていません

検察1: はっきりしないのですか

証人: しません

検察1: 主任弁護士からの依頼ですか

証人: はい

検察1: どういう依頼でしたか

証人: 項目について意見書を書いてくれという依頼でした

検察1: これについて意見を書いてということですね。最初から項目1から6まで決まっていたのですか

証人: はい

検察1: この項目についてというのは与えられていた

証人: 鑑定というより、意見書ですね

検察1: 鑑定と意見書と、証人には区別がありますか

証人: それはわかりませんが、意見は意見です

検察1: それより前のは鑑定書ですか

証人: 鑑定書はもっと範囲が広いので、このような形ではないと思います

検察1: 鑑定より範囲が狭いから意見書なのか

証人: そのような判断は私にはわかりかねますが、意見書と言われたので、そう書きました。鑑定書と言われたら鑑定書を書いています

検察1: 証人の意見書に、経過として、妊娠希望をし、超音波検査でも癒着の所見がなかったため、加藤医師が用手剥離を行ったところ、胎盤のごく一部に癒着があり、という記述がありますが、中身についてはどのようなことを

証人: 外来診療録、供述調書をある程度、かなり読みました。それが不十分と言われれば仕方ないです

検察1: 鑑定の前に、入院外来カルテ、供述調書、麻酔科医の調書、他の方の調書はご覧になりましたか

証人: 助産師、看護師の方の供述書は読みました。鑑定の場合は客観的なことを考えるので、人の意見は読みますが左右されない形で書きます。

検察1: 術者の加藤医師の意見で、術中の経過とかについてはどうですか

証人: 今回平岩弁護士の項目に関して見ましたので、手術以降、手術中のことについては触れていません

検察1: 加藤医師の供述書は

証人: 読みましたが、意見書の中で全て網羅しているかはわかりません

検察1: 証人の新潟大学の田中教授の鑑定書は読んだか

証人: 読んでいません

検察1: 弁護士から渡されましたか

証人: 記憶はありませんが、読んでないです

検察1: 特別弁護士の請求された人の

証人: 読んでないです

検察1: 事実経過で、公判、この事件がこういう事件ですと検察官が書いた書類はどうですか

証人: 読んでないです

検察1: そうなると、鑑定でどういう資料を読んだとかいうのが記載されていないのは何故ですか

証人: 何故、と言われると困りますが、こういう文献を参考にしたというのは入っています。あとは診療録をみながら書いたので、参考のものをつけているが、それ以外は書いていません

検察1: 最初の鑑定に要した時間は

証人: これは集中的にやるものでなく、長い日数は使いました。丸一日を使うことはできないので

検察1: 日付を書かなかったのは理由がありますか

証人: 単に忘れただけです

検察1: 追加意見は、お願いされたのではないですか

証人: 思い出せないのですが、こういう事柄、カルテの経過について、追加してください、と言われました。期日は覚えていません。

検察1: 平岩弁護士からですか

証人: はい

検察1: 公判についての状況はご存じでしたか

証人: 知りません、新聞からの情報だけです

検察1: 鑑定のための新しい資料は何か用いましたか

証人: 超音波断層検査の写真をきれいに出してくださいとお願いしまして、出してもらいました。

検察1: 最初の超音波検査の写真は汚かったのですか

証人: そういう意味ではなくて、超音波の所見を書くので、鑑定書はきれいな写真をつけなければいけないと思い、そういう意味で言いました。

検察1: 依頼のときに渡されたカルテは写しですね

証人: ええ、写しです

検察1: 写真は見えなかったのですか

証人: 写真は見えますが、それをまたコピーすると、見えにくくなるので、ということです

検察1: 鑑定をされることになった経過ですが、証人は鑑定する前、被告人との面識はありますか

証人: 全くありません

検察1: 被告人がどのような見識、どのような経歴の医師なのかは知っていましたか、

証人: 福島県立医大の佐藤教授は私の先輩なので、お会いすることもありますので、そういう意味では知っています。加藤医師とも顔をあわせていたかもしれませんが、話しをしたのは今日が初めてです。

検察1: 福島医大の佐藤教授は先輩ですか

証人: そうです

検察1: 色んなつながり、つきあいはありますか

証人: あるとは思いますが、

検察1: 加藤医師がどんな先生なのかはきいていなかったのですか

証人: だいたい聞いております。周産期医療を専門としており、10年くらいの経験年数の医師と聞いています。

検察1: 証人は佐藤教授とこの件で話したことはありますか

証人: 直接、個人的にはありません。しかし私も学会理事で、佐藤教授は学会の監事(さらかんじ)で、学会の理事会で毎月一回は会います。

検察1: 証人は東北大学でお忙しい、周産期医療をされて、と伺って良いですか

証人: はい

検察1: 証人は、今回の事件に関して、平成17年春、加藤被告が逮捕される一年前ですが、福島県富岡警察署が証人に鑑定依頼をした時に、鑑定依頼を証人は拒否されましたね。何故ですか

証人: 裁判所の依頼は受けたことがありますが、警察の鑑定は初めてで、どういうものかわからなかったのと、その時は非常に忙しくて時間がとれなかったのです。

検察1: 警察は、刑事訴訟法で証人に対して鑑定の依頼を行うことができると、証人にそのときに説明したのですよね

証人: したかもしれませんが、覚えていませんが

検察1: 理由はお忙しいから、だったのですか

証人: 誰でも鑑定は喜んでやるものではないですよね。モチベーションの問題もあるんですね。非常に多忙でしたし。私は刑事事件の鑑定は初めてで経験がなかったので自信がなかったのがひとつめ、忙しいというのが二つめの理由です。

検察1: 証人は、その際、鑑定の仕事だけしているわけではないので、引き受けないと、担当官にお話されたという、記憶にありますか

証人: 記憶にないが、そういうことを言ったかもしれません

検察1: 平成17年に警察が先生のところに鑑定依頼に行った時点では、まだこの事件は大きな話になっていませんでした。福島県でおこった事例で、福島県に鑑定ができる医師がいなかったため、証人が東北大教授であることから、証人に依頼しに行ったわけですが、東北地方の代表として、鑑定する責任が証人にはあると感じなかったのでしょうか

証人: そう言われると、責任があったかもしれませんが、忙しかったので、引き受けられなかった

検察1: 証人が鑑定を拒否されて、一年後、被告医師が逮捕されたころ、逮捕されてから起訴される前に、証人が意見書というのを書いて弁護士に提出したのは覚えていらっしゃいますか

証人: はい。しかし内容は見ないとわかりません。

検察1: 記憶喚起と同一性の確認のため、証人作成の意見書を示したい。

裁判長: 証拠に出ていますか

弁護1: 証拠として提出するために開示した記憶はありません。

裁判長: それなら作成の経緯からきいてもらわないと、こちらにわかりませんので。では10分休憩いたします。(15:15)

(15:25再開)

裁判長: では意見書ですが、どういうものか、説明していただけますか

検察1: 日付はないのですが、意見書で、署名押印があります。証拠請求はないですが、弁護側からいただいたものです。

弁護1: 捜査段階のときのものです、裁判の証拠としてではなく、捜査段階のときの弁護側の提出です。

裁判長: 証拠の種類としては、どうなりますか。示すことについては良いですか

弁護1: 主尋問の範囲とはどう関係しますか

裁判長: 今回証人が鑑定を頼まれた経過とつながるんでしょうから。はい

検察1: 日付の記載はございません。平成18年3月7日、地方いわき支部の受理のゴム印が確認できます。作成は3月7日より前ということですか

証人: はい

検察1: 意見書の経緯は記憶はございますか

証人: これは加藤医師が逮捕されて、それに対して学会としても不当逮捕であると、理事会などで話があり、学会として意見書を書いていただきたいという話しになったと記憶しています

検察1: 上に証人の肩書き、日本産科婦人科学会理事と。周産期委員会委員長ということですか

証人: はい

検察1: 証人がどういう意見を書かれたかご記憶ですか

証人: 読ませていただけますか。記憶はだいたい、要するに、業務上過失致死で医師として手錠をかけられ逮捕されたことには衝撃をうけました。それに対する意見書です

検察1: 過失があるか疑わしいと書いてますか

証人: はい

検察1: 癒着胎盤の術前診断は難しい。MAPも十分準備されていた、術中超音波検査も行い慎重であったが、思わぬ出血があったということですね。そして加藤医師の逮捕は遺憾であるとございますね。

証人: はい

検察1: そのとき医師記録はご覧になりましたか

証人: 学会の中でそういう話であったと思うのですが、

検察1: このときの意見書の1枚目に、カルテを見るのが不可能と書かれていますが、事故調査報告書と関係者の聞き取りで、このような意見書を書いたということでしたが

証人: そうだと思います

検察1: 関係者とは誰でしたか

証人: 学会理事会で問題になり、福島県立医大の佐藤教授の話を聞いたということです

検察1: 直接加藤被告の話を聞いたということではないのですか

証人: 直接加藤医師からは聞いていません

検察1: 証人の鑑定前に直接、加藤医師から話を聞いたことがありますか

証人: 私は直接聞いていません

検察1: 本件で加藤医師が起訴されたことで、起訴前のものとは別に、起訴後には証人は宮城県の産婦人科医会と連名で声明を出されましたか

証人: はい

検察1: 内容は覚えていますか

証人: 覚えてないです

検察1: 平成18年4月5日付ですか

証人: 日付は忘れましたが、連名で声明を出しました

検察1: 証人は団体の長として出されたとなっていますが、文面作成には証人が関わったのですか

証人: 長部会、理事会、医会の中でどなたの起草かは記憶にないのですが、起草は私ではないですが、内容を見て、皆で出しました

検察1: 証人は内容は見ましたか

証人: はい

検察1: 声明では、被告が「できるかぎりの」、「必死で」、と書いています。証人もそう考えたのですか

証人: 聞く範囲でそう思っています

検察1: それから証人は弁護士から依頼を受け、鑑定を引き受けて、本日に至るわけですね

証人: はい

検察1: 以上です

裁判長: 終わりですね。では、再主尋問、どうぞ

【弁護側 再主尋問】

弁護2: 弁護士の安福から質問します。先ほど検察官からいくつか

裁判長: マイクをお使いください

弁護2: 先生が経験された帝王切開術の場合、子宮の表面を見て癒着胎盤とわかった事例について、確認ですが、それは前壁癒着のケースですか

証人: そうです

弁護2: その際、子宮を摘出されたということですが、帝王切開されましたか

証人: はい

弁護2: 娩出されたのですか

証人: はい

弁護2: 胎盤は切っておられますか

証人: それは古典的帝王切開でした

弁護2: 本件において、先生の経験にからめてお答えだった内容で、前置胎盤?の時に、子宮表面の血管の怒張はよくあるとのことですが、子宮の下の方で良くあるとのことですね。これは何故なのか、医学的機序としてはいかがですか

証人: 機序というより推測ですが、妊娠子宮は児を育むために血流が豊富になっています。胎盤に対してより血流が豊富で、胎盤付着部以外にも血管が豊富です。前置胎盤?の時は頚部に胎盤付着が見えるので、血管が豊富に見えます

弁護2: 超音波のプローブをあてたところは、動脈ですか

証人: プローブをなすって消えるなら、静脈です

弁護2: それは癒着胎盤を示すものではないということですね

証人: 全く違います

弁護2: 産科DICは、2,3万の出血をきたすものですね。それが救命できるとしたら出血を阻止したから、というには、出血の量が多いと思いますがいかがですか

検察2: 意義あり、反対尋問で出ていません

弁護2: では撤回します。何聞こうとしたか、とんじゃいましたが・・・癒着胎盤について、術前の診断で穿通胎盤はわかるが、それ以外は難しいということでしたね。MRI検査について念のためおききしますが、母体の呼吸で見えにくいとのことですが、子宮後壁は児も動き母体も動くと、それを止めるには処置をするかどうかについて、いかがですか

証人: 難しいです。母体も呼吸止められないし、赤ちゃんを止める操作をすることもありますが、母の呼吸は止まらないので、画像が劣化するので判断が難しい

弁護2: なんか処置をするときにはどういう処置をするのですか

証人: 赤ちゃんに筋弛緩剤を投与することもあります

弁護2: その場合にはリスクもあるのですね

証人: そうですが、診断のために必要ならやむを得ないときです

弁護2: それでは、超音波検査で十分診断をされていた本件で、MRIはいらないなということになるかと私は思いますが、先生のお考えはいかがですか

証人: 私も超音波検査で十分でMRIは不要だったと思います

弁護2: あえてリスクをおかす必要はないと

証人: そうです

弁護2: 前提となる資料として、クーパーの位置と量とありましたが、先生の認識では問題ないということでしたが、はがすことができれば問題ない、術者の問題だということですか、用手でなければクーパーということですか、どちらですか

証人: 普通は用手剥離です。しかしできなくてクーパーを使ったということなら、後者です。

検察2: そういうやり方があったというご発言がありましたが、クーパーで剥がすのも良い方法ということではないですか

証人: 私自身は使ったことがないので、そういう使い方もあるというふうに思っています

【検察側再反対尋問】

検察2: 主旨の確認をしたいのですが、用手剥離を続けるかクーパーか、先生としては用手剥離が先ということですね。用手剥離が先というのはどういうことですか

証人: 根拠はない・・当然用手が第一です。主旨が良くわからないのでもう一回お願いします

検察2: 用手剥離が先ということは、どういうことですか

証人: クーパーが最初ということはありえません

検察2: なぜ、あり得ないのですか

証人: クーパーだと、胎盤と子宮の間にはさみこむのができないからです。わかりますか? 手を入れるときに、手は曲がるの。でもクーパーは曲がらない

検察2: 用手剥離の継続を試みるのですか、胎盤をはがしにくくなったときには、ということですか

証人: はがしにくくなった時には、出血を早くとめるため、剥離のためにクーパーを使うのはあるという判断です

検察1: クーパーを使う使わないのとき、婦人科手術でクーパーを使うと言われましたが、何と何を剥離するのですか

証人: リンパ節郭清、血管と組織との間を郭清する時、組織と組織の間を剥離するとき

検察1: 組織と組織の間とは具体的にはどこですか

証人: 血管と血管の間にはやわらかい組織があります

検察1: 膜状に癒着しているという表現がありましたが、

証人: そうです、膜状のときにはある程度切らないといけないので

検察1: 組織と組織の間に浸潤するときが、そうですか

証人: がんが組織に浸潤するとき、とかいうときですか

検察1: 証人が言う、剥がす組織とはどのような組織なのかについてですが

証人: 剥がさなければならないものについては、クーパーをそのように使います

弁護3: 膜状のときには、はさみで切り込みを入れて、使うのですか

証人: それはケースバイケースです。上から鈍的におしても剥離できないときには、切り込みをいれることもあります

裁判長: ではこれで終了です。えー、被告人質問ですが時間どれくらいですか

弁護1: 15分です

裁判長: 検察は?

検察1: 15分です

裁判長: 続けてやりますか? よろしいですか。はい

(15:50)

裁判長: それでは、被告人質問を続けてください。被告人は前の席について。それでは質問、どうぞ。

弁護3: 弁護士の平岡からです。今日は再主質問ですが、先生が逮捕拘留されている間、複数の弁護人が接見しましたね

加藤医師: はい

弁護3: 自分で質問するのも恥ずかしいことだが、当初、弁護人の医学知識は十分でしたか

加藤医師: 言いにくいですが、十分ではありませんでした。今は違いますが。

弁護3: では弁護士に先生の意見を伝えるとき、医のイロハから説明する必要があったということですか

加藤医師: はい

弁護3: 弁護人に事件内容を説明するのに時間がかかったのではありませんか

加藤医師: はい

弁護3: 弁護人は接見の時に本件の入院カルテなどは既に見ていましたか

加藤医師: いいえ、見ていませんでした

弁護3: では、弁護人に一から説明する必要があったと

加藤医師: はい

弁護3: 複数の弁護人がいましたが、それぞれに同じ説明を繰り返し、最初から説明する必要があったのですか

加藤医師: すべて一から全部というわけではないが、重要な部分は繰り返し説明したつもりです

弁護3: 弁護人に専門的な事項を伝える十分な時間がありましたか

加藤医師: 十分な時間はありませんでした

弁護3: 先生が取調官に話した内容は弁護人に伝えたのですか

加藤医師: 少しだけです

弁護3: 取調官に説明しても取り合ってもらえなかったことは弁護人に説明しましたか

加藤医師: 時間も無かったし、取調べの時おかしいと思っても、いずれ分かってもらえるだろうと思い話していませんでした。こんな重要な問題になるとは思いませんでした。

弁護3: 乙3号証の末に手書きで訂正されているという指摘があるが、他に訂正を申し立てたことはありますか

加藤医師: あります。用語の誤りに対して訂正を求めたことがありました

弁護3: 34通の調書がありましたが、訂正の申し立てをしたのは、乙3号証だけですか?

証人: そうです

弁護3: だが、実際には訂正をして欲しいところが乙3号証の中でもありましたね

加藤医師: あります。クーパーを使い始めたいきさつについて、訂正していただきたかったです

弁護3: 「指が入る本数が3本、2本、1本、と少なくなった…」というところですか

加藤医師: はい

弁護3: 実際にそういう状況だったのですか

加藤医師: いいえ、そういう状況はありませんでした

弁護3: 用手剥離は手刀のように手を使って剥離する

加藤医師: はい

弁護3: 指を患者さんの足の方向に向かってつっこんでいくようにですか

加藤医師: 手刀のように、小指の側面、指先が刃先として考えると、なでるような形で胎盤と子宮の間に差し込むのですが、それが、差し込むという感じではないのです

弁護3: 子宮と胎盤の接点を、小指の側面と指先でなでる、すべらせる

加藤医師: そうです。ただ、どうしても剥離するときに、患者さんが後前だったので、右端と左端は指が全体的には入らないが、2本の指で手刀のようにはがしたことはありました

弁護3: このような説明は、検察官にしましたか

加藤医師: いいえ

弁護3: 先生は、取り調べ当時、S先生との会話について覚えていましたか

加藤医師: 覚えていませんでした

弁護3: 覚えていないと取調官に話しましたか?

加藤医師: 話しました

弁護3: 覚えていないということを調書にとってもらえましたか

加藤医師: 何回も言いましたが、とっていただいたことはありませんでした。

弁護3: S先生との会話は、3月7日でしたね

証人: はい

弁護4: カネカワから伺います。指が3本、2本、と入りづらくなった、というのは、先生がもともとそう供述して、調書にとられたのですか

加藤医師: 違います

弁護4:どういう経緯で調書に取られたのですか

加藤医師:クーパーを使ったことについて何度も、用手的にはがせなくなったからクーパーを使ったんだろうと言われ、何度も違うと言っても、全然納得していただけなくて、「例えば『指が3本、2本と入らなくなって、1本も入らなくなったのでクーパーを使った』とでも言えと言うのですか」と言ったら、それが具体的で良い、と警察官にメモを取られてしまいました。検察官とも同じような話で、警察官と検察官で話をしていたので、もう取り消すこともできないのかと、ひきさがってしまいました。

弁護4: 胎盤がはがれにくくなったからクーパーを使った、ということを先生の言葉で言え、と言われ、先生は指がはいらなくなったと言えば良いのか、と話した、ということですか

加藤医師: はい

弁護4: 現実には、小指側の手のひらと指を手刀のように使うということだと、指1本分の幅ですよね

加藤医師: はい

弁護4: 手刀のようにして剥離するということは、指の本数とはがれにくいということは関係ないのではないですか

加藤医師: 関係ありませんし、3本、2本、なんてやっていないものはやっていないので、「3本、2本と言って失敗したなと

弁護4: 一種の作り話ですか

加藤医師: そうなります弁護4: どうして作り話が調書になったのですか

加藤医師: 検察官が何日にもわたり、同じ事を聞き、こちらとしては例えばの話として言ったまでのことを、警察官に具体的で良いとメモを取られてしまった

弁護4: 午前の取調べで取られた警察官のメモが、同じ日午後の取調べをした検察官に渡っていたのですか

加藤医師: それは分かりませんが、いつも警察官が検察官と話していると言っていたので、情報が行き来していると感じていたので、そうなんだろうと思いました

弁護4: そのように考えて、検察官にも先生が自分から「3本、2本、1本…」と話したのですか

加藤医師: はい。そうです

弁護4: 先生が自分からそう話したので、訂正しづらかったと伺ってよいですか

加藤医師:はい、そうです

弁護4: その時の状況と違うと思っていますか

加藤医師: 思います

【検察側尋問】

検察1: 弁護人が面会にきて、本件の説明をしたということですよね。その中で何度も来た先生もいるでしょう。

加藤医師: 何回か

検察1: その先生には事情の説明は済んでいるんじゃないの

加藤医師: ・・・

検察1: 別に事件の話で、医学的な話ばかりしてたわけじゃないですよね

加藤医師: いえ、医学的な話ばかりをしていました

検察1: あなたは逮捕初めてでしょ。刑事手続きとか、弁護士と相談したんじゃないんですか

加藤医師: 真実を話しなさいと言われましたが

検察1: あったことはあったこと、事実を話してくださいと

加藤医師: はい

検察1: 言いたくないことは、調書に判を押さなくても良いとか、そういう助言はなかったんですか

加藤医師: 1回くらい聞いたような

検察1: 毎回はなかったですか

加藤医師: なかったです

検察1: 午前中の取調べで警察官にメモを取られたことが大きかったと言うけれど、でもこの時点ではまだ調書になっていないですよね

加藤医師: はい

検察1: 撤回すればよかったんじゃないですか

加藤医師: 検察と警察はツーカーというか、話がいっていると思いこんでいたので、取り消すことを思いつかなかったです

検察1: メモを取られたことが効いた、ショックだったということですか

加藤医師: はい

検察1: 今後どうしようかと不安になりましたか

加藤医師: どうしようか、とは

検察1: 今後どのように取調べを受けるか、心配はなかったか、ということです

加藤医師: 心配でした

検察1:  記録によるとですね、10時51分から57分間、富岡署で取り調べがありました。このメモにとられたというのは午前中の取り調べということですよね。

加藤医師: はい

検察1: 記録によると、その日、午後5時50分からいわき支部で検事の取り調べを受けています。刑事と検事の間に5時間もあるんですよ。 富岡署からいわき支部への移動に1時間かかったとしても、他に何をしていたのですか。ご記憶ですか

加藤医師: 記憶にありません

検察1: そうですか。記録によると、M弁護士と接見しています。 5時間もあいていて、移動1時間あったとしてもですね。接見した記憶はありますか

加藤医師: その日か覚えていません

検察1: 弁護人に相談しましたか

加藤医師: していません

検察1: 何故でメモにとられて不安だったと弁護人に話さなかったのですか

加藤医師: こういうものなのか、という諦めがありました

検察1: 弁護人を信用できなかったってことじゃないでしょ

加藤医師: そうではないです

検察1: 不本意な調書と言いますが、逮捕拘留されて、長時間の取り調べで、頭がぼーっとして何が真実かわからない、臨月の奥さんや患者さんが心配、訂正を申し入れると取調官が不機嫌になって聞いてくれない、こういうことで不本意な調書になったと言うのですね

加藤医師: はい

検察1: 逮捕される前、平成17年4月20日、富岡署で取り調べを受けたでしょ

加藤医師: はい

検察1: 調書も作成されたの、覚えていますか

加藤医師: はい

検察1: 手術前のエコー検査について、どういう話をしたか覚えていますか

加藤医師: 覚えていません

検察1: 癒着胎盤について考えたが、MRIは実施しなかった、と言ったのではないですか

加藤医師: そう記録に書いてあるなら、話したのかもしれません

検察1: 術中超音波検査や切開線の決定理由についてはどういう話をしましたか

加藤医師: 覚えていません

検察1: 胎盤が前壁にかかっているのでU字型に切開を入れたと言ったのではないですか

加藤医師: 書いてあるならそう話したのだと思います

検察1: 胎盤剥離中の状況については

加藤医師: 覚えていません

検察1: がっちり癒着していて剥離できそうもなく、剥離困難になったことを助手に話したら助手のM先生も「そうですね」と言った、と話したのではないですか

加藤医師: 書いてあるのなら話したかもしれませんが、記憶ないです

検察1: この調書は逮捕前に作成されたものですよね。そういった事情は無いはずだが、なぜこういう調書ができあがったんですか

加藤医師: 手術後から、なぜ後壁に付着があったんだろうと不思議で、病理結果を見たり事故調査委員会に出たりするうちに、自分が責任を取らなくちゃならないのかなという考えがあり、悪いほうに全部気持ちが傾いて、話す内容も真実でない部分がかなりありました。

検察1: 事情はともあれ結果的には自分から話したんですよね

加藤医師: 自分からです

【弁護側再々主尋問】

弁護3: 2点あります。客観的事実として聞きたい。小指を横を、横に滑らせるということだが、それは「3本、2本、1本…」という行為とは矛盾しますね。あなたがどう言ったかではない、客観的な事実を知りたいんです。用手剥離とは子宮と胎盤の間に手を入れて、下に向かって力をこめるのか、横に向かってスライドさせるのか。縦に入れるのか、横に入れるのか、

加藤医師: 横です。

弁護3: 「3、2、1」だと縦だという印象だが、横のイメージですか、縦のイメージですか。何のたとえで「3、2、1」ですか

加藤医師: 警察の方が、癒着ではがれなくなったので、クーパーを使った

弁護3: クーパーが細かったからだろう、と差し込む感じですね。「3、2、1」は差し込むイメージですね、それで、3、2、1と言ったのですね。

加藤医師: はい

弁護3: でも実際は、差し込むのではない、すべらせるのですね

加藤医師: はい

弁護3: 細いとか、入るとか入らないとか、関係ないですね。調書は客観的事実に反していますね

加藤医師:はい

弁護3: 富岡署で、後壁付着なんだと思っていたと言うがいつ知ったのですか。病理の結果を見たからですか、それとも手術中に分かったのですか

加藤医師: 手術の直後です。手術の最初からではないです

弁護3: 警察署で、あなたに過失があると言われましたか

加藤医師: いわれたと思います

弁護3: 事故調査委員会に呼ばれましたね

加藤医師: はい

弁護3: そこで過失を認めろと言われましたか

加藤医師: 認めろ、というように具体的ではありませんでしたが、ご家族、ご遺族の補償のために、受け入れてくれという話はありました

弁護3: 誰からですか

加藤医師: 大野病院の事務長です

弁護3: 認めてくれと言われたんですね

加藤医師: はい

弁護3: 県から処分を受けましたね

加藤医師: はい

弁護3: その日付は覚えていないですか。

加藤医師: はい

弁護3: 報告書が出た直後でしたか

加藤医師: 後だったと思います

弁護3: 取り調べの前でしたか

加藤医師: 覚えてないです

弁護3: 責任をとれ、と、周りから言われ、患者さんを失ったという自責の念でいっぱいだったのではないですか。終わります。

弁護4: 先ほど検察官が引用された、富岡警察署の調書は、何月何日のものですか

検察1: 4月20日です、平成17年。今、証拠請求中のものです

裁判長: 逮捕の前でしょ。では、終わります。事実間整理は16:30から始めます。次回公判は11月30日、午前10時ですね