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2025年東京都立青山高等学校実習_等電点電気泳動
今回は3種類の蛍光タンパク質を用いた実験となっています。
ちなみにアミノ酸の表記法として1文字表記、3文字表記がありますが、タンパク質の場合3文字表記ですとえらい長くなってしまうので、通常1文字表記で記載します。
GFP(EGFP)配列(https://www.fpbase.org/protein/egfp/):
MVSKGEELFT GVVPILVELD GDVNGHKFSV SGEGEGDATY GKLTLKFICT TGKLPVPWPT LVTTLTYGVQ CFSRYPDHMK QHDFFKSAMP EGYVQERTIF FKDDGNYKTR AEVKFEGDTL VNRIELKGID FKEDGNILGH KLEYNYNSHN VYIMADKQKN GIKVNFKIRH NIEDGSVQLA DHYQQNTPIG DGPVLLPDNH YLSTQSALSK DPNEKRDHMV LLEFVTAAGI TLGMDELYK
CFP(tagCFP)配列(https://www.fpbase.org/protein/tagcfp/):
MSGGEELFAG IVPVLIELDG DVHGHKFSVR GEGEGDADYG KLEIKFICTT GKLPVPWPTL VTTLAWGIQC FARYPEHMKM NDFFKSAMPE GYIQERTIHF QDDGKYKTRG EVKFEGDTLV NRVELKGEGF KEDGNILGHK LEYSAISDNV YIMPDKANNG LEANFKIRHN IEGGGVQLAD HYQTNVPLGD GPVLIPINHY LSCQSAISKD RNEARDHMVL LESFSAYCHT HGMDELYR
DsRed配列(https://www.fpbase.org/protein/dsred/):
MRSSKNVIKE FMRFKVRMEG TVNGHEFEIE GEGEGRPYEG HNTVKLKVTK GGPLPFAWDI LSPQFQYGSK VYVKHPADIP DYKKLSFPEG FKWERVMNFE DGGVVTVTQD SSLQDGCFIY KVKFIGVNFP SDGPVMQKKT MGWEASTERL YPRDGVLKGE IHKALKLKDG GHYLVEFKSI YMAKKPVQLP GYYYVDSKLD ITSHNEDYTI VEQYERTEGR HHLFL
タンパク質の理論的な等電点(pI)を求める
各アミノ酸配列をExpasy ProtParamに放り込むと計算してくれます。
- 検索窓の所にそれぞれアミノ酸配列をコピペ
- “Compute parameters”のボタンを押す
- 結果の画面の“Theoretical pI”を記録する
- 次のタンパク質について計算したいときは、「戻る」をして“reset”すればOK
この理論上のpI値、泳動バッファーのpH(今回はTAEバッファーと呼ばれるDNA電気泳動で良く使うバッファーを使用:pHは8.3)から、それぞれのタンパク質がどの様に流れるかを予想できるはず。
【観察ポイント】
☞それら理論値が実験結果がどの様に反映しているか?を観察する
☞それぞれの蛍光タンパク質を95℃・5分で熱変性にかけたわけであるが、それぞれのタンパク質で蛍光は観察されるか?蛍光タンパク質によって差があるとすれば何が考えられるのか?
☞未変性・変性によって泳動結果に違いが出たとしたら、何故未変性・変性によって異なるのだろう?
タンパク質の等電点はどうやって求めている?
【アミノ酸の等電点】
先ず、アミノ酸の等電点についておさえておきたいと思います。
アミノ酸における等電点では、例えばアラニンであれば主鎖のカルボキシ基とアミノ基の電荷の状態を考えればOKです。
pHが酸性側であればプロトン(H⁺)が沢山あるので(NH₃⁺, COOH)という状態になります。
次にpHを上げていくと(NH₃⁺, COO⁻)、更にアルカリ側になると(NH₂, COO⁻)と電荷状態が変化していきます。
(NH₃⁺, COOH)⇔(NH₃⁺, COO⁻)⇔(NH₂, COO⁻)
という2ステップの電離平衡において、1ステップ目はカルボキシ基の電離についてなのでカルボキシ基のpKa、つまりpH 3.55で起こると予想できます。同様にして、2ステップ目はアミノ基の電離ですので、pH 7.50で起こると予想できます。
ここから等電点、つまり(NH₃⁺, COO⁻)の状態となるpHを求めるには、1ステップ目と2ステップ目のpKaの相加平均を取ればOKです。
アラニンにおけるカルボキシ基、アミノ基のpKaはデータからそれぞれ2.35, 9.87とできるので:
pI = (2.35+9.87)/2 = 6.11
が理論的な等電点と計算できます。
【タンパク質の等電点】
タンパク質についてもアミノ酸の時と同様に、「タンパク質全体として電荷がゼロになるpH」を求めるという作業を行います。
タンパク質を構成するアミノ酸のpKa値については文献によっても違うのですが、ここでは国際的によく用いられている値(B. Bjellqvist, et al. (1993))で議論を進めます。
- α-COO⁻: 3.55
- α-NH₃⁺: 7.50
- Asp: 3.90, Glu: 4.07
- His: 6.04
- Cys: 8.14, Tyr: 10.10
- Lys: 10.54, Arg: 12.48
例えば、グリシンーグルタミン酸ーリジン(3文字表記ではGly-Glu-Lys, 1文字表記ではGEL)というトリペプチドの場合、電離するのは:
- 主鎖・N末端(グリシン)のアミノ基
- グルタミン酸の側鎖のカルボキシ基
- リジンの側鎖のアミノ基
- 主鎖・C末端(リジン)のカルボキシ基
であり、議論しやすいようにpKaの順番に並べ替えると:
- 主鎖・C末端(リジン)のカルボキシ基 3.55
- グルタミン酸の側鎖のカルボキシ基 4.07
- 主鎖・N末端(グリシン)のアミノ基 7.50
- リジンの側鎖のアミノ基 10.54
となります。このとき、それぞれの官能基1, 2, 3, 4の電荷状態を(1, 2, 3, 4)=(++++)という風に書くと、酸性側からアルカリ側へ:
(++++)⇔(-+++)⇔(--++)⇔(---+)⇔(----)
と電荷が変化し、全体的な電荷としてはそれぞれ足し算をして:
+4⇔+2⇔0⇔-2⇔-4
となることが分かります。
このとき、電気的に中和しているのは(–++)の状態ですので、その両脇の⇔におけるpKaの相加平均を取ればOKです。
(-+++)⇔(–++)のpKaは「グルタミン酸の側鎖のカルボキシ基」で4.07
(–++)⇔(—+)のpKaは「主鎖・N末端(グリシン)のアミノ基」で7.50
したがって、pI = (4.07 + 7.50)/2 = 5.785と計算できます。
GFPの様な実際のタンパク質においても上でペプチドで行った議論を拡張すれば良く、「タンパク質全体として電荷がゼロになるpH」、もう少し正確にいうと「電荷がゼロになる両脇のpKaの相加平均」を見付けにいけば良い、ということになります。
ただ、タンパク質ほど大きくなると、この例の様に手計算で「電荷がゼロになるpH」を探しにいくのは大変なので、上で紹介したExpasyの様に計算プログラムに放り込むのが研究現場的に実用的、ということになります。