今回は3種類の蛍光タンパク質を用いた実験となっています。
ちなみにアミノ酸の表記法として1文字表記、3文字表記がありますが、タンパク質の場合3文字表記ですとえらい長くなってしまうので、通常1文字表記で記載します。
GFP(EGFP)配列(https://www.fpbase.org/protein/egfp/):
MVSKGEELFT GVVPILVELD GDVNGHKFSV SGEGEGDATY GKLTLKFICT TGKLPVPWPT LVTTLTYGVQ CFSRYPDHMK QHDFFKSAMP EGYVQERTIF FKDDGNYKTR AEVKFEGDTL VNRIELKGID FKEDGNILGH KLEYNYNSHN VYIMADKQKN GIKVNFKIRH NIEDGSVQLA DHYQQNTPIG DGPVLLPDNH YLSTQSALSK DPNEKRDHMV LLEFVTAAGI TLGMDELYK
CFP(tagCFP)配列(https://www.fpbase.org/protein/tagcfp/):
MSGGEELFAG IVPVLIELDG DVHGHKFSVR GEGEGDADYG KLEIKFICTT GKLPVPWPTL VTTLAWGIQC FARYPEHMKM NDFFKSAMPE GYIQERTIHF QDDGKYKTRG EVKFEGDTLV NRVELKGEGF KEDGNILGHK LEYSAISDNV YIMPDKANNG LEANFKIRHN IEGGGVQLAD HYQTNVPLGD GPVLIPINHY LSCQSAISKD RNEARDHMVL LESFSAYCHT HGMDELYR
DsRed配列(https://www.fpbase.org/protein/dsred/):
MRSSKNVIKE FMRFKVRMEG TVNGHEFEIE GEGEGRPYEG HNTVKLKVTK GGPLPFAWDI LSPQFQYGSK VYVKHPADIP DYKKLSFPEG FKWERVMNFE DGGVVTVTQD SSLQDGCFIY KVKFIGVNFP SDGPVMQKKT MGWEASTERL YPRDGVLKGE IHKALKLKDG GHYLVEFKSI YMAKKPVQLP GYYYVDSKLD ITSHNEDYTI VEQYERTEGR HHLFL
各アミノ酸配列をExpasy ProtParamに放り込むと計算してくれます。
この理論上のpI値、泳動バッファーのpH(今回はTAEバッファーと呼ばれるDNA電気泳動で良く使うバッファーを使用:pHは8.3)から、それぞれのタンパク質がどの様に流れるかを予想できるはず。
【観察ポイント】
☞それら理論値が実験結果がどの様に反映しているか?を観察する
☞それぞれの蛍光タンパク質を95℃・5分で熱変性にかけたわけであるが、それぞれのタンパク質で蛍光は観察されるか?蛍光タンパク質によって差があるとすれば何が考えられるのか?
☞未変性・変性によって泳動結果に違いが出たとしたら、何故未変性・変性によって異なるのだろう?
先ず、アミノ酸の等電点についておさえておきたいと思います。
アミノ酸における等電点では、例えばアラニンであれば主鎖のカルボキシ基とアミノ基の電荷の状態を考えればOKです。
pHが酸性側であればプロトン(H⁺)が沢山あるので(NH₃⁺, COOH)という状態になります。
次にpHを上げていくと(NH₃⁺, COO⁻)、更にアルカリ側になると(NH₂, COO⁻)と電荷状態が変化していきます。
(NH₃⁺, COOH)⇔(NH₃⁺, COO⁻)⇔(NH₂, COO⁻)
という2ステップの電離平衡において、1ステップ目はカルボキシ基の電離についてなのでカルボキシ基のpKa、つまりpH 3.55で起こると予想できます。同様にして、2ステップ目はアミノ基の電離ですので、pH 7.50で起こると予想できます。
ここから等電点、つまり(NH₃⁺, COO⁻)の状態となるpHを求めるには、1ステップ目と2ステップ目のpKaの相加平均を取ればOKです。
アラニンにおけるカルボキシ基、アミノ基のpKaはデータからそれぞれ2.35, 9.87とできるので:
pI = (2.35+9.87)/2 = 6.11
が理論的な等電点と計算できます。
タンパク質についてもアミノ酸の時と同様に、「タンパク質全体として電荷がゼロになるpH」を求めるという作業を行います。
タンパク質を構成するアミノ酸のpKa値については文献によっても違うのですが、ここでは国際的によく用いられている値(B. Bjellqvist, et al. (1993))で議論を進めます。
例えば、グリシンーグルタミン酸ーリジン(3文字表記ではGly-Glu-Lys, 1文字表記ではGEL)というトリペプチドの場合、電離するのは:
であり、議論しやすいようにpKaの順番に並べ替えると:
となります。このとき、それぞれの官能基1, 2, 3, 4の電荷状態を(1, 2, 3, 4)=(++++)という風に書くと、酸性側からアルカリ側へ:
(++++)⇔(-+++)⇔(--++)⇔(---+)⇔(----)
と電荷が変化し、全体的な電荷としてはそれぞれ足し算をして:
+4⇔+2⇔0⇔-2⇔-4
となることが分かります。
このとき、電気的に中和しているのは(–++)の状態ですので、その両脇の⇔におけるpKaの相加平均を取ればOKです。
(-+++)⇔(–++)のpKaは「グルタミン酸の側鎖のカルボキシ基」で4.07
(–++)⇔(—+)のpKaは「主鎖・N末端(グリシン)のアミノ基」で7.50
したがって、pI = (4.07 + 7.50)/2 = 5.785と計算できます。
GFPの様な実際のタンパク質においても上でペプチドで行った議論を拡張すれば良く、「タンパク質全体として電荷がゼロになるpH」、もう少し正確にいうと「電荷がゼロになる両脇のpKaの相加平均」を見付けにいけば良い、ということになります。
ただ、タンパク質ほど大きくなると、この例の様に手計算で「電荷がゼロになるpH」を探しにいくのは大変なので、上で紹介したExpasyの様に計算プログラムに放り込むのが研究現場的に実用的、ということになります。
以下、大学教員=出題者的な観点を述べます。
pIの計算問題は、生物で出そうとするとリード文が長くなりすぎるので、化学で出題されると思います。
化学で出題するにしても、現課程ではpKaがカリキュラム内になく「発展学習」としての扱いになっているので、「教科書に記載されていない事項は出題しない」という入試の大前提からすると、pKaについてのリード文があっての出題になるはずです。
しかし、2次試験レベルではpKaは頻出と思いますし、理解も難しい箇所ですので、是非おさえておきたい所と思います。
因みに、それぞれのpKaについては値は与えられますので、覚える必要はありません。
ただ計算や考え方の流れについては、恐らく一度経験しておかないと太刀打ちできないとは思いますので、今回の実習をキッカケとしてpKaや等電点に対する考え方・解き方をマスターして頂ければと思っています。