今年度、正則高校では初めてPCR実習を行わせて頂きます。どうぞ宜しくお願い申し上げます。
今回は「PCRを経験してみる」ことを目的に、身の回りのものから「バクテリア」をPCRで検出するということを行いたいと思います。
☞キーワード:PCR、プライマー、アガロース電気泳動、DNAバーコード
(1)どの様なものがDNA(または微生物など)を含んでいそうか、班のメンバーとディスカッションしよう
皆さんが今回選んで頂いた試料にはDNAが含まれていると思います。その中で、今回はバクテリアを検出するためのPCRを仕掛けるわけですが、他の班も含めて、どの様な結果になりそうか予想すると共に、結果はどうであったか?考察してみて下さい。
(2)一般的に、なぜPCRにかける前にDNAの精製が必要なのか?考えてみよう
PCRはDNAポリメラーゼと呼ばれる酵素による酵素反応ですので、酵素反応を阻害する物質が試料中に入っていたりすると、検出すべきDNAが存在するにも関わらず、PCRで検出できない、という結果になってしまいます(「偽陰性」)。その様に、本来得られるべき結果が実権手技によって得られなくなることを、現場的にはアーティファクトとか呼びます。
では、DNAポリメラーゼによる酵素反応を邪魔するものの代表格は何でしょうか?DNAを切ったり貼ったりする酵素として、教科書や資料集にDNAポリメラーゼ以外にも制限酵素やリガーゼなど出てくると思いますが、DNAを切ったり貼ったりする酵素は一般的にマグネシウムイオンを必要とするというのは知っておいて良いと思います。したがって、マグネシウムイオンを奪ってしまうもの、例えばキレート作用のある物質が混入しているとPCRは上手くいきません。キレート作用のあるもの、化学的にはクエン酸やEDTAなどのキレート剤がありますが、他に土壌に含まれるポリフェノール類(ざっくり表現すると土が黒~茶色い原因)もマグネシウムを奪います。こうしたキレート作用のある物質をDNA精製によって取り除くことによって、アーティファクトによる偽陰性を防ぐことができます。
(3)酵素反応液を調製する際は、一般的に氷冷することが多いがそれはなぜか?PCR反応液調製においては室温で行ったが、なぜ室温でも良いのか?
教科書にタンパク質の失活という言葉があると思いますが、一般的に酵素を扱う際には、失活を防ぐために酵素は必ず氷冷します。
また酵素を入れた酵素反応液を氷冷しておくのも、反応を進めさせないためです。バイオ分野で用いる酵素の最適温度は37℃程度のものが多いですが、氷冷しておけば最適温度(至適温度)から離れますので、実質的に反応が進まないという状態を作ることができます。一般的に酵素反応液は複数本仕掛けると思いますので、反応液仕掛けている間に先に仕掛けた反応液で酵素反応が進んでしまっては「ヨーイドン」が出来ず、正確な計測が出来なくなるといった不都合なケースも考えられます。したがって、通常は酵素反応液も氷冷(4℃)で調製します。
(※試薬は「調整」ではなく「調製」と書きます。因みに英語は“prepare”“preparation”です。)
では、今回のPCRでは何で室温で調製して良いか?というと、(2)で出てきたDNAポリメラーゼの最適温度が72℃と高温だからです。したがって、室温(20℃くらい)はDNAポリメラーゼにとってかなりの低温であり、実質的に反応が進まないと考えて良いから、となります。ただし、DNAポリメラーゼも構造的に強い酵素とはいえ「失活」は目に見えない現象で、最悪アーティファクトに繋がりますので、酵素は4℃で氷冷して使用して下さい。
(4)PCRを30サイクル行うことで、目的DNAは何倍に増幅されるだろうか?
PCRは倍々になりますので、2×2×…を30回、要するに230倍が正解です。
↓(5)以降は最初から答えを提示しても良くないと思ったので、実習終了後に解説を提示します。
(5)アガロースゲル電気泳動+ミドリグリーンによる染色では、10 ng程度が検出限界である。逆算すれば、サンプルDNAの中にどの位の目的DNAがあれば検出できるか、計算してみよう。
(6)ゲルの向きを逆にしてしまうとどうなるか?DNAのアガロース電気泳動の原理を考えながら考えてみよう。
(7)予想しなかった位置にバンドが観察されることが多くあるが、このようなバンド(DNA産物)はなぜ増幅されたのだろうか?
手技について動画にまとめていますので、良かったら参考にして下さい。