みなさま、本日は改めてどうぞ宜しくお願い致します。 私は押鐘浩之と申しまして、大学教員をしている者です。 音楽の桑野先生のご紹介から、今年度で青山高校で実施するのが3年目となります。
++++講師プロフィール| 都立日比谷高校、京都大学、東京大学大学院、東京工業大学大学院を経て博士(理学)取得後、 英国Medical Research Council分子生物学研究所研究員およびケンブリッジ大学Research Associateとして研鑽を積み、帰国後、帝京大学医学部助教、同医療技術学部臨床検査学科講師を経て、現在大阪大学大学院薬学研究科特任准教授。
専門は生化学、特にタンパク質の物性や構造・機能。 最近では考古学や文化財に対する分子生物学の応用など、専門以外の研究も積極的に行っている。
【ひとこと】 今回は、高校時代のオーケストラで同期だった桑野先生のご紹介で この様な素晴らしい機会を持つことができました。有難うございます。 高校の友達は、かけがいのない一生モノであると私は感じています。 皆さんにおかれましても、是非いまいる友達を大切にして頂ければと願っております。 ++++
今年度は2種類の実験を行います。 ①PCR⇒アガロースゲル電気泳動 ②無菌操作
①PCRは、皆さんが持ってきた身の回りのものを鋳型としてPCRで生物種を検出するという実験をします(DNAバーコードと言われています)。1日目1時限目にPCRを仕掛けます。2日目にPCR増幅をアガロースゲル電気泳動で確認する予定です。 ②無菌操作は、先ず寒天培地にエタノール消毒前後の指をくっ付けて頂き、自分の指に付着しているバクテリア・カビを視覚的に検出してもらいます。次にGFPなど蛍光タンパク質(緑・黄・青・赤)を発現した大腸菌を使って各自「お絵かき」をして頂きます。2日目にそれぞれの結果を見てもらい、考察をしてもらいます。
PCRを用いてDNAに基づいた特定の生物種の検出ができるということ、および アガロース電気泳動を通じてDNAを可視化できる、ということを体験して頂ければと思っております。 近年、高校生物および大学受験生物において、分子生物学的内容が多くなってきています。 また2019年のCOVID-19のアウトブレイクにより、“PCR”という言葉を聞かない日がございません。 実際にDNAを扱った実験を実施することによって、 高校生物の内容の充実は勿論のこと、将来的にこの種の実験・研究にも興味を持って頂ければ嬉しいです。
PCRサンプルについては各班のチョイスにお任せします。 実習書には例ととして土壌、環境水、(発酵)食品、自分の細胞など書きましたが、 それ以外をチョイスしたい班がありましたら事前に先生にご相談下さい。 自分の細胞であれば実習中に頬の細胞をかきとるでOKですが、土壌、環境水、(発酵)食品であれば 事前に持ってくる必要があるかと思います。 容器としてはジップロックやチューブ類で構いませんので、 大体体積にして1 mL、重さは1 gもあれば充分ですので、大体そのくらいを目安に当日持ってきて下さい。
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皆さんには蛍光タンパク質を発現する大腸菌株を使ってお絵描きをして頂き、無菌操作を練習して頂きますが、 下記に大腸菌株から蛍光タンパク質を実際に得る・確認するについてプロトコールを例示することで、 どうやって遺伝子組換えタンパク質が作成できるかを補足説明させて頂ければと思います。
①大腸菌に蛍光タンパク質をコードしたプラスミドを導入(形質転換)し、コロニーを得る ②コロニーを液体培地に移し、誘導物質を添加することで蛍光タンパク質遺伝子の発現を誘導させる(図1)。
図1:蛍光タンパク質を発現させた大腸菌。UVを照射すると蛍光が観察できる。左よりGFP, YFP, CFP, DsRed。
③遠心分離機にかけ菌体を集め、菌体を緩衝液を含む生理食塩水で懸濁し超音波で破砕(細胞破砕方法も圧力を加える、グラスビーズで擦りつぶすなど色々ありますが、大腸菌は超音波で潰れます)することで、細胞懸濁液を得る。 ④細胞懸濁液を遠心分離機にかけ、上清を得る(図2・3)。
図2:可視光での観察:左よりGFP、YFP、CFP、DsRed
図3:UV光での観察:左よりGFP、YFP、CFP、DsRed
⑤タンパク質の電気泳動であるSDS-PAGE(図4)で蛍光タンパク質が存在することを確認する(図5)。
図4:SDS-PAGEの様子。SDS-PAGEとはタンパク質変性作用を有する界面活性剤であるSDS(ドデシル硫酸ナトリウム:Sodium Dodecyl Sulfate)をタンパク質溶液と混和することによって変性させることでタンパク質をヒモ状にし、ゲル電気泳動をするものである。PAGEはPolyacrylamide Gel Electrophoresis(ポリアクリルアミド電気泳動)の略で、アガロースに比べて分離能が高く電気泳動できるシステムであり、図の様に縦型の電気泳動槽を用いる。
図5:左がCBB染色という方法で染色した泳動像、右が泳動直後にUVで撮影した泳動像。なお“Boilアリ/ナシ”は電気泳動の前にタンパク質を95℃で煮たか/煮ていないかを示している。
【問題】大学受験問題としては以下の問題はかなり発展的内容であり、実際出るとしてももう少しリード文が必要とは思います。 ただ研究現場としては出しやすい問題です。解答を見ながらで構いません。なるほどと理解して頂ければ嬉しいです。 問1:大腸菌の細胞は超音波で破砕できると述べたが、カビなどは一般的に超音波での破砕は難しい。大腸菌(グラム陰性細菌)とカビの細胞構造の相違点を考えながら理由を述べよ。※グラム陽性・陰性とはグラム染色によって染色されるか・されないかを示しており、グラム陽性となるのは細胞壁の厚さと関係がある。 問2:大腸菌細胞を超音波で破砕後、遠心分離で上清と沈殿に分かれるが、沈殿にはどんな成分が含まれるかを考察せよ。 問3:SDS-PAGEでは泳動前にサンプルを煮たか煮ていないかで、煮た方は蛍光が観察できなかったのに対し、煮ていない方は蛍光が観察できたが、これは何故か?理由を述べよ。 問4:SDS-PAGEのCBB染色像ではサンプルを煮たか煮ていないかで泳動像が異なるのは何故か?理由を述べよ。
++++解答例| 問1:大腸菌もカビも細胞壁を有しているが、大腸菌はグラム陰性細菌であり細胞壁が薄いため、物理的に壊れやすい。それに対しカビは細胞壁が厚いために超音波では細胞は物理的に破壊されにくいため。 問2:沈殿成分は「緩衝液を含む生理食塩水に対して不溶性である」物質が含まれると考えられるので、例えば細胞膜や細胞壁、また膜タンパク質成分が含まれると考えられる。逆に上清は「緩衝液を含む生理食塩水に対して可溶性である」物質が含まれると考えられるので、細胞質に存在するタンパク質(目的の強制発現させた蛍光タンパク質も含む)などを含むものと考えられる。 問3:☞「熱変性」に気付くかがポイント。サンプルを煮ると蛍光タンパク質の熱変性が起きると考えられるため、蛍光を示すのに必要な3次構造が崩れることによって蛍光を示さなくなると考えられる。一方、煮ていない群では蛍光を示しているので蛍光を示すのに必要な3次構造が泳動後においても保たれていたと考えられる。SDSというタンパク質変性作用のある界面活性剤を泳動バッファーおよびゲルに含むため一般的にはタンパク質は変性するが、今回使用した蛍光タンパク質の場合はSDSによっても変性を受けなかったと考えられる。 問4:☞問3同様「熱変性」がヒント。サンプルを煮た場合は原理的に蛍光タンパク質は変性し「ヒモ状」になっていると考えられ、予想される位置まで泳動したものと考えられるのに対し、煮ていない場合は蛍光を示していることから蛍光タンパク質は変性しておらず球状を保っていると考えられることから、タンパク質の表面の電荷(換言すればそれぞれのタンパク質の等電点)に従ってゲル内を移動したと考えられるため。 ++++
皆様、かなりボリューミーな実習でしたがお付き合い頂き有難うございました。 愉しんで頂けたとの声を聞けて、嬉しく思っております。 PCRについての考察をもう少し1人1人丁寧に行いたかったのですが、時間の関係上申し訳ございませんでした。 上手くいかなかったものとして(期待した)バンドが得られなかったパターンが多かったと思いますが、考察としては可能性あるあたりを下に列挙したいと思います。
したがって、トラブルシューティングとしては、上記全ての理由のアイノコとなる丁度良い鋳型量を条件検討する必要があったのか?というのが次の実験として考えられると私は考えましたが如何でしょうか。 結果をお互い交換し考察することで、PCRに対する理解が深まるかと期待しております。
あと、実習書に載せてあった問題について解説を下記に列挙しておきます(それぞれの問題文をクリックすると解説が出ます)。
【PCR】 ++++☞発展学習1:どういった物質がPCRの「阻害物質」となり得るか、PCRの反応原理から考えてみよう(化学の知識が必要となります)| PCRはDNAポリメラーゼによる伸長反応を基礎としているため、DNAポリメラーゼの機能を阻害するものは阻害剤となり得る。実習書にも記載したが、DNAを切ったり貼ったりする酵素には必ずMg2+が必要であるため、Mg2+を取ってしまう物質、具体的にはキレート作用を有する物質は一般的にPCR阻害剤となり得る。 一般的に血液と土壌はPCR阻害剤だらけと知っておいても良いかもしれません。特に血液がPCR阻害剤となる理由は、生物学の融合的な知識が必要となるので、一通り理解をしておくと良いかもしれません。 血液を採血する際には、一般的に採血菅やシリンジにキレート剤(クエン酸やヘパリン)などを塗布しておきます。血液凝固の所を思い出して頂ければと思いますが、血液凝固にはCa2+が必要である、というのがポイントです。キレート剤によってCa2+を封じておけば凝固を阻害できる=採血ができる、という仕組みになっています。したがって、採血によって採られた血液にはキレート剤が含んでいます。…ということは、PCRに必要なMg2+もキレートしてしまうことになるので、よって結果的にPCRを阻害してしまう、という流れになります。 一方、土壌の方は別に入試のために知っている必要は余りないかと思いますが、土壌に含まれるポリフェノール類(フミン酸やフルボ酸と呼ばれる物質)にキレート作用があるため、これはこれでMg2+を奪ってしまうことで、結果的にPCRを阻害してしまいます。 その他、勿論のことながらDNAポリメラーゼは熱耐性があるとは云えタンパク質ですので、尿素などタンパク質を変性し得る物質(タンパク質変性剤)がサンプル内に混入していたら、活性を失うと考えられます。 ++++ ++++☞発展学習2:DNAを切ったり貼ったりする反応ではマグネシウムが必要は研究現場で役に立つ知識なので覚えておいて損はないです。⇒DNAを切ったり貼ったりする反応として、PCRの他に思い付くものを挙げてみよう。| 生物の教科書的には他に、制限酵素やリガーゼなどが出てきたと思います。いずれもMg2+を必要とします。 ++++ ++++☞学習ポイント1:酵素反応において酵素を最後に入れるのが鉄則なのは何故か?| 酵素の失活を防ぐためです。酵素の失活の原因として熱、pH(あとマニアックですが重金属というのもありますが)がありますが、あと研究現場的には塩(えん)というのもあります。例えば単なる純水に酵素を入れてしまったら、pHを安定化してくれる緩衝剤もありませんのでpHがグルグル変わってしまう可能性もある、また塩が少なすぎると凝集してしまう酵素も多くあります。 したがって、酵素にとってhappyな条件を揃えておいて、最後に酵素を入れるというのが酵素反応を仕掛ける際の鉄則になっています。 ++++ ++++☞学習ポイント2:酵素反応液を調製する際は一般的に氷冷することが多いがそれは何故か?PCR反応液調製においては室温で仕掛けたが、何故室温でも良いのか?| 学習ポイント1で考察した「失活」や、あと「最適温度」がキーワードとなります。一般的に、反応液の調製中に酵素の失活を防ぎたい、また反応開始時間を揃えたい(氷に挿した状態=4℃であれば最適温度から離れているため、殆ど反応が進んでいないとみなすことができる)などの理由で、氷に反応液を入れるチューブを挿しながら反応液を調製することが一般的です。 ただ、PCR反応液の調製においては、DNAポリメラーゼは皆さんご存知の様に耐熱性…つまり最適温度が72℃と高温ですので、室温はこのDNAポリメラーゼにとってはかなりの低温となっている、ということです。したがって、室温では先ずDNAポリメラーゼによる伸長反応がほぼ起きないとみなすことができる。だから、室温でポイポイ仕掛けても構わない、ということになります。もちろん氷に挿しながら行って頂いても別に構いません。 ++++ ++++☞学習ポイント3:生物の教科書に出てくるATPやGTPはDNAか?RNAか?| あれ?という質問でしたが、エネルギーの通貨であるATP、またGタンパク質で出てくるGTP、これらはRNAが正解です。一方、PCRによる伸長反応の際に「素材」となるATP、TTP、CTP、GTPは勿論DNAですが、dATP、dTTP、dCTP、dGTPと“d”をアタマにつけることによって、「DNAだよ」(RNAじゃないよ)ということを表すのが一般的です。 ++++ ++++☞学習ポイント4:チトクロムやRuBisCOはどの代謝経路で必要な分子か、確認しておこう。| チトクロムは呼吸鎖(電子伝達系)、RuBisCOは光合成における暗反応(カルビン・ベンソン回路)で出てくると思いますので、資料集など見て復習して頂ければと思います。ちなみにRuBisCOは炭酸固定においてキーとなる酵素であり、大サブユニットは葉緑体DNA由来、小サブユニットは核DNA由来であり、葉緑体内で複合体を形成することでRuBisCOとして機能する様になります。 ++++ ++++☞発展学習3:動物や植物のプライマーの標的遺伝子としてミトコンドリアや葉緑体DNAとしているのは何故だろう?| DNAは生物であれば普遍的に保有してしまっており、例えば30塩基からなるプライマーを用意したとして完全に配列が合致する確率は理屈としては1/430ではあるが、それでも例えばヒトのDNAの塩基数は数十億であるがどこかで合致してしまう確率もある。また微生物などによるコンタミも考えると、オルガネラのDNA配列をターゲットにした方がより特異性が増すことが予想がつく。動物ではミトコンドリア一択であるが、植物ではミトコンドリアに加えて葉緑体も持っているだめ、葉緑体をターゲットにした方がリーズナブルと考えられる。 ++++ ++++☞発展学習4:カビやバクテリアにおいてはrRNAをターゲットとしているが、何故rRNAをターゲットとするとDNAバーコードによる生物種同定に好都合なのだろう?| これはちょっと難しいですが、DNAの分子進化という話になります。進化におけるDNAの変異率というのは遺伝子によって異なります。「選択圧」という言葉がキーワードになりますが、生存に必須な配列であれば変異が許されていない(選択圧が高い)、そこまで必須でない配列であれば変異が許される(選択圧が低い)という風に解釈できます。rRNAはご存知のようにリボソームを構成するRNAであり、翻訳反応において重要な配列となりますので進化速度は遅い(選択圧が高い)ことが特徴です。そこから、例えばバクテリアであればバクテリアで共通する配列部位を見出すことができ、そのDNA領域をプライマーとして設計しPCRをすれば、(PCR産物の内側の配列が分からないにしても)外側は既知配列としてプライマーで引っかけていますので増幅・検知ができる、という流れてなっています。 ++++ ++++☞発展学習5:今回のDNAバーコードによるPCR産物を基に、次世代シーケンス法によって例えば”菌叢解析”(メタバーコーディング)といった分析法が可能である。興味があったら調べてみて欲しい。| 上記発展学習4の続きとなりますが、DNAバーコードではその対象生物群での保存配列をプライマーとしてPCRをしていますが、その内側の配列は生物種によってまちまちです。今回皆さんが電気泳動で確認したバンドも、実は色んな生物種の配列の「混ぜ物」を可視化しているということになります。このバンドの1つ1つの配列を読んだとしたら、どの生物がどの位の割合で混ざっていたか?を知ることができます。この「1つ1つDNA配列を読む」という技術が次世代シーケンス法によって近年可能になってきており、医学・生物学だけではなく生態学などでも多く応用されつつあります。例えば、最近では腸内細菌の割合がメディアなどでも良くピックアップされていますが、これは糞便からDNAを抽出し、本実習と同様にバクテリアrRNAに特異的なプライマーでPCRをし、次世代シーケンスによって「1つ1つDNA配列を読む」というのを数千回行い、その数千回を分母とした内、ある生物種の配列が何回ヒットするか?によって、腸内細菌の割合が出るということを行っています。 ++++
【アガロースゲル電気泳動】 ++++☞学習ポイント1:アガロースゲル濃度を上げるor下げるとどの様な泳動像になるか?| これは良く問われる問題と思います。ゲル濃度を上げるということは網目が細かくなる⇒大きいDNAがゲルに引っ掛かり易くなる⇒小さいDNAの分離が良くなる、という流れになります。逆にゲル濃度を下げると同様にして、大きいDNAの分離が良くなる、ということになります。ゲルを作成する際は、どのくらいの大きさのDNAをターゲットとするか?によって決めればよく、試薬メーカーさんが大体この様な表を提供してくれているので、これを目安にして作る感じです。ちなみに本実習のアガロース濃度は1%でした。https://catalog.takara-bio.co.jp/product/basic_info.php?unitid=U100003517 ++++ ++++☞学習ポイント2:ゲル電気泳動の原理を資料集などでもう一度おさらいしておこう。「電荷」や「pKa・等電点」といった用語を使って説明できるとベター。| 授業中に電荷(+/-)とpKa・等電点、泳動バッファーのpHの関係について図にしてお話したかと思います。生物の電気泳動の原理としても大切ですが、化学でもアミノ酸の電気泳動など出てきますので、概念としては難しいところですがおさえておいて欲しいところです。特にアミノ酸(およびタンパク質)の場合はpKaの組み合わせとなる等電点という概念が出てきますので、等電点(pI, isoelectric point)と泳動バッファーのpHとの関係については整理して学習して欲しいと思います。 下記にアスパラギン酸の等電点についての例題と解説とを貼り付けておきますので、参照にして頂ければと思います。
<WRAP center round box 100%> 【問題】アスパラギン酸における pKa の個数と pI を推定せよ。 アミノ酸のpKaの個数=アミノ基・カルボキシル基+(若しあれば)側鎖の電離基、は丸覚えでも構わないと思います。これを使うと、アスパラギン酸はアミノ基が1つとカルボキシル基が2つ(主鎖と側鎖に1つずつ)あるので、pKaが3つあるということになります。
丸覚えをしなくても、以下の様にカッコを使って説明できます。 アスパラギン酸における電離基は、主鎖のアミノ基とカルボキシル基、側鎖のカルボキシル基の3つであり、それぞれの官能基の電荷の状態を:(アミノ基、カルボキシル基1、カルボキシル基2)と書くことにします(※カルボキシル基1・2は、主鎖のカルボキシル基のpKa = 1.99、側鎖のカルボキシル基のpKa = 3.90ですので、pKaを問題文に与えてくれていればカルボキシル基1が主鎖、カルボキシル基2が側鎖と分かりますが、pKaが問題文に与えてくれていなくても「カルボキシル基1・2は主鎖・側鎖どちらでも良い」として、下記の様に議論を進めることができます)。すると、pHの変化によって以下の様に整理することができると思います。
(←酸性)(+,0,0)⇆(+,-,0)⇆(+,-,-)⇆(0,-,-)(塩基性→)
または、それぞれの官能基の電荷の状態で表すと: (←酸性)(-NH3+, -COOH, -COOH) ⇆ (-NH3+, -COO-, -COOH) ⇆ (-NH3+, -COO-, -COO-) ⇆ (-NH2, -COO-, -COO-) (塩基性→)
この3つの両矢印(⇆)のところに平衡が成立するので、pKaが3つあるということになります(左からpKa1, pka2, pKa3とします)。 そこで、電気的に中性になるのは(+,-,0)の時(+ 1 - 1 + 0 = 0)ですので、pKa1とpKa2の間に等電点があることが分かります。 カルボン酸のpKaですから、もちろん酸性側にあるはずです。したがって、「pIは酸性側にある」ということが分かります。
ちなみに具体的な数値としては、pIは電気的中性である状態の両側のpKaの相加平均で表されるので、数式では:
pI = (pKa1 +pKa2)/2
と表すことができます。アスパラギン酸のpKa1, pKa2はそれぞれ1.99(主鎖)と3.90(側鎖)ですから、これの相加平均を取って2.945≒2.95が等電点である、ということが分かります。
アスパラギン酸の電気泳動において、例えば中性pH 7.0を泳動バッファーの条件とすると、アスパラギン酸の等電点は上記の様に2.95ですのでpH 7.0では負にチャージしているため、+の方向に流れる、ということが予想できます。 </WRAP> ++++ ++++☞学習ポイント3:今回使っているdyeには他にOrange G(橙色)、キシレンシアノール(水色)という色素が入っているが、電気泳動をしていると青色・水色・橙色のバンドが分かれることが分かる。ここからそれぞれの色素の電荷について考察して欲しい。| これは授業でも触れた通り。等電点・pKaで説明できるはずです。 ++++ ++++☞発展学習1:サイズマーカーと自分のサンプルのバンドの太さを比較することで、大体のDNA量を見積もることができる。ここから、鋳型は何g入っていたと考えられるか?| 入試では中々出ないかもしれませんが、現場的には知っておいて良いDNAの見積もり法ですので、「へぇ~」くらいに思って頂ければと思います。計算問題としては出されるかもしれませんが。 ++++ ++++☞発展学習2:予想されないバンドが観察されることが多くあるが、この様なバンド(DNA産物)は何故増幅されたのだろうか?| 要するに擬陽性の問題です。1つの原因は、プライマーの配列と似た配列が鋳型DNAに確率論的に存在してしまい、間違ったターゲットのものが増幅されるというものがあります。もう1つ良くあるのはプライマーダイマーといって、プライマー同士が結合して伸長反応してしまうというものがあります。プライマーダイマーの場合は電気泳動のパターンとして倍々になっていることが特徴です。 これら擬陽性を避けるためには幾つかテクニックがありますが、プライマーの特異度を上げる、PCRにおけるTm(アニールの部分)を条件検討する、反応液のマグネシウム濃度を上げる、プライマーの量を減らす、などが一般的かと思います。 ++++
【菌体操作】 ++++☞学習ポイント1:培地を寒天で固体状にするというアイディアは誰が考えたものであるか?寒天培地を使うメリットは何か?| 授業でも触れましたが、ロベルト=コッホが考案しました。これによって混ぜ物であった菌液から、ある菌をコロニーとして物理的に単離できることがポイントです。科学においては「分析」という言葉が示すように「分ける」という技術は非常に大切で、「分ける」ことによって「分かる」様になるということは知っておいて良いかと思います。 ++++ ++++☞考察ポイント1:プレートをフタを下にして逆さにするのは何故だろう?若しフタを上にしてしまうとどんなことが起こるか?| これも授業で触れましたが、寒天プレート上がビチャビチャになってしまうからです。フタを上にしてしまうと寒天由来の水蒸気がフタで結露し、それが自重で寒天の方に流れてしまうことで寒天表面がビチャビチャになり、コロニーが洪水状態となりくっついたり流れたりしてしまいます。 ++++ ++++☞考察ポイント2:エタノールの消毒作用は広く知られているが、その原理は?| エタノールはタンパク質変性作用の他に水を奪う性質があるからです。したがって、微生物のタンパク質を変性し破壊ながら、内部の水を奪ってしまう⇒消毒効果、という流れになります。ただ興味深いことに、100%エタノール(本当は100%エタノールというのは空気中の水蒸気によってどうしても水が溶けこんでしまうため存在せず、市販品も例えば95%などとして売られています)では消毒作用がかえって低くなることも知られており、一般に70%前後が消毒作用が高いことが知られています。 ++++ ++++☞学習ポイント2:オペロン説を復習しながら、今回の実験によって何故各種蛍光タンパク質を発現できるのか?について説明してみよう。| 今回はIPTGという物質が誘導物質としてlacオペロンに作用することによって、下流にある各蛍光タンパク質遺伝子をONにしている、という流れです。 ++++ ++++☞考察ポイント3:カナマイシンをプレートに播くのを忘れた場合、実験結果はどうなるだろう?| カナマイシンは今回の実験では、各蛍光タンパク質遺伝子をコードしたプラスミドの選択マーカーとなっています。カナマイシン入りの培地でコロニーが生えるということは、このプラスミドを持っていることを保証し、そこに誘導物質が存在するから上記の様にオペロン説に従って蛍光タンパク質が発現する、という流れになります。ただ興味深いことに、問いの様に選択マーカーとなる抗生物質を入れ忘れた場合、プラスミドが放棄されてしまうことが知られています。その辺の詳細なメカニズムについては恐らく良く分かってない、という回答でOKとは思うのですが(済みません、私も微生物学が専門じゃないもので…)、この問いに答えるのであれば、選択マーカーがないのでプラスミドを放棄してしまうので、結果として蛍光が観察されない(されにくくなる)、が正解になります。 ちなみに本題に関連して、医学的にはMRSAやVREなど耐性菌が問題となっていますが、病院の様に抗生物質という選択圧がかかった状況ではプラスミド性の耐性遺伝子を保持しようとします。昨今では抗生物質は使わない様にする(=選択圧を低くすればプラスミドを放棄するので)という流れになってきましたが、この様に菌の方も自らの生存戦略においてしたたかである、というのも興味深い所かと思います。 ++++ ++++☞発展学習:「蛍光」と「発光」は化学的にメカニズムが異なります。蛍光・発光の原理について理解しながら、生物における蛍光タンパク質、発光タンパク質にはどの様な例があるか?また研究においてどの様に使われているか?を調べてみよう。| 蛍光は短い波長の光(=高エネルギー側:励起波長)で叩いて、長い波長の光(=低エネルギー側:蛍光波長)が観測されることを云います。例えばGFPであれば488 nmで叩くと、509 nmの光が観測される、という流れです。 それに対して発光は単純にその波長の光が観測されることを意味しています(例えばルシフェラーゼの様にATPの化学エネルギーが光エネルギーとなっている)。 ++++
その他、本実習のことや研究のこと、海外で勉強するには?など質問がございましたら、気軽にメールを頂ければ幸いです。 メールアドレス⇒oshikane-h@phs.osaka-u.ac.jp(@は半角にして下さい)