押鐘研究室で行っている研究についてご紹介します。
パーキンソン病を初めとする神経変性疾患は、発症の根本メカニズムが未だ解明されておらず、特定疾患(難病)に指定されている。パーキンソン病では約1%が遺伝性であり、その遺伝的変異が見つかった遺伝子群からの研究がなされてきたものの、99%は孤発性、つまり遺伝子に原因を求めることが難しいこともあり、根本メカニズムの解明が難しい状況にある。パーキンソン病の病理学的所見としては、α-シヌクレインと呼ばれるタンパク質を主とするタンパク質の凝集体の形成(レビー小体)が見出されている。
私たちの研究室では、α-シヌクレインのタンパク質としての特徴的な物性を多角的に研究することによって、凝集体形成過程の分子メカニズムの更なる解明、ひいてはその知見からもたらされるであろう凝集体形成阻害因子の開発も視野に入れて研究を行っている。
【共同研究者】
・帝京大学医療技術学部臨床検査学科 西澤 和久先生
・理化学研究所横浜キャンパス 栃尾 尚哉先生
【助成金】
・2018年度 武田科学振興財団医学系研究助成
・2018年度 加藤記念バイオサイエンス振興財団研究助成
・2019年度 日本脳神経財団一般研究助成
生体分子の分析法の1種である質量分析法は近年、劇的は発展を遂げており、そこからもたらされる情報は非常に強力なものへとなっている。MALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)は、島津製作所の田中耕一博士(2002年ノーベル化学賞受賞)が開発したソフトイオン化法を基礎としており、分子量が1万を超える分子の質量を”そのまま”計測できる唯一の方法として現在も日々研究現場で使用されている。更に最近では、MALDI法は微生物の迅速同定にも応用されるなど、医療分野でのアプリケーションも充実してきている。 MALDI法では、先ずマトリックスと呼ばれる物質とタンパク質溶液とを混和し、マトリックスータンパク質の「混晶」をサンプルプレート上に形成させる。続いて、サンプルプレートを質量分析計に入れ、真空中でレーザーを当てることにより、マトリックスから”ソフト”にタンパク質をイオン化することによってタンパク質が計測器内を”飛ぶ”ことができる。その計測器内の一定距離をタンパク質がどれだけの飛行時間で到達したかを計測することにより、タンパク質の分子量が割り出せるという仕組みがTOF/MSである。つまりMALDIは(タンパク質の)イオン化法、TOF/MSは分子量の検出原理であり、これらを組み合わせてMALDI-TOF/MSと呼ぶ。MALDI-TOF/MSにおける測定成功の鍵は「良い」混晶の形成であることは一般的に知られてはいるものの、経験則の域を脱しえないのが現状である。 私たちは、特に現在の方法では”飛ばない”タンパク質種に着目し、MALDI-TOF/MSの改良法を考案したいと考えている。”飛ばなかった”ものを”飛ばす”技術は、タンパク質研究の現場だけではなく、医療技術の発展に対しても大きな貢献ができると期待している。
【助成金】
・2018年度 材料科学技術技術振興財団研究助成
【参考】
・Science Trendsでの紹介記事
文化財や考古資料に含まれている「何か」を分析することによって、当時の生活・文化をうかがい知ることが出来ます。ただ、文化財や考古資料においては「古い」や「コンタミ」がつきものであり、これに特化した分析手法の確立が必要となっています。本研究ではタンパク質の分析にとらわれず、広い分析手法の中からその資料にoptimiseされた分析手法を確立し、文化財修復や考古学の発展に寄与したいと考えています。
【共同研究者】 ・帝京大学文化財研究所 山内 和也先生 ・帝京大学文化財研究所 櫛原 功一先生 ・帝京大学文化財研究所 植月 学先生 ・帝京大学文化財研究所 藤澤 明先生 ・帝京大学文化財研究所 金井 拓人先生 ・帝京大学文化財研究所 赤司 千恵先生 などなど、大勢の先生方。
【助成金】
・2021年度科研費基盤研究S
・2021年度科研費挑戦的研究(萌芽)
在宅看護における食事管理は、訪問看護師が食事の前後を画像におさめ、その画像を管理栄養士が見て計算をすることによってされていると聞く。そこで、本研究ではその「手間」をできるだけ省力化できる技術の確立を目指している。
【助成金】
・2020年度 飯島藤十郎記念食品科学振興財団研究助成
在宅医療における医療デバイスに付着しうる微生物によって、感染症が次々と伝播する可能性もある。そこで医療デバイスに付着しうる微生物種の同定を行うと共に、その予防策についても考えていきたいと思っている。
【共同研究者】
・帝京大学医療技術学部看護学科 前田 直宏先生
・国際医療福祉大学 水戸部 優太先生
・帝京大学医学研究科 槇村 浩一先生
・帝京大学医学部微生物学講座 上田 たかね先生
寄生虫や病原微生物、特に各種薬剤に対する耐性を有する耐性株の検出技術や、また新しい薬剤の開発を目指しています。
【共同研究者】
・帝京大学医学研究科 槇村 浩一先生
・帝京大学医療技術学部救急救命コース 藤崎 竜一先生
・帝京大学医学部微生物学講座 上田 たかね先生
・帝京大学医真菌研究センター 山田 剛先生
・帝京大学療育環境下AMR真菌症管理研究講座 ムハンマド・マハディ先生
・帝京大学薬学部創薬化学教室 忍足 鉄太先生
【助成金】
特に高校と大学との学習の橋渡しを指す用語である「高大接続」をテーマに研究しています。高校での学習方法と大学での学習方法はあまりにも違うこと、また受験科目による到達度の違いなど、大学初年度の教育が抱える問題は多くあります。特に2020年度のCOVID-19のアウトブレイクによって、教育現場は旧来の方法の矛盾点がブラッシュアップされる形で、新しい教育スタイルへと脱却する必要が多く出てきました。もちろん最新の方法だけを取り入れれば良いというわけではなく、臨機応変にその学生集団に最適化された方法を毎年模索しなくてはなりません。それが教員としてのプロフェッショナリズムと考えています。が、ある程度の枠組み・ツールの構築は毎年最大公約数的に効果を有することも多くあります。現場の教員として最適化されたものを日々模索しながらも、良いツールや教育方法などを試行し、教育論文として執筆することで、世の中に是非を問うことができたらと思っています。
【共同研究者】
・甲斐 由理子先生