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transformation [2022/09/15 23:07] oshikanetransformation [2024/03/03 12:46] (現在) – 外部編集 127.0.0.1
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 =====高等学校における形質転換実験プロトコール===== =====高等学校における形質転換実験プロトコール=====
 +☞プロトコールのPDFは{{ :highschool:transformation_protocol.pdf |コチラ}}。
  
 ====無菌操作==== ====無菌操作====
行 65: 行 66:
 ====クローニングについて==== ====クローニングについて====
 今回使用しているのはライセンスの関係上pETUKという、選択マーカーがカナマイシンのベクターを使用しています。 今回使用しているのはライセンスの関係上pETUKという、選択マーカーがカナマイシンのベクターを使用しています。
-{{:highschool:petuk.png?200|}} +{{:highschool:petuk.png?400|}}\\ 
-資料集などにも出てくるマルチクローニングサイト周辺の配列は下のようになっています。+(☞[[https://jorgensen.biology.utah.edu/wayned/ape/|ApE]]を用いれば{{:highschool:petuk.ape|元のファイル}}で編集することができます。) 
 +資料集などにも出てくるマルチクローニングサイト周辺の配列({{:highschool:petuk_mcs.ape|元のファイル}})は下のようになっています。
  
 <WRAP center round box 80%> <WRAP center round box 80%>
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 __実際に行った実験操作__\\ __実際に行った実験操作__\\
-pETUKベクターを先ずNdeI(<fc #ff0000>CATATG</fc>)とKpnI(<fc #ff0000>GGTACC</fc>)という制限酵素で切断します。並行して、GFP遺伝子をforwardプライマーを"NdeI+GFPの5'の配列"、reverseプライマーを"KpnI+GFPの3'配列"でPCRし、NdeIとKpnIで切断した断片を作成しておきます。次にライゲーションによって、NdeI-KpnIで切断したベクターとNdeI-KpnIで切断したPCR断片とをつなぎ合わせます。すると、ベクターは次の様な配列になるはずです。こうして作成したベクターを皆さんにお渡ししています+pETUKベクターを先ずNdeI(<fc #ff0000>CATATG</fc>)とKpnI(<fc #ff0000>GGTACC</fc>)という制限酵素で切断します。並行して、GFP遺伝子をforwardプライマーを"NdeI+GFPの5'の配列"、reverseプライマーを"KpnI+GFPの3'配列"でPCRし、NdeIとKpnIで切断した断片を作成しておきます。次にライゲーションによって、NdeI-KpnIで切断したベクターとNdeI-KpnIで切断したPCR断片とをつなぎ合わせます(下図)
  
 +{{:highschool:cloning_gfp.png?500|}}\\
  
-<WRAP center round box 80%> +こうして、皆さんにお渡しする下図の様なプラスミドマップを持つプラスミド({{:highschool:petuk_gfp.ape|元のファイル}})を作成しています。 
-GATCCCGCGAAATTAATACGACTCACTATAGGGAGACCACAACGGTTTCCTCTAGAAAT+{{:highschool:petuk_gfp.png?400|}}
  
-AATTTTGTTTAACTTTAAG<fc #ffff00>AAGGAG</fc>ATATA<fc #ff0000>CAT**ATG**</fc><fc #008000>(GFP遺伝子の配列)</fc> 
- 
-<fc #ff0000>GGTACC</fc>GAGCTCGAATTCGATTTCGTCGACAAGCTTAGCGGCCGCCGTTTAATCC 
-</WRAP> 
  
 **【発展的内容:ribosomal binding site】** **【発展的内容:ribosomal binding site】**
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 この様に一括りに抗生物質といっても作用機序が異なります。昨今、耐性菌の出現が医療で問題となっていますが、1つは抗生物質に対する耐性菌は要するに抗生物質を分解できる酵素の遺伝子を何等かの形で獲得することによって起こります。 この様に一括りに抗生物質といっても作用機序が異なります。昨今、耐性菌の出現が医療で問題となっていますが、1つは抗生物質に対する耐性菌は要するに抗生物質を分解できる酵素の遺伝子を何等かの形で獲得することによって起こります。
-cf: https://amr.ncgm.go.jp/medics/2-1-1.html+cf: https://amr.ncgm.go.jp/medics/2-1-1.html\\ 
 抗生物質を分解する酵素の遺伝子を獲得した耐性菌は、分解酵素を自分の周辺に分泌することによって抗生物質の影響なく生育することができます。今回はプラスミドの形で耐性遺伝子を形質転換により導入することによって、耐性菌を作成しています。実験的には下記Hanahan法によってプラスミドを介して耐性を付与していますが、自然界でプラスミドなど外部からDNAを取り込んで耐性を獲得する様式を**水平伝播**と言います。また一度耐性を獲得すると、娘細胞にも当然受け継がれていきます。この様に代々受け継がれていくことは**垂直伝播**と呼ばれます。 抗生物質を分解する酵素の遺伝子を獲得した耐性菌は、分解酵素を自分の周辺に分泌することによって抗生物質の影響なく生育することができます。今回はプラスミドの形で耐性遺伝子を形質転換により導入することによって、耐性菌を作成しています。実験的には下記Hanahan法によってプラスミドを介して耐性を付与していますが、自然界でプラスミドなど外部からDNAを取り込んで耐性を獲得する様式を**水平伝播**と言います。また一度耐性を獲得すると、娘細胞にも当然受け継がれていきます。この様に代々受け継がれていくことは**垂直伝播**と呼ばれます。
  
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 **【発展的内容2:サテライトコロニー】** **【発展的内容2:サテライトコロニー】**
-上記の様に、形質転換によって薬剤耐性を獲得したクローンは、自分の周りに分解酵素を撒き散らしながら生育します。したがって、プラスミドをきちんと取り込んだコロニーの周囲は抗生物質が分解された状態になります。そうなると、プラスミドを取り込んでいないクローンが近くにいれば生育できてしまいます。この様にプラスミドを取り込んだコロニーの周りにプラスミドを取り込んでいないコロニーが「ごっつあん様」で生えてくることがあります。この「ごっつあん」コロニーを**サテライトコロニー**といいます。プラスミドを取り込んだ本命のコロニーは最初から生育するので大きめであるのに対し、サテライトコロニーは本命のコロニーが生育して分解酵素を撒き散らした後に初めて生育することが可能です。良く分子生物学の試験問題に「大きなコロニーの周囲に小さなコロニーが出現することがあるが、その理由を示せ」といった感じの出題されることがありますが、この様に本命コロニーが生育した後にサテライトが生育できる様になることから、そのタイムラグがコロニーの大きさとなって反映されるため、と解釈されます。 +上記の様に、形質転換によって薬剤耐性を獲得したクローンは、自分の周りに分解酵素を撒き散らしながら生育します。したがって、プラスミドをきちんと取り込んだコロニーの周囲は抗生物質が分解された状態になります。そうなると、プラスミドを取り込んでいないクローンが近くにいれば生育できてしまいます。この様にプラスミドを取り込んだコロニーの周りにプラスミドを取り込んでいないコロニーが「ごっつあん様」で生えてくることがあります。この「ごっつあん」コロニーを**サテライトコロニー**といいます。プラスミドを取り込んだ本命のコロニーは最初から生育するので大きめであるのに対し、サテライトコロニーは本命のコロニーが生育して分解酵素を撒き散らした後に初めて生育することが可能です。大学学部の分子生物学の試験問題(大学入試でも?)に「大きなコロニーの周囲に小さなコロニーが出現することがあるが、その理由を示せ」といった感じの出題されることがありますが、この様に本命コロニーが生育した後にサテライトが生育できる様になることから、そのタイムラグがコロニーの大きさとなって反映されるため、と解釈されます。 
-ちなみに、アンピシリンを選択マーカーで使う場合はスプレッド後37℃で寒天培養して20時間くらいサテライトが多く現れます。アンピシリンの作用機序は上にも示した様に細胞壁合成阻害ですが、アンピシリンによってバクテリアが死滅するわけではなく、新しく細胞壁を合成できないというだけなので、プラスミドを取り込んでいないクローンも実はプレート上で生きることは可能です。そこでアンピシリンが本命コロニーが分泌する分解酵素(β-ラクタマーゼ)によって分解されてしまえば、プラスミドを取り込んでいないクローンも再び細胞壁を合成できるようになり、細胞増殖することが可能になり、サテライトが多くできます。+ちなみに、アンピシリンを選択マーカーで使う場合はスプレッド後37℃で寒天培養して20時間くらい静置してしまうとサテライトが多く現れます。したがって、16時間くらいで引き上げるのが賢明です。アンピシリンの作用機序は上にも示した様に細胞壁合成阻害ですが、アンピシリンによってバクテリアが死滅するわけではなく、新しく細胞壁を合成できないというだけなので、プラスミドを取り込んでいないクローンも実はプレート上で生きることは可能です。そこでアンピシリンが本命コロニーが分泌する分解酵素(β-ラクタマーゼ)によって分解されてしまえば、プラスミドを取り込んでいないクローンも再び細胞壁を合成できるようになり、細胞増殖することが可能になり、サテライトが多くできます。
 対照的にカナマイシンの作用機序は翻訳阻害ですので、翻訳が阻害されればバクテリアは死滅します。したがって、「ごっつあん」する前にほぼほぼ死滅してしまうので、カナマイシンではサテライトが出現しにくい、という説明になります。 対照的にカナマイシンの作用機序は翻訳阻害ですので、翻訳が阻害されればバクテリアは死滅します。したがって、「ごっつあん」する前にほぼほぼ死滅してしまうので、カナマイシンではサテライトが出現しにくい、という説明になります。
 +
 +cf: https://www.researchgate.net/post/What_are_satellite_colonies_Why_do_they_grow_on_LB_amp_plates\\
 +英語ですが、サテライトが出て困っている人もworldwideで居らっしゃるみたいですね。写真も載っているので参考になるかと思ってリンクを載せておきました。
  
 **【発展的内容3:レスキューの意味】** **【発展的内容3:レスキューの意味】**
行 138: 行 141:
 **【発展的内容:微生物の同定について】** **【発展的内容:微生物の同定について】**
 今回使っているのはLB培地(Luria-Bertani medium)で、大腸菌が良く生育すると知られている組成でできています。しかし、他の微生物などもLB培地で生育することも可能です。この様に微生物なら広く生育できてしまう培地を**非選択培地**といいます。対照的に、ある種の微生物だけ生育できる培地というのも存在し、**選択培地**といいます。医療現場においては(古典的には)、これらの培地を使い分けしながら、またグラム染色など染色法や顕微鏡観察、生化学的な特徴判別を組み合わせながら微生物種の同定を行っています。また興味深いことに、非選択培地といっても全ての微生物種を生育できる様な培地成分または生育条件は知られていません。 今回使っているのはLB培地(Luria-Bertani medium)で、大腸菌が良く生育すると知られている組成でできています。しかし、他の微生物などもLB培地で生育することも可能です。この様に微生物なら広く生育できてしまう培地を**非選択培地**といいます。対照的に、ある種の微生物だけ生育できる培地というのも存在し、**選択培地**といいます。医療現場においては(古典的には)、これらの培地を使い分けしながら、またグラム染色など染色法や顕微鏡観察、生化学的な特徴判別を組み合わせながら微生物種の同定を行っています。また興味深いことに、非選択培地といっても全ての微生物種を生育できる様な培地成分または生育条件は知られていません。
-最近では、次世代シーケンス(NGS:Next Generation Sequencing)の台頭によって、微生物の網羅的な探索が出来るようになってきました。例えばバクテリアであれば16S rRNAというリボソームを構成するrRNAの遺伝子を必ず持っていますが、バクテリア種によって少しずつ配列が異なることも知られており、その配列はデータベースになっています。これを利用して、あるサンプル内に存在するバクテリアのポピュレーション(存在比率)がどの程度であるかを、片っ端から16S rRNA遺伝子を標的としたシーケンス反応を仕掛けることで知ることが出来ます。例えば16S rRNA遺伝子を標的としたシーケンス反応を1000回仕掛けて、300回がバクテリアA、250回がバクテリアB、150回がバクテリアCの配列、それ以外細々としたものが400回出たとします。その時、そのサンプル内の30%はバクテリアA、25%はバクテリアB、15%はバクテリアC、その他が40%と比率を求めることが出来ます。最近、例えば腸内フローラにおける細菌叢の研究が盛んになってきましたが、NGSを用いてこの様な解析が技術的に可能になってきたこともあり、促進されてきたと云えます。 +最近では、**次世代シーケンス**(NGS:Next Generation Sequencing)の台頭によって、微生物の網羅的な探索が出来るようになってきました。例えばバクテリアであれば16S rRNAというリボソームを構成するrRNAの遺伝子を必ず持っていますが、バクテリア種によって少しずつ配列が異なることも知られており、その配列はデータベースになっています。これを利用して、あるサンプル内に存在するバクテリアのポピュレーション(存在比率)がどの程度であるかを、片っ端から16S rRNA遺伝子を標的としたシーケンス反応を仕掛けることで知ることが出来ます。例えば16S rRNA遺伝子を標的としたシーケンス反応を1000回仕掛けて、300回がバクテリアA、250回がバクテリアB、150回がバクテリアCの配列、それ以外細々としたものが400回出たとします。その時、そのサンプル内の30%はバクテリアA、25%はバクテリアB、15%はバクテリアC、その他が40%と比率を求めることが出来ます。最近、例えば腸内フローラにおける細菌叢の研究が盛んになってきましたが、NGSを用いてこの様な解析が技術的に可能になってきたこともあり、促進されてきたと云えます。 
-また、微生物同定法においては、最近では質量分析(MALDI TOF/MS)による同定ができるようになってきました。化学の発展学習でMALDI TOF/MSが出てきたかもしれません。微生物同定において何を測定するかというと、菌が持っているタンパク質そのものであり、菌ごと質量分析用のプレートに乗せてマトリックスを塗り、質量分析してしまうという何とも雑な感じがしますが、非常に確度も良いこともあり、臨床現場にも取り入れられてきています。何故菌を飛ばして菌種が同定できるか?ですが、セントラルドグマに即して理解が出来ると思います。「同じ遺伝子であっても菌によって遺伝子配列(ATCG)が違う→それによって、アミノ酸配列も異なる→アミノ酸種によって分子量が異なる→アミノ酸の繋がりであるタンパク質レベルでも、菌種によって分子量が異なることになる」ということになり、菌を丸ごと飛ばした時に分子量のパターンも菌種によって異なるということが分かると思います。MALDI TOF/MSによる実験的な質量(分子量)パターンは、次に解析ソフト内にある各菌種の質量パターンとの照合を行い、菌種を同定します。この様に菌によって異なる分子量のパターンを一種の**指紋**として同定する、ということになります。+また、微生物同定法においては、最近では質量分析(**MALDI TOF/MS**)による同定ができるようになってきました。化学の発展学習でMALDI TOF/MSが出てきたかもしれません。微生物同定において何を測定するかというと、菌が持っているタンパク質そのものであり、菌ごと質量分析用のプレートに乗せてマトリックスを塗り、質量分析してしまうという何とも雑な感じがしますが、非常に確度も良いこともあり、臨床現場にも取り入れられてきています。何故菌を飛ばして菌種が同定できるか?ですが、セントラルドグマに即して理解が出来ると思います。「同じ遺伝子であっても菌によって遺伝子配列(ATCG)が違う→それによって、アミノ酸配列も異なる→アミノ酸種によって分子量が異なる→アミノ酸の繋がりであるタンパク質レベルでも、菌種によって分子量が異なることになる」ということになり、菌を丸ごと飛ばした時に分子量のパターンも菌種によって異なるということが分かると思います。MALDI TOF/MSによる実験的な質量(分子量)パターンは、次に解析ソフト内にある各菌種の質量パターンとの照合を行い、菌種を同定します。この様に菌によって異なる分子量のパターンを一種の**指紋**として同定する、ということになります。
 この様に、微生物学の分野でもコッホの時代から続く分離培養から、最先端のNGS法やMALDI TOF/MS法の出現など、多くの手法が今も開発されています。この様に生物学の発展がどれだけ物理や化学を基礎にしているかが良く分かると思います。 この様に、微生物学の分野でもコッホの時代から続く分離培養から、最先端のNGS法やMALDI TOF/MS法の出現など、多くの手法が今も開発されています。この様に生物学の発展がどれだけ物理や化学を基礎にしているかが良く分かると思います。
  
transformation.1663250854.txt.gz · 最終更新: 2024/03/03 12:46 (外部編集)