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 しかし、生物にとっては標準的なワトソン=クリック塩基対を形成できるコドンの方が翻訳に有利だったのでしょうか。遺伝子に用いられるコドンは、tRNAを有しているコドンに偏ることも知られています。この生物種によるコドンの偏りのことを、**codon usage**といいます。例えば[[https://www.kazusa.or.jp/codon/cgi-bin/showcodon.cgi?species=9606&aa=1&style=N|ヒト]]と[[https://www.kazusa.or.jp/codon/cgi-bin/showcodon.cgi?species=83333&aa=1&style=N|大腸菌]]を比較してみます。例えばUUU F 0.46であれば、UUUがコドン、Fがアミノ酸1文字表記でフェニルアラニンのこと、0.46がそのアミノ酸における頻度となっています。特にアルギニン(AGA, AGG)やイソロイシン(AUA)、ロイシン(CUA)のcodon usageの差が大きく、大腸菌ではこれらのコドン頻度が極端に少ない(rare codonといいます)ことが分かります。したがって、ヒトのタンパク質を大腸菌をホスト細胞にして発現させようとする時、このcodon usageの差が壁となることもあり、結果的に上手く発現してくれない、ということが多くあります。 しかし、生物にとっては標準的なワトソン=クリック塩基対を形成できるコドンの方が翻訳に有利だったのでしょうか。遺伝子に用いられるコドンは、tRNAを有しているコドンに偏ることも知られています。この生物種によるコドンの偏りのことを、**codon usage**といいます。例えば[[https://www.kazusa.or.jp/codon/cgi-bin/showcodon.cgi?species=9606&aa=1&style=N|ヒト]]と[[https://www.kazusa.or.jp/codon/cgi-bin/showcodon.cgi?species=83333&aa=1&style=N|大腸菌]]を比較してみます。例えばUUU F 0.46であれば、UUUがコドン、Fがアミノ酸1文字表記でフェニルアラニンのこと、0.46がそのアミノ酸における頻度となっています。特にアルギニン(AGA, AGG)やイソロイシン(AUA)、ロイシン(CUA)のcodon usageの差が大きく、大腸菌ではこれらのコドン頻度が極端に少ない(rare codonといいます)ことが分かります。したがって、ヒトのタンパク質を大腸菌をホスト細胞にして発現させようとする時、このcodon usageの差が壁となることもあり、結果的に上手く発現してくれない、ということが多くあります。
 バイオテクノロジーの話になりますが、この生物種間のcodon usage問題を解決するために、ホスト細胞にこれらrare codonに対応するtRNAを人為的に発現させておこう、という株が作成されています([[https://www.chem-agilent.com/contents.php?id=300608|codon plus]]とかいい、クロラムフェニコールという抗生物質を選択マーカーとしたプラスミドでこれらの遺伝子を導入してあります)。今回使用している[[https://www.merckmillipore.com/JP/ja/product/RosettaDE3-Competent-Cells-Novagen,EMD_BIO-70954|Rosetta(DE3)]]は、上記3種のrare codonに加えてプロリン(CCC)とグリシン(GGA)についてもtRNA遺伝子を導入している株であり、ヒトなど真核生物由来のタンパク質の発現に適した株となっています。 バイオテクノロジーの話になりますが、この生物種間のcodon usage問題を解決するために、ホスト細胞にこれらrare codonに対応するtRNAを人為的に発現させておこう、という株が作成されています([[https://www.chem-agilent.com/contents.php?id=300608|codon plus]]とかいい、クロラムフェニコールという抗生物質を選択マーカーとしたプラスミドでこれらの遺伝子を導入してあります)。今回使用している[[https://www.merckmillipore.com/JP/ja/product/RosettaDE3-Competent-Cells-Novagen,EMD_BIO-70954|Rosetta(DE3)]]は、上記3種のrare codonに加えてプロリン(CCC)とグリシン(GGA)についてもtRNA遺伝子を導入している株であり、ヒトなど真核生物由来のタンパク質の発現に適した株となっています。
-ついでに最近では、「最初っからコドンをホスト細胞のcodon usageにしてしまえ」という**codon optimisation**という手法が取られています。これは人工遺伝子合成といって、何千残基というDNA鎖でも人工的に作成できるようになってきたからであり、作成したいタンパク質のアミノ酸配列を基にして、そのホスト細胞のcodon usageに最適なコドン配列を繋げていくことで、そのタンパク質発現に最適なDNあ配列を得ることができます。この様に、人工的にタンパク質を作製するにも近年の技術革新によって支えられています。+ついでに最近では、「最初っからコドンをホスト細胞のcodon usageにしてしまえ」という**codon optimisation**という手法が取られています。これは人工遺伝子合成といって、何千残基というDNA鎖でも人工的に作成できるようになってきたからであり、作成したいタンパク質のアミノ酸配列を基にして、そのホスト細胞のcodon usageに最適なコドン配列を繋げていくことで、そのタンパク質発現に最適なDNA配列を得ることができます。この様に、人工的にタンパク質を作製するにも近年の技術革新によって支えられています。
  
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transformation.txt · 最終更新: 2025/09/05 02:17 by oshikane