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2023年度東京都立青山高等学校実習

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2023年度東京都立青山高等学校実習 [2023/11/29 18:36] oshikane2023年度東京都立青山高等学校実習 [2024/03/03 12:46] (現在) – 外部編集 127.0.0.1
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 結果をお互い交換し考察することで、PCRに対する理解が深まるかと期待しております。 結果をお互い交換し考察することで、PCRに対する理解が深まるかと期待しております。
  
-あと、実習書に載せてあった問題について解説を下記に列挙しておきます。+あと、実習書に載せてあった問題について解説を下記に列挙しておきます(それぞれの問題文をクリックすると解説が出ます)
  
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行 151: 行 151:
 チトクロムは呼吸鎖(電子伝達系)、RuBisCOは光合成における暗反応(カルビン・ベンソン回路)で出てくると思いますので、資料集など見て復習して頂ければと思います。ちなみにRuBisCOは炭酸固定においてキーとなる酵素であり、大サブユニットは葉緑体DNA由来、小サブユニットは核DNA由来であり、葉緑体内で複合体を形成することでRuBisCOとして機能する様になります。 チトクロムは呼吸鎖(電子伝達系)、RuBisCOは光合成における暗反応(カルビン・ベンソン回路)で出てくると思いますので、資料集など見て復習して頂ければと思います。ちなみにRuBisCOは炭酸固定においてキーとなる酵素であり、大サブユニットは葉緑体DNA由来、小サブユニットは核DNA由来であり、葉緑体内で複合体を形成することでRuBisCOとして機能する様になります。
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-(今日はここまで。申し訳ないです。また解説を書いておきます。) 
 ++++☞発展学習3:動物や植物のプライマーの標的遺伝子としてミトコンドリアや葉緑体DNAとしているのは何故だろう?| ++++☞発展学習3:動物や植物のプライマーの標的遺伝子としてミトコンドリアや葉緑体DNAとしているのは何故だろう?|
 +DNAは生物であれば普遍的に保有してしまっており、例えば30塩基からなるプライマーを用意したとして完全に配列が合致する確率は理屈としては1/4<sup>30</sup>ではあるが、それでも例えばヒトのDNAの塩基数は数十億であるがどこかで合致してしまう確率もある。また微生物などによるコンタミも考えると、オルガネラのDNA配列をターゲットにした方がより特異性が増すことが予想がつく。動物ではミトコンドリア一択であるが、植物ではミトコンドリアに加えて葉緑体も持っているだめ、葉緑体をターゲットにした方がリーズナブルと考えられる。
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 ++++☞発展学習4:カビやバクテリアにおいてはrRNAをターゲットとしているが、何故rRNAをターゲットとするとDNAバーコードによる生物種同定に好都合なのだろう?| ++++☞発展学習4:カビやバクテリアにおいてはrRNAをターゲットとしているが、何故rRNAをターゲットとするとDNAバーコードによる生物種同定に好都合なのだろう?|
 +これはちょっと難しいですが、DNAの分子進化という話になります。進化におけるDNAの変異率というのは遺伝子によって異なります。「選択圧」という言葉がキーワードになりますが、生存に必須な配列であれば変異が許されていない(選択圧が高い)、そこまで必須でない配列であれば変異が許される(選択圧が低い)という風に解釈できます。rRNAはご存知のようにリボソームを構成するRNAであり、翻訳反応において重要な配列となりますので進化速度は遅い(選択圧が高い)ことが特徴です。そこから、例えばバクテリアであればバクテリアで共通する配列部位を見出すことができ、そのDNA領域をプライマーとして設計しPCRをすれば、(PCR産物の内側の配列が分からないにしても)外側は既知配列としてプライマーで引っかけていますので増幅・検知ができる、という流れてなっています。
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-++++☞発展学習5:今回のDNAバーコードによるPCR産物を基に、次世代シーケンス法によって例えば”菌叢解析”(メタバーコーディング)といった分析法が可能である。興味があったら調べてみて欲しい。+++++☞発展学習5:今回のDNAバーコードによるPCR産物を基に、次世代シーケンス法によって例えば”菌叢解析”(メタバーコーディング)といった分析法が可能である。興味があったら調べてみて欲しい。| 
 +上記発展学習4の続きとなりますが、DNAバーコードではその対象生物群での保存配列をプライマーとしてPCRをしていますが、その内側の配列は生物種によってまちまちです。今回皆さんが電気泳動で確認したバンドも、実は色んな生物種の配列の「混ぜ物」を可視化しているということになります。このバンドの1つ1つの配列を読んだとしたら、どの生物がどの位の割合で混ざっていたか?を知ることができます。この「1つ1つDNA配列を読む」という技術が次世代シーケンス法によって近年可能になってきており、医学・生物学だけではなく生態学などでも多く応用されつつあります。例えば、最近では腸内細菌の割合がメディアなどでも良くピックアップされていますが、これは糞便からDNAを抽出し、本実習と同様にバクテリアrRNAに特異的なプライマーでPCRをし、次世代シーケンスによって「1つ1つDNA配列を読む」というのを数千回行い、その数千回を分母とした内、ある生物種の配列が何回ヒットするか?によって、腸内細菌の割合が出るということを行っています
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 【アガロースゲル電気泳動】 【アガロースゲル電気泳動】
 ++++☞学習ポイント1:アガロースゲル濃度を上げるor下げるとどの様な泳動像になるか?| ++++☞学習ポイント1:アガロースゲル濃度を上げるor下げるとどの様な泳動像になるか?|
 +これは良く問われる問題と思います。ゲル濃度を上げるということは網目が細かくなる⇒大きいDNAがゲルに引っ掛かり易くなる⇒小さいDNAの分離が良くなる、という流れになります。逆にゲル濃度を下げると同様にして、大きいDNAの分離が良くなる、ということになります。ゲルを作成する際は、どのくらいの大きさのDNAをターゲットとするか?によって決めればよく、試薬メーカーさんが大体この様な表を提供してくれているので、これを目安にして作る感じです。ちなみに本実習のアガロース濃度は1%でした。https://catalog.takara-bio.co.jp/product/basic_info.php?unitid=U100003517
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 ++++☞学習ポイント2:ゲル電気泳動の原理を資料集などでもう一度おさらいしておこう。「電荷」や「pKa・等電点」といった用語を使って説明できるとベター。| ++++☞学習ポイント2:ゲル電気泳動の原理を資料集などでもう一度おさらいしておこう。「電荷」や「pKa・等電点」といった用語を使って説明できるとベター。|
 +授業中に電荷(+/-)とpKa・等電点、泳動バッファーのpHの関係について図にしてお話したかと思います。生物の電気泳動の原理としても大切ですが、化学でもアミノ酸の電気泳動など出てきますので、概念としては難しいところですがおさえておいて欲しいところです。特にアミノ酸(およびタンパク質)の場合はpKaの組み合わせとなる等電点という概念が出てきますので、等電点(pI, isoelectric point)と泳動バッファーのpHとの関係については整理して学習して欲しいと思います。
 +下記にアスパラギン酸の等電点についての例題と解説とを貼り付けておきますので、参照にして頂ければと思います。
 +
 +<WRAP center round box 100%>
 +【問題】アスパラギン酸における pKa の個数と pI を推定せよ。
 +アミノ酸のpKaの個数=アミノ基・カルボキシル基+(若しあれば)側鎖の電離基、は丸覚えでも構わないと思います。これを使うと、アスパラギン酸はアミノ基が1つとカルボキシル基が2つ(主鎖と側鎖に1つずつ)あるので、**pKaが3つある**ということになります。
 +
 +丸覚えをしなくても、以下の様にカッコを使って説明できます。
 +アスパラギン酸における電離基は、主鎖のアミノ基とカルボキシル基、側鎖のカルボキシル基の3つであり、それぞれの官能基の電荷の状態を:(アミノ基、カルボキシル基1、カルボキシル基2)と書くことにします(※カルボキシル基1・2は、主鎖のカルボキシル基のpKa = 1.99、側鎖のカルボキシル基のpKa = 3.90ですので、pKaを問題文に与えてくれていればカルボキシル基1が主鎖、カルボキシル基2が側鎖と分かりますが、pKaが問題文に与えてくれていなくても「カルボキシル基1・2は主鎖・側鎖どちらでも良い」として、下記の様に議論を進めることができます)。すると、pHの変化によって以下の様に整理することができると思います。
 +
 +(←酸性)(+,0,0)⇆(+,-,0)⇆(+,-,-)⇆(0,-,-)(塩基性→)
 +
 +または、それぞれの官能基の電荷の状態で表すと:
 +(←酸性)(-NH<sub>3</sub><sup>+</sup>, -COOH, -COOH) ⇆ (-NH<sub>3</sub><sup>+</sup>, -COO<sup>-</sup>, -COOH) ⇆ (-NH<sub>3</sub><sup>+</sup>, -COO<sup>-</sup>, -COO<sup>-</sup>) ⇆ (-NH<sub>2</sub>, -COO<sup>-</sup>, -COO<sup>-</sup>) (塩基性→)
 +
 +この3つの両矢印(⇆)のところに平衡が成立するので、pKaが3つあるということになります(左からpKa1, pka2, pKa3とします)。
 +そこで、電気的に中性になるのは(+,-,0)の時(+ 1 - 1 + 0 = 0)ですので、pKa1とpKa2の間に等電点があることが分かります。
 +カルボン酸のpKaですから、もちろん酸性側にあるはずです。したがって、**「pIは酸性側にある」**ということが分かります。
 +
 +ちなみに具体的な数値としては、**pIは電気的中性である状態の両側のpKaの相加平均で表される**ので、数式では:
 +
 +pI = (pKa1 +pKa2)/2
 +
 +と表すことができます。アスパラギン酸のpKa1, pKa2はそれぞれ1.99(主鎖)と3.90(側鎖)ですから、これの相加平均を取って2.945≒**2.95が等電点**である、ということが分かります。
 +
 +アスパラギン酸の電気泳動において、例えば中性pH 7.0を泳動バッファーの条件とすると、アスパラギン酸の等電点は上記の様に2.95ですのでpH 7.0では負にチャージしているため、**+の方向に流れる**、ということが予想できます。
 +</WRAP>
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 ++++☞学習ポイント3:今回使っているdyeには他にOrange G(橙色)、キシレンシアノール(水色)という色素が入っているが、電気泳動をしていると青色・水色・橙色のバンドが分かれることが分かる。ここからそれぞれの色素の電荷について考察して欲しい。| ++++☞学習ポイント3:今回使っているdyeには他にOrange G(橙色)、キシレンシアノール(水色)という色素が入っているが、電気泳動をしていると青色・水色・橙色のバンドが分かれることが分かる。ここからそれぞれの色素の電荷について考察して欲しい。|
 +これは授業でも触れた通り。等電点・pKaで説明できるはずです。
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 ++++☞発展学習1:サイズマーカーと自分のサンプルのバンドの太さを比較することで、大体のDNA量を見積もることができる。ここから、鋳型は何g入っていたと考えられるか?| ++++☞発展学習1:サイズマーカーと自分のサンプルのバンドの太さを比較することで、大体のDNA量を見積もることができる。ここから、鋳型は何g入っていたと考えられるか?|
 +入試では中々出ないかもしれませんが、現場的には知っておいて良いDNAの見積もり法ですので、「へぇ~」くらいに思って頂ければと思います。計算問題としては出されるかもしれませんが。
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 ++++☞発展学習2:予想されないバンドが観察されることが多くあるが、この様なバンド(DNA産物)は何故増幅されたのだろうか?| ++++☞発展学習2:予想されないバンドが観察されることが多くあるが、この様なバンド(DNA産物)は何故増幅されたのだろうか?|
 +要するに擬陽性の問題です。1つの原因は、プライマーの配列と似た配列が鋳型DNAに確率論的に存在してしまい、間違ったターゲットのものが増幅されるというものがあります。もう1つ良くあるのはプライマーダイマーといって、プライマー同士が結合して伸長反応してしまうというものがあります。プライマーダイマーの場合は電気泳動のパターンとして倍々になっていることが特徴です。
 +これら擬陽性を避けるためには幾つかテクニックがありますが、プライマーの特異度を上げる、PCRにおけるTm(アニールの部分)を条件検討する、反応液のマグネシウム濃度を上げる、プライマーの量を減らす、などが一般的かと思います。
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行 176: 行 209:
 【菌体操作】 【菌体操作】
 ++++☞学習ポイント1:培地を寒天で固体状にするというアイディアは誰が考えたものであるか?寒天培地を使うメリットは何か?| ++++☞学習ポイント1:培地を寒天で固体状にするというアイディアは誰が考えたものであるか?寒天培地を使うメリットは何か?|
 +授業でも触れましたが、ロベルト=コッホが考案しました。これによって混ぜ物であった菌液から、ある菌をコロニーとして物理的に単離できることがポイントです。科学においては「分析」という言葉が示すように「分ける」という技術は非常に大切で、「分ける」ことによって「分かる」様になるということは知っておいて良いかと思います。
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 ++++☞考察ポイント1:プレートをフタを下にして逆さにするのは何故だろう?若しフタを上にしてしまうとどんなことが起こるか?| ++++☞考察ポイント1:プレートをフタを下にして逆さにするのは何故だろう?若しフタを上にしてしまうとどんなことが起こるか?|
 +これも授業で触れましたが、寒天プレート上がビチャビチャになってしまうからです。フタを上にしてしまうと寒天由来の水蒸気がフタで結露し、それが自重で寒天の方に流れてしまうことで寒天表面がビチャビチャになり、コロニーが洪水状態となりくっついたり流れたりしてしまいます。
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 ++++☞考察ポイント2:エタノールの消毒作用は広く知られているが、その原理は?| ++++☞考察ポイント2:エタノールの消毒作用は広く知られているが、その原理は?|
 +エタノールはタンパク質変性作用の他に水を奪う性質があるからです。したがって、微生物のタンパク質を変性し破壊ながら、内部の水を奪ってしまう⇒消毒効果、という流れになります。ただ興味深いことに、100%エタノール(本当は100%エタノールというのは空気中の水蒸気によってどうしても水が溶けこんでしまうため存在せず、市販品も例えば95%などとして売られています)では消毒作用がかえって低くなることも知られており、一般に70%前後が消毒作用が高いことが知られています。
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 ++++☞学習ポイント2:オペロン説を復習しながら、今回の実験によって何故各種蛍光タンパク質を発現できるのか?について説明してみよう。| ++++☞学習ポイント2:オペロン説を復習しながら、今回の実験によって何故各種蛍光タンパク質を発現できるのか?について説明してみよう。|
 +今回はIPTGという物質が誘導物質としてlacオペロンに作用することによって、下流にある各蛍光タンパク質遺伝子をONにしている、という流れです。
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 ++++☞考察ポイント3:カナマイシンをプレートに播くのを忘れた場合、実験結果はどうなるだろう?| ++++☞考察ポイント3:カナマイシンをプレートに播くのを忘れた場合、実験結果はどうなるだろう?|
 +カナマイシンは今回の実験では、各蛍光タンパク質遺伝子をコードしたプラスミドの選択マーカーとなっています。カナマイシン入りの培地でコロニーが生えるということは、このプラスミドを持っていることを保証し、そこに誘導物質が存在するから上記の様にオペロン説に従って蛍光タンパク質が発現する、という流れになります。ただ興味深いことに、問いの様に選択マーカーとなる抗生物質を入れ忘れた場合、プラスミドが放棄されてしまうことが知られています。その辺の詳細なメカニズムについては恐らく良く分かってない、という回答でOKとは思うのですが(済みません、私も微生物学が専門じゃないもので…)、この問いに答えるのであれば、選択マーカーがないのでプラスミドを放棄してしまうので、結果として蛍光が観察されない(されにくくなる)、が正解になります。
 +ちなみに本題に関連して、医学的にはMRSAやVREなど耐性菌が問題となっていますが、病院の様に抗生物質という選択圧がかかった状況ではプラスミド性の耐性遺伝子を保持しようとします。昨今では抗生物質は使わない様にする(=選択圧を低くすればプラスミドを放棄するので)という流れになってきましたが、この様に菌の方も自らの生存戦略においてしたたかである、というのも興味深い所かと思います。
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 ++++☞発展学習:「蛍光」と「発光」は化学的にメカニズムが異なります。蛍光・発光の原理について理解しながら、生物における蛍光タンパク質、発光タンパク質にはどの様な例があるか?また研究においてどの様に使われているか?を調べてみよう。| ++++☞発展学習:「蛍光」と「発光」は化学的にメカニズムが異なります。蛍光・発光の原理について理解しながら、生物における蛍光タンパク質、発光タンパク質にはどの様な例があるか?また研究においてどの様に使われているか?を調べてみよう。|
 +蛍光は短い波長の光(=高エネルギー側:励起波長)で叩いて、長い波長の光(=低エネルギー側:蛍光波長)が観測されることを云います。例えばGFPであれば488 nmで叩くと、509 nmの光が観測される、という流れです。
 +それに対して発光は単純にその波長の光が観測されることを意味しています(例えばルシフェラーゼの様にATPの化学エネルギーが光エネルギーとなっている)。
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 その他、本実習のことや研究のこと、海外で勉強するには?など質問がございましたら、気軽にメールを頂ければ幸いです。 その他、本実習のことや研究のこと、海外で勉強するには?など質問がございましたら、気軽にメールを頂ければ幸いです。
 メールアドレス⇒oshikane-h@phs.osaka-u.ac.jp(@は半角にして下さい) メールアドレス⇒oshikane-h@phs.osaka-u.ac.jp(@は半角にして下さい)
  
  
2023年度東京都立青山高等学校実習.1701250583.txt.gz · 最終更新: 2024/03/03 12:46 (外部編集)