ユーザ用ツール

サイト用ツール


2022年度東京都立三田高等学校実習

差分

このページの2つのバージョン間の差分を表示します。

この比較画面へのリンク

両方とも前のリビジョン前のリビジョン
次のリビジョン
前のリビジョン
2022年度東京都立三田高等学校実習 [2022/08/18 22:03] oshikane2022年度東京都立三田高等学校実習 [2024/03/03 12:46] (現在) – 外部編集 127.0.0.1
行 394: 行 394:
 皆さんから頂いたアンケートにつきまして、幾つか類型ごとにまとめた形でフィードバックさせて頂きたいと思います。 皆さんから頂いたアンケートにつきまして、幾つか類型ごとにまとめた形でフィードバックさせて頂きたいと思います。
  
-Q1: PCR実験がしたかった+**Q1: PCR実験がしたかった**\\
 A1: この意見が最も多かったと思います。PCRは、どの教科書にも掲載されている事柄ですので、百聞は一見に如かずでやってみたい方も多かったかもしれません。今回の実習ではPCRの結果のバンドのみ入れることで代替としてしまいましたが、今回PCRを入れなかった一番の原因は時間的制約です。PCRだけで2時間くらいかかってしまうので、1日で終わらせるにはちょっと大変かと思い、割愛させて頂きました。また実験所作といっても、鋳型DNAとプライマーや必要な試薬(ポリメラーゼ等)を混ぜるだけであり、あとは2時間待ち(条件を良くすれば1時間くらいで可視化に充分な量、増幅できるのかもしれませんが)となってしまうところが懸念点でした。 A1: この意見が最も多かったと思います。PCRは、どの教科書にも掲載されている事柄ですので、百聞は一見に如かずでやってみたい方も多かったかもしれません。今回の実習ではPCRの結果のバンドのみ入れることで代替としてしまいましたが、今回PCRを入れなかった一番の原因は時間的制約です。PCRだけで2時間くらいかかってしまうので、1日で終わらせるにはちょっと大変かと思い、割愛させて頂きました。また実験所作といっても、鋳型DNAとプライマーや必要な試薬(ポリメラーゼ等)を混ぜるだけであり、あとは2時間待ち(条件を良くすれば1時間くらいで可視化に充分な量、増幅できるのかもしれませんが)となってしまうところが懸念点でした。
 ただPCRも、自分でプライマーを設計して目的の配列の増幅を目指す、という課題であれば、恐らく実習としても成り立つのではないかと思います。その為には、上で紹介した様なApeといったDNA編集ソフトやデータベースの使い方などが必要なので、PCRだけで少なくとも2日は取るかなと思います。例えばプライマーの設計についてYouTubeなどで紹介動画を作っておき、それに基づいて宿題的にプライマーを各自で設計して頂いて、当日PCR・電気泳動をして確かめる、こんな実習の流れはアリだと思います。 ただPCRも、自分でプライマーを設計して目的の配列の増幅を目指す、という課題であれば、恐らく実習としても成り立つのではないかと思います。その為には、上で紹介した様なApeといったDNA編集ソフトやデータベースの使い方などが必要なので、PCRだけで少なくとも2日は取るかなと思います。例えばプライマーの設計についてYouTubeなどで紹介動画を作っておき、それに基づいて宿題的にプライマーを各自で設計して頂いて、当日PCR・電気泳動をして確かめる、こんな実習の流れはアリだと思います。
 私自身、こういう感想を頂くことで、よりよい実習の在り方を考えるきっかけとなり参考になります。有難うございます。 私自身、こういう感想を頂くことで、よりよい実習の在り方を考えるきっかけとなり参考になります。有難うございます。
  
-Q2: (自分も含めて)ヒトを対象としたPCR。遺伝子を扱いたかった +**Q2: (自分も含めて)ヒトを対象としたPCR。遺伝子を扱いたかった**\\ 
-A2: ヒトのDNAは究極的な個人情報なので、倫理的問題がつきまといます。例えば大学などの研究機関では、たとえ実習内でもヒトDNAを用いるとしたら、倫理申請関連の書類を提出し、各大学の倫理委員会による第三者的諮問・承認を経て、やっと実施可能となります。もちろん自身のDNAを使って、例えばお酒に強いのかどうか?などを頬の上皮細胞から抽出したDNAを鋳型としPCRなどで調べることは可能ですが、最近はCOVID-19の影響によって自身のDNAを採取するステップでの感染リスクが高まってしまいますので、私自身も少なくともCOVID-19がおさまるまでは、植物など問題とならないサンプルで実習すべきという風に考えています。+A2: ヒトのDNAは究極的な個人情報なので、倫理的問題がつきまといます。例えば大学などの研究機関では、たとえ実習内でもヒトDNAを用いるとしたら、倫理申請関連の書類を提出し、各大学の倫理委員会による第三者的諮問・承認を経て、やっと実施可能となります。もちろん自身のDNAを使って、例えばお酒に強いのかどうか?などを頬の上皮細胞から抽出したDNAを鋳型とし、アルデヒド脱水素酵素(ALDH2)を標的としたPCRなどで調べることは可能ですが、最近はCOVID-19の影響によって自身のDNAを採取するステップでの感染リスクが高まってしまいますので、私自身も少なくともCOVID-19がおさまるまでは、植物など問題とならないサンプルで実習すべきという風に考えています。
  
-Q3: プラスミドの作成や制限酵素を扱いたかった+**Q3: プラスミドの作成や制限酵素を扱いたかった**\\
 A3: これはcDNAクローニングを実習対象にすれば可能と思います。ただ現場的に言うと、制限酵素で切断した後のリガーゼが中々問題でして、これの成功率が非常に低いです。理由としては、1つはリガーゼ自身が失活を受けやすいことから、例えばピペット操作で泡立ててしまうなどによって簡単に失敗してしまいます。2つ目として、リガーゼの反応自身非常にデリケートで、目的DNA以外の夾雑物を出来るだけ排除することが求められるのですが、中々技術的に難しいところがあり、慣れと経験を必要とします。3つ目として、リガーゼ処理(ライゲーション反応、とかいいますが)が成功したかどうかは、ライゲーションに続く形質転換(トランスフォーメーション)で大腸菌に取り込ませて、次の日にコロニーが生えるか?でやっと分かりますので、少なくとも実習に2日必要ということになります。 A3: これはcDNAクローニングを実習対象にすれば可能と思います。ただ現場的に言うと、制限酵素で切断した後のリガーゼが中々問題でして、これの成功率が非常に低いです。理由としては、1つはリガーゼ自身が失活を受けやすいことから、例えばピペット操作で泡立ててしまうなどによって簡単に失敗してしまいます。2つ目として、リガーゼの反応自身非常にデリケートで、目的DNA以外の夾雑物を出来るだけ排除することが求められるのですが、中々技術的に難しいところがあり、慣れと経験を必要とします。3つ目として、リガーゼ処理(ライゲーション反応、とかいいますが)が成功したかどうかは、ライゲーションに続く形質転換(トランスフォーメーション)で大腸菌に取り込ませて、次の日にコロニーが生えるか?でやっと分かりますので、少なくとも実習に2日必要ということになります。
 ただ、どんな教科書にも載っている様な所ですので、実際にやってみたいですよね。。。もう少し現実的な落としどころを考えてみたいと思います。有難うございます。 ただ、どんな教科書にも載っている様な所ですので、実際にやってみたいですよね。。。もう少し現実的な落としどころを考えてみたいと思います。有難うございます。
  
-Q4: オペロン説 +**Q4: 遺伝子発現の調節しているところを見てみたい**\\ 
- +A4: 高校生物でジャコブ・モノーのオペロン説が出てくることから、Q4のご意見が出てきたのかと思います。難しいこと、ちゃんと勉強されていますね。可視化という意味で一番分かりやすいのが、形質転換+誘導物質です。例えばGFP遺伝子を組み込んだプラスミドを大腸菌に形質転換させ、誘導物質を含んだ培地に塗布する、かな?と思います。このオペロン説の流れは、現在も人工的にタンパク質を作成するときに使われている技術の基盤となっており、目的遺伝子をオペロン内にクローニング(挿入)し、プラスミドの形で大腸菌に形質転換した後、その遺伝子組換え体に対して誘導物質を与えることによって、強制的にその目的タンパク質を発現させるという技術があります。これによって、原理的に自分の設計したタンパク質が自由に作成することができます(もちろん、設計したはずなのに上手くいかないとか、いろんな問題はつきものですが…)。 
 +その様な人工的なタンパク質(遺伝子組み換え技術によってできたタンパク質ですので、リコンビナントタンパク質と呼ばれます。リコンビナントとは「遺伝子組み換えの」という意味です。)の先駆例としては、インスリンやヘモグロビンがありますので、興味ある方は調べてみても良いかもしれません。 
 +古典的にはプラスミドに挿入するDNAはPCRにより目的断片を増幅し、制限酵素で切断することでプラスミドに入れていましたが、最近では人工遺伝子合成といって、数千残基レベルの長いDNA鎖をプライマーを作る感じで有機化学的に全てを全合成してしまうという技術も生まれてきており、色々と応用されています。
  
 +…と、全体的に教科書には載っているものの、見えないものを可視化してみたいというご意見が多かったと思います。
 +特に最近では「可視化」というのは生物学ではキーワードとなっています。「可視化」ということは、「存在するのにたまたま見えていないだけ」のものを「何等かの技術」で持って「見える化をする」ことに他ならず、「何等かの技術」の開発や、その技術を対象や目的を変えることによる応用など、多くの研究があります。例えば皆さんご存知と思われるGFPも(持ってくれば良かったですね…)、対象となる分子にGFPを融合させることによって、対象分子の動きが分かるという「可視化」に役立っています。最近では「透明化」という技術がトレンドとなってきている様子で、動物や植物における透明化技術の開発も盛んに行われています。
  
 +この様に、現在の生物学は色んな技術、特に物理・化学的な原理に基づいた方法論によって支えられています。上でも述べさせて頂きましたが、ある技術に対する単なるエンドユーザーになってしまうのではなく、難しいけれども技術の原理を理解した上で、次の技術を考えられるディベロッパーの立場で物事を見られる様になると、次々と面白いものが見えてくるかもしれません。それこそ「自分の見える化」、かもしれませんが。
  
 +1日間の実習ではございましたが、私も皆様の将来にとって何かのキッカケになって頂ければと思います。また質問や相談などもいつでも受け付けますので、気軽にメール(oshikane-h@phs.osaka-u.ac.jp @を小文字にして下さい)を頂ければ幸いです。
 +私こそ貴重な体験をさせて頂き、有難うございました。
  
2022年度東京都立三田高等学校実習.1660827837.txt.gz · 最終更新: 2024/03/03 12:46 (外部編集)