経鼻的経蝶形骨手術とは!
頭を開けることなく頭の中心部に鼻の中から到達できる手術法です。
内視鏡を使うことで、とても深い位置にある病気を直接観察、摘出操作を行えます。
低侵襲な脳神経外科手術の一つです。
経鼻的下垂体腫瘍摘出術は下垂体腫瘍やラトケ嚢胞などのトルコ鞍の中にできる腫瘍に対して非常に有効です。最近では、この方法を少し工夫することで(拡大蝶形骨法)、頭蓋咽頭腫や鞍結節部髄膜腫などの頭蓋骨の中にできる病変にも適応が広がっています。
この手術法は鼻から内視鏡と手術器具を挿入し脳に触れることなく、直接病変を観察、摘出することが可能です。鼻からの手術ですので、従来の脳外科手術のイメージにあるような大きな頭の切開は不要です。
内視鏡技術は日進月歩であり、ハイビジョンや4Kという非常に高精細な内視鏡が登場し、手術の安全性や確実性が向上しています。脳神経外科手術では、顕微鏡で病変を拡大しながら行う顕微鏡下手術が主に行われておりますが、内視鏡は病変に近接することで拡大することが可能であり、拡大率は顕微鏡よりも高いです。
具体的な治療方法
鼻の中から矢印のように内視鏡や手術道具を挿入し頭の中心にある病変の摘出を行います。手術の対象となるのは青い丸で囲ってある範囲のものです。
右の鼻腔から内視鏡を挿入し鼻中隔(右の鼻と左の鼻を隔てている粘膜)を鼻の中で一部切開し鼻の奥までたどり着きます。
一番奥にトルコ鞍というくぼみがあり、この中に下垂体という組織があります。下垂体腫瘍はこの中に、髄膜腫や頭蓋咽頭腫はこの上に、脊索腫はこの下に主にできますのでこの手術法で対応が可能です。
実際に鼻から道具を挿入しているところです。意外に思われるかもしれませんが、片方の鼻に3本の器具を挿入することが可能で、ほとんどの症例では右側の鼻のみの処置で治療が完了します。左鼻を使用しないため術後の鼻機能の回復が早いと考えられます。
手術機器のご紹介
手術機器の一部です。このように細く長い道具を利用することで鼻から十分に細かい摘出作業が可能となっています。
名古屋大学内視鏡グループでは内視鏡のパイオニアとして機器開発も盛んに行っています。
名古屋大学ではエンドアームという内視鏡を使用しています。非常に取り回しがよく、細かい作業が可能です。
全体像です。握ると自由に動かせ、話すとピタッと止まる理想的な内視鏡固定具です。これにより非常に細かい作業が可能となりました。奥にちらっと見えるのがBraintheaterという術中MRIの機械です。
本手術法の限界、合併症
この手術法は下垂体腫瘍、頭蓋咽頭腫、脊索腫、鞍結節髄膜腫など頭蓋底にできる腫瘍に対して最も有効な治療法であると思われます。
しかし、どのような手術でもそうですが手術法によって限界があります。限界を超えて無理に手術することで合併症率が高くなる可能性があります。このためある一定の基準を設けて治療を行う必要があると考えています。
先ほども提示した写真ですが、上記のように鼻腔に接した部分に関しては非常に強力な手術法であるといえます。
外側への伸展があまりに強い場合には開頭術を選択する、あるいは一緒に手術をするコンバイド手術なども選択肢にあがります。
合併症として以下のようなものがあります。
・髄液鼻漏・・・脳の周りにある髄液という水が鼻から漏れてしまう状態です。放置すると髄膜炎などの感染症の原因となります。大きな手術ほど髄液鼻漏のリスクは上がりますが、これを少しでも下げるために腹部の皮下脂肪、筋膜、鼻の粘膜などを利用して腫瘍をとるために開けた穴をふさぎます。様々な工夫をすることで大きな腫瘍も含めて1%未満の発生率に抑えることができています。
・髄膜炎・・・前述の髄液鼻漏が術後に起こらなくても術中に髄液がある程度漏れることがあり、この場合一時的ですが頭蓋内と外界との交通ができることになります。この間に菌が頭の中に入り込むことで髄膜炎となることがあります。可能な限り洗浄、抗生物質の利用を行うことで対応します。頻度は鼻腔経由ですが開頭術に比較しても低いです。
・内頚動脈損傷・・・この手術をする際には内頚動脈という非常に重要な血管が近くにありますので、これを損傷する可能性があります。損傷した場合かなりの出血があること、血管がつぶれることで脳梗塞になり場合によっては死にいたる可能性のある重大な合併症であり避けなければならない合併症です。通常初回手術、シンプルな下垂体腫瘍などでは発生率は低いとされています。我々は、この合併症を起こさないために、ナビゲーションシステムというカーナビのようなシステムを全例に使用して場所を確認しながら手術を行います。
・下垂体機能低下(下垂体近傍の腫瘍)・・・これは腫瘍の種類にもよりますが、下垂体腫瘍は下垂体から発生した腫瘍ですので下垂体組織を全く触らずに摘出することは不可能です。また頭蓋咽頭腫は下垂体と脳を連結する部分にできる腫瘍ですので、この連結が切れることで下垂体機能の低下が起こることがあります。ある一定の確率で起こりえますので、内分泌内科との連携が重要です。