海綿状血管腫とは?
海綿状血管腫は字面から腫瘍のような印象を受けますが、血管奇形の一種です。血管の塊のような病気で、ぶどうの粒が集まったような見た目をしています。最近では脳ドックが普及した影響もあり、などで無症状の状態で発見されることも多く、経過観察とされることも多いです。腫瘍のように細胞が増えて増大するわけではなく、出血を繰り返すことでかさが増し、大きくなることで周辺の脳を圧迫、さまざまな神経症状を出すことがあります。時にてんかんの原因となることもあり、治療が必要となることもあります。
海綿状血管腫 の特徴・症状
多くは無症候性ですが、出血を繰り返すことで周辺の脳を圧迫し頭蓋内圧亢進症状(頭痛、吐き気など)が出たり、血管腫の場所によって麻痺、言語障害、記憶障害を来す可能性があります。出血後しばらく経過すると血腫が吸収されることにより症状が改善することもあります。
出血を繰り返さなくとも、脳の表面近くに存在する場合にはてんかんの原因になることもあります。
海綿状血管腫 の治療 ーどの状態なら経過観察なのか?治療が必要なのか?ー
無症候性海綿状血管腫の場合
症状のない海綿状血管腫の場合には基本的に経過観察が行われます。
サイズが大きく、周辺に浮腫を伴う場合は状態に応じて検討が必要ですが、海綿状血管腫は時間経過とともに内部の血腫が吸収されサイズが小さくなり、周辺の脳浮腫が改善することも多いです。このため、比較的大きなものであっても無症候性であれば、急いで治療に飛びつく必要はない可能性があります。主治医と十分に相談してください。
症状のある海綿状血管腫の場合
出血を繰り返しサイズが大きくなるもの、頭蓋内圧亢進症状の強いもの、薬物治療ではコントロール出来ない”てんかん”の原因となる血管腫などが治療の適応となります。
治療の選択肢としては手術治療と放射線治療があげられます。
手術治療はこの疾患の第一選択の治療法で、全摘出することにより根治することが出来ます。
しかし場所によっては手術治療が難しいものもあり、この場合放射線治療が選択されます。一定の効果は得られる反面、治療が必要なほどのサイズの海綿状血管腫には適応しづらく、放射線による悪化の危険性も示唆されています。また根治療法ではないため、手術治療が可能な海綿状血管腫は適応から外れます。
当院における 海綿状血管腫治療の工夫
海綿状血管腫は腫瘍ではなく、血管の奇形です。悪性ではありませんので可能な限り周辺の脳に傷を付けないように治療を行うことが重要であると考えています。上記の通り無症状の海綿状血管腫、経過観察でも症状改善の見込める海綿状血管腫に対しては手術治療に飛びつかずに経過観察をおすすめします。逆に、症状が強いものや増大傾向が強いものについては手術リスクをふまえてご説明し摘出手術をおすすめすることがあります。
海綿状血管腫自体はぶどうの房のようなものでつぶがいくつも集まってできています。出血を起こしたものはこの内のいくつかが大きく拡大してしまった状態です。つぶを残すことで再発の原因となりますので、探しだして摘出を行う必要があります。
内視鏡治療は海綿状血管腫治療に非常に有効であると考えています。脳深部に存在する海綿状血管腫に6mmもしくは10mmの円筒を挿入し、内視鏡で確認しながらその筒の中で摘出を行います。正常脳を傷つける範囲はその筒の部分のみですみますので、従来の脳を切って入る手術に比べて低浸襲であると言えます。
海綿状血管腫のつぶを摘出していくとある程度空間が出来ますので、その空間を水で満たして、水の中で手術を行います。
水中下手術は顕微鏡手術では出来ない治療であり、また脳はもともと水の中に存在するものですので、より生理的な状態で手術を行うことが出来ます。また摘出した空間を水で広げることで、脳に余計な負担をかけることなく、奥に入り込んだ海綿状血管腫をしっかり確認できますので、取り残しも減らすことができます。
脳海綿状血管腫 の手術治療例
徐々に増大する海綿状血管腫の症例です。当初は経過観察をしていましたが、増大してきたため手術治療となりました。
左図は手術前のMRIですが、房状の海綿状血管腫が写っています。
内視鏡を用いて4cmほどの皮膚切開、2cmほどの小さな開頭、1cmの筒を利用して海綿状血管腫を摘出しました。
右図は術後のMRIです。海綿状血管腫が全摘出されていることがわかります。周辺の脳へのダメージは最小限です。


脳幹海綿状血管腫 の手術治療例
脳幹部海綿状血管腫を含め海綿状血管腫治療に対し内視鏡治療は安全、低侵襲かつ確実な治療法といえます。


脳幹部海綿状血管腫の患者さんのMRI画像です。脳幹前方方向に血管腫が位置しています。
手術前の検査で左右に錐体路(手足を動かす神経線維)が分かれているのがわかりました。
【左図】白く写っているのは静脈性奇形であり、損傷すると脳幹部に静脈梗塞をきたしますので注意が必要です。
これまでこのような脳幹部海面状血管腫に対しては頭蓋底アプローチ法をもちいた手術が一般的でしたが、内視鏡技術の進歩により鼻からより低侵襲に、かつ脳幹損傷を抑えたアプローチが可能となりました。



術後3ヶ月後の写真です(本人様に了承を得て掲載しております)。術前は歩行が難しい状態でしたが片足立ちできるまでに回復しています。


脳幹部海綿状血管腫について別ページに纏めました。こちらをご参照ください。
名古屋大学脳神経外科の海綿状血管腫についての論文報告
テント上海綿状血管腫に対して内視鏡治療の安全性、有効性を示した論文を発表しました。
本論文では内視鏡の最大の利点である水中での手術を主に紹介しています。脳はもともと髄液という水中に存在する臓器であるため、この環境を維持することで、より脳へのダメージを減らすことを目的としています。加えて、水中にすることで脳が水に浮くため、摘出腔内全体を観察することが可能になります。今後他疾患にも応用可能な、非常に有効な治療法となり得ると考えられます。
Takeuchi K, Nagata Y, Tanahashi K, et al. Efficacy and safety of the endoscopic “wet-field” technique for removal of supratentorial cavernous malformations. Acta Neurochir (Wien). 2022;164(10):2587-2594.
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