厚生労働科学研究費補助金(厚生労働科学特別研究事業)
医療における安心・希望確保のための専門医・家庭医(医師後期臨床研修制度)のあり方に関する研究
医療における安心・希望確保のための専門医・家庭医(医師後期臨床研修制度)のあり方に関する研究
第8回班会議 議事要旨
日時:平成21年2月9日(月)17:10-19:30
場所:国際会議場(国立がんセンター築地キャンパス内 国際研究交流会館3階)
出席:土屋(班長)、江口、葛西、川越、阪井、山田、渡辺
ロジャー・ネイバー先生(英国家庭医学会前会長)
1.開催挨拶
土屋班長より、本日の議論の進め方について説明がなされ、葛西班員の司会にて進行することになった。
2.英国における家庭医と医師の専門医教育研修制度のあり方について
英国の家庭医学会前会長 ロジャー・ネイバー先生よりご講演をいただいた。 | ||
(1)英国と日本の医療制度の相違 | ||
・ | 英国での人口当たりの病床数は日本の3分の1であり、医師のうち半数を占める家庭医が特徴的な役割を担っている。 | |
・ | 英国市民はすべて家庭医と書面による契約を結び、登録している。1人の家庭医は約2,000人を担当し、専門分野を持ちながら数名で診療にあたっている。 | |
・ | 多くの場合受診の最初の接点となり、およそ1割の患者を2次医療に紹介している。 | |
・ | 最近新しいヘルスケア法が提示され、市民は医師に対する権利とともに、そのサービスを誠実に使う責任があることがうたわれている。 | |
・ | 在宅やホスピスにおける緩和ケアが広く提供され、家庭医は医療上の決定を行ったり、精神的な支援を行う役割を果たしている。 | |
・ | 看護師は家庭医のもとでふるい分け機能や地域で慢性期の診療の役割を担っている。 | |
・ | 地域による配置を調整するための手当や、地域によって定員枠が設定されている。 | |
(2)家庭医による診療の特徴と家庭医療の歴史 | ||
・ | 疾患の経過に集中し治療を行う見方だけでなく、心理的・社会的な背景も含めて考慮している。臨床上不確実性の高い場合や高齢者のケア、慢性疾患の継続的なケア、予防医療、医療機関へのアクセスの点など、家庭医による診療が望ましいと言える。高度医療や専門化された治療は病院を基盤としたケアが望ましい。 | |
・ | 英国では医療の発展とともに専門医が注目されていたが、専門性の確立と独自の研修制度の導入など、学会の取り組みにより、家庭医の地位が向上した。 | |
(3)プライマリケア、家庭医が果たすことができる役割 | ||
・ | 最近の研究でプライマリケアが死亡率の改善に与える影響が示された。 | |
・ | 日本で家庭医が活躍し、高齢者の継続的なケアを家族や地域社会と関連づけながら行えば、病院の専門医の負担が減り、専門医はその専門性をより発揮できる。 | |
・ | 産科・婦人科における安定期の妊娠中の定期検査や、小児科における通常の小児プライマリケア、予防接種、メンタルヘルス領域での管理の多くを担うなど、家庭医が各専門医と協力することによって、地域格差や経済的格差による健康上の不平等の問題が改善されることが期待される。 | |
・ | 費用対効果が優れており、患者の満足度が高いだけでなく、臨床上の指標も改善される。日本でも家庭医療・プライマリケアを発展させることの利点は大きい。 | |
(4)家庭医、専門医の養成制度 | ||
・ | 英国では卒後2年間の基礎研修(この間に医籍登録がなされる)に続いて、家庭医を含めた専門医の研修を受け、各科の専門医認定試験が行われる。 | |
・ | 家庭医の研修プログラムは始めに応募者からの選抜、家庭医療分野の研修、各診療科のローテーション、家庭医の後期研修を経て家庭医学会の認定試験を受験する。この試験に合格することで家庭医として診療する免許が与えられる。 | |
・ | 家庭医の後期訓練期間では、研修医は臨床・組織・教育における厳格な基準を満たした診療所において、能力を評価された指導医と師弟関係を結び、診療や教育、指導、診療外教育活動などを通して家庭医としての能力を身につける。 | |
・ | 家庭医であることの意味づけに始まり、医療、社会・心理的側面、安全、経営管理、情報技術、予防、健康増進などからなる研修カリキュラムを履修する。 | |
・ | 研修医の評価は幅広く、診療能力、ビデオ録画、研修記録などによって行われる。家庭医療専門医認定試験は幅広い知識の試験、模擬診療による臨床技能評価と、累積された職場における評価の3つの要素でなされる。 | |
・ | 各診療科の専門研修のうち、家庭医療の研修と同等に扱うことによって、専門研修から家庭医療研修に移行するなど、相互に研修課程を移動することもある。 | |
・ | 指導医を指導する課程、研修プログラムがあり、定期的な品質管理のための訪問調査や評価の仕組みがある。 | |
・ | 英国では家庭医を含めてすべての医師が5年ごとに再認証を行う制度が昨年導入された。 | |
(5)卒後医学教育の計画準備と管理運営の仕組み | ||
・ | 地区ごとの医療関係者を中心とした委員から組織されるディーナリーが卒後教育の責任を持っており、権限を持って指導医や研修責任者、教育監督者の選考、訓練、監視する役割を担っている。 | |
・ | ディーナリーは医師、研修医の予算や指導医への手当、教育に必要な予算を割り当てられている。座長を医師以外とし、一般人を含めた構成になっている。 | |
・ | 家庭医の研修課程の人気は高まっており、総合的な評価や面接、模擬診察などの厳格な審査によって研修医を募集している。 | |
引き続いて、質疑応答が行われた。 | ||
(6)家庭医における課題と最近の動向 | ||
・ | 病院に対する予算が少ない、病院の看護師の数が足りないなどの理由により、病院での専門医による診療が遅れるという課題がある。 | |
・ | 家庭医はそれぞれ専門知識や技術を持つようになってきており、そのための研修カリキュラム、品質管理の規定を各専門学会と協力して整備している。 |
3.謝辞とまとめ
- 日本のこれからの医療制度の変革、そして特に卒後教育制度の確立に大変参考になる講演であり、今後我が国の社会的、地政学的な背景などを踏まえた議論を進めていく。
以上