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厚生労働科学研究費補助金(厚生労働科学特別研究事業)
医療における安心・希望確保のための専門医・家庭医(医師後期臨床研修制度)のあり方に関する研究

第7回班会議 議事要旨


日時:平成21年1月28日(水)17:00-19:10
場所:国際会議場(国立がんセンター築地キャンパス内 国際研究交流会館3階)
出席:土屋(進行)、海野、江口、岡井、葛西、阪井、山田、渡辺
    東京大学医学部学生
    慶應義塾大学医学部学生

1.開催挨拶と海外調査研究の進捗報告
 土屋班長より、本日の議論の進め方について説明、事務局より海外調査研究の進捗報告がなされた。

2.21世紀の医学教育についての提言
 東京大学医学部学生よりご報告をいただいた。
(1)理想の医師像についての考え
1人の医師を育成するという視点で、理想的な医師のキャリアパスを考える必要がある。
  臨床能力がある一方で、影響力をもって自らの意志を発信していく医師のモデルとして3名の医師にインタビューを行い、学生のときの時代背景について考察した。
  (2)知的な刺激を受ける「場」としての現場教育の必要性
  講義や教科書によるものより、現場や実習を含めた医学生の知的関心に応じた自主的な教育カリキュラムについての提案がなされた。
  研究活動と臨床経験をどのように両立していくかについてのバランスについて、研修中の若手の医師は板ばさみを感じている。

3.日本版総合医について −医学生による提言
 慶應義塾大学医学部学生よりご報告をいただいた。
(3)米国における家庭医
米国における家庭医は専門診療科として確立しており、予防を含めた包括的な視点を持ち、グループ診療により効率的な医療を展開している。
  医療保険の仕組みとしてかかりつけのプライマリケア医を受診する流れになっている。
  プライマリケア医による診療が米国では患者の健康増進につながり、費用対効果に優れているとされている。
  中でも家庭医は産科、小児を含めるなど診療の対象とする病態が広く、社会心理学的背景を含めて扱っており、教育研修もその内容を踏まえている。
  家庭医による診療の特色として、個別に最適化し、診療と連続した健康診断が行えること、グループ診療により効率化と医療の質の向上を図っていることが挙げられる。
  (4)欧州医療事情 −英国−
  英国は税金により運営されるNHSによる皆保険制度を展開しており、家庭医(GP)による医療へのアクセス制御を行っている。
  第三者機関により医療システムを評価する組織づくりがなされており、政府とも独立して医療の質、医療制度、医療事故などを継続的に監査している。
  GPは英国医学会が登録管理しており、住民自身がその中でもからGPを登録することにより、継続的に医療を行っている。
  一方、登録しているGP以外への受診制限があること、私費負担による診療は二重払いになること、緊急性に応じた診療待ち期間が発生することが主な課題である。
  (5)"日本版"総合医
  現在総合医が求められる背景として、人口の高齢化が進み疾病構造が慢性疾患へ変化していること、医療の専門分化が進んでいることに加えて、地域医療体制の再構築が求められていることが挙げられる。
  総合医の役割として、一般的な診療としての小児や産科、救急などを含めた広い範囲の疾患管理と、地域医療における貢献が挙げられる。
  総合医の専門性を確立し、幅広い診療領域と、健診や予防医学の視点を含めた研修プログラム、専門医制度が求められる。
  総合医が効果的に役割を果たすには、予防医学の重視、診療情報の一元管理、グループ診療の導入に加え、医療システムを監査する第三者機関が必要である。
 引き続いて、質疑応答が行われた。
  (6)家庭医としてのキャリアパス
  日本家庭医療学会をはじめとして家庭医研修プログラムを整備しつつあり、地域医療、家庭医療をさまざまな切り口で研究として取り組む場ができつつある。
  家庭医はそれぞれの国、社会の医療制度や地域の実態に応じた役割を担っており、業務の範囲や診療対象で区別する性質のものではない。
  一方で米国では訴訟リスクや専門分化の面から診療範囲や手技について限定している要素もあり、日本では総合的に診療を行う医師は多く存在しているという指摘がなされた。
  (7)日本における医学教育の課題
  基礎医学と臨床医学の連携や、実習に臨床現場の体験や思考を取り入れるなど、講義や見学にとどまらないカリキュラムの工夫が求められる。一方で、講義には診療や研究における実体験について聞くことができる、考えた過程に触れることができるなど、講義ならではのおもしろさがある。
  少人数での課題演習を組み合わせるなどの取り組みが行われている大学もある。
  卒前教育と認定試験、卒後教育研修が効果的に行われるような設計が必要で、現状では無駄が多いのではないかという指摘がなされた。
  大学病院以外での専門医療機関でも学生、研修医、指導医を含めた教育体制が求められるが、一方で現状の過剰労働の状況を加味した議論が必要であるという指摘がなされた。制度や援助の仕組みを整えて、自発的に互いに教え学ぶ環境づくりが重要。
  教育病院の教育研修の質についての評価の仕組みが必要である。

4.総合診療医(家庭医)の位置づけについて
 海野班員から報告と提案がなされた。
(8)日本における医療の現状を踏まえた総合診療医(家庭医)の制度設計
前提として、医療現場の医療従事者による自律的な意見集約と、現場重視の提言が必要であり、これに基づいて医療提供体制を再構築することが求められる。
  そのために、医療の質とアクセス(量と制度の両面において)、さらに経済性の確保の必要性がある。
  制度改革を行う上での考え方として、現実に存在する多様性を許容し、現存のキャリアパスを向上、拡大させるような改革が望ましい。新たなキャリアパスを提示することは可能であるが、現場で専門家が向いている方向に逆行するような施策は実効性がない。現場のトレンドを規制緩和をインセンティブにより誘導し、国民の現在及び将来のニーズに適合するように誘導することを考えるべきである。現状では、専門医療と総合診療で、どちらに明らかなトレンドが向いているということはない、しかし、病院から診療所へのトレンドは明確に存在している。
  病院の現場において総合診療が専門医療の間を埋めるように展開することで、効率化、合理化、省力化につながる。
  日本では、現時点で総合診療、家庭医療に従事しているのは、各診療科の専門医であった病院勤務医がセカンドキャリアとして開業した医師たちである。専門医としての家庭医は現状ではごくわずかしか存在しない。今後も各診療科の専門医からの総合診療領域への移行は続くと考えられる。そこで問題となるのは、これらの専門医からの総合診療医では地域偏在の問題を解消できない、へき地医療体制を確保できないということと、その総合診療医としての質の担保ができないということである。
  横断的な領域を専門医として診療をしている医師が移行することによる総合診療(家庭)医の制度と、専門医としての家庭医の制度が平行して存在し、それぞれの質と量を確保する必要がある。家庭医養成の課程以外の横断型総合診療医制度を設ける必要があり、それには質を担保するために認定医・専門医による二階建て方式も考えられる。さらに、現場の医療者が専門医を取得する必要性を認識し、自発的に資格取得をめざすような専門医制度をつくる必要がある。
 引き続いて、質疑応答が行われた。
  医療体制の現状を把握するための基礎的情報が不足している指摘がある一方で、専門家自身が自らの責任において根拠に基づく適正数などの試算を行うべきではないかという提言がなされた。
  現状、そして近い将来には専門医としての家庭医研修と既存の家庭医以外の専門医からの移行という2つのキャリアパスが併存しているが、この状況をどうするかを含めて理想的な将来像としての家庭医・総合医の議論が必要である。
  その際に、我が国の医療システムの現状を認識し、どのような基盤の医療システムを設定し実態配置するのが最も良いかという視点に基づき、いつまでに改善策を実行するかも含めて現実的な提案を行うことが必要である。
  医学生や若い医療者として、当事者としての取り組み、最適化に向けた施策への関与という観点が必須であり、よりよい規制(緩和)とインセンティブについて議論を進めていく必要がある。

5.事務局連絡
以上


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