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厚生労働科学研究費補助金(厚生労働科学特別研究事業)
医療における安心・希望確保のための専門医・家庭医(医師後期臨床研修制度)のあり方に関する研究

第5回班会議 議事要旨


日時:平成20年12月5日(火)15:00-17:20
場所:慶應義塾大学信濃町キャンパス 新教育研究棟 講堂1
出席:土屋(進行)、有賀、海野、江口、岡井、葛西、川越、阪井、外山、渡辺
    前沢政次先生(日本プライマリ・ケア学会会長)
    山田隆司先生(日本家庭医療学会代表理事)
    小泉俊三先生(日本総合診療医学会運営委員長)

1.開催挨拶
 土屋班長より、本日の議論の進め方について説明がなされた。

2.地域診療所における総合医
 日本プライマリ・ケア学会会長 前沢政次先生よりご講演をいただいた。
(1)学会の紹介とプライマリケア専門医
医師をはじめとして地域ケア、高齢者ケアに携わっているさまざまな多職種により構成されている。
  プライマリケア医の診療には近接性、包括性、継続性、協調性、責任性の5つの要素が必要。プライマリケアに特化した研修プログラムを行動目標として定め、専門医の認定を行っている。
  国民の健康づくりの支援、全国支部整備の課題に取り組んでいる。多職種協働による地域ネットワーク、プライマリケアチームづくりをテーマとしてモデル的な活動を発信している。体験型学習、生涯教育プログラムを通して診療の質の向上を目指している。
  家庭医療学会、総合診療医学会と共通した認証制度を整備するべく連携している。
  (2)専門医としての総合医の役割と研修の必要性
  生活習慣病、慢性疾患、メンタルヘルスなどの日常病の診療を担っており、地域によっては幅広い領域の医療を行う場合もある。専門医との連携、専門医療の補完、地域ケアなどを視野に入れている。
  このような総合医を目指すには後期研修の義務化が必要であり、プライマリケアの理念を踏まえた研修が必要。地域の総合医としての開業といった道筋が求められる。各専門医からの転向の場合でも研修を受けた上で、地域や勤務の場に応じた横断型の専門性を身につけ、専門医としてプライマリケアの質を高める形を目指していきたい。

3.地域医療と総合医
 日本家庭医療学会代表理事 山田隆司先生よりご講演をいただいた。
(3)一次医療を担う医師の資質と研修
疾患の理解だけでなく、患者の背景や生活、家庭環境などを含めた個別性を理解する必要がある。
  診療所では幅広い疾患を継続的に管理していくことが重要。特に高齢者では複数の慢性疾患を一人の医師が管理することが求められる。
  求められる医療の質が異なることから、分化型の臓器専門医と一次医療を担う総合医の役割を一人の医師が受け持つことは不可能であるということを認識する必要がある。
  一次医療では日常的な健康問題への対応、包括的な視点、病初期での判断能力に加えて適切な介入に努め、患者の個別性を尊重するケアが非常に重要である。
  一次医療においては専門性よりも、医療機関の機能に即した研修のあり方が必要であり、一般的な内科疾患の入院管理や通常分娩などを担っている地域病院での研修は重要である。救急においては一次医療や地域の病院での二次医療がまずしっかり対応することが重要。
  (4)家庭医の育成プログラム
  家庭医療においては、いつでも幅広く対応することによって患者の信頼を得ること、それが質の高い医療であることであるという価値観を伝えることが大切。中小規模の地域病院は総合医の研修場所として適しており、また地域連携を活用して地域の開業医、医師会の医師を指導医として活用することが望まれる。それぞれの地域のニーズや医療機関の機能に応じた研修が重要。
  家庭医療学会では地域の病院や診療所、小児科での研修などからなる幅広い研修プログラムを作成している。総合医には専門分化型の三次病院でのローテーション研修が必ずしも有効でない部分があり、卒前研修を含めた見直しの検討が必要。
  家庭医の人数を設定する議論よりも、質の議論が重要。幅広い日本の社会ニーズに応えられるような総合医の育成を行うことで、後期研修の枠組みに変化が生まれ、そういった流れは地域偏在や診療科偏在を解決する手段になりうる。

4.病院で活躍する総合医について
 日本総合診療医学会運営委員長 小泉俊三先生よりご講演をいただいた。
(5)病院における総合医のあるべき姿
病院における高度な細分化された専門領域での反省をもとに、患者の健康上の問題に幅広く対処するものとして総合診療が提唱された。キーワードは患者中心、チーム医療、EBM(科学的根拠に基づく医療)プラスNBM(経験や語りに基づく医療)、そして質・安全の向上の4つである。
  医師は科学者、職人、相談相手などさまざまな役割があり、専門医、総合医はそれぞれ別の機能を担っている。
  我が国においては、中小病院の医師は勤務医であっても、地域を担う家庭医の側面が強く、病院と診療所という二分法では見過ごされがちで、もっと焦点をあてるべき。十年ほど前から米国では病院内で総合診療を行っている医師がホスピタリスト(病院総合医)として活躍している。
  我が国でも総合内科専門医が病院総合医になるといった仕組みと、認証機関のあり方についての議論が必要である。
  家庭医療の三学会は近く合併するが、それぞれの診療の場に応じた議論と幅広い議論の両方が求められる。
 引き続いて、質疑応答が行われた。
  (6)家庭医、総合医の定義と位置づけの確認
  病院総合医は急性期の入院患者にも責任を持って対応したり、病院内で調整する役割を担うなど、地域の家庭医とは別の機能を持っている。また各領域の知識を持つ総合内科専門医とも、統合的な視点を持つという点で違いがある。研修の場としては病院の規模、院内の部門、へき地など専門診療の実態を知る、体験することが特徴である。
  家庭医とは診療所を基本に、地域、家庭、家族を中心にして一人の患者を継続的、包括的に診る医師。地域で身近に接し、地域の一次医療を担う。ただし責任診療の範囲が、都会では狭くなるなど地域によって差異は存在する。
  総合医による診療における見落としなどのトラブルが一部で懸念されているが、むしろ身近な相互理解、コミュニケーションなどによって不信の溝が狭まり、訴訟を未然に防ぐ効果もあり、信頼関係を築くことが重要。
  真摯にプライマリケアに取り組んでいる医師のネットワークが各地区にあり、連携や教育研修を進めていくことが望ましい。
  (7)医療政策、行政における基幹統計やデータベースの必要性
  日本での医療の構造に関する基礎的な統計データはほとんどなく、外国のモデルなどの概念的な議論にとどまっている。基幹となる統計やデータベースに基づいた議論が必要。
  (8)医師の教育と役割分担
  学部教育と前期研修を連携する考え方は重要であり、全員が診療科横断的にスーパーローテートする仕組みは見直すことを考慮すべき。
  総合内科専門医から総合医、家庭医へシフトする、家庭医と病院の総合医で連携するなど、さまざまな課程の研修や役割分担の形が考えられる。
  家庭医では諸外国では国の制度に応じて役割の適用を定めており、各国での定義をそのまま適用できない。研修目標や国民の求めるあり方、連携における役割などを含めて検討が必要。
  (9)三学会が合同した学会が目指す医師像とその質の担保
  地域の中で診療所中心に、主として外来と在宅をやる医師像を目指す。
  プライマリケアの領域は医療提供体制と密接に関連しており、望ましい医療のシステムから構想する必要がある。一方、プライマリケア領域の臨床医の質を保証する仕組みが必要。実地の医療を行う医療者が教育や育成にもっと関わるべき。

5.末期がん患者の在宅医療について
 川越班員から報告がなされた。
(10)末期がん患者の在宅医療
がん治療を行う病院から特に末期の患者の受け入れ体制において、地域の専門化した診療所が受け皿になることが必要。
  がん患者の在宅ケアは在宅医療のなかでも専門性の高い分野といえ、多様な知識や技術、学際的なチームアプローチなどが求められる。
  緩和ケア病棟を中心に在宅の終末期医療の教育研修を行うだけではなく、地域の診療拠点として緩和ケアクリニック(Palliative care clinic = PCC)を整備し連携して緩和ケアの実践や教育を行うべき。
  がん患者を対象とする終末期医療は経過が短く、疼痛緩和を中心とした症状緩和など、専門性の高い領域なので、地域にそのような医療を行う専門的な緩和ケア診療所を育成していく必要がある。

6.まとめ
(11)総合医と専門医の養成
後期研修をする総合医の数はそれ以外の専門医課程の合計人数の30-50%程度ではないか。専門医が中途から家庭医を目指す場合を含めるとより少なくてもよい。
  現状で大学病院では総合内科を専門として養成しているところは少ないが、総合診療を担う医師が病院内で役割を担って連携すると、臓器別の専門医と互いにうまく役割分担できる。
  日本版の総合医を考える上で、高齢者を支える医療、専門医に相対するプライマリケアを担う医師を養成するプログラムの認知が必要。
  家庭医、病院総合医など、総合的に診る医師が、一次医療を担うものとして、ある程度フリーアクセスを制限してプライマリケアを担い、その上で専門医へ連携するという緩やかなガイドを図るべき。
  終末期についても患者家族を含めた関係づくりが重要であり、家庭医の必要性が高い。

7.事務局連絡
以上


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