榊原圭子1)、藤崎和彦2)、中山健夫3)、岩隈美穂4)、原木万紀子5)、 木内貴弘6)
1) 東洋大学社会学部 社会心理学科、2) 岐阜大学 医学教育開発研究センター、3)京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻健康情報学分野、4)京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻医学コミュニケーション学分野、5)埼玉県立大学 健康開発学科 健康行動科学専攻、6)東京大学大学院医学系研究科 公共健康医学専攻医療コミュニケーション学分野
日本メディカルコミュニケーション学会は、医学・医療専門家相互のコミュニケーションについて学術的に議論する場として2021年度に発足した。本学会の主な研究領域は、メディアコミュニケーション(学術情報の流通・医療関係者への知識普及)および対人コミュニケーション(医療者相互の対人教育・研修のコミュニケーション)である。2022年度はヘルスコミュニケーションウィーク2022~名古屋~において、本学会学術集会・シンポジウム「医療者におけるメンタリング」を開催した。本学会が日本ヘルスコミュニケーション学関連学会機構の各学会と連携し、健康や医療に関わる「コミュニケーション」への知見を深め、そこに関わるすべての人(医療者、患者、社会)に貢献していくことを目指して活動を展開したい。
榊原圭子
東洋大学
社会が大きく変化する中、私たちは働き方や生き方をもっと主体的・自主的に考えていく必要がある。その時に重要な資源としてメンタリングがある。メンタリングはキャリア的支援・心理社会的支援・ロールモデル的支援を提供し、支援を受けるもの(メンティ)、支援者(メンター)の相互の成長、学び、発達を促進する。本稿では以下の3点について議論する。第一に、これまでの多くの研究は、メンタリングのワークキャリアへの効用に着目していたが、近年ではwell-beingの維持向上の側面にも注目が集まっていることである。第二に、社会の大きな変化に伴い、メンタリングが組織内・上下・一対一という関係と捉える伝統的な考え方から、組織内外・多様な関係・複数のネットワークへと新しい捉え方に変化していることである。第三に、メンタリングはキャリア初期における課題への対処資源だけでなく、キャリア中期や後期における課題、すなわち仕事と個人の生活の両立葛藤や次の人生の模索という課題への対処資源にもなりうることの検討の必要性である。そしてメンタリングを、人生を豊かに生きるための資源としてとらえ直し、それを実証していくことを提案する。
Richard Toshiharu Kasuya
University of Hawaii
Strong mentor-mentee relationships have been shown to be beneficial to both personal and professional growth of the mentee, and rewarding and satisfying to the mentor. As the value of mentorship becomes increasingly recognized in the workplace, it is important for professionals to appreciate and develop the qualities of effective mentors.
尾原晴雄
沖縄県立中部病院総合内科
近年、日本の医学教育においても、メンタリングは注目されている。卒後研修必修化が始まった約20年前から、医師のキャリア形成の変化と研修医のストレスに関する問題意識の高まりを受け、メンタリングの重要性が認識され始めた。最近では、医師臨床研修指導ガイドラインや指導医向けの書籍等で取り上げられ、組織的メンタリングプログラムを導入する研修病院も増えているが、指導医、研修医の間でメンタリングについての正しい理解が十分に浸透しているとは言えない状況である。また、実践での取り組みは進んだものの、日本人医師におけるメンタリングの特徴を探索する研究は、量的研究、質的研究ともに少ない。少ない知見からは、多くの医師にはメンターが存在しているが、欧米と比べて権力格差が比較的大きく、集団主義、不確実性回避,長期志向が強い日本の国文化と関連するようなメンタリング関係が特徴で、欧米で定義されているメンタリングの特徴との相違点が明らかになっている。欧米のメンタリングの単純な輸入ではなく、我が国の実情、文化に合わせたメンタリングのあり方について考える必要があり、そのためには実践の蓄積と、新たな研究の促進が求められる。
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