中山健夫1)、藤崎和彦2)、原木万紀子3)、榊原圭子4)、岩隈美穂5)、 木内貴弘6)
1) 京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻健康情報学分野、2) 岐阜大学 医学教育開発研究センター、3) 埼玉県立大学 健康開発学科 健康行動科学専攻、4) 東洋大学社会学部 社会心理学科、5) 京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻医学コミュニケーション学分野、6) 東京大学大学院医学系研究科 公共健康医学専攻医療コミュニケーション学分野
日本ヘルスコミュニケーション学会を起点とした関連領域の新たな学会として、日本ヘルスリテラシー学会に続いて日本メディカルコミュニケーション学会が発足した。 メディカルコミュニケーションは、広い意味でのヘルスコミュニケーションの中で、特に医学や医療に関する医学・医療関係者相互のコミュニケーションを想定し、主な対象として学会、学術集会における研究コミュニケーション、医師等の医療関係者を対象とする医学知識の普及・広報活動、医薬品・医 療機器の承認・申請等のコミュニケーションなどを課題とする。 2021年度はHealth Communication Week 2021, Hiroshimaにおいて、本学会主催シンポジウム「メディカルコミュニケーション-いくつかの視点から-」を開催した。新たに発足した日本メディカルコミュニケーション学会が、日本ヘルスコミュニケーション学会はじめ関連学会と連携し、健康や医療に関わる「コミュニケーション」の展望を拡大し、洞察を深化させていくことを目指して活動を進めたい。
中山健夫
京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻健康情報学分野
2014年、日本では生命科学領域におけるSTAP細胞、臨床研究領域における降圧薬ディオバンをめぐる不正が社会問題化し、科学・医学研究と研究者の育成は大きな見直しを迫られることとなった。不正行為は「故意又は研究者としてわきまえるべき基本的な注意義務を著しく怠ったことによる、投稿論文など発表された研究成果の中に示されたデータや調査結果等の捏造(ねつぞう)、改ざん及び盗用である」とされている。不正行為は故意のものに限定されず、必要な知識や注意義務の不足で生じたものも含まれる。研究の公正・不正は社会の耳目を騒がす一時の話題ではなく、科学と研究の在り方に始まり、研究を行う「人」が問われ、「組織」が問われ、「社会」が問われ、「国」が問われていく厳しい課題である。一方で、本来研究者が目指すべきものは「不正の無い研究」ではなく、「志の高い研究」であろう。研究本来の意味への積極的な視点と共に、研究者の自覚と研究者コミュニティの規範、組織の規則の順守により、研究を推進し、潜在的に生じ得るリスクを持つ不正をどのように防止していくか、私たち日本の研究者のintegrityが問われている。
榊原圭子
東洋大学社会学部社会心理学科
労働者のwell-beingは、提供される商品やサービスの質、さらには顧客満足度に大きな影響を与える。医療機関も例外ではない。患者に対する最善の医療の提供が医療機関の目標であるが、その実現には医療者自身のwell-beingが良好であることが必要とされる。しかし医療現場には過大な業務量、長時間労働、患者やその家族への対応の難しさ、職種の異なる医療者間での関係性など、様々なストレッサーが存在し、それらは医療者のwell-beingにネガティブな影響を与える。こうした定常のストレッサーに加え、今回のCOVID-19の感染拡大による影響は大きく、医療者のバーンアウト(燃え尽き症候群)の深刻さも報告されている。仕事のストレッサーを緩和し、モチベーションを高める要因として重要な役割を果たすのが「仕事の資源」であり、組織のコミュニケーションもその一つとして位置付けられる。本稿では、産業保健心理学の分野における代表的なモデルの一つであるJob Demands-Resources Model(JD-Rモデル)を用い、医療現場における組織コミュニケーションの重要性について議論する。
原木 万紀子
埼玉県立大学 健康開発学科健康行動科学専攻
コミュニケーションを行う際、言葉はもちろん視覚情報を用いることはコミュニケーションには不可欠であり、医療・医学分野においても、メディカルコミュニケーションにおける視覚情報はテクノロジーの普及も相まってその活用に注目が集まっている。 その一事例として国際ジャーナルにおける Graphical Abstract(GAs)の使用拡大が指摘される。投稿時に論文の要旨及び重要点を1枚の視覚情報にまとめビジュアル化することが医療系だけでなく科学分野のトップジャーナルをはじめとして求められるなど、一つのトレンドとなっている。しかし現状多くの医学・医療専門家は視覚情報を的確に作成するスキルや法的・倫理的必要要件を認識しているとは考えにくく、また視覚情報を“読む”ため、情報の受け手は視覚情報を分析・評価するためのスキルも求められる。今後、視覚情報を作成して情報伝達をしていく発信者だけでなく、視覚情報を分析し評価し情報を得る受け手、両者どちらの立場に立った場合でも円滑に視覚情報を用いたコミュニケーションが実施できるよう、本説では、Visual Literacy(VL)という概念に注目しメディカルコミュニケーションにおける視覚情報の重要性とその可能性について言及する。
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