モラル・セイント

(もらるせいんと moral saint)


道徳的に非の打ちどころがない人物のこと。道徳的聖者。

モラル・セイントと言えばスーザン・ウルフの`Moral Saints'(1982)が有名だが、 Encyclopedia of Ethics (2rd ed)に彼女自身が書いている 同名の項目によれば、 もともとはアームソンの`Saints and Heroes'(1958)に端を発している。 アームソンはこの論文で、 功利主義義務論は正しい行為をしたかどうかとか義務を果たしたかどうか とかいう話ばかりして、義務を超えるような英雄的行為 (いわゆるスーパーエロゲーション) について論じておらず、それゆえ道徳の議論を貧困にしている、と批判した。

ウルフの議論はこれとは異なり、単純に言えば、 道徳的な聖者はつまらない人間だ、というもの。 われわれは道徳的な事柄以外(道徳の領域)にもいろいろ関心を 持っており、しかもそれを正当と考えているのに、 功利主義や義務論が理想とする人間像といえば、 ひたすら幸福を最大化したり、定言命法に従って義務を果たす人間である。 こんな人間は道徳的には称賛されるべきかもしれないが、 道徳的聖者になるためにはオシャレもダンスも芸術観賞もできないとすれば、 まったく魅力的な理想ではない、というわけである。

こうした功利主義や義務論に対する批判は、 広い意味で徳倫理的な立場からのものと言える。

20/Jan/2004


KODAMA Satoshi <kodama@ethics.bun.kyoto-u.ac.jp>
Last modified: Thu Jun 30 17:43:04 JST 2016