道徳的に有意な違い

(どうとくてきにゆういなちがい morally relevant difference)

A morally relevant difference between two beings is a difference that rationally justifies treating them differently in some way that bears moral weight. If two of my students have the same grades on exams and papers, and have identical attendance and class participation, I am morally obliged to give them the same final grade. That one is blue-eyed and the other is brown-eyed may be a difference between them, but it is not morally relevant to grading them differently.

---Bernard E. Rollin

我々は、二人の性質や環境のうちに、二人の義務の違いを説明する合理的根拠と みなせるような何らかの違いを見つけることができない限り、 一つの行為がAにとって正しくBにとって不正であると判断することはできない。 それゆえ、もし私がある行為を自分にとって正しいと判断するならば、 私は暗に、私自身のものと何らかの重要な点で異ならないような性質や 環境をもついかなる他人にとっても正しい、と判断している。

---シジウィック

ある状況のどの特徴が道徳的に重要であるかという問いは、 どの道徳諸原則がその状況に適用されるかという問いになる。 すなわち、それらの原則の一つに現れるどの特徴も、[道徳的に]重要である。

---R.M. Hare

Much of the moral argument will hinge on which similarities and differences between cases are morally relevant, and that argument will often, though not always, appeal to general moral considerations.

---James F. Childress et al.


二人もしくはそれ以上の人に見られる違いのうち、 彼らを道徳的に異なる仕方で扱うことを正当化するような違いのこと。 道徳的に重要な違い。

たとえばA君とB君は両方とも宿題を忘れてきたという点で同じだが、 A君は目が青くて、B君は目が黒いとする。しかし、 目の色は道徳的に有意な違いとはみなされないので、 二人とも同様な仕方で罰しなければならない。

他方、C君も宿題を忘れてきたが、それは家が火事になり、 とても勉強をできる状況じゃなかったとする。 このことは、C君をA君やB君とは道徳的に異なる仕方で扱うことを正当化するので、 道徳的に有意な違いと言える。

この考え方は倫理学においては非常に重要であり、 さまざまな議論において用いられている。 たとえばJ・J・トムソンの有名な人工妊娠中絶擁護論においては、 「もし、目覚めたら高名なバイオリニストと身体がつながれており、 バイオリニストの病気が治るまで9ヶ月はそのままでいなければならない と言われたら、その通りに従えば誉められるかもしれないが、 たとえ断っても犯罪とはならないであろう。 これを認めるならば、人工妊娠中絶も認めなければならない。 なぜなら、両者のあいだには、道徳的に重要な違いが認められないからである」 という風な議論構成になっている。 (さらに詳しくはこのハンドアウトを 参照のこと)

また、シンガーの動物解放論や、 自国の人を外国人よりも大事にする倫理観の批判は、 人間と動物、同国人と外国人とのあいだに通常引かれている 「道徳的に重要な区別」が、詳しく検討すれば成り立たない、 という論法を用いている。

その他にも、たとえば 「ある男性と女性は同じときにある会社に入社し、 同じだけの仕事をしてきたにもかかわらず、 女性が係長どまりなのに、男性はすでに課長になって給与も多くもらっている」 という理由から女性社員が訴訟を起こす場合、 《男性と女性という性の違いは道徳的に重要な違いではないため、 このような差別待遇は正当化されない》という発想が基本にあると言える。

依存性の項も見よ。

13/Jun/2002; 11/Jul/2003追記; 04/Feb/2004追記


冒頭の引用は以下の著作から。


KODAMA Satoshi <kodama@ethics.bun.kyoto-u.ac.jp>
Last modified: Sun Jun 20 21:02:55 JST 2004