道徳的危険

(どうとくてききけん moral hazard)

福祉社会の評判もいたって悪い。過度の福祉はモラルハザード(倫理の欠如) を生むからつつしむべきである、と市場主義者はいう。要するに、 福祉給付は勤労意欲をそこなうというのである。たしかに、 病人、高齢者、失業者など、ネガティブな立場の人々への福祉給付が、 モラルハザード--福祉への「依存の文化」--を生むのは、 当然のこととしてうなずける。

---佐和隆光

福祉はなぜ悪いことなのか。福祉は勤労意欲を減退させるからである。 いわゆる「福祉頼み」の風潮が蔓延すれば、モラル・ハザード(倫理の欠如) が不可避となり、社会の活力はおのずから低下する。 社会の活力を維持するために、 セーフティーネット以上の福祉は差し控えるべきである。 これが新右派の見解である。

---佐和隆光


被保険者が、保険をかけたのをいいことに、そそっかしい行動をしたり、 不正な行動をしたりする危険のこと。モラル・ハザード。 倫理の欠如、倫理上の危険などとも訳される。

たとえば、火災保険をかけて安心し、火の扱いがおろそかになったり、 うまく放火に見せかけて自分の家を焼却し、 保険金で新しい家を建てたりするなど、 保険は保険をかけてなければ生じなかった行動や動機を生みだす。 この行動によって保険会社が被る被害(の危険性)のことを道徳的危険と呼ぶ。

また、 保守主義者とか新自由主義者と呼ばれる人が福祉国家を批判するときの典型的な論法の一つに、 「失業者や高齢者といった弱者を手厚く助けると、 弱者を甘やかして自立(自助努力)を妨げることになるから、 けっきょく弱者のためにならない」という批判があるが、 これもモラル・ハザードの一例である。

25/May/2001; 06/May/2002追記


冒頭の引用は以下の著作から。


KODAMA Satoshi <kodama@ethics.bun.kyoto-u.ac.jp>
Last modified: Wed May 28 10:17:19 JST 2003