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先天性心疾患

★総肺静脈還流異常に対する修復術

富山大学 第1外科
芳村直樹

病型分類と病態

総肺静脈還流異常(Total Anomalous Pulmonary Venous Connection:TAPVC)とは、本来左心房に直接還流すべき肺静脈がすべて右心系に還流しているもので、全先天性心疾患の1.5~3%を占めるとされている。右心系への還流血が増大するため、右心系は拡大し、左心系は低形成となる。しばしば肺静脈が右心系に還流する経路のいずれかに狭窄(Pulmonary venous obstruction :PVO)を生じて、重症例では出生直後よりチアノーゼ、哺乳力低下、呼吸促迫症状をきたし、重篤な肺うっ血、肺高血圧により死亡する。胎児期からPVOによる肺うっ血が生じていることもあり、そのような症例では肺内肺動静脈の壁肥厚やリンパ管拡張等の器質的変化が認められる。PVOが肺内まで及んでいる症例は最重症例であり、手術成績は極めて不良である。 本邦では病型分類として、肺静脈の還流部位で分類したDarlingの分類が多く用いられている1)。

① 上心臓型(I型):上下左右4本の肺静脈が合流して共通肺静脈腔を形成、垂直静脈を介して無名静脈に還流するもの(Ia型)と上大静脈に還流するもの(Ib型)に分類される(図1)。垂直静脈への流入部、垂直静脈から無名静脈あるいは上大静脈への流入部でPVOを生じる。総肺静脈還流異常の約45%にみられる。
② 心臓型(II型):4本の肺静脈が合流して共通肺静脈腔を形成して冠状静脈洞に還流するもの(IIa型)と、4本の肺静脈が合流もしくは別々に右心房に還流するもの(IIb型)に分類される(図2)。総肺静脈還流異常の約25%にみられる。
③ 下心臓型(III型):4本の肺静脈が合流して共通肺静脈腔を形成、垂直静脈となって横隔膜を貫き、肝静脈、門脈あるいは下大静脈に還流する(図3)。横隔膜貫通部、肝静脈、門脈あるいは下大静脈への流入部でPVOを生じることが多い。総肺静脈還流異常の約25%にみられる。
④ 混合型(IV型):上記I~III型が混合し、各肺静脈が異なる体静脈に還流する(図3)。総肺静脈還流異常の約5~10%にみられる。

図1:上心臓型
図1:上心臓型
図2:心臓型
図2:心臓型
図3:下心臓型、混合型
図3:下心臓型、混合型

手術

本症は心臓超音波検査で診断される。PVOの有無や程度も心臓超音波検査で診断可能である。心臓カテーテル検査は患児の病状を悪化させるので、通常は行われない1)。
 総肺静脈還流異常は、全例が手術適応である。特にPVOをきたしている症例に関しては内科的治療が無効であるため、原則として緊急手術の適応となる。患児の病態を慎重に観察し、適切な手術時期を設定することが望ましい。
Multidetector computed tomography(MDCT)は4本の肺静脈の走行を確認し、共通肺静脈腔や垂直静脈と左心房との位置関係を知ることができ、手術を行う際に大変有用な情報を得ることができる。患児の状態が許すならば、術前にMDCTを撮影しておくことが望ましい2)。総肺静脈還流異常に対する心内修復術は、共通肺静脈腔と左心房間の交通作成と、心房間交通の閉鎖からなるが、病型毎に標準術式(conventional repair)はそれぞれ異なる。

上心臓型(I型)、下心臓型(III型)に対する心内修復術

手術は中等度低体温体外循環下に行う。術前からPVOを生じている場合、心膜の吊り上げ等の操作によって循環動態が悪化することが多く、手術開始後、可及的速やかに体外循環を開始することが望ましい。上下大静脈のテーピングは体外循環開始後に行う。
上心臓型(I型)ではsuperior approach、下心臓型(III型)ではposterior approachが選択されることが多いが、施設によってはlateral approachが選択されることもある。Superior approachでは共通肺静脈腔と左心房との位置関係がそのまま保持されるため、吻合に際してそれぞれの切開線の決定が容易となり、また吻合口の捻れを生じるリスクが低くなるという利点がある2)。Posterior approachでは共通肺静脈腔全体の形態を把握できるという利点を有するが、心臓を脱転する必要があるため、吻合口の捻れを生じないよう左心房の切開線の決定は慎重に行う必要がある。
大動脈遮断、心停止とし右心房を切開する。卵円孔越しに左心房内を充分に観察し、左心耳、左心房の天井、僧帽弁輪の位置関係と左心房腔の容積を確認したうえで、心房切開線を慎重に決定する。特に左心房が非常に狭小な症例では左心房の天井から僧房弁輪までの距離が短く、心房切開の際に僧房弁を損傷しないよう充分に注意する必要がある。できるだけ左心耳や心房中隔に切り込むことなく1cm程度の切開線を確保する。共通肺静脈腔前面も同様に切開する。切開は共通肺静脈腔内に止め、各分枝に切り込まないよう注意する。吻合中は垂直静脈をスネアしておくことと、卵円孔を通して左心房内にベントカテーテルを挿入しておくと良好な視野が得られやすい。共通肺静脈腔と左房との吻合に際しては、PVOの原因となり得る肺静脈の捻れや内膜損傷を最小限にとどめるよう、繊細な吻合を心掛ける必要がある1,2)。吻合は7-0モノフィラメントの非吸収糸を用いて、刺入および刺出の際に組織の損傷を来さぬよう丁寧な吻合を心がける。吻合部のridgeは内腔に残さぬよう、吻合部は必ず外反させるようにする。吸収糸による生体反応、刺入および刺出時の組織の挫滅、内腔に突出したridgeなどは術後PVOのリスクとなる2)。吻合終了時、かならず卵円孔越しに充分に大きな吻合口ができていることを確認する。卵円孔の閉鎖は直接縫合あるいは必要に応じて自己心膜を用いてパッチ閉鎖する。大動脈遮断を解除し、心拍動を再開する。その際、垂直静脈のスネアを解除して左心系のベンティングを行う。心機能が回復した後、垂直静脈を結紮し換気を再開する。本疾患は左心系の容量負荷には極めて弱いので、体外循環離脱時にボリュームを入れ過ぎないように注意しなければならない。体外循環離脱時から術後急性期の左房圧モニターは有用である。

心臓型(II型)に対する心内修復術

いくつかの術式が報告されているが、cut back法が最もひろく行われている。手術は中等度低体温体外循環下に行う。通常通りの手技で体外循環を開始し、大動脈遮断、心停止下に右心房を切開する。拡大した冠状静脈洞より内腔を観察し、肺静脈開口部、共通肺静脈腔と左心房との隔壁を確認する。冠状静脈洞から左心房に向かって隔壁を切開していく。心臓型(II型)は術前にPVOを来すことはそれほど多くないが、術後は比較的高率にPVOをきたすことが知られている。したがってcut back法という術式名が付いているが、実際には隔壁を(心臓外に出ないように注意しながら)できるだけ広範囲に切除することが望ましい。切除断端の血栓形成を予防するために、7-0 モノフィラメント糸の結節縫合で内膜化を行っておく。ついで、心房中隔欠損孔と冠状静脈洞の開口部を自己心膜にてパッチ閉鎖する。その際、房室結節の損傷を避けるため、冠状静脈洞開口部では縫合線がやや内側を通るようにする。
Yamagishiら3)は共通肺静脈腔と左心房との隔壁をフラップ状に切開し、心房中隔欠損孔辺縁から冠状静脈洞にかけて縫着することによって、共通肺静脈から左心房への大きな開口部を得ることのできる術式を報告している。

Surureless pericardial repair

総肺静脈還流異常周術期の最大の問題点はPVOである。特に再手術と再狭窄を繰り返す症例の予後は極めて不良である。近年、肺静脈と心房壁の吻合は行わず、心房壁を肺静脈開口部周囲の心膜に縫着することにより肺静脈と心房との交通を作成するSurureless pericardial repairが用いられることが多くなってきた。当初は総肺静脈還流異常修復術後のPVOに対するsutureless repairの良好な成績が報告され4)、最近では単心室、下心臓型(III型)、混合型(IV型)等のハイリスク症例に対して初回手術からsutureless repair (primary sutureless repair)を行って良好な結果が得られたとする報告がみられるようになっている5,6)。本法は手技が容易で、吻合口の捻れや引き攣れが生じないこと、肺静脈壁に縫合糸がかかっていないため内膜増殖や肉芽形成が生じにくい等の利点を有する4-6)。
一般的に手術は中等度低体温体外循環下に行う。心嚢後面の剥離は最小限にとどめる。初回手術(primary sutureless repair)の場合も肺静脈前面を部分的に露出するのみとする。単心室症例に対するprimary sutureless repairの際には、上下大静脈のテーピングも行わないので、手術は超低体温循環停止下に行った方が容易である6)。初回手術の場合は露出した肺静脈前面に慎重に切開を加え、確実に内腔に到達する。術後のPVOに対する再手術の場合は狭窄した吻合部から鉗子を挿入して肺静脈の走行を確認したうえで、肺静脈前壁と心膜を同時に切開する。肺静脈はできるだけ大きく切開するが、肺門部を超えて胸腔内に出てしまわないよう充分に注意する。切開した肺静脈壁を数か所7-0 モノフィラメント糸の結節縫合で心膜に固定し、肺静脈前面が心嚢内に開口した状態を維持しておく。肺静脈開口部に相対する左房壁(単心室症例では心房壁)を切開し、この切開口を7-0 モノフィラメント糸の連続縫合で肺静脈開口部周囲の心膜に縫着する。心膜の裏面には肺静脈が走行しているので、これを損傷しないよう心膜を軽く摘み上げ、浅く縫っていく必要がある。また横隔神経の走行を確認し、これも損傷しないよう注意が必要である。

予後

術後の在院死亡率は10%前後と報告されている2)。特に、新生児例、低体重児、術前からPVOを呈した症例、下心臓型もしくは混合型、極端な左房狭小例、単心室症例の手術成績は不良である。10~20%の症例に術後のPVOが発生するとされている。術後にPVOをきたした症例の3年生存率は約60%であるが、PVOを生じなかった症例の予後は非常に良好で、殆どの症例は投薬も運動制限も必要のない生活を送ることが可能である2)。

参考動画

文献

  • 1) 保土田健太郎、鈴木孝明. 総肺静脈還流異常. 日本小児循環器学会編. 小児・成育循環器学. 診断と治療社;2018. P.461-4.
  • 2) Yoshimura N, Fukahara K, Yamashita A, et al. Current topics in surgery for isolated total anomalous pulmonary venous connection. Surg Today. 2014;44:2221-6.
  • 3) Yamagishi M, et al. Intraatrial rerouting by transference of the posterior left atrial wall for cardiac type total anomalous pulmonary venous return. J Thorac Cardiovasc Surg 2002; 123: 996-9.
  • 4) Lacour-Gayet F, Zoghbi J, Serraf AE, et al. Surgical management of progressive pulmonary venous obstruction after repair of total anomalous pulmonary venous connection. J Thorac Cardiovasc Surg. 1999;117:679-87.
  • 5) Yun T, Coles JG, Konstantinov IE, et al. Conventional and sutureless techniques for management of the pulmonary veins: Evolution of indications from postrepair pulmonary vein stenosis to primary pulmonary vein anomalies. J Thorac Cardiovasc Surg. 2005;129:167-74.
  • 6) Yoshimura N, Oshima Y, Henaine R, et al. Sutureless pericardial repair of total anomalous pulmonary venous connection in patients with right atrial isomerism. Interact Cardiovasc Thorac Surg. 2010;10:675-8.