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血管

★胸部、腹部ステントグラフト内挿術

東京慈恵会医科大学外科学講座 血管外科
原 正幸 / 大木 隆生

1、はじめに

2006年、我が国で初めての腹部ステントグラフトの薬事承認を得た。その後2008年に初めての胸部ステントグラフトが薬事承認を得た。それから十数年が経過した現在、大動脈瘤や大動脈解離の治療の選択肢の一つとしてステントグラフト内挿術は重要な選択肢となった。外科系のすべての分野が低侵襲治療へ傾倒していく中、日本心臓血管外科学会の会員である我々はopen surgeryのみならず低侵襲治療に習熟する事は重要であると考えられる。低侵襲化に伴い他の分野からの参入もあるが大動脈の治療は我々心臓血管外科医が主たる立場で担うべき治療と考えるのでこの項で学んで頂きたい。

2、適応

適応に関しては2020年7月31日発行の2020年改訂版大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドラインに則って説明する。

腹部大動脈瘤

腹部大動脈瘤の治療の適応は①動脈瘤の最大短径が男性55mm以上、女性50mm以上とされている(本邦においては成績も良好な事から、また体格においても日本人か欧米人に比して小さい事から50mm以上での手術は許容されている)。②嚢状瘤。③半年で5mm以上の瘤径拡大が治療適応となっている。一般的にこれらで手術適応となった場合はEVARか人工血管置換術となるが、EVARの解剖学的な要件を満たす腎動脈下 AAA症例におけるEVARと人工血管置換術(open surgery)の選択は今尚、議論の多いところである。短期的な治療成績は生命予後と有害事象の観点から、複数の RCTにより EVARの優位性が証明されているが、長期成績ではこれらが逆転し、open surgeryの方が良好である。このため両方の術式(open surgeryとEVAR)が可能な症例においては,長期予後を見込みにくい症例ではEVARを,10年以上の予後が期待される症例においてはopen surgeryが優先されるべきである。open surgeryの高リスク症例・不能症例に対する治療は EVARの良い適応である。

胸部大動脈瘤

胸部大動脈瘤の治療適応は一般的に、最大短径55 mm以上,あるいは6ヵ月で5 mm以上拡大する急速増大例である。Marfan症候群のような結合織疾患などでは45 mm以上で侵襲的治療を検討する。腹部大動脈瘤と同様に嚢状瘤の場合はこれ以下の径でも破裂リスクが高い場合があるので注意が必要である。
胸部大動脈瘤の中でも、弓部大動脈瘤では標準術式は全弓部置換術(open surgery)であるので耐術能が十分な症例には当然、open surgeryを行うべきである。しかし、大動脈瘤は高齢者に多い病気であるので、open surgeryハイリスク症例に対しては開窓型ステントグラフトによるTEVARやハイブリッドTEVARを考慮する。この内、弓部大動脈瘤に対する保険適応内のステントグラフト治療は開窓型で分枝血管対応型ステントグラフトであるNajutaのみであるが、Najutaは万能ではなく、主に遠位弓部瘤を得意としている。頸部分枝からの距離が十分に確保出来れば使用可能であるのでZone1~2の部位に存在してもそれが小弯側で頸部分枝から離れていれば使用可能である。逆に左CCAや左SCAとの距離が近い症例ではbypassなどによるdebranch後に行う事は可能である。胸部下行大動脈瘤では解剖学的にも比較的屈曲も少なく、重要な分枝血管もないのでTEVARがopen surgeryに比して利点が多いと考えられている。

3、術前準備と麻酔

大動脈瘤の患者は他の動脈硬化性疾患の併存が多いので、術前の動脈硬化性疾患のスクリーニングをする事が重要である。術前に耐術能が4METs未満の症例には精査・治療介入を検討する。麻酔方法は特にガイドラインでは示されていないが、EVARであれば局所麻酔で行う事は可能である。しかし、循環動態の安定化や患者の精神的な負担の観点からも、全身麻酔可能症例に対しては全身麻酔で行うべきである。当科ではほとんどの症例で全身麻酔下でEVARを施行している。また、カテーテル手術ではあるが、大動脈の手術であるため、術野から目を離すのは好ましくない。これらの観点から通常は手術室看護師によるサポート受ける体制(手洗いを行った機械出しの介助の看護師、外回りの看護師の2人体制)が望ましい。また、体内に人工物を留置する手術であるため清潔面からも血管撮影室ではなく、手術室内で行う事が好ましいと考えられる。

4、手技の解説

大腿動脈のcut down

鼠径部のcut downでは鼠径靭帯のすぐ下で皮膚割線に沿って横切開するとリンパ組織なども少なくリンパ瘻のリスクも低い。透視下で確認する場合は大腿骨頭の前面が最も動脈が浅く奏功する部位である。縦切開をする外科医も多いが、縦切開で一旦大きく切開すると今後のreinterventionの可能性を考慮した場合、穿刺・cut downいずれも難しくなるので横切開を勧めたい。皮膚切開の長さは肥満などがない限り約3cmで十分である。通常、皮膚切開は鼠径靭帯直下が良いが、術前の画像で総大腿動脈分岐を評価しておく事が重要である。特に深大腿動脈の分岐の高さを把握する様に心掛ける。Deviceの刺入部はシース抜去後に直ちに止血が得られるように5-0 proleneの糸をvideoの如くかけておく(pre-close suture)。
※手術時間の短縮のために先に穿刺部にpre-close sutureを5-0proleneでかけているが、sheath抜去後に遮断してrepairする方法が基本である。
※OHKIバーム: OHKI invents, X線透過型開創器: CHARMANT,

腹部ステントグラフト内挿術 (EVAR)

Device: Zenith alpha abdominal
麻酔:全身麻酔
①両側鼠径部をcut downし、CFAを露出。テーピングした。
〈cut downや穿刺が終わった段階でヘパリンの全身投与を行う。ステントグラフト術の場合、ACTで250~300の間コントロールで管理する〉
②5-0proleneでpre-close sutureをおき、それぞれ9Frのlong sheathを留置。
③メインのアプローチの対側(左)よりradifocus & pigtailを挿入し、大動脈造影を施行。術前のsizingと大きな相異がない事を確認する。
④IMAが開存しており、typeⅡEL予防としてコイル塞栓を行う方針とした。右側よりradifocus & RDCを使用してIMAの起始部にカテーテルを引っ掛けて、そのままmicro catheterを挿入した。IMAにcannulation後に今回は、micro coilを留置した。
⑤右側よりImpress越しにAmplatz super stiff wireを挿入し(shaggyなどの特殊な理由がない限りstiff wireは上行大動脈まで挿入)、Main body: Zenith alpha abdominalを挿入した。
※sheath挿入(Zenithはdeviceとsheath一体型)の際には屈曲があると稀に血管外へ破裂する事もあるので透視下で確認しながら挿入する様に心掛ける。
※Main bodyは体内へ入れる前に透視でcontra gate向きやmakerを再度確認しておく。
⑥造影にて左腎動脈の位置を確認し、contra gateが開く位置までdeploymentした。
⑦Contra gate(対側)へのcannulationを行った。
※対側脚のgateへのcannulationの際には、当科では通常、RIMを使用する。RIMはcatheterの先端を切ると角度を調節できるので汎用性の高いcatheterである。直線に近い場合はImpressを、逆に屈曲が強い場合や瘤内に脚が逸脱している場合はSHなどのcatheterを使用すると良い。
cannulation後にcatheterがmain bodyのdevice内である事を確認するために、neck付近でcatheterを回転させる。当然であるがdeviceの中であれば、クルクル回るはずである。逆に簡単に回転しなければdevice外である可能性があるので確認が必要である。当院ではこれをクルクルサインと呼んでいる。(クルクルサインの確認)。施設によっては造影剤を注入してdevice内である事を確認している。いずれの方法でも良いが、cannulationが成功したと思いこんでmain bodyの外にlegをdeploymentすると非常に重篤な合併症に繋がるので常に注意して手術をする必要がある。
※対側cannulationが困難な場合は同側をlegまで完成させた後に同側の方からRIMやSHなどのcatheterを使用してwireを瘤内まで誘導し、それを対側からスネアでキャッチしてpull-through wireを完成させる方法がある。
⑧対側のcannulation後、catheter越しにAmplatz super stiff wireを挿入。sheath造影にて左IIAの分岐を確認し、legを、IIAをcoverしない様にdeploymentした。CODA balloonにてtouch upし、造影にてtypeⅠbなどのendoleakのないことを確認した。
⑨次に同側すべて展開し、sheath造影にてIIAの分岐を確認した後、legを、IIAをcoverしない様にdeploymentした。CODA balloonにてtouch upし、造影にてtypeⅠbなどのendoleakのないことを確認した。
⑩中枢neckもCODA balloonにてtouch upし、TypeⅠa endoleakのないことを確認した。 ⑪最終大動脈造影を施行し、endoleakのない事を確認。sheathを抜去し、pre-close sutureの糸を結紮(刺入部の血管吻合でも良い)。
⑫翼状針造影を施行し、吻合部に解離や狭窄のないことを確認した。プロタミンにて中和後、創閉鎖し、手術を終了した。
⑬足の脈を触知して術前と比して問題ない事を確認する。
※術直後にアクセス血管である足の血流の評価(視診、触診)は重要である。

胸部ステントグラフト内挿術 (TEVAR)

Device: C-TAG(アクティブコントロールシステム), Najuta
麻酔:全身麻酔
①右鼠径部、右上腕動脈cut downした。右CFA、右上腕動脈をtaping。左上腕動脈をmicro puncture kitで穿刺し5Frのsheathを挿入した。
〈Cut downや穿刺が終わった段階でヘパリンの全身投与を行う。ステントグラフト術の場合、ACTで250~300の間コントロールで管理する〉
②右上腕動脈はコの字型にタバコ縫合6-0proleneをかけた。右CFAは5-0proleneでpre-close sutureをかけて9Frのsheathを挿入した。
③右CFVにもこの字型に5-0proleneをかけて5Frのlong sheathを挿入した。右室内にpacing leadを入れて一旦テストした。pace makerに乗る事を確認した。
※Najutaは骨格が非常に弱く、支持性が他のステントグラフトに比して弱い。このため当科ではNajutaを使用する際に、deploymentの時に心拍動下では強い血流を受けて流されるので、予防処置としてRapid pacing下でdeploymentを施行している。
※CFVは前面のみの剥離でtapingは行っていない。
④右上腕動脈にツインシースを挿入した。pigtailで大動脈造影を行った。術前のサイジングと相違ない事を確認した。
※弓部大動脈瘤の手術の際にはpigtailは右上腕動脈のシースから挿入している。CFAから入れて上行大動脈に留置するとdevice deploymentの度にpigtailを抜いて、再挿入する作業が増えるのでそのように対応している。
※ツインシースは側方のポートから4Fr pigtailを挿入してmain routeにNajuta delivery用の0.032 inchのradifocus(400cm)を挿入している。
⑤左右上腕からKMPを挿入して椎骨動脈造影を行い、術前のCTと同様に左右の椎骨動脈の交通がある事を確認した。
※当科では左右の椎骨動脈の交通がはっきりしている場合、左鎖骨下動脈を再建しない事が多い。左右の椎骨動脈経由の側副血行が発達している人であれば、左SCAのorificeを閉塞しても日常生活にほぼ支障がない。
⑥左から10mm-2cmのPTA用のmicro balloonを0.014inch wire越しに挿入して左鎖骨下動脈(血管径9mm)の起始部にparkした。
⑦大動脈内のwireをlunderquist wireに変更した。24FrのDry seal sheathを挿入した。deploymentmentに備えて純酸素の状態とした。
※Najutaは穴がずれた場合、頸部分枝の完全閉塞もあり得るので、それを想定した準備が必要である。当科ではすぐCCAをcut downできる様に、CCAをマーキングし消毒してドレーピングしている。頸部分枝再建の方法は多くあるが、Najutaで頸部分枝をcoverした場合はまずはradifocusなどのwireを通してPTA様のballoonを入れてgutterを意図的に作成する事で脳血流を担保でき、少し頸部分枝再建の方法を考える時間的余裕ができる。緊急時には最も簡便なbail outの方法はchimney法であるので、それらの対応ができる様にdeviceの準備はすべきである。
⑧sheath内にTAGを挿入した。下行まで挿入し一旦parkして頸部をmanual compressionとLt.SCAをballoon clampをして脳血管のprotectionを施行した後にdeviceを所定の位置へdeliveryした。
⑨sealingのためには左SCA50%coverくらいが必要と考えた。その部位でTAGをdeploymentし、予定の位置にdeploymentできた。
⑩wireを0.032inch のradifocus 400cmに変更し右上腕と左CFAで7Frスネアを使用してpull-through wireとした。24FrのDry seal sheath内にNajutaをdeliveryした。
※Najutaの弓部用のdeviceはsheathの屈曲が強くCIA,EIAに容易に解離などのトラブルを起こす。この予防として血管径が大きくなる下行までは、できるだけdry seal sheath内を通す様にしている。Dry seal sheathを根元まで入れると、概ね横隔膜レベルまで届く。
⑪TAGの際と同様に胸部下行で一旦parkして頸部のmanual compressionの後、所定の位置へdeliveryした。
⑫Najutaのdeploymentを開始した。2ステント目の途中までsemi-deploymentした後 rapid pacing開始、A-line上flatとなったのを確認してNajutaをfull-deploymentした。予定の位置でdeploymentできた。
※2stent目が完全に開くとdeviceは大きく広がり始めて血流を受ける様になるのでその前にrapid pacingを開始する必要がある。Najutaはdeploymentの操作が硬く、unsheathに時間がかかるので、最初からrapid pacingを使用すると拍動が停止している時間が長くなる。このため1.5ステントくらいまでunsheathした時点でのrapid pacing開始が適当である。
※rapid pacing後に稀にVFとなる事があるので、電気的除細動器(DC)のスタンバイとすぐに心臓マッサージをする準備をしておくことが必要である。
⑬先端チップの回収は非常にゆっくり行った。
〈Najuta展開後は内骨格のために、Najutaの骨格に引っ掛からない様にすべての操作をゆっくり且つ慎重に行う必要がある。また、Najuta内をwireやcatheterを通す際には透視下で必ず行う必要がある。〉
⑭左SCAの起始部にtypeⅡendoleakの予防のためにコイル塞栓(バスキュラープラグを使用する事も多い)を行った。左の椎骨動脈の起始部まで閉塞させない様に造影で確認してからコイル塞栓を行った。
⑮弓部大動脈造影でendoleakがない事を確認した。このため、tri-lobe balloonによるtouch upは行わなかった。行う際にはNajutaは内骨格のため非常にズレ易いのでその点に十分に留意する。ゆっくりballoonをdeliveryする事が肝要である。
⑯アクセス造影にてアクセス血管であるCIAからEIAを造影して解離・破裂などを評価する。
※特にアクセス血管の破裂・解離はシースやデバイスの太いTEVARで発生し易い。当科でもこれまで完全に体内でちぎれた症例などを経験している。これまでの経験ではEIAの破裂ではほぼ心停止に近い状態に至るのに1分もかからない。この際に重要な事はまず、手術室内にocclusion balloon(PTA用でも中枢の遮断が可能であれば問題ない。)を置いておくことである。また、続いて必要となるのはステントグラフトである。VIABAHNが破裂であれば適応内で使用可能となるので、TEVARの際には必ず準備して置く必要がある。
⑰最後に右CFAのrepairした部分は翼状針造影で確認する。
⑱足の脈を触知をして術前と比して問題ない事を確認する。

(略語)

CIA: common iliac artery, EIA: external iliac artery, IIA: internal iliac artery, CFA: common femoral artery, CFV: common femoral vein, SFA: superficial femoral artery, DFA: deep femoral artery, IMA: inferior mesenteric artery, BCA: brachiocephalic artery, CCA: common carotid artery, SCA: subclavian artery

(使用デバイス)

Stentgraft
Zenith Alpha Abdominal Endovascular Graft: COOK Medical
GORE® TAG® Conformable Thoracic Stent Graft with ACTIVE CONTROL System
Najuta Thoracic Stent Graft System: KAWASUMI LABORATORIES, INC.

Wire
radifocus: radifocus guide wire(0.032inch, 0.035inch) TERUMO
Amplatz super stiff wire: Amplatz super stiff wire (260cm0.035inch), Boston Scientific
Lunderquist wire: Lunderquist Extra stiff DC wire Guide (300cm,0.035inch), COOK Medical

Catheter
Impress: 4Fr BERN Impress (65cm,100cm), MERIT MedicalTM
Pigtail: pigtail catheter (100cm), COOK Medical
RIM: 5Fr RIM catheter (65cm), COOK Medical
RDC: 4Fr RDC A1 catheter (80cm), Cordis

その他

micro puncture kit: COOK medical
CODA balloon: COOK medical
Tri-lobe balloon: GORE
Dry seal sheath: GORE

5、術後管理

周術期の管理としては合併症の評価が必要である。特に脳梗塞やその他の塞栓症は診察にて早期に発見する事が可能であるので怠らない様にすべきである。当院では原則、全身麻酔後4時間は誤嚥のリスクから経口摂取を不可とし、その後、水分摂取開始し問題なければ食事開始としている。上腸間膜動脈などの分枝の処置を行う様な枝付きステントグラフト術でなければ、当日夕方から食事開始は可能である。術後の大動脈瘤内の血栓化に伴う発熱とCRPの上昇は患者に十分説明して、長く持続するようなら受診をするようにお話しして早期の退院を促す。当科では術後経過に問題なければ、EVAR術後3~5日が退院の一つの目安となっている。TEVARもbypassや頸部分枝再建のための頸部のcut downなどがなければほぼ同様のコースで退院の判断をしている。晩期の管理としては主にendoleakが評価が重要である。造影CTは術後1か月、6か月、12か月に施行している。endoleakが消失した場合には年一回のフォローとしている。

6、参考文献

・2020年改訂版大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン