Japanese Journal of Cardiovascular Surgery Vol50,No.3

Epicardial Ablation of Ventricular Tachycardia by Re-median Sternotomy in a Patient with Double Mechanical Heart Valves
Masato Suzuki* Yohei Ohkawa* Hideo Yokoyama*
Toshiro Ito* Kiyotaka Morimoto* Shunsuke Ohori*

(Cardiovascular Surgery, Hokkaido Ohno Memorial Hospital*, Sapporo, Japan)

The patient is a 39-year-old-man who had rheumatic heart disease and had undergone mitral and aortic valve replacements with mechanical St. Jude prostheses as well as tricuspid valve repair and a MAZE procedure 17 years previously. He was admitted with ventricular tachycardia(VT)and an implantable cardioverter-defibrillator(ICD)was implanted. Four months later, he was admitted again with VT, and attempts to manage the VT with drugs were not successful. We performed electro-anatomical mapping and ablation for VT by re-median sternotomy. His postoperative course was uneventful. At 15 months after surgery, no recurrence of VT was recognized.

 

Jpn. J. Cardiovasc. Surg. 50:174-177(2021)

Keywords:ventricular tachycardia;epicardial ablation;mechanical valve;re-median sternotomy

現在,心室性不整脈に対し多くの施設で高周波電流を用いたカテーテルアブレーションが行われ,アブレーション技術の進歩とともにその成功率は年々あがっている.しかし内科医単独での治療が困難で,外科医の協力を要する特殊な状況もありうる.今回われわれは,機械弁による二弁置換後のため経皮的に左室へアクセスすることが困難な心室頻拍に対し,再胸骨正中切開下に心外膜アブレーションを施行した症例を経験したので報告する.
 症例:39歳,男性.
 主訴:特になし.
 既往歴:22歳時,心原性脳塞栓症を契機にリウマチ性弁膜症と診断され,大動脈弁置換術(23mm SJM),僧帽弁置換術(27mm SJM),三尖弁形成術(30mm Cosgrove ring),MAZE手術を施行された.周術期心筋梗塞を合併したものの,以後は安定し,近医にて通院フォローされていた.
 現病歴:意識消失を主訴に近医に救急搬送され,心室頻拍(VT)を認めたため電気的除細動を施行後,当院へ転送された.薬物治療の開始(カルベジロール2.5mg/日,アミオダロン100mg/日)および植え込み型除細動器(ICD)を装着し,自宅退院した.4カ月後にICD作動を認め,当院入院にて薬物治療を強化(カルベジロール5mg/日,アミオダロン200mg/日)のうえ,自宅退院した.その2カ月後,ふたたびICD作動し,当院に救急搬送された.自宅から当院に救急搬送されるまでの間に,計10回のICD作動(除細動のみ,すべて適切作動で成功)を認めた.
 入院時現症:意識清明.身長 179cm,体重 68kg,血圧 120/60mmHg,脈拍 100/分・整.
 入院時血液検査所見:WBC 9,000/μl,Hb 12.7g/dl,PLT 3.36×105/μl,LDH 522U/L,CPK 112U/L,PT-INR 1.66,NT-proBNP 295pg/ml.  胸部レントゲン(仰臥位):肺うっ血所見なし.
 心電図(当院搬送後の初回VT出現時):心拍数 184/分,心室頻拍(Fig.1).その後出現したVTの心電図波形はこの1種類のみであった.いわゆる偽デルタ波を伴い,Maximum deflection indexは0.632で,心外膜起源を示唆する所見であった.
 心エコー:後下壁akinesis菲薄化を伴う,側壁severe hypokinesis,左室拡張末期径 64mm,左室収縮末期径 49mm,左室駆出率 46%,機械弁(大動脈弁および僧帽弁)の解放ならびに閉鎖は良好,TR trivial.
 冠動脈造影(ICD植え込み前):有意狭窄なし.
 ガドリニウム造影MRI(ICD植え込み前):左室後下壁から側壁の外膜側に遅延造影像陽性,同部位に瘢痕化を認めた.
 FDG-PET/CT(ICD植え込み前):炎症性集積を認めなかった.MRI,FDG-PET/CT所見などから陳旧性心筋梗塞と診断した.
 入院後経過:当院到着後もVTのコントロールは不良で,薬物治療(ランジオロール持続静注5μg/kg/分,ニフェカラント持続静注0.1mg/kg/時にてQTc 0.5~0.55秒)では抑制できず,入院から6日後より鎮静し,人工呼吸器下での管理とした.機械弁による大動脈弁および僧帽弁置換術後にて,左室への経皮的アクセスが困難であり,開胸下でのアブレーション治療を行う方針となった.開胸下の心外膜マッピングは,カテーテル下の心内膜マッピングとは異なり,方法論が確立しているものではないが,開胸下にVTを誘発し心外膜電位を記録し,コンピュータ上にVTの興奮伝播を3Dマッピングする方針とした.手術は鎮静から3日後に行った.鎮静後はVTの出現を認めなかった.
 手術:ハイブリッド手術室にて,まず手術台に3Dマッピング用のロケーションパッドを固定し,3DマッピングシステムのCARTO 3システム(Biosense Webster)にてマッピングを行った.再胸骨正中切開し,可及的に心臓周囲の●離後,右大腿動静脈送脱血で人工心肺を開始した.その後,心臓裏側の●離を追加し,心室周囲をすべて●離した.左室心尖部より8Frシースを留置し,左室内腔よりマッピングおよびアブレーションを行う際のアプローチ経路とした.右大腿静脈から電極カテーテルを挿入し,右室内に進めた.アブレーションカテーテル(Navistar Themocool ST/SF, Biosense Webster)を用い,洞調律下に心外膜側と心内膜側において電位波高のマッピングを行いvoltage mapを作成し,心内膜側は正常心筋であり,心外膜側の後側壁に広範な低電位部位を同定した(Fig.2A, B).右室カテーテルよりVT誘発を試みたが3連期外刺激まで行うも誘発されず,左室のアブレーションカテーテルでも誘発不能であった.イソプロテレノール負荷を行い,誘発を繰り返すと,200bpm程度のVTが出現した.開胸時における12誘導心電図でのVT波形の胸部誘導は,閉胸した状態の波形から変化する可能性があることを考慮すべきであるが,過去に確認された波形とほぼ一致しており,臨床的VTと考えた.VT中の血行動態は人工心肺により維持された.VT中にリング状カテーテル(LASSO, Biosense Webster)を用いて心室表面から直接電位を記録し,activation mapを取得,後側壁心尖部から基部方向に伝播する緩徐伝導路を同定し,8の字型リエントリー回路と推定された(Fig.2C白線部).緩徐伝導路付近のカテーテル操作でVTが誘発され,拡張期電位が認められることから,そのまま高周波アブレーションを行うと9秒程度でVTは停止し,同部位が必須興奮伝導路と考えられた.周囲に焼灼を追加し,焼灼巣を目印として,梗塞部位の周囲(境界域)へクライオプローブによる凍結凝固を-60℃,2分間ずつ追加した(Fig.2C黄線部).凍結凝固後に再度誘発を試みたが,非持続性心室頻拍まででVTおよびVFともに誘発不能となっていることを確認し,終了した.CARTO 3システムで使用できるマッピングカテーテルは,開胸下心外膜側におけるマッピングの場合,カテーテル電極のインピーダンスによる位置補正ができないため,磁気センサー付きのアブレーション用カテーテルと,一部のリング状カテーテルのみである.したがってVT中の効率的なマッピングのため,多電極を有するリング状カテーテルを使用した.術野もできるだけ非磁性体の器具を用いて,カテーテル位置の精度を保つように努めた.また,voltage map作成の際は,開心術後のため癒着瘢痕組織がtarget領域の周辺にも存在し,電位が拾いにくい部分もあることを考慮し,voltage mapのcolor thresholdをさまざまに設定して低電位領域を検討した.体外循環時間は5時間25分,手術時間は9時間4分であった.
術後経過:第1病日に人工呼吸器を離脱した.術後は洞調律を維持し,循環動態は良好であった.第27病日に施行したエルゴメーター負荷心電図で,心室性期外収縮3個を認めたが,心室頻拍を認めなかった.第28病日に自宅退院した.術後9カ月でアミオダロンは中止し,現在術後15カ月が経過したが,VTは認めていない.
考   察
 心室で発生する不整脈は心室細動(VF),心室頻拍(VT)に大別され,どちらも重篤な症状をきたし突然死となる不整脈としてその診断,治療は臨床的に重要である.VTによる心臓突然死を予防するにはICDが有用である1)が,ICDは不整脈そのものを治療してVTの出現を防止するわけではなく,ICD植え込み後もVTが発生する可能性は依然として変わらない.頻回にVTが発生するとさらに不整脈が発生しやすい状態となり,心機能にも悪影響をもたらし2),VT自体に対する治療が必要となる.
 虚血性心疾患に合併するVTの多くは,心筋虚血により線維化した瘢痕組織と傷害心筋,そして周囲に存在するダメージを受けていない正常心筋を含めた領域において生じるマクロリエントリー回路がその発生機序とされる.1993年Stevensonらによって陳旧性心筋梗塞由来の心室頻拍回路モデルが提唱された3).これによると,心筋梗塞によって形成された瘢痕組織が刺激興奮伝達の障壁の役割を担い,瘢痕組織間に存在する障害心筋が緩徐伝導領域として機能,そして瘢痕組織の周囲に存在する正常心筋が,緩徐伝導領域の出口(exit)から抜けた興奮を緩徐伝導領域の入口へ伝える際の伝導路としての役割(outer loop)を果たすことで,8の字型リエントリー回路が形成される.モデルに存在する緩徐伝導領域には,リエントリー回路の必須興奮伝導路である共通回路(common pathway),common pathwayから分岐し興奮が瘢痕組織によって行き止まりとなるdead-end pathway,およびcommon pathwayから分岐した興奮が瘢痕組織間を通り,再びcommon pathwayの入口へとつながるinner loopが存在する(Fig.3).この概念はその有用性が確認され,今日においても幅広く使用されている.
 Electro-anatomicalマッピングは,電極先端の空間的位置を,電磁波を用いて連続的に測定し,コンピュータ上に局所電位とともに電極位置を3D表示するものである.CARTOシステムなど3Dマッピング装置を使用すれば,心筋の瘢痕領域を低電位領域として描出し,頻拍回路も可視化されるようになった4).アブレーション施行時は,この回路を遮るように高周波通電を行うことで致死性不整脈の治療成績が向上している.  現在,カテーテルアブレーションは,器質的心疾患を伴う重症VTのICD植え込み後のショック作動抑制や予後改善には重要な治療法であり5),薬剤,ICDなどと組み合わせたハイブリッド治療の中心として考えられている.一方,カテーテルアブレーションが無効または施行不可能な場合は,手術治療の適応となる.VT手術には,マッピングを行わずに肉眼的に白色線維化と認められる心内膜を切除し凍結凝固する手術6)と,術前あるいは術中の電気生理学的検査所見に基づいてVTの発生起源あるいは興奮旋回路に対して手術を行うMap-guided手術がある7,8).
 本症例は,周術期心筋梗塞を合併した開心術後の遠隔期に,難治性VTを発症し,常温体外循環下にマッピングを行い,心外膜からのアブレーションによってVTを抑制し得た症例である.機械弁による二弁置換後のため経皮的に左室へアクセスすることが困難であり,またVTの心電図所見からは心外膜起源である可能性が高く,心外膜アブレーションの適応と考えた.機械弁による二弁置換後以外の理由で,心外膜アブレーションが適応となる場合としては,心外膜起源の不整脈,心内膜側アブレーションが不成功,左室内血栓の存在下でアブレーションが必要,などがあげられる9).
 開心術後の心外膜アブレーションの方法として,心窩部に小切開をおき心膜を切開後,癒着を鈍的に●離して心外膜への直視下アプローチを行う報告もある10).本症例では,鎮静レベルを浅くするとVTが出現する危険性があり,また人工呼吸管理が長期化することを回避したく,さらに術前の心エコーや心臓MRIなどの画像検査にて,心筋の瘢痕化組織が左室後側壁の僧帽弁輪に近接した部位にあることが予想されていたため,マッピングおよびアブレーションを行う上での良好な視野展開を優先し,侵襲は大きくなるものの最初から再胸骨正中切開および体外循環下でのアブレーションを選択した.
 本症例では,アブレーションによるVT停止後,VTの基質となり得る伝導路を治療するため,梗塞部位および梗塞と健常の境界にみえる部位について,凍結凝固を追加した.ただし,左室心内膜の観察はしていないため,凍結凝固が全層性か否かの確認を肉眼的に行うことはできなかった.  本症例は現時点で術後15カ月が経過しており,これまでVTの再発を一度も認めていないが,文献的には心外膜アブレーションを施行した218例において,平均17.3カ月のフォロー期間で31.4%が再発したと報告されており11),今後も注意深い経過観察が必要であると考えている.

文   献
1) Moss A, Hall W, Cannom D et al. Improved survival with an implanted defibrillator in patient with coronary disease at high risk for ventricular arrhythmia. N Engl J Med 1996;335:1933-40.
2) Moss A, Schuger C, Beck C et al. Reduction in inappropriate therapy and mortality through ICD programming. N Engl J Med 2012;367:2275-83.
3) Stevenson W, Khan H, Sager P et al. Identification of reentry circuit sites during catheter mapping and radiofrequency ablation of ventricular tachycardia late after nyocardial infarction. Circulation 1993;88:1647-70.
4) Gapstein L, Hayam G, Ben-Haim S. A novel method for nonfluoroscopic catheter-based electroanatomical mapping of the heart. In vitro and in vivo accuracy results. Circulation 1997;95:1611-22.
5) Reddy V, Reynolds M, Neuzil P et al. Prophylactic catheter ablation for the prevention of defibrillator therapy. N Engl J Med 2007;357:2657-65.
6) Dor V, Sabatier M, Montiglio F et al. Results of nonguided subtotal endocardiectomy associated with left ventricular reconstruction in patients with ischemic ventricular arrhythmias. J Thorac Cardiovasc Surg 1994;107:1301-8.
7) Bhavani S, Tchou P, Chung M et al. Intraoperative electro-anatomical mapping and beating heart ablation of ventricular tachycardia. Ann Thorac Surg 2006;82:1091-3.
8) Nitta T, Kurita J, Murata H et al. Intraoperative electroanatomic mapping. Ann Thorac Surg 2012;93:1285-8.
9) Soejima K. Shingaimaku abureshon no kanousei. Shinzou 2008;40:686-90.
10) Soejima K, Nogami A, Sekiguchi Y et al. Epicardial catheter ablation of ventricular tachycardia in no entry left ventricule. Mechanical aortic and mitral valves. Circ Arrhythm Electrophysiol 2015;8:381-9.
11) Bella P, Brugada J, Zeppenfeld K et al. Epicardial ablation for ventricular tachycardia. European multicenter study. Circ Arrhythm Electrophysiol 2011;4:653-9.


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