企業内での新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止に向けた対策

本調査の要点まとめ

調査の背景と目的

新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止に向けた企業内での取り組みは、日本全体での感染症対策にとっても非常に重要です。その実施状況を把握すること、また業種や企業規模によって実施の状況に差があるかどうかを観察することは、対策防止対策の推進の上で大切であると考えられます。私どもが実施する新型コロナウイルス感染症に関わる全国労働者オンライン調査(E-COCO-J)では2020年3月調査(T1)以降、継続して企業での感染対策の実施状況を調査しています。本研究では3月調査(T1)から11月調査(T4)までの企業での感染防止対策の実施状況を縦断的に、かつ業種別・企業規模別に明らかにすることを目的としました。

調査方法

本研究は、E-COCO-Jの第1回調査(3月)から第4回調査(11月)のデータを用いて集計しています。調査方法や対象者の詳細はこちらのページ をご確認ください。

過去の研究を参考にしてオリジナルに作成した23項目の企業内対策(文献1)と、第2回調査(5月)より追加で聴取をした9項目の合計32項目に関し、実施状況を4件法で尋ねました。

回答選択肢は、第1回から第4回で感染症流行状況に合わせて下記のように変更しており、第1回から第3回に関しては、各回選択肢において先に記載した2つの回答選択肢を選んだ場合を「対策実施」、第4回に関しては「実施している」の選択肢を選んだ場合のみ「対策実施」としました。回答選択肢が変更になったことで、結果に影響がでている可能性には注意が必要です。

<回答選択肢>
第1回:「今回新たに実施された」「平常時も実施されている」「実施されていない」「仕事上、該当しない」
第2回:「3月23日以降新たに実施された」「3月23日より前から実施されていた」「実施されていない」「仕事上、該当しない」
第3回:「この2か月に新たに実施された」「それより前に実施されていた」「実施されていない」「仕事上、該当しない」
第4回:「現在実施されている」「過去に実施されていたが現在は実施されていない」「一度も実施されていない」「仕事上、該当しない」

調査の結果

第1回から第4回までの調査すべてに参加していただいた800名を対象に解析を行いました。回答者の基本属性は表1をご覧ください。

第4回調査(11月)の、個別の対策の実施状況は表2に記しています。そのうち、「過去に実施されていたが現在は実施されていない」対策として頻度が高かったものは、国内出張を控える(16.1%)、テレワークや在宅勤務の励行(13.8%)、時差出勤の励行(13.4%)、仕事関係での飲食・接待などに関する制限(10.8%)、対面会議を減らす(オンライン会議に切り替える)(10.5%)、でした。

第1回調査から第4回調査にかけての各対策の実施頻度は表3に示しました。第4回調査は、全体的に第3回調査よりも対策実施率が低下していました。第3回調査と比較して、10%以上実施率が下がっている対策としては、仕事関係での飲食・接待などに関する制限、時差出勤の励行、テレワークや在宅勤務の励行、働く環境(デスクの配置や動線など)の変更、対面会議を減らす(オンライン会議に切り替える)、国内出張を控える、体調が悪い時の出勤自粛要請がありました。

23項目の対策に関し、実施対策数の合計を企業規模別・業種別に集計したものを表4に示しました。従業員1000人以上の大企業では対策実施数が多く、従業員50人未満の小規模事業場では対策実施数が少ない傾向はみられますが、その統計学的な差は縮小していました。業種別では、8月にその差が拡大していましたが、11月にかけてその格差は縮小傾向です。特に、第1回で対策数が少なかった小売業・卸売業では、第2回・第3回と対策数の増加がみられています。


解説

2020年3月から11月にかけて、企業内で行われた新型コロナウイルス感染症への対策の実施状況を報告しました。第4回調査(11月)では、対策実施率が減少している項目が多くみられ、経済活動の再開とともに対策が解除・緩和されていることがうかがわれました。特に、会食・時差出勤・テレワーク・国内出張などの対策が減少していたことは、経済活動の再開と関係があると思われます。

「体調が悪い時の出勤自粛要請」の実施率が低下していることは感染拡大防止の観点から懸念があります。体調が悪いときに自宅に待機させ、職場に出勤させないという措置は職場での感染拡大防止に効果的であることが過去のH1N1インフルエンザ流行時の研究でも報告されています(文献2,3)。新型コロナウイルス感染症流行下においては、企業側は体調不良時の出勤自粛や、在宅勤務可能な職種において在宅勤務への切り替えなど柔軟な対応を継続し、職場での感染拡大防止に向けた取り組みを行うことが望まれます。

企業規模別・業種別の分析では、その格差は業種別の8月の調査を除き、縮小傾向にあります。しかし、全体としての対策の頭打ちがその要因となっている可能性もあります。引き続き従業員50人未満の事業場における取り組み数が少ないことに留意する必要があります。産業保健の専門家の支援が届きにくく、労働条件や環境、人員・資源に制約あるこれらの事業場での対策実施の支援方法を考える必要があります。

まとめ

2020年3月から11月にかけて、企業で行われた新型コロナウイルス感染症に対する対策の実施状況をまとめました。3月、5月、8月にかけて対策実施数は上昇傾向にありましたが、11月にはやや減少し、解除されている対策もみられました。流行が持続している現状では引き続き企業での対策の継続が望まれます。特に体調不良の従業員を自宅待機させる対策が減少している理由を明らかにし、この継続を支援することが重要と考えます。事業場規模や業種による対策の格差も引き続き課題です。

文献

  1. Sasaki N, Kuroda R, Tsuno K, Kawakami N. Workplace responses to COVID-19 and their association with company size and industry in an early stage of the epidemic in Japan. Environ Occup Health Pract. 2020;2(1). DOI: 10.1539/eohp.2020-0007-OA
  2. Miyaki K, Sakurazawa H, Mikurube H, et al. An Effective Quarantine Measure Reduced the Total Incidence of Influenza A H1N1 in the Workplace: Another Way to Control the H1N1 Flu Pandemic. Journal of Occupational Health. 2011; 53(4): 287-292.
  3. Kumar S, Quinn SC, Kim KH, Daniel LH, Freimuth VS. The impact of workplace policies and other social factors on self-reported influenza-like illness incidence during the 2009 H1N1 pandemic. Am J Public Health. 2012; 102(1): 134-140.