レット症候群
(Rett Syndrome)
[RTT]

GeneReview 著者 :Vicky L Brandt ;Huda YZoghbi , MD.
日本語訳者 :和田敬仁(信州大学医学部社会予防医学講座遺伝医学分野)
GeneReview 最終更新日: 2004.2.11. 日本語訳最終更新日 : 2006.01.18.

原文 MECP2 Related Disorders(includes: Classic Rett Syndorme MECP2-Related Severe Neonatal Encephalopathy, PPM-X Syndrome


要約

疾患の特徴

 古典的レット症候群(RTT)は女児に発症する進行性神経疾患で、出生時は正常であり、生後6から18ヶ月までは正常な精神運動発達を示すのが特徴である。罹患した女児は短期間の発達の停滞を示した後に、言語や運動機能の急速な退行を示す。この疾患の特徴は合目的な手の動きが消失し、繰り返される手の常同運動に置き換わることである。加えて、叫ぶ発作や悲しみに沈んだ泣き声が18-24ヶ月までによく認める。他の特徴には、自閉症的特徴、パニック様発作、歯ぎしり、発作性の無呼吸や過換気、失調歩行や失行、振戦や後天性小頭症がある。急速な退行の期間の後には、病勢は比較的安定した状態になる、しかし、患児は年齢とともに、ジストニアや四肢の変形が進行することが多い。痙攣は患者の50%で発症する。全般性強直間代痙攣(GTC)や複雑部分発作(CPS)が最も多い。痙攣は病態が安定している時に起こりやすい。RTTの女性は成人まで成長することが典型的であるが、同年代の正常女性と較べると、突然の、原因不明死亡の割合が有意に高い。以前は、自閉症、軽度学習障害、遺伝的には診断されないが臨床的にAngelman syndromeを疑われた症例、痙性や振戦を伴う精神遅滞と診断されていた患者に、MECP2遺伝子の変異が見つかるに従い、非典型的なRTTが増えてきた。RTTの診断基準を満たす男性の症例で、46, XXYの核型と、受精後のMECP2遺伝子変異による体細胞性モザイク(somatic mosaicism)との関連が示された。45, XYの核型とMECP2遺伝子変異を持つ男性は、新生児期の重症な脳症を発症し、2歳を迎えるまでに亡くなってしまうことがある。

診断・検査

RTTの診断は古典的RTTの臨床診断基準とMECP2遺伝子の遺伝学的検査による。遺伝子変異は古典的RTTの女児の80%で同定される。遺伝子検査は臨床上可能である。

遺伝カウンセリング

RTT の遺伝型式はX連鎖優性遺伝式である。99.5%が家族内での孤発例であり、RTT患児での新規突然変異か、変異遺伝子の体細胞あるいは生殖細胞でのmosaicismを持つ、どちらかの親から遺伝したことによる。保因者である母親は偏りのある(skewedした)X染色体不活化パターンをとり、母親自身は無症状かわずかに症状があるだけである。もし、罹患者の母親が同じ遺伝子変異を持っている場合、患児の同胞が変異遺伝子をもつ可能性は受精時で50%である。もし、親に変異が同定されなければ、同胞の危険率は低い。しかし、発端者に認めるMECP2遺伝子変異が両親どちらの白血球で同定されなくとも、両親どちらかの生殖細胞モザイク(germline mosaicism)の可能性は除外できない。出生前診断はMECP2遺伝子の変異が同定された家系においては可能である。注意すべきは、生殖細胞モザイク(germline mosaicism)が除外できないため、RTTやMECP2遺伝子変異が原因の精神遅滞の子どもを持つカップルに対しては、両親のどちらかにMECP2遺伝子の変異が同定されているか否かにかかわらず、出生前診断を提供するのが適切である。


診断

臨床診断
RTTの遺伝学的基礎が発見される前の、1988年に、下の臨床診断基準が示された。

 

1988年、レット症候群の遺伝学的基礎が明らかにされる以前から、以下の臨床診断基準が示されていた。

1.一見、出生前、周産期は正常

2.出生時は頭囲は正常

3.6ヶ月までは正常発達

4.3から48ヶ月の間に頭囲の発育の停滞

5.5から30ヶ月の間に、一度獲得された手の働きや合目的な手の動きが消失し、引き続いて手の同一運動が出現

6.重度の精神遅滞とともに、言語の表出、認知の重度の障害

7.12から48ヶ月の歩行失行、体幹失調の進行

1から3は重症例には当てはまらないことがある;他の基準も、MeCP2の変異を同定された軽症例でも当てはまらないかもしれない。

臨床診断上、いくつかの限界がある。まず、臨床診断は患児が2から5歳に至るまではとりあえずの診断であり、通常、この頃までに疾患のいくつかの段階に達している。その上、RTTの臨床症状は幅広く、いわゆる非典型例は古典的RTTに較べ、より軽症あるいは重症のことがある。より、重症の症例では、正常に発達を示す時期がなく、先天性筋緊張低下や点頭てんかんのような症状を初期に呈することがある。より軽症の女児では目立った退行を示さず、軽度の精神遅滞を示すのみである。患児の中には、3歳以後に緩徐な退行を示す症例があり、合目的な手の使用の消失や痙攣を呈するが、数語の言語や歩行能力を保持している。

実際、MeCP2遺伝子の変異による表現型はRTT様症候群から男児における新生児脳症や精神遅滞症候群、成人女性における非常に軽度の学習障害までを含んでいる。

検査

生化学的検査法を用いた診断法は、一定した異常がないため、確立されていない。髄液のアミン代謝産物やβエンドルフィンの異常がRTTで報告されているが、一定した異常ではない。

分子遺伝学的検査

遺伝子 MECP2遺伝子はRTTに関連する唯一の遺伝子である。

分子遺伝学的検査法:臨床的応用

分子遺伝学的診断:臨床的方法

シークエンス解析 MECP2遺伝子のコード領域の両方向のシークエンスにより、典型的RTTの80%の患者で疾患の原因となる変異が検出される。

変異スキャン法 DHPLC法とシークエンス法により、古典的RTTの80%の患者で疾患の原因となる変異が検出される。

定量的PCR 上記の方法で検出されなかった古典的RTTの患者の内、定量的PCR法により検出される患者は約16%である。

表1にRTTに対する分子遺伝学的検査法を示す。

検査法 検出される変異 変異の検出率
シークエンス法 MECP2 80%
DHPLC法
定量的PCR MECP2の欠失  ̄16%

検査結果の解釈

遺伝学的に関連した疾患

新生児脳症

MECP2変異を持つ男児は重度の新生児脳症を呈し、1才未満で亡くなることがある。

X連鎖精神遅滞

精神遅滞の患者におけるMECP2遺伝子変異の頻度は、評価が始まったばかりである。MECP遺伝子変異を持つ男性は、中等度〜重度の精神遅滞、言語発達の異常、そして異常運動(振戦、ブラディキネジアなど)を示しながら、成人に達することがある。そのような男性症例も、小児期の発達は正常ではない。

 

 


臨床像
自然歴

古典的レット症候群

罹患した女児は出生、および新生児期は正常に経過し、最初の6から18ヶ月の精神運動発達は一見正常である。しかし、後方視的な研究では多くの患者で筋緊張低下を認めている。哺乳力不良、弱い泣き声、とても静かと表現されている。頭囲の発育は3ヶ月頃から落ち始め、最終的には正常の30%減少になる。患者は短期間の発達停滞期を経て、言語と運動発達の急速な退行が引き続いて起こる。RTTの特徴は手の合目的運動が消失し繰り返す同一の手の動きに置き換わることである。ほとんどの親が、患者が18から24ヶ月までに叫び声を上げる発作ややるせない泣き声をあげると表現している。他の特徴には自閉症的症状、パニック様発作、歯ぎしり、発作性の無呼吸や過呼吸、痙攣、歩行失調や失行、振戦、後天的小頭症がある。間歇的内斜視もよく観察され、血管運動の変化もしばしば明らかとなり、とくに下肢で目立つ。急速な退行の期間の後に、病態は安定期に入るが、患者は年齢とともにジストニアや手の変形が目立つようになる。

RTTの主要な特徴や発達パターンから、乳児期後期における大脳皮質の発達の異常は皮質下の制御システム、脳幹、前脳基底部の核、基底核の機能不全が原因であると考えられている。脳幹の障害はRTTにみとめる多くの機能不全(呼吸、心拍、嚥下、末梢血管機能不全、睡眠、消化管運動、流涎、痛覚識別)から明らかである。これらの所見から、迷走神経(副交感神経系)や呼吸リズムの制御の異常を伴う自律神経系の障害が示唆され、呼吸中枢の未熟性を示している。

RTTの女児は小さい傾向がある。85-90%は成長障害や体重の増加不良を示し、年齢とともに悪化する。これは、咽頭喉頭や消化管の協調不全が関与していると考えられ、その結果、食物摂取不良になる。消化管の運動不全、便秘、機能性巨大結腸はよく見られる。重症例では、糞塊埋伏、腸軸捻転、腸重積が起こる。国際RTT協会は、最近、胆石を含む、胆嚢の機能不全を明らかにし、RTTにおいて重大な合併症になると報告している。その頻度は、一般小児に認めるよりも、ずっと高い。

痙攣はRTTの50%で認める;GTC, CPSが最も頻度が高い。痙攣発作の他症状として、局在性間代性痙攣、頭部や眼球の偏位、無呼吸がある。痙攣は、病態が安定している時によく起こり、運動の退行期の後期に減少することが多い。痙攣と表現される発作はEEGで痙攣波を伴っていないこともあり、また、痙攣波を伴っている臨床症状が必ずしも常に両親によって痙攣と認識されていないこともある。

あるタイプの脳波異常がRTTによく見られる所見ではあるが、特異的ではなく、診断的価値はない。しかし、RTT初期に見られる、睡眠期の後頭優位の徐波化と棘波あるいは徐波を伴う基礎波は、知っていると役に立つことがある。RTTの退行期では、脳波上、後頭優位の徐波化は消失し、基礎波活動がより徐波化し、REM睡眠の特徴がなくなる。θ、δ波が著明に徐波化し、多焦点性の極徐波を伴う。ビデオ・脳波モニタリングでは、無呼吸・過換気、笑い、叫声、うつろな目つき発作がしばしば観察される。局在性の脳波異常では、局在性間代性痙攣、頭部・眼球偏位、時に無呼吸にともなっている。全般性の脳波異常はabsenceや屈曲強直に伴う。

骨粗鬆症はRTTの女児にしばしば認め、幼少時でも報告されている。これは、おそらく、骨形成不良によるものであり、骨折のリスクを高める。RTTの患児では健常児に較べ骨塩密度が減少している。歩行可能な症例は歩行不能例に較べて、骨塩密度が高い。

RTTの女児は、一般に成人を迎えるが、急死や原因が明らかでない死亡が同年齢の一般人と較べて高い。この突然死の原因の一部はRTTにみられる、QT延長、T波の異常、心拍変動の減少によるかもしれない。

神経病理

脳は小さく神経細胞は密に詰め込まれている。樹状突起棘や樹(dendritic apines and arbors)の減少が注目されている

 

非古典型レット症候群

軽度罹患の女児

MeCP2遺伝子変異はRTT変異型、中等度学習障害、それに、X染色体不活化のパターンがskewedであり全く症状がない女性でも見つかっている。MeCP2は以前、自閉症、軽度学習障害、遺伝学的には診断されていないが臨床的にアンジェルマン症候群が疑われる症例、あるいは痙性や振戦を伴う精神遅滞と診断されていた患者においても見つかっている。MeCP2変異とその効果が理解されるに従い、この遺伝子変異に関連する様々な臨床型を特徴づけることが可能となるに違いない。

男性

RTTの診断基準を満たす男性患者は、47, XXYの核型や、接合後のMeCP2変異によるモザイクが同定されている。しかし、46, XYの核型を持つ男性もMeCP2遺伝子変異により影響を受けうる。

遺伝子型と臨床型の関連

今のところ、一致した結果は得られていない。遺伝子変異型の臨床表現型に与える影響について確実な結果を得るには、MECP2の機能をより理解し、多くのコントロールスタディーが必要である。Leonardらは同じ変異(R133C)をもつ、異なる患者の臨床型を評価することにより解析を行った。これらの患者は重症度の低い臨床型を示し、これは、in vitroの機能実験による、R133C変異がDNA結合機能を損なっていなかった結果と一致していた。

Amirらはtruncating変異と呼吸異常について正の相関があり、側彎はミスセンス変異と関係あることを報告した。重症度スコアも他の指標(発症年齢、死亡率、痙攣、発育不全)は変異のタイプと関係なかった。

Cheadleらは truncating変異に較べ、missense変異で軽症例が優位に多いと報告した。また、N端側のtruncating変異に較べ、C端側のtruncating変異ではより軽症であることを報告した。

CheadleらやHuppkeらは、同じ変異を持ちながら表現型が異なる症例を報告し、遺伝子変異型以外の因子が表現型に関係することを示唆した。その一つは、X染色体不活化のパターンである。変異をもつがskewedパターンの不活化である女性は症状が軽症か全くない。精神遅滞をもつ男性で見つかったいくつかのMECP2遺伝子変異は典型的にミスセンスかC端側のtruncating変異であり、これらはRTTの女児では見つかっていない。A140Vの様ないくつかのミスセンス変異は完全には蛋白を不活化しないので、男性では精神遅滞の原因となるが、助成では非常に軽度な認知障害の原因となる。

頻度

1/ 10,000- 1: 15,000


鑑別診断

MeCP2遺伝子変異は重度の筋緊張低下や点頭てんかんの男児で考慮するべきである。

Infantile neuronal ceroid-lipofusccinosis (Haltia-Santavuori syndrome)は運動機能の消失や痙攣、痴呆、痙性を認める幼児で考慮されるべきであるが、この患者ではRTTでは認めない、失明を伴う網膜ジストロフィーがある。この疾患の急速な進行、特徴的な脳波所見、脳画像がRTTとの鑑別に役に立つ。この診断は組織生検による電顕所見、palmotyl-protein thiosterase 1 (PPT1)あるいは分子遺伝学的検査に基づく。

RTTの患者は多くの場合、特に小頭症、痙攣、脊椎の後側彎を伴わない場合、自閉症と診断されている。上述したように、MECP2遺伝子変異は古典型自閉症の患者でも見つかっている。現時点で、自閉症の原因による鑑別のための臨床基準はない。

Angelman症候群(AS)は、精神遅滞、痙攣、失調、手の同一運動、小頭症のある患者では、考慮されるべきである。発達の退行はRTTとの鑑別に役立つ、しかし、ASでも痙攣が重症の場合、退行を伴うかもしれない。一方、ASにおいては痙攣のコントロールは困難な傾向がある。ASの90%は分子遺伝学的に診断可能である。

RTTの高齢者、痙性、重症の発育不全や精神遅滞のある男児では、しばしばCPと診断されてきている。小児期の発達の詳細な病歴やMECP2遺伝子変異の検索により正しい診断に結びつく。

臨床的マネジメント

RTT患者の神経学的予後を改善する治療は今のところない。L-carnitineは二重盲験でためされた。両親やケアテイカーは患者の全般的な生活の質の向上を報告しているが、有意差はない。RTTの患者の髄液でオピオイドの上昇が観察され、オピオイド拮抗薬naltrexoneの経口を研究された。呼吸の不整の減少をみとめ、薬の鎮静作用もあるが、その効果は議論のあるところである。

現在のRTTの患者に対する医療は補助医療や対症療法に焦点が当てられている。例えば、agitationに対してはrisperidoneの少量投与やセロトニン取り込みの選択的阻害薬がある。医師はmelatoninとともに、抱水クロラール、hydroxyzine, diphenhydramineを使用することもある。carbidopa/levodopaがrigidityに対して使用されることもあるが、その効果は証明されていない。melatoninは睡眠障害に対し改善効果がある。

食事療法が便秘に効果がない時は、Miralax(polyethylene glycol) が著効し、マグネシウム添加ミルクよりも受け入れやすい(?)。便軟化剤を時々使用するのと一緒に充分の水分摂取や高線維食の摂取は急性の腸管発作を予防することが出来る。抗逆流薬、少量あるいはとろみのある食物、体位に注意することが、胃食道逆流を軽減するのに役立つ。

ビデオ・脳波モニタリングは痙攣の出現や抗痙攣薬の使用について明確な情報を与えてくれる最善の方法である。

OTあるいはPTは機能の維持、側彎や変形を防止するのに重要である。augmentative communication、乗馬療法、水泳、音楽療法はしばしば効果がある。


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質、遺伝、健康上の影響などの情報を提供し、彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである。以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価、遺伝子検査について論じる。この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし、遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない。」

遺伝型式

RTTはX連鎖優性の遺伝型式をとる。

家族のリスク

女児発端者の親

男性発端者の同胞

女性発端者の同胞

女性発端者の子

男性発端者の子ども

MECP2変異を持つ男性で子孫を作ったという例はない。

発端者の他の家族

他の家族の再発危険率は発端者の母親の遺伝的状態による。もし、母親が罹患しているかMECP2変異を持っているならば母親の家系で再発のリスクがある。

関連する遺伝カウンセリングの問題

家族計画

遺伝的リスクを決定したり、出生前診断が可能なことを話し合う適当な時期は妊娠前である。

出生前診断

MECP2変異を持つ女性の妊娠

出生前診断は16-18週に行われる羊水穿刺、あるいは9-11週に行われる絨毛からえられる胎児由来の細胞のDNAで診断できる。変異を持つ男児は生存できたとしても、重度精神遅滞をもつ。変異を持つ女児は、その臨床症状を予測するのは困難である。一見正常から重度に罹患している者まで幅が広い。

MECP2遺伝子変異によるRTTあるいは精神遅滞のある子どもを持つ夫婦の妊娠

発端者で見つかった変異が、両親のどちらかの白血球で同定できなくても、germline mosaicismの可能性が除外できない。よって、両親のどちらかで遺伝子変異が同定されるか否かにかかわらず、出生前診断を申し入れることが適切である。

分子遺伝学

表2 RTTの遺伝子診断

遺伝子 局在 遺伝子産物
MeCP2 Xq28 メチル化CpG結合タンパク2 (MeCP2)

RTTのOMIM 登録
300005 メチル化CpG結合蛋白2; MeCP2
312750 レット症候群;RTT
RTTのゲノムデータベース
Gene Symbol Locus Specific Entrez Gene HGMD GeneCards GDB GeneAtlas
MECP2 MECP2 312750 3851454 MECP 3851454 MECP2

分子遺伝学的病因

広く発現されている核タンパクMeCP2は、5'-メチル化シトシンが豊富なヘテロクロマチンに関連して、転写抑制とメチル化DNAのエピジェネティックな制御に関わっていると考えられている。MeCP2 のメチル化CpG結合ドメイン(MBD)は対称性にメチル化されているCpGに結合する;転写抑制ドメイン(TRD)は コリプレッサー Sin3Aと結合し、ヒストン脱アセチル化酵素を誘導する。コアヒストンのH3やH4のリジン残基が脱アセチルかを受けると、クロマチン構造が変化し、DNAが転写装置に近づきにくくする。DNAのメチル化による転写抑制はX染色体不活化やゲノムインプリンティングに重要である。MeCP2はすべての組織で発現し、全般的な遺伝子の転写抑制因子として働いていると考えられている。

ほとんどのMeCP2変異は新規突然変異である。、TRDやMBDにおける変異によるMeCP2の機能不全が発達期の遺伝子発現の精密さを損なう、と考えられている。ある遺伝子変異はDNA結合に重要な残基に影響し、別の変異はタンパクの構造を破壊したり、他のタンパクとの相互作用を破壊する。知られているナンセンス、フレームシフト、スプライシング変異は、そのほとんどがMBDの遠位にあるが、終止コドンが早く現れて短い蛋白が出来ることになる。蛋白の早期短くなったタンパクはメチル化DNAに結合できるかもしれないがコリプレッサーSin3Aとは結合できない。C端の変異がDNA結合能を損なわせる可能性もある。どちらの場合も、転写抑制複合体が正常に統合できず、標的遺伝子が適切に抑制されないのかもしれない。

どの組織でも広く発現している遺伝子であるにもかかわらず、表現型が神経系に偏っているのは謎である。脳組織はMeCP2機能の異常により影響を受けやすいのかもしれないし、組織特異的なMeCp2発現レベルの違いがあるのかもしれない(実際、発達期の脳において異なって発現しているalteranate transcriptがある。)一方、神経細胞の分裂後の性質がMeCP2の機能不全の悪影響を受けやすくしているのかもしれない。RTTの病態を理解するには、正常のMeCP2の標的となっている遺伝子を明らかにすることである。MeCP2はBDNF (brain-derived neutrophic factor)のような特異的な遺伝子を抑制することが知られている。。RTTの患者に見られる一連の症状から、この疾患は、少数の遺伝子の機能不全によるものと考えられる。複数の遺伝子変異の機能実験やRTTのモデル動物からRTTの病因を明らかにし、どのようにDNAメチル化依存性の過程が破壊するのか明らかにされなければならない。

3つのグループがMeCP2の機能を喪失したマウスを作った。nullの雄マウスは生きて生まれるが振戦や活動低下を示し、小さい脳をもつ。通常、8-12週で死亡する。神経細胞のみでMeCP2が欠失したマウスの表現型は、すべての細胞で欠失しているマウスと同じである。これは、MeCP2は全般的な遺伝子転写抑制機能を持つと考えられているが、MeCP2の機能、あるいは、その一つは神経細胞で最も重要であるかもしれないことを示している。

正常対立遺伝子変化

MECP2遺伝子は4個のエクソンからなり、テロメアからセントロメアに転写される。エクソン2,3,4がコード領域を含み、エクソン1は種間で共通のシークエンスを持ち、非コード領域の5'非翻訳領域(UTR)を含んでいる。エクソン4のほとんどは異常に長い(8.5kb)の3'UTRをもつ。alternate polyadenylation部位があり、様々なサイズに転写されるが、すべて同じサイズのタンパクをコードしている。mRNAの安定性や機能に関する特徴は現在のところよく分かっていない。C端領域はforeheadドメインをもつ神経細胞特異的転写因子と共通部分を持つことから、タンパクはさらに、より複雑な、おそらくは神経細胞特異的な機能を持つと考えられる。この領域は進化上保存されてきたpoly-histidineやpoly-proline領域を含み、nucleosome coreとMeCP2の相互作用に関わっているかもしれない。

病的遺伝子変異

MECP2の遺伝子変異の64%は8箇所のCpGのC->Tのtransitionである。遺伝子変異は遺伝子全体に広がっているがTRDの5'側の領域、特にMBDに、ミスセンス変異が集まっている。ナンセンス変異やフレームシフトが集まる別の領域はMBDの下流にある。C端の領域は大きな多塩基欠失を伴いやすく、すべての変異の10%を占める。この欠失は、その領域に影響を与えるが、完全に同一の欠失はまれである。

 

レット症候群に関する情報

NPO法人 レット症候群支援機構 http://www.npo-rett.jp/


原文 MECP2 Related Disorders(includes: Classic Rett Syndorme MECP2-Related Severe Neonatal Encephalopathy, PPM-X Syndrome

更新履歴

  1. 初稿 日本語訳者 :和田敬仁(信州大学医学部社会予防医学講座遺伝医学分野)
    GeneReview 最終更新日: 2002.10.3. 日本語訳最終更新日 : 2003.8.21.
  2. 更新 日本語訳者 :和田敬仁(信州大学医学部社会予防医学講座遺伝医学分野)
    GeneReview 最終更新日: 2004.02.11. 日本語訳最終更新日 : 2006.01.18.